――世の中には、煮ても焼いても食えない奴というのが居る。それが会社の上司だったり、学校の先生だったり……様々だろう。世界が変わってもそれは変わらない……。このグローランサーの世界でも同じだ。愚王の可能性コーネリウス、死の商人グレンガル、偉大なる王族の末裔マクスウェル、偉大なる狂王であるグローシアンの王、原作に居なかったフードの男……そして……今、目前にいる男。「何とでも言いなさい……しかし、人気の無いところまで来てくれたことには……礼を言いましょうか」シャドー・ナイツマスター……ガムラン。煮ても焼いても食えない……典型とも言うべき奴。「さ、お前たち!何をするのか分かっていますね?さっさとその女を殺してしまいなさい!」仮にも王母に向かってその女……か。こりゃまた、随分強気だね……。俺は別段、正義の味方というワケじゃあない。俺自身……自分が絶対的に正しいとは思えないし。だが、目の前のコイツは気にいらねぇ……コイツの在り方は……気にいらねぇ。それ以上に、俺の知己……仲間を傷付けようとした。だから―――許せねぇ。「奴らアンジェラ様を狙うつもりよ!」「そうはさせるか!」ティピが奴らの目的を察して言葉にする。アリオストを始め、皆それぞれに得物を構えた。「これを見てもまだそんなことが言えますかね?」ガムランがそう言うや、森に向かい火が放たれた……この火の燃え広がり方……油をぶっかけておいたな?さて、むざむざやらせるつもりは無いんでな……!!「ラルフ!!」「ああ!!」俺とラルフは火に向かい高速詠唱………それを放った。「「『ウォーターガトリング』!!」」ズバババババババババッ!!!【ウォーターガトリング】マジックアロー系統のアレンジ魔法……【ウォーターアロー】と【マジックガトリング】の合わせ技。つまり、無数の水の矢を放つ魔法。篭める魔力量により、圧縮率が変わる。圧縮率を上げれば、岩をも貫く貫通力を生み、下げれば水遊び程度の威力にも出来る。また、圧縮率に廻す魔力を分散させることで、水の矢の数を増やすことも出来る。圧縮率のコントロールと無数の水の矢……これらの両立が出来たら魔導師としては一人前だろう。俺達が行うことは消火……つまり、適度な圧縮率にコントロールした無数の水の矢を炎にぶつけたワケだ。ラルフは数百……俺は数万……。絨毯爆撃……いや、某東方の弾幕。それらは炎を蹂躙し、瞬く間に喰い潰して行った。「僕が手を貸す必要……あったかい?」「念には念を入れて……って奴さ」俺達は互いにニヤリと笑い合った。そして、再びガムランに向かい合った。「残念……用意周到に準備した火種も、無駄になっちまったな?」「……フン、いずれにせよ、お前たちが此処で死ぬことには変わりありません」「随分と余裕みたいだが……自分達が逆に追い込まれたとは考えなかったのか?」俺は素晴らしい笑顔(皆が言うには悪い顔らしい)を浮かべながら言う。「どういう意味です?」「こういう……意味だよ」俺は瞬時にマジックアローを放つ。それはガムランの横を擦り抜け……桟橋に直撃した。桟橋は崩れ落ち、道は閉ざされた……。「これで逃げ道は無くなったな?」「……あなたは馬鹿ですか?みすみす王母を危険に晒すとは……まぁ、私にとっては好都合ですがね」「馬鹿はテメェだ……仮にもシャドー・ナイツマスターならば、俺らのことを前以て入念に調べておくべきだったな?」そう告げた後、俺は王母の肩に手を置く。「な、何をするのですか?」「以前、体験したと思いますが……テレポートの様な物です」そう、俺とルイセにはテレポート……俺には更に、テレポートのアレンジ発展系である瞬転がある。故に、それを考慮に入れなかった時点でテメェの負けは決まっていたんだよ……。「そんなワケで少し抜けるが……任せたぜ、リーダー?」「……ああ、任せろ。お前が戻ってくる前には終わらせる」カーマインの頼もしいお言葉を聞き届け、俺はアンジェラ様を伴い瞬転を発動。本陣へと戻ったのだった。「というワケだ……宛が外れたなガムラン」「ぬうぅぅ……小賢しい真似を……」「行くぞ、皆!!」「ああ!シャドー・ナイトには散々借りがあるからな……利子つけて返してやるぜ!!」「フン……返り討ちにしてあげますよ!」*********「よし、到着!」「!?シオン……それにアンジェラ様!?」俺とアンジェラ様は瞬転にて本陣に戻って来た……一応、父上の気を目印に跳んだのだが。そこには父上、母上、ダグラス卿、そしてリーヴス卿にベルナード将軍が集まっていた。何でも、明日からの進軍に関して話し合っていたらしいのだが、何やら不穏な気配を感じ、急いでアンジェラ様のテントに向かったのだが、中はもぬけの殻。慌てて周囲の捜索に出ようとしたところだったそうな……。ならば、グッドタイミングだったワケだ。「しかし、コレはどういうことなんだ?」「賊です。シャドー・ナイトがアンジェラ様の暗殺を謀っていたのです」「何だと!?」父上達は驚愕を現にする。決して警備が緩くない場所に忍び込まれたのだから……当然ではあるが。シャドー・ナイトの恐さは、父上達も知っているだろうしな。「それで、連中は今どこに?」「今は北の桟橋の向こうに……敵に逃げられない様に橋を落として、カーマイン達が応戦しています」リーヴス卿の質問に答える俺。「って、大丈夫なの?」「心配いりませんよ母上……一緒に戦って来た俺には、彼らの強さがよく分かります。それに、俺も援軍に行きますからね」大丈夫ですよ……と笑みを浮かべながら言う俺。実際、俺が居なくても十分過ぎる位の戦力だ。少なくとも、ガムラン程度がどうこう出来る程……アイツらの力は軽くない。「皆さんはアンジェラ様を……どうやら周囲に連中以外の賊は潜んではいないみたいですが……万が一ということも有り得ますので」「分かった、警戒を強めておこう」俺はその言葉に頷くと、再び瞬転……その場を離れた。まぁ、気を読んだ限りじゃあ本当に奴ら以外居ないみたいだから……念のためなんだがね。**********さて、再び舞い戻って来たワケだが……。「……こりゃあ手を貸す必要は無いかな」あれから数分程度しか時間が経過していない筈なのだが……既に勝敗は決しようとしていた。ほとんどのシャドー・ナイトが討ち取られており、残すはガムランのみとなっていた。「年貢の納め時って奴だな……ガムラン」「お前たちごときが……この私を……おのれぇ!!」ガムランは対峙していたウォレスに切り掛かる。その一撃は魔力を宿した、一種の魔力剣の様な物で、その威力はかなりの物だ。現に、その一撃を受け流そうとしたウォレスの特殊投擲剣の刃を、スッパリと断ち切ったのだから。お陰で、受け流し切れずに肩を掠める様に切り裂かれたウォレス。コレを見てガムランは勝利を確信したのか、ニヤリといやらしい嘲笑を浮かべた。だが、忘れること無かれ……。ウォレスの特殊投擲剣は大剣が二つ繋がった様な形状をしている。つまり、ガムランが切り裂いた刃は、二つ付いている内の一つに過ぎないと……。「ぬおりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!!」裂帛の気合いと共に、斜め下から切り上げるウォレス……。「ぐほぁ……っ!?」果たしてそれは、吸い込まれる様にガムランを切り裂いた……。鮮血が飛び散る……決まりだ。ガムランはその場から後退りし……そして。「ぐ……私が……お前たちごときにぃ………ぐはぁ……っ!!」渓谷から落ちて行った……。ドボーーーンッ!!!「……あばよ」川に落ちたであろう音を聞き届けた後に、ウォレスはガムランに別れを告げた。かつての同朋……例えウマが合わなくても、ソリが合わなくても……共に戦った仲間だったのだから。だからこそ、自分の手でケリを着けたかったのだろう……。「……終わったの?」「そうみたいだな……」ティピの呟きに答えるカーマイン。周りのシャドー・ナイトも片付いたみたいだし……ガムランの気も探ったが、川に流されながらも急速に気が弱まっている。あのウォレスの一撃も致命傷だ……助からないだろうな。もっとも、ウォレスという前例が居るからな……まだ分からないが。キッチリくたばってくれれば……ありがたいんだがな。そんなことを思いながら、俺は皆に合流した。その後、後始末……死んだシャドー・ナイトの遺体を弔った後……俺達は本陣に帰還した。**********本陣に戻った俺達は事の顛末を報告……。これからは、もっと警戒を厳重にするらしい。それから解散して、俺達はテントに戻って行った……。そして翌朝――。「では父上、我々は一旦戻ります」「うむ。本来なら、お前にも残っていてもらいたいが……そうもいかんのだろう?」「申し訳ありません……ですが、決戦の日には必ずやこの戦に馳せ参じることを誓います……全てを終わらせるために」俺がそう言うと、父上は満足そうに頷いた。「母上も……ハジけ過ぎて父上に迷惑を掛けないで下さいよ?」「ひ、酷っ!?レイ〜!シオンが虐めるよぉ〜〜!!」俺の皮肉とジト目を浴びて、母上は父上に泣き付いている……ヤレヤレだ。「では皆さん……後のことは頼みます」俺達は挨拶もソコソコに、ローランディアへと帰還したのだった……。*********―ローランディア城・謁見の間―「戻ったな。いろいろと活躍しているようではないか」早速、任務報告に向かった俺達に、アルカディウス王から労いの言葉とお褒めの言葉を戴いた。ジュリアの部隊にブロンソン将軍達の部隊が合流出来たこと、そして父上とダグラス卿の部隊の妨害を阻止したこと等……王は大変満足しているそうな。で、今のうちに身体を休める様に……と、休暇を賜った。与えられた休暇は三日……で、本来ならある筈のクレイン村イベントだが……どうやら、色々と前倒しになった為、無くなったらしい。まぁ、ジュリアがハッスルしたのかも知れんし……。俺達は休暇先を申請した後、家路についた。と、普段ならこうなるのだが……ローランディアに帰還したのが午前中だったこともあり、時間的に余裕があったのだ。故に、そのまま休暇に突入することと相成った。……なんか、時間的に損している気がするのは俺だけかしら……?まぁ、そんなこんなで今回の休暇先は……。**********休暇一日目・王都ローザリア「それじゃ、夕方になったらここに集合ね」ティピのその言葉に肯定を示し、城門前からそれぞれに散って行った俺達。さぁて……俺はどうするか……?……ん、アレは……。「サンドラ様」「あら、シオンさん」サンドラと遭遇した……それも珍しいところで。ちなみに、此処はローランディアのお膝元である王都ローザリア。公共の場であるが故に、俺はサンドラに対して敬語を使っている。……これが国外や身内だけなら、敬語無しで話すんだが。「どうしたんですか、こんなところで……此処って商店街ですよ?」「ええ……実は……」サンドラに聞くと、どうやらたまたまサンドラも休暇だったらしい……いつもなら、休暇の時も研究所に篭るか、良くても家に帰宅して皆で夕食を食べたりするか……位なのだが。「たまには一日のんびりと羽根を伸ばしてみようかな……と、思いまして」「成程……」「けれど、いざ休暇となると何をすれば良いのか分からなくて……とりあえず商店街に来てみたのです」成程ねぇ……国事に尽くす宮廷魔術師とは言え、仕事の虫というのは考えモノだねぇ……。「じゃあ、趣味は?自分の趣味に時間を費やせば……」「趣味はその……魔導研究を……」「あ〜〜……」そりゃあまた……趣味=仕事じゃあな……。まぁ、宮廷魔術師なんてやっているならば仕方ないのか……?「あ、いえ!昔は他にも趣味はあったのです。あったのですが……」「あった……?」何故過去形?と、疑問に思って質問してみると……。「………その、可愛いモノを集めるのが、趣味だったと言いますか……」何でも、学生時代は可愛いモノを集めるのが趣味だったらしく、犬猫のぬいぐるみやら、ファンシーなアイテムを沢山持っていたらしい。学生時代からクールビューティーを地で行っていたサンドラは、体面を保つために普段は沈着冷静に……そして休日には、日頃のストレスをそれらファンシーアイテムで癒していたそうな。ただ、結婚し……ルイセが生まれてからは、それらのアイテムの一部はルイセに継承されたらしい。そして、宮廷魔術師としての忙しさに忙殺されていき、次第にそのことは記憶の片隅へと追いやられていたのだとか……。何と言うか……あの娘にしてこの母あり…と言うことか。「それに……私の歳ではそんな可愛いモノではしゃいだりなんて……出来ませんから」むぅ……そういうモンなのか……???サンドラはまだまだ若いだろうに……それに、そのギャップがまた……。……よし、決めた。「サンドラ様、もし暇なのでしたら私に付き合って戴けませんか?」「付き合うって……」俺はサンドラに近付き、耳元で呟いた。「せっかくだから、デートでもしようか……って、言ってんの」「!!?デデデデ、デート……ですか……っ!?」ボンッ!!という擬音が聞こえるかの様に、瞬時に赤くなるサンドラ……やばい、ギャップが……お持ち帰りしたいぞ!?「そっ、せっかくの休日なんですから!私めで宜しければ……エスコートさせて戴けませんか?」スッ――と、丁寧にかつ繊細に礼をする。その仕草は正に一流の執事のソレ――は、言い過ぎだが、雰囲気は出ていると思う。ソレを見たサンドラは、目をパチクリさせた後にクスリと微笑んだ……。「はい……私で良ければ喜んで♪」何とも品のある、綺麗な微笑みだ……ヤバイ、少し顔が熱い。それでも、何とか微笑み返せたのは……面目躍如と言って良いのかな?何の面目かは分からんが……。こうして、デートをすることになった俺とサンドラ……。「はい、どうぞ。ストロベリークリームで良かったんですよね?」「ありがとうございます。シオンさんは何を?」「俺は王道にチョコバナナクリームですね。この取り合わせの妙が何とも」クレープの買い食いをしたり……。「美味しい……久しぶりにこういう物を食べましたよ」「喜んで貰えて何より……あ、ストロベリーって食べたこと無いんで、取り替えっこしません?」「えぇ!?あ、その……ハイ、どうぞ……(照)」互いに食べていたクレープを交換して食べたり……。「魔法の眼を強化……そんな理論が……」「まぁ、八割近く完成してはいるんですがね……もうちょいで……って、また研究の話になってますよ?」「あ……すいません、せっかくの休暇なのに……」「いえいえ、サンドラ様とこういう話をするのも楽しいですから」自身の開発中のアイテムについて聞いたり、また逆に聞かれたり……。実に有意義に時間を過ごしていく。そして……。「サンドラ様って、可愛いモノが好きでしたよね?」「いえ、だから昔の話ですよ!……う、いや、あの……それは……確かに今も……でも、私には似合わないから……」俺はそんなことを言うサンドラに、小さな小物をプレゼントした。デフォルメされた鳥の様なキャラクターの顔が付いた根付け……ぶっちゃけ、ルイセの部屋にあるクッションのキャラクター……アレのキーホルダーみたいな物である。つぶらな瞳が非常に愛らしい。――間違ってもM2では無いから悪しからず。って、俺は誰に言ってるんだか。「それなら、嵩張らないし……言う程目立たないし、良いんじゃないですか?」「あの、でもそんな……」「あ〜〜……気に入らないなら別に「そ、そんなことありませんよ!」…おっ!?」てっきり、気に入らないと思ったが、そういうわけでは無いらしい……。だが、声を上げたことにより周りから注視されるハメになり、サンドラは真っ赤になって俯いてしまった。ヤバイ、マジ可愛いんですけど?「あ、その……凄く嬉しいんですよ?ただ、先程クレープをご馳走になった上、この様な贈り物まで……」「いや、そんなに畏まらなくても……高い買い物ってワケでも無いですし」実際、値段にしたら50エルムにも満たない。まぁ、俺としては見栄を張りたいわけだ。男として……な?だから、受け取ってくれたらありがたいんだけど……。「……分かりました。ありがたく戴きます。……ありがとうございます」あれか?社交辞令的な意味か?……とも、思った。昔はともかく、今のサンドラは大人の女なんだから、こういうファンシーなグッズは……。「フフ……♪」……思った以上にご満悦みたいだ。嬉しそうに顔を緩めている……。「気に入ってくれたみたいですね……」「ハイ……大切にしますね?」ヤバイ……そんな微笑みを向けられると、暖かい気持ちになってくる。何と言うか、心地良いドキドキ感と言えば良いのか……。こうして、俺は休暇一日目を過ごした……正直、サンドラと過ごすことが出来て良かったと思う。サンドラの新しい一面をまた、知ることが出来たのだから……。その後、サンドラは先に帰宅……俺は集合場所に向かった。それから直ぐに皆が集まり、城門を潜って城内へ。休暇の終了と、次の休暇先を文官の人に報告した後、俺達も帰宅したのだった。夕食時、久しぶりに夕食を一緒にするサンドラ。そして、そんなサンドラが手料理を振る舞う。「うん、お母さんの料理、おいしい!」「ああ……懐かしくなる味だ……」誕生会以来に食べた母の味に、ルイセはそれはもう嬉しそうだった。カーマインも、静かに喜んでいたのを確認した。やはり古今東西、子供にとって自分のお袋の味は何よりのご馳走なのかねぇ……。まぁ、それを抜きにしてもサンドラの手料理は中々のモノで、俺やゼノスも感心してしまった。決して豪勢というワケでは無いが、その料理は美味く……何より暖かい想いが詰まっているのを感じた。まぁ、どこぞの鉄鍋の覇王に出てくる料理人達は、一部を除いてそんな想いは糞喰らえ……とか考えるだろうが。勝つための料理と人を幸せにするための料理……どちらが正しいとか、間違ってるとか言うつもりは無いが……やはり想いの篭った料理は暖かいよ。これ、俺の持論ね?で、夕食後……シャワーを浴びたり、風呂に入ったりした後……そのまま就寝した。ん?何か一悶着あったんじゃないかだと?幸いにも、今回はそういうのは無かったんだよ。だから早く睡眠を取ることが出来た。……いや、本当に何にも無かったんだって!!カレンもリビエラも、そしてサンドラもそれぞれ部屋で寝たんだってば!……なんか、身構えてる時に限って何も起きないとか……よくあるよな?俺は俺で、覚悟はしていたのだが………ちくせう。翌朝、朝食を食べた俺達は次の休暇先に向かった……次の休暇先は。**********休暇二日目・魔法学院ルイセのテレポートで魔法学院に来た俺達。「さて、解散しましょ〜か。集合時間に遅れないようにね」そのティピの言葉を皮切りに、俺達は散開したのだった。俺はとりあえず学院内に入った。で、中をウロウロしていると、運良く尋ね人に遭遇出来た。「!シオン…」「よっ!元気でやってるかイリス?」そう、俺はイリスを探していた。せっかく魔法学院に来たのだから、イリスが上手くやっているか知りたかったのだ。「立ち話も何ですし、お茶にでもしましょうか」そのイリスの一言にて、俺達は学食にやってきたワケで。「それで、調子はどう?」「はい。おかげさまで、何とか日々を過ごせています。ミーシャとの仲も良好ですし……」「そうか、それは良かった……」イリスいわく、現在は教員補佐というサポート役に就いているとか。ミーシャとイリスは当初、陰口を叩かれていたりしたらしいが、ミーシャの為に奮戦してくれた生徒が二人居て、その二人の根回しによりミーシャの……そしてイリスの悪評は薄れていったらしい。「……『薄れていった』ということは、まだ悪評が消えたワケじゃないんだな?」「……仕方ないことです。私はそれだけのことを、していたのですから……そんな私の悪評にミーシャが巻き込まれているのは、非常に心苦しいのですけど……」少し辛そうな表情を浮かべた後、イリスは言った。「それでも、こんな私を姉と慕ってくれているミーシャとの生活は、何物にも変えがたい……大切な宝物ですから」だから平気なのだと……頑張れるのだとイリスは言う。……これじゃあ、言えないよな……。実は当初、俺はイリスを雇うつもりだった。この戦争が終わったら、俺は国に帰り、父上の期待に答えるべく、インペリアル・ナイツを目指すことになるだろう。仮にナイツになれたとしたら、やるべきことは軍務には留まらない。政務……国事に尽くすことになるのは明白。無論、そのための英才教育というのは受けて来たが、いざという時に優れたサポートがあるか無いか……それだけでかなりの違いが出てくる。故に、学院長秘書なんてこなしていたイリスは、正に有能な人材となるだろう。要するに、秘書が欲しかったワケだな。まぁ、何よりイリスに風当たりが強いということは、大体予想がついてたからな……そんなイリスを庇いたいというのが本音。何だが……辛かろうと前を向こうとしているイリスに……ミーシャとの生活が幸せだと言うイリスに……そんな甘言は言えないよなぁ……。「?どうしたのですか?」「いや何、少し考え事をね……大したことじゃ無いから」俺はイリスに何でもないと言いながら、笑みを零した。イリスが戦おうとしているなら、俺がでしゃばり過ぎるのは良くない。――俺は、影から支えてやることにしよう。「けどまぁ……イリスが頑張ってるみたいで良かったぜ。それに、存外充実しているみたいだし……な?」「……はい。ですけど、シオンのためなら……何時でもこの身を捧げる覚悟はありますよ?」「……っ、オイオイ……大袈裟だぜ?」まさか……考えていたことを読まれた?いや、顔には出していなかった筈だ。自慢になるが、ポーカーフェイスには自信がある。ならば、女の勘って奴か……?「大袈裟ではありません。貴方と出会わなければ……私はこうして此処にはいなかった。だから、恩人であり……その、好意を持つ貴方だからこそ、少しでも恩を返したいのです……ですから、何かあった時はお声を掛けてください。微力ですが……力になります」……どうやら、思考を読まれたワケでは無く、イリスの内に秘めた想いを語ってくれていたらしい。というか、『好意を持つ』という辺りで、静かに赤くなったりして……可愛いなぁ、もう!!「ああ、じゃあ手が必要になったら力を貸して貰おうかな?」「はい、喜んで♪」嬉しそうに微笑むイリス……うん、見てるとこっちまで嬉しくなるな。それからしばらく、俺達は近況を話し合った。イリスは教員補佐としての仕事、ミーシャのこと等を。俺は普段何をしているか……等を話した。思いの外話しが弾み、瞬く間に時間が過ぎていった。「あ……そろそろ行かなければ。まだ仕事が残っていますので」「そうか……じゃあ、また遊びに来るからな?」「はい、お待ちしています………ん」と、イリスが俺に近付き、ゆっくりと瞳を閉じて顔をこちらに向けて来た……コ、コレは……。「……愛し合う者同士は、仕事に行く前に口付けを交わす……というのを、書物で読みました……だからその、口付けを……戴けませんか?」ぷちんっ。恥じらいながらもキスをねだるイリスを見て、俺の中で何かがキレた。正確にはスイッチが入った……だから、かちっ!という擬音が正しいのかも知れないが。「それは構わないが……俺はまだ、イリスから好きだって告げられて無いんだがな?」「え……?ですが、あの時……」「確かに、いきなり唇を奪われたが……イリスの気持ちは聞いてないからな?だって、アレは『お礼』なんだろう?」俺とて、かつての鈍感泥つきニンジンでは無い。あの時にイリスの気持ちは伝わった……だが、言葉にしてはいない。イリスはあくまで『お礼』だと言い、俺はそれを受け入れただけで、答えを返していない。「それは……違うんです。『お礼』の気持ちもありましたが……何より私は……」「私は……何だよ?」「………シオンは優しいのに……意地悪です」そう言って俯いてしまうイリス。すまんね、イリスの愛らしさに、思わずドSスイッチが入っちまったワケさね。「私は……シオンが好きです。世界中の誰よりも貴方が……好きです」「俺も……イリスが好きだ。けど、良いのか?多分知ってると思うが、俺はどうしようもない女たらしだぜ?」「覚悟の上です………それでも、私は貴方のことを……愛しています」真っ赤になりながら、ゆっくりと確かめる様に言うイリス……俺はそんなイリスを―――抱きしめた。「分かった……なら、絶対に離してやらないから……覚悟しろな?」「離さないで下さい……ずっと、いつまでも……私を捕まえていて……」やはりこの身体は恋愛原子……もはや語るまい。とか、言いたくなる位だが……。ハーレム(爆)乙。いや、まぁ……勿論嬉しいんだけどな?例え、自分だけじゃなくても良い……そこまで俺なんかを想ってくれて……。嬉しくない筈が無い。ならば、全力で愛そう――。俺なんかを愛してくれた彼女を、彼女達を……全身全霊で!!俺はイリスにキスをした……触れるだけの優しいキスだ。「………ん……ふぅ……あの、触れるだけですか?」「まぁ、エラいことになってイリスが仕事出来なくなったら困るし、な?」それにこういう触れ合うだけのキスも良いモンだ……。そんな言い訳をする俺。まぁ、触れ合うだけのキスとかは、俺の個人的な見解だがな。「じゃあ……また来る」「はい…お待ちしています……」こうして、俺はイリスと再会の約束を交わした。まぁ、近いうちにまた訪れることになるだろう……。多分な?で、約束の時間まで間があるので、俺は学院内をうろついてみた。すると、ラルフが居たので話し掛けた。「商売のコツは商品を安く仕入れて高く売ること……何だけど、その値段配分は難しい。高すぎても買ってくれないし、安すぎたら元が取れない。周りの店の値段配分にも寄るから、コレと言った物は無いんだ」成程なぁ……商売ってのも奥が深いぜ……。等と話している内に時間になった。「さて、みんなそろったよね?じゃあ、戻ろうか」集合場所に集まった俺達を確認したティピ。そしてソレを確認したルイセのテレポートでローランディアへ帰還。城に行って文官さんに休暇の終了と、次の休暇先を申請した後……帰宅したのだった。夕食を採った後、若干のマッタリタイムを得てから就寝……明日に備えるのだった。*********休暇三日目・カーマイン領エルスリードさて、そんなワケでエルスリードにやってきた俺達。皆はそれぞれに散り、休暇を満喫していることだろう。そして、俺も今回の休暇は個人的に楽しみにしていた……というのも、つい先日新しい料理人を雇い、新たな店舗が開店したという情報をゲットしたからだ。今まで開店していた料理店は、高級レストランに小洒落たカフェ……。それらの間に出来た新たな店舗………そう。【和食レストラン】である。無論、今までにも準和食を食したことはある。幸いというか、ゼノスは和食関係にも覚えがあったからだ。だが、それは完璧では無い。簡単な例を挙げるなら、白飯は出てくるが、おかずは洋食……みたいな感じだ。故に、俺は餓えていた……純粋な日ノ本の味という奴に……。さあ、いざっ!!我が魂の食を求めて!!**********「シオンさん、何処だろう?」私はシオンさんを探していた。せっかく来たのだから、その、一緒に廻りたいな……って。そんな時、シオンさんを見付けたので声を掛けた。「シオンさ〜ん!」「!?カ、カレン?……どうしたんだ?」?何だろう……今、一瞬だけシオンさんが動揺した様な……?気のせい……かな?「良かったら……一緒に廻りませんか?」「一緒に?……う〜ん……」……あ、あれ?なんだか歯切れが悪い……。何時ものシオンさんなら――。『それって、デートのお誘いかな?』くらい言う余裕がある筈なのに……もしかして、先約があるとか?リビエラさん……いえ、ラルフさん?それとも……。「あの……もし先約があるなら……」「ん?あ、いや……別に先約は無いよ。……まぁ、カレンなら大丈夫か(ボソッ」「えっ?」「いや、何でもない。俺なんかで良ければ、喜んでエスコートさせて貰うぜ?」「はい!むしろシオンさんだから、お願いしたいんです……」なんかじゃなくて、貴方だから……そう言ったらシオンさん、少し顔を赤くして頬を掻いて……。「……嬉しいことを言ってくれるな?それじゃあ行こうか?」私はそれに頷いて、差し出された手を掴んだ。こうして、腕を組んでるとシオンさんの暖かさが伝わって来て……ホッとする……。それに反比例する位に、ドキドキするんですけど……ね。まず、私達は美術館に向かった。今日は絵画展を開いているらしい。私は美術に造詣が深いわけでは無いけれど……そこにあった絵は本当に綺麗だった。そのほとんどが風景画だったけど、そのどれもに暖かみがあったから……凄いなぁ……って思いました。「綺麗……それに、暖かみがあって……」「だな。特別凄い技法が使われているワケじゃない。有名な作家というワケでもない……でも、筆に込められた暖かさ……想いが伝わって来る様な絵だよな」格式張った絵画より、こういう絵の方が好きだな……そう言ったシオンさんの表情は、凄く優しいものでした。美術館を後にした私達は、昼食を採ることになりました。そこは新しく出来たお店で、和食を売りにしているらしいです。シオンさんに聞くと、本当は今日、一人で此処に来るつもりだったらしい。出てくるのは純和食らしいので、初めての人には辛いかな……と、思ったらしいんです。けど、私も兄さんのおかげで、料理に関してはそれなりの知識があるし、和食自体も食べたことがある……純粋な和食はこれが初めてだけど。何だか、少し楽しみですね♪**********「お待たせしました、秋刀魚の塩焼き定食と、卵焼き定食です」和食レストランに来た俺とカレン。俺は待ってましたぁ!と、言わんばかりに、運ばれて来た定食を見つめる。ちなみに俺が秋刀魚焼き定食で、カレンが卵焼き定食だ。ご飯はふっくらと炊き上がり、実に魅惑的な米の香りがする。その艶もまた見事!これは即ち、釜戸を使って炊いた証拠!!俺は両手を合わせ、厳かに告げた。「――いただきます」「いただきます」カレンもそれに合わせて、いただきますを告げた。では、最初の一口を……ご飯に掛ける為に、納豆と卵が付随しているが……最初は純粋な米の味を楽しみたい!パクッ……もぐもぐもぐ……ゴックン!「美味い……」米の香りと甘味、それらが混然一体となって緩やかに攻め込んで来る……俺は今度は味噌汁に手を付けた。それはオーソドックスな豆腐とワカメの味噌汁……良い香りだ。すうっ……。その味噌汁を啜る。元来、テーブルマナー的には汁物を啜るのは厳禁……だが、味噌汁だから無問題!――なのに、音をたてずに飲んでしまった辺り、英才教育が染み渡ってるなぁと思ったが。だが、味噌汁を飲んだ時……そんな考えは吹き飛ぶ。あぁ……染みるなぁ……。何と言うか、凄くホッとする味だ……やべぇ、泣きたくなって来た……。それからも、俺は魂の食を味わった……秋刀魚の塩焼きに感動したり、納豆と卵と葱……その組み合わせには、泣きそうになった……。あぁ……あぁ、美味い……。単純に美味い料理なら、コレ以上の物は沢山ある。だが、コレは心が――魂が美味いと感じているんだ。コレだけで、今日は来て良かったと思える……。カレンはカレンで、美味しそうに食べていた。普通、経験の無い者は和食を敬遠する。何しろ、炊きたての飯の香りをカビ臭いと表する奴もいるからな……。カレンは慣れていたのと、単純に口に合ったのだろうな……。美味しいと言って食べているのを見て、頬が緩むのを感じる。「その卵焼きも美味そうだな……一口くれないか?」「はい、良いですよ……あ、あ〜んしてください……」……恥ずかしいならやらなきゃ良いのに……とか心の片隅で思いつつ、素直にあ〜んしてやる。……バカップルですね分かryお返しとばかりに、俺は秋刀魚の塩焼きを一口、カレンにあ〜んしてやる。「ほら、お返しに……あ〜ん」「は、はい……あ〜…ん……美味しいです♪」うん、バカップル乙!ってか、周りの視線が痛ぇ!!まぁ、敢えてスルーだけどな!そんなこんなで、食事を堪能した俺達は店を出た……とりあえず、まだ時間があるので、公園のボート乗り場へ向かった。そしてボート遊び……勿論、ゆっくり漕ぐがね?「風が気持ち良い……」「そうだな……」俺達はマッタリとボートの上で過ごした。他愛のない話をしたりしながら……。「シオンさん……」「ん……?」「私…幸せです」「ああ……俺もだ」「早く、争いを止めて、皆がこんな何気ない幸せを感じられる世の中に……したいですね」「ああ……そうだな」何気ない幸せ……簡単だが難しいソレを、感じられる世の中……つまりは泰平の世。まずはこの戦争を終わらせなけりゃあな……。しばらくしてから……時間になったので、俺達は集合場所に向かった。そして全員が戻って来たのを確認した俺は、テレポートを使って帰還した。なんだかんだで、有意義な休暇だったな……。そんなことを考えながら、俺達は休暇の終了を報告したのだった。明日からはまた任務……気を引き締めていかないとな!!