カーマイン達と別れた後、ゼノスとカレンは宿に戻っていた。「さあて――明日は野盗退治の依頼があるからな。早いとこ寝ちまうか」「ねぇ、兄さん…」「ん?何だカレン?」ゼノスは鎧と手甲を外し、愛用の大剣と共に壁に立て掛ける。尚、此処はゼノスがとった部屋であり、カレンの部屋はまた別にある。当たり前だが――。「前にシオンさんに、占ってもらったでしょ…?」「ああ…あの【影が狙っている】とか言うアレな?他には俺がこの世界を救う光だとか……それがどうかしたのか?」「うん、あの占いと今回のことって……関係あるんじゃないかなって……」カレンがそう告げるとゼノスは顔をしかめる。「……お前もそう思うか?」「…うん…兄さんの占って貰った一節に【金と銀を携えし光】…っていうのがあったけど、アレってカーマインさんのことなんじゃないかな?ほら、カーマインさんって金と銀のオッドアイじゃない」「成る程な……けど、ぶつかり合うってのは……そうか!闘技大会か!…しかし光を疑うな…みたいなのもあった気がするんだが…これはどういうことだ?」ゼノスは疑問を口にするが、カレンは首を横に降る。「分からない…何かカーマインさんを疑う様なことが起きるのかも知れないけど……【影】っていうのはあの盗賊の人達かしら…?」「どうだろうな……確かに奴らはカレンを狙っていたが…【影が狙っている】とか言うのは俺のとこにもあったし……というか、よくそんな細かく覚えてるな?」「え!?だ、だって、何か意味深だったし…それに…」「シオンが言ったことだから……か?」「!?〜〜〜〜〜っ!!」カレンはゼノスに言われて茹蛸みたいに真っ赤になってしまった。「ヤレヤレ…最近更に反応が過剰じゃないか?」「に、兄さんっ!!」「ハハハ、悪ぃ悪ぃ。そんなに怒んなって」「もう!知らない!」プイッと顔を背け、そのまま部屋を後にする。自分に宛がわれた部屋に戻っていったのだろう。「ったく。アイツらが旅に出る前にさっさと告っちまえば良かったのに…その辺が初心というか、何と言うか」一応、カレンは告白紛いのことをシオンにしていたのだが、【勘違いの勘違い】――というややこしい思考を働かせたシオンにより、肩透かしを喰らった形になってしまっている。無論、そんなことをゼノスが知る由もないのだが。「カーマイン、か……闘技大会に出てくるなら全力で迎え撃つ。確実に苦戦するだろうがな」短いながら、共に戦って――カーマインのある程度の実力を把握したゼノスは、武者震いを止められない。強い奴と戦う――それはこの上なく心が踊ることだ。特に、自身と実力が拮抗した者と競うのは――。だが実際のところ、ゼノスは【戦闘中毒】(バトルジャンキー)や、【戦闘狂】(バトルマニア)と言う程、重度では無い。競うことは楽しいが、彼の性分は傭兵――故に、勝つこと……言い換えるなら生き残ることを至上とする。だからこそ、勝つためのロジックを練り――それを確実な物とする為に、己を研く。悪いが――優勝は俺が戴くぜ!と、未だ実現するかも定かでは無い、カーマインとの戦いに意気込むが――チラリと、シオンとラルフのことが頭に過ぎる。「……アイツら、出場したりしないだろうな?…まさかな……」ハハハ…と、渇いた笑いを浮かべる。ラルフとは戦ってみたいと思う。その強さを、確かめてみたいと思う。彼が懸念しているのは――ずばりシオンだ。「アイツが参加してきたら―――駄目だ……勝てるイメージが浮かばねぇ……」誤解から生じた、闘技場での勝負――結果は完敗。あの時のイメージは、未だにゼノスの頭の中に焼き付いている――。ゼノスもアレから更に腕を研き、実力を着けた自負はある。だが、それでも自身の勘が告げる――未だ、届かないと。無論、挑戦したい気持ちはある。例え勝てずとも、どの程度通用するようになったか試してみたい、と。だが、敗けを意識した時点で駄目なのだ。その時点で、勝ちは――届かない位置にまで遠退くことを、ゼノスは理解していた。「ったく……あんなにスッキリ負けちまったからな――余計に弱気になっちまう――」(だが――それじゃあ駄目だ)ただ競い合うだけなら良い――だが、これは闘技大会だ。ゼノスには優勝して、何処かの国に仕官するという目的がある――。故に負けられない――負けるわけにはいかない。自身の為にも、そして何より――カレンの為にも。「って、気が早いっつーの――まだ、アイツらが参加すると決まったわけじゃねーのにな」自分は気が逸っていた様だ――と、その考えを一笑に伏すゼノス。「仮にアイツらが参加したとしても、なる様にしかならないだろうしな――ったく、ますます俺らしくねぇ――」負けるわけにはいかないが、張りつめ過ぎて試合に負けました――では洒落にならない。(まぁ、いざとなったら――負けたことを口実に、シオンとカレンをくっ付けちまうのもアリだな――そうすりゃあ、俺も安心して……って、また負けること前提に考えちまってるな――)いかんいかん――と、頭を振りつつも、先程まで張りつめていた空気は、既に霧散していた。なる様にしかならない――最終的には開き直って、ゼノスは就寝するのだった。*******一方、カレンは……「ハァ……」ため息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。「…シオンさん…」思い浮かぶのはシオンのことばかり…あの銀の髪…あの蒼い瞳…あの暖かい笑顔…。「もう…兄さんがあんなことを言うから……」夢想してしまう……あの人の声を聞きたい…あの人の顔を見たい…あの人に抱きしめられたい……あの人に……。「うぅ……これじゃ眠れない…でも寝なきゃ……」カレンは身悶えながらも、シオンのことを想って――何とか就寝する……尚、このシオンを想って――というのが影響していたのか、カレンはシオンと極甘ストロベリった夢を見て、寝起きに赤い顔でポケ〜〜としている所をゼノスに発見されることになるのだが……激しく余談である。この夢が現実になるのか否か……それは神のみぞ知る――である。*******てな訳で番外編その2…幕間みたいなものです。番外編なので短めでございます(--;)