周囲が宵闇に染まる時―――草木も眠る丑三つ時――。森の奥深くにひっそりと佇む木造家屋――。そこで行われていたのは――。「あべしっ!!?」「たわばぁっ!!?」メメタァッ!!!バカアァァァァァァン!!!!容赦無い殲滅戦だった――――って、死なせてないからね?窓から吹っ飛んで行った奴らは世紀末な悲鳴を上げていたけど……気絶してるだけだからね?「……おい……俺の名前を言ってみろ……って、全員気絶してるか」さて、俺ことシオン・ウォルフマイヤーが、何故こんなことをしているのかと言うと。勘の良い方は気付いているかも知れないが……。俺は今現在、シャドー・ナイトのアジトに赴いて奴らを殲滅していた所なのだ!!つまり、さっきぶっ飛ばした奴らも、この周囲に転がっている連中もシャドー・ナイトってワケだ。話は少し遡るが……休暇から帰還した俺達は、夕食を戴いた後、就寝した。で、皆が寝静まった頃合いを見計らって、起き上がり……行動を起こしたというワケ。モンスター使いの気、魔力を辿って瞬転!!こうしてアジトらしき家屋の前にやってきた俺は、早速屋内に侵入……当然、中に居たシャドー・ナイトらに襲われたが、メンチビームをシュミミーンと喰らわせ、気絶させる。メンチビームに耐えた連中には、鉄拳制裁で黙らせた。殲滅しながら進み、モンスター使いの気を感じる部屋へ。そこでは既に逃げる準備をして、窓から飛び出そうとしているモンスター使いが。俺を視認したモンスター使いは、それはもう勢いよく罵倒してくれましたよ。「よくも私を謀ってくれたな!!」とか……。「いずれ必ず後悔させてやるっ!!!」とか……言葉の意味から考えて、どうやらあのトラップに引っ掛かった様です。とりあえずプププ……とか思っていたが、同時にそんなに激昂するほどか?……とも思ったり。やはりリビエラが言う様に陰湿で短気なんだな……と、改めて認識した。(シオンはモンスター使いが、大鷲に騎乗中に漏らしたことを知りません)無論、俺は奴を捕まえようと近付いたが、部屋に居た数人が立ちはだかった。どうやらモンスター使いに命令され、足止めをする算段らしい。原作でもチラッと感じたことだが……どうもこのモンスター使いは、他のシャドー・ナイツより階級が上の様だな。高笑いしながら逃げようとしていたので……。「宣言しよう……貴様の運命は破滅だ。俺は貴様を追い詰める……貴様が何処に居ようとな……クックックッ……」という言葉を殺気と共にプレゼントしたら、真っ青になって慌てて逃げ出して行きました。此処で奴をどうにかするのはたやすいが……泳がせておけば次のアジトに行くだろう?……奴には道標になってもらおうか。で、足止め連中を無力化して今に致る……と。「さて……剥ぎ取りタイムといきますか」俺はその場に居る連中の装備一式、アイテムを剥ぎ取り、魔導具『緊縛君1号』にて縛り上げて家屋の外へポーイ。下着だけは武士の情けでそのままにしてあげました。無論、他の部屋でのびている奴らや、外にぶっ飛ばした奴らも同様に。その結果……。シャドー・ナイツの鎧(制服・男女)双剣型シャドーブレイド大剣(通常)型シャドーブレイド風神の杖クレセントピアス……等、色々なアイテムをゲットした。シャドー・ナイツの鎧や、シャドーブレイドに関しては以前説明したので省くが………ん?女のシャドー・ナイトも居たのかって?ああ、居た……2、3人程度だけど。勿論剥ぎましたが何か?俺、女性は守る対象だと思ってるけど、男尊女卑はしない主義なんだよね〜♪男連中は剥いでるのに、女性だけ剥がないのは不公平じゃん?……あ、勿論下着はそのままだからな?装備を分取っただけだから。……幾ら何でも、無抵抗になった奴に何かする程、俺は鬼畜と違う。まぁ、相手がクズみたいな奴なら……容赦しないがね?フフフ……。まぁ、それはともかく。新しく手に入れたアイテムだが……。『風神の杖』風を操る力が増すという、神秘的な杖。風の精霊王が、人間に与えたと言われている。この杖を媒介に魔法を使うと、風属性の魔法を使った際、対象の風耐性を下げる効果がある。つまり風属性の魔法が効きやすくなるってことだ。杖ではあるが、込められた魔力がそれなりにある為、攻撃力自体はそこそこである。勿論、杖なので魔法を補助する役目が主で、知力、魔法の射程、範囲、威力を補助する。原作風に言うなら、知力+7、射程+4、範囲+2、魔法威力+10%……といった所だ。杖としては中堅クラスの物で、値段も四桁を超えない……まぁ、一般的に見たら超高級品ではあるんだが。この杖一本で、宿屋に何泊出来るんや!!って、話しだ。『クレセントピアス』プラチナで作られた三日月型ピアスで、魔法詠唱時の精神集中を促し、魔法の効果を高めることが出来るという、杖の様な効果を持つピアス。知力+15、射程+3、範囲+1、魔法威力+10%……。精神魔法に対する耐性は上がるが、防御力自体は低い。この類の物品は大概そうだが……アイテム自体に防御力があるわけではなく、込められた魔力が装備者を守る仕組みになっている。もっとも、ピアスという形状だからか、先程述べた様に防御効果は低い。ちなみに、値段は風神の杖より若干安い程度。まぁ、プラチナ製だし無理からぬことだが。他にも回復薬とか色々ゲット出来た。「さて……次は……」続いて、俺は家捜しを始めた。奴らの行動に関する証拠でも無いかな……と、思っていたんだが、そんな明確な証拠を残す様な連中じゃないワケで……。「毒消し草……ファイアニル……おっ、力のリンゴ。レアモノゲットだな」結局、幾つかのアイテムを手に入れるだけに止まった。ちなみに、毒消し草は敢えて説明不要だろうが、他二つを軽く……。『ファイアニル』炎の力を中和する魔法粉末。身体に掛けることで、しばらくの間、炎魔法を無効化出来る。ただし、他の魔法粉末との併用は出来ない。他にも各属性に対応したニルがあり、それらと併用は出来ない……というワケだな。『力のリンゴ』果汁に、筋力を強くする成分が含まれた魔法のリンゴ。魔導学の進歩によって生み出されたものだが、一本の木から、たった一個しか採取出来ない。その真っ赤な実は、みずみずしく甘味。力が漲る様な味である。効果としてはドラ○エのちからの種と同じ様なモノ……と、考えれば分かりやすいと思う。「さて……最後の締めに掛かるか」俺は外に出て、呪文を詠唱し……。「マジックガトリング」それを家屋に放った。手加減無しで放った無数の矢群が、家屋をボロ雑巾の様に蹂躙した。見るも無惨な状態になった家屋を、満足気に見た後……俺は帰還したのだった。――――その頃、イリスの身に降り懸かっている出来事など……知るよしも無く――――**********此処はマスターの秘密研究所……。私は今……拘束されている。原因は分かっている。―――私がグローシアンたちを逃がしたからだ。私はマスターを薬でお休みさせた後、行動を開始した。皆さんへ簡単に事情を説明して……私の話を信じず、学院に残った方たちもおられました……しかし半数以下ではありますが、信じてくれる方もいました。……アイリーンさんが皆さんを促してくれたのも、大きいのかも知れません。そして夜の帳が降りる頃……私たちは行動を起こした。森林を通って進んで行く……。それは万が一にでも追っ手に追尾された際、それを撒くためだったのだが………私はマスターを甘く見ていたらしい。もうすぐ街道に出る……という所で、マスターと協力関係にある男……確かグレンガルと言ったか。彼率いる盗賊たちが立ち塞がったのだ。マスターは私が反攻することを見越していたのだろう……。私は皆さんを逃がす為に足止めに残った……。しかし、アイリーンさんを始め数人も残って私と一緒に足止めをしてくれると……。結果、残りの皆さんは逃げられましたが……私たちは捕まってしまった。「よもやお前に裏切られるとはな……」「マスター……」私が思考に耽っている間に、マスターがやってきた……その顔には嘲笑が張り付いている。「お前の愚かな行いのおかげで、数人の実験台に逃げられてしまったが……他にも代わりはおるからな。問題あるまい……それに逃げた者たちも無事では済まさん」「……………」始末する……ということか。確かに、マスターのことを言い触らされたらマスターにとっては些か都合が悪い……そんなことになるくらいなら、いっそ……ということだろう。………上手く逃げ切って欲しいですが。「……私を処分しないのですか?」そう、マスターは何度も言っていた。お前の代わりなど幾らでも造れる……と。それを恐れて、私はマスターに反攻することを躊躇った。だが、それ以上に私は堪えられなかった。彼らの笑顔を……優しさを……無惨にも摘み取ってしまうことを。怖さが無いかと聞かれたら嘘になる……だが、私は自身の『心』に準じたのだ……だから、後悔はしていない。例え、処分されようとも……。「ふん……お前にはまだ使い道があるからな……感情という邪魔な物を覚えたお前だが、だからこそ利用価値というモノが生まれるのだよ」マスターが私に向けて手を翳す。……一体、何を……?「私ほどの魔導師ならば、お前の記憶を奪い、操ることなど造作も無いことなのだよ」「っ!!?」記憶を……奪う……?「もっとも、記憶を奪う……というより、一時的にその記憶を封印し、私の操り人形に戻るというのが正確だがな。よもやお前にコレを使うことになるとは思わなんだわ……では、眠るが良い。お前が眼を覚ます頃には全てが終わっている……そう、全てがな」「あ………ぁ………」マスターの宣言と共に、私の意識は堕ちた。最後に脳裏に浮かんだのは……『感情』を教えてくれた……彼の……。**********――そんなこんなで、俺達は今、ローランディア城の謁見の間へ来ている。次の任務を受けに来たワケだな。「休暇は楽しめたかな?次の任務は……と言いたいところだが、そろそろ自分たちのすべきことがわかってきたであろう。そこで、今回は任務を設けないでおく。自分たちですべきことを成し、報告してくれればよい。緊急の用事があれば、こちらから呼び出す」……ということらしい。「全部自分で決めるなんて、なんだか調子狂っちゃうね」ティピの言う通り、何だか肩透かしを喰らった気分だ……それだけ信頼されているのだろうが……。「そう言えば、サンドラがお前たちに用事があると言っていたな。暇をみて行ってみるといい」そんなワケで、俺達は謁見の間を後にし、サンドラの用事を伺いに行くことにした。原作通りなら、ルイセの魔法実習終了の証明書が渡される筈だが……。そんなことを考えながら、サンドラの研究所に向かった。「マスター!」「お母さん、来たよ」研究所の二階にて、サンドラがバルコニーに居たのを見付けたルイセとティピが、サンドラに話し掛けた。「休暇は終わったのですか?」「ああ……それで、母さんから話があるそうだけど」「ひょっとして、ゲヴェルのことで何か分かったことでも?」サンドラの問いに答えつつ、用件を聞くカーマイン。ウォレスはウォレスで、ゲヴェルについて何か分かったのかと、尋ねていた。……ん?サンドラがコッチを見た……?俺から知らされた情報を教えて良いものか……?そんな感じの表情だな。俺はその視線に、苦笑いで返した。好きにすると良い……そんな感情を込めて。「確かに幾つかの情報はありましたが……まだ、ハッキリとしたことは分かっていないのです。だから、情報が纏まり次第知らせます」……どうやら、サンドラは俺が教えた情報は教えないつもりらしい……。いや、グローシアンの命を賭けて封印する……という手段以外を模索してから、一気に情報を提示するつもりなのかも知れないな。「今回呼んだのは、これを届けてほしいからです」「届け物?」「ええ。あなたの魔法実習終了の証明書ですよ」「……あ」どうやら、ルイセは自分が実習中だということをすっかり忘れていたらしく、少し照れながらも思い出した様だ。「そうか、ルイセちゃんって、まだ実習中だったんだっけ」「……色々あってすっかり忘れていたな」どうやら、ティピとカーマインも忘れていたらしい……まぁ、色々ドタバタしてたから無理もないか。「これを学院長か副学院長に渡せば、後は卒業研究だけですね」そう言ってルイセに渡された、実習終了の証明書。「そんなぁ……ルイセちゃん……実習終了だなんて……また差を付けられちゃったぁ〜〜……」と、何やらショックを受けている奴も居るが……誰かは言わなくても分かるだろう?何やら……。「アタシも見習わないと……」とか言っているが、見習うだけで、どうにかなるのだろうか……?とか、考えてしまった俺は悪くない筈だ。「そんじゃ、行きますか!」俺はテレポートを唱え、一路魔法学院を目指すのだった。***********……とか言ってる間に到着。テレポートさまさまである。「それで、どうするんだ?」「学院長か副学院長に証明書を渡すわけだから……とりあえず学院長室に行けば良いのかな?」ゼノスの疑問に答えたのはラルフ。まぁ、とりあえずは行ってみるべきか。で、学院長室に来てはみたが……。「学院長は席を外しております。間もなく戻られると思うのですが……」秘書であるイリスに聞いてみると、そんな答えが返って来た。ん……?………なんだ?「お急ぎでしたら、ブラッドレー副学院長に渡されると良いでしょう」「ありがとうございます」イリスの提案に、丁寧にお辞儀するルイセ……だが、俺は妙な違和感を感じ……それを拭い去れないで居た。原因はイリスだ。表情が無くなったワケじゃない。学院長が居ないと言った時の困った様な表情や、副学院長に証明書を渡してはどうか……と、言った時の微笑みからもそれは分かる……。ただ、それらから感じられないんだ……『感情』という物が。まるで、得体の知れない何かが……それをトレースしている様で……。「……どうかしましたか?」「!?いや、何でもないよ」不覚にも、イリス本人に話し掛けられ、少しビクッ!と、なってしまった……。俺達はその場を離れ、副学院長室の方へ。とは言っても、直ぐ隣なんだが……。「すいません……副学院長はいらっしゃいますか?」「あいにく副学院長は、本日、お休みでして……」アリオストが尋ねると、副学院長の秘書さんが答えた。「いらっしゃらないんですか?」「ええ。実はこのところ、研究に没頭しているようで……」「じゃあ、研究室に行けば会えるのか……?」疑問を問うたルイセに答える秘書の彼。それを聞き、カーマインは頷く様にしながら彼に問い返したが……。「少なくともこの学院にはいないみたいです。私もいろいろと探しましたので。あとは、居るとすれば…自宅の方ではないかと……」という答えが返って来た。「自宅?」「ええ。北の方にあるメディス村です」「ありゃ、アタシの生まれ故郷だ」ウォレスの問いに答える彼。それを聞いて、ミーシャは軽く驚きながら呟いた。生まれ故郷……か。真相を知る身としては、内心苦虫を噛み潰した様な心境だな……。「二人とも、いないみたいだね。どうしよう、ルイセちゃん?」「……うん。困ったね……」途方に暮れていたティピとルイセだが……。「それでしたら、私がお預かりしましょう」副学院長秘書とのやり取りを見ていたイリスが、自分が預かると名乗り出てくれたので、ルイセはその言葉に甘えることにした様だ。証明書をイリスに渡していた。……やはりイリスに違和感を感じる……何故だ……?そんな疑問を感じながらも、俺は皆の後を追って外に出た……。「おや、君たちは……。この前はありがとう」そこで出くわしたのは、アイリーンさんの恋人……ニックだった。どうやらニックはアイリーンさんに会いに来たらしい。なんでも、アイリーンさんが欲しがっていた薬草が手に入ったので、差し入れと一緒に持ってきたのだとか……。「それで学院長か副学院長に、彼女に会う許可をもらおうと思っているところさ」「ふ〜ん。でも、2人とも、7階にはいなかったわよ。それに副学院長はメディス村にいるかも」ニックの言葉に、ティピが返す。それを聞いたニックは、一瞬思案する様に考え……。「そうか。じゃあ、とりあえず校舎を探してみるよ……ん?お前は……」「久しぶりだな……闘技大会以来か?」ニックがこちらに気付いたので、軽く手を上げて答える。「白銀の閃光じゃないか……何故ここに?」「シ・オ・ン・だ!!……頼むからその名前で呼ばないでくれ。お願いだから!!」一度や二度そう呼ばれるのは良い……だが、恒久的にそう呼ばれるのは辛過ぎる……厨二乙も良いとこじゃないか!?……どうでも良いが、何で『厨二』って言うんだろうな……厨は何となく解るが……何故『二』?「あ、ああ……済まない」と、俺がどうでも良いことを思考している間に、ニックが謝罪してきた。皆も何か引いている……何で?「まぁ、良い……ちなみに、居るのは俺だけじゃないぜ?」俺はリビエラに視線を向ける。リビエラは少しバツが悪そうな顔をしているが……。「君は……あの時の…………」「……その節はどうも」リビエラは言い争いになるのを嫌ったのか、素っ気なくそう言ったのだが……。バッ!!ニックの取った行動は……これでもかと言う位に頭を下げることだった。「へっ……?」「済まなかった!君たちの忠告も無視して、あんな態度を取ってしまって……本当に申し訳なく思っている!」その行動に、リビエラはポカーンとした表情を浮かべ、ニックは謝罪の言葉を述べる。その態度から、心からの謝罪なんだろう。「君たちの言う通りだった……少しでも君たちの言葉に耳を傾けていれば、アイリーンを危険な目に合わせることも無かった……」「あ、あの……もう良いから!私も気にしてないし……」「……済まない。そう言ってくれると助かる」……どうやら、蟠りは解けた様だな。まぁ、いつまでも諍いを続けているよりはずっと良いさね。その後、ニックは少し話した後に学院内に入って行った。学院長か副学院長を見かけたら教えてくれと言い残して。「アイリーンさん、元気にしているかしら……」以前、医学について語り合ったこともあり、カレンもアイリーンさんのことを気にしている様だ。「そうだね。遊びに行ってみようよ」「学院のどこかに、保護されている筈だが……。一体、どこだろうな?」そんなカレンを見て、ミーシャは提案するが……ウォレスの言うように場所が分からない……まぁ、俺は知ってるが。さして学院に詳しくない筈の俺が、それを言うのは……なぁ?「多目的ホールじゃないかな?しばらく、何にも使ってなかったし……」「だが……さっきニックも言っていたが、学院長か副学院長の許可が必要なんじゃないか……?」ルイセが場所の当たりを付けるが、カーマインが冷静なツッコミを入れる。まぁ、誰も言わなければ俺がツッコんでいたし。「とりあえず、駄目もとで行ってみても良いんじゃないかな?」そうラルフが告げる。とりあえず、行くだけなら問題無いか。そんな訳で、ルイセの案内で多目的ホールへ。で、多目的ホールに来たのは良いんだが……。「ここにはグローシアンの方々が保護されておられるのだ」「知り合いがいるんですけど、会わせていただけないでしょうか?」「自分には許可を与える権利はない。中の人に会いたければ、学院長か副学院長に許可を貰うことだ」案の定、カーマインの懸念が当たったワケだ。カレンが頼んでも、この警備兵はどこ吹く風だしな。「それにしても、最近中が静かだな。そう思わんか?」「アタシたちにわかるわけないでしょ!」「それもそうだな」分かってるなら聞くなよ……という気持ちなんだろうなティピは。……しかし、静か……か。ホールの中からは誰の気も感じない……。一瞬、原作の展開を思い浮かべたが、すぐに思い直す……今のイリスなら、クソヒゲの凶行を良しとはしない筈だ。……思い悩んでは居たが、答えは出したのだから……まぁ、その答えが原作通りなら……俺はアイツを止めなきゃならないが。そんなことを考え込むうちに、俺はずっと歩いていた様で……気付いたらアリオストの研究室前まで来ていた。「もう、シオンさん!呼んでるのに、ズンズン歩いて行っちゃうんだから!」「わ、悪い……」ティピがプンスカ怒っている。今回は全面的に俺が悪いので、素直に謝る。「まぁ、無意識なのか、人や物にぶつからず歩くのは流石というか……」「それで、僕の研究室に何か用なのかい?」ラルフは俺に苦笑いを向け、アリオストは何か用事があるのか聞いてくる……。「いや……少し考え事を、な?」「考え事?」む〜〜……よもやイリス……学院長秘書の様子が変だから気になっていた……なんて言えんしな。クソヒゲについては尚更言えん!!此処にはミーシャが居るからな……。「いや、さっきの警備兵……多目的ホールの中が静かだ……って言ってたろ?それが気になってさ」「それの何処が気になるんですか?」咄嗟に出た言い訳だが、カレンが問うて来た以上、軽く説明しないとな。「考えてもみろよ。あの多目的ホールにはグローシアンが居る筈だろう?それも複数……なのに静かだなんておかしいだろ?それに……」「それに……なんだよ?」俺はゼノスの問いに答える様に……続きを促した。「あの中からは……何の気も感じなかった。ラルフは気付いていたんじゃないか?」「うん……僕も妙だとは思ってたんだけど……」等と話していると……。「う〜ん……。開かないなぁ……」そんな声が聞こえて来た……見ると、アリオストの研究室の直ぐ横にある、シャッターの様な物の前で、何やら悪戦苦闘している魔法学院の男子生徒が居た。「どうしたんですか?」気になったのか、ルイセが何をしてるのかを尋ねた。「この前の夜に、ここで知らない男たちが箱を出し入れしてるのを見たんだ」「箱?」「ああ。大人が入れそうな大きな木箱だったよ。それも1つじゃなかったんだ。それで何を運び出したのか興味があって……」「だが鍵がかかっていて入れない、と」理由を話す男子生徒……その理由にティピは首を傾げるが、男子生徒は更に説明する……中に入ろうとしたが、ウォレスの言う様に鍵がかかっていて入れないらしい。「仕方ない。諦めるとするか……う〜ん……あの薬を使えれば、姿を見られずに……………ブツブツ………」最後に何やらブツブツ言っていたが、耳の良い俺は一字一句、全て聞こえていた。「なんだか怪しいな」「そうねぇ……」「最近静かになったホール。運び出された大きな箱」「シオンとラルフは、ホールの中から気を感じない……って、言ってたしな……」上からウォレス、ティピ、ルイセ、ゼノスである。「アンタ、箱の中に何が入ってたと思う?」「……これらの情報を一つに纏めるなら、入ってたのは人間かも知れないな……」ティピの問いに答えるカーマイン。その答えは恐らく正解だろう……俺としてはそんなことは信じたく無いが……。「人間っていうと、やっぱり……」「グローシアンしか、いないでしょうね」そうルイセの懸念とリビエラの答え……もし、原作通りなら一致する……唯一つのその答えに。「しかし一体、何のために?」「とにかく、徹底的に調べてみる必要があるな。そのためにも、何とかしてホールに入らねぇと」アリオストの疑問はもっともだが、ウォレスの言う様に調べるしか無い。……出来るなら、なるべく早く。「警備員に見つからないで中に入る方法ってなんだろ?」「そう言えば、さっきの生徒があの薬があれば姿を見られずに……とか言っていたが……もしかして、姿を消せる薬でもあるのか?」ルイセを筆頭に、頭を悩ませている皆へ、ちょっとした助け舟を出す。……と、言うのも、以前クリアノ草フラグを叩き折ってますからね……俺は。こうでもしなきゃ気付かないだろう……と。まさか、警備兵を昏倒させるワケにもイカンしなぁ……。「姿が消える薬……確か、学院に在籍する教授の1人が、透明薬の研究をしていたような……」「それだ!」アリオストの呟きに反応を示すティピ。後は、上手く薬を貰えるかどうか……だが、問題無い。条件は既にクリアーされている……クリアノ草だけに…………つまらん……。ま、まぁ、そういうワケで、俺達は学院内の薬剤研究フロアへ行き、透明薬の研究をしている教授の所に来たワケだが……。「実は、クリアノ草という材料が足りないんだ……アレがあれば薬は完成すると言うのに……」何でも、クリアノ草は火山の火口や、火山内部など危険な場所に生えている植物らしく、市場にも中々出回らないと言う。この辺の火山は、ブレーム山しか無いが。俺は此処で切り札を切る。「クリアノ草って……コレですか?」俺は取り出した草を教授に見せた。「!!それは間違いなくクリアノ草……一体、それを何処で手に入れたのだね!?」「知り合いの商人の所に流れて来たんですよ。珍しい草らしいから、興味半分で買ったんですがね」嘘では無い。これはローザリアにある、スキマ屋から購入した物だ。あのオッサン……何処から仕入れて来るのか、珍しい品物を取り扱っており、順次品質を上げていきやがる。聞いた話によると、オッサンはかつて名を馳せたトレジャーハンターだったらしく、そのツテで、豊富な人脈があるのだとか……。他にも、スキマ屋協会なんてのもあるらしく…………話が擦れたな。とにかく、『こんなこともあろうかと』購入しておいたのさ。「コレで透明薬は作れませんか?」俺は教授にクリアノ草を渡した。「作れるとも!……まず、クリアノ草をすり潰して……ここに薬を混ぜ合わせると……」教授が受け取ったクリアノ草を、すり鉢で細かくすり潰していき、そこに調合された液体状の魔法薬を混ぜ合わせた。ボワン……と、小さな白煙を上げると共に、ピンクだった液体は、草木の様なグリーンになった。「完成ーー!」「じゃあ、それちょうだい!」「まぁ、待て。ちゃんと効果があるか確かめてからだ……コッコカモンッ!!」薬を完成させた教授に、せっかちなティピは催促するが、教授は実験してからだと言って………気にしない様にしていたんだが……俺達の直ぐ横に居るニワトリを呼び寄せた。コッコと呼ばれたニワトリは、教授に言われた通り、その翼をはためかせて教授の目の前に着地……。「ニワトリだぁ!」「素朴な疑問なんだが……ニワトリって飛べたっけか?」「そこは、ほら……突っ込んだら負けって奴なんだよ……多分」ティピはニワトリが登場したことに目を丸くし、俺とラルフはどーでも良いことを語り合っていた……。「このニワトリに、出来上がったばかりの透明化薬を一滴………」教授は、ニワトリに透明化薬を一滴垂らした……すると、何と言うことでしょう……ニワトリの姿が薄くなっていき、その姿が完全に消えたではありませんか!「消えた……」カーマインがそう呟く……そこからニワトリがいなくなったワケでは無い。それはニワトリの鳴き声が証明している。そして……。ゴト。どうやら机の上のインクを零したらしく、机から床にかけてニワトリの足跡が……丁度、足跡が俺達の後ろ辺りに来た瞬間……消えた時の逆回しの様に、ニワトリが姿を現した。「よし、成功だ!!」その後、俺達は薬を分けて貰った。小さな小瓶だが、全員が一回使うくらいの量はあるだろう。作ったばかりで効果が安定しないだろうから、長時間は消えていられないと告げられたが。教授に礼を言った俺達はその場を後にする。そして向かったのは、多目的ホール前。「……準備は良いか?」「うん、大丈夫だよ」「いつでもオッケーだよ!」「ああ、問題ない」「しっかし、効果は見たが……本当に効くのかね?」「それは、実際に試してみるしか無いね」「何だか……緊張……」「まぁ、なるようになるさ」「……だね」「私も、少し緊張してしまいます……」「こんな経験無いものね……」上から、カーマイン、ルイセ、ティピ、ウォレス、ゼノス、アリオスト、ミーシャ、俺、ラルフ、カレン、リビエラだ。ちなみに、透明になる魔法は存在するが……この様子だと、それを経験した者もいないらしい。それはともかく、俺達はそれぞれ透明化薬を服用した。すると、あのニワトリの様に姿が消えて行った。「よし、行くぞ……」カーマインの合図と共に、俺達は進んで行く。途中、警備兵の横でティピが声を出しながらほくそ笑んだのが原因で、少しヒヤッとしたが……何とか気付かれずにホール内へ潜入出来た。そして、全員ホール内に入った瞬間……。「あ、効果が消えちゃった……」そう、ティピの言う様に透明化薬の効果が切れたのだ。「まぁ、全員無事にホールに入れたんだ……問題無いって」俺はティピにそう言ってやる。すると……。「それもそうだねっ♪」と言って納得していた。「此処にアイリーンさんたちがいるのね?」「そのはずだけど……。静かだ……」リビエラの問いに答えたルイセ……。確かにルイセの言う様に静かだ……そして。「……やっぱり」「ああ、全く気を感じない……ウォレスも分かるだろ?」「ああ……お前たちの言う通りだな」俺とラルフ……それにウォレスはホール内に人の気を感じられなかった。……嫌な予感的中……か……?「とにかく、調べよう」カーマインに促され、俺達はホールの中を進んで行く……。「アイリーンさん!……って、誰もいないや……」「どうなってやがるんだ?」俺達は周囲を見渡すが、人は何処にも居なかった……ただ一つの例外を除いて。「あ、あれ見て、あれ!」ミーシャが見付けたのは、舞台の直ぐ下に横たわる男……。俺達はその男の前に集まった……。「……息してないよ……」「死んでるってこと?」「……うん……」ルイセとティピがパッと見た男の状態を判断する……。「こいつが犯人……って事はねぇだろうな……」「この人が犯人なら、こんな所で死んでいる説明が付きませんしね……」ウォレスとアリオストの言う様に、この人は犯人じゃない……この人は犠牲者だ。「この人、見たことある。確か、副学院長の知り合いの人だよ」ミーシャがそう説明するが……俺はそれに答えることは出来なかった。……見てしまったからだ。男の手に握られている物を……。「シオン……さん?」後ろからカレンの声が聞こえるが、俺は反応せず……男に近付き、その手に握られている物を掴み取った。それは……。「赤いピアス……ルビーで出来てるみたいだね」ラルフの言う様に、ルビーで出来た赤い……赤いピアス。……アイツがよく着けていた……。「?どうかしたかシオン?」「いや……何でも無い」ゼノスの問いに、平然とそう返したが……内心では違った。……俺は保護されるのを拒んだ奴らまでは、面倒を見切れない。コレが俺だけの問題なら良い。だが、俺が下手に動いては、俺が保護しているグローシアン達にも危害が及ぶ可能性がある……俺が彼らを助ける際、万が一にも下手人が俺であるとバレたなら……あのクソヒゲは難癖つけてでも、俺の保護しているグローシアンを奪い盗ろうとするだろう。……俺達を信じて着いて来てくれた彼らを、切り捨てる様な真似は出来ない。……そう言いながらも、彼らを見捨てるのには躊躇いがあった……。だが、俺はイリスの悩みを聞き、彼女なら……と、思ってしまった。……彼女がもう一つの選択肢を選ぶ可能性も考慮せず……いや、考慮はしたが、それでも彼女を信じてしまった俺は……。(コレが……お前の答えなのか……?……イリス……)**********おまけ1シャドー・ナイト(女)の運命の出会い(はぁと)私はシャドー・ナイツメンバーの一人。突然だが、私の上司は最悪だ。ヒステリックだし、嫌味だし……陰険で根暗。友達が大鷲しか居ないって言うけど、アレは友達を作らないだけだ。むしろ敵を増やしている。そんなアイツが、見るも悲惨な状態でアジトに戻って来た時は、ざまぁ見ろ!……って思ったけど。多分、他の皆もそう思ってる。そんな私達がやることは、このアジトの……そしてアイツの護衛。まぁ、直属の部下だから仕方ないんだけど……。いや、誰かに命令されるのは嫌いじゃないのよ?リシャール様みたいな王様に、靴を舐めろとか言われたら舐めちゃうかも知れないし……。……うん、自分でも理解してるけど、若干Mなのよね……私。けど、そんな私でも選ぶ権利はあると思うの!!リシャール様達、インペリアル・ナイツみたいな方々なら喜んでお仕えしたいけど……アイツみたいな『覇気』の覇の字も無い様な奴に隷属するのは真っ平ゴメン!私、爬虫類系は好きじゃないし……。そんな私に、ある転機が訪れた。アジトに侵入者が現れ、こちらに向かっているのだと……。「お前たちは、私が逃げるまでの時間を稼ぐのです!」つまり、私たちに捨て石になれ……と。……この時程、上司に恵まれていないな……と、本気で思ったことは無かったかも知れない。賊は一人らしいが、片っ端から、あっさりと――仲間は殲滅されているらしいし……私の人生もこれまでかな?そんな覚悟をしている内に、遂に侵入者がこの部屋にやってきた……。その姿を見た時、私は衝撃を受けた。……そこには『王』が居た。銀と蒼を携えた王が……。何やら上司が彼に怒鳴ってるが、そんなこと関係無い!彼から滲み出る覇気が、思わず平伏したくなるような雰囲気が……彼からは発せられていた。「宣言しよう……貴様の運命は破滅だ。俺は貴様を追い詰める……貴様が何処に居ようとな……クックックッ……」ゾクッ!!彼がアイツに向けて放った言葉と共に、放たれた殺気……その余波を受けた私は、言い知れぬ感覚に包まれた。アイツは真っ青になって逃げ出したが……。……もし、もし私にあの殺気を向けられたら……どうなってしまうんだろう……。そう考えたら、興奮にも似た感情が込み上げて来た。「さて……悪いがお前らには眠っていて貰おうか」ブワッ!!―――来たっ―――ああ、何て……凄いっ―――その殺気を受け、私を含めた三人以外は気を失ってしまった……無理もない。私だって、膝の震えが止まらないもの……。他の二人だって……。けど、この二人と違って……私には恐怖の他に、もう一つの感情がある。それは『歓喜』……。……別にバトルマニアとかじゃなくて。こんな方に出会えたことに関して……ね。だって……私、今笑ってるもの。「……俺の気当たりに耐えたか。たいしたモノだ……が、そんな様子ではこれ以上は無理だ。大人しく降参することを勧めるぜ?」彼の言う通り、私たちの足は震えている……けど、私は……。「……やる気か?」「貴方とは……違う形で会いたかった」幾ら私でも、与えられた職務は遂行しなきゃ……。例え、此処で朽ちることになろうとも……自分の人生に終わりを与える者が、自分の理想の相手……なんて、皮肉が効いてるけどね。……そう言った私を見て、彼は目を丸くし……次の瞬間には優しく微笑んだ……。(あ……こんな顔も出来るんだ……)彼に見とれていた僅かな瞬間、彼が消えたと思った時に、首に軽い衝撃を受け、私の意識は落ちた。次に目を覚ました時、私は外に居た。……何故か下着姿で縛られて。どうやら、彼がやったらしい。周囲を見ると、同じ様な姿で転がっている同僚達が……。みんなまだ気絶していて、私が最初に目を覚ましたらしい。「あ…………」私は見た……アジトだった建物の残骸を。いや、建物だったことも分からないんじゃ無いだろうか?………これも彼が?ゾクゾクゥ!!私は鳥肌が立った……こんなことまで出来る彼……そして、あの覇気と殺気の裏に見え隠れする、暖かい優しさ……。(そうだわ!私はあの方に仕える為に生まれて来たのよ!!これこそ正に一目惚れ……ううん、運命!!だって……私、あの方になら隷属したいもの……どんな酷いことされても良いもの♪だから……私は……!!)その後、少女は姿を消した。救援が駆け付けた時も、彼女の姿だけは見えなかったという。シャドー・ナイツを抜けた少女……。彼女がどうなったのか……麗しの王には会えたのか……それはまた、別のお話……。**********おまけ2逆転生者〜剣と魔法と蘇る逆転〜※嘘予告「犯人はイリスさんではない……真犯人は……この中にいます!!」「「「「「「!?」」」」」」」転生者は告げる……犯人の名を……そして追い詰める!証拠と証言……そこに眠る微かな矛盾を暴いて!!「わしはその時、学院におったよ。それに……」「異議ありっ!!……マクスウェルさん。貴方がその時に学院に居る筈が無いんですよ……」「な、なんじゃと!?」発想を……逆転しろ!!矛盾を……突き崩せっ!!!「……グローシアン失踪事件の真犯人……それは……貴方だっ!!!」「ぬぅうおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!??????」己を信じ、その指を突き付けろ!!そして叫べ……。『異議ありっ!!!』逆転生者〜剣と魔法と蘇る逆転〜発売日未定。**********後書き……ハイ、どうもお久しぶりです。作者の神仁でございます。え〜〜、仕事が忙しい上、この度スクーターで事故りまして、更新が遅れた次第にございます。幸い軽傷で済みましたが……スクーター君は入院せなあかん状態に。まぁ、その為……しばらく仕事がお休みになったので、こうして書き込みさせて戴いた次第です。慌てず、交通安全は守ろうと誓う、神仁でした。m(__)m