シオン達が任務を行っていた頃……。戦争は続いていた……。********北方、レイナード、ダグラス混成部隊。便宜上バーンシュタイン革命軍としておこう。両卿が率いる混成部隊は士気も高く、錬度もかなりの物だ。それは数で勝るバーンシュタイン正規軍と拮抗……いや、僅かながら押し返す程に……。そこに両卿の采配が大きく絡んでいるのは……言うまでもない。更に……ローランディアのベルナード将軍が部隊を率いて、こちらに合流する為に向かってくれている。それが叶えば、更に戦線は革命軍に有利な方に傾くだろう。「ぬおりゃああぁぁぁぁ!!!」「そんな……がはっ」そして、そんな中……最前線で双斧を振るう男が居た。彼の名はオズワルド。シオン・ウォルフマイヤーに雇われ、彼を頭と掲げ、忠を誓った男。その外見から、小悪党、口の悪いお調子者に見られることは多々あるが、その内に熱い物を秘め……時にそれを開放する男。ある意味、正史から1番変化した男……でもある。そのオズワルドは最前線で、獅子奮迅の戦いぶりを披露していた。襲い掛かる剣や槍を、その両手に握る手斧で払い、壊し、受け流す。その身に纏う蒼き鎧衣と合わさることで、歴戦の将軍の様な威風を醸し出している。少なくとも、小悪党などとは誰も思わないだろう。「おのれっ!!」「!?チィッ!!」そんなオズワルドの隙を突いて切り掛かる兵士。……だが。「兄貴っ!!」ギィンっ!!「何……!?」「ニール!」双剣を手に、敵の攻撃を防いだ黒髪の青年。名をニールと言い、オズワルドの部下である。青いバンダナを左の二の腕に腕章の様に巻いている。言葉の節々に『っす』と付ける、オズワルドに次ぐ熱血漢だ。「だああぁぁぁぁぁっ!!」ザシュッ!!「がはぁ!!」そのまま押し切り、双剣でクロスする様に敵を切り裂いた。「油断大敵っすよ兄貴!」「おう、ありがとよ!!」無論、オズワルドは油断した訳では無く、敢えて隙を見せて襲わせたのだが、それをわざわざ言うことは無かろうと、素直に礼を言う。「せいっ!!」斬っ!!「がは……」敵兵を切り倒したのはマーク。ニールと同じ蒼き鎧衣に身を包み、赤いバンダナを右の二の腕に巻いている。扱う武器は長剣。薄いベージュ色の髪をした男だ。「ふっ……たいしたことないぜ」「舐めるなああぁぁぁ!?」「!?やばっ……」余裕ぶっこいていたマークに切り掛かる兵士……見ると装備の質が良く、上級兵であることが分かる。ギィィン!!「なっ!?」「……やらせはしない」槍にてその剣撃を防いだのは、ザム。蒼き鎧衣に身を包み、緑色のバンダナを左の二の腕に巻いている。薄い色素の茶髪をしており、比較的口数が少ない男だ。「おらよっ!!」「ごぶ……きさ……ま」その隙に、上級兵の首元を切り裂いたのはビリー。赤み掛かった茶髪の青年で、口は悪いが何気に思いやりがある男。蒼き鎧衣を纏い、右の二の腕に黄色いバンダナを巻いている。彼の使う武器は大振りなダガーナイフ。それとオズワルド同様のハンドアックスだ。「……油断大敵……だな」「余裕ぶっこいてるからそうなるんだよ!バァカ!……一つ貸しだぜ?」「……面目ねぇ。借りは直ぐに返すぜ!!」このオズワルド率いる部隊は、一丸となって突き進んで行く……。無論、他の兵達も同様だ。「気合い入れてけお前らぁ!!一気に押し切るぜ!!!」「「「「応っ!!!」」」」「我々も行くぞ!!彼らに遅れを取るな!!」「「「「おおおおおおおおぉぉぉっ!!!!」オズワルド達の士気は、別小隊へ伝染し……それは軍全体に及んで行く。蒼き騎士達は風の如く進軍する。足らない部分は補い、互いに鼓舞しながら。それは周りを巻き込み、竜巻となり……そして嵐となる。********「シオンが置いていった彼等は、予想以上に善戦しているな……」馬上より戦場を眺めるのは、レイナード・ウォルフマイヤー……シオンの父であり、インペリアルナイトだった男。リシャール王子がナイツに加わるまで、『歴代最高のナイト』とまで言われた男で、その実力はピカ一、未だに現役ナイツと遜色の無い力を持つ。現在は別動隊を率いて行軍中である。「レイ、こっちは準備良いわよ?」同じく馬上に跨がる女性……名をリーセリア・ウォルフマイヤーと言い、シオンの母であり、レイナードの伴侶たる女性である。無論、奥さんというだけでは無く、かつては軍属の魔術師であり、その魔力や指揮能力はグローシアンでは無いが、それに迫る物を持つ。彼女を宮廷魔術師に……という声もあったが、彼女はシオンを身篭ったことにより、退役。子育てに専念したいと言う理由だった。本来なら、それだけの理由で退役など出来ないのだが……。元々、レイナードと結婚したことで貴族の家柄に入ることになり、あちこちから退役を促されていたのだ。(本人はレイナードの近くに居たいから……と、退役せずにいたが、同時に貴族の嗜みも多く学んだそうな)退役する前はレイナードの副官を勤めていた……まさに公私に渡るパートナーだったワケだ。「そうか……では行こうか」レイナードは視線を逸らす。その視線の先には隠れて行軍する部隊が……森を迂回して挟撃を狙う腹だろう。これを斥候の報告から予測していたレイナードは、本隊の指揮をダグラス卿に任せ、相手の策を潰すために小数の部隊を率いて、高台に陣取り、待ち構えていたワケである。「それじゃ……魔導隊!弓隊!放って!!」リーセリアの指示に従い、魔法と矢が飛んでいく。「なっ、奇襲だと!?」「騎馬隊、剣士隊は私に続けえっ!!」「「「「おおおおおおおおおっ!!!」」」」レイナードが先頭に立ち、敵部隊に突っ込んでいく。「なっ!?ウォルフマイヤー卿!!?くっ……迎撃しろぉ!!」レイナード率いる部隊が、挟撃部隊の殲滅を行っている時……本隊も動きを見せていた。*******「まさかここまで来るとはね……」突如、最前線に現れた男……そいつを見てオズワルドは戦慄した。誰かは分からない……だが、これだけは分かる。その男の実力……それはレイナードに近い物があることを……。「リ、リーヴス将軍……」周囲にいるバーンシュタイン兵の声で、気付くことが出来た。以前聞いたことがある……。「私はオスカー・リーヴス……ここまで攻め入った君達に敬意を表して、私自らがお相手しよう」(マジか……インペリアル・ナイト様が直々にご出陣ってか?笑えねぇっての!!)オズワルドは内心で毒づく。バーンシュタイン王国第一近衛騎士団……インペリアル・ナイツ。その実力は兵百人分を超えるモノであると……。ぶっちゃけ、彼一人を相手にするより兵士百人を相手にするほうが楽なのである。今までに彼らが出て来たことは……実は何度もある。時には前線で戦い、時には後方で指揮を取っていた。オズワルドは今まで戦場で合見えたことが無かったので、分からなかったが……ナイツが出て来た場合は、レイナードかダグラスが対処していた。「……私はここから動かない。好きに攻撃してくると良い」「……随分と余裕じゃねぇか?」「ハンディキャップだ」涼しい顔でそう言うオスカー……。明らかに見下した態度に、怒り心頭になるのが常ではあるのだが……。オズワルドは冷静だった。(レイナードの旦那は別動隊を率いてここを離れてるし、ダグラスの旦那は後方から指揮しているから、こっちに来るまでに時間が掛かる……いや、あそこには王妃も居る。王妃の守りの為にも、離れるワケにはいかない……か)今、考えると……レイナードが別動隊を率いて挟撃部隊を抑えに向かった……というのも敵の策なのでは無いか……と、オズワルドは考える。味方を捨て駒にしての足止め……。シャドー・ナイツ……バーンシュタインの闇。奴らならそれくらいはやる……かも知れない。(どちらにしろ最悪だぜ……っ!正直、コイツは俺様の手に負える奴じゃねぇ……)確かにオズワルドは強くなった。今ならば、かつての盗賊団の頭にも勝てるかも知れない……だが、強くなったからこそ、彼我の実力差もよく理解出来る様になった。オズワルドにはオスカーが持つあの大鎌が、さながら死神の鎌の様に見えているだろう。(やれるのか……俺に……?倒すことは出来なくても、旦那が来るまでの足止めくらいなら……)退く……という選択肢は無い。ここで退けば士気に影響が出るだろうし、何よりこのまま見逃してくれるとは思えないからだ。「やるしかねぇ……か」「ふふ……勇ましいね」(言ってくれる……本当なら裸足で逃げ出したいくらいだってのによ)未だに戦いは続いているが、彼らの周囲は別だ。オスカーが放つ、静かな威圧感が周囲の兵達を飲み込む。バーンシュタイン兵は、敵味方共に動けない……。バーンシュタインに属する者なら、インペリアル・ナイツに畏敬の念を抱くのは当然と言える。だからこそ、オスカーを退けることが出来れば……。「行くぜオラァ!!」ドンッ!!思いきり踏み込み、左の手斧で切り掛かる。「甘いよ」横から大鎌が降り懸かる、しかし手抜きをしているからか、オズワルドにも十分対応出来る速さの一撃だ。「甘いのはテメェだぁっ!!」右の手斧でその一撃を防ぎ、そのまま左の手斧で一撃。「フッ……」だが、ヒュンッ!と……素早く鎌を引き戻したことにより、刃がオズワルドの背後に迫る……。「チィッ!?」ガイイィィィン!!咄嗟に左の手斧で迎撃、辛うじて受け止める。「な、なんて力だ……」「よそ見している場合かい?」「なに、ガハァ!?」突如、オスカーは振るった鎌を逆に回し、柄の部分で殴り付けた。軽く弾き飛ばされたオズワルドだが、なんとか踏み止まる。「よく踏み止まったね……」「チィッ……」オズワルドは舌打ちする。追い打ちを受けたら、更なるダメージを受けていただろう。最悪、トドメを刺されていたかもしれない。だが、オスカーは追い打ちをしなかった。それは自身の言葉を曲げることになるからだ。『ここから動かない』そう言ったのだ。オズワルド達を、明らかな格下として見下しての発言ではある。だが、そこには騎士としての誇りがあり、故にそれを曲げることは無い。唯一それを曲げることがあるとすれば、相手の力を認めた時……それがオスカー・リーヴスの騎士としての矜持であった。オズワルドはかなりの熱血漢である。この様な態度を取られれば、プッツンするのも目に見えている。……筈だが、このオズワルドはとことん冷静だった。(落ち着け……俺のやるべきことは何だ……?コイツを倒すことか?……違う。俺のやるべきことは、時間を稼ぐことだ。コイツが俺を甘く見ているなら、それは好都合だ……手を抜いてやがる今なら、俺でも十分対応出来る!)実際、オスカーは自身に枷を強いてはいるが、攻撃自体に手抜きは無い。要は、オズワルドがある程度オスカーに追い縋るくらいの実力を身につけた……ということだ。本人に自覚は無いが……。「手伝うっすよ兄貴!」「兄貴の考えは理解してるつもりだぜ?」「手数が増えりゃあ、多少は違いますぜ?」「……見せてやろう、俺達の力を……」「……お前ら……」ニール、マーク、ビリー、ザムが、それぞれの武器を携えてオズワルドの横に並ぶ。「よぉ、インペリアル・ナイトの兄さんよぉ……俺達も参加させてもらうぜ?まさか卑怯なんて言わないよな?」「構わないさ。丁度物足りないと思ってた所だからね」「その余裕……命取りになるぜっ!!」マークの問いに余裕を持って答えるオスカー。その態度に、武器を構え吠えるビリー。オズワルドは眼を閉じ……ゆっくり開いて一言。「そんじゃあ……行くかぁ!!!」「「「「応っ!!!」」」」五人は一気呵成にインペリアル・ナイトという脅威に挑みかかるのだった。**********一方、挟撃部隊を殲滅したレイナード達は……。「こちらの被害状況は?」「ハッ!重軽傷者は出ましたが、死者はありません!」「では、治療と部隊の再編成を。それが済み次第、本隊と合流する」「ハッ!」兵の一人が敬礼をして、その場を去った。「………………」「どうしたのレイ?」側に控えていたリーセリアが尋ねる。「……どうやら、我々は嵌められたらしいな」レイナードはおもむろに口を開いてそう言った。「……どういうこと?」「この挟撃部隊の規模だ……ハッキリ言って規模が大き過ぎる。どうぞ見付けて下さい……と、言わんばかりに……な」秘密裏に事を運ぶなら、もっと少人数で行軍するべきだ。だが、挟撃部隊の連中は本隊程では無いにしろ、そこそこの規模の軍勢が纏まって進軍して来たのである。迷いの森の様な、広大な森林が広がっているなら話は別だ。あそこには広い道も多数ある。例え大軍を率いても進軍出来よう。だが、この戦場付近の森には、迷いの森の様な広大さは無く、その殆どが獣道で、軍隊が進軍出来る様な道は限られてくる。「……罠だったってこと?」「戦力を二つに別ける算段だったのだろう……迂闊だったな」とは言え、どうしたって戦力を二つに別けなければならなかっただろうことは明白。挟撃部隊をみすみす見逃す……という選択肢は無かったのだし。本来、挟撃部隊を迎撃するだけなら、レイナード自ら赴くことは無かった。だが、事前に挟撃部隊の情報を掴んだレイナードは、その策を逆手に取ろうと考えたのだ。つまり、挟撃部隊を打倒した後……こちらから挟撃を仕掛けてやろう……と。それも見事に空回りする羽目になったワケだが。「それで、どうするの?」「当初の作戦通りにはいくまいよ……部下からの報告では、オスカーが出陣しているとのことだからな……本隊に合流するしかあるまい」インペリアル・ナイトが前線に出るということは、戦場の行方を左右する……と、言っても過言では無い。その戦闘能力、指揮能力の高さもそうだが……1番厄介なのは……その名声であろう。インペリアル・ナイトとは、名実ともに『大陸最強の騎士』の称号であり、それはこの大陸に広く浸透している。所謂、ネームバリューと言う奴で、インペリアル・ナイトと聞くだけで、皆が畏怖してしまう。インペリアル・ナイツに最低限必要な武力……『兵士百人に匹敵する』実力……と、よく表されるが。実際の戦場において、インペリアル・ナイトの価値は『兵士百人分』では無く、『兵士百人分以上』なのだ。それが、同じバーンシュタインの民ならば尚更だ。その言葉の重みを、嫌というほど理解しているだろう。(……間に合ってくれれば良いが)レイナードは若干の焦りを感じながら、部隊の再編成を急ぐのだった。*********「ぐぅ……!!」「よく保つ……その闘志は称賛に値するよ」五人掛かりで挑んだオズワルド達だったが、結果は芳しい物では無かった。オスカーが自身に制限を課していることと、彼らが纏う『蒼天の鎧』が予想以上に高い防御力を発揮した為、致命傷を受けることは無かった。だが、その身体はボロボロで……立っているのがやっとの状態だ。むしろ、全員倒れていないという事実は、オスカーでは無いが称賛に値するだろう。「ケッ……こんなモン、レイナードの旦那の訓練に比べりゃあ、蚊に刺された様なモンなんだよ!」「レイナード……そうか、ウォルフマイヤー卿に教えを請うていたのか……てこずる筈だ」強がりを言うオズワルドを見て、フッ……と、微笑を零すオスカー。一見、余裕ではあるが……オスカー自身、少なくない手傷を負っているのが分かる。「宣言を覆す様で悪いが……そろそろ決めさせて貰おう」オスカーが構えを取る……向こうから攻めてくるつもりだ。それは即ち、オズワルド達を認めたことと同義だが、彼らからすれば堪ったものではない。(トドメを刺すつもりかよ……くそっ!)内心で悪態を吐くオズワルド。今までとは、気迫が違う……必殺の一撃。その一撃は、間違い無くオズワルド達の命を刈り取るだろう。オズワルド達は立ってこそいるが……それだけだ。それ以上は動けない……。所謂、ガス欠状態だ。オズワルドは多少動けるが、それでもオスカーの全力を凌げる力は残っていない。他の四人は動くことすらままならない。それでも立っているのは、ハッキリ言って意地でしかない。その姿に、周囲で見守っていた兵士にも『何か』を伝染させる。踏ん切りをつけるための何か……。それが己の中で、ナイツに対する畏怖の念と責めぎあっていた。「最後に――君達の名前を教えてくれないか?」「――オズワルドだ」「ニールっす……」「マーク……」「ビリーだ……」「……ザム……」馬鹿正直に答えてやる義理は無い。だが、男達は答えた。それは一介の戦士として……一人の漢(おとこ)として、目の前の男の想いに答えてやりたかったのだ。そう、剣を交えたからこそ分かる。オスカーは自身に枷を強いてはいたが、手抜きはしていなかったのだ。全力を出したワケではない……だが、本気は出していたのだ……と。「そうか……その名前、胸に刻んでおこう」「いらねぇよ……俺様達は負けねぇ……最後の最後まで諦めねぇ!!余裕こいてると痛い目に合うぜ!!」オズワルドは迎撃の構えを取り、吠えた……。「ならば……雌雄を決しよう!」オスカーが踏み込んでくる。その速さは先程までのそれとは違う、高速の踏み込み……。(これは、避けきれねぇ……だが、こっちも只でやられるつもりはねぇっ!!)必殺の鎌が襲い掛かり、それを最後の力で迎撃しようとした時……。ズウゥゥゥン!!「「!?」」それは降って来た。「……剣!?」そう、それは剣だった。装飾が美しく、一見すると祭儀用の剣だが……その刃は鋭く、実用性の高い剣であることが分かる。そしてフワッと着地する一人の男……。「……何者だ?」「なぁに……通りすがりの……」オスカーの問いに答えながら、地に刺さった剣を引き抜き……。「オリ主様だ!覚えておけっ!!」突き付けたのは青髪の青年。「テメェは……!!?」「また会ったな盗っ人……いや、もう違うのか」そう言って、青年は剣を構える。更に、鞘からもう一本の剣を抜き放った。この剣もまた、力強い雰囲気で、間違いなく名剣なのだろう。「エクセレントでモダンなオリ主こと、リヒター……及ばずながら助太刀するぜ!!」「……よく分からないけど、油断出来ない相手……という所か」青年……リヒターとオスカーが対峙する。互いに構えを取りながら、間合いを計る様にじわり……じわりと動く。「…………」「…………」一歩……また一歩と近付いて行く。そして………互いの攻撃範囲に……。「「!!」」入った―――。ガアアァァァァァァァンッ!!!!オスカーの高速の振り下ろしが。リヒターの疾風の様な薙ぎ払いが。激突した。「くぅ!!?」「チィッ!!?」互いの一撃が合わさり、衝撃波を生み……互いの手に痺れが走った。だが、退かない。「ハッ!!」「ゼエェイ!!」ガガンッ!!ガガガンっ!!!ガガガガガガガガガガアアァァァンッ!!!!!互いにその場を退かない……歩みを止めての連撃。そのどれもが一撃必殺である。最初の激突で互いの力量を察した……故に全力。出し惜しみは己が命を捨てることと同義だと。「ぐっ!?「チィッ!?」互いの攻撃による衝撃で、弾き飛ばされる両者。「フフフ……まさか此処までの使い手に出会えるとはね……」「フッ……誤解しない様に言っておくが、俺はまだ10%の力しか出していない……更に、オリ主たる俺はまだ四つの戦闘モードを使えるのだ」微笑を崩さないオスカーに対して、余裕処か……ワケの分からないことを得意げにほざいているリヒター。……ちなみに、リヒター的には幾分余裕があるのは事実だが、それは極めて全力全開に近く、10%の力とか、四つの戦闘モードとか……ぶっちゃけハッタリ……というか、その場のノリである。「そうかい……ならば、見せて貰おうか……その力を!!」「お前に見せるには過ぎた力でね……決して勢いとかノリとかじゃないからそのつもりでっ!!」二人は再びぶつかり合った。その激突は10合、20合……と、続いた。だが、80合に届くかという辺りから徐々に均衡が崩れて来た。「くぅ……」「どうやらこれまでらしいな……フッ、やっぱり俺最強……」剣を突き付けるはリヒター。そして、突き付けられるは……膝をついたオスカー。二人の戦いは全くの互角だった。だが、オスカーはオズワルド達と戦った時のダメージ、そして疲労を蓄積していたのだ。それらと、リヒターとの戦闘による疲労が合わさり、僅かな隙が生じた際に渾身のリヒターの一撃。遂にオスカーは膝を屈したのだった。「その傷ではまともに動けないだろう……大人しく降伏しろ」「……フッ、それは出来ないな……」フラフラと立ち上がるオスカー……。「我が主の名に掛けて……屈することは出来ない……いや、出来るワケがない」「その主が間違ってたとしても……か?ハッキリ言うぞ?お前は間違っている!主の非道に眼を伏せ、自分をごまかしているに過ぎない!!そんなことも分からないのかっ!?」「君に……何が分かる?部外者でしかない君に、何が分かると言うんだ?」説教じみたリヒターの言葉に、眼を細めて殺気を飛ばすオスカー。その気迫に、思わず怯んでしまう。「……私はインペリアル・ナイトだ。故に、私が折れるワケにはいかない……」「……やむを得ないか。原作は既に変わってるんだ……ワザワザ気を使う必要も無いか……遺憾だが、俺の経験値になってもらうぜっ」双剣を構え、オスカーに切り掛かるリヒター。それを迎撃しようと構えるオスカー……。立ち位置こそ違うが……まるで、先のオズワルド達との戦いの焼き直しの様な光景……。「危ねぇっ!!!」「「!!」」そして、横槍が入るところまで再現された……。ドゴォォォォォンッ!!オスカーとリヒターの間に、爆炎が舞い上がった。咄嗟にリヒターは飛び退いた。「な、何だ!!?」周りがざわざわと騒ぐ中……爆炎が晴れていく。その中心には……男が居た。「どうしたオスカー……お前らしくも無い」長身で白い短髪……真紅の瞳は鋭くリヒターを睨み付けつつ、背に庇うオスカーに声を掛ける。「アーネスト……今は休暇中の筈では……?」「それがどうした?俺の休暇をどう使おうと、俺の勝手だろう」男……アーネスト・ライエルはそう答え、オスカーにキュアを掛ける。「それよりさっさと引き上げたらどうだ?お前に足を引っ張られては敵わんからな……」「……礼を言っておくよ」「何の礼だ?俺はお前を助けに来たワケじゃないぞ」「フフッ……そういうことにしておくよ」回復魔法により、ある程度身体の動きにキレが戻ったオスカーは後方に下がった。「リーヴス様!」「……残念ながら、今回は我々の敗北の様だ」オスカーを気遣う彼の副官に、オスカーは宣言する。オズワルド達の闘志が伝染したのか、ダグラス卿の指揮の賜物か、乱入者リヒターがインペリアル・ナイトを退けたからなのか……或いはその全てが要因なのかも知れない。革命軍の勢いが増していったのだ。正規軍は押され、敗色濃厚なのは否めない状況に追い込まれつつあった。シャドー・ナイツの策により、分断されたレイナードの部隊もこちらに向かっているという。(ここは引かなければ、被害を増すだけ……)自身もまともな戦闘は行えず、勢い付いた革命軍をひっくり返せる策も無い……。「負傷者と小数の護衛を選別、編成してくれ。残った者はライエル将軍の指示に従うように」「ハッ!了解しました!!」敬礼で返し、その場を後にする副官。「そういう訳だ……この先に進みたくば、私を倒してから行くのだな」アーネストは双剣を抜き放ち、革命軍を見据えた。静寂にして裂帛の気迫は、オスカーのそれとは別物である。必滅の意思。その殺気はその場に居る物を震え上がらせた……。そう……ただ、一人を除いて……。「まさか、そこでこう来るとはなぁ……いやはや、妙な所で原作と被るというか……これも運命なのかねぇ……」「何をごちゃごちゃ言っている」「何、たいしたことじゃないさ……せっかく出て来たのに、俺に倒されるんだ。そんなお前が不憫で不憫で」「出来るのか?貴様に」アーネストとリヒターは構えを取る。「それはこっちの台詞だ。最強の武器を手にした最強の俺……もはや俺を上回る敵など存在しない!」「……手負いのオスカーを退けた程度で……調子に乗らぬことだ」「ぬかせっ!!」こうして、リヒターの第二ラウンドは幕を開けたのだった。**********一方、オズワルド達は……。「兄貴、どうします?」回復魔法で治癒されたオズワルド達……しかし、目の前で繰り広げられる高次元の戦いに、手も足も出せない状態だった。「……どうするもこうするも、俺らに出来ることなんざ決まってる。俺達は他の敵をぶっ飛ばす。……悔しいが、俺らには手は出せねぇさ」「……信用出来るのか……?」「ザムの言う通りっすよ!!アイツは前に俺たちに襲い掛かって来た奴っすよ!?」ザムとニールは言う。リヒターは信用出来ないと……。まぁ、出会い頭に襲われて殺されそうになり、あまつさえ天空から降って来て、ワケの分からないことを宣う謎の人物を、信じろという方が難しいだろう。「信用出来る出来ないじゃねぇんだよ……良いか?俺らに手出し出来ない以上、この場は奴に任せるしかない。かと言って、俺らだけ何もしないワケに行くかよ」オズワルドは言う。観戦している暇があったら、戦線を押し切る努力をすべきだと。現に、革命軍の兵達は……徐々に敵を押し戻している。戦っているのだ。「……そうだな。兄貴の言う通り、俺らだけ何もしないワケにもいかねぇよな……」「だな……決闘をただ観戦してました……なんて、シオンの頭に顔向け出来ねぇやな」マークとビリーは頷いて、武器を構え直した。ニールとザムも、納得したのか、視線を正規軍の方に向けた。こうして、男達は再び戦場に向かって行った……。*******「くっ……」負傷者を纏めたオスカーは、護衛を率いて撤退の路を駆けていた。道中、リヒターの言葉が何度も脳裏を過ぎる。『お前は間違っている!主の非道に眼を伏せ、自分をごまかしているに過ぎない!!そんなことも分からないのかっ!?』(分かっているさ……分かってはいるんだ……しかし僕は主を……友を裏切るワケにはいかない。だが、リシャール様が変わってしまったのは事実……ならば、僕が取らなければならない道は……)一方、リヒターとアーネストは熾烈なまでの戦いを繰り広げていた。「喰らえ!!『アビス』!!」深淵に誘うが如き、紫のエネルギーを乗せた絶対なる一撃。それを振り下ろした。大地を大きくえぐる、強烈な一撃。当たれば怪我では済まない一撃……だが。ビュンッ!!「!?分身!?」「死ね」『分身』により攻撃を避け、その隙に背後を取って神速の剣閃を振るうアーネスト。「死ぬかよっ!!」それを辛うじて見切り、受け流すリヒター。一進一退の攻防……若干アーネストが押しているが。「……ここまでだな」突然、アーネストが後方に飛びのき、剣を納刀した。「逃げるのか!!」「次に戦場で見える時は容赦はせん……さらばだ」そう言って引き上げて行くアーネスト。よくよく見ると彼が殿りらしく、正規軍は撤退した様だ。「フッ……俺に恐れを抱いて逃げるか。参ったね……この俺の素敵オーラは」ワケの分からないことを宣うリヒター。そして勝利に湧く兵士達……そう、この戦は革命軍が勝利したのだ。「さて、では俺は行くかな」「待て!……何で俺達を助けた?」勝鬨の声が響く中、その場を去ろうとするリヒター。そこに立ち塞がるのはオズワルド一行。「それは……俺がオリ主だからさっ!!(……まぁ、見る限りじゃ悪党には見えなかったし、不甲斐無いから助太刀したんだけどネ)」何やらワケの分からない台詞を吐くリヒター。無論、オズワルド達にそれが理解出来るワケも無く……。「……よく分からん」「……その節は悪かったな。昔はどうか知らないが、今のお前は悪党なんかじゃない……その礼じゃないが、今後お前らに襲い掛かったりしない……俺には倒すべき相手がいるしな」「……行くのか?」「まぁ、な。フラグ的にもお前さん達と一緒に居る方が得策なんだろうが……俺にも色々とやることがあってね。あのちょび髭親父に伝えといてくれ。いずれ、個人的にケリを着けに行くってな」剣を鞘に納めたリヒターは、オズワルドに言伝を頼むと、その場を走り去って行った。「あっ、ちょっ!?……行っちまったっすね」「そうだな……まぁ、構わねぇさ。言ってることは意味不明だが……悪い奴ではなさそうだしな」呆然と呟くニールに、苦笑いを浮かべながら言うのはオズワルド。とりあえず、ちょび髭親父ことレイナードに、言伝されたことを伝えといてやろう……。そんなことを考えるオズワルドであった……。その後、レイナードの部隊と合流したダグラスは、部隊の再編を行い……この場所に本営を置いた。少なくない死傷者は出たが……この戦に勝利したという事実は大きい。そして、しばらくした後にローランディアのベルナード将軍率いる部隊が合流……革命軍の規模は更に大きな物になり、勢いを増すことになるが……それはもう少し先の話である。*********おまけ1「所で……あの野郎が言ってた『オリシュ』って何なんだ?」「「「「……さあ?」」」」おまけ2「……………」「?どうしたんです、ジュリアンさん?」「これは陛下……いえ、何と言うか……虚しいというか悲しいというか……何故か急にそんな感覚に陥ってしまって」「?どういうことでしょう?」「強いて言うならそう……ある筈の出番が無くなった……そんな感覚と申しましょうか……作者の嘘つき、とか、やっぱり私のこと嫌いだろう?とか……うん、私は何を言っているのだろう……」「……きっと、ジュリアンさんは疲れているんですよ。今日はゆっくり休んで、鋭気を養って下さい。大丈夫、いつも頑張ってるジュリアンさんなんです!そんなジュリアンさんが報われないことは無いですよ!」「お気遣い、痛み入ります陛下……」その日のジュリアンの背中は、何処か哀愁が漂っていた……と、後にエリオットが語ったとか語らなかったとか。*********A・TO・GA・KI・!?ハイ、どうもお久しぶりでございます。作者の神仁です。当初の予定は、レイナード側の描写もそこそこに、ジュリアンがシオンとの出会いをエリオットに語る……というシーンを予定していたのに、いつの間にかオズワルドが主役……かと思いきや、まさかのリヒター登場。……あるぇ〜?こんな筈では……?とりあえず、ジュリアンにはゴメンと言っておく。いや、ジュリアンは好きなキャラなのですが…………本当……世の中、こんな筈じゃなかったことばっかりだよ!……すいません偏に自分の力不足のせいですゴメンなさい。m(__)mジュリアンの活躍はもう少し先になりそうです。