――ローランディア王城、謁見の間――任務を成し遂げた俺達は、早速アルカディウス王に報告を行った。援軍を護衛し…妨害はあったが無事、先に進ませたこと。そして……ゲヴェルのこと。「実はあのゲヴェルですが、昔のグローシアンが造りだした物らしいのです」「何だと!?」ルイセの報告を聞き、驚愕を現にするアルカディウス王。……実はフェザリアンが造った生物兵器をちょっと改良しただけ……なんだけどなぁ……これは、今話しても仕方ないことか?誰が造ったモノであれ……今現在、人類の脅威になっていることに違いは無いワケだし。「どうやら昔、グローシアンの支配に人々が反乱を起こしたときに、数で劣るグローシアンが反抗勢力を抹殺するために作り上げた兵器らしいのです」「しかし…グローシアンの中にも人々に味方をする者がいた。彼らが我々の伝承に残る、ゲヴェルと戦った者たちでしょう」「そのゲヴェルが、今この世界を脅かしているというのか……」ウォレスとカーマインの報告に、事態の深刻さを改めて実感する王……。その後も、ゲヴェルはグローシアンに弱い……という弱点が判明したことを伝えた。俺やルイセが居るから、その分ゲヴェルに対しては優位に立てるということも。「これは過去の文献をもう一度洗い直してみる必要がありそうですね……特に、人々に味方したグローシアン達がどのようにゲヴェルを倒したのか、これだけは何としても調べなければ」「では、そちらはお前に任せるぞ、サンドラ」ゲヴェルに関して、調べ直す必要性を訴えるサンドラ……そして調べることに関して王より一任された……。内容が分かれば俺達にも報告してくれるそうだが……俺は一応、真実を知っている。それとなく、教えておくべきか……。アルカディウス王は、今後も頑張ってくれと、労いの言葉と共に休暇を与えてくれた。与えられた休暇は三日だ。最初の休暇先を告げて、俺達は帰路についた。帰宅後、夕食を食べて就寝……。色々あったせいか、案外早く寝付けた。さて、最初の休暇先は……。*********休暇一日目・王都ローザリア「時間になったら集合ね?」そうティピが言い、皆それぞれに散っていく…………と、思ったら、カーマインとルイセが残っていた。ルイセがカーマインに何か言っていた。聞こえた内容が……。「お兄ちゃん、今日が何の日かおぼえてる?」……だった。ルイセが去った後、しばし考えていたカーマインだったが……ふと、何かに気付いたかの様にルイセを追い掛けて行った……。む、そういえばそろそろルイセの誕生日……だったよな?ふむ……あのカーマインのことだから、プレゼントを用意して渡すだろう。それだけでも、お兄ちゃんLOVE(本人自覚無し)のルイセは凄く喜ぶだろうが……。……やはり、俺らからも何かサプライズをプレゼントしてやりたいよな……。……よし、決めた。仲間内の、年に一度のイベントだ……盛大に祝ってやろう!名付けて、『ルイセちゃんお誕生日おめでとう大作戦!!』……何の捻りも無いな。まずはその為に……。**********「ゼノス〜〜っ!!」「ん?シオン……どうしたんだ?」俺はゼノスに事情を説明する……。「と、言うワケなんだが」「成る程な……よし、分かった!俺で良ければ力を貸すぜ?」よし、調理師ゲットォ!ゼノスに任せれば間違いはない。さて、次は……。*********「カレーーンっ!」「シオンさん……ど、どうしたんですか?」「実はな……?」俺はカレンに事情を説明した……。「というワケでな?」「そうですか……ルイセちゃんが。分かりました、私もお手伝いします♪」「サンキューな♪」「でも……てっきり、休暇を一緒に過ごそうってお誘いかと……ちょっぴり残念です」……何か、以前にもそんなことを言われた様な……あの時はリビエラだったな。「あ〜〜……、まぁ、その、何だ……次の休暇で良ければ付き合うケド……駄目か?」俺は頬をコリコリと掻きながら言う。少し照れ臭いな………。もっと大胆なことをしているだろう……って?……こういうのはまた、違った恥ずかしさなんだよ。「!いえ、駄目だなんて……嬉しいです。それじゃあ…約束ですよ?」赤くなりながらハニかむカレン……やっべぇ、めがっさお持ち帰りしたいにょろ!?って、落ち着け俺……素数だ……素ryカレンにはゼノスを手伝ってもらうことにした。カレンも結構料理が上手い。あの兄にしてこの妹あり…だ。さて、次は………。**********お……アレはカーマインとティピ……それにルイセ。何やら店の前にいる……。どうやらカーマインがルイセに誕生日おめでとう……と、言ったらしい。ルイセは嬉しそうにありがとう、と言っていた。ティピは何かプレゼントをしたら?と、言ったが…ルイセは遠慮した。「お兄ちゃんにおめでとうって、言ってもらっただけで嬉しいから」……と。け、健気や……健気な娘っ子やぁ……オッサン、涙がちょちょぎれそうやで……。まぁ、本当にそれだけでも嬉しいんだろうが……そこはお気遣いの紳士カーマイン……。ルイセが欲しがっていたと思われるブローチを購入した模様……っと、観察しとる場合で無くて。「おーいカーマイン!ティピ!」「む…?シオン……?」「ど〜したのシオンさん?」俺は二人に事情を説明した……。「……と、言うワケなんだ」「ルイセちゃんの誕生日パーティーかぁ♪また、シオンさんはやることがニクいわねぇ♪」「……どこでそんな言葉を覚えてくるんだ……?と、それは良いとして……良いのか?ワザワザ……」「いつも頑張ってる教え子の、年に一度のめでたい日だ……先生として祝ってやりたいじゃんかよ?」「そうか……ルイセもきっと喜ぶよ。ありがとう……」フッ……と、自然な笑みを浮かべて礼を言うカーマイン。「まぁ、カーマインがプレゼントするだけでも、ルイセは感動するだろうケドな?」「それは大袈裟じゃないか……?」そんなこと無いだろう?とは、思うが……敢えて口には出さない。カーマインとティピには簡単な準備を頼んだ……ついでに、プレゼント用のブローチを渡した後、ルイセを誕生日会場へエスコートするというサプライズをお願いする。誕生日会場って言っても、フォルスマイヤー家の居間なんだが……。その方が驚きも倍だろう?さて、次は………。**********こうして、着々とメンバーに協力を頼んでいく俺……。皆、結構乗り気らしく、快く引き受けてくれた。ラルフとアリオストにはパーティークラッカーの調達や、細々とした準備を……。「ふむ……それくらいなら、作れないことはないかな」「そうですね……この辺に売って無いのなら作るしかないですね……僕も手伝います」どうやら自作するらしい……少し不安だが、この二人なら大丈夫!……と、思っておこう。ウォレス、ミーシャ、リビエラは簡単な手伝い。「誕生日か……まぁ、年に一度のことだ。祝ってやらなきゃな」「よ〜し、アタシ、頑張るぞぉ!!」「私に出来ることはあまり多くないケド……うん、盛大にお祝いしてあげましょう!」後で聞いたが、三人は必要な物を買い出しに行ったりしたとか。……それが1番無難だよなぁ。ウォレスは目が不自由だから、細かい作業を任せるのは気が引ける……もっとも、任せたらキッチリこなしそうだな……ウォレスの場合。目が不自由だろうが、感覚でどうにかしちまいそうだ……。ミーシャは……言わずもがな。正直、1番の不安要素です。リビエラは細かい作業も出来るので、買い出し以外にも狩り出されそうだな。まぁ、料理の手伝いも何とかこなせるしな……。さて、皆が着々と……そしてコッソリと準備を進めている中……俺は街中で発見してしまった……。淡い色素の長い金髪……それを風に靡かせながら歩くその人物……。ラフな格好をしているが、見間違える筈が無い。「……何をしているんですか、レティシア姫?」「!シオン様……こんなところで出会うなんて……」そう、レティシア姫だ……何故に姫がここに?「私……お城での生活がその……ヒマになってしまって……城内から抜け出して来ちゃいました♪」「抜け出して来ちゃいました……って、どうやって?」詳しく話を聞くと……何でも城壁の一部が崩れて、穴が空いており……そこから抜け出して来たとか……。原作でエリオットがやっていたことですね本当にありがryって、そうでなく……。「姫……城の人達が心配しているんじゃないですか?」心配どころの話じゃないだろう……。レティシアは一度、捕虜にされているし、王都にシャドー・ナイトが侵入していたこともあった……ローランディアのお膝元とは言え、安心は出来ないのだ。「それは大丈夫です。侍女には話を通しておきましたから……夕方までには帰ると」成程……共犯者がいるワケね……。「……しかし、王に知れたら一大事だと思いますが?」あの王様のことだ……レティシアが城から居なくなっていることを知れば、心配で倒れてしまうかも知れん……まぁ、最終的には許してしまいそうだが……。「ハイ……ですから、ここでのことはご内密に……」まあ……某暴れん坊将軍も視察と称して、め組に顔を出していたりするからな……。貴族や王族ってのは『しがらみ』みたいなモノがあるから、民の暮らしを身近で知りたいという気持ちもあるのかも知れない……。本当に暇だっただけ……という可能性もあるが。タカビーな連中が多い貴族社会において、レティシアやアルカディウス王の存在は一服の清涼剤とも言える。本来、レティシアは中々に聡明だ。故に、自身が出歩くことで、いらぬ心配を掛けることを知っている。とは言え、外の世界を知ったレティシアに、籠の中の鳥で居続けろというのも、無理な注文というモノ……。まだ、女の子なんだし……当たり前だよな。俺もそこまでガッチリ言うつもりは無いしなぁ……。「……分かりました。このことは私の胸の内にしまっておきましょう」「ありがとうございます!……それと、敬語では無くもっと気軽に呼んで戴けると……その、せっかく変装した意味もありませんし……」変装……と言う程大層な物では無いと思うが……。髪をポニーテールにし、村娘が着ている様なデザインの服を着ている……レティシア。もっとも、見る人が見れば分かるが、服の素材は上等な物が使われているし……何より、レティシアの顔を知らない人は王都にはあまり居ないんでは無いかね……?まぁ、気休めにはなるか……。「了解……じゃあ、あまり羽目を外し過ぎないようにな?」「ハイ!……ところで、貴方は何をしていたのですか……?」俺はレティシアに事情を説明する。「そうだったのですか……」「あくまで、ルイセを驚かせる為にこっそりと……だけどな?」この計画は水面下で、気付かれない様に動いているのだよ…………ミーシャ辺りがポカをしそうで非常に不安なんだが。「誕生日パーティー……とは言っても、身内でやる位のささやかなモノだけどな」「……せっかくのルイセちゃんの誕生日ですし、私も参加したいです……」「一応、言っておくが……やるのは夕方以降だぞ?」友達の誕生日を祝いたいって気持ちは分からないでは無いが……流石にそれはマズいだろ?「とりあえずお父様に聞いてみます……」なんか……許可出しそうで恐いな……あの王様は……。その後、もう少し街を見て回ると言いつつ、名残惜しそうな目で見てきたレティシアと別れた俺は、本日1番のサプライズの下へ向かう。*********「あら、いらっしゃいシオンさん……今日はどんなご用でしょう?」そう言って俺を出迎えてくれたのは、サンドラである。嬉しそうに出迎えてくれて……俺の方が嬉しくなっちまったよ。要はサンドラの研究室に来たワケだが……。「まぁ、幾つか用件はあるんだけど………ゲヴェルの調査は順調か……って、昨日の今日じゃ成果は無いか」「ええ……幾つか文献を調べてはいるのですが……どれも似た様な物ばかりで、めぼしい情報はまだ何も……」それも仕方ないことだとは思うがな……ゲヴェルの存在は、言うなればグローシアンの機密に近い。だからグローシアン遺跡等で情報を保管されているのだ……グローシアン以外の者に見られない様に……。とは言え、支配階級のグローシアンが存在しない今となっては、形骸化された機密……とも言えるな。「今回、ここに来たのはその件も含めての話でさ……俺が以前、とある遺跡で得た情報が役に立つかな……と、思ってな」「シオンさんが得た情報……ですか?」「ああ……古しえのグローシアンが、ゲヴェルを倒した……その方法をな」「!?……詳しく聞かせて下さい」「勿論……ただ、最初に断っておくけど……倒したという表現は使ったが……正確には倒したワケでは無いからな?」「?どういうことですか?」俺はサンドラに詳しく説明する……。かつて、奴隷階級の人間に味方をしたグローシアン達がゲヴェルを降した方法……。自らの命を使い、グローシュの結晶と化してゲヴェルを封印する……という手段を……。「そんな方法…だったのですか……」「一体のゲヴェルを封印するのに、何人のグローシアンが犠牲になったのか……その結果が、あの水晶鉱山だ」水晶鉱山はあのデカさだ……並のグローシアンでは一人や二人じゃあ効かない筈だ。1番強力な皆既日食グローシアンならば、一人でもお釣りが来たかも知れないが……。当時、最強と呼ばれたグローシアンは二人居たが……ゲヴェルの基となった原住生物『ゲーヴ』……それを従える王……その魂を二つにし、それぞれの肉体に封印し、狂ってしまい、人間を虐げる側に回ったのだから無理もなかろう。一人は、ゲーヴの王の魂と完全に融合してしまい狂った……一人はゲーヴの王に精神を蝕まれ、肉体を奪われるのを良しとせず、自らを封印した。……話しが逸れたな。「……それしか、方法が無いのですか……?」サンドラが少し愕然としている……。まぁ、グローシアンを犠牲にしても封印しか出来ないのか……とか、それがルイセや俺だったら……なんて想像をしたのかも知れないが……。「いや、必ずしもそうとは言えない。その当時、人間側に味方をしたグローシアンの中に、強力な魔法を使えたグローシアンが居なかったのかも知れないし……単純にゲヴェルを倒せる奴が居なかったのかも知れない」当時で対抗出来そうな人間は……俺が知る限りでは反乱軍を率いていたベルガーさん位だ。当時のベルガーさんがどのくらい強いかは知らないが……少なくとも、今よりは強かったのだろう。だが、そのベルガーさんも支配階級グローシアンに捕まって、新型ゲヴェル開発のための研究材料にされたりしており、最終的には脱走……持ち出したパワーストーンの力でこの時代へ……。結局、命を使って封印するしか手段は残されていなかった……というのが、事実なんでないかな……と、推測しているわけなんだが。「幸か不幸か……その封印する手段の詳細を俺は知らないし、使えない……だから、心配すんなよ」「はい……」「まぁ、そんな封印術を使わなくとも……ゲヴェルは俺が……俺達がケチョンケチョンにしてやるからさ?」わざとらしくウインクし、最高のスマイルを贈る。それを見たサンドラは……。「ふふふ……貴方に言われると、納得してしまうから――不思議ですね」そう言って微笑んだ……うむ、綺麗な微笑みだ……何と言うか、違ったベクトルでお持ち帰りしたい。それはともかく……実際、ゲヴェルをケチョンケチョンにするのは訳無い。例え幼年期の頃の俺でも、ゲヴェルを打倒するのは容易かった。この身体は、無限のチートで出来ている……。冗談はさておき……。それをしなかったのは、ラルフを死なせたくなかったからに外ならない。結局は俺のエゴだ。ダチを優先させ、救える命を救おうとしなかった……。俺がゲヴェルを早い内に始末していれば、かなりの人間の命が助かっただろう……その場合、ラルフやカーマイン達がその生涯を終えていたのだろうが……。二者択一。9を救い、1を捨てるか……。1を救い、9を捨てるか……。戦闘能力こそチートじみているが……俺は決して十全では無い。全てを救うことは出来ない……。「まぁ、任せておけって!」俺は仲間を優先することを選択した……。そのことに後悔は無い……。だから、俺は忘れない……俺が死なせてしまった者を、救えなかった者を……。それを背負い続けて生きる……それが俺に課せられた『業』なのだろうから。……っと、それは一旦置いておいて……。「それより、サンドラ……今日は何の日か覚えているか?」俺は敢えて『覚えているか?』という表現をした。俺が何のことを言っているか、理解してくれると思ってな。「今日……ですか?……そういえば、今日はルイセの誕生日でしたね。けれど、何故貴方がそのことを?」「実はな……?」俺はサンドラへ事情を詳細に説明した……。「……と、言うわけだ」「そうですか……ルイセの誕生日会を」「今、皆で総力をあげて準備中……無論、ルイセにバレない様にこっそりとな?そんなワケで、サンドラも誕生日会に出てあげられないかな?」「勿論、参加させて戴きます。急ぎの用はゲヴェルの調査ですが……知りたいことはシオンさんに教えて貰いましたし、一日くらい空けても問題ないでしょう」よしっ!サンドラ参加確定!!尊敬する母親に祝って貰えれば、ルイセの喜びも一塩だろう。サンドラは料理担当に着いて貰った。やはり、慣れ親しんだ母親の味……というのはあるだろう?聞くと、カーマイン達が幼い頃は、サンドラが料理を作っていたらしい。宮廷魔術師なんて仕事をしながらも、そういうことをしていたサンドラは偉いと思う。「あの子たちが、自分から色々と手伝う様になって……全部自分たちで出来る様になった時……『母さんは仕事を頑張って!もう俺達だけでも出来るから!』……って、言われた時には――泣きそうになりましたけどね」恐らく、疲れた顔を見られたんでしょうね……とは、サンドラの談。それ以降はカーマイン達のお言葉に甘えていたらしい。さて、これで役者は揃った……後は舞台の幕が上がるのを待つだけだ。って、俺も色々と手伝うからね?**********今日、わたしは誕生日を迎えた……。これでわたしも15歳になったんだよね。お兄ちゃんはわたしの誕生日を覚えてくれていたらしく、おめでとうって言ってくれた……。凄く嬉しかった……お兄ちゃんがわたしの誕生日を覚えてくれていたのが……おめでとうって言ってくれたのが……本当に嬉しかった。それだけで、わたしは満足♪わたしは自分の部屋でほくそ笑んでいた……。コンコン。「は〜〜い」扉をノックされたので、返事をしてから扉をゆっくり開ける……すると。「お兄ちゃん、ティピ……どうしたの?」そこには、お兄ちゃんとティピが居て……。「ルイセ……改めて誕生日おめでとう」それさっきも聞いたよ?そう言う前に、お兄ちゃんはわたしの前に包装された小さな箱を差し出した……コレって……。「プレゼント……受け取ってくれるよな?」そう言って、少しはにかんだ表情をするお兄ちゃん……。そんな……わたし、お兄ちゃんにおめでとうって言って貰えただけで嬉しいんだよ……?プレゼントまでされたら……わたし……。「ね、ね、開けてみてよルイセちゃん♪」「う、うん……」ティピに急かされたわたしは、包装を解いて箱を開けた……。「コレ……」それは、わたしがさっき道具屋さんで見ていたブローチだった……。装飾が可愛くて、気になっていた物……。「……ルイセ、そのブローチを見ていたみたいだったからな……気になってるんじゃないか……ってな?」……ッ!胸の奥がキュウッとなったわたしは、部屋の奥へ走って行ってしまう……お兄ちゃんとティピは慌てて後を追って来た。「どうしたのルイセちゃん?プレゼント、気に入らなかった?」ティピの言葉に、わたしは首を横に振った……気に入らないワケない……。そうじゃなくて……。「……嬉しかったから。凄く……嬉しかったから……」わたしは涙が零れそうになる……お兄ちゃんが誕生日を覚えてて、おめでとうと言ってくれるだけでも嬉しかったのに、こうしてプレゼントも買ってくれた……わたしが気になっていたブローチを……。嬉し過ぎて……プレゼントもそうだけど、お兄ちゃんが、わたしを見ていてくれたことが……嬉しくて……。「ルイセちゃん、顔真っ赤だよ?」「だって……お兄ちゃんの気持ちが……嬉しかったんだもん……」わたしは零れそうな涙を拭いながらティピに言う。こんなに想われてる……それがとても……とっても――幸せなんだもん!「……ありがとうお兄ちゃん、このブローチ……大切にするね♪」わたしはまだ顔が赤いと思うけど……お兄ちゃんも少し赤くなってる……。「そうか……まぁ、喜んでくれて、俺も嬉しい……プレゼントを買った甲斐があるってモンだ」そう言って微笑んでくれるお兄ちゃん……。……うん、今日は最高の誕生日だよ♪そのあと……時間になったので、集合場所に向かうわたしたち……その途中。「?何してたのミーシャ?」「エ゙ッ゙…………ル、ルイセちゃん?」居間から出て来たミーシャに、疑問に思ったことを聞いてみた。「いや、何でもないよ?誰もルイセちゃんの」「だらっしゃあぁ!!!」ドゴッ!!「みぎゃ!?」「……ティピ?」「な、何でもない何でもない!気にしないで!」ティピがミーシャを蹴り飛ばした……これはいつものことなんだけど……。「……何かわたしに隠してる?」「そそ、そんなこと無いってばぁ!…ねっ、ミーシャ!?」「ふ……ふぁい……」ミーシャは鼻を摩りながら、何とかティピに答える。……あやしい。「……何やってるんだお前らは……皆が待ってるんだから……早く行くぞ?」「あ、うん……そうだね」お兄ちゃんが呆れたように言ってきたので、わたしはそれに答えた。そうだよね…みんなもう集まってるよね?わたしたちは再び待ち合わせ場所に向かった。ミーシャのことは気になったけど、ミーシャのことだから悪いことはしてない筈だもんね。**********その後、俺たちは文官に次の休暇先を指定……帰路に着く。だが、その前に俺にはやることがある。「ルイセ」「?どうしたの、お兄ちゃん?」「少し、歩かないか……?話したいことがあるし……」俺はルイセに手を差し出す。……俺はルイセのエスコート役を担当している。故に、皆が準備を終えるまでの時間稼ぎもしなければならない。ちなみにティピを始め、皆は先に家へ戻って仕上げに入っている。「……二人きりじゃないと、できないお話……?」「いや、そういうワケじゃないが……駄目か?」俺がそう答えると、ルイセはふるふると首を横に振った。「駄目じゃないよ……わたしもお兄ちゃんとお話、したいから……」そう言って、怖ず怖ずと俺の手を握ってくれた。……小さい手だ。だけど、暖かくて安心する……昔と変わらないな。こうして、俺たちは遠回りをして帰ることに……。「それで…どんなお話なの、お兄ちゃん?」「ん?あ〜……その、だな……」上手く誘い出せたものの、よくよく考えたら会話のことを考えていなかった……。「……昔も手を繋いで……よく一緒に遊んだよね」「……ん、そうだな」ルイセが話を振ってくれたから、俺はそれに乗っかることにした。「けど、お兄ちゃんは男の子たちと遊ぶようになって……わたしも一緒に遊びたかったケド、みんなは混ぜてくれなくて……」「そんなこともあったな……」ルイセは構ってやらないと、直ぐに泣く奴だったからなぁ……。あの時もビィビィ泣いてたっけな……。実際、男連中はルイセを仲間に入れるのを嫌がっていたワケじゃない。……ルイセは内気だったからな、上手く気持ちを表現出来なかったんだろうな。「遊んでくれなくて……寂しくて泣いてたら、お兄ちゃんが来て『ルイセは泣き虫だなぁ……』そう言って……」「……昔の話だろ?それに、あの時は心配してだなぁ……」俺としては、ルイセを心配していたワケだが、それを素直に表現出来なかったワケだ。確かにルイセをからかっていたことはあるが……それがルイセにとっては虐められていた……とでも感じたんだろう。「うん……お兄ちゃん、一緒に遊ばせてやってくれって、頼んでくれたもんね?」「あぁ、その後は特に問題なく一緒に遊んでいたな……まぁ、その弊害でワガママ娘になった時はどうしようかと思ったが」内気であることに変わりは無かったが、自分という物を前へ前へ出す様になった……。結果、少々ワガママになってしまった。「つまらないって言って遊びを中断させたり……疲れたと言っておんぶを強制したり……あのまんま成長していたら、どうなっていたか……兄ちゃん、子供だったのに頭が痛かったよ――」「も、もう昔の話だよ?」まぁ、そうなんだがな……。ワガママというより、甘えん坊なんだろうが……昔は今の比じゃないくらい、俺にベッタリだったからな。かく言う俺も、なんだかんだでルイセを甘やかしていた部分もあるのかも知れない。だが、そんなルイセにも転機が訪れる……。確か……丁度この辺りだよな……。そこは宿屋の直ぐ近く……商店街のある通り。「確か……この辺りだったよな。本格的にルイセの幽霊嫌いが始まったのは」「……う、うん……」俺はともかく、ルイセがワガママを言うのに我慢が出来なくなった他の連中が、少し脅かしてやろうと……ある計画を立て、実行に移した。それは夜にルイセを呼び出し、お化けの姿で恐がらせてやろうという計画だった。当時から、ある程度怖がりだったルイセだが……この件がきっかけで、筋金入りとなった。俺も、ルイセをからかうつもりで参加したのだが……。「母さんはその時、泊まり込みで研究をしていたし……丁度良かったんだよな」俺がルイセを連れだし……この宿屋の近くにある木の下まで連れて来たんだよな……。で、気付かれない様に物影に潜む仲間と合流し……あの手この手を使ってルイセを脅かそうとした。……あの手この手の内容は、今考えたら非常に子供っぽいモノばかりなので、敢えて明言はしないが。「そうしたらルイセ……本気で泣いたんだよな……揚句……」「わぁぁ〜!?い、言わないでよ〜っ!?」……まぁ、乙女の秘密……というか忘れたい過去だろうからな……。一言で言うなら、大変なことになった……文字通り――盛大にちびったワケだからな。そんな状態になりながらも……いや、そんな状態だからこそ……なのか、ルイセは俺を呼び続けた。俺に助けを求め続けた……見ていられなくなった俺は、ルイセに駆け寄って抱きしめてやった。他の連中もやり過ぎたと感じ……後日、素直に謝った。何故後日かと言うと、ルイセのマジ泣き声を聞いて、宿屋のおばさんが飛び出して来たからだ。俺達は慌てて逃げ出した……俺はルイセをおんぶして……だが。生暖かい感触を感じて顔をしかめたが、ルイセをあそこまで追い詰めてしまったのは、俺にも責任があるしな。そんなことを考えながら、俺達はそれぞれ帰路に着いたワケだが……。幸い、暗闇に乗じて逃げた為、宿屋のおばさんや近所の人に顔を見られることは無かった。「あの時……本当に怖かったんだよ?でも、お兄ちゃんが居てくれたから……」帰宅した後、真実を話したら泣きながらポコポコ叩かれた。……俺はひたすら抱きしめて謝ってたっけなぁ。……この結果、ルイセは更に俺にベッタリとなってしまった。寝る時も、風呂もいつも一緒……という具合に。そのかわり、俺以外にはワガママを言わなくなったな。まぁ、それも母さんの英才教育が追い付くまで……だが。というより、自然と母さんに憧れを持つ様になったからな……ルイセは。段々と甘えん坊はなりを潜めて行ったなぁ……。学院に通い始めてからは、完全に性格も落ち着いたし。「あのルイセが優等生……だからな。母さんの教育のおかげでもあり、学院に通いだしたおかげでもあり……まぁ、甘えん坊な内面は――完全には変わらなかったみたいだが」「そ、そんなことないもん!今は一人でお風呂にも入れるし、一人で寝れるもん!」……今はミーシャが一緒に寝てるがな。風呂にも一緒に入ったりしてるらしいし……。それに、俺の外への旅に無理矢理着いて来た。やはり、人間……根本は変わらないってことかな?「まぁ、自立するのは良いことだ。兄としては喜ばしくもあり、寂しくもあり……だがな」「……そんなんじゃないよ。わたしはただ、お兄ちゃんと……」「俺と……何だ?」「う、ううん!何でもない♪あ、ほら家が見えてきたよ」ルイセが何を言おうとしたのか……気になったが、我が家が見えてきたので追求はしないことにする。……中々有意義な時間稼ぎだったな。これくらい時間を稼げば、もう準備は整っているだろう。俺たちは家の扉を開くのだった……。「ただいまぁ……って、真っ暗だね?」「そうだな……」ルイセは明かりのスイッチを探している……勿論、部屋が真っ暗なのも計画の内……。ルイセが玄関の明かりを点け、居間に入ろうとした瞬間……。居間の明かりが点き、そして……。パァンパアァーーーン!!!「きゃあ!?」……盛大にクラッカーが鳴らされた。「「「「「ルイセ(ちゃん)お誕生日おめでとうっ!!!」」」」」「え?えっ??」ルイセが混乱している……それはそうか。部屋に入ったらいきなり明かりが点いて、クラッカーを鳴らされ……全員勢揃いで『お誕生日おめでとう!』……だからな。しかし驚いたなら作戦大成功……と、言った所か。「み、みんな……」「どうだルイセ?先生考案のサプライズは?」「ルイセちゃんを驚かせようと思って、黙ってたんだ♪」「……アンタのせいでバレそうだったんだけどね」驚きを隠せないルイセに、シオン、ミーシャ、ティピが声を掛ける。ティピの言う通り、ミーシャが口を滑らせかけた時はかなり焦った……表情には出さなかったと思うが。「何と言うか、ミーシャ君らしいね……」「ハハハ……」そんなミーシャを見て苦笑いするのが、アリオストとラルフ。「まぁ、何はともあれ主賓が到着したんだ。早速始めようぜ」「そうね。ほら、ルイセちゃん」ウォレスが皆を促し、リビエラがルイセを促した。「ちなみに、ケーキはこの俺の手作りだ!いやぁ、過去最高の会心の出来だぜ」「もう、兄さん……私も手伝ったでしょ?」そう言うのはゼノスとカレン……ゼノスが言う様に、そのケーキは中々に見事だ。フルーツをふんだんに使い、生クリームでコーティングされたそれ……。中央には『ハッピーバースデールイセ』と書かれたチョコレートプレートが……多分、文字はホワイトチョコレートで書かれているんだろう。ちなみに、メッセージの横にデフォルメされたルイセが書かれている辺り、非常に細かい。そして周囲には小さな蝋燭が15本。「改めて、お誕生日おめでとうルイセ」「お母さん……お母さんも来てくれたんだ……」そう、母さんも来ていた。料理の手伝いをしていたのだ。母さんが作った物を食べるのは、久しぶりだからな……ルイセも喜んでるみたいだし。「ルイセちゃん、お誕生日おめでとうございます」「レ、レティシア姫……姫様まで……」「だって、お友達の誕生日なんですもの。ちなみに、お父様には許可を戴きましたわ♪」……まぁ、考え様によってはアリなんだろうな……我が家とローランディア城は目と鼻の先だし。「み、みんな……わたし……わた、し……」「ち、ちょっとルイセちゃん!?何で泣いてるのよぉ!?」ポロポロと泣き出したルイセに、ティピを始め、一同オロオロとしてしまう。「ちが…うのぉ……嬉しく…って……すごく嬉しく……て、わた、し……」そう、ルイセのコレは嬉し泣き。俺や母さんは直ぐに分かったけどな。「……ほら、せっかくの誕生日に泣いてる奴があるかよ」「お兄ちゃん……」俺はルイセの頭をポンポンと触れてやる。すると、ルイセは涙を拭い……。「うんっ、そうだね♪」最高の笑顔を見せてくれたのだった……。**********その後、ローソクに火を点し……ルイセがそれを吹き消した。それから先は大いに盛り上がった。「懐かしいなぁ……お母さんのお料理……」「貴女達に甘え、滅多に料理を作らなくなりましたからね……腕が落ちていないと良いんですが」「そんなことないよ、すごく美味しいよ!ね、お兄ちゃん?」「ああ、そうだな」俺とルイセは、久しぶりの母さんの手料理に懐かしさを感じ……。「ハグハグ!!コレ美味しい!」「本当!アタシが作ったのとは大違い!!」「まだまだたくさんあるから、遠慮せず食え!……って、お前らは言わなくても遠慮しないか……ケーキは残しておけよ?今日の主役はルイセなんだからな」ティピとミーシャは、まるで競う様に料理を貪り食らっている。ゼノスの言う通り、ティピに遠慮という言葉は似合わないよな。ミーシャは初対面の人などには多少の遠慮をするが、仲間内ではティピと大差無かったりする。ちなみに、ゼノスの手料理は俺たちも戴いたが、相変わらず秀逸モノだった。「!!?ご、ごのビールば……?」「ハッハッハッ、美味いだろう?超極濃ビール『ベイビーキラー』だ!アルコール度数が半端じゃあないんだぜ?……って、アリオストー?こんな所で寝たら風邪引くぜぇ?」「はらほれひれかつ……………」「シオン……また、そんな物を……というか、よくそんなのを飲めるね……」「確かに、中々強烈だな……だが悪くない」あちらでは、何やら酒宴が開かれているらしく、シオンが何かとんでもない酒を飲ませ、アリオストを潰していた。ラルフはそんなシオンに苦笑いを浮かべ、ウォレスはそんな酒を平然と飲んでいた。「ほにゃ〜〜♪」「カ、カレン……貴女飲み過ぎじゃない?」「ひょんにゃことないれふよ〜?一杯!一杯だけれふからぁ〜〜♪」「それは、シオン様が飲んでいた『びぃる』ではありませんか……?」リビエラとレティシア姫がカレンに忠告している……どうやらカレンも潰されたらしい。余談だが、レティシア姫は今日までビールの存在を知らなかったそうな――。「らってぇ……ヒオンひゃんがろんれたんらもん……わらひもろみたくにゃって……」……訂正、どうやら自爆らしい。バタッ!あ……倒れた。「カレエェェン!!?テメッ、シオン!!カレンになんてもんを飲ませやがる!?」「いや……飲ませたの俺じゃないんだが……」ゼノスが怒ってるが、シオンも身に覚えが無いと言い、苦笑している。その後、アリオストとカレンがそれぞれの部屋に運ばれて行った。ちなみにアリオストをウォレスが……カレンをシオンが運んだ。その後も誕生会という名の宴は続き……皆が皆、大いに楽しんだ。「お兄ちゃん」「ん……?」「わたし、今日のことは絶対に忘れないよ……」「ああ、俺もだ……」皆が集まっての馬鹿騒ぎ……皆が妹の誕生日を祝ってくれた。ルイセにとって、忘れられない誕生日になっただろう……。俺は、ルイセの柔らかい微笑みを浮かべた顔を、しばらく眺めていたのだった……。