夢を見ていた。母さんを襲った仮面の騎士……そいつが大勢の小さい化け物……ユングを連れて湖にやってきた。この湖は確か……オリビエ湖……だったか?間違いない……シオンのアジトがこの近くにあった筈だ……。?……仮面の騎士が辺りの様子を伺う……何かを探しているのか?すると、何かを見付けたのか……仮面の騎士は岩影に向かった。……アレは……スイッチ……?そのスイッチを押した瞬間、湖の一部を光が包み込み……そこから地下へと続く階段が現れた……。仮面の騎士とユング達は、その階段を使って地下に降りて行った……。意識が……遠のく……。………………。*********「……ッ!?」俺はガバッと起き上がる……。「ハァ……ハァ……」荒くなった息を抑えながら、周りを見渡すと……皆が集まっていた。……どうでもいいが、この部屋に全員集合すると、やたらと狭苦しく感じるな……。「夕べはうなされてたみたいだけど……アンタ、また夢でも見てたんでしょ?」「ああ……」俺はティピの問いに素直に頷く。……何故か、あの仮面の騎士や怪物の夢を見ると妙に疲弊するんだよな……悪夢という程では無い筈なんだが……。「どんな夢を見たの、お兄ちゃん?」ルイセが心配そうに聞いて来たので、俺は詳細に答える。「仮面の騎士がオリビエ湖に……確か、シオンのアジトがある辺りだったな?」「ああ。歩いて何分と掛からない場所にあるよ」ウォレスの質問に、シオンが答えている。「しっかし、わざわざあの小さい化け物……ユングだったか?それを大量に引き連れて……今度は何をやらかそうとしてやがるんだか……」ゼノスが頭を軽く掻きながら言葉を紡ぐ。……確かに気になる。奴らのことだ……何か企んでいるのは間違いないのだろうが……。「……そういえば、何で皆は俺の部屋に……?」何時もなら居間に集まる筈……。「実は、ラルフ君も夢を見たそうでね……それでもしかしたら、カーマイン君も夢を見ているんじゃないか……って」アリオストが言うには、ラルフも夢を見たそうだ……で、夢の内容を聞いた皆……特にシオンが驚いていたらしい……なんでだ?「ラルフも同じ夢を……?」「いや……僕の見た夢はカーマインの見た夢とは違っていた……」な……に……?今まで同じ夢を見てきた俺達が……いや、本来それが普通なんだが……。だが、今までが今までだったから……信じられないな……。「正確には、全く関係無いってわけじゃ――無いみたいなんだけどね……」ラルフは俺に、自分が見た夢の内容を詳細に教えてくれた……。*********夢を見ていた……。そこは大きな湖……。光の玉……グローシュが多く漂う場所……。この光景……見覚えがある。間違いない……オリビエ湖だ。僕達のアジトが近くにあるんだ……間違える筈が無い。ん……アレは……?突然、湖の一部が光に包み込まれ、そこから地下へと続く階段が現れる。そこから現れたのは、あの仮面の騎士……こんな場所で何を……。「……後はユングどもに任せておいても、問題はあるまい……俺は次の任務に移るか……確か、奴らはローランディアに居るんだったな……」ローランディア……つまり、狙いは僕達……?一体何を企んで……。夢の中で考える……なんて、我ながら器用なことをしていた僕だったが……突然、声が響く。「へ〜、君がゲヴェルの作った人形かぁ……成る程、よく出来ているなぁ♪」「誰だっ!?」姿を現したのはフードを被り、外套を羽織った人物……男性なのか女性なのかは判然としない……。「何だ貴様は……っ!!」「貴様……?人形風情がこの僕に向かって貴様……?フフフ、どうやら壊されたいらしい……」何だ……?あの人物から感じるのは……狂気……?「壊すだと……ただの人間風情が……随分と大きく出た物だな」「………聞いているんだろう?」!?な……っ!?「確か……ゲヴェルとはテレパシーか何かで繋がってるんだよね……君達は?」……なんだ、僕のことじゃないのか……てっきり気付かれたのかと……。そんなこと……ある筈が無いんだけどね。「貴様………」「この人形を壊してからじゃあ、伝わらないだろうから言っておくよ……グローシアンの玩具でしか無かった君……それが人類に対して反乱を起こそうとしている……それは大変素晴らしいことだ。けれど預言しておこう……君の野望は、果てることになると……所詮は中ボスだからねぇ……」「訳の分からんことを……貴様程度、一撃で殺してやる」「やれるものならどうぞ♪ただし、僕とやる前に……」パチン!そいつは指を鳴らした……すると、現れたのは一人の女性……。……自分の身体を抑えながら震えている……。「綺麗でしょう?モブキャラの片割れとは思えないよね?これが良い声で鳴くんだよ……アレの具合も最高だったよ……もう飽きちゃったケドね?クックックッ」「……人間の……女……?そんな女を出してきて、どうするつもりだ?」仮面の騎士は嘲笑う様に言う。確かに、綺麗な人だけど……それだけだ。夢の中だから、気や魔力は読めないけど……。彼女はおおよそ戦える人には見えない……。村娘……それが彼女に対する印象だ。だが……。「勿論、戦って貰うのさ……彼女にも勝てない様じゃ、僕と戦う資格は無いからね?まぁ……君ごとき虫ケラが勝てるとは思えないけど」ソイツはそう言った……一瞬何を言っているのか分からなかった……。それは仮面の騎士も同じ様で、ポカーンとしていたが……直ぐに気を取り戻した。「フハハハハハ!!そんな女が俺の相手をするだと!?貴様正気か?言っておくが、俺は相手が女だからとて、容赦はせんぞ?」「あんなことを言われてるよ?……なら、見せてあげようよ……君の力を」「!?い、いやっ!!止めて!!お願いしますっ!!!何でもします……だからっ!!!」必死な……本当に必死な形相の彼女を見て、流石の仮面騎士も困惑気味の様だ……だが。「何でも……か。でも、残念。君には飽きちゃったんだ。君は新しい生物として生まれ変わったんだ………それは悲しいことじゃなく、光栄なことなんだよ?だから僕の願いは只一つ……」「いや……嫌ぁ!!消えたくない!!消えたくないぃっ!!?」「往生際が悪いなぁ……もうアチコチ弄られてるってのにさぁ……もう良いや……逝きなよ♪」「イヤアアアアァァ゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!!」!?彼女の身体が……変質していく……!?僕は、その断末魔の悲鳴とも取れる声に、助けに飛び出したい気持ちだった……だが、夢を見ているだけの僕には……助けるどころか、眼を閉じることや、耳を塞ぐことすら出来ない……。「な……!?」そこに居たのは……人間では無かった。服は裂け、露出した肌は肌色だ……しかし、腕は非常識に肥大化し――巨大な鈎爪が伸び……肩からは大きなトゲが突き出し……筋肉が異常に膨れ上がっている。胸の辺りには宝石が埋め込まれており、それが心臓の様に脈を打っている……。彼女の顔には無数の血管が走り、白目を向いており……喉からは犬の様な口が生えていた……。異形……正にそう呼ぶ様な姿……。これに比べたら、異形の怪物と呼ばれるゲヴェルの方が――まだ造形的にもまともに見える……。「どうだい?様々なモンスターの因子をブレンドした合成獣(キメラ)は?まだまだ、美しさには欠けるのが難点かなぁ……まるでバイオハザードだよね〜……まぁ、強さは折り紙付きだけど♪」キメ……ラ?あのモンスターの……?いや、違う………アイツは!!「人間を……改造したとでも言うのか……だが、虚仮威しなど俺には通じんぞ!?」「そう思うなら、掛かって来なよ……それとも、恐い?」クスクスと笑うソイツを見て、仮面の騎士は襲い掛かって行った……。「図に乗るな!!人間がああぁぁぁ!!!」素早い踏み込みで、ソイツに切り掛かる仮面の騎士……だが、その剣閃を……女性だった異形があっさりと受け止める。「ば、馬鹿な!?」「クスクス……馬鹿は君だよ……人形君?」異形はその爪を振るう……早い……!!「ごふぁ!!?」その爪は仮面の騎士に安々と致命傷を与えた……これで終わりだ……そう思っていた……けど。ブチブチ……ッ!!「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!?」異形が……仮面の騎士の腕を引きちぎった……。「せっかくのゲヴェルの因子だ……溶ける前に取り込むと良い……そうすれば君は、更に強くなれるよ――?」「お……おのれ……貴様ら、ただで済むと……」「餌は黙ってなよ……さぁ、僕の愛しい実験体……ご飯の時間だよ」その喉元から生えた口が、仮面の騎士の顔を食いちぎろうとした瞬間……僕の意識は途絶えた……。最後に……女性の言葉が聞こえた様な気がした……。『……助けて……』……と。**********「……これが、僕の見た夢の内容だよ」「…………何だよそれ………」カーマインは茫然自失となりながらも、何とかその言葉だけを口にした。……そうだよね……僕も眼を醒ました時は気分が悪かった……シオンやゼノスさんみたいに言うなら、『胸糞悪い』……という状態だった。現に、カーマインに聞かせる前に皆に聞かせたら、皆も怒ったり、悲しんだり……怖がったりしたから……。特にシオンは凄かった……むしろその殺気の方が怖かった……というくらいに。シオンはそういう、人を玩具にするような人は大嫌いだからね……僕だって嫌いだけど。今も聞いている皆に良い感情は無い……当然だね……。僕だって……話しているだけで……『胸糞悪く』なってくるんだから……。**********ラルフの見た夢……何度聞いても胸糞悪ぃ話だが……気になるのはソコじゃない。『中ボス』『モブキャラ』『バイオハザード』ラルフは勿論、他の皆には意味が分からなかった様だ……当たり前か。この世界にそんな言葉は存在しない……劇場的な意味でモブという言葉はあるかも知れないが……。………俺はそれらを知っている。知らない筈が無い……。この世界を『ゲーム』という形で知っている俺には……。『モブキャラ』の意味も、ゲヴェルが『中ボス』という意味も……分かっている。そして『バイオハザード』という『ゲーム』が存在することも……。これらの言葉から浮かび上がる事実………それは。俺の他にも、転生者が……いる?そう、ソコに行き着く……この間の休暇の時も、薄々そんな感じがしていたのだが……。しかし、青髪の双剣士とは別人だろう……。直感でしか無いが、ラルフの話だと夢の中のソイツは、人を人とも思わない様な――狂気が滲み出ている様な奴なのだと……。そんな奴が、のほほんと温泉の名物なんて教えたりするだろうか?本当に、ただの直感なのだが……。だが、それ以上に俺は奇妙な類似点を感じた。――人間を化け物にする。……俺は以前に、これと似た体験をしたことがなかったか……?カレンが盗賊に襲われた時だ……。気絶していた筈の盗賊が、立ち上がって来た時……化け物にこそなってはいなかったが、大幅に強化された戦闘力と、異常な迄の回復力を備えて――立ち上がって来たのだ……。――あの時俺は……初めて人を手に掛けた……。操っていた者が居た……。そして人間だった者達の変質……。これらは共通してはいないだろうか……?そう、あの時の魔力の持ち主と、ラルフの夢に出て来たフードを被った人物……。これらは同一人物ではないか?……正直、何とも言い難いが。直感と状況証拠のみで、物的証拠ってモノがない……。俺の思い過ごしかも知れない……。だが、これだけは言える……転生者と思われるソイツは………マトモじゃない。もし、あの時の魔力の主と同一人物ならば…尚更だ。何か、俺の計り知らぬ場所で……どす黒い何かがうごめいている様な……そんな予感を感じていた……。***********その後、俺達は謁見の間へ向かった。考えていても答えは出ないし、カーマイン達も次の任務を受けなければならないからな。恐らくオリビエ湖に向かう様になるだろう……。とは、言え……原作の様に足踏みをすることは無い。ラルフは俺達の仲間だし、父上とダグラス卿の混成部隊が出撃しているんだ……少なく見積もっても、シュッツベルグよりは先に進んでいる筈……。「さて、次の任務だが、引き続きゲヴェルの調査を進めるのだ」「承知いたしました。ゲヴェルに関係あると思われる、オリビエ湖を調査いたします」アルカディウス王の命に、ウォレスが了解の意を示す。「オリビエ湖だと?」「オリビエ湖のそばに怪物たちがいる夢を、コイツが見たの」王の疑問に、ティピが簡潔に答える。ちなみに、ラルフの見た夢に関しては報告しない。まだ、何とも言えない状況だし、不安を煽るだけだろうからな……。「ついでと言っては何だが、お前達に頼みがある……オリビエ湖に行くというなら丁度良い」「はっ、なんなりと」王の言に、ゼノスが了解の意を示した。王が言うには、北のシュテーム山沿いに街道が完成したらしく、父上とダグラス卿の混成部隊に援軍と補給物資を送ることにしたのだという。部隊を率いるのはベルナード将軍。ローランディアでは、ブロンソン将軍に次ぐ能力の持ち主だ。だが、その部隊も立ち往生をしているらしい。というのも、街道からオリビエ湖の間辺りに必ずモンスターが現れ……的確に部隊の妨害をすると言うのだ。まるで、誰かに統率されている様に……って、十中八九モンスター使いの仕業だな。「そこで、お前達には道中、部隊の護衛を頼みたい……もっとも、これはついでの任務なので、オリビエ湖まで来たら、ゲヴェルの調査に戻ってくれて構わない」ということらしい。それに了承した俺達は、早速北の街道に向かった……そこで将軍率いる部隊と待ち合わせをしているのだ。しかし……援軍に向かうということは戦闘に長けた兵が回される筈……モンスター相手に遅れを取るモノだろうか?などと考えていると……。「ねぇ、シオン……必ずモンスターに妨害される……って、私……心当たりがあるんだけど……」「モンスター使い……だろう?確か、シャドー・ナイツにも一人いるんだよな?」「ええ……ヒステリックで陰険な奴が一人……ね。性格は褒められたモノじゃないけど、モンスターを操る腕前だけは確かよ」道中、リビエラに声を掛けられ、モンスター使いについて話し合った。まず間違いなく、原作に出て来たモンスター使いだろうな……。そうこうする内に、待ち合わせ場所に到着する。「おお、来てくれたか」出迎えてくれたのは銅色をした鎧を身に纏った男性……鎧のデザインはブロンソン将軍と大差ない。この人がベルナード将軍か……若いな。ブロンソン将軍と比べたら……という意味だが。「私はこの部隊を指揮するベルナードだ」「カーマインです」二人は軽く握手をする。「我が国の騎士殿達の噂は聞き及んでいるよ……護衛の件、心強く思う」「そんな大層なモノでもありませんが……それより、援軍と聞いていましたが……」褒められたのが恥ずかしいのか、ゼノスは軽く頭を掻いた。その上で辺りを見渡した……まあ、援軍にしては少ないよな。千どころか百にも満たないんじゃないか?「我々は先遣隊だ。我々が道中の安全を確保した後、後続部隊が次々と送られることになっている……狭い街道で下手に固まって進軍しては、モンスターの餌食になってしまう……だから、小数ずつ進軍し、一度合流してから全軍で増援に向かうという手筈になっているんだ」成程な……補給物資もある以上、安全確保は必要不可欠。一塊になっていては、狭い街道では身動きが取れず、モンスター達の恰好の獲物になってしまう……か。だが……。「けど、将軍が先遣隊に混じって、もし将軍がやられちゃったら、みんな困っちゃうんじゃない?」そう、ミーシャの言う通り……こういう戦では、旗印がやられれば一気に士気はがた落ちしてしまう。そうなれば敗色は濃厚となる……。「……既に幾度も先遣隊を送ったが、ことごとく潰されて来た……ならば私自らが前線に立って、安全を確保する……それが出来れば、再び士気も高まるだろう」背水の陣……とでも言うのだろうか?……いや、それだけの覚悟があるってことか。「わかりました。部隊の護衛、勤めさせていただきます」「うむ……感謝する。では、早速出発しよう。離れないでついてきてくれ」カーマインのその台詞に、満足気に頷くベルナード将軍。そして、俺達は部隊を護衛しながら進んで行った。その道中……。ザアァァァ………。「!むぅ……」「どうしたの、ティピ?」なにやらティピが難しい顔をしている。それに首を傾げながら尋ねたルイセ。「ちょっと、風が強くて……飛ぶのが疲れるぅ……」「大丈夫か……無理はするなよ?」へばりそうになるティピをカーマインが気遣う。ティピは「うん、ありがとう」と、素直にお礼を言いつつ、へっちゃらって顔をしているが……。「なんなら俺の肩にでも掴まってるか?」カーマインが言わなかったので、俺は親切心からそう言ったんだが……。「う、うん……ありがとう、シオンさん。これ以上、風が強くなったらそうさせてもらうね?」……アレ?なんか、原作カーマインの時と微妙に反応違くない?顔を赤くしている部分は同じだが……。……いや、カレンにリビエラ……またか……って眼で見ないで!?俺のピュアハートがブロウクンしちゃうから!?しかも、冷たい眼差しじゃなく、暖かい瞳で見てくるのが逆に痛い!?違う……違うんだからねっ!?お願いだから悪巧みしないようにっ。オッサン、もうお腹一杯ですっ!!けど、また誰かに本気で好かれたら……まぁ、俺なんかを『好き』になる物好きはそう居ないだろうけど……。「それにしても、何だか嫌な風だな……」「まるで山が風を吹かせているみたいだろ?そのせいであの山はシュテーム山と名付けられたんだ」ウォレスの独り言に答えてくれたのが、ベルナード将軍だ。成程、分かりやすいネーミングだな……っと、どうやらお客さんが来たみたいだな。「シオン……」「ああ……分かってる」ラルフも気付いたみたいだな……。俺達が臨戦体勢を取るのを見て、他の皆も戦闘準備を整えた。「一体、どうしたんだ……?」ベルナード将軍以下、兵士の皆さんは気付かないご様子……だから、俺は言う。「早速、来たみたいですよ……モンスターが」「なに!?」ベルナード将軍の声を皮切りに、モンスターがゾロゾロとやって来た。リザードマンの上位種であるリザードマンロード。小型の翼竜……エリックの相棒、レブナントより小さい……人間と同サイズの飛竜。そして、獅子の体と、人間の顔と蝙蝠の羽……そして蠍の尾を持つ魔獣……マンティコア。10……20……30……37匹か。「こりゃあまた、団体さんで……っと!!」俺は全力メンチビームを放つ……が、僅かな反応こそあったが、微動だにしない。……分かっては居たが、これで確定だな。コイツらは操られている。「よし、行くぞ皆!」カーマインの指示と共に、俺達はやるべきことをする。俺、カーマイン、ラルフ、ゼノスは前線に切り込み……ルイセ、ミーシャ、カレン、リビエラ、アリオストは魔法にて援護……ウォレスは遊撃手として、攻撃に護衛に……と、忙しかった。「はっ!!」ドガァン!!「GUGYAAAAAA!!?」アリオストの特殊爆薬、『ニトレイト』が炸裂し、翼竜にトドメを刺してこの戦いは終了した。『ニトレイト』は、僅かな衝撃を与えただけで爆発するという、危険性の高い液体を、おがくずに染み込ませて作った爆薬だ。従来の爆薬より制作工程も簡単なため、容易に扱うことが可能である。威力も現代の手榴弾以上のモノがあり、中々に侮れない。「もういないみたいだね」「ああ。それにしても、何故モンスターは襲ってくるんだ?」「……何でだろ?」モンスターがいなくなったことに、ホッとしているティピ。また、ウォレスは何故モンスターが襲ってくるか、疑問に思ったようだ。ルイセは考えても気付かなかったが……。「シオン……これってやっぱり……」「だろうな……」リビエラが俺に問う……もう、疑う余地は無い。「それで、どうする?」「決まってるだろ?」ラルフの問いに、俺は答えを返す……。「シオンさん……どうしたんですか?」カレンが聞いてきたので、丁度良いと悟った俺は皆に言う。「皆……俺達はシュテーム山に向かおうと思う」「シオン君……突然何を言い出すんだい?」「そうだ。君達は我々の護衛をする為、此処にいるんじゃないのか?何故、山に向かうんだ?」困惑して答えるアリオスト……そしてベルナード将軍。そんな皆に分かりやすく説明する。「あの山に……敵がいるからだ」「敵……敵がいるのか……?」俺の言葉に、辺りを見回すカーマイン。「まぁ……皆はまだ、気を読むことをマスターした訳じゃないから、分からないだろうけどな……ウォレスなら分かるんじゃないか……この匂いは」「匂いだって…………っ、これは!?」やはり、ウォレスは気付いたか……。「風に乗って流れてくるこの匂い……といっても、普通の人間にわかる匂いじゃねぇが、俺みたいに目の不自由な奴なら多少わかるんだ……この匂いは以前に嗅いだことがある……モンスターを操る時に使う粉の匂いだ……」「それじゃ、モンスターが暴れるっていうのは……」「モンスター使いが、俺たちの邪魔をしている……って訳かよ」流石はウォレス……この微かな匂いを嗅ぎ取るなんてな……。俺?俺はホラ……チート野郎だし。気も読めるしな?ティピもゼノスも、全てのカラクリを理解した様だ。そこで俺は事情を説明する……リビエラからの情報で、シャドー・ナイトの中にモンスター使いがいることを。「事情は分かったよ……けれど、僕たちがその敵を倒しに行っている間に、本隊が襲われる可能性もある訳だ……ここは、二手に別れるべきかな?」アリオストの提案に頷く俺……。原作では、護衛ほったらかしで討伐に向かえたが、考えてみればこれは結構危ない。モンスター使いを倒しに向かう間に、護衛対象がモンスターに襲われる可能性がある。何より、この世界は『現実』なんだ……ならばこそ、楽観的には考えられない……。話し合いの結果、モンスター使い討伐には俺、ラルフ、ゼノス、リビエラ、カレンという面子になり、護衛にはカーマイン、ルイセ、ウォレス、ミーシャ、アリオストの構成になった。10人ピッタリだったから丁度良かったぜ。「じゃあ行ってくる……後で落ち合おうぜ?」「分かった……気をつけてな」そう言って俺達はシュテーム山に向かって行った……。*********シュテーム山山頂。「くっくっくっ!さぁ、私の可愛いモンスター達よ!もう一働きしておくれ!」そう言いながら粉を風に乗せる男……。後ろにはシャドー・ナイトが数名控えている。成程、リアルで見るのは初めてだが、リビエラの言う様に中々陰険……というより、根暗そうだ。「まちやがれっ!!」「!?何だ、お前たちは!」ゼノスの声に反応してこちらを見遣るモンスター使いの男……。「お前がモンスターを操って、先遣隊を襲わせていることは分かっている……つまりお前をどうにかしちまえば、モンスターの襲撃はなくなるって寸法だ」俺がそう告げると、モンスター使いの男は苦虫を噛み潰した様な顔をして言う。「ええい、見られたからには生かしてはおけませんね!シャドー・ナイトの私にたてついたことを後悔させてやるっ!」「ふん、偉そうに……あんたなんか、モンスターが使えるだけのひ弱君のくせに……」「!お前は……リビエラ!?おのれ、裏切り者が私を馬鹿にするのですか!?」「おあいにくさま!私は馬鹿になんかしてないわ……ただ、あんたのその陰険なところは、ガムランの次に大嫌いってだけよっ!!」……どうやら、リビエラの情報は幾らか漏れていたみたいだな……。まぁ、当然か……シャドー・ナイトとは何回か接触しているんだ……バレない方が不思議……か。というか……。「大体、あんたはオリビア姉さんにしつこく付き纏って!!」「何を言うのです!!貴女が邪魔しなければ、彼女は私に靡いた筈なのですっ!!」「そんな勘違いばかりしてるから、友達すら出来ないのよ!!姉さんにはもう、相手が居たんだからねっ!!」「いますよ友達!!私にはラファガという、唯一無二の友達がいます!!例え、相手がいても私の魅力で……」……あ〜〜、うん……何と言うか……。「仲良いなお前ら……」「「仲良くないっ!!」」仲良いだろ………ほら、見ろ……みんな眼が点になってるじゃんよ。ゼノス、カレン、ラルフは言うに及ばず……シャドー・ナイトの皆様まで……。なんか、黒いトンボやカラスが飛んできそうな気配だよ……。「ご、誤解しないでよシオン!!私、こんなのとは何の関係も無いんだから!!」「こ、こんなの!?」リビエラはモンスター使いの男を指して、こんなの扱い。いや、そこまで飛躍せんでも……そこまでは考えてないって。「此処まで虚仮にされるとは……かつての同朋とは言え、許せませんよっ!どちらにしろ、裏切り者には死あるのみですっ!!」あ〜……今更そんな意気込みをされてもなぁ……とは、思うが――やるしかないよな。リビエラを殺らせるつもりなんて――毛頭ないんだからな……。シャドー・ナイト達も臨戦体勢を整えていたが……。メンチビーム……そぉい!!「「「「ぐほああぁあぁぁ!!?」」」」バタバタバタバタッ!!!――全員気絶。「あ、呆気ねぇ……」ゼノスが呆然とそんなことを言う。まぁ、仕方ないだろう……結構力を入れた気当たりだったし……。むしろ耐えられる奴の方が凄いんだからさ。「よし、こいつらをふん縛っちまおう」「そうだね……暴れられた揚句に自害でもされたら厄介だし……」「うん、分かったわ」俺とラルフとリビエラは、久々に登場となる俺の魔導具……『緊縛君一号』にて縛り上げる。さるぐつわを噛ませるのも忘れない。「改めて言うことじゃねぇが……お前ら手慣れてるな?」「こんなこと、日常茶飯事でしたから……」ゼノスの質問にアッサリと返すラルフ。本来ならコレに、『衣服の剥ぎ取り』という工程が着いてきますが――。って……またカレンがイヤンイヤンってしてる……いつぞやと違い、その理由にも察しはつくが……敢えて言う。「そんなに羨ましいのか?」「!?そそそそんなこと無いですっ!?」何かミーシャみたいだな……とは言わない。言ったらショックがデカ過ぎるだろうからな……。「シオンが……私に……あぁ、そんな……♪」って、リビエラも妄想に走らない!!顔が真っ赤だからまる分かりだっての。「シオン、顔が赤いけど……大丈夫かい?」「あ、ああ……大丈夫大丈夫」……ハイ、俺も人のこと言えませんゴメンなさい。よし、このモンスター使いを縛り上げて……っと……む?何かが猛スピードで突っ込んで来る……。「クワアアアァァァァ!!!」それは人一人を背負える処か、乗せることすら可能と思われる位に巨大な――大鷲だった……確か、ラファガだっけ?そいつは俺に向かい突撃を仕掛け……。ガッ!!……て来たので、くちばしの先端を指で摘んで止めた。「……焼鳥にするぞ、コラ?」「っ!!!??」強めのメンチビームと共にそう告げてやると、大鷲はガタガタと震えだした……。そして羽根を畳み、地に降りて更に震え出した。俺は指を離してやり、大鷲と視線を合わす。「……成程、視線を逸らさないか」俺はモンスター使いの男を担ぎ、ラファガの背中に乗せた。「なんの……つもりで……す……」「おや、お目覚めかい?何、その大鷲の根性に免じて、今回は見逃してやろうってのさ」「!おい、シオン……正気か!?コイツはシャドー・ナイトなんだぞ!!」ゼノスが騒いでいるが、聞こえないフリでござる。「ただし……次は無い。次に俺達の邪魔をする様なら……容赦はしない」「ぐ……くっくっくっ……その甘さ……命取りになりますよ……私に情けを掛けたこと……後悔させてあげますよ……」その言葉を残し、大鷲に乗ったモンスター使いは逃げて行った……。さて……。「おい……どういうつもりだ?アイツもあのエリックとか言うモンスター使いみたいに、心を入れ換える……なんて思ってんじゃないだろうな……?」「……残念だけどそれは無いわ。アイツはとことん陰険な奴なんだから……幾らシオンが助けたって、侮辱された……くらいにしか思っていないわよ?」ゼノスとリビエラが何かを言っているが……二人とも、何か勘違いしていないか?「だろうなぁ……見たら分かる。というか、俺は見逃すとは言ったが、許すとは一言も言っていないんだぞ?」「へ……?」「どういう……こと?」「……つまり、シオンはあのモンスター使いを敢えて泳がせた……ってわけだよね?」「流石はラルフ……俺の相棒なだけはあるぜ」「つまり……どういうことなんですか?」ゼノス、リビエラは俺の言葉に戸惑いを隠せない……しかし、ラルフは理解したらしく、噛み砕いて説明してくれた。だが、カレンもよく分かっていない様子だった。なので、少し詳しく説明してやる。今更だが、俺は気が読める。それこそ、この星の裏側だろうと直ぐに探知出来る。また、個人の気を感じ分けることも当然出来る……少なくとも、一度覚えた気の持ち主は絶対に忘れない。それは魔力にも同じことが言える……。「つまり、わざと泳がせて、アジトを特定しようってのか?」「まぁ、隠れ家の一つくらいはハッキリするだろう……そう思ってな?」奴が逃げ帰るのは、恐らく隠れ家の内の一つ……それも、元シャドー・ナイトであるリビエラに悟られない様な場所……。リビエラは本人いわく、下っ端構成員だったらしく、リビエラも知らない様なアジトが結構あるのだとか……。なら、その場所を暴いておくのも悪くないかな……ってな?あわよくばブッ潰しておこうかな……と。まぁ……あの大鷲の根性に免じた……というのも確かだし、リビエラとモンスター使いの口喧嘩に戦る気が削がれた……というのも本当の話だけど。「シオンの考えは分かったわ……けど、どうやってその場所まで行くの?私に分からない場所なら、案内のしようが無いし……」「……そうか!あの魔法を使うんですね?」不安げに言うリビエラだが、カレンが気付いた。まぁ、カレンとラルフしか知らないんだから、当然と言えば当然か。「あの魔法……?」「詳しいことは後で話すさ……それよか、カーマイン達に合流しようぜ?」まぁ、モンスター使いも退けたし……向こうは何の問題も無いとは思うが……原作で顔を出して来たグレンガルが出てこないのが気になる。まぁ、単純に懲りた……ということは有り得ないな。あの金の亡者に限って……。―――ってか、カーマイン達の居る方からグレンガルの気を感じるし……カーマイン達のことだから、心配はしてないが……。「ところで……あのモンスター使いを野放しにしてたら、また妨害して来るんじゃねぇか?」「心配しなくても、しばらくは大人しくしているよ……こんなこともあろうかと……ってな。いや〜、ご都合主義って素晴らしい♪」「な、何をしやがったんだコイツ……」「ははは……シオン……凄い笑顔だね……」**********くっくっくっ……リビエラめぇ……この私を虚仮にした恨み……。そして、あの男……私を侮ったことを後悔させてやるぅ!!「にしても……この縄……中々解けない……それどころか、どんどんキツクなるような…………………マズイ、トイレに行きたくなってきた……む?何だコレは……」ふと気付いたら、ラファガの首筋辺りに何かが書かれた紙が貼られていた。『あほ〜がみ〜る〜〜♪』……な。「何なんですかコレわアアァァァァァ!!」ギュムッ!!「はうっ!!?また……縄が……!!」『もう気付いたかも知れないが、その縄は魔導具で……暴れれば暴れるほど適度に、そして的確に締まる仕様です。これを外すには手順通りに外さなきゃ外せない』(※本来は何か刃物で切るだけでも外れます)「何だって……は、外す手順は……」『外す手順……?そんな物を貴様に教えるとでも……フッ……理想を抱いて溺死しろ』「ふ、ふざけ……はぅ!?」は、腹にも……縄が……!?『とは言え、それではあまりに不憫だからな……特別に教えてやろう。奇声を発しながら、自分の恥ずかしい過去を暴露するのだ……そうすれば縄は緩む。まぁ、信じる信じないは君の自由だがね……』「こんなことが信じられるモノか!!私はシャドー・ナイトだ……こんな謀には………うぐぅ!?」マズイ……もう便意が……。「ラ、ラファガ……一旦降りて……そこの林で良いですから……」私はラファガに頼み、着地してもらう。………このままでは、私は色々と何かを捨ててしまう……シャドー・ナイトになった時、色々なモノを捨てましたが……この一線すらも捨ててしまったら…………。……………。…………。………。……。…。「キエェーーーーーーッ!!私はぁ!!同じ人を想い続けぇ!!幾度と無く告白したが振られ続けぇ!!何度も枕を濡らしマシタァ!!!!」…………シーーン………。「な、何故ですっ!?言われた通りにしたのに………ん、小さく続きが……」『まさかと思うが……実行してしまった君へ……。君は馬鹿か?いや、こういう場合は痛い子……とでも言えば良いのかな……その純粋さは評価に値するが……裏工作部隊が、それじゃあイカンと思うんだが……うん、ドンマイ』「……計ったな……この私を……うぐぅ……もう限か」**********その後、彼がどうなったかは、彼の名誉の為に伏せておこう……だが、彼はしばらく再起不能となり、彼の友もまた、計り知れないダメージを受けた。しかし、彼は誓った……絶対に復讐してやる……と。ちなみに縄はアジトで仲間が切ってくれました……鼻を摘みながらですが。**********シオン達が山に向かって直ぐ……アリオストの予想通り、モンスターが襲って来た。だが、それは直ぐに動きを止め……森の中へ散って行った。恐らく、シオン達が上手くやったんだと思う。しかし、モンスターがいなくなったのもつかの間……。「アンタは!?」「グレンガル様だ……そろそろ覚えてくれても良いだろう?」そう、あのグレンガルとか言う奴が部下を引き連れ、襲い掛かって来た……。「ちっ……こんな時に」「お前らを援軍に行かせる訳にはいかんのでな……悪いが、死んでもらうぞ」ウォレスが舌打ちをする……グレンガルはその様子を見るなり、俺らに死の宣告を告げる……しかし、随分と自信満々だな……。「幸い、あの銀髪野郎はいないみたいだしな……俺様にも運が巡って来たってことだな……野郎ども、やっちまえ!!」「「「へいっ」」」連中がこちらに向かってくる……。シオン達がいないからと、甘く見ている様だが……その採算は合わないということを教えてやる……。「皆、ベルナード将軍がやられたら終わりだ……絶対に将軍は守るんだ!!」「任せて下さい、お兄さま!!」「なんとか、やってみせるさ」意気込みたっぷりのミーシャと、余裕を持たせて受け答えするアリオスト。全く、頼もしい限りだよ……。「我々はどう動けば良い?」ベルナード将軍と兵士達か……。「では、襲って来る敵のみを各個撃破していただけますか?」下手に動かれては守りづらくなる……かと言って、せっかくの兵力だ……使わない手は無い。「了解した」「俺とウォレスが切り込む……ルイセ達は援護に回ってくれ!」「うん、任せてお兄ちゃん!」「よぉし……いっけぇーーっ!!」ティピの号令を皮切りに、俺達も敵に向かい駆け出した……。敵の数は2、30人と言ったところ……個々の実力差を考えても、油断しなければ、負ける相手じゃない!「死ねぇえ!!」最前線を駆ける俺に、賊の一人が切り掛かってくる……俺は妖魔刀でそれを受け流し、返す刃で切り捨てる。「ぐはっ!?」「野郎!!」俺は止まらない……近くにいた一人が、反応する前に刀を突き刺す。刀を抜き去り、襲い掛かって来た奴を袈裟掛けに切り落とす……同時に切り掛かってきた奴は、蹴り飛ばす。ズシュ……。「寒い……」ドシャ……。これで……10人。「どりゃああぁぁ!!!」「ぐはあああぁぁぁ!!?」ウォレスもその特殊投擲剣を駆使し、投げ付け、切り裂き、振り回していた……。既に7人は片付けている……。「これが私の力よ!マジックガトリング!!」ドガガガガガガガガガガガッ!!!!「「「「ぐわああぁぁぁぁぁぁ!!?」「ちゃんと制御出来ますよ〜にっ!マジックフェアリー!!」ズドン、ズドン、ズドンッ!!「ぎゃっ……」「嘘……だろ?」「これで……終わりかよ……?」ドサササッ……。「魔力よ……っ!!ブリザード!!」「「「がああぁぁぁぁ!!?」」」ルイセとミーシャ……それにアリオストも頑張っている。おかげで、見る見るうちに敵の数は減って行った。「ば……馬鹿な。チッ……計算違いだったか。後は任せる!」「また逃げられちゃった……」ティピが言う様に、グレンガルには逃げられた……だが、追うわけにもいかない。今は敵を倒すことに集中しないと……!!それから十数分後……全ての敵を倒し、退けた。逃げる者は追わなかった……俺達の目的は部隊の護衛であり、賊を駆逐することじゃないからな……。「もう敵はいないみたいだね」「ご無事ですか、将軍?」周囲を確認したティピと、将軍達の安否を気遣うルイセ。「ああ、軽い負傷者こそ出たが……君達のおかげで、一人も欠けてはいない」「よかったぁ……」ベルナード将軍の報告を受け、安堵の息を漏らすミーシャ。確かに、これで犠牲が大きかったりしたら、目も当てられない。「しかし……あの男の目的は何なんだ?」「援軍に行かせる訳にはいかない……と、言っていましたが……」ウォレスとアリオストが、グレンガルの目的について考察するが……ここに突っ立っていても埒があかない。「とりあえず、進軍を再開しよう……シオン達とも合流したいし……」「そうね、そうしましょう」こうして、俺達は先に進む……。案の定と言うか、モンスターに襲われることも無く、開けた場所まで来られた。後はここでシオン達を待つだけ……か。**********俺達が先に進むと開けた場所に出た。成程……原作ではここがベルナード将軍率いる部隊の野営地になる場所なわけか……。っと、アレに見えるはカーマインチームじゃありませんか。「よお、先に着いていたか」「ああ……妨害はあったが……何とかな」「妨害……ですか?」俺が声を掛けると、カーマインが答えてくれた。カーマインの言葉に首を傾げるカレン。「実はね……」ティピが話して聞かせてくれる……。グレンガルが妨害に来たらしい。もっとも、難無く撃退したらしいが……。「成程な……まぁ、今のお前らなら心配することもねぇよな……コッチはつまらなかったぜ?シオンの睨み一発で決まりだからな……」そう言い放つゼノス。まぁ、歯ごたえが無かったのは事実。俺達も事情を詳しく説明する……シュテーム山に陣取っていたモンスター使い……コレはシャドー・ナイトであったこと。モンスター使いは逃がしたが、それは敵のアジトの一つを特定する為だと言うこと。そして、俺の新型テレポート……瞬転の説明。「成る程……それは面白い理論だね。目的地をイメージするのでは無く、対象の魔力波動や、気……だっけ?それを道標にしてテレポートする……か」「で、その魔法は成功したのか?」アリオストは瞬転の理論に感心している様だ。そんな中、疑問を浮かべたのがウォレスだ。「多分、成功したんだと思いますよ……この魔法が完成した時に、シオン……僕の部屋にいきなり現れましたから……びっくりしましたよ」ラルフがそう言うが……仕方ないだろ?手近で試せる相手がラルフだけだったんだから……。何度も言うが、女性陣相手に試して、イヤンなタイミングに転移したらアカンやろ?「まぁ、コレに関しては……ご披露する時もあるだろうから、今は置いておいて……」俺はカーマインに視線を向ける。カーマインも俺の言いたいことを理解したのだろう……。ベルナード将軍を見遣る。「では将軍、我々はこれで失礼します」「うむ、我々は後続の部隊を待ち、合流してから再び進軍を開始する……ご苦労だったな」これでオリビエ湖の調査に行けるって訳だな。原作ではモンスター使いの情報を元に、ベルナード将軍が襲撃を受けていたが……あれは敵バーンシュタイン軍が近場に居た為、本隊を離れ、小数が迂回して来たからに外ならない。つまり、大分先まで軍勢が押しやられている以上、少なくともこの陣地に襲撃を仕掛けてくることは無い……ってこと。まぁ、シャドー・ナイトが国内に入り込んでいた以上、油断は出来ないんだが……。とは言え、後続部隊が来るまで、四六時中護衛に張り付く訳にもいかない……か。ここは、あのモンスター使いが自滅したことを祈ろう……。まぁ、リビエラを手に掛けようとしたんだ……アレくらいの嫌がらせで済んだことを感謝して欲しいのう……。とは言え、しっかり用心深いならあんな戯言には引っ掛からないだろうけどな。ベルナード将軍に軽く挨拶をした後、俺達は一路オリビエ湖に向かって行った……。ちなみに歩いて。此処からなら、たいした距離じゃないからな。そうこうする内にオリビエ湖に到着。「着いたな……」「グローシュがいっぱい飛んでるね。この辺りには送魔線がないんだ……」カーマインが到着したことを口にし、ルイセは送魔線が無いことに、軽いカルチャーショックみたいなモノを受けているみたいだった。「そう言えば、シオン君の隠れ家にも送魔線は無かったね」「ん?いや、一応あるんだぞ?屋敷の角にデカいのが一本づつな……単に分かりにくくなってるだけ」あの屋敷を作った人は、屋敷から見える景観を――或いは屋敷その物の景観を損ねたく無い――とでも思ったのかも知れない……。単に集魔柱が今より大型だったせいかも知れんが……文字通りの送魔線が主流だった時代……集魔柱はマイナーな装置だったんだろうしな。「ねぇ、二人が夢で見た場所って、ここなの?」「ああ……此処で間違いない」「うん、僕が見た夢の場所も、此処だよ」ティピの質問にカーマインとラルフが答える。なら、間違いなく此処なんだろう。「それじゃ、ここに手がかりがあるんだね!」「早速、夢で見た怪しい場所に案内してよ」「分かった……皆、そこで待っててくれ」手掛かりを掴めるだろうことに、喜びを表すルイセ。ティピに頼まれ、岩影に向かったカーマイン。カチリ。そんな音がしたかと思うと……突然、湖の水の一部が引き……そこに光の柱が立つ。やがて光が収まったそこには、地下へと続く階段が現れた……。「ここがお兄ちゃんたちの言ってた入り口?」「ああ……」「とにかく、入ってみようぜ」ゼノスの提案に頷いた俺達は、地下へと歩を進めた。そこには広大な洞窟が広がっていた……。「湖の下にこんな洞窟があったなんて……自然の力ってすごいね……」「自然の力に比べたら、私たち人間の存在なんて、小さなものなのかも知れませんね」ルイセとカレンは、この空洞が自然に出来た物だと言うが……。「確かに凄いよな……本当に自然に出来ただけのモノなら……な」「それって、どういうこと?」俺の言葉に、ミーシャが首を傾げたので、懇切丁寧に説明せねばなるまい。「少し考えれば分かることだが……何故、自然に出来た洞窟なのに、入口にあんなスイッチがある?」「あ……そっかぁ」「それに、この階段もそうだ……自然に出来たモノなら、こんなに規則正しく段々になる筈が無いんだ」「言われてみれば……そうよね」俺の言葉に頷くミーシャ。リビエラも納得顔で頷いている。「つまり、この洞窟は誰かに造られたと……そう言いたいわけか?」「洞窟を掘ったのか、元からあった洞窟に手を加えただけなのか……その辺は何とも言えないが……ただ、人の手が入っているのは確かだ」「成る程……そうなると、この奥に何かある可能性は高いね……こういう洞窟に人の手が加わっている場合、何かを隠している場合が多い」ウォレスの意見に答える俺。ラルフも俺とトレジャーハントをしていた時期があったから、こういう場合の傾向と対策には敏感だったりする。「こうやって入口を隠している場合……結構厄介なトラップがあったりするから……気をつけて進む様にしよう」「トトト、トラップぅ〜〜!?」「分かった……注意して進もう」ラルフの忠告に動揺を隠せないティピ。カーマインは素直に頷いていた。まぁ、俺はトラップに関してはそんなに心配していない。もし、原作通りにグローシアン遺跡と繋がっているなら…な。案の定、トラップの類は無かった………だが。「何だ……コレは……」「ひいぃぃ〜!?ななななにコレェ〜〜!?」そこには何かの液体が散乱していた……。その何かの正体もハッキリする……。「コレ……ユングだ!」そう、液体の正体はユングだった。どうやら、ユングは死後時間が経つと、溶けてしまう様に出来ているらしい。死体の中に、完全に溶けていない奴がいたから判別出来た……。「コイツら、カーマインの夢に出て来た奴らだろ……何でこんなところでくたばってやがる?」ゼノスの疑問に答えられる者は居なかった……いや、俺はおおよその検討はついている……。恐らく、ラルフも……。「……シオン……コレは……」「まだ確信は持てないが……多分ラルフの想像通りだろう……この先に気を感じる」「二人とも、何の話をしてるんだ……?」俺とラルフが頷きあったのを見て、カーマインが尋ねてきた……。「皆も覚えているだろう……今朝、ラルフから聞いた夢の話を……」「ああ……あの夢がどうかしたのか?」「……恐らく、居る」「居るって……ラルフの夢に出て来たフードの男?」夢の話を持ち出した俺に、疑問をぶつけるゼノス。ラルフの意見にリビエラが返す。「……多分、違うと思う」「何故分かる……?」俺が違うと言った意味を問うウォレス。そう言われても、以前感じた気とは違うから……と言うのが1番の理由なんだが……。まあ、あの時の魔力の主と同一人物とは限らないから……確かなことは言えんが……。「何と言うか……気が『歪』なんだよな……普通、どんな生き物でも気の流れってのがあって、それは一定の筈なんだ……だが、この先から感じる気の持ち主は、流れが目茶苦茶なんだよ……激流かと思えば緩やかだったり……」「そ、それじゃあ……まさか、怪物になった女の人……?」「それは……行ってみなきゃ分からないな」ルイセがカタカタ震えているが……こればかりは先に進んでみないことにはな……。俺達は歩を進めた……道中、無数のユングの死骸を目にしながら……。そして、開けた場所に出た俺達が見たモノは……。ガッ……ガシュ……ズチュ……ムシャ……ゴリッ……。ビクビクと痙攣するユングを喰らう……。「ひっ……!?」化け物の姿だった……。『AA……GYU……AAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!』その姿を見て、ルイセから小さな悲鳴が漏れた……それもその筈。その様は正にバイオハザード……。凶々しく、おぞましく……恐怖感を与えるそれは、常人なら吐き気を催してもおかしくは無い。強いてバイオハザードシリーズから例を上げるなら、追跡者+ハンター+リサ……と言った姿か。正直、おぞましいことこの上無いが……聞こえちまったからな。『助けて……死なせて……』そう言う『彼女』の――無念と怨嗟が混じった様な声が……。なら……俺のやることは決まっている。俺は愛剣リーヴェイグを抜き放つ。今の俺に出来るのは――彼女の望みを叶えてやることだけ――。せめて、苦しまない様、一思いに―――。「待ってくれシオン……」「ラルフ……」ラルフが俺の前に立つ。「彼女とは……僕が戦う。皆も手は出さないで欲しい」「そんな、ラルフさん……!」「一人で何て無茶だよ!!」「そうだぜ……ここは……」「助けて……って、言ったんです」一人で戦おうとするラルフ……それを止めようとする、カレン、ティピ、ゼノス……。しかし、ラルフは譲らない。「見ず知らずの相手です……けど、夢で助けてって……声を聞いたんです。……僕にはどうすることも出来なかった……だからせめて……」ラルフはレーヴァテインを腰から抜き放つ。「……せめて、僕の手で送ってあげたいんだ……感傷だって言うのは分かってる……だけど」『AAAAAAAAAAAAAAッ!!!』「こっちに気付いたぞ!!」ウォレスの言うように、彼女が襲い掛かって来た……俺は咄嗟に懐に入り込み、蹴り飛ばした。ドゴオォォ……ン……。彼女は壁に激突……蹴った感触からして、複雑骨折くらいはした筈だが……。「AAA……GUAAA……」「……やっぱりか」並外れた超回復能力は健在……か。「……苦戦する様なら、加勢するからな」「先生!?」「……分かってる……ありがとうシオン……」ルイセは批難する様に言う。ラルフはそのまま最前線に立つ。俺はリーヴェイグを鞘に収め、その場を二、三歩下がった。「……シオンさん、どうしてラルフお兄さまを一人で……」「それが――ラルフの望みだからだ……」ミーシャに聞かれたので、俺は答える。元々、俺も一人でやるつもりだったしな……。「……心配しなくても、ラルフは負けないよ。アイツは……最強の商人なんだからな」少なくとも、俺を頭数に入れなければ……この世界で1番強い。――俺が誰よりも頼りにしている――相棒だからな。負ける筈が――無いさ。***********僕は剣を構え、油断無く彼女を見据える……。――ゴメン……貴女を救う方法は……コレしかないんだ……。シオンは剣を抜いた……しかも本気になった証である、愛剣――『リーヴェイグ』を……。つまり、他に方法が無いんだ……。『AAAAAAAAAAッ!!』―――ゴメン。ザンッ!!……ドシャ……。僕には――こうすることしか、出来ないから……。『GYAAAAAAAAッッ!!?』彼女の腕が、僕を捕らえるよりも――速く振るわれた僕の剣は……その腕を切り落としていた。………本当にこんな方法しか無いのか……?彼女を……助けられないのか……?『GU……GAAAAAAAAッッ!!!』「ッ!!!」僕は………。『――――――』「………え?」僕の剣が彼女を切り裂き……レーヴァテインの炎が、彼女を燃やしていく……。――幻聴かも知れない。だけど、僕には聞こえた――こんな目に遭ったのに……彼女は……。*********「マジかよ……一撃……?」「ラルフさんって、こんなに強かったの……?」ゼノスとルイセが驚いているが……俺に言わせれば、これくらいは出来て当然なんだ。「あの怪物の動きだって遅くは無かった……だが、ラルフはその上を行った……」ウォレスの言う通り、彼女の動きはカーマインやゼノスに匹敵するモノがあった……だが、それを上回った。実際、ラルフが本気になれば、完全体ゲヴェルと戦り合っても、互角以上に戦えるだろう……。「……お疲れさん」「シオン……」俺はラルフに声を掛ける……半ば放心状態のラルフだったが、俺を見て苦笑いを浮かべる。「彼女……『ありがとう』って、言ってくれたんだ……」「……そうか……」「こんな形でしか……救えなかったのに……『ありがとう』って――」ラルフは泣かない……喚かない……。迷いは見せても、後悔はしていない……いや、しないと決めたからだろう……。作った笑いを浮かべながら……自分の選択肢に後悔はしないと……。……強いな、ラルフは……俺には真似出来そうに無いな……。「――さぁ、先に進もう!」そうラルフに促された俺達は、先に進むことにした。女性だった亡きがらに、黙祷を捧げて……。しかし……ラルフの夢に出て来たフードの人物……どうやらこの洞窟には居ないみたいだな……後はユングの気配しかしない……。……向こうの目的が何にせよ、どうしようも無いクズみたいだから……野放しにはしておけないな……。考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのか……俺は失念していた。この先で待っているイベントを……。ビシッ!!「!?ま、まさか!?」瞬時に俺は思考を切り替える……この洞窟は……パワーストーンイベントの……。「っ!!」ドンッ!!!咄嗟に俺は皆に体当たりをした。手は抜いたので、怪我はしていないと思うが……。ラルフは事前にその場から飛び退いていたし……大丈夫だろ。「ってぇぇ……何すんだよオイ!!」ドゴオォォン!!ゼノスが振り向く……だが、そこには浮遊感を感じている俺が……。信じられないって顔してるなぁ……。ま、俺ならこのまま着地しても問題無いだろうけど……。*********……おい、冗談だろ?俺はその光景に現実感を感じられない。俺の視界には、ゆっくりと落ちて行くシオンの姿……いや、俺がそう感じているだけか……。ふざけるな……こんなの信じられるかよ……!!「シ、シオ」「瞬転!!」ヒュンッ!!「ハ……?」シオンが消え……た?「皆大丈夫か?」「!?」何っ!?振り向くと……そこには皆を心配そうに見ているシオン……って、何!?「お前……な、ハァ!?」俺がシオンを指さし、困惑気味に問うと、シオンは人差し指を口元に当てて、シーー……とする。騒ぐな……ってことか……?「シ、シオンさん……?一体何が……?」「後ろを見れば分かるさ」カレンがシオンに聞き、シオンは後ろを指し示す。カレンを皮切りに、皆が起き上がる……そして後ろを見て軽く青ざめている。「これは……」「地盤が弱くなっていたみたいでな……咄嗟に皆へ体当たりしたんだ……何とか間に合って良かったぜ」「それで、先生は大丈夫だったの?」「――俺を誰だと思っているんだ?大丈夫じゃなきゃこうやっていないだろ?」カーマインとルイセの問いに答えるシオン。……まぁ、皆に心配させまいという気持ちなんだろうが……。「……体当たりした俺が言うのも何だが……アリオストとミーシャ、よく眼鏡が割れなかったな」「助けてくれたのは有り難いけど……それは酷くないかい?……イタタ」「シオンさん……酷い……鼻打ったよぉ……」……心配……してるんだよな?この野郎、詳しく説明してもらうからな……?********良かった……誰もデカい怪我はしていないみたいだ……。助けたつもりで大怪我させたら、目も当てられないからな……。俺がしたことに気付いたのは……ラルフとゼノスか……。ラルフは俺を見て苦笑いしてるし、ゼノスは睨みを利かせている。詳しく説明するんだろうな……?と、でも言いたい顔をしている……無論説明はするがね……。皆の無事も確認したし、俺達は先に進む……道中、ほぼ一本道なので迷わず進むことが出来た。ユングが待ち構えていたが、軽く蹴散らして進んだ。「で……詳しい説明はあるんだろうな?」「まぁ、見られたならしゃあないな……」案の定、ゼノスが絡んで来たのでこっそり説明する。崩落を察知した俺は、皆を跳ね飛ばした……だが、加減をし過ぎたせいか……自分自身は崩落に巻き込まれてしまう。幾つか、無事に済む手段は合ったが……その中でも皆に心配を掛けない様に、新型テレポート……瞬転を使い、皆の前に転移した……。「成る程……あれが瞬転か……って、そうじゃ……」「静かに……カレン達を心配させたいのか?」「うぐ………」卑怯かも知れないが、カレンの名前を出させて貰った……。実際、めちゃんこ心配するだろうしな……。「汚ぇぞ……カレンをダシに使うなんて……」「人聞きの悪いこと言うな……俺は事実を言っているだけだ」「チィッ……分かったよ……だがな、俺だって心配しちまったんだ……あんまり、無茶するんじゃねぇよ――」無茶をしたつもりは全然無いんだが……。「まぁ……努力する」だから、そうとしか言えないんだよな……。心配してくれるのはありがたいが。「?何をコソコソ話してんの?」「いや、ゼノスがさっきズッコケた時に鼻を打ったらしくて、因縁吹っ掛けられてますた」「テメェ、シオン!?嘘言ってんじゃねぇ!!」……なんて馬鹿やりながらも進み……。「階段だ……」「この辺りは人工的に作られた部分だね」グローシアン遺跡の地下と思しき場所までやってくる……。ティピが階段を見付け、アリオストが分析する。「どうやら、無理矢理こじ開けたみたいだな……」「扉の具合からすると、こじ開けられてからそう時間は経っていないようだね」「おおかた、ユングとかって怪物がやったんだろうな」カーマイン、アリオスト、ウォレスがそれぞれに分析をしている。間違い無くその通りだろうな……。「この上に何があるんだろう?」「……ゲヴェルの邪魔になる物がある……とかな」ルイセの問いに答えるカーマイン。相変わらず鋭いねカー君。「邪魔かぁ……。でも、それって何だろ?」「それは行ってみてからのお楽しみ……って奴だな」ルイセの疑問に答える形を取る俺。俺達は先に進むことにする……。階段を昇り切った先には……。「ここは……グローシアンの遺跡ですね」「そうみたい……」「成る程……あの洞窟はこの遺跡とを結ぶ秘密の通路……って訳だ」「脱出用の裏道……って所だろうな……だからトラップの類が無かったんだ」上からアリオスト、ルイセ、ゼノス、俺である。「あ、あれ!」ティピが指し示すその先には、遺跡に群がるユング達が……。「なにやら暴れているようだが……」ウォレスの言う様に、なにやら破壊活動をしているユング。『…急ゲ!……スベテ壊セ!!』とりあえず、目的の物を破壊したのか、ユング達は標的を変えた。『グギギッ!』『他ノ箱モ壊セ!!』そう指示され、箱に向かうユング達……。そして、残った扉を壊そうとするユング……。「部屋の扉を壊そうとしてるみたい」「部屋の中に何かありそうですね。でも早くしないと壊されてしまいますよ」「どうするの?」「決まってるだろう?」「奴らを倒して、その秘密を手に入れる……だね?」「そういうこと……そんじゃまぁ……行きますかっ!!」「了解、任せて!」上から、ルイセ、カレン、ティピ、カーマイン、ラルフ、俺、リビエラだ。皆やる気十分ってか?俺は1番槍として、ユングの群れに切り込む。『邪魔者、コロス!』「やってみろやぁ!!」**********決着は直ぐに着いた。考えてみれば当然……皆既日食のグローシアンが二人も居て、ユングは絶不調な上、カレン、ルイセ、リビエラ……オマケに最近覚えたというミーシャによる、女性陣のマジックガトリング×4。これだけでも涙目なのに、更にトドメの野郎共無双。うん……少しやり過ぎたかも知れん。「よっしゃぁっ!ざっとこんなモンよね!!」気合いの入った勝利の声をあげるティピ。まぁ、俺はやり過ぎたと思っているんだが。何しろズフタフを取り出して、花の慶○の○田慶○並に大暴れしちゃったからな……。まぁ、松○は居ないけど。俺達はとりあえず、手分けしてユングが暴れていた理由――秘密を捜すことに……。その結果、幾つかのアイテムをゲット……そして。「こっちの部屋は無事だね?」「開けてみるか」「わたしに任せて。ここがグローシアンの遺跡なら……」ルイセが扉に近付く……すると、扉が自動で開いた。グローシアンにのみ反応する扉だからな……ちなみに俺も開けられるが、でしゃばる意味も無いので、ここはルイセに任せた。で……中に入ってみると……。「机の上に本と、何かの書類みたいなものがあるよ?」「読んでくれないか?」「うん。まずこっちの本からね……じゃあ、シオンさん宜しくぅ♪」机の上に置かれた書物を見付けたティピ……ウォレスに頼まれ朗読を………。「って、俺かよ?」「だって、アタシ本を読んだりとか苦手だったり……シオンさんなら、遺跡巡りとかもしてたって話だし……アタシがわからないこともわかるでしょ?だからお願いっ!」そんなこと初耳だぞ……とか、それならラルフやアリオストでも良いだろう……とか、色々言いたいことはあったが、お願いされて断る程のことじゃないしな……。「まぁ、良いけどな……じゃあ読むぞ?――日誌みたいだな……重要だと思う場所だけ読むからな?」俺は本を取り、朗読を開始する。まぁ、重要な部分なんて、原作のティピが朗読した部分以外無いだろうが……。「……装置は順調に動いている。おかげでゲヴェル達も下民どもを殺しまくっている」「下民って何?」「支配者が、普通の人を見下したときの表現だね。あまりきれいな言葉じゃない」「まぁ……殺しまくっている……なんて表現が、既にきれいじゃないわね……」ミーシャの疑問に答えるアリオスト……流石はミーシャ君命やな。リビエラの言う通り、これを書いた人間はお世辞にも、お上品な奴じゃなかったんだろうさ。「グローシアンが支配者?」「確か……ダニー・グレイズさんにフェザリアンのことを聞きに言った時、そんな話を聞いたよね」不思議がるルイセに、ラルフがそんなことを思い出す……正確には、あの時グローシアンが支配者だった……と言ったのは俺だったのだが。「とりあえず先まで読んでくれ」ウォレスに促されて、朗読を再開する。「確かに我々は人間に比べて数が少ない。だがこの偉大な力がある。たいした力を持たない下民が、我々グローシアンに楯突くとは愚の骨頂だ。それにしても気にかかるのは、グローシアンでありながら、下民に味方しようとする連中の存在だ。奴らはゲヴェルが我々の前では、真の力を発揮出来ないことを知っている……これを逆手に取られたら……すぐにでも新型を完成させなければならない……こんな所か」「ゲヴェルって、伝承じゃなかったんだね…?」「ああ……しかも、今の話を聞くと、あのゲヴェルを作ったのは、グローシアンってことになるが……」「そして人間とグローシアンは対立していたと……」「でも、人間に味方しているグローシアンもいたんだよね」上からルイセ、ウォレス、アリオスト、ミーシャだ。ちなみに俺は最初の『ゲヴェル達』という表記が気になる……。確か……ゲヴェルは5体存在していて……その全てが封印されていた筈……今のゲヴェルはその内の一体……だったな。「どうやら、あまり重要なことは書かれていないみたいだな……もう一つの方はどうだ?」「こっちは何かの報告書みたいだな……どれどれ」俺はカーマインに促され、報告書を朗読する。タイトルは――。『新型ゲヴェルの開発に向けて』「現行型生体兵器であるゲヴェルの弱点は、魔法である。ゲヴェルは自らが魔法を使うことは出来ない。また、魔法への耐性も設計値を下回る。これは、我々グローシアンに危害を加えないようにするための処理が、悪影響を及ぼしていると思われる。現行型でも、一般人が使用する魔法には十分な耐性を持つが、新型では改善するべきポイントである……と、これで終わりだ」「ゲヴェルは魔法に弱い、か。これはいいことを知ったぜ」「でも、新型って?今わたし達がゲヴェルって思っているのは……どっち?」「さあな……。新型ってのを作る前に、こいつらが滅びたのかも知れねぇし……」俺の朗読の後、ウォレス、ルイセ、ゼノスが意見交換をする。俺も敢えて意見を言わせて貰おう。「俺は、今のゲヴェルは旧型だと思う」「どうして?」「さっきカーマインが言っていただろう?ここには、ゲヴェルにとって邪魔な物がある……って。それって、魔法が弱点……ということや、グローシアンの前では真の力が発揮出来ない……ということじゃないか?それを知られるのを恐れたゲヴェルは、証拠の隠滅を計った……」「成る程……一理あるな」俺の意見に、ティピが首を傾げていたのでその理由を説明した。ウォレスも納得顔で頷いている。「まぁ、あくまで仮定の話だ……今はとりあえず、アルカディウス王へ報告に行こうぜ」こうして、俺達はローランディアに戻って行った。想定外の事態もあったが……。次は王様に任務結果の報告……だな。********後書き。参考の意味で原作を平行してプレイし、ラルフの死を見て軽く鬱った神仁です。やっぱり愛着が湧いてるんだなぁ……と、実感したり。今回の話は過去最長文だったりします。……内容は薄っぺらかもですが。(;¬_¬)