さて、休暇を終えた俺達は――ローランディア王城の謁見の間へと、顔を出した。「現在、お前たちの持ち帰った情報を重視し、シオン殿に任せるだけでなく、我々の方でもグローシアンの保護を進めることにした。シオン殿には負担を掛けるかも知れないが、そちらが既に保護しているグローシアンたちについては現状維持で頼みたい」遂に来たか……裏にチラつくのはクソヒゲの影……。だが、アルカディウス王は俺を信じてくれた……。現に、俺が保護しているグローシアン達については、今のまま俺に任せると言って来たのだから。「無論です。……それで、今回の任務は?」「うむ、グローシアンの保護は順調に進んでいるのだが……実は1人だけ連絡の取れないグローシアンがいてな、それで困っておる。保養所に勤めている女性なのだが……」俺の問いに答えるアルカディウス王……成程、アイリーンか。……と言っても、俺の存在のせいで原作以下の接点しか無いわけだが……。「それってあの人かな、ほら……えっと、なんて名前だっけ?」「……あの人だよな……?確か白衣を着ていた……」どうやら、カーマインも細かく思い出せない様だな……仕方ないか。ほんの少し、話をしただけだしな……。「確か……アイリーンさん、でしたよね?」しかし、アイリーンの名前を思い出した者が一人……カレンだった。そういえば、医療について色々聞いていたっけな?「そうそう、その人!」「ほほぅ、知っているとは心強い。それでは、お前たちが彼女を探し出して、保護して欲しい。」ティピはカレンの答えに、スッキリした笑顔で同意。アルカディウス王も、知っているなら話は早いと、任務の内容を告げる。「アイリーンさんの保護ですか?」「そうだ」「それで、保護した後は、どこへ連れていけばいいのでしょう?」「お前のよく知っているところ、魔法学院だ」「魔法学院に?」ルイセとアルカディウス王が話し合っている。アルカディウス王が言うには、学院長には既に協力を頼み、学院長も快諾したという。まぁ、あのクソヒゲにとっては渡りに船……って奴だろう。わざわざ、危険を冒して俺の保護するグローシアンを奪いに来なくても済むのだから……。とは言え、半数以上のグローシアンをこちらで保護している以上、何らかのアクションは取ってくるであろうことは、容易に想像出来るのだが――。「シオンさん?そのアイリーンって人、シオンさんが保護している……なんてことは?」「それは無いな。確かに、俺達はグローシアンの保護をしていたが、全員が俺達に保護されるのを良しとしたわけじゃない。中には断る者も当然だが居た……アイリーンさんもその一人さ」ミーシャが疑問を尋ねてきたので答えてやる。「僕達は同行を無理強いするわけじゃない……その人の意思に委ねていたんだ……安全策として、『転移の腕輪』を渡したりね?」ラルフが更に追記する。この場に居る面子には以前、転移の腕輪についても説明しているので割愛。「で、その腕輪すら受け取らない人も居たのよ……その内の1人がそのアイリーンって人ね……その時は私やオズワルド達が交渉に行ったんだけど――ね?」リビエラが詳しく説明する。――アイリーンと面会し、交渉するリビエラ達。自分達がグローシアンの保護をしており、グローシアンを狙う連中も存在するということを説明する。真剣に説明したのが効いたのだろう……どうやら彼女はこちらの話を信じてくれたらしい。任意での同行を求めたが、彼女は自身の仕事を理由に拒否。まぁ、医者だし……原作ではカレンの命の恩人と言われていたことからも推測出来るが……。恐らく――内科医であると同時に、外科医でもあるのだろう。この世界の医療が、どこまで進んでいるかは分からないが……そんな彼女が患者を放って行けるわけがない。ならばせめて……と、転移の腕輪を渡したのだが、そこを邪魔した奴が居た。「彼女の恋人……ニックって奴に腕輪を取り上げられちゃったのよ……『アイリーンには俺が居る。だからこんな怪しげなアイテムは必要無い!!』……とか言ってね?」丁度、ニックがアイリーンを訪ねて来ていたらしく、横槍を入れて来たらしい。腕輪を窓から投げ捨てた後、ニックは警告したそうだ。『貴様らの戯言なんか信じられるか……二度とアイリーンに近付いてみろ……俺がこの手で叩き切ってやる!!』……と。元より、無理強いをするつもりは無かったリビエラ達は、素直に引き下がったらしい。「そういうことだったのか……」アルカディウス王も納得した様に頷いている。「じゃあ、アイリーンさんについて、先生は……」「ああ、残念ながら分からないな……」ルイセの問いに答えてやる俺。突っぱねられたのに、無理矢理拐う様な真似はしない。正直、突っぱねた奴まで面倒は見切れ無い。冷たい様だが、正義の押し売りなんてしたくないんでな……。どちらかと言うと、俺のはバーゲンセールだな。とは言え、アイリーン自身の意思で突っぱねたのか?……そう聞かれると返答に困るわけだが。「それとシオン殿……シオン殿には別件で頼みたいことがある」「私に……ですか?」何なんだろうか?「実は、シオンさんが保護したグローシアンたちの現状を確認したいのです」サンドラが言うには、行方不明になったグローシアンの家族達が、随分前から国に捜索届けを出していたという。無論、アルカディウス王は自国の民の為に捜索をしたが、殆どは行方不明のまま……稀に見つかっても、変死体で見つかる始末。しかし、この前……俺から真実を聞いた。故に、現状を知らせてやりたいと言う。「勿論、事件が解決するまでは彼らを保護していなければならないが……せめて彼らの家族には無事であることを知らせてやりたいのだ……頼めるだろうか?」確かに……それくらいなら問題無いだろう。いや、むしろ保護しているグローシアン達の為にも、彼らの家族達と何らかのコミュニケーションを取らせてあげることも大事だ。俺はアルカディウス王の提案に頷いた。「かしこまりました……それで、いかが致しましょうか?」「彼らの家族から、手紙を預かっています……それを届けて戴ければ」成程……手紙のやり取りか……。「分かりました。その手紙を届け、その返事を持ち帰れば良いのですね?」「うむ……そういうことだ。今回はサンドラも同行させようと思う」…………は?「サンドラ……様が……ですか?」「シオン殿を信用しないわけでは無い……だが、やはり第三者の眼は必要だろう。故にサンドラを同行させたい……構わないかな?」……言いたいことは分かる。監視役……というより、証人役とでも言うべき役所がサンドラなのだろうな――。コーネリウス一派が殆ど捕まったとは言え、俺のことを良く思っていない連中は、少なからずいるのだろう。当然だな……俺は戦争中である敵国の貴族なんだからな……。エリオットに協力する姿勢をアルカディウス王が見せているので、パッと見は大人しいが……内心どう思っているのか。まぁ、そういう隠れコーネリウス派はともかく……単純な猜疑心を持つ連中もいるのだから、そいつらにも信用させなければならない……。そのためには、この国で強い信頼を受ける人物に同行させ、状況を説明させるのが1番……つまりサンドラを同行させて、状況を説明させるのが1番手っ取り早く、確実な方法って訳だ。理屈は分かる………だが。「アルカディウス王……本当にそれが理由でしょうか?」「な、なんのことかな?」……怪しい……怪し過ぎる。何が怪しいって、あの眼だ。泳ぎまくっているのだ。もうクロールでバシャバシャと……。アルカディウス王は間違い無く王……だが、これでもかって位に『いいひと』だ。簡単な話、嘘がつけないのだ。アルカディウス王が俺を信用していない……ということはない。その辺の機微が分からない程、俺は鈍くはない。むしろ、信用し過ぎなくらい信用してくれているだろう。勘違いしないで欲しいが、アルカディウス王はそれが必要な嘘なら嘘をつける。為政者足る者、民草の為には時として真実を告げない様にしなければならない時もある――ってことだな。……つまり、シリアスな内容では無く、どうしようもない位にくだらないことが理由である可能性が高い。無論、先程説明された話も真実なのだろうが――。「同行するって……お母さん、宮廷魔術師のお仕事は……」「心配は要りませんよ。急ぎの仕事は片付けておきましたから」ルイセの疑問にも、さらりと答えるサンドラ。……怪しい。「サンドラ様……よもやとは思いますが……『私情』が絡んでいるなどと言うことは……ありませんよね?」「!?そ、そそ、そんなことはありませんよ?」成程……今ので大体分かった。恐らく、サンドラが何かしらの圧力を掛けたに違いない……。しかも、俺と一緒に居たいとか……そんな理由で。これは自惚れでは無く、事実だろう……現に、サンドラを見遣ると真っ赤になりながら眼を逸らす。つまり、そういうことだ。まぁ、アルカディウス王としても、周りの悪意を押さえ付ける意味合いは確かにあるのだろうが……。何故だろう……また別な思惑がある気がする。なんかこう……レティシア絡みで。サンドラはサンドラで、任務より自身の我が儘が多少ウェイトが大きい気がする……。それに気付いたのが、俺だけみたいなので、ある意味では良かったのかも知れないな。「その任、確かに承りました」俺がそう告げると、アルカディウス王とサンドラはホッと胸を撫で下ろすのだった……。サンドラが仲間になった!いや、あくまで一時的にな?ずっと連れて歩くつもりは無いからな?謁見の間を後にした俺達は、今後について話し合っていた。「これからどうする?」カーマインが俺に尋ねてくる。「まぁ、いつかの時みたいに、メンバーを二つに分けるべきだろうなぁ…」というのも、手紙を届けるのは一瞬だが……彼らが返事を書くのを待たなければならない。中には手紙を書かずに、伝えてくれれば良い……という人や、既に手紙をしたためておいた人も居るかもだから、直ぐに済むかも知れないが……。可能性として、屋敷に何日か滞在する可能性も否めないわけだ。なら、再び二手に別れた方が時間を喰わずに済む。「で、メンバー構成はどうする?」「とりあえず、俺とルイセは別々だな……互いにテレポートが使えるから、いざと言う時には早く合流出来るだろう」「あと、お母さんは先生側かな?」ゼノスの問いに、俺はとりあえずの確定事項を言う。とりあえず、テレポートが使える俺とルイセは別々に行動。サンドラは任務の都合上、俺のパーティーに固定。その後、協議の結果……以下の様に決定。アイリーン捜索組。カーマイン、ルイセ、ウォレス、ゼノス、ミーシャ、ティピ。オリビエ湖アジト組。俺、ラルフ、カレン、リビエラ、サンドラ。本来、ラルフはアイリーン捜索組だったのだが、無理を言って同行を願い出た。だって考えても見ろよ?ラルフが抜けたら、男は俺一人になるんだぞ?しかも、件の『同盟』メンバーオンリーだ――。あんな魅力的な女が、三人一斉にしな垂れかかって来たりしてみろ……。俺の鋼の理性がショートするかも知れん。そんな時に、仲間が居ればまだ抑えが効くかも知れんが……第三者が誰一人としていなかったのなら……。誓いを忘れ、ケダモノと化して×××板行きは確定では無いか!!二人同時に迫られた時もやばかったんだ……三人とか正直キツイわ!!いや、耐える自信が無いわけじゃないが……保険は掛けておきたいんだよ。だってさぁ……ずっとそういう衝動は無かったし、スーパー賢者タイムを発動させたことも無い。正直、自分は男として枯れているのかとさえ思ったが……カレン達に接している内に気付いた。俺は枯れていたのでは無く、無意識に抑え込んでいたのだと……それに気付いてからは、さぁ大変だ。某潜入作戦のプロフェッショナルの言葉を借りるなら『性欲を持て余す』という所か。これを意識的に抑えるのに、どれだけの苦痛を強いられるか……と、言うと大袈裟かも知れないが、俺としては誓いを破りたくは無いんだよ。カレン自身は少し迷ったが、結局こちら側に。アイリーンと俺……天秤に掛けて、俺に傾いたらしい。カレンとしては、アイリーンから医療に関して聞きたかったのも、事実なのだろうが……。「貴方と……離れたくなかったんです……」――らしい。……面と向かって言われると、やはり照れる。しかも皆が居る前で……いや、勿論嬉しいけどさ?リビエラは迷うことなくこっち。「私が一緒に行って、変に警戒されたく無いから……ね?」以前、ニックに追い返されたのを気にしているらしい。アイリーン自身がそうした訳でも無いし、幾らニックでもしばらくして頭が冷えてる筈だから、大丈夫だとは思うんだが……。まぁ、良いか……余計な諍いが起きるよりは良いだろう。「じゃあ、お互いに頑張って行こうぜ?」「ああ……また後ほどな?」簡単に挨拶を交わした俺達は、それぞれの任務に着いた。はてさて、どうなることやら。*********シオン達と別れた俺達は、アイリーンを探す為に城を後にした。「保養所かぁ……」「どうしたの、ミーシャ?」「そこの西にね、すっごく小さな田舎の村があるんだ」「メディス村のこと?アンタ、そこに住んでたって言ってたっけ?」ミーシャの呟きに反応するルイセ……ミーシャはどうやら故郷の村を思い出し、懐かしんでいる様だ。ティピの問いには元気よく……。「うん☆アタシの生まれた村だよ。本当に何にもない所なんだけど、自然に恵まれているから、薬草とかいっぱい採れるんだ。あとお気に入りのお花畑があるの!」――そう答えた。そう言えば、前にラルフが……。『メディス村の薬草は質が良いんだ。だから、他で採れる薬草よりはちょっと単価は高いけどね?』とか、言っていたっけな。「ミーシャって、本当にお花が好きなのね」「だな……花言葉なんて知っているくらいだからな」「えへへ♪でも、アタシが花言葉とかを覚えたのも、おじさまに車百合をもらったあのお花畑の思い出があるから……なんですけどね☆」テヘッ♪と、照れ隠しにはにかむミーシャは中々に可愛らしいと思う。「……あの学院長がお花をくれても、あんまりいい思い出って感じがしないけど……」ティピの言い分は中々に酷いが…………否定出来ないのが……何とも。まぁ、何だ……思い出というのは美化される物らしいし……駄目だ、フォロー出来ん。まぁ、それは置いておいて……。「ルイセ、頼む」「うんっ、まかせてお兄ちゃん!」――こうして、俺達はルイセのテレポートで一路ラシェルへと向かった。***********やはり情報を集めるには、彼女の勤め先から調べるのが確実だ。そんな訳で俺達は保養所に向かう。そして情報収集を開始。幾つかの情報を入手する。アイリーンは薬草を採りに行くときなどに、黙って出掛けることがあったという。大概はすぐに戻ってきていた為、心配はしていなかったらしいのだが……。それと、アイリーンの恋人の話も聞けた。その名はニック。シオンの指示を受けたリビエラ達を追い返した奴で、確か闘技大会でそのシオンとぶつかり、軽くのされていた奴……だった筈。何でも、アイリーンと離れたく無くて、自ら辺境警備を申し出たらしい。リビエラ達の話を合わせて考えると、それだけ彼女が大切なんだと分かるが……。今はメディス村に住んでいるらしい。「大体、重要な情報は集まったな……」「だな……ニックに会いに行けば、何か掴めるかもな」ウォレスとゼノスも同じ意見らしい。「じゃあ、次はメディス村だな……む?」俺がそう告げた時、ふとミーシャを見ると、嬉しそうにほくそ笑んでいた。……何でだ?「アタシ、どきどきしてきちゃった」「なんで?」ワクワクが止まらないって感じのミーシャに、ティピはさらっと尋ねた。「あのお花畑が見られると思うと、嬉しくって……。だって、すごく綺麗なんだもん」「成る程……そんなに綺麗なのか……」「きっと、お兄さまも気に入ってくれると思いますよ♪」花畑を見たのは、このラシェルが初めてだったからな……アレより綺麗な花畑か……少し楽しみだな。それから、俺達はメディス村に向かう前に、以前見舞いに来た少女に顔を出しておこうと考えた……しかし、顔を出してみると病室には誰もいなかった。情報を集めてみると、どうやら完全に元気になり、故郷へと帰って行ったのだとか。あの娘の故郷は鉱山街ヴァルミエだと、ナースの人が言っていた。なんでも、しきりに誰かに会いたがっていたそうだ……。……この任務が終わったら、シオンにこのことを伝えなきゃな。そんなこんなでメディス村へ向かう。俺達は、メディス村に向かうのは初めてなので、徒歩で。道中、リザードマンやインプという小悪魔が出て来たが、今の俺達には歯が立たないらしく、軽く蹴散らしてやった。そして、メディス村に到着した……しかし。「ん?1人足りなくないか?」「あれ……ミーシャがいない……。さっきまではいたのに……」ウォレスが最初に気付いて辺りを見回すと、確かにルイセの言う通り、ミーシャがいなくなっている……いつの間に?「どっかで遊んでるんじゃないの?この村にいることは間違いないんだから、そのうち戻ってくるでしょ」「まぁ、大方…例の花畑にでも行ってるんだろう?ミーシャを探すのは後にして、まずはアイリーンか、ニックって奴を探そうぜ?」ティピの言う通り……なのか?こういう時にシオンやラルフが居れば、気を探ってミーシャを見つけることも出来たのだろうが……自身の気の運用を習得したウォレスや、まだ自身の気を感じれない俺達では、ミーシャの気を感知するなんて出来ない。ゼノスの言う通り、今は任務を優先しよう。あちこち情報を聞きながら、捜索するが……村の人達は皆、今日はニックを見掛けていないと言う。むぅ……手詰まりか?そんな時、無関係だが不可解な情報を聞いた。「この村の西側は薬草が育つのに適した土地なんだ。だから、自生している薬草の他に、栽培だって出来るんだよ」「花畑とかは無いのか?」俺は後でミーシャを迎えに行こうと……何気なく尋ねただけだったのだが……。「えっ、花畑?それはないなぁ……」何だって……?「まぁ、個人が作る鉢植え程度ならともかく、この村は薬草栽培一筋だから、花畑は一度も作ったことはないよ」「花畑は作ったことがない〜?ミーシャ、ここに花畑があるって言ってたのに……」ティピの疑問は最もだ……俺も首を傾げているわけだからな。どういうことなんだ……?何か妙なしこりを残したまま、俺達はアイリーン達の捜索に戻った。俺達は村の西側……先程の男が言っていた薬草の栽培に適した場所に向かう。「ここにいるかなぁ?」「とにかく探してみましょ!」俺達は隈なく探してみるが……誰も見つけることは出来なかった。「ここまで探していないってことは、ここには来なかったってことかな?」「これ以上先はないから、もう村に戻ろうよ」「そうだな……」ティピの推測通り、アイリーンが此処を訪れなかったのかは分からないが……ルイセの言う通り、これ以上は先に進めないから、戻る他ないな。こうして村に戻って来た俺達……手掛かりも掴めず、振り出しに戻ってしまったな……そう思った時、宿屋の扉が開き、そこから二人の男女が姿を現す。「あ、あの人ひょっとして……」間違い無いな……ニックとアイリーンだ。二人とも見覚えがある。「ごめんね、こんなことに巻き込んで……」「何を言うんだ、アイリーン。君は僕が守る。どうやらグローシアンが狙われているというのは本当のようだ。僕が魔法学院まで送るよ」「ありがとう、ニック」「君を守るのは当然だろ?それに……君に忠告をしに来てくれた彼らを、追い返したのは僕だからね……なら、彼らに切ったタンカくらいは守らなければ、申し訳が立たないよ」……どうやら、リビエラ達に関する誤解は解けている様だな。とりあえず、無事な様で何よりだ。だが、そこに現れたのは一人の盗賊風の男。随分といきり立っている様だが……。「俺の子分をかわいがってくれたのはお前だな?」「誰だ!?」ニックはアイリーンの前に出て彼女を背に庇う。それと同時に、似た様な盗賊連中がぞろぞろとやってくる。「!この間の野盗の親玉か……」「俺様が来たからには、貴様に一片の勝機もない。俺に勝てるような奴は、いないんだよ!」そう言って大斧を構える親玉(仮)……あの大斧、どこかで見た様な?「逃げろ、アイリーン!こいつらは僕が食い止める!!」「でも……」「いいから、逃げろ!!」そう言って自身も大剣を構えるニック。何となくだが……実力はニックのほうが上に思える。だが、多勢に無勢だな……。「何だか知らんが……俺達の前に現れたのが運の尽きって奴だぜ!!」「ああ、あの盗賊どもを倒すぞ!!」ゼノスを始め、みんなのやる気も十分らしい。それを確認した俺は号令を出した。シオンが居たら、気絶させて捕まえるだけで済むが……贅沢を言うつもりは無い!「お前らは、野郎の足止めをしろ!女の始末は、俺がやる!」「へい!」「あと、ついでだ!村の奴らはみんな殺しちまえ!!」「へっへっ!了解でさぁ〜!!」……下種が。そんなことをさせると思っているのか?俺達を……舐めるな!!「ハァ!!」ズシャッ!!「ぐぇ!?」俺は村人に襲い掛かろうとした奴を、問答無用で切り捨てた。「ゲッ!?貴様らは……!!」どうやら大斧の男が気付いた様だな……俺達を知っているみたいだが……誰だ?ザシュ!!「グハァ!?」「誰だか知らんが、観念するんだな!!」盗賊の一人を切り倒し、ウォレスがそう告げる……ということは本当に知らない奴みたいだな。「誰だか知らないだと〜?なら教えてやる!!俺様はエリックの野郎の代わりに新しく頭の座に着いたゲオ」「なにいきがってんだよ、このゲス野郎が」「な、何だとぉ!?」名乗ろうとしたゲオ何とかだが、そこをゼノスに邪魔される。成る程……以前から色々良からぬことをしてくる、あの盗賊団の新しい頭領か……。エリックというモンスター使いはどうしたのだろうか……シオンの警告を聞いて、団を抜けたか……?「テメェの名前なんざどうでもいい……これ以上の非道は俺達がさせねぇんだからな!!」「ええい!お前から八つ裂きにしてやるわ!!」「やってみろよクソ野郎がっ!!」どうやらゼノスがゲオ(以下略)を引き受けてくれる様だ。なら俺は……。「いやーっ!?こんなところから!!」「へっへっへ……ここから現れるとは、思いもしなかっただろう!」女性の悲鳴に振り向くと、道具屋の影から盗賊の一人が現れた。……何と言うか、伏兵を仕込むのは、こいつらの伝統か何かか?「そんなことはどうでもいい!とにかく、例の女を殺せ!邪魔する奴は……」「ファイアーアロー!!」ドドドドドッ!!ボワッ!!「うぎゃああぁぁ!?あ、熱いぃぃ!?」伏兵はルイセの放ったファイアーアローを喰らい、地面を七転八倒している。「そんなこと……させないんだからっ!!」フッ……我が妹ながら、頼もしい限りだ!「だありゃああぁぁぁぁ!!!」ズシャアアァァァァァ!!ゼノスの一撃を受け、武器を破壊され、手傷を負ったゲオry。「ぐはっ!?お…おのれぇ……せっかく頭になったのに、こんな所でくたばってられるか!!」そう言って直ぐさま逃げ出すゲオ。「逃げ足が早い奴だ……」ゼノスなら追うことも出来たが、深追いして足並みを乱すことも無いと判断したんだろう。それからしばらくして……俺達は敵の全てを掃討した。正直、相手にならなかったな。「ありがとう。おかげで助かったよ」「助かりました」ニックとアイリーンに礼を言われる。「俺たちはアルカディウス王の命令で来たんだ。アイリーンさんを魔法学院に連れて行くようにと」「そうですか」「では、彼女をよろしくお願いします」俺は事の顛末を説明すると、二人は納得してくれた。「アンタはそれで良いのか?」「本当は自分でアイリーンを送り届けたいけど……君達に任せた方が安全みたいだからね」悔しいけど、お願いするよ。と、穏やかな表情でニックは告げた。どうも以前にリビエラ達を問答無用で門前払いしたのを、多少は後悔しているらしいな……。俺達はニックの頼みを了承した。さて、魔法学院に行くか……と、その前にミーシャか。「どうする?探しに行くか?」「けど、どこにいったんだろう……ミーシャ」そうだよなぁ……ルイセの言う通り、居場所が分からなければどうしようも……。「ああ!待って、待って!!」噂をすれば影って……こういうことを言うんだな……。「何処行ってたのよ!?」「ちょっと」いや、ちょっとの一言で済ますには酷すぎるんだが……。「ミーシャ、みんな心配していたんだぞ?それに賊も襲って来たんだ……『ちょっと』で済ますわけにはいかないだろう……」俺がそう言うと、ミーシャはショボンとしてしまい……。「……ごめんなさい」そう、謝ってきた。……?何だ……?何故か感じた――不思議な違和感。俺は――ふと、ミーシャを見て思った。……本当に、ミーシャなのか……?――と。何故そんなことを感じたのか――それは判然としないけどな。「もう良いじゃない、ミーシャも謝ってるんだし……許してあげようよ?」「まぁ……俺は別に構わないが」ウォレスとゼノスも構わないと言ってくれたので、ルイセの言う様に、この話はこれでおしまい。ティピはまだまだ文句がありそうだったが……。俺達はそのまま、テレポートで魔法学院に向かった。寄り道はせずに、そのまま学院長室へ。秘書の人にアイリーンさんを連れて来たことを伝え、中に通して貰う。……気のせいか?秘書の人の表情……随分柔らかくなった様な……?まぁ、それはともかく。「失礼します」「おお、これで全員揃ったようだな」ルイセの言葉で入室した俺達を、微笑みながら学院長は迎えた。「どうも、遅くなりました」「いやいや、気にするな。しかし、いったい誰がグローシアン狩りなんかを始めたのやら」「グローシアン狩り?」時間が掛かったことを謝罪したルイセを、これまたニコヤカに許した学院長……しかし、最後になにやら物騒な台詞を言う。ウォレスもそれを疑問に思った様だ。「次々とグローシアンが襲われているからな、いつの間にかそう呼ばれているんじゃよ……だが、この学院にいれば安心だ」ウンウンと頷く学院長……グローシアン狩りか。シオンが半数以上のグローシアンを保護している……という真実を知る俺達からしたら、少し複雑な気分になる言葉だ。「それではアイリーンさんをお願いします」ルイセがそう告げた後、俺達は学院長室を後にした……しかし、そこで待っていたのは。「やぁ、みんな」「あ、アリオストさん」そう、アリオストだ。どうやら俺達を待っていたらしい。「どうしたんだ?」「実は君たちに話があるんだ」俺が尋ねると、やはり俺達に話があるらしい。「なんの話?」「戦争についてなんだ。フェザリアンらを説得しようにも、戦争している今の状態でそれができるとは思えない。だけど1人で戦争を止めるなんて事はとてもじゃないが出来ない。でも、君たちとならやれそうな気がする。だから僕も一緒に連れていって欲しいんだ。君たちに協力して、この戦争を終わらせたい!!」成る程……気持ちは分からなくはない……だが。「良いのか……?俺達は戦争をしているんだ……その俺達に協力するってことは……つまり、人を殺すことにもなるんだぞ?」俺だって、慣れては来たが未だに震えが止まらない時がある……それに、俺は見ている。ある男の慟哭を……。その男は今も戦い続けている……そいつは慣れて来た様で、慣れていないのを知っている……背負いながら戦う道を選んで戦っている。俺には出来ない戦い方だと思った……だからこそ、俺は誓った。アイツが折れないなら、俺が折れるわけにはいかない。逃げずに戦うと……。戦えない人々の代わりに戦ってやると……。「……それでも構わない。確かに戦争は愚かな行いだ……けれど、それに目を背けて何もしないのはもっと愚かだ!……だから、僕は戦う……後悔しないために」どうやら本気……みたいだな。なら、俺に止める理由は無いな。「みんなはどう思う?」「わたしは、アリオストさんが決めたことなら、何も言えないよ」「そうですよ!アタシなんて、そんな志しなんて無いし……」ルイセとミーシャは賛成らしい。「へっ、まぁ……そういう熱い答えは嫌いじゃないぜ?」「ああ……あとは戦場の空気に触れて、対応出来るかだが……これは慣れるしかないな」ゼノスとウォレスも納得してくれた。「じゃあ、全員一致だね♪」「とまぁ……そういうわけだ。これから宜しく頼むぞ、アリオスト?」ティピも含めて満場一致だな。「ありがとう……頑張るよ!!」こうして魔導学者、アリオストが仲間に加わった。さて、後は戻るだけなんだが……シオン達はどうなっているのか……。