コンコンッ!「失礼しまぁ〜す……っと、お休み中か」あの子の部屋を訪ねるとお昼寝中らしく、すやすやとお休みしていた。流石に邪魔したら悪いな……とは思うが、せっかくここまで来たのだから、このまま帰るのは気が引ける。俺はベットの側に椅子を置き、腰を降ろした。「……出来るなら起きるまで待っていたいが、時間が無いからな……」皆の実習も見なきゃだし、時間も限られているしな。俺はGLチップスを取り出す。「確か、ライエル卿のカードが欲しいんだよな?」GLチップスは所謂ポテトチップスで、前の世界で見た様な包装がされている……袋の材質も非常に似通っている様に見える。……どうやって作ってるんだ?……まぁ、それはともかく…だ。この袋に更に張り付いているのが、灰色をした少し縦に長めなカードサイズの袋。表面には赤文字で『グローランサーチップスカード』の表記が。俺はそれを剥がし取る。寝ているこの子を起こすのは忍びない……ならば、先に袋を開けておこうかと……。どのみち、病人であるこの子がポテチを食えるとは思えんし……ライエル卿のカードだけでも喜んでくれるだろう。まぁ、カードを当てる迄のドキドキ感は味わえなくなるかもだが……。「……問題は俺にライエル卿のカードを引くだけのドロー力があるかどうか……」この身体はチートで出来ている……が、引きの良さまでがそうとは限らない。「まぁ、モノは試し……と」パックを開けて出て来たカードは……。「……リーヴス卿かよ」インペリアル・ナイト……オスカー・リーヴス卿のカードだ。腕組をしてスッと佇み、微笑をこちらへ向けている。「随分と精巧に出来ているんだな……まるで写真みたいに……コレ、肖像権とか大丈夫なのか……大丈夫か」向こうの世界ならいざ知らず、こっちに版権なんてあるとは思えんし。「っと……今はそんなことより……」俺は新たなGLチップスを取り出し、カード袋を開ける……そこには……とんでもないカードが……。銀髪で長身の男……背には身の丈程の大剣を背負い、ゼノスの様な白い鎧を着けた……。「って、俺かよ!?」一瞬、ロス○ラのライ?とかボケようかと思ったが、カードのインパクトが強く、結局はツッコミを入れてしまった。そのカードは、俺が闘技大会まで着けていた装備を纏った姿で描かれていた。背には愛剣リーヴェイグ、プレートメイルを身につけ……腕を組んでこちらに全開の笑顔を向けている。「……俺、こんな写真取ってないよな……?いや、写真は無いにしてもこの絵は……」もしかしたら、闘技場で荒稼ぎしていた時に応援してくれていた俺のファンの誰かが絡んでいるのかも……。そう考えでもしないと不気味過ぎる!そもそもこのGLチップスが、スキマ屋ランザック支店でしか扱っていないってのが妙だ……明らかに売る気が無いとしか思えない!……今度、ランザック支店のオッサンを締め上げるか?多分、詳しい話は聞けんのだろうな……。何と言うか、大いなる意思が働いてるとしか思えん。特派員はこれからも、この謎を全力で追いたいと思います!!「ってそれはともかく……良かった、寝ている様だ……」思わずツッコミ入れてたからなぁ……起きてしまったかと思ったが、どうやら寝返りをしただけで終わった様だ。その後、もう一袋開けたら無事にライエル卿のカードが出たので一安心。ここで意外性発動で、ボスヒゲ(黒)のカードなんて出た日には『何でやねんっ!!?』とか言ってカードを叩き付けてただろうからな……。いや、ボスヒゲのカードがあるかは知らんがね?その後、せっかくだからと、リシャールとジュリアンのカードも揃え、現インペリアル・ナイトを勢揃いにしてやる。その四枚のカードを花瓶の置いてあるテーブルに置く。勿論、ライエル卿のカードを先頭にして。そして簡単なメッセージを書き置きして……と。『早く元気になるのを祈ってるよ。銀髪のお兄さんこと、シオンより』自分のことをお兄さんと呼ぶのはかなり抵抗があったが、まさかオッサンなんて書くわけにはいかなかったしなぁ……。俺は病室を後にした……皆の実習を見なきゃいけないしな。で……皆の元に帰って来た訳だ。「ただいま〜♪ちゃんと勉強していたか?」「お帰り。僕は一通り予習が終わった所だよ」俺の声にラルフが返してくれる。周りを見ると、皆一通りの予習は終わっている様だ。「んじゃ、実習を始めるとしようか?」ラシェルから少し離れた街道に移動……早速、実習を開始することにする。ルイセ、カレン、ミーシャ、リビエラは魔力を高める為の瞑想、覚えた魔法の実戦。ウォレスは気の感覚を完全にモノにする為に、身体のあちこちに気を巡らせ、纏う練習。ゼノスとカーマインは気の感覚自体を掴む為の座禅。ラルフは仮想敵を相手にしたシャドー。ティピはひたすらに蹴りの練習。打つべし!打つべし!打つべしぃ!!みたいな感じで……キックだから蹴るべし……か?「秘技!クラックシュートォ!!」餓狼伝○のテ○ー・ボ○ードの必殺技ですが何か?他にもアン○ィ君の超・必殺技や、東さん家のジョーさんのムエタイ技の一部なんかも伝授しました。物理的に地獄に落とすムエタイ界の死神の必殺技なんかも教えたが……あれはティピじゃ実演出来んだろう。俺?勿論出来るぞ?アレは言うなれば『物凄いキック』だからな……やろうと思えば余裕です。後は出来るといえば、あらゆる武器の申し子の必殺技くらいか……。アレも『物凄く精密かつ早い斬撃』だからな。基本を必殺にまで昇華させた技なら、ラーニングせずとも再現可能だったりする。それもこれも、数々の戦士達と戦い、彼らの技能をラーニングしてマスターし、アレンジした今の技量があるからこそな訳だが…と、話がそれたな。お、ミーシャがマジックフェアリーを使い出したな……相変わらず空間把握能力はずば抜けてるな……だが。「あ……」ドガガガガッ!!シーーーン………。「またやっちゃった♪」テヘッ♪と舌を出しながら、ウィンクをしてごまかそうとするミーシャ。何が起こったか簡潔に説明すると、調子に乗ってマジックフェアリーを操っていたのは良いが、調子に乗りすぎてコントロールを失い、フェアリー達が散らばり着弾。皆、辛うじて当たらずに済んだが……。「な、何をしてるかアンタわぁぁぁぁ!!!」ドゴンッ!!「みぎゃ!?」おお……超○破弾……早速使いこなしているティピが素敵です。お〜!?ミーシャが軽く吹っ飛んだぞ!「危うく当たる所だったじゃない!!怪我したらどうすんのよ!!」「ティピちゃん……酷すぎるよぉ………」結構痛かったらしく、ティピに批難の視線を向けるミーシャ。いや、十中八九で自業自得だろう。……どうやら、ミーシャは空間把握能力は高いが、集中力が散漫みたいだな。戦闘中はそうでも無いんだがなぁ……普段は……な?「とりあえず、ミーシャは反省の意味を込めてその場で正座な?」「そ、そんなぁ……」「……何か文句あんのか?」「な、何もありません!!」俺の決定にブーブー言うミーシャだが、軽いメンチビームを飛ばしてやったら押し黙った。まぁ、当たったら洒落にならない威力だったんだから、正座くらいで文句は言わないで欲しい。「良いか?魔法には集中力は欠かせないモノだ。これは気にも通ずることだけどな……だからこの正座は集中力を高める意味でもあるのを忘れないでくれ」別に罰というだけでは無く、修練という意味合いも兼ねているのだ。「そうだったんだ……うん!アタシ頑張る!!」俺の真剣な言葉に納得したミーシャは、気合いを入れて正座する。まぁ、集中力を高めるならウォレス達みたいに座禅でも良いんだが……そうなると罰にならないだろう?ニヤリ……と、心の中で悪い笑みを浮かべる俺。さてさて、他の面々の様子も見なければ。時間もそれなりに経ったし……本日の締めに入りますか。「ではこれより、仮想敵を想定した模擬戦を開始します。ルールは夕方までにその敵を降参させるか、逃げ切るかすれば皆の勝ち。敵に捕まるか降参させられるかしたら皆の負け……あと、モンスターの邪魔が入らない様に数百メートル四方に簡易結界を張ったから、範囲はその結界内に限定させてもらうぞ?結界の外に出たら負け……後は保養所内に逃げ込んだ場合も降参したと見なすからそのつもりで。何か質問は?」俺は皆を集め、模擬戦をやることと、そのルールを説明した。「何だか鬼ごっこみたいだね」「何だか怖そうな……楽しそうな……」ルイセとミーシャはそんなことを談笑している。「実戦形式なわけか……その仮想敵を倒した場合はどうなるんだ?」「勿論、皆の勝ちだよ……勝てるならな」「……何だって?」ウォレスの質問に答える俺だが、その答えを聞いて首を傾げてしまう。「それで、その敵はどこにいるの?」「?皆の目の前に居るじゃないか」ティピの質問に簡潔に答えてやる俺。「えっ?目の前って……シオンさんしかいませんけど……?」「ちょっと待て……まさか……」カレンが頭にクエスチョンマークを浮かべる……一方、ゼノスは感づいた様だな。「模擬戦の相手は俺だ。皆VS俺という図式だよ」………………………。…………………。……………。…………。……。…。「「「エエエェェェェーーーーッ!!!?」」」耳をつんざく程の声を上げたのはルイセ、ミーシャ、ティピ……ちょっ、聴力もチートなんだからキツイって…!!「待て!!お前が相手ってそれは……」「心配しなくても、俺はハンデとしてアレンジ魔法は使わないし、加減もするから大丈夫だって」ゼノスが少し焦りながら言うので、ちゃんと説明する。「いや、俺も最近は対人戦の訓練はしてないからさ、良い機会かなぁ…と」「……マジかよ?このメンツ相手だぞ?幾らお前でも……」なんてゼノスが心配してくれるが、無用な気遣いだな。「別に無理強いはしないさ……気が乗らないなら辞退しても良い。まぁ、俺の勝ちは揺るぎないだろうから、やる気にならないのは仕方ないだろうがね……」少し、某赤い弓兵みたいに皮肉を込めてみる。「……良いだろう。俺は参加してやるぜ!!俺だって修業してるんだ!やってやろうじゃねぇか!!」よし、ゼノスは参加っと……クックックッ……ゼノスにはいつぞやカレンに妙なことを吹き込んでくれた礼があるからな……辞退されては困るのだよ。「んで、皆はどうする?マジで無理強いはしないぜ?」「僕は参加するよ。自分がどれだけ成長したか興味あるし、シオンとの模擬戦も久しぶりだしね?」「俺も参加する……どれだけ俺の実力がアンタに通じるか試してみたい」「なら俺も参加するか……試してみたいこともあるしな」ふむ……ラルフ、カーマイン、ウォレスは参加……っと。「んで、女性陣はどうする?」ルイセとミーシャは参加を表明……リビエラとカレンは迷ったが、参加することにした。仮想とは言え、俺とは敵対したくなかったらしい。だが、同時にどれだけ成長したかも見て欲しかったのだとか……。