「………」……ザッ!……ザッ!……ザッ!俺は一人無言のまま、被害者達の埋葬を進める。俺が被害者達の埋葬をすると言った時、皆は残って手伝うと言ってくれたが、俺が断った。皆には生き残った村人の護衛もして欲しかったし、ここで起きた出来事を村人達に説明しておいて欲しかったからな。それでも8人+αは多過ぎだとは思うが……。俺が頑なに断った。何故?と、聞かれると答えに困るんだが……。強いて言うなら、皆には『引っ張られて』欲しくないからな……。周囲に散らばっている骨も集めて、それを骨山があった場所に集める。本当は日の当たる場所に移して、一人一人の墓を作ってやりたかったが……。古い物から、新しい物まで……様々な骨が混じっていて正直、誰が誰の骨か分からなかったから。外から土を運び、それを骨の山があった穴へ……。それを何度も何度も繰り返す。俺の体は異常なまでに身体能力が高い。だから、これくらいではへこたれないし、素早く土の運搬が可能だ。……こういう時は、チートな体に感謝だな。それからしばらくして……。埋葬を終えた俺は、適当な岩を探し、それを運んでくる。そしてそれを『加工』する。それは洋風の墓石……。名前は無い……誰が誰、と言うのは分からないからだ。「……すまない……」俺は漂う怨恨の残滓達に謝罪する。俺が違う行動を取っていれば……彼らは助かったかも知れない。……なんて言うのは自惚れだな……。「……もう、此処で犠牲者が出ることは無い……だから、ゆっくり休んでくれ」俺はそう告げて祈る――心から。安心して逝ける様に――願った。――霊達は徐々にその数を減らして行き、最後にはその姿を消した。そして俺は、小さな瓶に入った液体を取り出し、それを辺りに撒く。俺の調合した聖水だ。場を浄める効果がある。聖水が空間に浸透していき、淀んだ空気を放つこの場所が、清んだ空気を放つ場所に変わる。「……もう……大丈夫だからな……」これで今後は此処を荒らす様なモンスターは近付かないだろうし、霊達も無事に逝った様だから……。「……後はアンタだけだ」俺は側に横たえていた、村長の息子の遺体を見て言う。体中ボロボロで、片腕も食いちぎられているが……。これだけ肉体の形を保っている以上、まとめて葬る必要は無いし、ここに葬られるよりは日の当たる場所に葬られた方が良いだろう。俺は彼を担ぎ上げ、かつてウォレスが仮面騎士に襲われた場所に赴く。「……ここなら良いだろう」俺は村長の息子さんを横たえ、穴を掘る。ここなら日も当たるし、見渡しも良い……丁度良いだろう。深く穴を掘った後、村長の息子さんを埋葬した。そして木を切って『加工』して、木で出来た十字架を地面に刺す。「……このナイフ、確かに渡すからな」俺はそう告げると、村の方へ戻って行った。村に到着後、俺はカーマイン達に迎え入れられた。何やら妙な雰囲気だが……。まさか、村長暗殺事件が起きたんじゃ……。しかし詳しく聞くとどうにも違うようで……。「ゼメキス村長が行方不明?」「ああ……俺達が村に着いた頃には……」なんでも、村に着いたら村の雰囲気が慌ただしくなっており、村人に聞いたら村長が行方不明になったと言う話だ。そこでカーマイン達は、村長の家に状況を確認しに向かった。そこに居たのは一人の男性と一人の女性……。「話を聞いたら、その男の人が最初に村長の家に訪ねて来たらしいわね……」「で、返事が無かったから妙だと思って、ドアノブを捻ったらドアが開いたそうでな……中に入ってみたらしい……そうしたら村長はおらず、代わりに血が付着した村長の杖が落ちていたそうだ」リビエラとウォレスが説明してくれる。やはりシャドー・ナイトが動いたか……。俺は精神を集中させ、村長の気と魔力を探る……その距離を伸ばす……更に……更に……。「……!」見付けた……!!どうやら村長は無事みたいだな……。転移の腕輪を使ってくれたか……。どうも多少の傷は負ったみたいだが、あそこにはシルクも居るし、大丈夫だろう。「……んで、村人連中は国に捜索願いを出したそうだが、今は手一杯でこっちに兵を回す余裕が無いらしいぜ」ゼノスがそう言う。まぁ、今はエリオット達の軍が進撃しているからな。そちらに兵を割いている為、こちらに回す余裕が無いのだろう。「それで、皆さん心配していらしたんですが……ラルフさんが説明してくれたんです」「!?ラルフ……お前、喋ったのか?」「ごめん……シオン。村の人達の不安そうな様子が見ていられなくて……」カレンが言うには、村人達が村長の安否を思い、不安を募らせていた時にラルフが口にしたそうだ。村長さんは生きています……と。ラルフも気と魔力が読めるからな……分かるのも当然なんだが。そこで、周りに追求されたラルフは話してしまったそうだ。俺達がしてきたこと……グローシアンの保護と、グローシアンを殺害していた連中、シャドー・ナイトの情報を……。それで村人達の不安は幾らか取り除けたみたいだが、代わりに皆が……。妙な雰囲気になっていたのはそれが原因か?……まぁ、ラルフはミーシャの正体なんか知らないから仕方ないのかも知れないが……。「アタシたち、これでも怒ってるんだよ?」「先生がグローシアンの保護をしていたなんて……ちっとも知らなかったから……わたしたち、信用されてないのかな……って」ティピがプンスカ怒り、ルイセは少し悲しそうだ。「ちったぁ俺たちを頼りやがれ!これでも口は固いつもりなんだからよ?」「そうだよ!……まぁ、アタシは口が軽いというか、お喋りというか……だけど……でもでも!そういう大事なことを言い触らしたりしないよ!」ゼノスとミーシャもそう言ってくれる。……確かに、俺はもっと仲間を信頼すべるきなのかも知れないな。「私は一応、止めたんだけどね……皆にも知っていてもらった方が良いかな…ってね」そう言って、バツの悪そうな表情をするリビエラ……。「まぁ、バレちまったなら仕方ないよな……」正直、不安が無いと言えば嘘になるが。だが、こいつらなら信じるに値すると思っている。……だから。「……すまない、皆を余計なことに巻き込みたく無かったんだ」だから、素直に謝ることにする。「気にするな……仲間なんだからな。水臭いことは言いっこ無しだ」「そうですよシオンさん……私だって、貴方を支える位は出来るんですから」ウォレスとカレンはそう言ってくれる……他の皆も同様に。正直、嬉しく思う。だがしかし……ありがたいが故に、秘密は守ってもらわないとな。「皆、このことはくれぐれも内密に頼む……どこに目と耳があるか分からないからな」いや、本当に……一応、あのアジト周辺には認識疎外系の結界と、敵意や害意を持つ者を通さない選別系結界を張ってあるから、ゲヴェルとかにはどうしようもないんだが……問題はクソヒゲ(マクスウェル学院長のこと)だ。ヒゲ自身が赴いた場合は、間違いなく通れないだろう。しかし、別の誰かが来た場合は?イリス……最近感情が育って来てはいるが……ヒゲに命令されれば……。いや、正直に言えば今のイリスに関しては完全に不確定要素だ。もしくは真実を知らない人間を寄越すかもしれない。そろそろ、ヒゲがグローシアン保護を名目に動き出す頃だ。原作において、数多く保護されたであろうグローシアンも、生き残りはアイリーンただ一人となっていた。想像でしか無いが、他のグローシアンは実験によって殺されたのだろう。故に、俺がグローシアンの保護をしているのを知られるのは避けたかった。真実を知ったヒゲが、グローシアンの明け渡しを要求するかも知れない。善良という皮を被ったヒゲの本性は、未だに誰にも見破られていない。だから、最悪のパターンも考えられる。……まぁ、幾つか対策は立ててあるけどな。「それは勿論……だが、王には報告するけど……構わないよな?」「…そりゃあ仕方ないわな」俺はカーマインの問いにYESと答える。出来れば勘弁して欲しい所だが……ヒゲが国を通してグローシアンの明け渡しを要求してくるかも知れないし。まぁ……何とかなるか。さっきも考えていたが、策が無いわけじゃないしな。その後、俺は村長の家に行き事情を説明。犠牲者達を埋葬したこと、村長の息子さんを埋葬した場所のことも話した。男性と女性は悲しみに包まれた……聞くところによると、男性は息子さんの友達、女性は息子さんの恋人だそうだ。……俺は村長に、息子さんの形見を必ず渡すことを告げてその場を離れ、皆と合流した。「とにかく、一度城に戻って報告した方が良いな」ウォレスの提案に頷く俺達。こうして俺達はテレポートでローランディアに帰還したのだった。***********ローランディア城・謁見の間。「戻ったか。それで、何か成果はあったかな?」「すごかったよ!ゲヴェルの卵がいっぱいあったの!」「ゲヴェルの卵?」ティピの言い分に困惑するアルカディウス王。そりゃあ、いきなりゲヴェルの卵とか言われてもな?それにゲヴェルじゃなくてユングだし。「我々は彼らの見た夢と、自分が腕を切り落とされた場所を手懸かりに調査を行いました。そしてバーンシュタイン王国内の滝の裏に作られた、ゲヴェルの卵が並ぶ場所へ行ったのです」「正確にはその卵はゲヴェルそのものでは無く、よく似た小型の異形の物ですが……その辺りでは最近、人が行方不明になるとの事でした。調査をすると、捕らえた人間を食料として、その小型の異形を繁殖させる場所だったのです」ウォレスとゼノスが王に報告をする。さりげなく訂正しているゼノスがナイスだな。「その異形はユングと呼ばれていましたが……、そのユングの卵は全て駆逐しておきました……」「そうですか……しかし、その様な場所があったとは……それで問題のゲヴェルはどうでしたか?」カーマインの報告を聞き、何やら思案するサンドラ。だが、直ぐに思考を切り替えてゲヴェルについて聞く。「それはどこにもいませんでした。いたのは、お母さんを襲ったあの仮面の男と、ユングって呼ばれた小さな異形だけで……あ、それと、その側の小さな村で聞いた情報だけど、バーンシュタイン王国内でグローシアンがいなくなったり、変死したりしているらしいんです。それでわたし達が洞窟を調査している間に、グローシアンだった村長さんが行方不明になってしまって……」「……………」今までに起こった出来事を、細かく報告するルイセ。それを聞き、顔を歪めるアルカディウス王。「むっ?どうなされたのですか、陛下」「実は、我が国内でも、グローシアンが失踪するという事件が多発しているのです」ウォレスの疑問に答えたのはサンドラ……いや、多分だが……失踪事件の殆どが俺関連だと思うぜ?「そのことなのですが……陛下にお伝えしなければならないことがあります。実は、ここに居るシオンはグローシアンの保護を秘密裏に行っており、行方不明になったグローシアンの大半を保護しているとのことです」「なんと!シオン殿、それはまことか?」カーマインの報告に目を丸くするアルカディウス王。「はい、真実です」さてと、説明しなければな……上手く説明出来ると良いんだがな…。