「はぁっ!!」ズシャア!!!「…ぐ…あぁ……」グジュウゥゥゥゥ―――「また溶けちゃった……」どうやらカーマインも勝負が着いた様だな……。しかし、何度も思うが気分の良いモノでは無いな……あの仮面の下がカーマインやラルフと同じだと思うと……尚更な。「ウォレスさんの傭兵団を全滅させた怪物って、今のやつなの?」「……いいや、違う。似てないことはないが、隊長と戦った奴はもっとでかかった。あの隊長が手こずるような相手だ。今の奴とじゃ比べものにならん」「カーマインさんや、ラルフさんの見た夢ではどうだったんでしょう……?」ティピが質問するが、ウォレスは否定の意を示す。というかティピよ……水晶鉱山のあの人型を見ただろうに……少し考えれば一目瞭然だと思うんだが。再確認のためか、カレンがカーマインとラルフにも聞いてみる。「……ウォレスの言う通りだろう。以前見た夢ではデカい怪物が、仮面の男達とさっきの小さな怪物に命令していたからな……」「多分、ウォレスさんが言っているのはあの大きい方だと僕も思う」カーマインとラルフの見解も一致する様だ。「それじゃ、今のは怪物の子分だね」「ユングとか言ってたね」ルイセの言葉は言い得て妙だな。ユング……α型とβ型がおり、ゲヴェルによく似た銀色の奴がα型。接近戦タイプのユング。β型は中距離攻撃型で、地面を隆起させて攻撃してくる。形こそゲヴェルに似ているが、色は微妙に金色がかっている。それはともかく、俺達は滝の裏の洞窟へ歩を進める。中からは微かな肉の腐臭と……血の臭い……この場所の意味を考えたら理由も分かるのだが……正直、胸糞悪ぃ……!中は完全にユングの巣窟となっていた。奴らはゲヴェルから生み出された存在だからか、あるいは本能というモノが無いからなのかは分からないが、気当たりが通じない。故に倒しながら進んで行く。まぁ、強さ自体はたいしたことないし、この面子なので思いの外スイスイ進んで行けたが。「ユングとか言ったっけ?なんでこんな洞窟の中に、いるのかなぁ?」「奥まで行けばわかるよ!」「確かにな」ティピがこの状況に疑問を持つが、ミーシャはお気楽に答える。しかし、それは真理であり、ゼノスも頷いた。しばらく進むと、そこには……。「ねぇ、ねぇ……この白いのって……」「きゃぁっ!なななななな、ナニコレェ……!?」「これって、人の……?」ティピが見付けたソレを見て、ミーシャは怯え、ルイセは驚愕に眼を見開く。そこには穴に打ち捨てられた人骨の山……余りにも膨大な骨、骨、骨…。砕かれ、無惨に原型を留めないモノ……肉がこびりつき、腐敗が進んだモノ……その形状から、女子供のモノまで……腐り過ぎて蝿がたかってやがる……。そして……『見えてしまった』……無念の残滓が。『聞こえてしまった』……怨恨の叫びが……。「……恐らく、あのユングの餌として喰われた人達だろう……」「そ、そんな……ひどい……」俺は、怒りと吐き気と憎悪……そんなグチャグチャに混じり合ったモノを押さえ込みながら、言葉を発する。カレンは俺の発言とこの惨状を見て、涙を浮かべ愕然となってしまう……。「行方不明の人たちといい、さっきの化け物といい……」「随分と胸糞悪ぃことをしてくれてるじゃねぇか……」ウォレスは冷静に状況を分析し、ゼノスは怒りを隠そうともしない。「とにかく、この奥にその秘密があるってことか……」カーマインがそう締めくくる。その秘密を知る身としては、些か複雑な心境ではあるが……な。……考えてみたら、俺って隠し事ばかりだな……仲間である筈の皆に……。その後、俺達は奥に向かい進んで行く。「助けてくれぇぇ〜!!」「ここから出してくれぇ〜!!」聞こえて来たのは、男達の悲鳴……。「あ、これはっ!」そこにあったのは無数のピンク色をした塊……ユングの卵……或いは繭みたいな物。「何だ、貴様らは……」「それはこっちの台詞だ。お前たち、ここで何をしていやがる!」「ふん!死に行く奴らに説明することなどない…お前たちもユング達の餌にしてやる!!」こちらを見付けた仮面騎士に、ウォレスは問いをぶつけるが……もちろん仮面騎士はまともに答え様としない……が、もはや答えは言った様な物。「…ここはそのユングとか言う奴を製造、飼育する場所……或いはユングの実験を行っていた場所だな?」「!?……どうやら、益々貴様らを生かして帰すことは出来なくなったな……」俺の言葉に驚愕を現にしながらも、警戒を強める仮面騎士。だが……そんなことはどうでも良い。俺の視線に映るのは、一人の男……見るも無惨にボロボロな姿で、今にも命の灯が消えそうな男……。その手にナイフを持ち、襲い来るユングに対峙する男……。俺は知っている……それが村長の息子であり、彼が護身用に持ち歩いていたナイフだと……。原作では見た目に変化は無かったが、見るからにボロボロだ……片腕はちぎれ、所々肉を食いちぎられ、えぐり取られている……見て分かる。――もう、助からないのだと。生きているだけで奇跡なのだと……。これじゃ、ヒーリングは疎かレイズすら効かないだろう……。「食イ殺ス!!」「……う……ぐぅ……」ユングの内の一匹が彼を喰らおうとする……だが。ザシュッ!!!「ゲギャ!?」……俺がそれを許すと思うか?「何!?」俺は瞬時に彼を襲うユングに接近し切り捨てる……何が起こったか、仮面騎士には理解出来なかったのだろう……多分、俺の動きに辛うじて気付けたのはラルフくらいでは無いか……?まぁ、そんなことはどうでも良い……。「人間風情がなかなかやるようだな」「黙れクズが……貴様はもう喋るな……」その声で……俺のダチと同じ声で話しているんじゃねぇ……。「随分と強気だな……だが、こうすればどうだ!?」「な、なんだ……」ガラガラガラガラ……。「まさか……!」仮面騎士が牢屋を開け放つ……。中にいた二人の男の顔が青ざめる……。「さぁ、こいつらを食らうがよい!」「ニンゲン、喰……ギャ!?」五月蝿い……。俺は更に近場のユングを切り捨てる。「……はっ!?ボサッとしている場合じゃないぞ!俺達もシオンに続くんだ!!」俺の殺気に当てられていたのか、それともこの展開に着いていけなかったのか……その両方か。とにかくカーマイン達も動き出した。俺はグローシュ波動をぶつけながら、仮面騎士にゆっくりと歩み寄る……。「ぐぅ……!?く、来るなっ!!?」「……苦しいか?辛いか?……だがな……お前達に餌にされた人間達は、もっと苦しかったんだ……苦しかったんだっ!!!」この世界に来てから、初めて『見て』しまった……あの骨の山に……いや、この洞窟の中に漂う無数の怨恨の霊を……。痛いって……苦しいって……ちぎらないで、食べないで……止めて、ヤメテ……助けて、タスケテ……って……。「……慈悲は無いぞ」俺は心が冷えて行くのが感じられる……俺は仮面騎士がカーマインやラルフと同じ存在であるのを知っている……だからやり難さを感じていた……だが、もうそんなことはどうでもいい……。「……貴様は死ね」「ぐっ……!?な、舐めるな人間がぁ!!」奴は俺に切り掛かって来た……しかし、俺はその剣を指二本で白羽取りし……。ズバシュッ!!!「ごぶぁ!?」奴を袈裟掛けに切り捨てた。奴は肩から腰に掛けて真っ二つとなりながら、まだ辛うじて息がある様だった。人間なら即死だというのに……たいした生命力だ。「に、人間のどこにここまでの力が……。だがここでの目的は既に果たした……お前たちは……手遅れ……」それだけ言い残すと、奴は溶けて消えてしまった……。どうやらカーマイン達もユングを片付けたみたいだな。「これで最後……?」「……そうみたい」ティピとミーシャがそんなことを言うが、俺はそれを否定する。「いや、まだ終わっていない」ズバッ!!俺は手近にあったユングの卵を切り捨てる……すると中から真っ二つにされたユングが出てくる。「こ、コイツは……」「このピンクの卵だか繭には、ユングが入っている……放っておくと開放されるだろう……魔法でも武器でも構わないから……始末しておいた方が良い」ゼノスがそれを見て驚いているが、俺はユングの卵の駆除を提案する。「そうだな……これだけの数が一斉に開放されたら厄介だしな」「手分けして壊しましょう」その提案にウォレスが頷き、リビエラも肯定した。他の皆も異義は無い様だ。しばらくして、ユングの卵は全て駆除した。原作と違い、壁や天井にも張り付いていやがったので、それなりに対処するのに時間が掛かった。「ありがとうございます!おかげで助かりました」「無事で何よりだ」「そう言えば友達が……村長の息子さんは?」「それは……」ウォレスとラルフが、捕まっていた男達を解放していた時……俺は。「……何か、言い残すことは無いか?」「……親父に…村長をしている…親父に…これを……。……頼……む………」今にも息を引き取りそうな男から、彼のナイフを受け取る。「分かった……必ず渡す」……俺にはそれしか言えなくて……それが悔しくて、けれどそれを顔に出さずに頷いてやる。「……あり……が………う…………」――そう言って、彼は息を引き取った……。礼なんて……言われる資格なんか――俺には無い。俺はリヒターの存在に脅え、それが杞憂と分かった時も敢えてこの村は避けていた…今の今までここに訪れることは無かった……もしそれが無ければ、助けられたかも知れない……俺が見殺しにした様なものだ……。「……シオンさん」「幾ら力があったって……頭を使ったって、全てを救うことは出来ない……それは理解している。理解している――筈なんだ……」だけどやり切れない……こんな死に様を見て、納得出来る訳……ないっ!!「……シオン……」「大丈夫だ……カレン、リビエラ……俺は大丈夫だから」けれど、納得するしかない……俺がこうしている間にも、この世界の何処かで誰かが傷付き、死んでいるのかも知れない。だから改めて誓った……せめて眼の届く場所にいる人は守ろうと……。俺達は合流する……彼の最後を伝えなければならないから。「あいつはどうですか?」「……これを村長に渡してくれって……そう言って息を引き取ったよ……」「そうですか……」彼らは俯く……村長の息子が一人抵抗していたのを知っているのだろう。なぶり殺しにされる所を見させられていたのだろう……。「さ、ここから出よう。村の連中にここのことを教えてやらないとな」「はい」「皆は彼らを送り届けてやってくれないか……俺は後始末をしてやりたいんだ……」ウォレスがそう言い出すが、俺は後始末をするために残ることにした。気休めかも知れないが、『彼ら』を弔ってやりたいから……。苦痛を訴えながら漂う『彼らを』。俺が言えた義理では無いのだろうが……もうお前達を苦しめる奴らは居ないんだと……もう逝って良いんだと……教えてやりたいから。