「もしかしたら、行方の知れぬグローシアンの中には、生きている者もおるかも知れんが……」……どうやら、ゼメキス村長は怪しいからオズワルド達に同行しなかった……という訳では無いらしい。『生きている者もいるかも知れない』そう言ったということが全てを物語っている。「それって、いつから?」「そうだな。行方不明者が出始めたのはリシャール王の戴冠式が行われる前から…死者が出始めたのはその後辺りからじゃな」……ハハハ、やはり死者じゃない行方不明者の大半は俺だな。一応、本人の許可は取っている筈なんだが……。「お嬢ちゃん達も気をつけるのじゃよ」「はい、気をつけます」素直に頷くルイセ……だが、俺は少し考え事をしていた。「……みんな、すまないが少し外で待っていてくれないか?」「…どうしたんだ?」「少し、ゼメキス村長と話したいことがあってさ」俺の言葉にカーマインが疑問を持つが、それに答えを返す俺。「なら、今話せばいいじゃない」「出来れば、あまり聞かれたくない類の話なんだ……頼む」提案するティピに、俺は軽く頭を下げながら言う。「……分かった、俺達は外で待っていよう」「シオンには、何か考えがあるんだろうからね」ウォレスとラルフがそう言ってくれる。ラルフに到っては、10年以上を共に行動してきたからな。俺がグローシアン保護関連の話をすると、理解しているのだろう。流石はお気遣いの紳士。――正直、助かる。「じゃあ、外で待ってるからな」ゼノスがそう言い残し、皆は外に出て行った。今この場にはゼメキス村長と俺しかいない。「さて、わしと話したいことがあるそうじゃが……」「ええ、是非とも村長にお伺いしたいことがありまして……」「どんなことかな?」俺は全てを話す。以前、村長を訪ねて来た男達の特徴、その男達に指示を出していたのが俺だということ。そして俺達のしていること……グローシアンの保護と、裏でグローシアン抹殺に暗躍する者のことを……。「そうじゃったのか……」「聞かせて下さい……何故、誘いを断ったのか……貴方がアイツらを信用出来なかった――ということは無かった筈だ」「……さっき言ったことが答えじゃよ」「えっ……」さっき言ったこと……?「わしがグローシュを持つ者じゃから、滝から無事に戻って来れた……ならば、わしが居なくなれば村人達はどうなる?」「………」そういう……ことか。「お言葉ですが……グローシュが扱えるからと言って、安全とは限りません……現に犠牲者も出ています」「お主が嘘を言っていないのは、眼を見れば分かるよ……わしがたまたま、運が良かっただけだと言うこともな……。じゃが、それでも村人達を捨てて逃げられなんだ……わしが居てもたかが知れておるかも知れん……じゃが、皆の不安を少しでも和らげてやれるのならば……村を預かる者として、わしは残らなければならんのじゃ」何と無くそんな理由じゃないか……とは思ったんだがね。「ですが……」「大丈夫じゃよ。わしとて、無駄に命を使うつもりは無い……この腕輪もあるしの?」「それは……」村長が見せてくれたソレは、転移の腕輪だった。……やはり、捨てずに持っていてくれたか。「もし危なくなれば、これを使わせて貰うよ……危機を伝えてくれた彼らも、そしてお主も……真っ直ぐな眼をしておる……だからこそ、信じよう」「……ありがとうございます」俺は村長に深々と頭を下げた。……正直、この人の人生経験の豊富さを感じたというか……。その心の広さを感じたというか……。死なせたくない人だと…そう思った。「一つ聞いても良いかな?」「何でしょう?」「何故、仲間である彼らに真実を話さないのじゃ?お主がわしと二人で話したいと言うことは、仲間には聞かれたくないということじゃ……それは何故なのかね?」俺はゼメキス村長の言葉を聞き、返答に困ってしまう。まさか、ミーシャを通じてクソヒゲに監視されている可能性があるから……なんて言えないしな。「皆に心配を掛けたく無い……では、駄目ですかね?」ミーシャの件が主な内容だが、これも確かに俺が思っていることだ。アイツらに余計な心配を掛けたくない。ラルフとリビエラは知っているけどな?「ふむ……そうか。いや、つまらないことを聞いたのう。忘れてくれ……くれぐれも気をつけてな」「村長も……十分に用心して下さい。それでは」俺は村長にくれぐれも用心する様に言ってから外に出て、皆と合流した。「お話は終わったんですか?」「ああ、バッチリだよ」話し掛けてくれたカレンに、俺はニカッと笑って答えた。どうやら皆、深く追求する気は無いらしい……それだけ信頼されているってことなんだろうけど。……クソヒゲの件が片付けば、こんな隠し事しなくても済むんだがな……。正直、少し胸が痛む……。「さて、シオンも合流したことだし……」「あぁ……行くとするか」ラルフとカーマインに促され、俺達は村の裏にある滝に向かって行く。道中、翼竜やリザードマンロード等のモンスターに遭遇したが、今の俺達の敵では無く、メンチビームで撃退したり、軽くあしらったりした。で、件の滝まで後少しというところでウォレスが立ち止まり、崖の方を振り返った……そうか、ここが……。「どうしたの、ウォレスさん?」「……村からの距離を考えると、たしかこの辺りだ」「この辺りって……」ティピの問いに、独り言に近い形で答えるウォレス。その言葉の意味を図りかねているルイセ……そこに的確な答えを出したのが。「ウォレスが仮面の騎士に襲われていた場所……か」例の夢を見たカーマインだった。「ああ、その通りだ。まさかお前が見た夢ってのも、ここだったのか?だとしたら、その夢の信憑性はかなり高いぜ」「それじゃ、夢に出てきたっていう、マスターを襲った連中も……?」「……かもな」ウォレスがカーマインの夢の信憑性の高さに驚いている。そしてティピもまた……。……ん?ラルフ……?ラルフが崖の方を眺めている……少し目付きが険しい。「どうかしたのかラルフ?」「シオン……。いや、悪い夢だな……ってさ」……まさか?「ラルフ……お前、カーマインと同じ夢を……」「何……?本当なのかラルフ?」ラルフの言葉に反応する、俺とカーマイン。他の面々も似た様な反応を示す。「うん……ちょっと言い出せ無かったんだけど、ね」……つまり、仮面騎士の素顔も見た……という訳か。そりゃあ言い出せないよな……。カーマインも同様に言い出せなかったんだろうな……。「……こうなると益々信憑性が高くなるな」ウォレスがそう言いながら頷く。それから再び歩みを進めた俺達は、滝のある場所に出る。「滝だぁ……」「とりあえずここまでは無事でしたね」「ああ。だが何も起こらないってのがかえって不気味だぜ」ティピは初めて見るであろう滝に感動している様子。カレンとウォレスは、道中に何の妨害も無かったことに疑問を感じている様だ。「……どうやら、ようやくお出ましみたいだぜ?」「その様だね……」「何だって…?」気に熟知している俺とラルフが、いち早く気配を察知する。ゼノスは俺達の言葉に警戒を強める。そして滝の奥から現れたのは……。「ああ、あいつは!?」「お母さんを襲ったやつ……」「話には聞いていたけれど……こいつが……」ティピとルイセはその姿に敏感に反応する。仮面騎士とは初見のリビエラも、警戒を強める。「やっぱり出やがったか!」「!……貴様らは……わざわざ餌食になりに来たのか!?」ウォレスは奪われた眼と利き腕の恨みからか、睨みつける様に対峙する。仮面騎士の方も、やはりと言うか俺達のことを知っている様で、剣を抜き放ち構える。「餌食になるのはテメェのほうだぜ!!」「ほざけ人間!行け、ユングども!お前たちは奴らを食い殺せ!俺は入り口にマジックロックをかける!」「ニンゲン、食イ殺ス」ゼノスのタンカを聞き、吠える仮面騎士。どうやら引き連れて来た、量産型ゲヴェルである『ユング』を使って足止めしてる間に、マジックロックを掛けて入り口を封じようという腹積もりらしい。マジックロックとは、読んで字の如く『魔法の錠』である。魔法の一種で、この魔法を掛けられたら、その魔法を解くか破壊しない限り、中には入れなくなる……という代物だ。魔法を解くには、上位魔術師であり、尚且つ解除する魔法を知らなければならない。破壊するとなると、一人の皆既日食グローシアン以上の魔力エネルギーが必要だ。なので……。「マジックロック!?そんなのかけられちゃったら、わたし、開けられないよ……」と、ルイセが言う。まぁ、仕方ないのかも知れないな。何せ、俺のアレンジ魔法を含め、中級クラスの魔法は覚えているが、最上位魔法はまだテレポートくらいしか使えないからな……ルイセは。「あ、俺も開けられないぜ?……破壊することは出来るだろうが」俺も素直に言い放つ。すると、皆が目を点にした。……何故に?「は、破壊……?」「ああ、『マジックロック』と対になる解錠魔法…『マジックキー』は俺には使えないが、掛けられたマジックロックを破壊することは出来る」引き攣った顔で尋ねてくるミーシャに、俺はサラっと答える。ちなみにマジックロックについて詳しく知っているのは、以前に文献を漁ったりしたから。その際にマジックキーについても知ったんだが。原作には出なかったが、解錠する魔法もあったんだな……でなければ、仮面騎士達がカーマイン達に勝っても中に入れなくなっちまうもんな。あ、誤解の無い様に言っておくが、マジックキーはマジックロックを解く為の鍵でしかないので、ドラ○エのア○カムみたいな使い方は出来ない。「馬鹿な!!グローシアンとは言え、人間ごときにそんな真似が……」「……出来ないと思うか?」俺は不敵にニヤリと笑ってやる……それを見た仮面騎士は後退りをする。もし、カーマインやラルフを通じて俺のことを知っているのなら、それが可能か不可能か……理解出来る筈だ。「お、おのれえぇ……ならば、此処で皆殺しにするまでだ!!」……どうやら理解してくれたみたいだな。正直、助かった……。というのも、マジックロックを破壊出来るのは本当だが、下手をしたら入り口は疎か、中まで吹っ飛ばしてしまい兼ねないからだ。そうなると、中に捕まっているだろう村人達もブッ殺っちまうことになるワケで――正直、申し訳無い処の話では済まない。「さて……やりますか!!」俺はリーヴェイグを抜き放ち、構えを取る。皆もそれぞれ得物を構えた。「くっ、舐めるなよ人間がぁ!!」仮面騎士はカーマインに切り掛かって来る。それをカーマインは上手く受け流す……。仮面騎士はカーマインに任せて、俺達はユング達を一掃する。偵察の為だからなのか、数が少ない。おまけに俺とルイセというグローシアンが居る為、連中は本来の力を発揮しきれない。一掃するのにたいした時間は掛からないだろう。「ハッ!!」ザシュ!!「ギギャッ!!?」本当に一分もせずに片付いた。どうやらラルフが倒した奴が最後らしい。