「スタンさん!!村に悪魔の群れが!!」
酒場に飛び込んできたネカネさんが叫んでいる。
……来たか。
「いますぐ戦える者を集めるんじゃ!そうでない者はすぐに逃げさせい!!」
スタンさんが檄を飛ばす。
「すまん。アラン、バレット。お前さん等を巻き込んでしまった。……恐らく村の誰かに恨みのある者の仕業じゃろう」
「構うな。騎師とは人を護るものだ」
「右に同じ」
「本当にすまんのぅ」
「ネギを知りませんか?!家にいないんです!!」
ネギ君はまた湖へ釣りをしに行った。このまま村に残られたら護りきれない可能性が高い。行かないようなら俺が仕向ける予定だったが、彼は原作通り湖へ行っている。
「なんじゃと!!こんな時に……!まったく人騒がせなところは父親譲りじゃな。急いで探すんじゃ!」
村人達が隊を組んで散っていく。
「爺さんはスタンさん達とネギ君を探してくれ。俺は……悪魔共を引き受ける」
俺はもうクトゥグアへの記乗を始めている。
「何を言ってる!?」
「分かってるだろ?俺が本気で戦うなら一人でやるしかない。それに……俺を誰だと思ってる?俺はあんたが作った“最強”の騎師だぞ」
「……わかった。超過駆動の使用を許可する!死ぬなよ馬鹿息子!!」
「当たり前だ。クソ親父!!」
爺さんがスタンさんを追いかけて行く。
『記乗時の反射速度、現在にて約百二十倍を計測』
出力を二十倍に加圧。
「アデアット」
俺の両手にバルザイの偃月刀が顕現する。
さて、俺も行くとしよう。
「アラン?!バレットはどうした!!まさか一人で行かせたのか!?」
「あいつなら大丈夫だ。むしろワシが居る方が邪魔になる」
村には既に火の手が上がっている。俺は百二十倍に引き延ばされた世界を疾走。走り抜けた端から割れていく窓ガラスの一片すらも視認できる。……もどかしい。二十倍に加圧された自身の動きですらこの世界ではあまりに遅い。
十人程の村人と合流できた。しかし高機動時の俺にとっては周囲に人がいても邪魔なだけだ。
「ここはいいです。他に回ってください」
「何を馬鹿な!一人でどうにかなる数か!」
問答している暇は無いので衝撃波を見せた。捲れ上がっていく石畳を見て言葉も無いようだ。
「ここは任せて下さい」
言い残して走り去る。
「見つけた……!」
前方約四十メートルに六体の悪魔が見える。
斬
一太刀で斬り捨てる。音速超過の剣先から発生した衝撃波が更に三体の悪魔をバラバラにする。
残りの二体はまだ反応できていない。振り抜いた勢いを殺さず前方へ踏み込む。独楽のように二回転、両手の偃月刀で片付ける。
……やれる。
悪魔の胴が地に落ちるのも見届けず疾走を再開。
斬撃で、刺突で、蹴りで、偃月刀の投擲で。そしてそれらにより発生する衝撃波で。目についた悪魔を片端から屠っていく。
遠方から無数の光。だが……
止まって見える。回避するのは造作もない。
マクスウェルによるともう二百近い悪魔を狩っているが、敵の勢いはまだ衰えていない。
『記乗時の反射速度、現在にて約百三十四倍を計測』
まだだ……まだいける筈だ。もっと速く、もっと迅く!
もっと……もっとだ!
突如轟音とともに天衝く雷光が夜を裂き、山を吹き飛ばした。
サウザンドマスターが来たのか。……急がないと。ネギ君がヘルマンと接触すればスタンさんや爺さん、ネカネさんが危ない。
眼前を見据える。今の一撃で敵の大半は消し飛んだろうが、まだこちらの敵は健在だ。
クソ!キリがない!一体あとどれだけいるんだ!?呪文螺旋を……いや、村の人を巻き込みかねない。
心中で吐き捨てながら偃月刀を振り下ろす。音よりも速く動く動作においてはただ無音。しかし放たれた衝撃波は敵集団の一角を蹂躙し…………いや。
土煙の中に……光?
「爵位持ちか!」
衝撃波を凌ぎきった悪魔の周囲に光球が形成されている。あれは……広域殲滅用!?
しかも他の悪魔が周りを固めている。一撃では仕留めきれないか……?
こんな連中に時間はかけていられない。少しでも損傷すれば後が捌ききれなくなる。
はぁ……やるしかないか。
「霊燃機関全力稼働!」
騎体への魔力供給を全開に。
『広範囲視界強力確保』
天地を摑む視界を得る。
『装甲組替“通常起動→全力攻撃用”』
駆動系出力をマックスパワーにシフト。
『全駆動系最高出力用意』
攻撃関連の駆動系を更に集中解放。
『超過駆動準備』
全身に流体の光が漂う。
“ザ・ミニオンズ・オブ・クトゥグア”の凌駕紋章は“アイオーン”。焼滅の意志を以て外道を灼き尽くす断罪の刃だ。
ゆえに想像する。己の両肩に、両足に、翼が雄々しく咲き、空を斬り裂く様を、強く鋭く思う。
己が考えつく限りの、最強の力を持つところを――――征け。
――――敵戦力に対応するため、全兵装・全能力を超過駆動開始。殲滅する。
『超過駆動完全展開開始』
流体の固定化により全身が変形。その姿は両肩両足に四枚の翼を持つ男性的なシルエットの戦神だ。しかしその変化も全て一瞬で完了。
これで出力は俺の想像の限界まで跳ね上がる。
爵位持ちは未だに光球へ力を注いでいる。
遅い。
『記乗時の反射速度、現在にて約百四十倍を計測』
「霊験あらたかなる刃よ!我に背く諸悪を悉く殺戮せしめん!行け!」
音速を超越した世界での詠唱はただ一瞬の金切り声。
それでも連続召喚された偃月刀は過たず周りの悪魔ごと対象を槍衾と化す。
だがそれだけで満足しない。ついに反射速度に追いついた滑らかな動作で接敵。その頭部に対霊狙撃砲を叩きつける。
砲頭の爪が頭部をホールド。
――――サヨナラ
【side:爵位持ち】
こいつはなんだ?
こいつはなんだ?
こいつはなんだ!?
なんなんだ!!こいつは!?
こんなちんけな村、小一時間も掛からず制圧できたはずだ!圧倒的な戦力差で、完膚無きまでに叩き潰せたはずだ!
確かにここの魔法使い共はそこそこの腕前だった。しかし……こいつは規格外過ぎる!!
今、俺の目の前で繰り広げられている悪夢。これをなんと表現すればいい?
姿がぶれて見える程の高速機動。あらゆる攻撃を難なくかわす反応速度。しかもあの衝撃波だ。魔力も感じられないってのにとんでもない威力を持ってやがる!
突然雷光が奔り山が吹き飛んだ。
今度はなんだ!?
「ガァッ!」
チッ!気を逸らした瞬間、衝撃波の直撃を喰らった。
クソが!たった一撃でこれか?!
『俺の周りを固めろ!広域殲滅で仕留める!』
土煙りに紛れ、念話で周囲の生き残りに命じる。そうだ威力は低くてもいい。奴に手傷さえ与えられれば、数で勝てる。
これなら……!
……なんだ?奴が一瞬光に包まれたかと思えば、姿が変わりやがった。虚仮おどしか?
まぁいい、もうすぐ……っ!
全身に激痛が奔る。何をされたのかも分からない。
しかしそれも一瞬。視界を埋め尽くす凶暴な閃光。それをもって彼はこの世から消滅した
【side:バレット】
爵位持ちと射線上の悪魔二十数体を撃破。
……時間が無い。超過駆動中の魔力消費だと限界まで実時間にしてあと十秒程か?早くネギ君達を探さないと……。
全力でいく。
そこからはまさに虐殺だ。もう誰も俺の動きを捉える事はできない。
棒立ちのまま斬られた悪魔達の骸が積み上がっていく。
だがそんな事も気に留めず、静止した世界を駆け抜ける。
居た!
ネギ君達を見つけた。
……まずい、もうヘルマンが石化光の発射態勢に入っている。光量からしても、撃つ寸前だ。
爺さん、スタンさん、ネカネさんが、ネギ君をかばう様に立っている。
このままでは、爺さん達が……!
走る。
だが……
こんな時に活動限界だと!?
徐々に凌駕紋章の展開が解かれていく。
『記乗時の反射速度、現在にて約十倍を計測』
駄目だ!このまま戻ればもう動けない!!
……まだだ!!
まだ………力が残ってる!!
恐れるヒマが……諦める気力があるのなら……
全て戦う力に代えろ!!
この窮地を!
恐怖を!
絶望を!!
粉砕しろ!!!
俺は……騎師なんだ!!
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
力を失っていく右手で偃月刀を振りかぶり……投擲した。
唸りを上げ、弧を描く偃月刀がヘルマンと爺さん達との間を断絶。石化光を受け即座に石となり、己の遠心力に耐え切れず崩壊していく……。
なんとか……間に合った……か……。
そこで俺は意識を手放した。
(あとがき)
バレット無双、如何でしたか?
今回はかなり筆の進みが速かったですね。これがやりたくてこのssが始まったと言っても過言ではありません。
<バルザイの偃月刀>
刹那の七首・十六串呂とほぼ同じ能力です。ただ捕縛結界は使えません。使えるのは超攻性防御結界です。同時召喚数は使用者の想像の限界までで、魔法発動体の効果あり。記乗時は重騎のサイズで召喚されます。見た目は重機関銃みたいな瑠璃ver.。使用中はどこぞの首斬り判事な神父気分が味わえます。
<対霊狙撃砲>
当然本来は遠距離からの狙い撃ちに使いますが、作者のノットパニッシャー愛が暴走するあまりやっちゃいました。高位魔族の完全消滅が可能です。