エピローグ~ただいま!~
あれから現実世界で五年がたった。
やはり異世界の混沌を買い取って再開する会社はなかった。
もともと……混沌の世界を運営していたところがつぶれた所でサービスが停止となった。
理由はそのサーバーの容量による施設と機械の維持費によってだ。
他のゲームなんて目じゃないくらいの容量が必要なうえ、独自サーバーに独自技術を使っていたため、余りにも異質すぎたんだ。
他のメーカーが買い取るにしてもそれだけの維持費を考えると、手を出せるところがなかったという事だ。
その情報を聞いた時……僕はがっかりした。
けど、その瞬間に僕は自分の進むべき道を見つけたといっても良い。
誰も出来ないのであれば僕がやろう。
流石に……今までみたいな何万人というプレイヤーを抱えるのは不可能でも、僕一人分が行くくらいには何とかできるかもしれない……いや、して見せる。
そう思ったんだ。
幸いなことに、データーだけはその会社に直接交渉して手に入れる事が出来た。
……といっても、それを手に入れられたのもサービスが停止してから七年もたってからの事だけどね。
高いんだ……物凄く高い。
ただ、やはり七年も昔のデーターになるとそれなりに価値も下がり、当時数億したデーターのねだんさえ、その勝った時には五千万にまで下がっていた。
それでも……それだけの大金を貯めるのに七年かかった訳なんだが……比較的早かったと見ても問題ないよな?
データーを手に入れてからがまた問題だった。
それを真面に起動させるだけの容量を確保するのがまた困難だった。
だって、僕の予想じゃかなり多いことから大体少なく見積もっても10Tは堅いなとは思っていたけど……増え続けていたそれの容量はそれを軽く凌駕していた。
1300T……これが僕が譲り受けた時のゲームの容量だ。
何処に何を使えばこれほどまでに膨れ上がるのか謎だった……ブラックボックス部分が多すぎる。
だけど……起動させる方法は比較的簡単だ。
そりゃそうだろう……もともと起動していたゲームなんだ、データーさえあればあとはそれを起動させるだけの容量と機械があればなんとでもなる。
まずは……その容量を問題なく動かせるだけのものを用意するのに更に五年かかった。
そして最後にそれに入り込むための機械だ。
これはもともと使っていた機械を色々と手伝ってもらい改造することによって何とか使えると解ったので一年くらいで直ぐに何とかなった……。
そしてとうとう今日……全ての準備は整った。
出来る事ならララさんやレイラさんにも連絡を取って一緒に行きたかったのだが……ゲームの世界の中でしかかかわりのなかった僕達だ。
現実世界での連絡の取りようなどなく、不可能だった。
……それでも諦めきれず、予備も含め五台分のログインするための機械を用意していた。
用意は整った……安全確認を含め、明日……とうとう明日この長い間目指してきた事が実現できる。
僕はそんな事を考えながらいつもの日課でネットのチェックをしていく。
こんな僕だけど、今一部じゃかなり有名になっている。
この混沌の世界を復活させようとしているからだ。
僕のほかにもいたんだけど、今こうやって実現段階まで来たのは僕が一番最初だ。
自分で畝いしているホームページをチェックしているとメールが届いていた。
その宛名を見て……驚いた……。
メール自体は数十ものメールが届いており、お祝いの言葉であったり、板砂関係や嫌み関係のメールも結構ある。
僕が驚いたのは二つのメールだ。
宛名がララとレイラ。
中身を見てなお驚いた。
二つ揃って中身はこんな内容だった。
『村の生活は懐かしい、盗賊はその夢をまた見たい。』
多少文章は違ったが、揃いも揃って二人ともそんなメールを送ってきていた。
思わず笑った。
僕だけじゃなくやっぱりこの二人もちゃんとまだ覚えていてくれたんだと。
僕はこの二人に改めてメールを送ってみた。
名前を『エン。』内容は。
『僕は村長夫婦に挨拶に行く、夫の名前はなんだったかな?教えてくれるなら一緒にいくかい?』
とね?
驚くほど返答は早かった。
送ってから十分ほどで直ぐ帰ってきたんだからね。
『エン君生意気言うようになったよねぇ~。師匠を試すような事するなんて。『マサキ。』さんには私も会いたいし、連れて行ってほしいから、何処に行けばいいか教えて頂戴。』
『エン君は相変わらずですね。答えは『マサキ。』さんですよね。私が解らなくなる訳がないでしょう?間違えて本当にエン君が忘れていたのであれば……ふふふ、解るわよね?それで……何処に行けばいいのかしら?』
うん、やっぱりあの二人だね。
街がいないと思う。
だから僕は自分の近くの喫茶店の住所をメールで送り待ち合わせをすることにした。
やっぱりいくらなんでも自分の家の住所を直接メールで送る勇気はなかったわけだ。
そして揃いも揃ってこの二人……家が近所っぽい。
その喫茶店を教えると、ララさんは家から五分くらいの距離だ!
と驚いてメールを食ってきたし、レイラさんも歩いていける距離ね……といったメールが帰ってきた。
何だ……こんなに近かったのか……。
次の日……僕は待ち合わせ場所の喫茶店で待っていると……二十半ば位にしか見えない二人の女性が入ってきた。
僕に向かってエン君?
と聞いてくる事から間違いなく二人だろう。
最初……ぎこちなく緊張しながら話していた僕達だったが、三十分もしたころ過去のゲームの世界で話していたのと同じような感覚で話を出来るようになっていた。
その後少しコーヒーを飲みながら思い出話に花を咲かせ、僕の家に向かう事にした。
僕の部屋にある機械を目にして二人は懐かしそうに笑った。
二人とも最初この機会を見た時は驚いたといって笑い合っていた。
僕は最終チェックを済ませ、二人をその機会の中に入れ、僕も機械に入る。
そして……スタートボタン。
過去に何度も経験したことだったが久しぶりのこの感覚は酷く……違和感が強かった。
機械が僕の肌に張り付いた瞬間……意識はなくなった。
そして……次に目覚めた時僕はピンチだった。
目の前には壁がある。
そうばかでかい茶色いふさふさした壁だ……。
はい、すいませんモンスターです。
って何事ですか!?
入った瞬間に何事ですか?
……なんだか酷いデジャブを感じるけど気のせいか?
っていまはそんな場合じゃねぇ!
と混乱しているうちにそのモンスターは僕に向かって腕を振り下ろした……。
ああだめだ……。
と思ったけど、運がよくそれ、地面を陥没させただけだった……。
陥没……させただけ……だった……。
うん、くらってたら即死だよね~しってたよ?
外したのを確認したモンスターはもう一方の腕を改めて振り下ろした。
今度こそだめだ……そう思って強く眼を閉じる。
だが……何時まで経ってもその最後の時はこなかった。
ドスン……その音と共に目の前で壁になっていたモンスターがいなくなった感じがした。
恐る恐る眼を開けてみる……。
倒されているモンスターが目の前にいた。
た、助かったぁ!
……やはり酷いデジャブを感じる僕に声がかけられた。
その声はとても懐かしく……この声が聞きたくて僕は長い間頑張ってきた。
「大丈夫だったか?危なかったなぁ……偶々見まわっていたときだったから良かったものの……そんな装備ともいえない道具だけでこの変うろつくのは自殺行為だぞ?」
僕は……ゆっくりと振り返る。
「なぁ解ってることだろう……エンよ。久しぶりだな。おかえり。」
そこには……僕が追い求めていたその人が……別れた時と変わらぬその笑顔で僕を見つめていた。
その両サイドにはちゃっかりとララさんとレイラさんが苦笑を洩らしながら立っている。
どうやら同じように助けられたらしい。
でも……本当に……久しぶりに会えた。
茫然としている僕を起き上がらせて求めていた人と向き合うと、そこはちょうど村の入り口だった。
そして……その入り口には……村の皆が集まっていた。
村長レイスさん……副リーダーのセルビアさん……ギルドの親父や村の皆……。
そして……マサキさん。
思わず涙がこぼれた。
でも……何よりも最初にこの一言を皆に言いたかったんだ。
だから……多少声が涙声になっていたと思うけど大声で叫んだ。
「ただいま皆!」