<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.6950の一覧
[0] 【習作】とあるメルヘンの未元物質 (とある魔術の禁書目録転生)【完結】[地雷G](2009/12/29 11:23)
[1] プロローグ[地雷G](2009/02/28 04:53)
[2] 一章 一話[地雷G](2009/04/12 18:10)
[3] 一章 二話[地雷G](2009/04/12 18:10)
[4] 一章 三話[地雷G](2009/04/12 18:11)
[5] 一章 四話[地雷G](2009/04/12 18:11)
[6] 一章 五話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[7] 一章 六話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[8] 一章 七話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[9] 一章 八話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[10] 一章 九話[地雷G](2009/04/12 18:13)
[11] 一章 十話[地雷G](2009/04/12 18:14)
[12] 二章 一話[地雷G](2009/04/12 18:15)
[13] 二章 二話[地雷G](2009/04/12 18:16)
[14] 二章 三話[地雷G](2009/05/02 03:18)
[15] 二章 四話[地雷G](2009/05/04 01:18)
[16] 二章 五話[地雷G](2009/05/11 00:18)
[17] 二章 六話[地雷G](2009/05/10 23:03)
[18] 二章 閑話 一[地雷G](2009/05/18 03:06)
[19] 二章 閑話 二[地雷G](2009/06/14 01:55)
[20] 二章 閑話 三[地雷G](2009/06/14 01:54)
[21] 二章 七話[地雷G](2009/08/20 00:53)
[22] 三章 一話[地雷G](2009/06/28 21:47)
[23] 三章 二話[地雷G](2009/08/05 21:54)
[24] 三章 三話[地雷G](2009/08/22 18:00)
[25] 三章 四話[地雷G](2009/09/04 21:20)
[26] 三章 五話[地雷G](2009/09/05 16:17)
[27] 三章 六話[地雷G](2009/09/06 21:44)
[28] 三章 七話[地雷G](2009/10/30 23:16)
[29] 三章 八話[地雷G](2009/10/30 23:17)
[30] 三章 九話[地雷G](2009/11/08 01:43)
[31] 三章 十話[地雷G](2009/11/29 00:53)
[32] 三章 十一話[地雷G](2009/12/06 23:41)
[33] 最終話[地雷G](2009/12/29 03:45)
[34] 予告  ~御使堕し編~[地雷G](2010/02/27 16:09)
[35] 番外 一話[地雷G](2009/05/10 23:05)
[36] 番外 二話[地雷G](2009/12/29 03:45)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[6950] 三章 九話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/08 01:43

――Amicus,amicus,bellius amicus.

――友よ、同胞よ、愛しきものよ。

――reminiscor ominse juramentum.

――思い出せ、全ての誓いを。

――divina gratia.

――神の恩寵を。

――Memento Creatoris tui in diebus iuventutis tuae

――貴方の創造主を記憶し直せ。

――Cur

――何故なら

――Nos Cherubim.

――私たちは智天使なのだから


歌うような何かの声。
ソレにいざなわれて、俺はゆっくりと目を開ける。

その声を俺は知っていた。

それは、とても優しいモノ。

俺と同じもの。

そっと、静かに視界が開けていく。

いつの間にか、俺は光溢れる緑の丘に立っていた。
風が優しく吹き、そっと辺りの草を撫でていく。
そのさまはまるで、母親が子を慈しむかのようでとても温かいモノであった。

そして、俺の目の前には俺と同じぐらいの背丈の小さな木が立っている。
赤い木の実をたわわに実らせ、まるで早く食べろとこちらを誘っているかのよう。

俺は、そっとその木から一つだけ真っ赤な実を捥いだ。
まるで、林檎のような形をしたそれを見ながら、俺はそっと顔を寄せる。
それからは、どこか甘い匂いと共に鉄錆に似た匂いがした。

悩んだのは、僅かな時間であった。

俺はその木の実にそっと歯を立てると、ガシリと齧りついた。
同時に口腔内に広がる甘い味と、鉄の風味。

ぼたぼたと口の端からこぼれる果汁は真っ赤で、血の色をしていた。

ああ、なんてまずい木の実なんだ。

だが、それでいてどこか懐かしい味がするそれを、俺は知っていた。
いや、性格には思い出した。
その実を口にすることで、思い出したのだ。


sapientif arbro


知恵の木


それは、旧暦よりもはるか昔。
人間が出来た瞬間に神が人へと与えるのを拒み、蛇(悪魔)が与えた原罪だ。
何故、そんなものが俺の目の前にあるのか? そう考えるよりも早く、俺の頭は記憶の底から答えを引っ張り出してきた。


――これは、俺だ。


俺はこいつで、こいつは俺。

人の精神を侵し、狂わせる魔性の果実。

元々の聖書では、知恵を与える聖なる木であったようだが、俺にはそうは思えない。
この木はもっと禍々しいモノだ。

逃れられないように人を誘い、自身を食させ、堕落させる。
まるで、麻薬だ。
最低で、最悪の精神汚染。
それは、俺にとってメルヘンと言う形で現れるのだ。

これこそが俺の『脳内メルヘン(ダークマタ―)』。

俺は唐突に全てを知った。この木を、俺自身の存在(パーソナルリアリティ)を。


それは、『汚染』。


この世全てのモノを汚染しつくすのが俺の存在理由(レゾンテール)
でも、何故汚染しなくてはいけないのか、そもそも何故俺なのか?

その答えは、未だ俺が手にしていた果肉まで真っ赤な木の実に隠されている。

俺は意を決し、もう一度実を口に含み咀嚼する。
ゴクリと飲み込むと、様々な知識が浮かび上がってきた。

曰く、俺の本来の能力は全ての物質を基にして精神汚染物質である『知恵の木の実』を作ること。
その作用も、ただ狂わせることだけではないようだ。

例えば、悲しみなどの感情を相手に無理やり伝え、共感させること。

例えば、誰かの感情を無理やり変換し、悪意と好意とを入れ替えること。

例えば、誰かの感情を無理やり増幅させ、その感情に囚われるようにすること。


自分でその例を思いついておいてなんだが、胸糞の悪くなるような完全なる『対人能力』だ。
おそらく、精神破壊や汚染にかけて俺の右手に出るものはいないな。

ともあれ、知りたいことはまだあるのだ。
何故、俺が天使の格好になるのか? また、それに何の意味があるのか?


さあ、もう一口。

俺は、今度は残った果肉を芯ごと口に含み、一気に噛み砕く。
バキバキと言う音と共に少しづつ俺の喉を通っていく果実。
その中に潜んでいた答えに、俺はついに堪え切れなくなり爆笑した。


「くっくく、くはーっははははははははははははははははははは!!」


俺は、腹を抱えて笑いだす。
それは、自分がつい先ほど一方通行に負けてしまったから。

なんと情けない話だろうか? 
あいつは、どれほどの力を有していようが所詮は個人の力。
対して、俺は明らかに個を超えた力を有していたのにも関わらず、負けたのだ。
そう、完膚なきまでに殺された。
能力を思い出せなかったというチャチな理由ではなく、こいつには勝てないと勝手に自分で解釈し、敗れたのだ。

なんという滑稽なことだろうか?
対人間戦最強の俺が『人間』に負けた? 本当に腹が螺子きれそうだ!!

ああ、認めよう。一方通行は強かった。
人間としての俺ではとても届かない高みに存在している。
それこそ、美琴ちゃんと比べてもそん色がないような存在。

美琴ちゃんを太陽と例えるのなら、彼女は夜に輝く月だ。

狂おしいまでの狂気を内包した至高の存在の一。

俺は彼女を否定できない、同じように闇の中を這いつくばりながら途中で逃げ出し、中途半端なぬるま湯の中でのうのうと暮らしていた俺には。


「情けない」


俺は笑みを引っこめると、自分のあまりの不甲斐なさに臍を噛む。
そして、俺の感情に合わせるかのように次第にゴロゴロと雷が鳴る音と共に真黒な暗雲が辺りに立ち込めた。
途端、激しい雨と共に雷鳴が轟く。

そう、何もかもが情けない。
俺は世界から『加護』を得ているのに負けたのだ。

この世には偶像崇拝と言うものが存在する。
それは一度は神に『十戒』の一つとして禁止されていた。
何故か?
それは、その偶像にとても微弱とは言え、『神』の力が宿ってしまうから。
物体は形と役割が似ていれば何%という値とは言え、その力が宿るのだ。

そして、それは何もモノだけに宿るのではない。

『天使』の形をした人間には、当然ながら『天使』の力が宿る。

さらに、俺は俺の魂は『転生』を経験している。
そのため、他の人間よりもその魂の『格』が上回っているのだ。
流石に『天使』と同レベルという訳ではないが、それに非常に近い『格』を持っているのだ。
そうなると、俺はより『天使』に近い模造品という事になる。

つまり、より多くの『天使』の力を発揮できると言う事になる。

もともと、俺は運がついているのには、そう言った理由があるのかもしれない。
一方通行が逃げ出せなかった学園都市の闇、それから俺だけが逃げだせたのは単なる強運では説明がつかないのだから。

そうそう、一方通行で思い出したが、リターンマッチだ。

さっさと生き返って、彼女にもう一度挑もう。
そうでなければ、俺と言う人間の器の何と小さいことか。

せめて、彼女達に恥じない戦いをしたい。

俺はそう心に決める、が。
ふとあることに気がついた。


「あれ? 俺って、どうやったら生き返れるんだ?」


そう、それが問題だ。
俺個人としては、今なお生き返る気満々なのだが肝心の生き返り方を俺は知らない。
と言うか、俺は生き返れるのか?

その事実に思い至り、俺は顔を青くする。

冗談じゃない。俺は美琴ちゃんたちと並ぶ、いや超える凄まじい絶大なまでの力を手に入れたんだ。
だと言うのに、生き返れないのならそんなもの何の意味もないじゃないか!

嫌だ、嫌だ! 俺はまだ死にたくない!!

気がつけば、辺りは嵐に呑み込まれていた。
風が吹き荒れ、全てのものを拒絶するかのように吹き飛ばしていく。

俺は、俺自身その嵐に吹き飛ばされそうになりながら、背中に悪寒が走るのを感じた。

死ぬのが、怖い。
もう生き返ることが出来ないのが怖い。
今さらのようだが、思い知る。

ここは、ゲームの世界でも何でもないのだ。
殺されて、死んだら終わりの世界なのだ。生き返ることなんて、出来はしない。


「いやだ、嫌だ! まだ死にたくない! まだ、上条と馬鹿をやり切っていない! 美琴ちゃんとエッチしてない!」


言いようのない恐怖が俺を襲う。
このまま自分が死んでいくのではないかと言う感覚が俺を襲う。

そして、それを如実に表すかのように俺の体に変調が訪れる。


「うっぐ、ぐぇぇぇぇえええええええ!!」


突然の嘔吐。
その吐瀉物の中にあの赤い実こそ存在しなかったが、俺は感じた。
自分の胃の中で、一度咀嚼したはずの赤い実が、また一つになろうと蠕動を開始したのを。

突然の吐き気は、これを吐き出そうとする体の、いやおそらく今は意識体であろうから、魂の防衛機能であるのか。

ともあれ、俺の魂は本来『俺自身』であるはずの『知恵の木の実』を拒絶していた。
いや、違う。

濃すぎるのだ。

密度が、俺の魂が受け入れられるレベルではないほどの濃さとなっているのだ。

ヤバイ。調子に乗り過ぎた。

俺は悶え苦しみながら、辺りをのたうちまわる。
木の実は、もはや完全に俺の中で形を戻し、今度は俺の体内を移動し始める。

凄まじい激痛。

声にならない悲鳴が俺の口から洩れ、俺の股間から温かい何かが吹き出し辺りに酸味のある不快なにおいをまき散らしていく。
それでも、痛みは治まらない。


「あ、ぎっ!? がっ!?」


ビクリと体が跳ねる。
移動を始めた木の実は、いつしか俺の心臓で止まりその部分に集中した痛みをもたらす。


止めろ、止めてくれ!!


こんなに痛いなら、もう死んだままで構わない。
生き返りたいなんて、分不相応なことは願わない。

だから、止めてくれ! もう、殺してくれ!!

俺が、心のそこからそう願った時、不意に俺の唇に温かい何かが押しつけられる。


「!?」


ソレは、不可視のモノであったが柔らかく、とても熱のあるモノであった。
そして、それが押しつけられた直後、そこを通して温かい何かが俺の中へと送りこまれていく。



『帰って………い!』



ふと、その時誰かが俺を呼んだような気がした。


その瞬間、先ほどまで俺の体を苛んでいた木の実の激痛が嘘のように消え去り、代わりに温かいものが俺の体を包み込む。

俺はゆっくりと、仰向けになり空を見上げた。
そこには、雲の切れ間から輝かしい太陽が顔をのぞかせている。


『帰ってきなさい!』



そして、またしても何か語りかけられるような感覚に、俺はそっと顔を綻ばせた。

ああ、全く。君ってやつは。

俺は、その太陽に向けてそっと手を伸ばす。

彼女が呼んでいる。ならば、帰らなくてはいけない。









side out








――――――――――――――――――――――――――――――――――







「あいつは、良い奴だった!!」


上条の拳が振るわれ、無抵抗な一方通行の顔面に突き刺さる。
それは『左』の拳。
本来の一方通行なら『反射』をするだけで防げるどころか反撃も出来る、その程度の攻撃。
しかし、一方通行はもはや何もする気にはなれなかった。
目標であった垣根 帝督に拒絶され、否定されつくした彼女はもはや生きることも死ぬことも面倒になったのだ。
だから、彼女は怒りと共にふるわれた上条の拳をただ受けた。その細い体でもって。
同時に頭がぐらりとかしいだが、一方通行は倒れない。
そして、上条はそんな彼女の襟首を掴んでほぼ零距離に近い位置で彼女を睨み据えた。


「バカで、変態で、最低だったけど、殺されていい奴じゃなかった!! それも、お前みたいに進んで誰かを殺すような奴にだけは、殺されていい奴じゃなかったんだ!!」


「……で?」


一方通行は上条の言葉が少しだけうるさくなったが、ここまで真っ直ぐな罵倒は久方ぶりなので、少しだけ興味を引かれて続きを促す。
一方、上条はその言葉を挑発と捕えたのか、襟首をさらにきつく握りしめるとドスの利いた低い声で脅しかけるように言った。


「あいつは、いつも俺の事を思って行動してくれた。迷っている俺に手を差し出してくれた。
俺は、俺は、あいつだけは失いたくなかったんだ!!!!」


「それで? 怒った貴方は、私を撲殺したいということ?」


「違うわ馬鹿!! 俺は、てめえが帝督を殺した罪を償わせる。いや、帝督だけじゃねぇな。お前が今まで殺してきた御坂さんのクローンたちを殺した罪もだ。
てめえは、このまま警備員に引き渡してやるからな!!覚悟しとけ!!」


「…………」


その言葉に一瞬一方通行は目を見張る。
この少年は、どこまで真っ直ぐなのかと、どれだけ汚いモノを見てこのような言葉を吐き出しているのか。
だが、一方通行は思ってしまう。

この少年が垣間見た闇など、浅い、と。

それこそ、彼女が知る闇と同程度のものを幼少のころから体験しているのは、もうこの世にいない垣根 帝督ぐらいであった。
だから、彼女にとって上条の言葉は、安全圏にいる人間の言葉としか聞こえない。
そんな言葉は彼女には響かない。
第一、彼女を先に殴り出したのは上条の方だ。
いくら殴られるようなことを自分がしていても、殴った人間に良い感情など持てる筈もない。

一方通行は、ここにきて初めて目の前の存在を憎悪した。

何も、知らないくせにと。


「!?」


ガシリと、上条の手を掴んだ一方通行。
上条は、突然の一方通行の行動に僅かに驚愕する。
今までの一方通行は殴られるままに殴られていた。そのことを考えると、彼女にはもう反撃する力がないモノだと思っていたのだ。
もっとも、彼の手に触れた一方通行の力は『とても弱い力』であったが。

もちろん、一方通行は『能力』を発動した上で上条の手を握っていた。
そして、違和感に気がついたのだ。


(!? 何、なんで能力が発動しないの!?)


そう、一方通行が触れていたのは上条の『右手』。
神様の祝福ですら殺してしまう『幻想殺し』であったのだ。
そんな事とはつゆも知らない一方通行は、とりあえず絞められた手から逃げ出そうと、必死になって足をジタバタさせる。
上条はそれを無視して左手で一撃を放とうとするが、それおり早く一方通行の脚が上条の腹部に当たり、彼を吹き飛ばした。


「がっ!?」


「っ!?」


一方通行はそのまま自由落下で地面に足がついた瞬間、上条から大きく距離を開けて着地する。
次いで、顔をしかめんがら起き上がる彼を射殺さんばかりに睨みつけた。


「あなた、なに? なんで、私の能力が効かないの?」


「能力って…、ん、あー、なるほどな」


上条は一方通行の言葉に何やら納得したかと思うと、表情を消して彼女を見た。


「教えるわけ、ねえだろ」


ゾクリと一方通行の背中に悪寒が走る。
今まで彼女に攻撃できたのは垣根 帝督の能力だけであった。
周囲を再検索した彼女だけが気がついたこと、それこそ、垣根 帝督本人も気がついていなかったことだが、垣根 帝督の能力は空気中に見たこともない新しい『物質』を散布し、相手の

思考を制御するものであった。
だから、彼女は新たにフィルターを作成してこの能力を防ぐに至った。

それは、その新たな物質を弾くように設定するのではなく、自分の生存に必要なもの以外全て除外すると言う最終手段。
もし、仮に垣根 帝督が別な物質を持っていても彼女であれば、その全てを反射できると言うわけだ。
だが、この目の前の男は違った。

こいつは、全てを反射し、拒絶するはずの自分の能力をモノともせずに、襟首を掴んでいた。
正直に言って、理解が追い付かない。


――――怖い。


それは、彼女にとっては未知の体験。
垣根 帝督の時は、彼女は自分と同程度の存在としてしか彼を見ていなかったため、『恐怖』などしなかった。
しかし、目の前の存在は何なのか?
まるで、何でもないように自分の能力を無効化したのだ。
それこそ、全てを拒絶するまでに至った自分の能力を。


「い、や……」


がたがたと足が震え、少しづつ上条から距離を取ろうと動き出す。
上条はそれを見つけると、一歩彼女に近づいた。


「逃げんなよ? 言っただろう、警備員に突き出すって。せいぜい、牢屋の中で反省してな!!」


「や、いや、来ないで」


彼女は確実に上条に距離を詰められながら、探した。
この絶対的恐怖から自分を守ってくれる存在を、自分を無条件で包んでくれる存在を。

だが、そんなものは彼女には存在しない。
全てを拒絶し、自分と同位の存在すら殺してしまった彼女は、この世界でヒトリボッチであった。


「く、くるなぁぁあああああ!!」


一方通行は叫び声をあげ、足元を思いっきり蹴飛ばした。
すると、彼女のベクトル制御により、辺りの石つぶてが一斉に上条目がけて殺到する。
上条はそれを横に飛び込むようにして回避。
だが、一方通行もその程度の動きは読んでいる。
彼女は次いで、そちらの方につぶてを飛ばそうとして、首を巡らせた。

その時、ふと、視界に垣根 帝督の死体とその死体に触れている超電磁砲が入った。



「帰ってきなさい!!」




超電磁砲の手がバチバチと紫電を鳴らしながら垣根 帝督の左胸に触れている。
どうやら、止まった心臓を動かそうとしているようだ。一方通行は、心臓の動きと血流を一瞬にして停止させただけなので、特に帝督の体を傷つけていないから、蘇生は容易かもしれない


超電磁砲は、しばらく紫電の放出を繰り返し、やがて心臓が動き出したのか彼の胸に一度耳をつけると、顔を上げる。


そして、一方通行は見た。


超電磁砲、御坂 美琴が何のためらいもなく垣根 帝督の唇に自分の唇を重ねるその姿を。


もちろん、一方通行もそれは『人工呼吸』なのだと理解している。
だが、理性とは別の本能の部分がそれを見た瞬間、悲鳴を上げた。


「あ、ああ」


「眠ってろ」


その言葉の直後、完全に彼女の虚を突くタイミングで上条が彼女に迫った。
ソレを見て、回避も迎撃も不可能だと感じた彼女は、眼を閉じてたった一つのことを思った。


(――誰か、助けて)


それは、無垢な、本当の彼女の心の底からの願い。
幾千、幾万と果てることなく祈り続けた想いの欠片。

余りにも強い人の祈りは、時として奇跡を呼ぶ。





「み ・ こ ・ と ・ ち ・ ゃ ・ ー ・ ん !!」





「きゃああああああああああああああああああああ!!??」





「んなっ!? 帝督!? 生き返りやがったのか!?」


余りにも頭の悪い叫び声。それに聞き覚えがあり過ぎる上条は、驚きとともに声のした方を見る。
当然、一方通行に振り下ろされるはずであった拳は、もう彼女に向いていない。
それどころか、上条はすでに彼女を見ていなかった。

そして、それは彼女も同じ。

一方通行ももはや上条を眼中に居れておらず、ただ視線の先で奇声を上げて超電磁砲に抱きついている存在を、ただ茫然と見た。


それは垣根 帝督。


完全に息の根を止めたにも関わらず、恐らくは超電磁砲の蘇生で息を吹き返した存在。
普通、蘇生されたばかりの人間は、大声をあげたり出来ないはずなのだが、どうやら、彼は相も変わらずの規格外のようだ。
彼は、そのまま超電磁砲の胸に顔を埋めると、超高速で顔をグリグリと動かしている。
そして、一気に近づいた上条に景気よく頭をはたかれ、直後超電磁砲の電気ショックをその身に受けた。

訳の分からない、馬鹿騒ぎだがどうやら完全に復活したようだ。


「美琴ちゃん、美琴ちゃん、美琴ちゃん!!!!」


「だー! こっち来るな変態!!」


「おい、てめぇ!! 人にさんざん心配かけといて、いきなりそれかよ!?」


「あれ? 上条じゃん、なんでいんの?」


「お前の幻想をぶち殺す!!」


上条と追いかけっこをし始めた変態に、一方通行は安堵の表情となる。
しかし、彼女はそのことに若干の嬉しさを感じる反面、彼に拒絶された事実を思い出し、身を縮こまらせる。

もはや、彼女の心は限界。
いや、すでに狂いかけている。本当に指一本で残っている状態で、どんなに些細な言葉の一つでも狂ってしまうだろう。

そうなれば、もはや彼女は止まらない。
破壊の限りを尽くすことだろう。

そんな彼女の心を救えるのはただ一人、彼女自身が同位存在と認めた垣根 帝督だけ。

そして、生き返った彼はいとも簡単に立ち上がると、駆けよって来た上条や今まで抱きついていた超電磁砲からその身を離す。


「悪い、二人とも。ちょいと、どいてて。これは俺の戦いだから」


「あのねぇ、一応一番の被害者と言うか関係者は私なんだけど? って、その顔は勝手に覚悟完了しちゃってるわよねぇ」


「…まあ、危なくなったら助けるからな」


「私が焼き入れる分は残しておきなさいね」


「はいはい」


その離れた体が向かうのは、一方通行。

真っ直ぐに彼女を見つめ、彼は凄惨にほほ笑んだ。


「再戦(リベンジ)だ、若白髪。今度は前みたいにいかねぇぞ?」


一方通行はその言葉を聞き、自嘲する。
結局、自分は暴力を振るわねばいけないのだと悟った。
しかし、変態の言葉はそれだけでは、終わらない。

彼は一歩前へ踏み出しながら、彼は笑った。


「俺はお前を肯定しよう、一方通行。お前は強い。この勝負の間だけは、俺はお前のことだけを見ている」


一方通行を帝督の真っ直ぐな視線が射抜く。
一方通行は、そのあまりにも真っ直ぐな視線にたじろぎながらも、その瞳を僅かに潤ませながら微笑んだ。

ただ、帝督に自分だけを見てもらいたかった。

その願いが叶ったのだ。


「知ってると思うけど、私は強いよ?」


しかし、口から出るのは挑発の言葉。
この場では、睦言のような甘い言葉は無粋。必要なのは、その力のみ。
だから、彼女は不敵にほほ笑んで帝督を見遣る。
その眼には、いつか見たあの輝きが戻っていた。


「名乗れよ、一方通行」


その言葉に、その輝きはさらに強くなる。
そして、彼女は初めて誇るものが出来たかのように自身の名を口にした。


「学園都市序列第一位 『一方通行(アクセラレータ)』 鈴科 百合子(すずしな ゆりこ)」


そして、帝督は開戦の合図となる名乗りを返す。
戦闘までのボルテージは止まることなく上がっていく。


「学園都市序列外 『脳内メルヘン』 垣根 帝督」


瞬間、両者ともに全力で能力を解放させる。
一方通行はベクトル操作により竜巻を発生させ、さながら翼のように背後に纏う。
帝督も彼の能力により発動させた翼を背中に背負った。

同時に、両者の能力の余波がぶつかり合い、空気が震える。


「言っておくけど、今の俺は自分が考えた最強の主人公並に強いぜ?」


「ふふ、それは楽しみ」


直後、二人の姿がぶれる。
両者とも、羽根を使った高速移動を行ったのだ。
そして、次の瞬間唐突に表れた両者は同時に拳を繰り出し、拳と拳をぶつかり合わせた。
だが、即座に帝督は距離を取ると、その右腕を押さえた。


「ぎゃああああああああ!? ちょ、手がゴキって鳴った!? タンマ! 右手が折れてるの忘れてた!!」


響き渡る帝督の悲鳴。

一方通行はそれをバックに満面の笑みを浮かべ、


「だぁめ」


頼みを一刀両断に切り捨てた。







あとがき

どうも、地雷です。
変態の正体について、結局そっちかよ! と怒った貴方がた、その気持ちは正しいw
そして、アレだけ毛嫌いしていた一方通行をあっさりと認めた事は、反省していない。いい加減こっちに持ってこなきゃ話しが進まないww

次の話では美琴ちゃんのターンだと思います。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044073104858398