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私は、まじまじとそいつの顔を見つめた。
少し見た目が良いかもしれないというだけで、別段変った点はない。ただ、一つを除いて。
その変人の眼は恐ろしく空虚であった。
私に自分から声をかけておきながら、少しも私に関心を払っていないのだ。
これを変人と言わずしてなんと言おう。
私は、その変人の登場に思わず身を固くし、彼を睨みつけた。
「なんだ、てめえは」
「てかさ、この変でツンツン頭の高校生と赤髪のノッポの神父の後をつけた銀髪の女の子を見なかった?
その子も目立つし、手に子猫を抱えていたからすぐ分かると思うんだけど…」
「…そんな変態知らねえ」
「あー、やっぱりかぁ。あそこの角が右だったな、多分。
くっそー、時間が遅くなってきたせいか人とも会わなくなってきたし…」
別段、私に話しかけているのではなく、独り言をつぶやいているような感覚でそう嘯く。
だが、私は何故だが彼の言葉に律義に反応してしまう。
「バカか、てめえ。ここは路地裏の奥の奥。それこそ、スキルアウトやゴロツキどもがゴロゴロしているような場所だ」
「ああ、なるほど。道理でいろんな奴らに絡まれるはずだ」
私の脅すような事実の報告に変人は少し驚いたようにした後、納得したのかあっけらかんとそう言った。
ここで私は目を見張ることとなる。
何故なら、彼の服には汚れはおろか揉み合ってついた皺もないのだ。
その事が示す事実が教えることは一つ。
(まさか、無傷で相手を追い払った?)
正直に言って、この辺りにいる輩は私のような『化け物』には遥かに劣るものの、それなりに実力があるものたちだ。
そんなゴミ虫を無傷で追い払ったとなると、この目の前のホスト然とした変人は少なくとも『大能力』クラスの実力があるという事だ。
とても、そうは見えないこの優男が。
だとしたら、こいつはなんてチグハグなんだろうか。
いや、恐らくは自身の内に矛盾を抱えているのかもしれない。
まるで、人を『後悔』もために自分から率先して殺しておいて、さらに激しく後悔する私のようだ。
そういう意味では、私たちは似ているのかもしれない。いや、似ていると断ずる事が出来る。
私がそんなことを思っていると、変人は思い出したかのように私を振り向く。
「ねーねー。もしかして、この辺りに詳しかったりする?」
「…一通りは」
私は素直にそんな言葉を呟いていた。
もし、普段の私を知る者がいたのなら、凄まじく驚いていただろう。
……もっとも、そんな者は存在しないが。
そして、変人は至極あっさり、それが当然であるかのように私に命令をする。
「じゃあ、俺を大通りまで連れて行ってくれない? 流石に大通りまで出れば、俺でも帰り道が分かるからさ」
私は、この学園都市で最も恐れられている存在だ。
そんな私にこうもあっさりと命令するとは、こいつの頭はイカレテいるのだろうか?
いや、こいつにはそんなことは関係ないのだろう。
何故なら、こいつは全くと言って良いほど私に意識を割いていない。
『この私』をなめ切っている。
その事実に無性に腹が立った。
こいつに私を認めさせたい。
そんな、普段の私では辿り着くはずがない考えに至ってしまったのは、きっと私が疲れているからなのかもしれない。
きっと、そうに決まっている。
「てめえ、好い加減にしろよ?」
私は、しゃがんだまま目の前に立つ変人の脚に向けて蹴りを繰り出す。
それは、本来なら大の男を倒すほどの威力など存在しない。
しかし、そこに私の能力が加わった瞬間に話は変わる。
「!?」
突然驚いたような顔になり、その場で仰向けに盛大に転がる変人。
私はそのまま立ち上がろうともがく男に馬乗りになり、その首に手をかけて締め上げる。
これも本来なら男の顔を苦痛に歪ませるには足りていないだろうが、私の能力を使えば、ほら。
「がっ、このっ…」
男はなんとか私の手を振り払おうとするが、私は自身の手に触れようとする男の手を『弾く』。
そして、驚愕に男が目を見開くと同時に、その耳に囁きかける。
「誰に物を言ってやがる? 連れて行ってくれないだぁ? ふざけろ」
「こんのっ――」
その瞬間、男は目を閉じて自分の内側に語りかけるかのように眉根を寄せる。
恐らくは、自分の能力を発動しようとしているのだろう。
だが、そんなものも私の能力の前では無駄だ。
私の能力はたとえどんな力であったとしても、その全てを拒絶する。
恐らくは、私の肌に傷一つつかないだろう。
さあ、自分の攻撃で自分を傷つけると良い!!
ふと、その瞬間に私は何故こんなに怒っているのだろうかと、今さらのように思った。
???? side out
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インデックスちゃんの後を追って家を出たのは良い物の、気がつけばどこか良く分からない場所に出ていた。
仕方がないので、そばでうずくまっていた人物に声をかける。
すると、その人物は顔を上げる。
闇の中にキラリと光る紅い双眸。
アレ? これって、なんてナルガ○ルガ?
俺はそう思ったのもつかの間、その子の髪の毛の色が白だと気が付き少しだけガッカリに思った。
一瞬、擬人化したのかと思ったのに。まあ、俺は美琴ちゃん一筋だから擬人化してきてもその思いにこたえて上げられない訳だが。
俺はなおもインデックスちゃんの容姿を伝えたりして、なんとか情報を引き出そうとするが返ってくるのはにべもない答え。
脈なしだと判断した俺は、そのまま独り言をつぶやきながらその場から去ろうとする。
すると、その人物が不意に口を開いた。
「バカか、てめえ。ここは路地裏の奥の奥。それこそ、スキルアウトやゴロツキどもがゴロゴロしているような場所だ」
「ああ、なるほど。道理でいろんな奴らに絡まれるはずだ」
その言葉に俺は今さらのように、ここまで来るまでにやたらと絡まれた理由に気がつく。
もちろん、俺は喧嘩なんて全く強くないので全力で逃げてきたのだが。
そうか。ここはいわゆる彼らの縄張りだったのだ。
縄張りに入ってきたよそ者を襲おうとするのは当たり前だろう。いや、俺が女じゃなくてよかった。
女だったら、これから「ひぎぃ!」な展開が待っていたことだろう。
そう考えると、目の前の少女は何なのだろうかと言う疑問が浮かび上がってくる。
見た感じ髪と同様に肌とかも滅茶苦茶白く、顔の形も整っている美少女なのでそういう輩に真っ先に狙われそうな顔をしている。
と言うか、服装はシャツにデニムとボーイッシュだが、体系的にも少し少年のような感じはしている。
…男であっても、男に襲われそうな顔だな。
いや、待て。もしかしたら、この子がとても強いという可能性がある。
むしろ、その可能性が高いだろう。
だとしたら、これから道をこの子に聞いて帰るよりも、このままこの子に連れて行ってもらった方が安全なのではなかろうか?
いや、むしろそうだろう。
うん。ウホッな変態がいる可能性もあるのだ。そういう変態からもこの子に守ってもらえば良いな。
俺の後ろの初めてをもらうのは、ペニスバンドをつけた美琴ちゃんと決まっているのだ。
そうと決まれば、早くこの子を丸めこんでしまおう。
まあ、断られたら能力を使って無理やり案内してもらえば良いし。
「ねーねー。もしかして、この辺りに詳しかったりする?」
「…一通りは」
ビンゴ。
くっく、ならばお願いしましょうか?
「じゃあ、俺を大通りまで連れて行ってくれない? 流石に大通りまで出れば、俺でも帰り道が分かるからさ」
うん。大通りまで出れば安心だ。
ああ、これでおれの処女は守り切ることができた。
美琴ちゃんとのキャッキャクチュクチュな展開を望むことができた。
まあ、美琴ちゃんとする時もペニスバンドなんて使うつもりは毛頭ないけどね。基本的に美琴ちゃんはMだと思うし。
俺がそんなしょうもないことを考えていた時、不意に少女から殺気が飛んできた。
「てめえ、好い加減にしろよ?」
ゾクリと背中に氷柱を差し込まれたような感覚。
その感覚に俺が身体を震わせた瞬間に、女の子は俺の脚めがけて蹴りを放ってきた。
その速度は別段早いわけではないが、身がすくんだ俺はその蹴りを正面から受けてしまう。
「!?」
明らかに俺よりも体重が軽いはずの少女の攻撃は、まるで滅茶苦茶マッチョなおっさんの攻撃を受けたかのような衝撃が走る。
まさか、この子の能力は怪力か肉体活性。もしくは何かの効果で馬鹿力を発揮するようなものか!?
俺はそのまま衝撃を受け流すべく仰向けに綺麗に倒る。
その為、ダメージはなかったがすぐに動き出せることができなかった。
そして、気がつけば俺は少女に馬乗りになられて首を絞められていた。
「っが、このっ…」
息が上手く出来ない。本当に少女の力は万力のようで洒落になっていない。
このままだとガチで殺される!
「誰に物を言ってやがる? 連れて行ってくれないだぁ? ふざけろ」
その間に少女が何事か俺に囁くが、俺には何も聞こえない。
むしろ聞く余裕なんて存在しない。リアルで迫る命の危機に脳みそは反射的に能力の演算に全力を注ぐ。
「こんのっ――」
そんな言葉を口にしたと思う。
俺はその瞬間に己の中へと埋没し、ただ自分だけの領域へと語りかけ、能力を解放する。
同時に、俺の背中からは小さな輝く光の翼が出現する。
『脳内メルヘン』!!
能力は一瞬しか持たず、すぐさま翼は霧散してしまうが、一時的にせよ能力の発動に成功する。
その効力により、少女はすぐにトロンとした目になり、俺の首を絞める手の力を弱める。
俺はその一瞬のすきを見逃さずに、少女の腹部を蹴り上げる。
すると少女は先ほどまでの怪力はどこへやら、あっさりと吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
「きゃっ!?」
「げっほ、げっほ!!」
俺はそのすきにせき込み、酸素を肺の中に送り込む。
すると、少女は心の底から驚いたという表情で俺を見てくる。
「貴方、何?」
先ほどまでのどこか汚い言葉遣いとは違う、どこか彼女の素の部分から出てきたと思われる言葉に俺は一瞬ビックリさせられるが、今さっき殺されかけた身としては、取るべき選択肢は一
つしかない。
即ち、背中を見せて、全力での逃走。
どんなに無様でも構わない。
とりあえず、生き残るための選択。
俺はそのまま路地裏を滅茶苦茶に疾走し始める。
後ろで少女が何かを叫んだ気がしたが、振り返ってなんてやらない。
てか、このまま正面からぶつかったらガチで殺される!!
俺はそのまま路地裏の更なる奥へと走って行った。
そう言えば、上条やインデックスちゃんは無事だろうか?
俺は、ふとそんな事を考えた。