さぁ、どうする?決ってる。勝ちに往く。と、言いたいが。それではダメだ。それでは余計に向こうを煽る。ならばどうする?負けなければ良い。そして、何時でも勝てる準備をしよう。裏表関係無く。奴を迂闊に動けない状態にすれば良い。敵味方関係なく。奴を縛る。幸いな事に、奴の周りは善人と行き過ぎた善人が多い。「アクドイな」「嫌い?」「良いや? 寧ろ」ソレでこそお前だろ?中間試験、成績発表の日。神楽坂アスナと桜咲刹那の努力は実り、二人とも総合TOP10に入る成績でその日の学校を終えた。アスナの努力を知るネギは勿論喜んだ。そして、自分の不始末の尻拭いをさせてしまった兄、アギ・スプリングフィールドに感謝を述べにアスナと、同室である近衛このか、使い魔であるカモと共に、アギの家へと向かい。兄の現状を知るその前日、関西呪術協会の長。近衛詠春は一つの報告を秘密裏に受ける。ソレは簡潔な事を書かれた手紙であり。在る一部の人間達の事実が書かれていた。差出人は天ヶ崎千草。彼女は罪を犯し狙われる立場に居る人間だ。その罪を償う為という事で西洋魔術師の集う麻帆良へ出向している身だ。決まりとして、彼女は報告書を週に一度提出する事になっている。近衛詠春はその報告書を読み。己の娘が魔法使いとして育っている事を喜び、半ば切り捨てる状態に成ってしまった事を悔やむ。しかし、彼の判断は組織の長としては正しかったのだろう。成果は上がっている。天ヶ崎千草の証言と提出した証拠を元に、かなりの人間を処理した。彼自身が命、身柄を狙われる立場に居たが神鳴流最強が護衛に付いた事で、彼を狙う者は用意に動けない。これ幸いと、彼は青山鶴子の夫にも依頼を頼んだ。コレが組織改善の一手となった。西洋魔法使いを敵視する幹部の悪行を調べ上げ、多くの人間の前で晒し排除した。見せしめの様に思われたソレは一度ではなく。組織の膿を吐き出しきるまで続いた。関西呪術協会に置いて何処か頼りなく甘い長は居なくなり、怖ろしく、厳しい長が其処には居た。その反面、組織が少しガタついたがソレも数年内に収まる物だと詠春は確信した。若い術者も着々と育っている。そんな時にこの一報。彼は直ぐに義父に関西呪術協会の長として連絡を入れる。(まだまだ、返しきっていない。彼に何かが在るとあの馬鹿に顔向け出来ないんですよ。お義父さん?)一方、アギ・スプリングフィールドは清潔な部屋で点滴を打たれながら天井を眺めていた。隣に付き添って居るのはエヴァンジェリンと茶々丸、エヴァンジェリンの頭にの乗っているチャチャゼロで有る。アギは貧血と胃痛により倒れ、今日めでたく入院したのだ。コレは前日に決定していた事である。彼の貧血は自業自得の物であったが、周りはそれを知らない。胃痛は神経性の物だが、入院するほど酷くは無い。ならば、何故入院しているのか?エヴァンジェリンと魔法薬が原因である。貧血なのはエヴァンジェリンに血を吸わせた為であり、胃痛は魔法薬を飲んだからだ。全ては自作自演の事で有る。彼は周囲から体が弱いと認識されている。それは、学園長も変わらない。魔力の事はバレたがそれだけで有る。この入院の原因は誰か? 問われれば事実を知るものは学園長となる。真実を知るものはアギだと答える。真実を知るのは誰か? エヴァンジェリンとチャチャゼロだけである。茶々丸はこの事を知らされていない。そして、アギが倒れれば来る人間は決っている。彼と関わりが在る人間だ。それらの人間が来ると、アギは弱弱しく手を上げる。本当に辛そうに上げる。事実、辛いのだ。本当に貧血だし、胃には小さな穴が開いている。故に嘘ではない。彼は本当に体調を崩し入院している。一週間は病院生活である。そして、一部の者には彼が何故倒れたか原因は判っている。アスナ・刹那・千草・このか・真名。この五人は彼の事を知っている。アスナと刹那はその一旦に関わっている。故にこの結果を見て認めなければならない。彼の事を誰にも漏らしてはいけないと。巻き込んではいけないのだと千草は刹那から事情を聞いている。彼女もアギの関係者で在る、彼女が知るという事は近衛このかも知る事と成る。アギはこのかの師匠である。彼に教わり千草とエヴァンジェリンに学ぶという事をしている。アギが動けないという事は、彼女の修行期間が減るという事である。新しい事でなく復習の日々に成る。このか自身面白くない。そして考える。コレが自分にも有り得る未来だという事を彼女は知っている。教えられている。既に父との関係は半ば切られている事も理解している。父がアギに自分の師をしてくれるように頼んだのが、精一杯の事なのだと理解しているし、させられた。その、在る意味では父との最後の繋がりの様な師匠が倒れた。祖父の所為である。このかは思う。コレが一人という事なのかと。逃げる為には強くならなければ成らない。連れが居ると柵が増えるという事は教えられている。個が郡に勝つには頭を使わなくては成らない。さらに、強く。より強くならなくてはならない。その事は教えを請う三人から言われている。呪いの恐さも教えられている。エヴァンジェリンが教えた。アギが体に直接教えた。辛くて折れそうになった時は千草が支えてくれた。自分が折れないように。在る意味で、拷問に近い事かもしれない。それでも、何一つ無駄では無かった。悪魔に攫われた時にソレを知った。彼に教えを請う事は無駄ではない。寧ろ最善に近い事だった。病院の帰り彼女は決意新たに千草とエヴァンジェリン、そして刹那に言う「ウチ、強くなる。お爺ちゃんと縁を切る事になっても良い。エヴァンジェリンさん、千草姉さん、せっちゃん。ウチ、アギ君の事護りたい。護れるぐらい強う成る。成りたい」全員が岐路に立った。コレはエヴァンジェリンとアギの策である。道を誘導したのだ。自分が都合の良い様に。(本当に…手の中で踊ってくれる。ジジイ、お前は徐々に丸裸に成っていくぞ?)エヴァンジェリンは心の中で嗤う。その滑稽さに。病室には茶々丸とアギだけが居る。彼の世話は自分がすると茶々丸が言ったからだ。「アギ様、痒い所は?」「大丈夫だよ。力加減も丁度良い」看護師が驚く程の看護っぷりの茶々丸に、瀬流彦が驚いたのは笑える事になった彼も知る。言われなくとも解かってしまう。何が原因かを…彼も魔法先生なのだ。監視には気付く。病院より離れた位置に感じた微量の魔力。瀬流彦自身、攻撃力は低い。しかし、防御やサポートには自身が有った。彼は、見舞いの後。アギが住んでいるマンションやその周囲を探る。そこで見つけた僅かな、もう消えかけている魔力の残滓を見つける。こうして、彼は自分が知らないままにアギに誘導される学園長、近衛近右衛門は頭を抱える事に成った。アギの事である。体が弱いと聞いていたがこれ程とは予想出来なかった。近右衛門はアギに協力要請をするつもりで居たのだ。学園祭が間近に迫ったこの時期、とある現象が二十二年周期で起こる。本来なら来年起こる現象が、異常気象で今年起こる事が解かったからだ。自由に動ける駒が欲しかった。学園祭、麻帆良際には大勢の人が来る。学園の魔法使い達ではフォロー仕切れないかもしれないのだ。生徒には学園祭を楽しんで欲しい。しかし、一般人には犠牲を出したく無い。その為の決断だった。英雄の息子という肩書きは大きい。マギステル・マギを目指す魔法使いや見習いの士気も上がる。是非とも手放したく無い人材である。ネギとアギの違いは解かっている。子供考え方か大人の考え方が出来るかの違いだ。アギは後者だ。コレは確実である。辞表を出す切欠となったあの日にソレは確信できた。その強固な意志も素晴らしい。何より、力を隠している事も解かった。手放すには惜し過ぎる。「…どうしたものかのぉ」三日後、ウェールズから手紙が届き。近右衛門は断念する。コレはメッセージだ。通告だと理解した。遠まわしに彼は自分に言っている『関わるな』と、既に関西呪術協会の長から、『闇の福音』エヴァンジェリンから、孫娘から、も通告が来ている。其々がアギを潰すつもりか? と。既に、魔法先生の中でもアギ・スプリングフィールドが倒れたのは学園長が原因かも知れないとの噂が在る。噂を払拭する為にも、彼に手を伸ばす事は出来ない。そう、自分は敵に回してはいけない者を敵にしようとしていたのだ。通告が在るだけマシなのかも知れない。近右衛門はエヴァンジェリンに詫びの品を渡してアギに渡すように頼んだ。それでも、諦めきれない思いが在る。近右衛門は考え続ける。どうすれば、アギが此方に靡くのかを今日の茶々丸眠りに付いたアギを茶々丸は見下ろす。何処か苦しそうなのは仕方が無い。それでも、時折肌蹴る布団を直したり、水タオルで額を拭いたりと甲斐甲斐しく働く既に、関節などのスキマが見えない身体。新しいボディになった茶々丸は、人にしか見えない。耳に付いているソレが、彼女がロボで在るという証明に成っているが。イヤホンか? と、疑いそうにも成る「…アギ様」キョロキョロと誰も居ない個室を見回して、ゆっくりと顔を下ろす「早く、元気になってください」顔お上げた茶々丸は、不意に考え思った「ひよこ○ラブではなく、たまごク○ブを読むのが先でした」そう言ったのを聞いたのは、個室の入り口で認識阻害の札を持って護衛しているチャチャゼロ、ただ一人で有った「オーオー…青春ダネェ…御主人モ恥カシガラズニ来レバ良イダロウニ」ハァと溜め息一つ付くと顔を上げて言う「マァ、俺モ人ノ事言エネェカ。アギヨォ…マダG級ノ雌火竜倒シテネェンダ。早ク回復シロ」夜は静かに耽るエヴァンジェリンと千草、刹那はこのかの修行をつけて居たりする。終り