朝、まだ少し薄暗い道を歩く。既に六時前なのに意外と明るいレンガ道。コツコツと音が鳴る。ガラガラ五月蝿い旅行鞄を引きずって肺から煙を吐き出す。朝も早いこの時間。人気は少なくガラガラという音が響く。ポトリと落とした灰が風に吹かれて崩れて消える。隣に並ぶ友人は、何処か眠そうに煙を吐く。幻術で姿を偽る事もせずに歩くのは、それだけの理由が在るから。鞄に入れたのは箱庭と、数種類の薬品。『別荘』と呼ばれる箱庭には着替えや道具が大量に入っているので、以外と身軽なのだ。「エヴァさん…別に見送りとかしなくても良いのに」「友も見送らない馬鹿が何処に居る…手筈通りにな?」「はいはい。エヴァさんもね?」「分かっている…車には気を付けるんだぞ?」子供じゃないから大丈夫だっていうのに…いや、子供ですけど。「それじゃ…行って来ます」「ああ…行って来い。お土産忘れるなよ?」饅頭ね。「……寝過ごした」「ケケケ…ドジダナ。俺ハ麻帆良ヲ出タラ御主人ニ送ッテ貰ウカラ、伝言ナラ伝エテヤルゼ?」部屋でガンナーと殺戮人形が喋っていた路面電車? で良いのだろうか? ソレに揺られて三十分。行きで買った御握りを食べようかと思ったが止めた。中には人が殆ど居ないが、始めてみる景色がくれる安らぎが食欲を抑える。此処で何かを食べるのはいけない様な気にさせる。何所にでも有るような風景が、こんなにも新鮮な物だとは思わなかった。電車にも揺られ続けていたので少し眠い。頭に乗っけたチャチャゼロが、何も言わずに揺れている。こいつも何か思う所が在るのかもしれない。『機嫌良さそうだな? チャチャゼロ』『ン? マァナ。コウイッタノモ…悪クネェト思ッテナ』平穏。俺が求めるモノ。ソレと正反対の力ばかりやってくる。ソロモンの魔神は十三柱になった。いい加減に夜中に起こすのは止めてほしい。アスモダイ、72の軍団を率いる魔神。初めて契約したソロモンの魔神。七つの大罪の一つを司る大悪魔。奴が俺に寄越した指輪は普段は付けない。大切に保存している。何よりも、俺に美徳は似合わない。名前だけ挙げれば、自分が如何に過剰な戦力を保有しているか解かる。40の悪霊軍団の頂点に立つアスタロト。彼を呼び出す際に行った実験は成功した。彼は彼で有り彼女と成った。ソレを喜ぶのは向こうの自由だ。忠誠なぞ誓わなくて良い。お願いですから上司を紹介しようとしないで下さい。勘弁してください。争いは勘弁です。後、愚痴らないで下さい。ソロモン王の事なんて知りません。26の軍団を持つ予言の貴公子、ヴァッサゴ。彼は美しく偉大だった。過去、現在、未来の出来事全てを見通すことができるが、その術は封印しているとの事。面白くないからだそうだ。29の悪霊軍団を率いる地獄の長官、フォラス。リリアの遠い親に当る悪魔。最近リリアが教えを請いに行っているので、中々に寂しい。26の軍団を指揮する伯爵ハルパス。性格は好戦的なうえに血を好む。人の血を飲もうとしないで下さい。後、エヴァさんと喧嘩するな。コレがガラの遠い親とは思えない。皆、違うモノが混ざっているらしいけど…はっきり言って、バレたら死刑な状況。今回の事件、戦争は避けたい。俺が巻き込まれなければ好きにすれば良い。現在、未だ人間で居られるのは奇跡なのかもしれない。若しくは精霊と悪魔のお蔭かも知れない。バカみたいにでかくなった魔力量。コレがバレたら実験されると思う。厄介事しかやってこない。『オイ、着イタゼ』「…降りるか」気が重い。全ては自業自得かもしれないけど…鶴子さんに助っ人頼むんじゃ無かった。手紙の内容は重要ではない。俺が行く事に意味が在る。ソレが俺宛に貰った手紙の内容。妹さんには別にある。渡せば解かると言っていたので嫌な予感しかしない。しかし、麻帆良に残るのも危ない。前者の方がまだ、マシだと思ったから来たのだでも…「階段…長いよ」「ケケケ。マァ、頑張レヤ」降りろよ。階段を上がる前に軽く食べたくなったので、階段に座って遅めの朝食。何だか上の方から叫び声とか、打撃音とか爆音とかが聞こえてくるけど気にしない。気にしたく無い。「…帰ろうかなぁ」「何や…えらい背中が煤けとるで?」振り向くと、狐目の女性がタバコを吸いながら俺を見ていた。何処と無くヤル気が無いというか…怠けるのが大好きですといった雰囲気がします。ちょっと酒の匂いもする。「いえ…人に合う為に来たんですけど…階段が」「あ~…最初はウチもきつかったからなぁ…頑張れとしか言いようがないで? それで、誰に合いに来たんや?」この人…知ってるのか? 一応聞いておこう「青山鶴子さんの妹さん何ですが…確か…素子さん? という人です」「鶴子って…光化学兵器を生身で跳ね返すあの鶴子さん?」何そのとんでもパワー…出来そうだから恐いなぁ「えぇ、その鶴子さんです。青山の剣鬼。神鳴流最強の青山鶴子さんに言われて来ました。」「…大変なんやな」「…はい」何だか同情された。旅行鞄を持ってヒーコラ言いながら階段を上がる。上がり終わって気付いた。身体強化すれば良かった…「抜ケテルナ」「言わないで…疲れてるんだから」ちょっと、現実逃避してみる。気とか魔力とかで身体強化してないのに人間を打ち上げる拳を持った女性とか完全にメカです。ありがとうございましたなカメに乗ってる褐色美人とかあわあわしてて見てて癒される女性とか今、目の前で昇天しかかってるおっとりしている女性とか再生中の眼鏡掛けた男性とかその男性に擦り寄っている黒髪の女性とかあからさまに妖気を振りまいてる刀を持った大和撫子とか居るわけ無いよね? 居たらおかしいよね?「む? 妖気? 」ヤベ、眼が合った「戦オウゼ? 現実ト」「…普通に生きたいです。」「ミュー?」カメが飛んでるんだぜ? 嘘見たいだろ? 魔力も気も感じないんだぜ?「ミュ、ミュミュミュー」「あぁ、そうなの。何時もの事なんだ……君の名前は?」普通に動物の言葉は解かるよ? 指輪の御蔭で「ミュミュ~」「温泉タマゴ? タマって呼ばれてるの?」メスらしいですよ? 「少年…其処の人形からは離れた方が良い」「ミュウ?」「こら、コッチに来るな!!」カメが苦手なんですね。勿体無い。猫も飛んでるよ。オカシイ。絶対におかしいよね?現実だから認めるけどさ…さっさと用件済ませてゆっくりしよ「すみま「だから、アンタは妹でしょうが!!」…」「血は繋がっていません!!」もう一回「すみ「だから、私に近寄るな!!」…」「相変らずやな~モトコ」ソロソロ…怒っても良いよね?「む、むつみさん戻って来てー!!」「あら? 綺麗なお花畑は?」好い加減に取り合ってくれても良いと思うんだ。鶴子さんから、この人達なら非常識なれてるからもしもの時は…って言われてるし。寧ろ手紙に書かれてたし…良いよね?俺、頑張ったよね? 寝不足なのに…頑張ったよね?「ゴールしても良いよね?」「オイ…イヤ、何デモネェ」マガ・マギ・ゴディア・マラスクス「監視ハ付イテネェゼ?」頼りに成る友人は心強い「全てを縛る大地の鎖、不可視の縛鎖にて彼の者を跪かせよ」お話しする為には静かにして貰わないといけないよね?ベタンと大地に引っ張られて貼り付けになる人々。一応、昇天しかかってた人とその人の救助を行っていた人には掛けてません。また、昇天されても困るし…俺は手紙を渡してゆっくりしたい。「青山鶴子さんの使いです。青山素子さん…お姉さんからお手紙ですよ?」直ぐに魔法の効果が切れて、他の人達が立ち上がった。それでも、一人だけ立ち上がらずにプルプル震えてる人が一人。たぶんというか…この人が素子さんで間違い無し。素子って呼ばれてたし「本当に…姉様から?」「はい、昨日電話をしたんですが?」「あ、君がアギ・スプリングフィールド君? 」眼鏡を掛けた男性が、頬を掻きながら続けた「俺が伝え忘れちゃって…ゴメン素子ちゃん。取り合えず、中にどうぞ」何だか、憎めない人だなぁ…この人