わたし、高町なのは。聖祥大附属小学校三年生!
……でも十年前までは日本全国どこにでも生息しているヲタな男子専門学生でした。
毎日授業は寝て過ごして、放課後はヲタショップでアルバイト、帰宅しては好きなアニメのDVDを見る充実した日々……でもそんな幸せな時間は長くは続きませんでした。ぶっちゃけると、アルバイトの帰りにヲタク狩りにあって、毅然とした態度で臨んだら刺されちゃったんです。神様っていないんだなぁって思いながら、夜空を見上げる格好で徐々に身体から抜ける温かみを惜しんでいた、その時でした。
『悪い悪い、ちょいとうたた寝しとったら偉いことになってしもうたのぅ』
神様が降臨してきたのです。それもかなり軽いノリで。
『すまんのぅ、うちの新人がうっかりおまえさんの死亡フラグ立ててしもうたらしい』
うっかりって……泣きたくなりましたが、もはや身体から魂が軽くはみ出ていたわたしは涙を流すことができませんでした。
『お詫びといってはなんだが、何かひとつ願いを叶えてやろう。生き返らせるのは無理なんで、来世に関して、じゃが』
そういわれてもパッと思い付くものじゃないのでわたしは困ってしまいました。すると神様は手をぽむっと打って思い付きを口走ってきました。
『ではこうしよう。わしがおまえさんの心の底にある願いがひとつ叶うようにしておくから、特に願いをいわずに転生しなさい。開けてビックリ玉手箱、ってなもんじゃ。どうじゃ?』
それは面白いなぁ、とわたしは思いました。自分の意識していない願望がなんなのか、興味がわいたのです。
『うむ、どうやらそれでいいようじゃな。ではゆくぞい。アパラチャノ・モゲータ!』
ちょ、それは月の人の呪文! 突っ込もうとしたわたしの意識は急速に薄れ、気が付いた時には、
「オギャア、オギャア!」
生まれ変わっていたのでした。
生まれてしばらくすると、周囲の状況もおぼろ気ながら掴めてきました。
どうやらわたしは海鳴在住の高町さんちに次女として生を受けたもののようでした。周りがなのは、なのはと呼んでいることと、お母さんらしき人がお父さんらしき人のことを士郎さん、お父さんらしき人がお母さんらしき人のことを桃子と呼んでいること、お兄さんらしき人が恭也、お姉さんらしき人が美由紀と呼ばれていることからの推測でした。
あれから色々なことがあって、今やわたしはすっかり高町なのはに馴染んでしまいました。
最初の内は高町なのはを演じている感覚だったけど、肉体に精神が引きずられたのか、元々神様がそういう風に設定していたのか……わたしは自然と高町なのはになり、そしていつしか原作の記憶は希薄になっていました。
記憶が薄れてしまった原因はもしかしたら、なのはが色々なことに出会い、原作とは違う道筋を辿ってしまっているからかも知れないのですが……それはもうどうでもいいことなのかも、ってなのはは思うのです。
だって、なのはは今を生きてるのです。原作とかは、そういう生き方をしたなのはもいたっていうだけで、なのはの今の生き方を縛るものじゃないのです!
でも、少し……ほんの少しだけ、消えてしまった原作の記憶を惜しむなのはもいます。
そう、原作の知識がちゃーんと残っていれば…………
「こんな目に遭わなかったかも知れないしーっ!!」
現在、真っ黒なお化けからフェレットさんを救い出して絶賛逃走中です。げ、原作憶えてたら、もっとしっかり準備して臨めたのにーっ!!
「ごめんなさい、巻き込んでしまって!」
フェレットさんが謝ってきても、それどころじゃありません!
追いかけてくる真っ黒なお化けをちらりと振り返ると、数本の触手を蠢かせながら冗談みたいなスピードで追っかけてきています。これでもなのははかけっこは学年一番なんです、上級生にだって負けません!
でもあのお化けは足もないのに、地面を這うような移動方法なのに、ぴったりとなのはに着いてきています。むしろいつでも追い付けるのを、なのはの絶望を煽るためにわざと徐々に距離を詰めているようにすら感じます。
「どどどどーしよー! 小太刀も木刀も飛針も鋼糸も家だし……にゃ~~、呪符もないよ~~っ!!」
夜中に不思議な声でフェレットさんに呼び出されたなのははとるものもとりあえず駆けつけたので丸腰なんです。
でもなのはが恐怖に駆られているのには無手だからじゃないです。御神流には無手でも戦う手段はあります!
でも……お化けのヌメヌメとした身体に触れるのや、わたしの記憶にあるおちんち……だ、男性器そっくりな先端を持つ触手から感じるひじょーにイケナイ予感がなのはの身体をすくませます。わたしの記憶の中に残された「いちはちきん」とゆー単語がなのはを本能的な逃走に駆り立てるのです!
「やだやだやだやだ~~! こんなのいや~~っっ!!」
涙目です、嫌です、XXX板はなのはにはまだ早いんです!
「こ、これを……」
なのはの腕の中でフェレットさんが首にかけていたまんまるで真っ赤な宝石を器用に外してなのはに差し出してきてる……これって確かデバイス、だったかな? 劣化した記憶だと、確か魔法の発動補助器具……って魔法!? う……魔法少女……? こんな重要なことをすっかり思い出せなくなってた辺り、なのははもう転生憑依系主人公としてはダメダメかも知れません。
「な、なにこれ!?」
とりあえずフェレットさんに訊ねます。もし違ったら大変だし、知ってたら知ってたで怪しすぎると思いますし。
「これはデバイス……魔法を使うための道具です! あなたには才能があります、魔法を使える、才能が。このデバイスはあなたをサポートして魔法を使えるようにしてくれます。さぁ、手に持ってください!」
フェレットさん……あなたが言ってることは本当のことだってなのはは知ってます……でもこの世界の常識を考えて発言してほしいです。いくらフェレットさんが喋るのがファンタジーで、それを目の当たりにしているからといっても、普通はいきなり言われても信じられないと思います!
とはいえなのははおぼろ気な記憶もあるし、わたしたちが思うよりも世界には不思議が多いことも知っているのでためらわずにそれを受け取ります。
「ど、どうすれば魔法が使えるの?」
「まずはデバイスを起動させます。起動パスワードを教えますから、ぼくの後に続いてパスワードを唱えてください! 我、使命を受けしものなり――」
「我、使命を受けしものなり――」
走りながらはつらいですけど、生命と貞操がかかっている状況です。空気の読めるなのはは文句なんか言いません!
「契約のもと、その力解き放て――」
「契約のもと、その力解き放て――」
唱える内に、頭の中が冴え渡るような、不思議な感覚が身体を支配して……。
「風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に――」
「風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に……この手に森羅万象の理を――」
あぁ、知ってる……これ……自然と一体に…………。
「えぇっ!? ち、違います、この手に魔法を、で」
「我がもとに来たりて形を成せ、銀水燐(シルバー・スイレン)、セットアーップ!!」
瞬間、光がわたしを包み込んで………………。
《おはようございます、マスター》
「パスワードが違うのに起動したーっ!?」
「おはよう……あなたはシルバー・スイレン。仕込み錫杖と拳銃、二つで一つの、わたしの……なのはの半身だよ」
無意識の内に、あの人の武器を思い浮かべていたみたいで、なのはの前には錫杖と拳銃の形をしたものが浮かんでます……あれ? このデバイス、確か名前も形状も違うはず……もしかしなくても、なのははまたやってしまったのでしょーかっ!?
《新しい名と姿をありがとうございます……バリアジャケットのデザインもいただけますでしょうか?》
「えっと……?」
喜んでくれてるけど……この子のいうバリアジャケットって……なんだっけ? あぅ、なのはの頭はダメダメなのです……。
《身を守る防護服、戦うための鎧ともいえます》
言われて、ピンと来ました。
武器があの人をパクってしまったのなら、毒を食らわば皿まで、なの!
「えっと……こんな感じで……大丈夫かな、シルバー・スイレン?」
《はい、ではバリアジャケットを展開します》
シルバー・スイレンの言葉とともになのはの服が光って消え……ええええぇぇっっ!?
「にゃーっ!?」
慌てて手で少しでも大事な場所を隠そうとしたけど、身体はまったくなのはの思う通りには動かなくって……むしろ大人のひとがやったらすごくえっちなポーズをとったりしてますよ!?
バリアジャケットの展開はひどくゆっくりと、しかも身体の末端から始まるし……し、シルバー・スイレンさん!?
《素敵な変身シーンでした、マスター》
どこか恍惚としたような声のシルバー・スイレン……で、デバイスってこんなだっけ!? 違うよね!?
とりあえず現実から目を逸らしたくなって、なのはは展開されたバリアジャケットを確認します。
ノースリーブの黒いチャイナ服、留め具はおっきなジッパーになってます。その上につけているのもノースリーブで、赤いレザージャケット。ポケットいっぱいなデザインがなのは的にはポイント高いです。
足元はノーソックスで拳法靴、手元は白いフィンガーレスグローブです。
左の太ももには二本の赤いバンドでガンホルダーを留めてあります。
「完璧なの……さっきのむりやりの変身シーンさえなければ」
《お気に召しませんでしたか?》
「恥ずかしかったの……もう、しないでね?」
《…………善処します》
「ありがと、シルバー・スイレンっ」
いくら前世を二十年近く男としても、今やわたしは、なのはは女の子なんです。裸になったら恥ずかしいです。
ちょっと涙が出ちゃいました……。
でもよかった、周りに男の子がいたらなのはは本気で泣いちゃったかも知れませんし。いたのはシルバー・スイレンとフェレットさんとお化けだけで…………あれ? わたし、何かじゅーよーなことを忘れているような……?
辺りを見回してみます。でもやっぱりシルバー・スイレンとフェレットさんとお化けだけ。シルバー・スイレンはデバイス、フェレットさんは動物、お化けはお化けだから見られても問題ないはずなんですが…………って!?
「何でお化けがお行儀よく変身シーンを鑑賞してるのっ!?」
しかもよく見ると触手の一本にハンディカム持ってるし!
《よ、幼女、幼女の生変身……ハァハァ》
お化けがものすごく恍惚とした声で喋りましたよ!? って何で急ににじりよってくるの? 何で触手の先端から粘りけの強い液体をしたたらせてるの? 考えたくないけど、それって……それって…………、
「ぃ、いやぁぁぁぁぁぁっっ!!」
なのはは全身を襲った恐怖を振り払うように金色の仕込み錫杖・水燐を右手で抜き払うと、左手に霊力を集中させて一枚の封印用呪符を具現化させ宙に放ち、素早く右手の水燐でその呪符をお化けに縫い付けます。
「邪気、吸引!」
なのははもう涙目どころか本泣きです!
だから手加減とかまったく考えない全力全開でありったけの霊力を込めて、お化けの邪気を呪符に吸わせます。
「邪気、浄散なのーっ!!」
気合い一発、呪符にすべての邪気が吸い込まれた瞬間に水燐に霊力を流し込むと、封印用の呪符は燃え上がって一瞬で灰になります。浄化の炎で即座に邪気の残念もろともに浄めて散らしたのです。
「はぁ……はぁ…………う~~、終わったよー、よかったよー」
なのはは青い宝石の前でえぐえぐ泣きながらも安堵の声を漏らします。まだ汚れたくないんです、乙女として……。
「すごい……でもいったい今のは……見たこともない力、それに術式も魔方陣として投影されてなかった……まさか、この世界固有の……?」
フェレットさんが何か言っているけれど、貞操が無事だった喜びを噛み締めてるなのはには聞こえません。
これが、わたし高町なのはが魔法に関わった最初の事件、その顛末です。
いっぱいのお友達といっぱいの幸せ、その思い出のアルバムの最初の一頁。
いつまでも色褪せない記憶の物語。
退魔少女オリエンタルなのは、はじまりました!
ね、ネタでありますように!
たとえネタを連載するとしてもXXX板じゃありませんようにっ!!(必死)
あとがき
初めましての方は初めまして、以前どこかで見たという方はどうかご内密に。
ネットの片隅で蠢くナマモノことシノオカです、どうぞよろしく。
今回は思い付きで変な文字の羅列を投稿しまして、大変申し訳ございません。
もし気に入られた方や続きを読みたい方がおられましたらその旨の感想をいただきたく。
その場合は細々と連載させていただきたいと考えております。
で、まぁ、おそらくこのままチラ裏の下の方の地層に消え行くとは思いますので簡単な設定を書いておきます。
登場人物
高町なのは
生まれ変わったらおにゃのこ、しかも後の魔王様。
何だかんだで気付けば精神が順応し、女の子より女の子っぽい女の子に。性方面は潔癖というか純真というか……むしろ夢見る女の子?
多分魔王様にはなれません。あと何気に古式東洋魔術(オリエンタルエンシェントマジック)の使い手、仙術と妖術と陰陽五行術のチャンポンですが、そこら辺は師匠がそうなんで仕方ないとか。ミッドチルダ式は使いません。
師匠は七百六十五歳の例の駄狐。
戦闘BGM:霧の中のアリス
フェレットさん
今回名前が出ませんでした。
主人公に百合属性がないので輝ける可能性があると楽屋で熱弁を振るったとか。
シルバー・スイレン
旧名レイジング・ハート。
拳銃型の銀(シルバー)と仕込み錫杖型の水燐(スイレン)。ふたつでひとつの特殊形態。
なのはが電波を受信(正確にはトランス状態になって啓示を受けたのだが)して改名されたが本人はいたくお気に入りのご様子。
元ネタはなのはの師匠の装備を丸パクリ。バリアジャケットも丸パクリ。
なのはから術式をコピーしたので呪符生成とかもできる。マスターラブ・マスター命。日本語で喋るのはシノオカが英語ダメダメだからです、サーセン。
お化け
ジュエルシードの思念体。
幼女が大好き(性的な意味で)。
新年だし、おとそ気分ということでっ!