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No.5527の一覧
[0] 東方結壊戦 『旧題 ネギま×東方projectを書いてみた』【習作】[BBB](2010/01/05 03:43)
[1] 1話 落ちた先は?[BBB](2012/03/19 01:17)
[2] 1.5話 幻想郷での出来事の間話[BBB](2009/02/04 03:18)
[3] 2話 要注意人物[BBB](2010/01/05 03:46)
[4] 3話 それぞれの思惑[BBB](2012/03/19 01:18)
[5] 4話 力の有り様[BBB](2012/03/19 01:18)
[6] 5話 差[BBB](2010/11/16 12:49)
[7] 6話 近き者[BBB](2012/03/19 01:18)
[8] 6.5話 温度差の有る幻想郷[BBB](2012/03/19 01:19)
[9] 7話 修学旅行の前に[BBB](2012/03/19 00:59)
[10] 8話 修学旅行の始まりで[BBB](2012/03/19 00:59)
[11] 9話 約束[BBB](2012/03/19 01:53)
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[5527] 6話 近き者
Name: BBB◆e494c1dd ID:bed704f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/19 01:18
「やぁ」
「あら、こんにちは」

 呼び鈴が鳴らされ、玄関に出て出迎えてみれば高畑さん。
 今は昼前、この時間なら教師って仕事があるんじゃないの?

「そうだけど、僕は予備に回ったんだよ。 それに監視って意味もあるからね」
「へぇ、そう」

 あがる? と聞けば、お邪魔するよ、と返ってくる。
 そうして玄関から廊下を通り居間へと出る、私と高畑さんを迎えるのは寝転がって本を読む魔理沙。

「ん? おっさんは誰だ?」
「二日前に会ったばかりなんだけどね」
「……ああ、逆さだったから分からなかったぜ」

 と魔理沙は起き上がり、足元に有った別の本を手に取る。
 そうしてすぐまた寝転ぶ。

「お茶入れてくるわ」
「私のも頼むぜ、すっからかんだ」
「はいはい」





 そう言って霊夢君が台所に足を向けた。

「高畑さんは座ってて、お茶持ってくるから」
「ああ、ありがとう」

 言われた通り居間のテーブルの近くに座る。
 台所に消えていく霊夢君、そして視線を外し、開いた襖の外を見れば手入れが行き届いた庭が見える。
 そこからさらに視線をずらせば置いてある白黒の帽子と、テーブルの反対側に居る魔理沙君が、頭を此方に向け寝転がって本を読んでいた。

「何を読んでいるんだい?」
「あん? 下から持ってきた本だぜ」
「下? 図書館島かい?」
「そうそう、アルビレオのとこから持ってきたんだ。 帰る時にしっかり返してくれって言われたがな」

 しっかりバレてたぜ、と笑って呟く。
 それが唐突過ぎて唖然、何とか整理して口を開く。

「……な、んだって?」

 繋がりが全く無いように思え、どうしてこんな事実が彼女の口から出てくるのか分からない。

「何がだ?」
「アルビレオって、……あのアルビレオのこと?」
「他にアルビレオさんとやらが居るのか?」

 まさか、あの人が図書館島に居るのか……。
 アルならナギの行方を知っているかもしれない、会いに行くか?
 ……いや、黙ってた位だ、何らかの理由があるかもしれない……。
 学園長は……知って居ただろうなぁ、アルから口止めされていたからと言うのが妥当かな。

「……おお? これは……」
「ん?」
「こりゃあ……、なるほど」

 物思いに耽っていれば、魔理沙君が妙な声を上げる。

「ほうほう、こんな本をパチュリーがねぇ……」
「……ぱちゅりー? その本の著者かい?」
「ああ、一週間だぜ」
「一週間……?」
「そのままさ」

 と、魔理沙君は寝そべりながら、持っていた本に集中し始める。

「………」

 向こうの話だろうか、時折理解しがたい単語が出て来るため何らかのヒントが無ければ全く分からない。
 『一週間』『そのまま』、このヒントでぱちゅりーという人物を……、いや、『ぱちゅりー』と言う答えは出ているのか。
 魔理沙君が読むのは恐らく魔法書だろうから、書いた人物はその『ぱちゅりー』と言う魔法使いだろう。
 だがぱちゅりーという魔法使いに心当たりはない、エヴァなら或いは知っているかもしれないが。
 
「……そのぱちゅりーと言う人は──」
「あッ!」

 魔理沙君を見て、ぱちゅりーという人物の事を聞こうとしたら。
 魔理沙君の傍に何者かが一瞬で現れ、手に持っていた魔法書を奪い一瞬で消えた。

「おい! こら! 返せ!」

 ほんの一瞬だ、薄い紫色の長いローブのようなものを着た少女が現れ消えた。

「今のは……?」
「何で持って行くんだよ! ……なに? 『著者だから私の物』?」

 立ち上がり叫ぶように言う魔理沙君、顔は斜め上を向いていた。

「本人が書いたんだから、本人の物でしょ」

 とお盆に茶碗を乗せ、居間に戻ってくる霊夢君。

「本人と言うのは?」
「見たんじゃないの? 紫色」
「……ああ、あの少女が……」
「高畑さんより年上だけどね」

 それを聞いてとっさに若すぎる、と考えた。
 二十歳にも届かないような、多少幼い顔つきの少女。
 流石にエヴァンジェリンのように何らかの要因で歳を取らなくなった、或いは老けにくくなったと言うのも早々無い。
 恐らくは単純に童顔だろうか、そこら辺だろう。
 そんな考えを見透かしたように、霊夢君が心中に切り込んでくる。

「こっちには外の世界から来た妖怪も結構居るのよ。 人間も入ってくるし、人間で無くなった者も入ってくるの。 例えばパチュリーのように『魔法使い』になった人間もね」
「……魔法使いになった人間? こっちと魔法使いの定義が違うのかい?」
「何とかの魔法を使った奴が魔法使いになる、だったかしら? ……生まれ付き魔法使い? そうなの、どうでも良かったわ」

 そう言って僕と魔理沙君にお茶と茶受けを前に置く霊夢君。
 生れ付きの魔法使いとはどういう意味だろうか……。

「間違うなよ、捨食が人間用、捨虫が魔法使い用だぜ。 どっちか使わないと『完全な魔法使い』じゃないぜ」
「捨食や捨虫とは?」
「捨食が──」

 と言い掛けた魔理沙君が口を噤む。

「……? どうしたんだい?」
「駄目だってさ」
「……あー、それなら言わなくて良いよ」

 外にもらしたくは無い情報か。
 こちらとしても情報は欲しいけど、身に危険が及ぶ類のものは出来るだけ遠慮したい、相手が相手だし。

「そう簡単に使える魔法じゃないだろ、と言うか外で使える奴なんて居るのか?」

 視線を上げ、そう呟く魔理沙君。
 向こう側、学園長から聞いた恐らく八雲 藍さんとでも話しているんだろう。

「教えて意味の無い物なら、教えてあげても良いんじゃないの?」
「……なぁ、タカミチ」
「なんだい?」
「外の魔法使いは業突く張りって、本当か?」
「魔理沙も業突く張りじゃないの」
「私は襲ったりして手に入れたりはしないぜ」
「門番跳ね飛ばして、盗賊……強盗紛いの事はするくせに」
「跳ね飛ばしてなんかないって、好き好んで間合いに入り込むなんて物好きじゃあない。 門番の射的距離外から『BAN!』だ」

 右手の親指と人差し指を立て、それを霊夢君に向ける魔理沙君。

「それにあれは借りているだけだぜ、私が死んだときに持って行ってもらえば良いだけだろ」
「轢くも撃つも変わらないでしょ、毎回やられる門番も堪ったもんじゃないね……」

 無理やり持っていってるのか。
 霊夢君が言う通り、持って行かれた者には堪らない話だ。

「どうなんだ? 業突く張りばかりか?」
「そんな事は無いよ、確かに自分のことしか考えてない者達も居るけど、全員がそう言う人たちではないさ」
「……向こうの言い分じゃ、そう言う人たちのほうが少ないらしいぜ?」
「こっちの魔法使い達を知っているのかい?」
「最近まで外の世界に居た奴等だって居るんだ、外を知らない私らを基準に考えるとは止めた方が良いぜ」

 いろんな意味でな、といかにも含みがあるような呟きを残す魔理沙君。

「……そうするよ、そちらにはこっちの事を良く知っている人物もいるようだし」
「スキマなんかその典型だぜ、人の知って欲しくない事まで覗いてくるからな」
「それは……、まぁ……」

 なんと言うか、ご愁傷様と言えば良いのだろうか……。

「……まぁ駄目か、それはそれで良いけど」
「それを知って僕等が得をするような話なのかい?」
「いやー、まぁ無理だと思うけど。 知っても簡単に使えるような奴じゃないしな」
「使える可能性がある以上、教えるのは止めておいた方が良いと思うよ」
「言い触らす訳じゃあるまいし、ねぇ高畑さん?」

 と何か引っかかる言い方、聞き様にとっては脅迫にも聞こえなくは無い。

「どんなものか分からないけど、早々実践できないんじゃ信じてもらえないと思うけど」
「見えるものが無いと信じない奴も多いしな」

 両手を挙げて、肩を竦める。
 可視と不可視、出来る事と出来ない事。
 証拠とは両者が相容れて成り立つ物、ゆえに相容れなければそれは『証拠』として成り立たない。
 証拠を持ちえなければ、そう言う物がある『かも知れない』程度の認識へと落ち込むだろう。

「……そういえば高畑さんは昼餉はもう済ませた?」
「いや、まだだけど」
「そう、食べていく?」
「いいのかい?」
「霊夢の金じゃないしな」
「そっち持ちだから」

 その一言が全てを物語っている。

「……そうだね、頂こうかな」





 そうして出された食事は一汁一菜。
 炊き立ての白飯に、赤味噌で味付けされた豆腐とたまねぎが具として入った味噌汁。
 おかずとして、煮詰められ柔らかそうな野菜が見える肉じゃが。
 香の物として蕪の酢漬け、いわゆる千枚漬けが添えられている。
 近年見られる東洋の料理が一切入り込んでいない、純日本の献立だった。

「いただきます」
「いただきます」

 霊夢君のあとに続き、手を合わせて食前の挨拶。
 
「今日は赤味噌か」
「文句あるの?」
「昨日も赤だったろ、今日は白にするべきじゃないのか」
「そう言うなら自分で作ってくれる?」
「良いとも、次は白味噌でうんと美味いの作ってやるぜ」
「幻滅しない程度には期待してるわ」

 軽く手を合わせていただくぜ、と食べ始める魔理沙君。
 午後の昼下がり、3人がテーブルを囲んで昼食。

「……うん、お味噌汁なんて久しぶりだ」

 海外ではミソスープとして呼ばれるお味噌汁。
 最近では店でラーメンとかコンビニのサンドイッチなど、手間が掛からない物ばかりだったのでこういう日本食は本当に久しぶりだ。

「日本人なら味噌汁だろ」

 黒目黒髪の霊夢君ならいざ知らず、金目金髪の魔理沙君が言うにはちょっと似合っていないよ。
 そう突っ込みたくなったが、日本に帰化した外国人も居るし、どうなるんだろうか……。
 たあいも無い疑問を思いながら箸を進める。
 味噌汁、白飯、肉じゃがと千枚漬けを完食、量的には十分で、腹八分目と言って丁度良い。

「……ご馳走様でした」
「お愛想様」

 茶碗を重ね、お盆へと乗せる。
 霊夢君は食器や茶碗を載せたお盆を台所へ持っていった。
 そうして最後に残ったお茶、それに口をつけ一つため息を付いた。

「大分疲れてる様に見えるが、何かあったのか?」
「君たちの事もあるんだけどね」
「それは紫に言ってくれ、私は何にもして無いんだから」
「どの口がそれを言うのかしら」
「私の小さなお口ですわ」

 すぐさま霊夢君が戻ってきて、どこからとも無くお払い棒が現れ右手の近くでくるくる回していた。
 それを見て魔理沙君は口を閉じた、正確には閉じさせられた、だが。

「子供達に勉強を教えているんでしょ?」
「そうだよ、まぁ彼女達はちょっと腕白だからね」
「3人だけでもきついからなぁ、走り回るあいつ等は無尽蔵の体力でも持ってるのか」
「そこまで小さくないよ、君達と同じ位かな」

 15歳か16歳、集まっている子たちがちょっと特殊で相応に見えないけど。
 霊夢君と魔理沙君もそれ位だろう、流石に風香君や史伽君ほどではないが、魔理沙君は背が低いからもうちょっと下に見える。

「そんな歳になるまで勉強ねぇ、そんなに面白いのか?」
「魔理沙のと同じじゃないの?」
「楽しいからやるってことか、アイデンティティだな」

 そうだろうか、勉強が楽しいって子は多くないと思うけど。

「……ところで魔理沙君、君の魔法は誰に習ったんだい?」
「最初は少しだけ教えてもらったんだけどな、後は独学。 何処行ったんだろうな」
「……独学でそこまで鍛え上げたのかい」
「これでも『もっと修行しな』って言われそうだけど」
「いつの間にかどっかに行ってたのよね」

 帽子を弄りながらも魔理沙君、霊夢君はお茶を飲みながらの一言。
 やはり彼女達の背後に居る者たちは、さらに上の力を持っているようだ。
 彼女達もこれからさらに伸びていくだろう、向上心が見えるだけに今のレベルが最大とは思えない。
 考えている通りなら、末恐ろしい才能だ。

「君達が住む地域って、どんな所だい?」
「普通だぜ、人里が在ってそこに人間が住んで、後は山とか平原とか、妖怪や妖精たちが適当に住んでる」
「……妖精? 妖精も普通に?」
「普通だぜ、なぁ?」
「三馬鹿とかね」

 普通に存在する、魔法世界にも余り見られない妖精が普通に住むと言う事か。

「幻想郷には興味があるってか?」
「……そうだね、興味は有るよ」
「高畑さん位なら中級相手でも倒せるでしょうけど」
「油断してると食われかねないがな」

 なるほど、話に聞く限り僕レベルでも平均的。
 深く注意を払うような存在ではなく、たまたま遭遇して、攻撃を仕掛けられてもそれなりの力で倒せる程度なのかな。
 随分と力の敷居が高いらしい、そうなってくると彼女達の実力が高いのも納得が出来そうだ。

「食われるって事は、やはり妖怪とはそう言う存在なのかい?」
「妖怪は妖怪でしょ、人を浚って人を食う。 それが妖怪の存在原理でしょ、それを知らないって、言う通り本当に少ないようね……」
「やっぱり人間を食べるのか……」
「まぁ妖怪だしな、私達だって他の存在を食ってるんだから、妖怪たちに飯食うなって言えないだろうさ」
「私達を食べたくて襲ってくるなら、復活も難しい位に叩いてあげるけど」

 あれだけの実力だ、襲った妖怪は跡形も無く吹き飛ばされそうだ。

「人間が妖怪に食べられるってのが許せないのか?」
「……心情としてはそうだけどね、此方の言い分を一方的に押し付けるのは気が引けるよ」

 人間だけを食べるかどうかは分からないけど、単純な生死が賭かってくる為に『食うな』とは言えない。
 それを押し付けるならば、自分たちも他の存在を、家畜などを食う事を止めなければいけない。

「まぁ高畑が心配するような事は無いだろ、今は襲う事も襲われる事も減ってきてるって言うしな」
「それじゃあどうやって……」
「紫が何かしてんだろ」

 襲い襲われが減ってきている、なら妖怪たちが食べるのは人間だけじゃないって事かな。
 それとも八雲さんが供給でもしているのか? そうだとしたならどこから人間を集めているのか……。

「それ以上考えない方が良いわよ。 結局は妖怪は人間を食べ、人間は妖怪を退治する、その関係だけはずっと残り続けるんだから」

 過程を無視し、結果だけを残すのか。

「そうは言ってないわ、結果が残るのも過程が在ってこそよ。 だけどその過程は高畑さんたちには受け入れ難い物っぽそうし、これ以上考えないほうが良いって忠告してるの」
「知ってるんだね?」
「知ってるわよ、知っておかなくちゃいけない事だし。 本当に高畑さんが気にする事じゃないわ、本当に気にする必要がある奴は……紫くらいね」
「それでも知っておきたいんだ」
「知って後悔しないって言うなら良いけど、……紫が外の世界から引っ張って来てるのよ」
「やっぱりか」
「予想してたんなら話は早いわね。 紫が持ってくるのは居ても居なくても良い人間や、己の命を投げ捨てる人間だけよ」
「自殺はともかく、居ても居なくても良い人間なんて本当に居ると思ってるのかい?」
「思ってるわ、世界は必要とする人間だけを残し、そうでない人間の扱いはぞんざいなのよ。 その過程で必要か不要か、勿論本人の努力でその選択は簡単に打ち砕ける。 その選択を迫られるのは心が死んでいる者たちだけ」

 生きようとする者には、道が開ける。
 死を選ぶ者は元よりその道などありはしない、そこで終わってしまうから。

「……八雲さんはそれを選別してるってのかい?」
「スキマなら簡単にやりそうだよな」

 概念的な現象、それを識別して選別する。
 そうして『食料』を集めるのか。

「……ああ、言い忘れてたわ。 人間を食べるといっても、言葉通り人の肉を食べるだけじゃないのよ」
「どういう意味だい?」
「人の肉じゃなくて、人の心を食べる妖怪が居るのよ」
「心?」
「人の感情、喜怒哀楽と言った人間から発せられる数多の感情の波を食べるの」
「……心を食べられた人間はどうなる?」
「程度によるわ、ただ単純に怒らせたり喜ばせたりするだけでお腹が膨れる奴も居るし、その感情を浮かべる心を丸ごと食べる妖怪も居る」

 丸ごと食べられた人間はただの生きる肉になっちゃうけど。
 そう付け足して言う霊夢君。

「それにさっき魔理沙が言ってたけど、人間を食べていない妖怪も増えてきてるわ。 本質的に食べないといけない妖怪も居るけど、そうでない妖怪ももちろんに居るわ。 全部が全部食べるわけじゃないの。 それでも認められないって言うなら難しいわよ、だって世界の摂理だし、人間じゃあどう足掻いても手が出せない領域の話だもの。 ……どうにか出来る存在は、まぁ『神様』位よね」

 世界を作り上げた神、なら崩すのも神と言う事か。

『神だって全てが全知全能ではないよ』
「……なに?」
「ピンからキリよね、神様って」
「全部同じじゃあつまらんぜ」
「今のは……、誰だ?」
「一応神様よ」
「……神様?」
「信じない? まぁそんなもんでしょうけど」

 彼女達が住む土地は、神様まで居るのか……?

「……ア、アハハハハ」

 何かとんでもない事を聞いた、なんて言ったら良いか分からない。
 とりあえず笑っておけば良いのかな。





 教えて良い情報なのだろう、彼女達が住む『幻想郷』とやらの話。
 流石に幻想郷がある場所は教えてくれない、と言うか霊夢君たちも具体的な場所を知らないようだ。
 生まれも育ちも幻想郷らしく、閉鎖された地域で外から入ってくる情報はごくわずか。
 その情報をかき集めて推測するには圧倒的に足りないはずだ。

「しかし、いいのかい? 余り話すと……」
「藍も止めないし、良いんじゃないの?」

 こちらとしては願ったり適ったりだが、迂闊に聞きすぎて八雲さんが怒ったりしないだろうか。
 根本的な実力、地力の差が大きく穿たれているだろう現状、十全に情報を得ても生かしきれずに叩き潰される可能性が大きすぎる。
 相手の力や技を全て知っていても、防御や回避なり行おうとも、関係なく叩き潰せる力がありそうだし。

「なぁ高畑、どっか広くて人目気にせず魔法使える所無いか?」
「……一応思いつくけど、何するんだい?」

 話半ばにして、魔理沙君の興味は話から外れて図書館島から持ってきた本に移っていた。
 そして本を全て読み終えたのだろう、外れていた意識がこっちへと向いた。

「紫が居ないと幻想郷に戻れないし、ここで魔法をおおっぴらに使うのは駄目だと来てる」
「ああ、そうだね」
「不完全燃焼なんだよな。 ほら、昨日の夜の奴、途中で終わっちまったし」

 景気良くぶっ放したいんだよ、と随分と物騒な事を言い始めた。

「正直ぶっ放して欲しくないけどね、どうしても魔法を使いたいって言うなら良い場所があるんだけど……」

 使わせてくれるだろうか……、使わせる代価に何かしら求めてきそうだ。

「……なんだ?」
「うーん、使用料とか言って何か取られるかもしれないよ」
「ちょこっと頬を叩いたりしたら快く貸してくれないかね」
「強要じゃないか……、とりあえず聞いてみるけど」
「頼むぜ、使わせてくれないと酷い目に合うかもしれないって、ついでに伝えといてくれ」
「それはもう脅迫だよ! ……言っておくけど所有者は君達も知ってる人物だから、そんなことをしなくても良いと思うよ」

 彼女の『別荘』なら、短い時間でたっぷりと浸れる空間。
 魔法の使用も全く問題にしないだろう、その代わりに一日分歳を早く取ってしまうけど。

「あん? 誰だ?」
「エヴァンジェリンだよ、彼女がちょっと特殊な別荘を持っていてね」
「あー確かになんか要求してきそうだ、吸血鬼だけに血とかな」
「君達の魔法とか気になっていそうだから、魔法を見せるだけで済むかもしれないね」
「見せるも何もな、最初っから使う気だが」
「弾幕ごっこでもしようっての?」
「いいね……それなら少し変更だ、飯の仕度を決めようぜ。 負けた方は勝った方が食べたい献立を作るってのはどうだ?」
「……そうね、良いわよ。 いい加減魔理沙の分を作るのもめんどくさくなってきたし」
「よし、決まりだ!」

 早々食事の当番の勝負を決め、既に使う気満々。
 ……エヴァは了承してくれるだろうか。
 うーん、と悩んでいれば。

「……どうした? 早くけいたいでんわって奴で吸血鬼を呼んでくれよ」
「ん? ああ、今はちょっと無理だね、エヴァにも用事があるし、夕方くらいなら大丈夫だと思うよ」
「焦らすなぁ、期待させておいて落とすのは随分と酷い話だぜ」
「いやいや、焦らしてなんかないよ。 使いたいから使わせろって言うのも、随分と酷い話じゃないか」
「時間ってのは大切だぜ、一部除き無限じゃないし」

 一部? エヴァみたいに不老不死の存在でもいるのかな。

「あー、すぐに使えないってんならゆっくり読めばよかったぜ」

 そうぶつぶつ言いながら寝転がる魔理沙君。
 もう一方の霊夢君はゆっくりとお茶を啜っている。
 どうにも対照的な二人であった。





 それから数時間、他愛の無い話で時間をつぶす。
 そうして太陽が西へと傾き始める時間帯になった頃、この屋敷の呼び鈴が鳴った。

「はいはいっと」

 霊夢君が立ち上がり、今を出て行く。
 そうだったな、そろそろ交代の時間か……。
 そう思い待っていれば霊夢君と来客、葛葉先生と神多羅木先生が現れた。
 霊夢君はそのまま台所へ足を運び、葛葉先生と神多羅木先生はテーブルの前に座る。

「もうすぐ交代の時間ですよ、高畑先生」
「もうそんな時間ですか。 交代の前にちょっと学園長に伺わなくちゃいけない事が」
「待ちくたびれたよ、早く聞きに行ってくれ」
「……何かあるのか?」
「ええ、彼女達が魔法を使える場所を探しているので」

 携帯電話を取り出しそれを二人に告げれば、訝しげ視線が霊夢君と魔理沙君に向けられる。

「……本当に使わせる気ですか? あれだけの力を持っていますし、下手をすると街にも被害が、いえ、しなくても被害が……」
「最適な場所があるのでその心配は必要ないですよ、その場所を使わさせて貰うために学園長とかに話しておかないといけないんで……」
「……麻帆良の外に出るつもりか?」
「いえ、魔法で作られた特殊な空間ですから、麻帆良の外に出ないし、街に被害が及ぶ事は無いですよ。 問題は所持してる人物が人物なので、使えるかどうかは分からない所なんですがね……」

 大人3人寄って話す。

「まずは聞いて見なければ分かりませんし、引継ぎは学園長にも話してからで」
「ええ、指示を仰いでおかないと……」

 アドレスを開き、学園長と付いた電話番号が表示される。
 通話ボタンを押して、電話を耳に当てた。

「……学園長、ちょっとお話しておきたい事が……」

 立ち上がり、廊下に出てから話し始めた。





「ああ言うの、にとりが好きそうだな」

 立ち上がりながら携帯電話を耳に当て、廊下で近右衛門と話す高畑を見て魔理沙が腕組み。
 『かがくてき』な道具は嬉々として触るからなぁ、あれ見せたりしたら飛びつきそう。
 持って帰っても紫に没収されそうだからやめとくか、香霖の所にも似た様なのあったかな。

「はい」

 そんな事を考えていると霊夢がお茶を置く。

「どうも」

 神多羅木と刀子が会釈して言う。
 それを横目に出されたお茶請け、補充された煎餅を手にとって齧る。

「……良いですか? ええ、エヴァに聞いてみないと……、よろしいですか? それじゃあお願いします」

 どうやらコノエモンの方は良いらしい、あとは吸血鬼の方か。
 高畑が言っていたように、こっちの魔法に興味があるなら十分見せてやれば良い。
 どうせ弾幕ごっこで使うんだから、好きなだけ見れば良い。
 何か遣せなんて言ってきたら、ちょっと珍しい茸の一つでもやれば良いか。

「いや、待たせたね。 エヴァのほうには学園長から聞いてみるそうだよ」
「じゃあ連絡待ちか? やっぱり焦らすのな」

 はははと笑う高畑、こっちは本気で暇なんだがな。
 煎餅をバリバリと噛み砕き、咀嚼。
 お茶を飲んで、また寝転がる。

「……きりさめさん、女の子なんですからそう言うはしたない真似は」
「はしたない?」

 大の字で寝そべり、髪も畳の上に広がっている。
 はしたないと言えばはしたないかもな。

「神多羅木も気になるのか?」
「多少はな」
「そうか、じゃあ気にしないでくれ」

 さらに脱力、それを見て神多羅木が肩をすくめた。

「せめてスカートだけでも直しなさい」

 と立ち上がって刀子が私のスカートのすそを引っ張り、膝近くまで捲れていたスカートを足首まで引っ張り戻す。

「こりゃすまないね」

 と寝そべったまま。

「……良いですか、貴方は歴とした女の子ですから、身だしなみと言うものをですね……」

 見かねた刀子が説教を始める。
 耳障りとは言わないが、こう言うのは好きじゃない。

「分かった分かった、人前じゃやらないから説教はやめてくれ」

 のっそり起き上がり、とりあえず胡坐をかいて座る。

「分かれば良いんです、年頃の女の子がそんな事をしていると……」
「分かったって! 分かったからやめてくれ!」

 あーと声を発しながらも耳を押さえる。

「くそ、調子狂うぜ」
「またそんな事を、大体そんな言葉使いも直したらどうです? 男口調ではなく……」
「アー!!」





 我慢できなくなったのか、小言を言われる魔理沙は居間を駆け出し出て行く。

「待ちなさい!」

 まだ言い足りないのか、逃げ出した魔理沙の後を追って居間を出る刀子。
 そんな光景を見ながらお茶をすする。

「刀子って何時もああなの?」
「いや、何時もはもっと落ち着いているんだがな……」

 神多羅木さんも多少驚いていたようで。

「確かに、あんな葛葉先生は見たことないなぁ」

 高畑さんも面白そうに笑っている。
 刀子は何か……、分かってるけど魔理沙の言動が気になるんだろう。

「……それで、魔法を使って良い場所はどうなったの?」
「今学園長が聞いてくれるそうだよ、後数分もすれば連絡が来るだろうね」
「そう」

 遠く、と言っても屋敷の中だけど魔理沙の悲鳴と刀子の説教が聞こえてきている。
 まぁ、いくら言っても魔理沙は変わらないでしょうけどね。
 ずずーっともう一度湯飲みを傾ける。


「……なんと言うか、歳の割にはかなり落ち着いてるね」
「物心付いた時から変わってないと思うけど」
「……それは凄いね」
「落ち着かざるを得ない、と言った方が良いかしら。 周りは妖怪だらけで、下手に騒げば寄って来る。 落ち着かない方がどうかしてるわよ」
「君が言うなら……、そうなんだろうね」
「そうよ」

 ほんっと、うるさい位に寄って来るし。
 一々相手をしてやるのもめんどくさいわ。
 うるさくしないならお茶ぐらいは出してあげるんだけど。
 
「はー、高畑。 まだかー、いい加減暇すぎるぜ」

 逃げ延びたのか魔理沙が居間に戻ってきた。
 ドスンと座り、帽子を弄くる。

「人里見て回るのも良かったかね」
『是非とも!』
「だが断る」

 魔理沙が天狗と問答、傍から見れば独り言を言っている様に見える。
 突然何を言っているのかと神多羅木さんが訝しげな目を向けるが、事情を知っている高畑さんは軽く口を押さえて笑っている。

「いつの間に……、まだ終わって──」
「本当に頼むぜ!」





「本来なら入れてやらんがな、特別に貴様等にも見せてやろうか? 気になるだろう?」
「監視も兼ねていますので当たり前です」

 そうして、やっとと言うべきか。
 高畑の携帯電話に近右衛門から通話が入り、エヴァンジェリンは別荘の使用を許可を出したと連絡を受ける。
 その際、エヴァンジェリンは別荘の使用による代価の要求として、霊夢と魔理沙たちが住む土地の事を詳しく話す事を打ち出すが。
 危険だと言って近右衛門は頑なにそれを突っぱね、別の代価、血液の提供を提示したがそれも近右衛門が拒否した。
 それ以外は認めんとエヴァンジェリンが吠えるが、近右衛門は滅多に見られない高レベルの陰陽道や今現在広がっている魔法とは別の、実用レベルの体系外の魔法を見れるだけでも良しとしろと言う。

 今ここでこの提案を突っぱねれば、余計な邪魔が入らずじっくりと見れる機会を失ってしまうかも知れんぞ? とエヴァンジェリンに囁いた。
 エヴァンジェリンが断るならこちらでそれなりの場所を用意するし、その場合は麻帆良の外になるじゃろう、とも呟く。
 そうなればエヴァンジェリンはその光景を見逃すことになる、ナギ・スプリングフィールドの呪いの所為により麻帆良の外へは出られず断った事を後悔するかも知れない。
 さあどうする? と、ほっほっほと笑いながら近右衛門がエヴァンジェリンの決断を促す。
 そうしてエヴァンジェリンは気が付いた、最初からこの条件で使用させると言う近右衛門の策だと言う事に。

 渋々、本当に渋々でその条件で承諾し、連絡を受けた霊夢、魔理沙、高畑、神多羅木、葛葉の五人がエヴァンジェリンのログハウスの前に到着する。
 近右衛門はいまだ仕事が残っているために、エヴァンジェリンは散々言葉で近右衛門を嬲ってからログハウスの前で一行の到着を待っていた。
 本当なら神多羅木と葛葉にさっさと帰れと追い出していただろうが、戦いに通ずる二人に自分や霊夢と魔理沙がどの位の高みに居るか確認させておくのも良いかとも考えていた。

「こっちだ、さっさと入れ」
「ほー、面白い家だな。 丸太でくみ上げられてるのか」
「良いからさっさと入れ」

 エヴァンジェリンがログハウスを見上げる魔理沙を蹴飛ばそうとするが、それを簡単に避けてログハウスへと駆け込む。

「おい待て!」
「なんだよ、さっさと入れって言ってたじゃないか」

 玄関に足をかけて魔理沙が止まり、振り返りながら文句を言う。

「お前の事だ、どうせ家のものを勝手に触るんだろうからな。 いいか、無闇に触るなよ?」
「人形だらけでアリスの家みたいだな」
「話を聞け!」

 やはり魔理沙はエヴァンジェリンの話を聞かず、ログハウスの中へと入っていく。
 それを追い掛けるのもまたエヴァンジェリン、それを尻目にログハウスの玄関へと進む4人組。

「魔理沙君は活発だね」
「落ち着き払った魔理沙なんて……、ちょっと怖いわね」
「ははは!」
「もうちょっと落ち着くべきだと思います、せっかく可愛らしいのにあれでは……」
「余り押し付けるのも良くは無い、あれはあれで個性なんだろうからな」
「それはそうですが……」

 残念そうに唸る刀子、魔理沙の言動が琴線に触れたんだろう。
 霊夢は一々刀子に干渉される困る魔理沙を思い描き、様見なさいと内心笑ってやった霊夢。
 そんなこんなでログハウスの玄関を潜り、中に入れば。

「お待ちしておりました」

 といつか蹴り飛ばし、封魔針を浴びせかけて壊した人形。
 黒を基調としたメイド服に、カチューシャと短めのエプロンを掛けた茶々丸が深々と頭を下げていた。

「もう直ったの」
「はい」
「そう」

 と一言交わして霊夢はログハウスに上がりこむ。

「あの時はすまなかったね、君達を助けに行けなくて……」
「いえ、高畑先生が悪いわけではありませんので、どうかお気になさらず」
「そういわれるとねぇ、ははは……」
「神多羅木先生と葛葉先生も、どうぞ上がってください」
「失礼する」
「お邪魔します」

 全員がログハウスの中に入り、内装を見渡す。

「向こうには無い家作りね」
「こう言うログハウスは都市部には全く無いからね、自宅として使うのは外国位じゃないかな」

 ふぅん、と霊夢は軽く相槌を打つだけ。

「で、吸血鬼と魔理沙は?」
「既に別荘へと出向かれています」
「ん? 普通にこの家に入っちゃったけど、どこか広い場所でやるんじゃないの?」
「いや、この家の『別荘』でやるんだよ」
「こちらです」

 そう言って茶々丸が先導して霊夢たち一行を別荘が置いてある地下室へと誘う。
 ログハウスの奥、地下へと続く階段を降りる。
 薄暗い地下、そこで目に入るのは数百もあろうかと言う人形。

「なんか人形が多いわね、人形でも集めてんの?」
「いえ、マスターは戦闘に人形を用いるので」
「人形遣い? 益々アリスみたいね」

 五つの足音を鳴らしながら、目的の物の目の前で足を止めた。
 進んだ先にある扉を開ければ……。

「……なるほどね、一定の空間を押し込めて中で広げてるって訳」

 ライトに照らされた、瓶詰めの模型がぽつんと一つだけ置いてあった。
 恐らくは紅魔館と似たような術が使われている位相空間、瓶の中を良く見れば小さな影が凄まじい速度で動き回っているのが見える。

「この分だと時間の流れも違うようね」
「そこまでわかるかい? 流石だね」
「伊達に時間を止められちゃいないわよ」
「時間を……?」
「これ、どうやって中に入るの?」
「近づくだけで入れます、博麗さんが仰られたとおり時間の流れが異なっているのでお気をつけを」
「霊夢で良いわよ、博麗さんなんて呼ばれ方は気持ち悪いから」

 そう言って霊夢がずんずんと瓶詰め別荘に近づけば、現れた光が霊夢に纏わりついて中へと吸い込んだ。

「……また危ない話を聞いたかな?」

 苦笑いを浮かべながら高畑は霊夢と同じ様に別荘へ近づき、光と共に消える。
 神多羅木、葛葉も同じようにして別荘の中へと入った。





「はぁー、これはこれでまた凄いわね」

 霊夢の視界に広がったのは青空、髪を大きく揺らす風が吹く何百メートルもの高さ。
 下は太陽光に似た光に照らされ、きらきらと白と青のコントラストを描いていた。

「でっかい水溜りね」

 そう言って視線を上げれば箒に跨った白黒が飛んでいた。
 それを追いかけるように跳ねて飛び上がり浮かび、一気にスピードを上げる。

「遅いぜ、霊夢ぅぅぅぅぅーーーーー……!」

 霊夢に気が付いた魔理沙が、すれ違い様に飛んでいった。
 魔理沙は大きく円を描きながら、数百キロと言う速度で別荘の周りを飛んでいた。
 そんな魔理沙を無視して西洋風の屋根がある建物、幻想郷には無い樹木が周囲に植えられている建物の近くへと降り立つ。

「妙に暑いわね、まるで夏みたい」
「気候的には夏で作り上げているからな」

 建物の屋根、それを支える柱と柱の間の結び付けられ張られたハンモック。
 そのハンモックに寝転がっているのはエヴァンジェリンだった。

「気候操作じゃないわね? ただ真似してるだけの様だけど……」
「その通りだ、ただ温度と風を弄くっているだけだ」
 
 夏を真似した空間、詰まる所一年中、いつこの別荘に来ようと常夏を味わえると言う事だった。

「便利と言えば便利だけど、そのまま外でやら無くて正解だったわね」
「出来なくは無いが、利便性はこちらのほうが上だからな」
「魔理沙、いつまでも飛んでないで」

 言ったときには筆状の箒の先を擦りながら降り止った。

「おお、わりぃわりぃ。 春先で夏を体験できるとはな」
「やろうと思えば秋にも冬にも出来るぞ?」

 フフンと鼻息で笑うエヴァンジェリン。

「冬は寒いから嫌だぜ、夏のままな」
「こう暑いものも考え物だけどね。 さて、何枚?」
「4枚、まずは軽くな」
「そう? 次は6枚ね」
「お、珍しくやる気だな」
「誰かさんのお陰でストレス溜りまくりなのよ」
「そりゃ悪かったな、とことん付き合ってやるぜ」
「おい、ちょっと待て!」

 と、制止を掛けるエヴァンジェリンの声はむなしくもスルーされた。

「何をする気だ……」

 そうして霊夢と魔理沙が勢い良く飛び上がり、上空で行われたのは苛烈にして美麗の戦いだった。
 鮮やか且つ圧倒的、数十数百数千の弾幕が空を埋め尽くさんと放たれていた。

「……ほう、やはりこれ位は出来て当然だったか」
「間近で見るとより凄いね」
「……三年生と同じ位の年でしょうに」
「才覚か、それとも環境か……。 どちらにしろかなりの物か」

 後から来た3人が弾幕を見上げる。
 感想は同じく、上空で繰り広げられる弾幕の美麗さを肯定する言葉だった。





「最初は……」
「まずは……」
『散霊/魔空』

 上空で止まりに同時、放つスペルが描かれたスペルカードを掲げ宣言。

『夢想封印 寂/アステロイドベルト』

 真上にスペルカードを投げ捨て、霊夢と魔理沙の周囲から一斉に札と星屑が全周囲に向かって放たれる。
 手始めに直球勝負、高速と高速、自身を中心として放たれる弾幕。
 避けるのも同時、衣服所か肌に掠るかけるほどの紙一重で二人は避ける。
 空を縦横無尽、始めた場所が戦いの場所ではなく、二人の直線上の中心が戦いの場。
 上、下、左、右と目まぐるしく入れ替わりながら空を翔る。

「魔理沙の弾幕、三日前より遅くなったんじゃないの?」
「そう言う霊夢こそ、随分と弾幕が薄いぜ?」
「そう? 何時もより増やしてるんだけどね」
「本当か? 隙間だらけで欠伸が出ちゃうぜ」

 二人は言葉を交わしながらも避け撃つ。
 時には体をひねりながら、時には上下反転しながら避け続ける。

「……次ね」
「だな」

 勝手知ったるなんとやら、お互いのスペルが届かないと理解して次のスペルカードを取り出しはじめる。
 しかし魔理沙より素早く取り出した霊夢が、やはり魔理沙より早くスペルカードを宣言、使用する。

「げっ!」
「神霊」

 七色に変化し続ける霊夢より大きな追尾弾が十。

「弾幕が薄いなら、弾幕が近づけば良いじゃない」

 揺らめき輝く大玉が、弾かれたように魔理沙へと飛んで行く。

『夢想封印』

 それを見た魔理沙は自身が跨る箒を引っ張り、柄先を真上と向けて加速して飛ぶ。

「冗談じゃないぜ!」

 凄まじい誘導性を誇る霊弾が高速で突っ込んでくる、魔理沙は当たるまいと速度を上げて右往左往。
 その光景を科学で再現したならば、高速で飛翔する戦闘機に、それを撃墜せんと迫るミサイルか。
 ならば戦闘機である魔理沙は別荘内を高速で、自称幻想郷最速の本領発揮した。
 大きく身を傾け、一気に下降。

「当たってやるほどマゾじゃあないしな!」

 ぐんぐんと水面へと近づき、直前で柄先を跳ね上げる。
 そうして上がるのは大きな水しぶき、箒の背面、魔力により筆状の箒の先から巨大な推進力を生み出す。
 まるでロケットのように、水面と水平に飛びながら十メートルは有ろうかと言う水しぶきを上げて進む。
 加速に次ぐ加速、終には夢想封印の弾が魔理沙を追いきれなくなり、不毛だと判断した霊夢が夢想封印を解除。

「次はこっちの番だぜ!」

 大きく弧を描きながら、カーブを切る水しぶきが止むと同時に、魔理沙の背後の水面が爆発した。

「光符!」

 箒を掴む両腕に魔力を通し、上空に居る霊夢へと柄先を向けた。

『ルミネスストライク』

 箒の柄、魔理沙の漲る魔力が駆け抜け、魔弾を撃ちだす為の砲身となる。
 輝く色は金色、迸って撃ち出されたのは星の魔弾。
 音速に届く速度にて奔る弾丸は並みの者なら避けれまい、だが狙われた者は並みの者ではない。
 柄先を向けられた時には霊夢は回避行動を取っていた、身を翻して斜線上から逃れたと同時に金色の星型魔弾が一瞬で通り抜ける。
 霊夢は避けきって、回りながらも迎撃のスペルカードを選ぶ。

『宝符/星符』

 回転を止め見下ろし待ち受ける霊夢、箒に身を寄せながら見上げ突っ込んでくる魔理沙。
 続けて三枚目のスペルカードを取り出し、構え放り投げる。
 そうして霊夢は左手、大きな霊気を纏わせて構える。
 突っ込んでくる魔理沙にカウンターを、巨大霊気弾をぶち当てようと考える。
 数秒と経たずに両者の距離が埋まり……。

「陰陽──」

 霊夢の打ち出した左手は、燃える太陽のような巨大霊気弾を作り上げて、昇り向かってくる魔理沙へと打ち下ろす。

「エスケープ──」
「──宝玉!」

 対する魔理沙は箒から身を投げ下ろして、自身を振り子に慣性を作り出し、直線的な軌道を大きく曲げた。

「ッ!」
「──ベロシティ!」

 高速での迂回軌道、陰陽宝玉を避けた後にエスケープベロシティの推力で強引に進路を霊夢へと向けなおす。
 箒を持つ魔理沙の左手が陰陽宝玉に辛うじて当たらず、箒の柄先が魔力を纏い霊夢へ向かって跳ね上がる。

「外れたッ!」

 だが柄先が当たる寸前、霊夢の姿が掻き消え。

「だけどなぁ!」

 魔理沙は続けてスペルカードを宣言。
 
『星符』

 魔理沙の右手にあったのはミニ八卦炉。

「テレポートなんてお見通しだぜ」

 後ろ目で見下ろしながら、テレポートで現れた霊夢にミニ八卦炉を向け。

「ドラゴンメテオ!」

 極太の光線が霊夢へと降り注いだ。





「……あー、何と言うか……」

 幅10メートルは有るだろう、極太の光線が霊夢君を飲み込んで海面へと叩きつけられた。
 海面から上がる巨大な水しぶき……、と言うか水柱は百メートルを軽く超えていそうなほど跳ね上がっていた。

『あれを受けた霊夢君は死んだんじゃないか……?』

 そう考える高畑は元より、他のエヴァンジェリンと神多羅木と葛葉は唖然として、動けずに空を見上げていた。
 どうすれば良いか分からない、そんな光景を前にして思い出してエヴァンジェリンに問いかける高畑。

「あっと……、エヴァ」
「……何だ」
「ぱちゅりーって魔法使い知ってる?」
「ぱちゅりー……、確か居たなそんなのが」
「知ってるんだ」
「結構前だな、魔法に愛された魔法使いが生まれたなんて話、聞いたことがある」
「魔法に愛された?」

 腕組みしたエヴァンジェリンは薀蓄を披露するかのように語りだす。

「八十、いや、九十年ほど前か。 得意な属性が複数あって、それを使いこなす頭脳と膨大な魔力を持った子供が生まれたってな」
「天才的……」
「実際に見た事は無いから分からんが、その時代の最強にも上げられた魔法使いだ」
「……そんな人物が」

 と言うことは、あの少女はあの姿で百歳を超えているかもしれないのか。

「新しい魔法を作り出したり、全ての魔法を無詠唱で発動できるようにする術式を作り上げたとも聞いたな」
「それはまた……」
「現在の魔法体系をたやすく崩せる術式だろうが、その女しか使えなかったらしくてな。 それを良く思わない奴らから、社会的排除を受けてどこかへと消えたとさ」
「だから向こう側に……?」
「そいつがどうかしたか?」
「ちょっとその人物が書いた本が図書館島にあるらしいって聞いてね、少し気になっただけだよ」
「昔の人間だ、生きていてもしわくちゃだろうよ。 第一そこまで信用できる内容じゃない、全部噂話だから本当に居るのかどうかも疑わしいが」

 彼女が本当に『パチュリー』という人物だったのなら、幻想郷とは色んな意味で隔絶された土地なのかもしれない。
 そう考えながら空を見上げたまま、熾烈な戦闘が繰り広げられているその様を見ていれば。

「ぷはぁ」

 例えればペットボトルから口を離した音。
 一気飲みして、その余韻に浸るような声。
 別荘の中には7つしかない筈の影に、もう一つ増えた。

 唖然としていても、戦いを知っている4人はすぐさま反応した。
 タカミチ・T・高畑は両手をポケットに入れ。
 神多羅木はフィンガースナップをいつでも打ち出せるようにし。
 葛葉 刀子は愛刀の柄に手を掛け。
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは手のひらに魔力を集め纏わせる。

 そうして四人が瞬時に戦闘体勢を整え、振り返った先には小さな女の子。
 エヴァンジェリンと同じ位の身長の、頭に角を生やした女の子。
 地べたに寝転がり、空の弾幕を眺めていた。

「……貴様」

 どうやって入り込んだ、と聞こうとしてエヴァンジェリンはあの二人の背後を思い出す。

「あいつらの仲間か」
「それくらいは分かってもらわなくちゃねぇ」

 もう一度瓢を呷る少女。
 ぷはぁ、と吐く息と、その瓢から漂ってくる芳醇な香り。
 あの瓢の中には上等な酒でも入っているのだろう。

「魔理沙の勝ちだねぇ」

 上空で佇み笑っている魔理沙を見上げ、もう一度瓢を呷る少女。

「よっと」

 そうして寝そべっていた少女が立ち上がる。
 服は袖がちぎれた様な白のブラウスに、首には長めの赤いリボンが結ばれ。
 腰にはベルトに鎖が巻きつけられ、揺れるスカートは明るい紺色で、裾は白い。
 後ろ髪には赤いリボンに側頭部からはねじれた二本の長い角、その左の角には青いリボンが結ばれていた。

「挨拶しとこうかね、私は伊吹 萃香。 お察しの通り霊夢や魔理沙側の妖怪さ」
「その角、よもや……」
「言ってみな、丸分かりだろうけど」
「鬼、だろう? しかも本物と来たものだ」
「正解、お前さんたちが夜な夜な相手にしてる式神と同じに見ちゃだめだよ」

 そう言ってさらに瓢を呷る。
 瓢から口を離し、萃香は声を上げる。

「おーい! 終わったんならおりてこーい!」

 笑うのを止めて見下ろす魔理沙と、右手の陰陽大極図にてドラゴンメテオを防いでいた霊夢。
 すぐにふわりと、建物のすぐ隣にあるプールの脇に降り立つ二人。

「はぁ……、わざと外したのはドラゴンメテオを当てる為の布石だったわけね」
「真っ直ぐなんだがな、というか未だ気が付いていないってのはどうなんだ?」
「萃香、勝手に使ってるとまた藍が怒るわよ」

 隣でぶつぶつ言い始める魔理沙を無視して、霊夢は萃香へと問いかける。

「これは最初から設定されてる仕様さ、絶対に怒りはしないよ」
「意味のわからん言い方だな」
「いやまぁ、こういう場所に行くのは良いんだけどね。 こう『ズレ』が出る場所だと私らが出ちゃうから、一言言って欲しいのよ」
「ああん? どう言う意味だ?」
「ここ、時の流れが違うでしょ? 外と同期できないから、二人のお守りとして私らが出るのよ」
「同期できないって、それじゃああんた萃香じゃない訳ね?」
「姿、思考、力、本体を再現したものさ。 普段のはこれを中から操ってるんだよ」

 陰陽玉に付いた能力の一つ、保険の一つ。
 外と中とで陰陽玉が同期を取れない場合に出る式神に似た機能。
 結局は複製なので、当たり前に本体よりすべてが劣っている。
 それでも模した存在が強力である事や、それを再現する陰陽玉を改造した八雲 紫の力が強力である事から、複製存在もまた強いのは当たり前だった。

「同期できるようになればあまり出なくなるだろうけど……、まぁ紫ならしそうだけれども」
「してなかったのが驚きだ」
「往々にして思い通りにならないのは世の常、ってね」
「それで?」
「何もないよ」

 聞く霊夢に答える複製萃香。

「じゃあ戻ればいいじゃないの」
「それもいいんだけどね。 吸血鬼よ、ここはどの位ズレてるんだい?」
「……二十四倍だ、ここでの二十四時間は外での一時間に過ぎない」
「二十四倍ね、まぁずれすぎて出ても可笑しくないわ。 せっかくだからゆっくりしようじゃないか」
「一時間で一日? まぁ随分と急いでること」

 やれやれと建物の中に入っていく霊夢。
 屋根の下で待っていた茶々丸から湯のみを受け取り、座ってお茶を飲み始める。

「複製か、式神と同類の術か?」
「そうだよー、力は段違いだけど」

 瓢を呷り。

「試してみるかい? そこらの術者が使う式神とは桁違いの、本物に近い式神との力比べを」

 息を吐きながら一言で言ってのける。
 鋭くはない視線、だが力のこもった視線。

「悪魔などは沢山見てきたがな、鬼と言うのは全く見たことがないな」
「世知辛い世の中だからねぇ、どこかに引き篭もって酒でも飲んでるんじゃないかね」

 ニヤリと笑うエヴァンジェリンに、同じく笑って返す萃香。

「そっちの三人はどうだい? やってみる? 外じゃめったにやれないよ?」
「おいおい、私がやるんだ。 そっちの人間たちは……」
「エヴァ、僕にやらせてくれないか?」

 そう言ってエヴァンジェリンを留め、高畑が前に出る。

「いいねぇ、歯応えのある人間なんて霊夢たちを除けば久しくだからね。 手加減はしてやれないよ?」
「ふん、本気でやるのか。 鬼の力がどれほどかは分からんが、それもまた見応えありそうだな」
「疼くと言うのも可笑しな感じだけどね」

 シニカルな笑みを浮かべた高畑。
 その笑みを見てまた萃香も笑みを浮かべる。

「萃香と高畑か、面白そうだ。 そっちも萃香とやるのか?」
「……いえ、太刀打ちできそうも無いので止めておきます」
「同じく」
「なんだ、外に全然居ないらしいからもったいないぜ?」
「貴重な体験でしょうが、身の程を弁えているつもりです」
「ま、やらないってんなら良いけど。 ……ここ狭いから向こうでやれよ、霊夢のお茶を邪魔したらいろんな意味で危ないからな」

 放たれる存在感、小さい身に秘めた強大な力。
 気や魔力が感じ取れる者なら分かるだろう、目の前の小さな少女から放たれる圧力を。
 葛葉や神多羅木からすれば、式神で在りながらも自身を上回る力を秘めた存在が信じられなかった。
 式神でこれほどなら、本物はどれほどの物なのかと力の差に愕然とする。
 高畑と萃香、二人は歩いていく強者二人を見つめる事しか出来なかった。





「ここでもちと狭いかね」
「空は飛べるんですか?」
「飛べるよ、そっちは?」
「飛ぶと言うより跳ねるという感じですが」
「連続して浮いたままなら飛ぶで良いよ、狭いと思ったら上に上がればいいさ」
「……それでは」
「おう、小細工なしの全力さ。 そこそこやるようだけど言っておこう、身なりが小さいからといって手を抜くのは褒められないよ」
「分かりました、全力で」

 そう言って高畑が両手の平を広げる。

「右手に気、左手に魔力……」
「おお? また珍しい技法だね」
「合成、『気と魔力の合一』」

 巻き起こる強烈な圧力、引き起こしたそれは高難度技法『咸卦法』。
 本来相反する気と魔力の合成し、出来上がった力を身体の内外に纏い、強大な力を得る技術。
 気や魔力の単一強化を加算方式とすれば、咸卦法は乗算方式、気×魔力の掛け算方式になる。
 身体能力にただ上乗せする足し算よりも、身体能力を倍算する咸卦法の方がより上昇率が高いのは言わずもがな。
 無論高難度技法、究極技法とまで言われるからには並大抵の努力では習得できない技術故の上昇率。

「それでは」

 そう言って全く隙が無い入りの瞬動術、遠めで見ても消えたかのように映る高畑の動きを、萃香は平然と見切って左手で攻撃を叩き落とす。

「これは楽しめそうだ!」

 同じように萃香も動く、瞬動術ではなく、ただ走る。
 それだけで高畑に追いつき、拳を握る。

「いけないよ、お前さんはまだ本気じゃないね?」

 剛力剛速、萃香の岩も簡単に打ち砕く、打ち下ろした拳を高畑は飛び退き避ける。
 そうして数瞬前まで高畑が居たタイルを中心として、直径数メートルほど大きく凹み、衝撃で石のタイルが数十も吹き飛ぶ。

「慣らしですよ、全力なんて久しぶりなんで」
「良いよ良いよ、全力を出せるまで遊ぼうか」

 そう言いながらもさらに速度を上げ、萃香が高畑に迫る。
 迎え撃つ高畑がポケットに手を入れ、鞘代わりにしたポケットから打ち出される高速の拳打。

「居合い拳……」

 先ほど萃香が叩き落した拳圧とは桁違いの一撃。

「出来るじゃないか」

 直撃すれば軽く数十メートル吹き飛ぶ威力だが、それを食らっても体を微動だにさせず問答無用で突っ込んでくる萃香。
 バックステップを踏み、離れながらも次々と居合い拳を打ち出す。

「ほらほら、どうしたんだい? そんなもんじゃ打ち身一つすら付けられないよ」

 ごく平然、褒めておきながら全く効いた様子の無い萃香を見て高畑は笑った。

「そろそろ慣らしは終わりにしますよ」
「やっとかい、それじゃあ……鬼と人間の力比べだ!」
「ッ!」

 さらに加速、高畑の全力の瞬動術に匹敵する速度で迫る萃香。
 対する高畑は自身が持つ最大威力の居合い拳を右手から放つ。
 大気を打ち、音すら置き去りにする拳圧が萃香へと吸い込まれ──。

「なぁに、まだ手加減してるのかい?」

 強烈な、速度が出ている10トントラックの衝突をも超える衝撃を与えるはずの拳圧を、萃香はただのパンチで正面から打ち破った。
 そんな衝撃的な出来事を前に、高畑は笑う。

「いえ、本命は……こっちですよ」

 居合い拳を打ち抜いた萃香、そうしてわずかに乱れた体勢の隙。
 左手の、さらなる高威力の居合い拳、『豪殺居合い拳』にて萃香に打ち込んだ。
 強烈の一言、ぶち当たった速度そのまま一瞬で広場の外へと飛んで行き、落下していく萃香。

「わざと打ち落とさせて、本命の左を直撃させる、か。 鬼がどこまでやるのか知らんが、あれを食らえば普通は終わりだな」

 笑いながらそう言うエヴァンジェリン。
 凄まじい威力の拳圧を食らったあの式神の鬼は消滅しただろうと、そう考えて神多羅木と葛葉は止まった。

「だが、あれで終わるほど優しくは無いか」

 広場から吹き飛ばされ、落下したはずの萃香が、ゆっくりと空を飛んで広場に戻ってきた。

「これだから人間は面白いねぇ」

 衝撃でか、服が破れていて、その程度のダメージしか与えられなかったと言う事が見て取れる。

「……想像以上か」
「鬼ってのは妖怪の中でも頑丈でね、打ち倒すにはもっと強──」

 床に敷き詰められている石のタイルが割れる、その余波でさらにタイルが割れ、大きな亀裂を作り上げる。
 それは上空からの攻撃、高畑が虚空瞬動にて飛び上がり、打ち下ろしにていくつもの豪殺居合い拳を叩き込んだ。

「力比べの最中にお喋りは失礼だったね」

 割れ抉れたクレーターのような跡の中心に立つ萃香、空に佇む高畑を見上げて笑う。
 そうして見下ろす高畑は冷や汗を流す。
 自身の最高を持って打ち出す攻撃を受け、平然としているのだから。

「でも喋っちゃうよ? 鬼と言うのはね、全てにおいて人間を遥かに上回っているんだよ」
「……つまり人間では貴方に勝てないと?」
「真っ直ぐは気持ちがいいね、嘘偽り無く正面から打倒しようと言う気持ち。 あんたはなかなか良い人間だ、だけどそれでは鬼は倒せない」
「………」
「御伽噺にもあるだろう? 退治できないはずの鬼を退治した話を。 お前さんたちはその術を知っている?」

 退治できない鬼を退治するために編み出された技法、『鬼退治』。
 それを知らぬと言うことは鬼に勝てないと言う事。
 退けるには、鬼に力を示して引いてもらうか、鬼退治の技法でやっつけてしまうかの二つだけ。

「まぁ力比べだから、退治するしないの話じゃないんだけどね」
「鬼の力を痛感してますよ、まともにやって勝てると言う気持ちが少しも沸いてこないんですから」
「諦めるのかい?」
「足掻きますよ」

 虚空瞬動、位置を変えてからの拳圧と言う名の砲撃。
 連撃、交互に打ち下ろされる居合い拳。

「そうでなくっちゃ!」

 右拳を打ち上げ、拳圧を打ち壊す。
 その後身を翻してクレーターから抜け、さらに居合い拳を打ち破る。

「足掻くんだろう? そら、もっと見せてみな」

 ほいほいほいっと拳を連打、軽く打つように見えて鋼鉄をも砕く打撃。
 そんな威容を見て、高畑は思案する。
 足掻くと言った以上力比べは続行で、だが居合い拳は豪殺を持ってしても効果が見込めない。
 ならば取るべき手段は最後の切り札、瞬時に下降して広場へと足を着ける。

「ん? 何かやる気だね? 良いよ、受けて立とうじゃないか」

 まだ手が在るのかと萃香が笑う。
 足を止めて、お互いを正面へと捉える。

「あまり使いたくは無いんですが、通用しそうな物がこれしかありませんので」
「御託は良いよ、お前さんが持てる最高で来な」

 力を込める、搾り出せる気と魔力を全て咸卦法に回し、限界まで力を引き上げる。
 右手をポケットに収め、左手はだらりと脱力してぶら下げる。
 そうして瞬動術、入りに全てを掛け、抜きを捨て去る。

「来る──」

 超速、大気の壁をぶち抜き。

「かッ!?」

 瞬時に高速で萃香が吹き飛び、高畑は派手に転倒しながら柱にひびを入れながらもぶつかり止まる。
 同じく萃香は広場の周囲にある柱にぶつかりへし折る、それにより水平に海へと飛んでいくはずの軌道が建物の屋根へと逸れ、ぶつかった屋根の一部を砕きながら空へと跳ね上がる。
 どのぐらい高く舞い上がったのか、たっぷり時間を掛けて飛ばされた萃香が建物の向こう側にあるプールへと落ちた。

「……タカミチめ、こんな隠し玉があったとはな」
「高畑先生は何を……」

 エヴァンジェリンが笑みを浮かべて、褒めるように口走る。
 それを聞いた神多羅木と葛葉は、高畑が何をしたのか見切れなかった。

「何、単純だ。 タカミチはただあの鬼を『殴り飛ばした』だけだ」

 居合い拳を生み出す拳速でな、と付け加える。

「っぐ……、これは、とんでもないね……」

 萃香を殴り飛ばした高畑は、膝を着いたまま起き上がり苦辛を漏らす。
 殴った右手指の骨が折れ、手の甲の骨も折れ飛び出している。
 咸卦法で強化していなかったら、手首より先があまりの衝撃で千切れ飛んでいただろう。

「まぁ殴られた方は勿論ただでは済まないが、殴ったタカミチもただでは済まんか」

 居合い拳を打ち出すにはそれなりの速度が必要で、武術の達人でも見切れぬほどの速度で鞘代わりのポケットから拳を引き抜く。
 その速度で拳圧を飛ばす、だがそれを行うと、拳圧が発生し飛んでいく前までに大きな力の損失が生まれる。
 その損失を許容し、遠くの敵に打撃を当てるのが『居合い拳』。

 至近距離では使えないとされるそれは、十分な威力が発生するまで一定の距離が必要になるから。
 だが拳圧を発生させず、ただ敵を至近距離で打ち抜けば凄まじいほどの威力を持つ打撃となる。
 最大の瞬動、最大の拳速、そして交差して増した相対速度。
 『零距離居合い拳』とでも名付ければ良いのか、簡単に言えばカウンターでただ殴っただけなのだが、物理的威力は誰もが認める折り紙つき。

「あれで最高だったんだけどね……」

 なのに高畑の視線を向ける先、屋根が崩れた建物の斜め上。
 全身を水で濡らしながらも、空に浮かぶのは萃香。
 高畑の鋼鉄さえ打ち抜き、拳大の穴を開けるだけの、収束された超威力の打撃を萃香は耐えた。

「か、ははは……、これは鬼の膂力に届いてるのかもねぇ……。 がっつり効いたよ」

 笑う萃香に、高畑も苦笑いで返す。
 逆に言えば、相手が萃香でなかったのなら高畑の右手の骨は折れていなかっただろう。
 それほどまでに萃香の体は強固、妖力にて強化された肉体は鋼鉄以上。
 金属の良い所取りの合金と言った方がいいか、鬼の体は恐ろしいほどの強さを持っている。
 しかしながら、複製とは言えその体を持ってしても、高畑の拳はふら付くほどのダメージを与えていた。

「何発も受けられるような物じゃないね、最後の取って置きを出したんだからこれで仕舞いにしよう」
「そうね、他人に迷惑を掛ける輩も仕舞いにしましょう」
「え?」

 唐突に割り込んできた声に、萃香は疑問の声を上げた。

『夢想封印』

 凶悪なほど霊気が込められ七色に変化し続ける大玉が、一部崩れた建物の中から飛び出し、萃香に殺到した。

「うべっ!?」

 高畑との戦闘で消耗していた上に不意打ちのそれに反応できず、被弾した萃香がボコンボコンと大玉を食らい続けて空へと還った。

 屋根が崩れた建物、その屋根の下のは霊夢が居て。
 高畑の殴り飛ばされた萃香は屋根に当たり、大きく屋根を崩す。
 その崩れた瓦礫が屋根の下にいた霊夢に被害を及ぼした。
 霊夢が受けた被害とは、崩れ落ちてきた瓦礫を避けた際に持っていた湯飲みに入っていたお茶がこぼれ、巫女服に掛かって熱い思いをした。
 茶々丸が濡らしたタオルなどですぐ冷やしたため、火傷を負わずにすんだがそれだけ。

「そら見ろ、言わんこっちゃない」

 霊夢は火傷などしていないし、ただ熱い思いをしただけであったが、要らん事をしてくれた複製萃香をとりあえず夢想封印でぶっ飛ばしておいた。
 高畑のほうにも制裁を加えてやろうかと思っていたが、その手の怪我が罰だろうと言うことで見逃した。
 霊夢のお茶を邪魔をすれば危ない目にあう、魔理沙が言った通りになった。





「……高畑君、どうしたんじゃね? その傷」
「いやー、本物の力を見せ付けられましたよ」

 萃香と高畑の力比べが霊夢によって強制的に終わらせられた後、茶々丸が高畑の傷の手当てをして。
 萃香も居なくなったことだし、今度こそゆっくりしましょうと相成った。
 別荘内で過ごす時間は、外の屋敷に居る時となんら変わりなかったのだが。

 エヴァンジェリンは魔理沙に突っかかり、あの魔法の術式はどうなっているのか。
 無詠唱で発動している原理は何なのか、どこでそれを学んだのか。
 学んでなかったとしたらどうやって魔力制御を覚えたのか、と魔理沙に質問攻めを繰り出す。
 最初は普通に答えていたのだが、あまりの拘束時間に嫌気が差してさっさと逃げ出す魔理沙。
 エヴァンジェリンは追いかけ、なんとしても聞いておこうと魔法まで行使し始めた。

 あまりにしつこいので、スペルカードで勝ったら教えてやると言うことを提案する。
 初心者だし、とりあえずルールだけ教えて避け切れたらと言う条件の元、魔理沙とエヴァンジェリンの弾幕ごっこeasyが行われた。
 無論魔理沙がeasyな弾幕を撃つわけもなく、ブレイジングスターでエヴァンジェリンを引き撥ねてすぐに勝負を終わらせた。
 うるさいエヴァンジェリンが気絶したし、教えなくて済むぜと魔理沙は笑っていた。

 その後一息ついて、霊夢と魔理沙はまた弾幕ごっこを始めたりする。
 そうして二十四時間が過ぎ、別荘の外に出てから高畑は皆と別れ、とりあえず簡易の治療だけを施して学園長室までやってきた訳。

「彼女たちかね?」
「いえ、彼女たちの背後にいる鬼ですよ」
「鬼? 式神のかね?」
「ええ、高位の鬼なんでしょう、僕の攻撃がほとんど効いていませんでしたよ」

 僕もまだまだですね、と笑う高畑。
 そんな高畑の姿を見て近右衛門はため息をついた。

「やっぱり仲良くしといて正解じゃったのぉ……」
「そうですね、萃香さんほどの存在がどれ位いるのか分かりませんが、こちらの世界の最高レベルを超える存在がそこそこ居るようですし」
「そんなに?」
「八雲さんと萃香さんは直に見ました、彼女たちの話では他にも居るような事を。 学園長は他の方を見たことは?」
「萃香と言う者は黒髪の少女かの?」
「いえ、明るい栗色の髪でしたね」
「じゃあ違うの……、まぁ随分と凄まじい者たちがごろごろと……」
「ハハハ」

 もうなんと言うか笑うしかない。
 そうして一頻り笑った後、高畑は視線を細め笑みを消した。

「……それで修学旅行はどうしますか? 彼女たちも一緒に?」
「そうするしかなかろう、どちらに行くにしても距離がありすぎるのでな」

 懸案の一つである修学旅行、3年A組担当教師のネギ君と生徒の明日菜君。
 奴らが狙っている以上どこで手を出してくるのか分からないため、霊夢君と魔理沙君も一緒に送らねばならない。

「高畑君にも行ってもらうぞい、向こうの要請以上に酷いことが起こるかもしれんしの」
「はい」
「……はぁ、しかしうるさいのなんのって、いやになりそうじゃわい」
「なんと言ってきたんですか?」
「高畑君をこちらに遣せの一点張りじゃ、処理して貰うはずの件は他の者に要請しといたんじゃけども……」

 うーむ、と近右衛門が眉間にしわを寄せる。

「……誰ですか?」
「ジャック・ラカン殿じゃ」
「ぶッ」
「高畑君位の魔法使いが皆出払って居ったのでの、知り合いの要請で出張ってもらったんじゃ」
「知り合い……? ああ、アルですか?」
「……いつ知ったのかね?」
「魔理沙君がアルの元から本を借りてきたと言ってました」
「黙っていて済まんかったの、彼が言わないでくれと頼まれたもんじゃから」
「気にしないでください、生きているのが分かって逆に良かったですよ」

 そう言ってくれると助かるわい、と近右衛門が笑う。

「それはもう良いんですが、その……、ラカンさんだと法外な報酬を取られるんじゃ……」
「そこはクウネル君にしっかりと言っておいてもらったんで問題ないんじゃがの、本題はラカン殿がこっちに来ようという話になっておっての……」
「それはまた……、ってクウネル?」
「彼がクウネル・サンダースと呼べと言っておってな」
「はぁ……」

 次から次へと問題が舞い込んでくる。
 近右衛門の頭を悩ませる問題ばかりが。

「……申し訳ないのですが、報告しておくことが幾つか……」
「え? まだ何かあるの?」
「ええ、霊夢君たち側には……、その……」

 言って良いのか、と言うより言わなくて良いんじゃないのかと思う情報を前に高畑は少し躊躇う。
 しかし些細な事でも報告しておかねばならないので、高畑は意を決して口にする。

「なに? 何かあったんじゃろ?」
「その……、神様が居るようで……」
「……かみさま? かみさまってあの神様?」
「はい、他にも妖精なども普通に存在しているようなんです」
「……なんか、あれじゃな」
「……はい」

 何とも言えぬ、おかしな空気が学園長室に漂っていた。
















 星蓮船と非想天則かぁ、買ってないです。

 6話の容量はあとがき除いても50kb超えてますのよ。

 今回は弾幕ごっこと鬼の力比べ、ドラゴンボール状態ですね。
 弾幕表現としては黄昏を足して二で割ったような状態に。
 弾幕で美しさを競いながらも殴り合いしますよ、って。
 加筆でもっと描写を増やすかもしれません。

 まぁこれは良いんですが、もっと難しいのはクロスのキャラ会話だと思います。
 たぶん設定の摺り合わせ以上に難しく感じます。
 作者主観のイメージですから、他の方は違和感を感じるでしょう。
 感じない方は一緒に旨い酒でも飲めるかもしれません。
 神主風の微妙に意味が分からない会話を再現してみたい……!



 捨食、捨虫の魔法は難度が異常に高いために廃れた魔法と言う感じ。
 不老長寿とか、究極の不老不死となんでもあれな幻想郷だなぁ。



 複製萃香は霊夢たちより弱いです、肉体的な強度は遥かに上ですが。
 とりあえず他のキャラも複製として出せます、今回は萃香と言うことで。
 あと高畑、居合い拳打ち出すパンチで殴ったら良くね? と思いこんな風に。
 実際出来そうな感じもしますけど、ネギ相手じゃ使えなかったと言うことで勝手に。
 萃香がぼんぼん飛ばされてますけど、霊夢か魔理沙、あるいは妖力とか強いけど肉体的には弱い妖怪があれ食らったら一撃でダウンします。
 単純な相性問題ですね。



 その5のあとがきで言った弾幕の話、あれは遊びであるから無駄弾撃ちまくってるそうです。
 相手を殺すなら撃っている弾幕の十分の一も要らないとか何とか。
 特異能力ありますしねー。
 と言うかネギま勢が全く変わっていないことに気が付いた。
 次は幻想郷の話になるんで6.5話。

 いろいろ考えてるんですけどねー、間話としてあのキャラとあのキャラの……。
 ゆっくりやっていきたい、超遅いですけど。

 7話が修学旅行編になると思います。
 そのときになったらもうちょっと出るはず!


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