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No.5527の一覧
[0] 東方結壊戦 『旧題 ネギま×東方projectを書いてみた』【習作】[BBB](2010/01/05 03:43)
[1] 1話 落ちた先は?[BBB](2012/03/19 01:17)
[2] 1.5話 幻想郷での出来事の間話[BBB](2009/02/04 03:18)
[3] 2話 要注意人物[BBB](2010/01/05 03:46)
[4] 3話 それぞれの思惑[BBB](2012/03/19 01:18)
[5] 4話 力の有り様[BBB](2012/03/19 01:18)
[6] 5話 差[BBB](2010/11/16 12:49)
[7] 6話 近き者[BBB](2012/03/19 01:18)
[8] 6.5話 温度差の有る幻想郷[BBB](2012/03/19 01:19)
[9] 7話 修学旅行の前に[BBB](2012/03/19 00:59)
[10] 8話 修学旅行の始まりで[BBB](2012/03/19 00:59)
[11] 9話 約束[BBB](2012/03/19 01:53)
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[5527] 5話 差
Name: BBB◆e494c1dd ID:bed704f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/16 12:49

「………」

 2-Aの教室の端の席、長い金髪の美少女が不機嫌そうに頬杖を付いて座っていた。
 右手は頬杖を、左手は机の上に置いて子気味良く指で突付く。

「………」

 可愛らしげに見える仕草だろう、周囲の不穏な空気が無かったら、だが。
 圧倒的な負のオーラ、それがありありと滲み出て、元気の良い2-Aでさえ重苦しい雰囲気となり。
 2-Aが信じられないほどに、他のクラスと同じ程度に騒がしいクラスになっていた。

「………」
「ちょっとちょっと! エヴァちゃん!」

 そんな空気に嫌気がさした明日菜が、そのオーラを出していると思われるエヴァンジェリンに声を掛ける。

「………」
「返事しなさいよ!」
「………」

 明日菜に向けられた強烈な視線、簡単に人を恐怖で凍り付かせる事が出来るほどの眼力。

「ッ!」

 声に出ない悲鳴をあげ、腕を胸に寄せ一歩後退さる明日菜。
 それを見てエヴァンジェリンは顔に左手を当て数秒、下ろした時には圧力がない視線に戻っていた。

「……何だ、神楽坂 明日菜」
「……っはぁ、昨日の事をちょっと聞きたくて……」

 一息深呼吸、何とか何時もの感じに戻す。

「昨日……?」

 さっきの視線より強烈な、ぞわりと、鳥肌が立った。
 体中の色んな所が痛い、まるで何かで刺されたような痛み。
 同じ様に周りの、何人かの3-Aの皆が床に座り込んで自分の体を抱えていた。
 それを感じて二人に視線を送る者達。

「……少しイラ付いていたようだ」

 そうエヴァちゃんが言えば痛みが消える。
 これで少しなんて、本気でイラついたらどうなるってのよ……。
 乱れた呼吸のまま、エヴァちゃんを見る。

「はぁ……、何なのよそれ。 なんかめちゃくちゃ体に悪そうなんだけど」
「……話す事は何もない。 聞きたいなら爺にでも聞け」

 ふん、と鼻息を鳴らして顔を逸らした。

「それもあるけど、茶々丸ちゃんよ。 その、凄い……壊れてたけど」
「問題無い、明日には直る」
「無事? あんなになってたし、二度と動かないなんてことになったら、ねぇ」
「奴は大分手加減してたんだろうよ、その気になれば塵一つ残さず消し飛ばせただろうに」
「ち、ちり?」
「牽制か、或いは警告か……」

 また呆っと遠くを見つめ始めた。

「……エヴァちゃん? ……また? ねぇ、ネギもなんか……あれ? ネギ?」
「んん? ネギ君ならあそこに居るよ」

 裕奈が腕を摩りながら教壇を指差す。
 何か行き成り体中が痛くなったんだよね、なんでだろ? ハッ! まさか病気!?
 とても恐ろしくなったヨ、背筋に何か通り抜けたような……、あれは何アルかねー?
 何も感じんかったけどー?
 とか慌てながら、古や木乃香と騒ぎ出した。

「ううぅぅ……」

 肝心のネギは、唸り声と微妙に揺れている杖が教壇の向こう側からはみ出したまま隠れていた。
 大またで教壇に近づき、ネギの頭を掴んで引っ張り出す。

「何してんのよ」
「だって、だって……」

 宙ぶらりんのネギ、杖を抱え涙目でプルプルと震えていた。

「今は昨日の夜みたいに強くないんでしょ? 怖がる必要ないじゃない」
「うぅ……、でも……」

 手を離し、ネギを正面に見据える。

「ネギとの約束も守ってるし、茶々丸さんが言ってた事もあるし」
「……そう、ですよね」

 昨日は物凄かったが、中身は意外と優しいエヴァちゃん。
 酷い奴なら約束守らないだろうし。

「ほら、さっさと言う!」
「うう……、はい」

 よろよろと教壇の下から出てきて、エヴァちゃんの机の前まで歩いていく。

「えっと、あの、エヴァンジャリンさん……」
「………」
「昨日はありがとうございました!」

 勢い良く頭を下げる。

「………」

 だがエヴァンジェリンはネギを見ていない、ただ何かに対して物思いに耽る。

「エ、エヴァちゃん?」
「………」

 呆然としている。
 考え事をしている、そんな感じの顔。

「エヴァちゃん?」
「………」

 またあの視線で見られるかもしれない、と少しだけ怖がりながら話しかけるがやはり無反応。

「……駄目だこりゃ」

 何度問いかけても反応を返さないエヴァンジェリン、明日菜はそんな状況に匙を投げた。

「……そうか、爺か」

 そんなエヴァちゃんがいきなり立ち上がり、走りながら教室を出て行く。

「ちょ、ちょっとー!」
「……どうしたんでしょうか、エヴァンジェリンさん」
「……さぁ」

 ネギと明日菜はただ見送るだけしか出来なかった。






「なんじゃい、エヴァンジェリン」
「昨日の小娘二人の事を聞きに来た」
「すまんの、これから用事があって出かけるんじゃ」
「後にしろ、先にこっちだ」
「こっちから言い出したことじゃから、後には出来ん」
「そんなもの、あの小娘二人より低いだろうが」

 この会話が起こったのは学園長室、これから大事な話、会談があるから出かける準備をしとった所。
 ドアの蝶番が壊れそうな勢いで蹴り入ってきたエヴァンジェリン。

「一週間と言っていたが、奴らの目的は何だ?」
「……ふむ」
「爺、どこまで知っている?」
「知らん」
「……何?」
「ほとんど知らん、故にこれから聞きにいくのじゃ」
「そんな奴らを麻帆良に入れたのか!」
「……エヴァンジェリン、一つ聞くが」
「……何だ?」
「お主は『気が付いた』かの?」
「何がだ」
「結界じゃよ、彼女らは結界内に転移してきたのじゃぞ?」
「……何? 爺が招き入れたんじゃないのか」
「いや、彼女らは『結界内にいきなり転移してきた』のじゃ」
「……チッ、そう言う訳か」

 探知に特化した麻帆良の結界、それはあらゆる魔法的知覚に優れたエヴァンジェリンと繋がっており。
 結界を超えて入ってくる者を間違いなく捉える、西洋魔法の『ゲート』や東洋呪術の『縮地法』などの転移や瞬間移動も感知して妨害する。
 そうだと言うのにエヴァンジェリンはこの反応、あの三人は結界の探知や妨害を完全にすり抜けて入ってきたと言うことだった。

「爺、私もその話に加えろ」
「……そう言うと思っとったよ、少し待てい」

 近右衛門は机の引き出しから一枚の紙を取り出し、エヴァンジェリンに差し出す。

「……早退届?」
「今は休み時間だから良いものの、授業が始まったら嫌でも教室に戻らねばならんぞ」
「……ナギの奴め」

 ぶつぶつ文句を言いながら渡されたペンを手に取り、自分の名前を書いていくエヴァンジェリン。

「ほらよ」
「うむ」

 受け取った近右衛門は、学園長名義でサインをして処理をする。
 そうすればナギ・スプリングフィールドがエヴァンジェリンに掛けた登校地獄が一時的、今日のみ解除される。
 だからと言って魔力が戻ったり、麻帆良から出られると言うわけじゃないが。

「これで良い、ネギ君に早退すると伝えておかねばならんのぉ」
「爺が伝えろ」
「えー」





 一方話の中心である霊夢と魔理沙は、居間でのんびりとお茶を飲んでいた。
 やる事が無い、探すにしても手掛かりが全く無いし、紫も待ってるだけでいいと言っていた。
 ならば待つ、待ってれば向こうから来るとの事。
 そうしてれば一枚の手紙、昼前に案内状が届いた。
 差出人はコノエモン、内容は『図書館島で話がしたい、昼ごろに案内を送る』と書いてあった。

『紫様の予想通りだ』

 と藍、紫は向こうがそうしてくると予想していたようだ。
 こちら、と言うか藍からも話したい事があるようなので、手紙の通り待っていることにした。

「待たせたの」

 そうすればコノエモンが来た、昨日の吸血鬼を連れて。

「すまぬのぉ、案内する者が急な用事で忙しくなっての。 代わりにわしが来たというわけじゃ」
「別にそれはいいんだけど、そっちのも?」

 金髪幼女を指差し。

「そっちのとは何だ!」
「いや、名前知らないし。 吸血鬼って呼べばよかった?」
「……フン、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
「エヴァンジェリンなんとかなんとかね」
「貴様、ふざけてるのか?」

 長ったらしい名前、即覚えるのを放棄した霊夢だった。

「エヴァンジェリン、あんた吸血鬼なんでしょ? なんで日傘も差さずに外歩けるのよ」

 外は日がかんかん。
 レミリアやフランが日傘無しで外を歩けば、一瞬で気化するくらいの日照り。

「真祖だからだよ、吸血鬼の弱点など最初期に克服している」
『と言うことらしいんだけど』
『人から妖怪に転じた者の一部にそういった、人間だった頃の能力を保持した者も見られる。 この吸血鬼は人から転じたか、元からその能力を持ったまま生まれてきたか、どちらかだろうな』
「……へぇ」
「……何だ? 何が言いたい」
「……? 何も言う事無いけど?」
「なら意味深な返事をするな!」
「コノエモンさん……」
「すまんのぉ」
「おいこら! 邪魔者みたいな言い方するな!」
「だってなぁ?」

 霊夢、魔理沙、近右衛門が見合わせ、最後はエヴァンジェリンに三対六つの視線が集まる。

「お前ら……」

 こめかみに青筋を立たせるエヴァンジェリン。

「ここで話すの?」
「いんや、図書館島で話そうかと思っとる」
「さっさと行きましょ、長時間取られるのも嫌だし」
「うむ」
「人の話を聞いているようで聞いていないからな、霊夢は」
「……まあいい、お前等の事全て聞かせてもらうとしよう」
「あんまり期待しないほうが良いと思うぜ?」
「……ふん」

 



 

 一行四人は麻帆良の街並みを、図書館島目指しながら歩く。
 近右衛門とエヴァンジェリンは見慣れているだろうが、霊夢と魔理沙は麻帆良に来て数日。
 昼は家でゴロゴロ、夜は戦いをやっていたのだから当たり前。
 二人は頻りに感心しながら図書館島へ歩を進める。

 湖の上にある図書館島に到着、一般の入り口とは違う『学園の魔法先生専用入り口』から入る。
 入って廊下を進めば鉄製のドア、いわゆるエレベータに乗りこみ、微妙な浮遊感を感じながら降りること数分。
 エレベータを降りて進むのは道幅が狭く薄暗く、長い通路。
 数分掛けて通り抜け、視界に広がったのは巨大な空間。
 青い芝生に石柱が何本も並び、正面、木の根っこが絡みついた重厚な建物。
 門、と言った方が良いだろうか、これまた高さ五メートルほどの大きな扉が見える。

「ここ本当に地底? どう見ても地上にしか見えないんだけど」
「間違いなく地下じゃよ、そこら中に見える根っこが世界樹の根で、光は樹の魔力光じゃ」
「……この樹が有れば地底も明るくなるってことね」

 地底の旧都は地底なだけあって薄暗かったけど、こっちはまったく逆のイメージ。
 光を放つ木なんて、幻想郷にもあることはあるがここまで明るく光らない。

「いろいろ凄いな、外の世界って皆こんなんなのか?」
「麻帆良がおかしいだけだ、他の街はもっとしょぼくれているぞ」

 やんややんや。
 この光景を陰陽玉を経て見る幻想郷の妖怪たち。

『生まれも育ちも幻想郷だと絶対に見られない光景ですねぇ、魔法世界とやらはこういった光景が溢れているので?』
『天界ほど高くは無いけど浮いている大地もあれば、地上と同じく基盤となる大地もあるわ。 ある意味幻想郷と似てるわね』
『なるほど』

 カリカリカリと紙に万年筆で書き込んでいく射命丸。

『ああ! ペン先がぁ! 新調したばかりなのに!』

 見慣れぬ光景に興奮した所為か、力の入れすぎで曲がったらしい。

「いやー、本当に出てきて良かったかもな」

 しっかり祓われているのだろう、放って置けば善くないモノが集まってくるような領域だけどそう言ったものが欠片も感じられない。
 寧ろ神様の一柱や二柱居ても不思議ではない。
 一通り感じ取り、この土地の特性を見る。

「……なるほど、この樹自体がそういったものなのね」

 この樹自体が大きな魔力を放つ、周囲から微妙に吸い取っているのか、はたまた樹自体が生成しているのか。
 妖気に当てられ珍しい木が生える魔法の森にも無いだろう。
 もとより世界樹が穢れを嫌っているのだろうか、発せられる光が穢れを祓っているらしい。

「ほほ、分かるかね?」
「珍しい樹ね、向こうにも無いんじゃないかしら」
「『神木・蟠桃<しんぼく・ばんとう>』、通称『世界樹』じゃ」
「道理で」

 誰が付けたか、人か妖怪か、『神』と名づけるからにはその名の通りのモノ。
 通りで神聖な物に感じる訳だ。

『今だ現存するとは、ここの人間たちはかなり気を使っているらしいな』
『昔はもっとあったのか?』
『元より数は少ない、こう言ったモノは穢れを嫌うからね。 長期間穢れと接し続ければ樹が枯れてしまうだろうが、見た限りまだまだ生命力に溢れている』

 神繋がりの神奈子、他の神木を見たことがあるんだろう。

『背丈も中々だし、根も十分太い。 人間が集まる地に生息しているのが驚きだね、普通ならばすでに枯れていてもおかしくは無いだろうに』

 人は穢れを纏い易い、その人が何万も集まる地でこれほど元気な樹はまずお目にかかれないとの事。
 根っこをもうちょっと近くで見ようと門に近づけば。

『グゥルアアアアァァァァァ!』

 と馬鹿でかい咆哮を上げてでっかいトカゲが落ちてきた。
 ほぼ真上に落ちてきたから飛び退いて、札とお払い棒を構える。

『そのトカゲ……生き物は『龍』だ」
「龍!?」

 『龍』、それは幻想郷で最も強いとされる種族。
 鬼や吸血鬼、天狗、一人一種族の妖怪など、一個の種族として強大と言われるその者らを上回る存在。
 その強靭な鱗はあらゆる攻撃を防ぎ、その膂力は天を裂き大地を割ると言われる存在。
 抱擁する魔力や妖力は破格であり、並の妖怪と比べれば水溜りと大海の差があるとまで言われている。
 単純な戦闘能力なら、幻想郷で高い知名度を持つ実力者でもあっさりやられかねないほどだと言う。
 まぁ『幻想郷で高い知名度を持つ実力者』たちは、逆に倒して見せようとか豪語するかもしれないが。

『案ずるな、あの龍は幻想郷の龍とは格が違う、このレベルなら二人でも簡単に倒せる』

 と藍が言う通り、よくよく見れば形が大きいだけ。
 そこまで大きな魔力が感じられるわけでもなく、ただ図体が大きいだけ。
 時折見る『ミッシングパワー』で大きくなった萃香よりでかい。
 ここまで巨大な存在は幻想郷でも目にしないことから、必要以上に警戒心を沸き立たせただけかもしれない。

『……はぁー、驚かせないでよ。 こんな人里に龍が居るなんてかなり驚いたわよ』

 内心盛大にため息を付く霊夢。
 それもそのはず、あの紫が『スペルカードルール以外で龍と戦うな』と厳命して来るほどだ。
 話が本当ならとんでもない存在、なまじ腕が良いからと言って対抗できる存在ではない事が分かる。
 それを話していた時の紫の表情、いつもの胡散臭い笑みではなく、真剣その物の表情だった。

『中と外の違いって奴か』
『ああ、外の世界の龍は『生物としての龍』だからな、幻想郷の龍は『幻想の龍』だから内包する力の密度が違う。 まぁそれでも並の妖怪では歯が立たないし、ただの人間なら一瞬で灰燼に帰す位の力はあるが』

 これは他の妖怪たちにも言える事。
 幻想でしか居られなくなった妖精、妖怪、神は大抵その存在が消えてしまう。
 しかしながら、消えない存在もある。
 幻想ではなく、星に存在する生命体として存続する事を選んだ存在。
 つまりは『物質』か『精神』か、その『物質』に傾きを置いた者が外の妖怪たち。

 『物質』を選んだ存在は想いの力の恩恵を受けにくい、その代わり想念に左右されず一個の物質として世界に存在できる。
 『精神』を選んだ存在は想いの力の恩恵をかなり大きく受ける事になる。
 有名所で言えば『神の信仰』や『信仰による神格化』など、勿論有益なことだけではない。
 『幻想種の存在』は忘れ去られることによる消滅がある為、どちらも一長一短。

 この事を起因として、妖精、妖怪、神の肉体は甚大な欠損を受けても、元通りに容易く再生する事が出来る。
 それは精神、魂が存在の起点であり、『魂が本当の肉体』だから驚異的な回復能力を持つ。
 さらには伝承に伝わるような事、たとえば鬼だと『角があり、力が強く、体も丈夫で、人を浚う』など。
 人間より強大な存在として描かれることが多く、実際に伊吹 萃香や星熊 勇儀はその話の通りの存在。
 元より強大な種族として生まれたものの、そう言った『存在としての知名度』が存在の厚みを底上げする。

 龍ともなれば、その扱いは『神獣・霊獣』と言った非常に格の高い存在。
 東洋西洋と差が在るが、強靭な鱗があり、火を吐いたり、鳴き声で雷雲や嵐を呼び起こしたりする。
 その力は自然災害級、なまじ神でさえあっても手に負えない存在。
 そんな最強の種族として挙げられる龍が、物質に趣きを置いても優れているのは自明の理。
 内包する力を落としてまで物質としての存在を選んでも、やはり変わらない。
 最強は最強、そう言う事だった。

「そんなのが地下とは言え、なんで人里に居るのよ」
「道塞いでるし、とりあえずやっとくか」
「お前らドラゴンを見たこと無いのか?」
「どらごん?」
「龍の違う呼び方だ」
「あっそ」

 『田舎者』、そういった笑みを浮かべてのエヴァンジェリン。
 話を聞いていない魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、視線と共にでっかい龍へ向ける。

「どらごん……、魔理沙がそんな名前付いたスペルカードもってたような……」
「龍、な。 十分に倒せるってんならやっとくのも悪くないんじゃない?」

 魔理沙の戦う気迫に反応したのか、龍が大きな翼を広げて吼える。

「声でかいな、すぐ開けないようにしてやるぜ」
「一人でやりなさいよね」
「ようこそ、博麗 霊夢さん、霧雨 魔理沙さん」

 魔理沙がとりあえず戦っておこう、そう構えて横から割ってくる声。
 振り返ればフードを被った怪しげな男が立っていた。

「……何、あんた」

 いきなり現れた、白く長いローブを纏い、青紺色の長い髪を肩で留め纏めた男。
 その顔には紫が浮かべる笑みと同質の物が張り付いていた、それを見て眉を顰める。
 そんな霊夢とは裏腹にコノエモンは変わらずの表情、片やエヴァンジェリンは驚愕で表情を歪ませていた。

「き、貴様! アルビレオ・イマ! 何故こんな所に居る!?」
「初めまして、私は『アルビレオ・イマ』と申します。 この図書館の裏の司書をさせて頂いている者です」
「無視するな!」
「ずっと居ましたよ、図書館島の地下に」
「なんだとッ!? 爺! 貴様知っていたな!?」
「うん」

 可愛らしく? 頷くコノエモン。
 それを見てエヴァンジェリンが激昂。

「このくそ爺が!」
「だってアルが知られたくないって言ってたんじゃから、仕様が無いじゃろう?」
「探していた事を知っていたくせに!!」

 コノエモンに飛びつき、首を絞めているらしいが姿相応の力なので全然苦しそうじゃないコノエモン。

「エヴァが聞きたい事は分かります、それは後で答えてあげますから」
「……チッ、分かったよ、後で確り答えてもらうぞ」

 そんなやり取りを無視して、箒に乗って空を走る魔理沙。

「いっくぜぇ!」
「グルゥア!」

 箒の先が青白い光を放ち、一気に舞い上がる魔理沙。
 翼を広げる龍を見下ろしながら、魔理沙が左手から放つ星型の魔弾。
 緑色の尾を引きながら一気に龍へと迫り、真上から来るそれを避けきれないと判断したか、受け止めようと大地を踏みしめる。

「グルアァアァア!?」

 受け止めるも爆発した魔弾の衝撃を殺しきれず、大きくよろめる龍。
 龍の上空を旋回しながら追撃にどんどん矢印に似た魔弾をぶっ放す魔理沙、避ける為に飛び立とうとするがそれより速く魔弾が殺到。
 図体がでかいとは言え面白いように当たって、動けなくなっていく龍。

「すみませんが、それ位にして置いて貰えませんか?」

 アルビレオが止める。
 龍にとって予想以上の威力だったんだろう、初めからわかっていれば飛び立つなりしていただろうし。
 龍が攻撃することなく、魔理沙が一方的に攻撃して戦いが終わった。

「いや、悪いな。 龍と言ったら最強って話に聞いてたから、少し位力入れても問題ないだろと思ったから」
「グアァァ!」
「そう怒るなよ、ほら、ちょっと鱗が焦げただけだろ?」

 そう言いながらも魔弾が当たった場所の鱗が割れていたり、剥がれていたりして血が流れている。
 大きな傷とは言えないが、小さな傷とも言えない。
 これをちょっと焦げただけと表現するのは無理があった。

「悪かったって! ほら、これやるから機嫌直せよ!」

 と魔理沙がスカートの中からキノコを取り出す。

「グルァ?」

 放り投げられたキノコを反射的に口の中に入れる龍。

「おい、何だ今のは。 どう見ても普通の色じゃなかったぞ」
「魔法の森に生えていたキノコだよ、色は危ないが多分怪我に効く」
「……毒だったとしても、あの程度なら……多分?」

 マーブル、斑色の、赤や黄色や紫や緑やら、虹色に似ている色をしたキノコ。
 エヴァンジェリンが言い切った途端、何度か咀嚼していた龍が傾いた。
 巨大な物体が倒れたことにより多少地面が揺れた。
 倒れ白目をむき、だらしなく開いた口から舌をたらして、まるで死んでいるかのように。

「あれ? 間違えたか?」
「洒落にならんぞ……」
「……気絶しているだけですね、あれだけの量でドラゴンを即気絶させるとは」
「何でそんなものを持ち歩いて居るのじゃ……」

 ドラゴンが気絶するほどの何かがあのキノコにはあった。
 人間が食べればどうなるか? 最悪死ぬかもしれない物だった。
 それを平然と所持し、効果が分からないそれを『多分』と言って食わせた。
 その感性が信じられないと言った視線が魔理沙に集まる。

「うーむ、実験する前に判って良かったぜ」
「最初からどういう物か把握しとけッ!!」
「ちょっと帰りたくなってきたわ」





 自己紹介もそこそこに、大きな扉を開くと……似たような風景が続いていた。
 違うと言えば奥に階段があり、三十段ほど上った先に十メートルほどのさらに大きい扉があった。

「また続くんじゃないでしょうね」

 回廊結界のように空間を捻じ曲げ、同じ場所へ繋ぐ無間方処だったりしたらめんどくさい。
 そんな事を思いながら先導するアルビレオと名乗った、フードを被った男について歩く4人。
 大きな扉、それが開かれれば。

「おお!? こりゃ凄いな」

 魔理沙が言うとおり、地下でありながら外と変わらない光量。
 そして周囲は大きな滝でぐるりと囲まれ、これまた高さ五十メートルは軽く越す樹木が何十本と水面と滝から生えているのが見える。
 その中心には建物、白を基調とした見たことが無い形式の建物が建っていた。
 紅魔館と似てる様な気もする。

「こちらです」

 すたすたと歩いていく、それに周りを見ながら付いていく。
 空中庭園といった方が良い、八方に土台から横に伸び、真下には何も無い。
 その一角に案内される、テーブルには茶やお茶請けが置いてある。

「どうぞお座りください」
「お、紅魔館のお茶より美味いか?」
『家の紅茶は最高級の物を最適な入れ方をしてるのよ、そちらのより美味しい自信があるわ』

 立ったままティーカップを手に取り、紅茶を飲む魔理沙。
 その言葉に完璧で瀟洒な十六夜 咲夜がなんとかかんとか。

「で? 話って何よ?」
『それは私が請け負おう』

 霊夢の背後に浮かんでいた陰陽玉が揺らめき、瞬時に人形を写し出す。

「お初にお目に掛かる、私は紫様の式『八雲 藍』と申します」

 瞬間、誰も居なかった筈の霊夢の背後から長身の女性が現れた。
 エヴァンジェリンと似た金色の、それより明るい肩で揃えられた、まるで太陽の光をさんさんと受けて輝く黄金色の草原のような髪。
 服は中国の道士のような、白と紺色の二色で構成された服。
 長い袖に自らの両腕を入れて、姿勢よく佇む女性。
 その美しさは人の物ではない妖美、霊夢や魔理沙、エヴァンジェリンも美人と評される姿を持っているが。
 八雲 藍と名乗った存在はその3人の、さらに上行く美貌を持ち合わせていた。

「此度は紫様がただ今御不在ですので、代わりに参じました」
「今のは……、貴女達が隠しているそれが関係しているので?」
「お気づきになるとは」
「貴様人間じゃあ無いな? 魅了の類が掛かっているようなそれは有り得んぞ?」
「ええ、人間ではありませんし、魅了の呪法などは使っておりません」

 向けられるいくつもの質問にすぐさま答える藍。
 衣服はいつもの物、それに帽子を被っているだけ。
 それを取りながら頭を下げた。
 本来ならあるはずの髪の色と同じ明るい黄金色の毛が生え揃う耳と、九つに裂けた尻尾が無い。

「何の妖怪だ?」
「言う必要が?」
「あるとも」

 そう言って皆順々に指を刺す。

「人間、人間、人間、幻像だが人間、そして吸血鬼」

 最後に自分を指して、その後藍に指を向けた。

「お前は何だ?」

 向けられた藍は即答した。

「妖獣です」
「妖獣、妖獣ねぇ。 随分と上等な妖獣じゃないか」
「申し訳ありませんが、何の妖獣か明かして良いとは申し付けられておりませんので」

 ぶった切る、その話題はここで終わりと一刀両断。
 すぐにコノエモンが立ち上がって頭を下げる。

「不躾で申し訳無い」
「いえ、相手の本質を知ると言うのは大事な事ですので」

 と、表で藍が受け答えしていると。

『そんな機能が有るなんて聞いてない』

 そう言った、陰陽玉越しに幾つもの批判の声が上がった。
 それを聞いて、藍は一言で批判を断ち切った。

『当たり前だ、これは緊急用。 紫様が出られない時や手が入用の時しか使用の許可は下りないものだ、今回の事でも紫様が応答できないからこそ私のみに許可が下りたのだ』
『紫ったら、私にも言っていなかったんだから心外だわ』
『例え幽々子様でも教えるなと言われましたので、これを知れば緊急時以外に使いたがる者たちも居るだろう?』

 表ではコノエモンたち、裏では幻想郷の妖怪たちと平行しての問答、藍がそう問いかければ幾つか唸り声が聞こえてきた。
 知っていたらもう問答無用で使っていただろう妖怪が何匹か。
 陰陽玉を通すと言っても、幻想郷の外を体感できるのだ。
 最近幻想郷に来た者たちなら別段どうでも良いだろうが、そうでない者なら何人も居るだろう。

『だから教えなかったのだ。 今これを知ったわけだが、この機能を無断で使った者は陰陽玉を没収する事になっているから気を付ける様に』

 そうなれば知ってても使えない、黙って使ったとしてもあのスキマ妖怪が見逃すとは思えない。
 陰陽玉を誰が使ったか記録する、なんて機能が付いていてもおかしくは無い。
 むしろ付いているのが当たり前的な、あのスキマ妖怪がそうしないと言う方がおかしく感じる。
 そうだと言うのに。

「あら、間違えたわごめんなさい」

 勝手に本を読んでいた魔理沙の背後、然も白々しく言いながら現れたのは絶世の美女。
 揃えられた艶やかな長い黒髪に、非常に整った輪郭、目元は柔らかく瞳は輝く黒真珠のように見え、口元は瑞々しい果実のよう。
 着る物は月や雲が描かれた淡い桃色の羽織、その胸元に白いリボンが結ばれ。
 長いスカートは紅色、模様に竹や紅葉、桜花が描かれているそれを着た美しすぎる少女。
 一同、此方も向こうもその人物を見て唖然とした。

「邪魔してごめんなさいね」

 そう言って一言謝り、お茶請けのクッキーを一つつまんで姿が掻き消えた。
 それを皮切りに、ほぼ一斉に声が入り乱れる。

『くぅ! やられたぁ!』
『してやられたわね、もっと早くやるべきだったかしら』
『皆考えることが同じだったとはねぇ』
『後手に回るとは』

 わいわいがやがや、殆どの妖怪たちが『間違って使用しようとした』らしい。
 そんな中でたった一つ、藍が冷たい声で問いかけた。

『これはどういう事でしょうか?』
『ん……外の物も持ち帰れるのね、結構美味しいわ』
『幻想郷に必要無いと判断された物は……ではなく、今の行為はどういう事でしょうか?』
『間違えただけよ、二度は無いから安心してちょうだい』
『今先ほど確かに言いましたよ、『無断で使用すれば没収する』と』
『それは八雲 紫が決めたのでしょう? 今の行いが故意か過失か、彼女に決めてもらえば良い』
『……分かりました、今はこの件、置いておきましょう。 ですが、紫様が故意と認めたならすぐにでも回収に向かいますので』
『ええ、その時は素直に返却しましょう』

 素直に引き下がった藍は渋い顔。
 今さっき言ったばかりのことを平然と犯したんだから当たり前か。

『あら? どう使うのかしら?』
『ゆ、幽々子様!』

 とか今もなお使おうとしている存在が幾つか。
 使えないってんなら藍が使えなくしたんでしょうね。

「今の方は?」
「こちら側の者です、多少の手違いが有り……」
「今の貴女と同じようなものですか」
「ええ」

 陰陽玉を核とした存在の写し身。
 形式的には式神と似ているが、力の伝達、その存在の再現率がかなり高くただの式神とは比にならない。
 写し身としての性能は最高クラスの物だろう。
 こんな機能まで付けて、あのスキマめ……。

「……今のは忘れてもらって構いません、貴方方が覚えていようと余り関係ありませんので」
「どう言った意味だ? 今の女もかなりの力を持っている様に見えたが」
「普段あの者は戦いに出ません、基本戦うのは霊夢と魔理沙のみですので」

 従者の庇護下、と言ってもそこらの妖怪を赤子の手をひねる様に叩き潰せる実力を持つ。
 おまけに幾ら倒しても死ぬことは無い不老不死の『蓬莱人』でありながら、『月人』でもある輝夜。
 単なる実力でも幻想郷上位の妖怪たちを凌駕している可能性がある、あの月の姉妹のように強いかもしれない。
 強い上に死なぬ、そんな相手にわざわざ時間を掛けるのは同じ蓬莱人の『妹紅』位なものだ。

「本題に入りましょう」

 気にはなるようだが、本題程重要ではないらしい。

「紫様が話したように、我々はある人物を探しております。 名は『フェイト・アーウェルンクス』、髪は白く、目付きが鋭い恐らく少年です」
「恐らく?」
「身形が小さく、十歳前後の人間の子供程度ですので」
「なるほど」
「そちらの身近な例で言えば、『ネギ・スプリングフィールド』とほぼ同じです」
「ふむ……」
「その少年が何かを仕出かしたと」
「実行したのは他の人間ですが、命令を下したのがフェイト・アーウェルンクスです」
「捕まえて、その子をどうする気で?」
「引きずり出します」
「……何を?」
「フェイト・アーウェルンクスに命を下した存在を」
「上の存在が居ると言う訳ですか」
「ええ、貴方方『紅き翼』が討ち漏らした存在をこの世界から消し去ります」
「……まさか、聞き覚えの有る名前だと……」
「『完全なる世界』、二十年前魔法世界での『大分烈戦争』を裏から引き起こした存在。 フェイト・アーウェルンクスはその残党です」

 アルビレオとコノエモンの表情が一気に鋭くなる。
 エヴァンジェリンは鼻息を鳴らしながらアルビレオを見る。

「何だ、奴らまだ壊滅していなかったのか?」
「一応あの者らの頭は潰したのですが……やはり、いえ、なんでも有りません」

 二十年前といえば、まだ生まれて無いわね。

「紫様はナギ・スプリングフィールドが二十年前に討ち果たした存在、それがまだ存命していると判断しています」
「……根拠は?」
「貴方ならお分かりになるでしょう?」
「そうですね……、間違いなくどこかに存在しているでしょう」
「あの存在を世界から消し去ることが出来る存在は、そこまで多くは有りません」
「あれを打ち倒す手段があると?」
「紫様が出来ぬ訳が有りません」

 力強く、迷い無く言い切った藍。
 紫に寄せる絶対的な信頼、それが聞いて分かるほどの一言。
 誰よりも紫のそばに居て知るからこそのものだろうか、傍から見れば怠け者にしか見えないが。

「……では」
「そちら側は監視をお願いしたいのです、関係ある人物の監視とその情報の提供を。 それに関する戦闘はこちらが全て請け負いますので」
「ネギ君とアスナちゃん、かの?」
「そうです、奴らの目的が同じであるなら十中八九狙われるでしょう」
「むぅ……、彼女たちはこれからじゃと言うのに……」

 コノエモンさんの悲観した顔。
 ネギとアスナと言う人物は知らないけど、コノエモンが心配を掛ける様な存在らしい。

「一つお聞きしたいことが」
「何でしょう」
「何故放って置いたのです?」

 それを聞いて瞼を閉じ、思いにふけるように藍が言う。

「……我々にとって世界とは、隔絶した土地を繋ぐ楔。 楔に連なる鎖が砕ければ、我々が住む土地にも大きな影響が出ます。 だがそれは貴方方が言う『現実世界<ムンドゥス・ウエテレース>』の事であり、『魔法世界<ムンドゥス・マギクス>』の事ではない」

 ゆっくり目蓋を開きながら、力を込めてアルビレオとコノエモンを見る。

「対になる世界でありながら、その相互干渉が極めて薄い。 要するに魔法世界が力を失おうと、現実世界には余り影響が出ない」
「……滅んでも問題は無いから見捨てたと?」
「その通り、奴らが魔法世界だけを目的としていたならそうなっていたでしょう」
「現実世界にも手を出したから、という訳ですか?」
「いかにも。 下らない理想を掲げ、今だ存在するべき数多の者たちを失わせようとしたその所業、到底見過ごす事は出来なかったのです」
「貴女方も魔法世界に干渉したのですか?」
「ええ、具体的に言えば『紅き翼<アルラブラ>』へ数多の情報を。 一部の情報が流すのが遅れ、結果的にウェスペルタティア王国王都オスティアが落ちはしましたが一時的に目標は達せられました」
「八雲さんの力があれば、そのような煩わしい手を打たなくても良かったのでは?」
「外より中、外は現実世界と繋がりが薄い魔法世界。 ならば優先するのは中の事、その時は今より大分荒れていましたので見切りを付けていたのです」

 スペルカードルール制定前は今ほど安全ではなかった。
 人里を直接襲う妖怪も今より多かったのは確か。
 今より多く妖怪退治の依頼が来ていた、その内幾つか魔理沙が勝手に受けて退治していたようだけど。

「勿論任せるのであれば、奴らに対抗できる存在が必要。 そこで目をつけたのが当時最も隆盛だった紅き翼だったのです」
「なるほど」
「一通り紅き翼の実績と実際の動きを見て、支援することをお決めになられました」






 会談は一方的に終わり、霊夢と魔理沙の二人は近右衛門の後に続いて図書館島を後にする。

「それでは儂はまだ仕事あるからの、此度の件は最優先で処理させてもらうとする」
「まあ頑張ってね」
「……うむ」

 調べてくれるというなら頑張れと言うしかない。
 コノエモンが見えなくなるまで見送った後、今回の会談について話し出す。

『あれで良いの? こっちの要求しか伝えて無いじゃないの』
『あれで良い、向こうの条件など最初から達成している』
『条件って何だ?』
『この地の者に危害を加えない事、もとより危害を加える必要も無いから既に達せられている』
『ふぅん』
『ならコノエモン側に奴らのスパイが居たら?』
『好都合、そこから引きずり出して時間短縮だ』
『なるほどね』

 こちらの事が向こうに知れ、何らかの干渉をしてくれば儲け物、と言った感じ。
 この考えで、対処できない奴が出てきたらどうする心算なのかしら。

『そのような者が向こうに居たら、奴らの目的は20年前に達成できていただろうな』

 さいですか。


 








 近右衛門と霊夢と魔理沙が図書館島を後にしたが、エヴァンジェリンだけは今だ残っていた。
 エヴァンジェリンにとって重要な話がまだ終わっていない。
 テーブルを挟んで、エヴァンジェリンとアルビレオは向き合う。

「神楽坂 明日菜は何者だ?」
「本名は『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』、ウェスペルタティア王国の『黄昏の姫御子』です」
「……なるほど、道理で魔法障壁が意味を成さないわけだ」

 『黄昏の姫御子』、ウェスペルタティア王国の王族にしばし見られる特殊な力を持って生まれてくる存在。
 『アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア』こと『神楽坂 明日菜』が持つ特異能力の名は『完全魔法無効化能力』。
 魔法、魔力によって編み作り出され現象のほぼ全てを無効化できる、ならば魔法で作られた障壁など薄い紙以下、何も無い状態と同じ。

「魔法使いの天敵ですからね、奴らはその明日菜さんの能力を狙ってくる訳ですよ」

 だが、魔法使いが神楽坂 明日菜を殺せないと言う意味ではない。
 魔法が効かないならば、素手や武器で捻り殺せば良い、熟練の魔法使いならば神楽坂 明日菜と言う存在はその程度のものだ。
 しかし神楽坂 明日菜自身はその程度でもその特異能力は別格であり、利用価値は幾らでもあるか。

「それで懲りずに『広域魔法消失現象』を起こそうとしている訳か」
「それと彼女らの世界に干渉した理由が今一見当たりませんが、見過ごせない何かがあったのでしょう」
「コミュニティーに手を出すとは、余程死にたいらしいな」
「コミュニティー?」
「人間が共同体を作るように、人外も共同体を作るんだよ。 基本的に奴らが住む地域は、強力な認識阻害や進入防止の術が掛けられている」
「初耳ですね」

 アルが手をあごに当てて唸る。

「人間には話が回らん、邪な考えを持つ者が多いんでな」
「呪いでも?」
「さぁな、少なくとも人伝で話が出回ることはないし、人間がそこに進入する術も殆ど無い。 閉鎖された地域だから中の情報も殆ど出ないし、閉鎖的だから独特な道を進んでいることが多い」
「彼女らはそこに所属する存在だと?」
「高確率でな、お前も見たことが無いだろう? レイムやマリサの攻撃を」
「全てが見たことの無い魔法でしたし、それらほぼ全て無詠唱、それもかなり強力な物でしたね」

 全く見たことが無い魔法、キリサメ マリサは魔法使いを自称しているから魔法なのだろうが。
 ハクレイ レイムは陰陽道、あの言い方だと他の術も使えるかもしれん。
 しかしながら、あのような攻撃方法では魔力などがすぐにもつきかねん。
 派手な見た目とは違い、そこまでの威力が無いだろうか。
 だが、あの時感じた圧力は生易しい物ではない。

「マリサのだって私の魔法に付き合っただけだろう、その気になれば無言で使えるだろうに」
「余程死にたいとはどういう意味ですか?」
「中に居るんだよ、『規格外』が」

 そう言うコミュニティーには基本的に『管理者』、『守護者』と言った者が居る。
 名の通りコミュニティーを守る盾となり剣となる存在、ハクレイ レイムとキリサメ マリサ、そしてヤクモ ユカリと言う存在はどちらか、或いは両方か。

「八雲さんのような方ですか」
「そのヤクモ ユカリがどういう者か知らんが、そいつに対し万全な状態で戦って勝てると思うか?」
「薄いですね」
「そう言うことだ、隠れているのは力が強すぎると言うのも理由に含まれているわけだ」

 自身が最強だとは欠片も思っては居ない。
 最強『種』だと自覚はあるが、裏、深淵にもなれば自分と同程度の存在など結構居る。

「表で『最強』と言っている奴は知らないだけだ。 私も、お前ら赤き翼も、『最強』じゃあない」
「そう言った者に会ったことが?」

 その問いに口端を吊り上げて答える。

「一度誘われた事があってな、やる事があったから断ったが……相当に強いぞ?」
「そんな存在の逆鱗に触れたと言うことですか」
「馬鹿な奴らだ、大人しく滅んでいればいい物を」

 ソファーに座り、ティーカップを取って紅茶を飲み干す。

「一つ目の聞きたいことは終わりだ」

 エヴァンジェリンがティーカップを置いて、アルビレオを真剣な目付きで見る。

「二つ目、アル、お前は──」
「生きてますよ」
「……っ、本当か?」
「ええ、これが証拠です」

 そう言って袖から一枚のカード、長方形のカードを取り出す。
 
「確かに、生きているな……」

 見せられた物はパクティオーカード、その中にアーティファクトを展開しているアルの姿が描かれている。
 この状態は主従両方が生きている事を示す状態であり、もしナギが死んでいるのであればアルのアーティファクト、本の形を模った『イチノシヘン』が消えているはず。
 ならばナギは世界のどこかで生きている、それは確定している事。

「……生きている、ナギが生きている」
「ええ、生きていますが楽観は出来ませんよ」
「……分かっている」

 微かに目じりに浮かんだ涙をふき取り、いつもの表情へ戻す。

「これで良い、いつかナギの奴を見つけてぶん殴ってやろう」
「お手柔らかに」

 望んで行方不明になった訳じゃないかもしれない。
 因縁のある完全なる世界などと言う組織がまだ存在しているなら、それに関係しているかもしれない。

「で、貴様はずっとここに居るのか?」
「ええ、一歩も動けませんので」
「そうか、たまに酒でも持ってきてやる」
「おや? 妙に優しいですね」
「一番知りたかった事だ、少しくらい礼をさせてくれてもかまわんだろ」
「礼ならばこれを着て──」
「断るッ!!」

 全力で断るエヴァンジェリン、アルビレオの手の中には白地の胸に平仮名で名前を書かれたスクール水着が握られていた。










 少し時をさかのぼって幻想郷にある迷いの竹林、その深い竹林の中に佇む大きな日本屋敷がある。
 その建物の名前は『永遠亭』、蓬莱山 輝夜を屋敷の主とした八意 永琳、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡 てゐとその他大勢の兎たちが住む土地。
 その屋敷の居間にて4つの影、陰陽玉を囲んで外の世界を見る4人。

「輝夜ったら無茶をして」
「八雲 紫ならこれ位織り込み済みでしょう、没収なんてされないわよ」

 唇に付いたクッキーの屑をふき取りながら、蓬莱山 輝夜が八意 永琳の声に反応する。

「確証は無いのよ?」
「そうなったら『他』から持ってくるに決まっているでしょ?」
「批判を買うようなことを」
「それはそうだけど、面白かったでしょう? あいつらがこぞって驚きの声を上げたのは」

 そう言って面白そうに笑う輝夜、それに便乗しててゐがけらけら笑った。

「悔しい悔しいって、先手を逃して悔しいってねぇ」
「他から持ってくるって拙くないですか? 寄越せと言っても素直に渡すような妖怪たちじゃ有りませんし」

 多少の困った顔をして、ウドンゲがやる事の難しさを表す。

「それはもしもの話よ、私たちは『協力』しているのだからそうはならないでしょうね」
「は、はぁ……」

 妖怪の賢者とも言われる八雲 紫とは言え、全てを思いのままとは出来ない。
 彼女自身が『どこかしら』で対処できない事態が起こり得る、現に今だってその状態。
 彼女の式である八雲 藍だけで収まるのであるなら、私たちや他の妖怪たちに協力を要請したりはしない。
 私たちは『予備の予備』、本当に対処できなかった時の『処理手段』。

 あの巫女と魔法使いと繋ぐ陰陽玉を没収すれば、『そこ』からは協力を得られなくなると同意。
 もとより一癖も二癖もある連中に協力を申し出るのだ、ある程度の自由は認めなくてはいけないだろう。
 今後もある程度の、今の輝夜のように使用してもよほどの事が無い限り没収されない。
 しかし協力を得られない、それを認め没収したとして。
 その後発生した何らかの事で協力しない者達の力が必要となったりすれば、色んな意味で困るだろう。

 使うなと言えば使いたくなると言う子供染みた考えの者も居る、うちで言えば輝夜、紅魔館ならレミリア・スカーレット、白玉楼なら西行寺 幽々子と言った所の様に。
 『間違って使用しようとする』のを見越し、此方の戦力は博麗 霊夢、霧雨 魔理沙、八雲 紫の三人だけではないと示す。
 この会談は『脅迫』に近い、断れないような状態に持って行っての『協力の要請』。
 図書館島から持ち出された禁書の処分、巫女と魔法使いの実力の一端、その背後にはさらなる力を持つ者が居ると。
 敵対するより協力した方が良いと考えさせる状況に持っていった訳ね。

 此方のことを考慮しつつ、向こうは此方が驚異的だと判断させるのも八雲 紫の手。
 この機能をこの時に教えたのも、この状態にするための布石だろう。
 寧ろそれが本命の可能性が高い、此方の戦力の一端を見せる。
 あのコノエ コノエモンも馬鹿ではないだろう、見せた人物は輝夜であったが幻想郷の中でもトップクラスの力を持っている。
 あの吸血鬼やフードを被った人間も感じ取っただろうし、八雲 藍の一言もコノエモンに邪推させるに十分な言葉。

 そこまで八雲 紫は読んでくるだろう、狡猾な彼女のことだから、その『先』さえも考慮に入れているでしょうね。

「それはどういう?」
「簡単よ、戦わない者がこれ位の力を持っているのよ、それならば戦う者の力はそれ以上という事になるでしょう?」
「そう言う意味でしたか」
「寧ろこうなる事を予想しているでしょうね」
「だから折り込み済みだと?」
「その通り」

 ウドンゲを見てから輝夜が微笑む。

「それが外れて本当に没収してきたら?」

 てゐがいたずらを思いついたような笑み。
 それに輝夜が答えた。

「その時は一番『譲ってくれそう』な所へ貰いに行きましょう」
「譲ってくれそう?」
「ええ」

 輝夜が満面の笑みを見せて、陰陽玉に視線を落とした。









 一方、香霖堂では店主の森近 霖之助が大きなくしゃみをしていた。

「この時期に風邪か、……少し暑いが用心しておこう」


 読んでいた本を机に置いて、椅子に掛けてあった一枚を羽織り、そしてまた本を手に取り読み始める。
 懸念した『もしも』が起こった時に、一番の被害を受けるのはこの男だった。


















 今更だけど、このSSの男女比率すげぇな……! 元からか。

 個人的不満点、会話を区切る良い文が思いつかなかった、流れが滞らないようにするには難しい。
 急ぎすぎな感じもある、オリジナルの話考えるのって難しいですよ。
 オリジナル板の作家さんたちすげぇ。


 エヴァを誘った人、勿論紫じゃありません。
 幻想郷とは別のコミュニティーの人、世界中にも幻想郷のような隔離された土地があるでしょう。
 確かそんな話を聞いたことが……二次かもしれませんが、使用。

 一部非常に出しにくいキャラが居るんですよねぇ、風神録組や地霊殿組の一部とか。
 間話とかになりそうです、思いつくかどうかは別ですが。


 説明・幻想種の存在、作中で説明してますけど『想いの力を受けやすい』と言うことで。
 その定義で行くと、エヴァンジェリンが幻想郷に行って幻想種になったら原作より強くなると言う事です。
 魔力とか幻想郷上位陣に肩を並べる位にはなる、特異能力は負けるでしょうが弾幕ごっこなら良いとこ行くんじゃないでしょうか。
 そんなのはまぁこのSSの中だけですが。

 『物質と精神』の説明、これはTYPE-MOONのFateのサーヴァントの知名度と同じです。
 知られれば知られているほど強くなーる、勿論生きた年月の方が割り増しでかいですが。
 妖怪の強さ=種族+才覚+生きた年月(+知名度&信仰)な具合ですが、弾幕ごっこじゃなくなれば特異能力のお陰で簡単にひっくり返るのが東方クォリティー。

 と言うか霊夢って特異能力ありでも幻想郷最強クラスらしいですね。
 wikipedia見たら『あらゆる物から浮いて、完全な無敵状態になれる』らしい、各妖怪の特異能力がどこまで効くかってのが分かれ目ですが。
 この情報というか、永夜沙のラストワードでそう言う説明がありますね。
 使う機会無いだろうしどうでもいいか……。


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