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No.5527の一覧
[0] 東方結壊戦 『旧題 ネギま×東方projectを書いてみた』【習作】[BBB](2010/01/05 03:43)
[1] 1話 落ちた先は?[BBB](2012/03/19 01:17)
[2] 1.5話 幻想郷での出来事の間話[BBB](2009/02/04 03:18)
[3] 2話 要注意人物[BBB](2010/01/05 03:46)
[4] 3話 それぞれの思惑[BBB](2012/03/19 01:18)
[5] 4話 力の有り様[BBB](2012/03/19 01:18)
[6] 5話 差[BBB](2010/11/16 12:49)
[7] 6話 近き者[BBB](2012/03/19 01:18)
[8] 6.5話 温度差の有る幻想郷[BBB](2012/03/19 01:19)
[9] 7話 修学旅行の前に[BBB](2012/03/19 00:59)
[10] 8話 修学旅行の始まりで[BBB](2012/03/19 00:59)
[11] 9話 約束[BBB](2012/03/19 01:53)
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[5527] 3話 それぞれの思惑
Name: BBB◆e494c1dd ID:bed704f2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/19 01:18

 まずこの人物らが誰かと言うのをはっきりさせなくてはならない。
 この土地に居る人物や道具の為、『謎の人物』では済まされない。
 しかし今調べてはいるが、芳しくない結果ばかりが返ってきている。

「拙いのぉ……」

 この地の結界を無視し、いきなり現れた謎の人物。
 その実力は恐らくはかなりの者、並の魔法使いでは手も足も、戦おうと言う気概さえ出せないような存在。

 もし戦いとなるなら高畑君やエヴァンジェリン、儂ではちょっとどうかなーと思うけど。
 
 八雲殿と争い事になるなら、彼女の封印を一時的に解く必要も出てくる。
 ……だが、完全な状態なエヴァンジェリンでも勝てるかどうか疑問が出る。
 最強に最も近いだろうエヴァンジェリンでも、その手が届くかどうかと疑わずには居られない。
 どういった攻撃を使えるのか、あのすきまはどういったモノなのか。
 謎尽くしの存在、名前以外の情報が欲しい。
 
 八雲殿を知らぬエヴァは、霊夢君と魔理沙君を『穴倉』と判断した。
 穴倉ゆえに見逃した、何てこともあるじゃろう。
 だが、それでは済まされない。
 どうにかしてあの二人の正体、その背後に居る八雲殿の事を知りたい。
 妖怪と言っていたが、あのような強烈な存在感を放つ者など見たことが無い。

 迫力が違う。
 存在感が違う。
 威圧感が違う。

 見られるだけで背筋に痛いほどの悪寒が走る。
 目で感じ、肌で感じ、心で感じ、頭で感じる。

 『絶対に勝てぬ存在』であると、本能と理性が同じ様に訴えかける。

 魔力や気を感じ取れる者なら誰でも分かるだろう、その強烈な力。
 封印される前のエヴァや、ナギ以上の存在感。
 呪いが解けたエヴァに匹敵、或いは凌駕するかもしれない存在。
 言えば『化け物』、妖怪らしいから間違ってはおらんじゃろうが……。

「はぁ……、どうしてこのタイミングで来るかのぉ……」

 近衛 近右衛門は悩んだ、何故この時期に、何故英雄の息子の修行中に来たのか。

 実力行使で追い出すのは色んな意味で気が引けるし、彼女達の実力も気になる。
 実はネギ君を狙って? なら何故このような手間が掛かる手を取る? 霍乱かの?
 一週間と言う期限も気になる、魔理沙君の魔法書を読みたいのも……うーむ。

 近右衛門は霊夢、魔理沙、紫の思惑を考えて悩む。
 彼女らがどのような存在か、どのような場所に住んでいるのか、何も知らない近右衛門は気が付かない。

 『敵を消す』

 3人、いや、幻想郷の中でこの事態を知る者達が考える、シンプルかつ分かりやすい明確な目的。
 彼の英雄達、『紅き翼』が立ち向かい壊滅させたはずの存在を『完全に消す』と言う目的に 近右衛門は全く考え思いつかなかった。












 一方、近右衛門の苦悶を他所に、畳の上に敷かれた布団から起き上がる霊夢。

「……ふぁ……っ~」

 起き上がって両腕を高く上げて背伸び、睡眠で硬くなった体を解す。
 軽く瞼を擦りながら立ち上がる、やはり魔理沙はまだ寝ている……部屋の隅で。
 どうしてそうなったのか全く気にならなかった、気にする事でもない。
 日は既に空高く上っている、朝餉を食べなかった所為か、ぐぅ~、とお腹がなる。
 朝食、いや、昼食の用意をしようと歩き出して。

「あだッ……、ッ……」

 陰陽玉をつま先で蹴ってしまった。
 しゃがみ込んでつま先を指で押さえる、ズキンズキンと襲ってくる痛みに耐える。

「クッ……、なんでこんなとこに転がってるのよ!」

 小さく見えて結構大きい陰陽玉、直径30センチはあろうかと言う大玉だったりする。
 そんな大きなものに気が付かなかった、眠気眼で注意力を散漫になっていた霊夢。

「……ッふぅ」

 何とか治まった痛み、転がる陰陽玉を一睨み。
 すると浮き上がって霊夢の背後に回りこんで停止、浮遊し続けて瞬時に見えなく透明になる。

「ああもう、めんどくさい!」

 どこかの誰かさんが馬鹿なことした所為でこんな目に……。
 とりあえず、捕まえる前にぶん殴る事を決意する。
 人の幸福を奪う輩にはきついお仕置きが必要なのだ。

 とか考えていれば、陰陽玉がかすかに光りを放つ。

『おや、やっと起きたか』
「ん?」

 振り返れば陰陽玉から声が聞こえてくる。
 しかも聞いた事ある声が、まあ幻想郷から繋いでいるので当たり前か。

「その声、神奈子?」
『早苗ー! 巫女が起きたよー!』

 少し遠くなった声、その持ち主は妖怪の山の天辺に住んでいる神『八坂 神奈子』
 名前を呼んでいる辺り、非常識の風祝を呼んでいるのだろう。

「何か用?」
『外を知らない貴女達に、家の優しい早苗が道具の使い方を教えてやろうって事になってね』
「はいはい、お心遣いありがとうございます」
『なってないね、もっと心を込めないと信仰が……』
「どこが信仰と繋がるのか分からないんだけど」
『『礼<れい>』は『礼<いや>』へと通じて、尊敬に変じるんだよ?』
「へーそうなの、べんきょうになったわー」
『棒読みだねぇ』

 どうでもいい、だから棒読み。

「教えてくれるなら早くして、色々使い方が分からないとやってられないのよ」

 お陰でお風呂に入れなかったし、着替えとかも色々考えなくてはいけない。
 服は紫のスキマで素早く持って来て貰った方が良いわね。

『聞いた話だと色々やるそうだよ、そういう約束でもあるし』
「紫と何約束したのよ、協力させたようなこと言ってたけど」
『意味はそのままよ。 幻想郷の一大事なのに協力しないなどと、ふざけた事は言えないだろ?』
「まぁね、で?」
『言えばサポートだよ、貴女達が困っているなら手を貸す。 勿論を貸すからには状況を確かめなくちゃいけない……』
「だから陰陽玉って訳ね」

 まさか地底の時のまま放置していた? 地底の異変の後、紫は元通りに戻したって言ってたけど……。

「また改造するとか意味無いじゃないの」
『一度『通ったモノ』は戻し難いからね、色々と都合が良いと思うよー』

 と、神奈子とは違った、暢気な声が割って入ってくる。
 その主は守矢神社が祀るもう一つの神、『洩矢 諏訪子』。

『そう言う事、無い物に付け加えるより、既に備わっている物を使った方が色々とお徳だろう?』
「それはそうだけど、何も陰陽玉じゃなくてもいいと思わない?」

 魔理沙も地底に行ったと聞いた、この陰陽玉の様に地上と地底間で話せるような道具を渡したらしい。
 それならそっちを使えばいいのに。

「と言うか、あんた達まで出張ってくるとは思ってもなかったわ」

 天子のお蔭で神社が倒壊して、分社も同じく巻き込まれ壊れた時は何故か出張ってこなかった。
 どうでも良かったのか、そうでも無かったのか。
 思惑が有るのか無いのか、流石に今回は黙っては居られない事態と言う事ね。

『今回の攻撃……『異変』は幻想郷の根底を破壊するもの、それをただ傍観するなんて阿呆な真似は出来ないね』
『神が居わす土地を荒らす輩には、色々と御仕置きしてあげないとねぇ』

 相手にとって予想外もいいとこだろう、藪を突付いたら鬼と蛇だけじゃなくて、数多に渉る妖怪や神が出てくるなんて笑い種にもならない。
 ……蛙もか。

「死活問題だしね、とりあえずそいつ等は捕まえる前にぶん殴る」
『あまりやりすぎるんじゃないよ? こっちの分も残してもらわないとね』
「はいはい、顔が腫れ上がるぐらいにしておくわよ。 ……やりすぎると言えば、紫の方が危ないでしょ」
『それはまあ確かにね、死ぬよりも酷い目に遭わすだろうねぇ』
『あの子は普通に命乞いとか無視しそうだね』

 昨日の夜、夢の中で見せたあの冷ややかな目、あの子供は目も当てられない状態になるだろうなぁ。
 子供の悪戯にしても度が酷すぎる、子供と言えどそれこそ容赦無く紫は消しそう。

「それは捕まえた時に確認しましょ、今は必要な道具の使い方よ」

 特にお風呂よ、汗掻いたまま寝るのは気持ち悪かったし。
 着替えだって……、薄手の布の衣服しかないし。
 外の世界の人間は、皆あんなの履いてたりするんだろうか。

『早苗は履いてるよ、こう可愛らしい奴』
『確かフリ──』
『御二方! 何言ってるんですか!?』

 心を読んだように始まった、二柱による風祝の暴露話。
 それを咎めたのはやはり風祝だった。

『何でそういう話になっているんですか!? 大事な話があるって言ってたじゃありませんか! それなのになんで私の……その、そういう話になるんですか!?』

 後半しどろもどろ、やっぱりフリルらしい。

『貴女も! どうしてそんな話を聞こうとするんです!』
「いや、だってねぇ。 着替えがあんなのしかないもんだから、そしたらそこの神がそう言う事言い出したんだけど」

 私は関係ない、関係ないったら関係ない。
 勝手に喋りだしたそこの神たちが悪い。

『八坂様、洩矢様、どういう事ですか?』
『どういうって……ねぇ?』
『だって巫女は外の世界に疎いし、色々教えてあげないと』
『それがどうしてこういう話になるんですか?』

 風祝の怒気を含んだ声、対する二柱は飄々と答える。

『外の世界の女は、こう言う下着を履いているって教えていただけじゃないか。 早苗だって少し前まで外の人間だったんだから、こんなのを履くのは普通だって教えてただけよ』
『それなら『こういう種類の下着がある』の一言で良いじゃありませんか!』
『色んな形があるでしょ? 早苗だって色んな形の持ってるじゃないの』
『そう言うのは人様に話すものじゃないと言ってるんです!』

 とまあごちゃごちゃ、一向に話が進まないから放って台所へ向かった。
 その後、あまりの騒々しさに目を覚ました魔理沙が叫んでいたけど気にしない。




 

『それが炊飯器で、そっちの大きな四角いものが冷蔵庫です』
「こんなので白飯が炊けるの? どう見ても無理そうなんだけど」
『電気の力を使って熱するんです、一時間もあれば炊けますね、早い物だと30分位で炊ける物もありますよ』
「はー、便利よねー」
『確かに便利ですけど、竈で炊いた方が美味しくなりますよ』

 角が丸っこい、楕円形に近い白い『すいはんき』と言う物。
 研いだお米と水を入れ、蓋をしてスイッチを押せば自動で白飯が炊けると言う代物。
 向こうの『れいぞうこ』と言う物も、季節に関わらず中の温度を一定に保って保存するらしい。
 殆どのものが『自動』、極力手間を省いたもの。
 早苗の話ではこんな物ごく普通に存在しているらしい。
 私達から見ればもっと驚くようなものが、それこそ数え切れないほどあると言っていた。

 すいはんきやれいぞうこなど、幻想郷では絶対にお目にかかれない物ばかり。
 こんなものが普通に普及している外の世界、どれもこれも利便を求めた結果だと言う。
 故に、外の世界で幻想が忘れられる理由が良く分かる。
 科学とやらに実を見つけ、その科学で証明できない幻想を放逐する。
 夢は夢、幻は幻と、そうして片付け忘れ去っていくのだ。

 妖精、妖怪、神、どれもが人の『想い』によって存在する。
 全ての人がその存在を忘れ去ったなら、紛う事なき『存在の消滅』。
 所謂『死』となって居なくなるのだ。
 なら何故人が少ない幻想郷で、妖精、妖怪、神などが確固たる存在で居られるか。
 その理由は『結界』、幻想郷を包み外の世界と隔離する二つの結界の内の一つ。

 『博麗大結界』

 論理的で物理的な防壁。
 認識阻害から侵入の妨害まで、外の世界と隔離するための結界。
 その博麗大結界のもう一つの効果、それは常識と非常識を逆転させる効果を持つ。
 外の世界で『無いという事』が『常識』なら、幻想郷では『無いという事』が『非常識』になる。

 つまり幻想郷の中には、外の世界に居ない者が居て、無くなった物が有る。
 簡単に言えばそう言う事、故に外の世界で居ないとされる妖精、妖怪、神が存在できるのだ。
 一部の者、特に強力な神になると幻想郷内でも『信仰』などが必要となるが、それが必要な神など数える程度しか居ない。
 その一部の者、神奈子や諏訪子は妖怪の山の妖怪達や、うちの神社に置いた分社から信仰を集めて存在している。
 原初の神などと言われるものたちは、強力すぎて存在が『確立』されていたりするそうだが。

 ……そういえば家の神社で祀っている神様、信仰が無くなって消えたりしたんじゃないだろうか。

「まあいいか」
『何がですか?』
「何でもないわ」
『はぁ……』
「おーい霊夢、朝飯兼昼飯まだかー?」

 と居間の方から魔理沙が食事を要求してきた。

「少しは手伝いなさいよ」
「そうだな、弾幕ごっこでどっちが作るか決める……のはダメか」
「自重しろって言われたしね」

 この家、と言うかこの土地に居る間、出来るだけ魔法の使用は控えて欲しいとコノエモンに言われた。
 郷に入っては郷に従うと言うし、ここの魔法使いたちからはあまり良い感情を向けられては居ない。
 わざわざ意味も無く反発して、余計ないざこざは御免被りたい。

「しょうがない、一緒に作るか!」
「ならお味噌汁お願いね、こっちはおかずを幾つか作るから」
「はいよ、任せろ」

 そうやって朝食兼昼食を作る。

『あ、ちょっとだけ白味噌混ぜた方が味に深みが出ますよ』
「それぞれの家にはそれぞれの味があるでしょ」
「白味噌か、少しだけ入れてみるか」

 そう言ってごそごそと白味噌を取り出し、おたまに掬って鍋の中に入れる。

「もう、美味しくなかったら全部魔理沙が食べなさいよね」
「むぅ、そう言われると失敗したかな」
『不味くはなりませんよ! 絶対美味しいのでお勧めします!』

 と気合を入れて言う。

『早苗は白味噌を少しだけ加えたお味噌汁が大好きだからなぁ』
『私達もお昼ご飯にしようよー』

 とかしみじみとした声が聞こえてきた。
 不味くなけりゃ良い、不味ければ魔理沙が全部平らげればいい話だし。
 そんな事を思いながら、出来上がったおかずをお盆に乗せて居間へ運ぶ。



「いただきます」

「ん、意外に……」

 出来上がった料理、それを飯台に並べ向かい合って座る。
 両手のひらを合わせ、食事前の挨拶。
 魔理沙はそれを行わずに、すぐ食べ始める。

「……悪くは無いわね。 だけど何時ものの方がいいわね」
「味噌が違うだろ、同じ物にはならないぜ」
「分かってるわよ、そんな事」

 やっぱり何時ものお味噌、幻想郷の人里のお味噌屋さんが作るお味噌が良い。
 あー、早く神社に帰りたいわ。





 食った食った。
 と楊枝を口に銜え、縁側に座る魔理沙。
 両腕を広げ、仰向けに寝転がる。

「あー、まだ眠いな」
「やる事ないんだし、寝ればいいじゃない」
「そうだなぁ、寝る……のは止めだ。 やる事がないかと思ってたら、グリモワールがあったな」

 起き上がり、手のひらを部屋の隅に置いてある帽子へと向ける。
 横幅50センチはあるつばの下に白いフリルが縫い付けられた黒い帽子、それが吸い寄せられ魔理沙の手のひらに収まった。

「よし、それじゃあ行ってくるか」

 帽子を被り、立ち上がる魔理沙。

「飛んで行っちゃダメよ」
「……そうだったな」

 何処からか竹箒を取り出し、跨っていた魔理沙。

「んー、そういえば監視はどうなるんだ?」
「さあ、いつか来るんじゃない?」
「いつだ?」
「さあ」

 と進まない会話。
 箒をしまいつつ、また縁側に座る。

「……やっぱり寝るか」

 と仰向けに倒れれば呼び鈴が鳴った。

「あー? 何だ?」
「誰か来たみたいね」

 霊夢は立ち上がり、今から廊下へ、廊下から玄関に向かい引き戸を開けた。

「監視の人?」

 戸を開けた先にはメガネを掛けたロングストレートの女性と。
 オールバックの黒髪と黒い口ひげ、黒のサングラスを掛けた男性が佇んでいた。

「そうです、学園長から貴女達の監視を命じられた葛葉 刀子です、こっちが……」
「神多羅木だ」
「そう」

 と言って今へ戻り始める。
 付いてくる気配がない二人、霊夢は振り返って一言。

「何してるの? 早く入りなさいよ」
「……お邪魔します」
「邪魔をする」

 靴を脱ぎ、玄関に上がる。
 廊下を通って三人は居間に到着した。



「………」
「………」

 霊夢、刀子、神多羅木は居間の卓袱台の周りに座り、お茶を啜る。
 魔理沙は魔理沙で縁側で寝そべって会話も無い、動きも無い。
 聞こえるのは世界の音と、霊夢が煎餅をかじる音とお茶をすする音だけ。
 そんな中、思い出したように魔理沙が起き上がり声を発する。

「なあ、あんた達も魔法を使うんだろ? どんなのが有るのか教えてくれよ」

 唐突な質問、脈略が無さすぎて一瞬戸惑う刀子。

「……例えば?」
「色々だよ、色々。 どんな種類の魔法があるのか、どんな風に撃つのかとかさ」
「………」

 魔理沙の一言を聞いて、ほぼ同時に視線を重ねた刀子と神多羅木。

「君達が住む土地に魔法使いは居ないのか?」
「居るぜ? 外と中じゃ全然違うって聞いたからな」
『……魔理沙、こっちの事はべらべら喋っては駄目よ』

 といきなり割り込んでくる声。

「ああ?」
『口に出さなくて良いわ、頭の中で思えば伝わるから』
『……誰だ?』
『パチュリーでしょ』
『……ああ、何の用だ?』
『今言った事よ、余り喋りすぎると所在を探られるわよ』
『喋らなきゃ良いんだろ、狂い慣れてるがそこまで狂っちゃいないぜ』
「どうしたのかね?」
「あー、何でもない。 で、教えるのか教えないのかどっちだ?」
「……良いでしょう、此方の魔法が如何なる物か教えましょう」
「おー、助かるぜ」

 ……何々? 魔法を撃つのに詠唱が必要?
 熟練者になると無詠唱使える、なるほど。
 あん? 初級から上級まであって?
 ちょっと待て、書いとくから。
 ……そうなのか、なんだ、外の魔法ってのはめんどくさいな。

『詠唱に付いては外の魔法が遅れているだけよ』
『そうなのか?』
『こちらの魔法と違って精霊に働きかけなければいけないし、威力も上級となるとそこそこね』
『そこそこねぇ』

 少しは参考になるものがあるだろう、と考え話を聞いた。

「……分かりましたか? 魔法と言うのはあらゆる場面で役立てる事が出来る技術なのです」

 と、日が落ち始めてやっと終わりが見えた講義。
 系統、属性魔法はさほど変わらない事がわかった。
 説明毎にパチュリーが補足を入れて、より判りやすく説明してもらった。

『位が上がれば上がるほど、精神的ダメージが多い魔法になってくるのも変わらないわね』

 強力な魔法は精神所か魂にまで影響を及ぼす。
 魔理沙の十八番、『マスタースパーク』も物理的な威力はかなり強力だが、魂にまで干渉、破壊を及ぼすほど強力な物だったりする。
 並の下級、中級の妖怪なら間違いなく魂の一片まで吹き飛ぶ。
 と言っても魔理沙は本気でぶっ放すわけではない、妖怪退治の模倣はあくまで懲らしめる為のものであって『殺す』為のものではない。

 殺傷がご法度と言うわけではないが、殺すほどのものではないと言う考えもある。
 とは言え下級の妖怪でも、五体を吹っ飛ばしたくらいじゃ死なないが。
 第一物事の決着を決める弾幕ごっこは『遊び』であって、『殺し合い』ではないのだ。
 ……一部の妖怪は本気で殺しに来る事もあるが。

 どっちにしろ弾幕ごっこでは精神的にクる。
 強者と言われる者は相手が強ければ強いほど、精神的圧迫を恭悦に変える。
 多少の精神的な圧迫など文字通り屁でもない、その中には尋常ではない殺気も含まれていたりするので弾幕ごっこをする者はその殆どが精神的に強い。
 むしろ耐えられなければ、強者との弾幕ごっこをする資格が無いという訳でもある。
 尤も、大体強者は強い相手としか弾幕ごっこをしないので、余り強くない者は相手にされず耐える必要も無いのだが。

 ただ単に弾幕ごっこと言っても、種類がある。
 文字通り弾を幕のように撃ち出し、如何に自分は当たらず相手に当てるかで競うものもあれば。
 素手や武器による格闘戦、殴り合いになったりするもの。
 同一のシチュエーションに自分のスペルカードで妨害を仕掛け、先に弾幕に当たった方が負けなど幾つか種類がある。

 だが弾幕ごっこには例外なく、弾幕を避けると言う特性がある。
 その字の通り弾が幕となって襲い掛かり、身体分だけの抜け道しか無く。
 衣服を焦がしながらも紙一重で潜り抜け、相手のスペルカードを征服したその時に起こる達成感はかなりのものだったりする。
 霊夢と魔理沙もその例に漏れず、強い存在との弾幕ごっこで面白いと感じる事もある。
 スペルカードルールが制定されてから、まだ数年も経っていないがその異常な普及率は、そう言った『楽しみ』も有って広がったのだろう。

「日常で役立つと言えば八卦炉位だな」
「攻撃に防御、日常の炊事にも役立つって霖之助さんは可笑しな改造してるわね」
「脇丸出しの巫女服も可笑しいだろ」

 まぁそうだけど、と二人して笑う。
 魔理沙の持つミニ八卦炉と霊夢が持つお払い棒と巫女服は『森近 霖之助』謹製の一品。
 幻想郷の中で言えば数少ない常識人、だが霊夢、魔理沙から言えば変人奇人に当てはめられる人物だったりする。
 勿論そんな会話を陰陽玉を通して聞いていた森近 霖之助は、掛けた眼鏡を人差し指で直しながら『変な言い掛かりはあれほど止めろと言ったのに』と一人店で呟いた。
 戻ってきたら二人から未払いの代金を支払ってもらおうとか、霊夢からは造っているだろう酒、魔理沙からはあのガラクタを探らせてもらおう、とか考えていた。





 日は次第に傾いていく、そんな中で軽い問答。
 どちらも重要なワードを避けながら会話をしていく。
 主に会話を進める葛葉 刀子は何事も無い平和な会話に、少しばかり驚いていた。
 学園長からは『危険かもしれない、出来るだけ注意して欲しい』と言われていたからだ。
 拍子抜けする会話だが、これが彼女達の手かもしれないと気を入れなおす。

「それで、貴方達はどうするの? 泊まっていくの?」
「……いえ」

 夜は交代で見張りが付く、流石に監視する対象が居る家に泊まっていくなどは出来ない。
 言い淀んだ所でピピピピピ、と音が鳴る。
 何の音だと霊夢と魔理沙は辺りを見回すが、音源を見つけられない。
 そんな二人を他所に神多羅木が懐から携帯を取り出した。

「はい、神多羅木です」
「……何だあれ?」
「さあ、……誰かと話してる?」

 と全く理解が及ばないそれを持って話す神多羅木。
 誰かと話していると言うのは判る、恐らくはここから離れたものと話しているのだろうが。

「……貴女達は携帯電話を見た事が無いのかしら?」
「けいたいでんわ? ……地底に行った時萃香が似たような事言ってたわね」
「何だ? 神多羅木は誰かと話してるのか?」
「ええ、……多分学園長かしら」
「コノエモンか、直接話した方が良くないか?」
「距離とか時間の問題も有るんじゃないの?」

 幻想郷の妖怪は主に夜行性で、人が寝ているのに神社に来て騒ぎを起こしたりする馬鹿が居たりするが。

「……良いのですか? はい、……分かりました、それでは直ちに。 ……葛葉、行くぞ」
「分かりました、それでは」

 二人が立ち上がり、霊夢と魔理沙に一礼して部屋を出て行く。

「なんかあるっぽいな」
「色々あるでしょう、私達以外の事も」

 神多羅木が電話を受けた相手は近右衛門、この時間帯から麻帆良に侵入しようとする輩が出始める。
 その輩の侵入を防ぐ為の警戒を承ったらしい。

 



 所々感じる力の奔流、微弱ながらも戦いである事はすぐに分かった。

『行くと良い、紫様も出来るだけ見ておけと仰られていた』
「そいつ等も関係あるわけ?」
『そこまでは分からん、だが結界をこじ開けようとした輩も外の魔法使い。 何れ戦う事になるかも知れないから見ておいた方がいいと思う』
「……はぁ、仕様が無いわね」
「乗ってくか?」

 瞬時に魔理沙が箒を取り出し、聞いてくる。

「乗ってくわ」

 箒に跨る魔理沙の後ろに腰を下ろす。
 左手を魔理沙の腰に回すと同時に箒が浮き上がる。

「じゃあいくぜ」

 室内から庭へ、庭から空へ一気に上っていった。





 遥か高く空には月が輝き、幾つかの星が瞬いている。
 そんな夜空に浮かぶ、二人の人間と二つの物体。

「結構やってるわね」

 見える範囲の中、戦いと思われる閃光や力の奔流が感じられる。
 それが最も多く感じられるのが視界の奥の広がる森。
 あの森を基点として多くの存在が蠢いている。
 ただの力の無い人間ならば、致死レベルの森。
 だが二人から、いや、一部除くこの状況を見ている者からすれば敵が居ない状態と変わりない森。

 幻想郷の、比較的安全と言われる森より安全な森に見えていた。

「見ておけっつったって、何を見るんだ?」

 一応戦いなのだろうが、殴りあったり斬りあったり、弱すぎる魔法を撃ち合っているだけ。
 異変時の時ではない妖精にも劣る攻撃、参考にする箇所などあるのだろうかと思う始末。

『……分からん、紫様は必ず見せて置けと言っていた。 恐らくは何かあるのだろうが……』

 その兆候は感じられない、紫が何かするんだろうか。
 と言うか、しそうな感じがしてきた。
 紫の奇行に頭を悩ませても仕方が無い、今見ている景色の中で浮かんだ疑問を聞いてみる。

「萃香居る?」
『居るよー』
「ちょっと聞きたいことが有るんだけど、あれ見える?」
『んー?』
「あれって鬼?」
『あー、鬼かと聞かれれば鬼だね』

 陰陽玉を経て見て、森の中に居る鬼を確認して言いよどむ萃香。

「あんなに弱い鬼なんて居るの?」
『アレは式神だろう、それもかなり薄い』
『だね、正確には鬼の影、って言った方が良いよ』
「影、ねぇ」
『どれくらいかというと、影の影の影の影の影の影の……』
「どんだけなのよ……」
『霊夢も私たちの力がどれくらいか分かってるだろう?』

 そう言われて黙る。
 筆舌し難いと言って良い。
 やろうと思えば、山を崩す事さえ出来るとか何とか言っていたらしい。
 こんな形でどれだけの怪力か、魔理沙の主義主張『弾幕はパワー』が言う本人より似合っていなくも無い。

『いま二人の下でやってる事は『弾幕ごっこ』とは大いに違うよ、そうさね、『殺し合い』だ。 お互い本気を出して潰し合う、もし本物の鬼がそうするとどうなるか分かるかい?』
「まあここら一帯は無くなるでしょうね」

 殺すと言うより、破壊すると言って良い力の持ち主達。
 本気で力を振るえば、風景は見る影も無く変わるだろう。

『そう言う事、あの式神の元となった鬼だって考慮してるのさ。 ……まあ、あの式神を作った奴の技量が足りないだけだろうがね』
『たしかにあの式は拙すぎる、あれでは十全など夢の夢、一割すら保たせられないだろうな』

 お粗末過ぎる故に影の影……という訳ね。

「実力が有って、式の構築が上手い人なら本人……本妖怪? を呼び出せたりするって事?」
『それは無いだろう、もしそれで本人を呼び出したならそれは既に式神ではない。 紙を使った召喚術になってしまう』

 確かに、言われればそうだ。

「藍のは直接式符を張り付けてるんだっけ?」
『ああ、そうだ。 下で使役される式神とは使役方法が違う』
『あのタイプだと、最大でも力を二つか三つ落とした所が限界じゃない?』

 あの式神の鬼は、紙を媒体とした妖怪の写し身。
 藍や橙は、その妖怪自身に直接式符を貼り付けた式神。
 前者と後者では圧倒的に力が違う。
 前者は影を写す事を許され、式符にそれを転写するモノで。
 後者は直接従えると言うもの、その妖怪自体なので力を引き出しやすい。
 十全の力を引き出す代価、それはその妖怪を屈服させるだけの実力が必要となる。

「藍はどうなの? あの怠惰の塊に使役されて良い訳?」
『私は紫様だから従っているんだ、見合わない他の者なら従うわけ無いだろう』
『紫は怠け者だけど、実力はインチキだからねぇ。 あれくらいの実力者なら逆に使役してくれって言う奴の方が多いかもしれないよ』
「紫は藍の力を十全に引き出してるって訳」
『そうだ、紫様の書き上げた式符はもはや芸術の域だ。 あれ程のものは私でも無理だろう』

 たしかに、紫の結界術や符術は凄まじいほど精巧で強力だ。
 同じ術を使う者としてどれほど凄いか理解できる。

「全く、紫はインチキすぎて困るぜ。 そうだ、今度言っといてくれよ、いい加減家の中から現れるの止めてくれって」
『そういうのは自分で言った方が良いんじゃないか?』
「人の話を聞くようなタマか、式の藍なら聞くかもしれないだろ?」
『……私の話でも聞きそうではないんだが』

 結論、紫は怠け者でインチキで話し聞かず。
 それを聞いて幾つかの笑い声が聞こえてきた。
 他の奴らも聞いてる事を忘れていた。

『まあ霊夢になら使役されても良いかも知れないねぇ』
「使役する機会なんてないでしょ」
『あらまー、振られちゃったね』

 そんな会話をしていれば、下で進展があった。
 わらわらと群れる式神の鬼と烏天狗。
 その中で、実力が頭一つ飛びぬけた式神が何体か現れ始めていた。

「アレだと構いっきりになるな」
「でしょうね、何匹か抜けるんじゃないかしら」

 多勢に無勢、あの式神たちより実力が上の刀子でも、数で押されれば手間取らざるを得ない。
 脅威にならない実力だったなら今までと同じく均衡、或いは殲滅し始めていただろうけど。
 蠢く式神の中に数倍の手数を必要とする頑丈な奴が現れれば、その分時間が掛かり撃破効率が下がる。
 そうなれば手が届かない奴らの、劣勢と言うか通過を許してしまう事になっている。
 と思ったけど。

「……わざと?」
「何だ、妖夢のと同じ剣術って奴か」

 何匹か通り抜けた後、見れば刀子は鞘に手を掛け、瞬時に抜刀。
 刀が奔れば何体もの式神が横に両断される。
 たぶん手を抜いていたんだろう、どうして手を抜く必要があったのかは知らないけど。

『誘導っぽいね、ほら、あっち』

 そう言われて左に視線を落とす。
 森と人里の境目、舗装された道に出るや否や、走る式神の一団の先頭が切り刻まれた。
 式神たちを切り裂いたのは黒眼鏡の黒礼服、神多羅木が右手指先を前に突き出し立っていた。
 その周り、数名の男女が杖を構えている。

「なんか意味あんのか、あれ」
『護衛……、いや、教育係りか』

 見る限り一撃で消滅させれることが出来るのに、わざと手を抜いている。
 周りに居る魔法使い達に経験を積ませてるんだろうか。

「めんどくさい事やってるなぁ、一発ぶっ放せばいいのに」
『利用しているのだろうな、だが目が甘いか』
「なに?」
「あそこ、認識阻害を使ってる奴が飛んでるわ」



 霊夢が指差す先、力を込めて見れば。

「あー、見逃した」

 烏天狗がひい、ふう、みい、と多くは無いけど少なくも無い数が飛んでいる。

「行き先はー、誰も居ないじゃん」
「と思ったら居る、と言うより追いかけてきたわね」

 空を翔る中年、タカミチがかなりの速度で突っ込んでいく。

「終わったわね」
「終わったな」

 拳から放たれる衝撃波、横から打たれた烏天狗たちが潰され還っていく。

『式神とは言え、あの程度で還るなんて情けないと思いませんか? 影とは言え余りにも脆い、あれでは天狗の名が泣きますよ』

 陰陽玉の向こう側から、やれやれとため息を吐く射命丸。
 脆いと言うのは同意しておく、並の天狗でもあの程度の攻撃はかすりもしない。
 当たったとしても、軽い打ち身程度の傷しか負わないかも。

『なんと言う体たらく、陰陽玉越しにシャッター切れないのが辛いですね……』
『直接持っていかないと無理だろう、スキマじゃないんだし直接見れないよ』

 萃香が言い終わると同時に、人里から光が次々と消えていく。

「ああ? 紫がなんかしたのか?」

 と魔理沙が呟けば、遠くの方から大きな魔力を感じる。

「はぁー? これが『何か』って事か?」

 突然現れた遠くから感じられる大きな魔力、恐らく紫はこれを狙ってそう言ったのだろう。

『恐らくそれだろう、行って見よう』
「はいはい」
「飛ばすぜぇ!」

 魔理沙が気合を入れて加速する。
 いきなり過ぎて首が仰け反り、首筋が痛くなったのでお払い棒で魔理沙を叩いておいた。





 箒を飛ばして目的の場所まで来てみる。
 遠く、どデカい橋の上で二人の子供が対峙し、片方から魔力が膨れ上がっていく。
 確かあの子供は近右衛門の部屋で見た女の子だったような。

『そこそこ、ですね』
『確かに、そこそこと言った所か』
『そこそことしか言えないねぇ』

 ときつめの評価、今言った3匹は全員あの子供より妖力や魔力を持っているからしょうがないと言えばしょうがない。

『あの金髪の娘、あれは確か吸血鬼だったはず』
「あれで吸血鬼?」
『あれで吸血鬼だ、と言っても力を抑えているのは間違いないだろうが』

 レミリアやフランドールと感じられる圧力が違う。
 と言うか吸血鬼って、皆小さい女の子なのは何故?

「で、あの吸血鬼が何なのよ」
『紫様は、戦いぶりを見ておけと言う意味ではないのか?』
「……少しは参考になりそうね」
「実物見とけば、大体は何とかなるだろ」

 感じる魔力は中級程度のもの、少なくともあの森に居た奴等よりは力があることは分かる。

『あれは恐らく『闇の福音』では無いかと』
『……そんな奴、確かに居たわね』

 割り込んできたからにはあの吸血鬼の事を知っているのだろう、紅魔館の主『レミリア・スカーレット』とその館のメイド長『十六夜 咲夜』。

「知ってそうね」
『少しくらいは知ってるわ、外の世界の、魔法の存在を知る者ではかなりの知名度を誇るし』
「別に魔法がある事位知っておいても良さそうなんだけどなぁ」
『確かお嬢様より歳を重ねているはずです』
『そうだったかしら、他の吸血鬼なんて知った事では無いけど。 歳ばかり重ねてもしょうがないと思わない? 霊夢』
「平和な日常の積み重ねたものなら大歓迎よ」
『そうかしら? 面白可笑しい毎日の方が良いと思わない?』

 そんな問いかけは賛否両論。
 いいねぇ、毎日が宴会みたいなものかぁ~。
 毎日がいいですね、ネタに困らなくなりそうですし。
 とか巻き込まれる存在を無視した言葉がちらほら、幻想郷に戻ったらもう一度こいつらを退治でもしておこう。
 そう心に決める霊夢だった。












「落ちたか、ネギ君は何処までやれるかのぉ……」
「決まり切った出来事に思いを寄せるなんて、つまらないですわよ?」
「ぬ!?」

 学園長室で二人の対決を見守る中、隣を見れば八雲殿が逆さに浮いていた。
 正確にはスキマからスカートの中頃まで体を覗かせ、髪や衣服が一切重力に引かれていない。
 見様によっては此方が逆さまになっているかと思う程、自然な違和感を醸し出していた。

 だが、真に驚くべき所はそこでは無い。
 昨日とは違う、気配も何もない。
 気が付いたらそこに居ると言う、まるでそこにあるのが自然だと言わんばかりの違和感の無さ。
 彼女が声を掛けなければ、気が付くのはもっと遅れていたじゃろう。

「親が子を思い愛情を注ぐ、近衛殿も同じかしら?」
「……彼の者は──」
「千の魔法使いと呼ばれた男の息子、英雄となる資質を持った少年。 故にその人生は波乱に満ち、その歩みは困難を極める」
「……八雲殿の目的、教えてもらえませんかの?」

 問うたその言葉、何が狙いで何を目指すか。
 この麻帆良で何がしたいのか。
 その問いに、八雲殿は扇子を開いて口元を隠して喋りだす。

「この土地にある魔法の道具や人間が目的だと言ったら? まあそんなもの全く必要としていませんけれど。
 それでは他に何があるのかと言えばネギ・スプリングフィールドや近衛 木乃香の保有する魔力? 力の無い者から見れば格好の魔力生成容器ですわね。
 私達から見れば、あの程度の者なら幾らでも居ますわ。 ええ、精々補助程度、者によれば邪魔なものにしかなりえない。
 そんなものを手に入れてどうすると? 自前の魔力で事足りますし、そのような様な事態は迎える事など無い。
 私が処分した魔法の道具類が欲しい? 霊夢や私自身どうでも良いですし、魔理沙は集める事に意味を見出した人間ですので、中身はどうでも良いと考えてますのよ。
 ええ、邪魔になれば問答無用で処分しますし、元よりそれらがどれ程貴重なものか魔理沙は理解してませんわ。
 例えそれが貴重なものだとわかっても、魔理沙は頓着しない。 価値が分かれば物々交換なんて事もするでしょうけどね。
 魔理沙が固執するのはたった一つのことだけ、それ以外の事はあまり重要と考えて居ないでしょうね。
 霊夢は霊夢で同じ様に頓着しませんわ、物を取って置くと言う行動、霊夢はそれが自分にとって必要かそうでないかの基準でしか選ばない。
 燃えそうなものなら薪代わりに取って置く、と言った程度でしょうし。
 霊夢にとって興味がある物は衣食住と賽銭箱の中身……、その位しか有りませんわ。
 ええ、とても変わっていますでしょう? そこが肝と言った所ですわね。
 それはそうとそろそろメインイベントが始まりますわね?
 あと図書館島の深部の住み心地は如何かしら? 覗き見さん?」

 一息に近右衛門が内心思っていた事に全て答えた紫。
 最後の一言は、この場に居る二人を覗く第三者に対しての声だった。

『おや、気が付いていましたか。 気分を害したなら謝罪しましょう、申し訳有りません。 あ、それと姿をお見せ出来ないのも申し訳有りません』

 と声だけが響き、図書館島最深部で暮らす裏の司書。
 『紅き翼』のメンバーの一人、『アルビレオ・イマ』。
 そんな謝罪を聞いて、扇子を取り出して口元を隠した八雲殿。

「貴方が動けない事など当に承知しておりますわ」
『ほう……、何処までご存知で?』
「さあ……、何処まででしょうね?」
『真に興味をそそられますね』
「知りたいのでしたらどうぞご自由に、例えば盗み聞きなどね」
『ほう、構わないので?』
「ええ、盗み聞きと言うのは中々面白いものだと思いませんこと?」
『確かに、内容が過激であればあるほど楽しみが増すと言うものです』

 二人同時に「ふふふ」と笑う。

「……二人は知り合いかの?」
『「いいえ」』

 とまたも声が重なった。

『シンパシーを、と言いましょうか、色んな意味でただならぬ者だと感じましたね』
「趣味が合いそうな気がしましたわ」

 またもふふふ。

「……話を進めよう、八雲殿は何の目的が有ってこの地へ?」
「ある存在を捜しております、その存在の目的がこの地に有るので此処へ」
「ある存在?」
「あの吸血鬼が言ったように、私達は『穴倉』ですわ。 霊夢と魔理沙、恐らくは一生そこから出ることは無かったはずですが……」
「何かが有ったと?」
「ええ、二度とあのような事を起こさせないようお仕置きしてあげようと思って」

 そう言って向けられた視線はその髪と同じ金色の瞳、そして浮かべる表情は美しい満面の笑み。
 だが八雲殿の瞳は人のものではない、その向こう側に背筋が凍る何かが有った。

「メインイベント、本題ですが、ネギ・スプリングフィールドとエヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルの決闘、それに割り込ませて頂きたいと思っていますが」
「割り込む、邪魔……と言う意味ですかの?」
「いいえ、あの決闘が終わってからですわ」

 見ればエヴァンジェリンが闇の吹雪、ネギ君が雷の暴風を撃ち出し、ぶつかり合い均衡している所であった。

「……彼女らとエヴァンジェリンを戦わせると?」
「ええ、外の魔法使いがどのような物か。 百聞は一見にしかず、目で見て耳で聞いて肌で感じてもらおうかと」
「……しかし、彼女の封印は──」
「死んだら死んだでその程度だったと言う事、まああの程度ならよく見かけますので問題ないでしょう」
「あの程度……」
「勿論五月蝿いハエどもが入り込まぬよう結界は敷いてあります、そちらの手を煩わせる事は致しませんわ」
「むぅ……、しかしのぉ」

 封印が解けている今のエヴァンジェリンが『あの程度』、現存する全ての生物の中で最強種に上げられる吸血鬼が『あの程度』。
 虚仮威しか真実か、事実ならばエヴァクラスの存在が多数居ると言う何と恐ろしい土地か。

『エヴァがあの程度ですか、貴女方が住む土地にどのような存在が居るか気になりますね』
「気になるならば、どうぞお探しになってくださいな。 来るモノ拒まず、出るモノ追わず、それが我々が居る土地の仕来りですわ」
『貴女方が捜している者は、どうやら好ましくない事をしたようですね』
「ええ、友好的ではなくても来る者は拒まない。 ですが敵対的である者は無情の扱いをさせていただいて居りますのよ」
『貴女の考え、随分とシビアですね』
「ふふ、それでは近衛殿、もう暫しの間霊夢と魔理沙への助力、お願いいたしますわ」

 アルビレオの言葉を流し、すきまの中に沈んでいく八雲殿。
 亜空間が閉じ、すきまの端にあったリボンが消える。

「……どう見る?」
『恐ろしいですね、世界広しと言えどここまでの存在が居るとは……』

 アルビレオがそう言い終った直後、近右衛門の携帯に着信が入る。
 携帯を取り出し通話ボタンをポチ。

「近衛じゃが」
『ああ、学園長! 異常事態です!』
「見知らぬ結界があるのじゃろう?」
『え? あ、はい!』
「此方で用意した一回限りの結界じゃ、電源が復旧するまで十分持つじゃろう。 言うのをすっかり忘れとった、驚かせてすまぬの」
『いえ、安全な物なら構いません。 それでは皆にもそう伝えておきます』
「頼む」
『それでは』

 電源ボタンを押して切る。
 携帯を懐になおしながらため息を吐いた。

「いつの間に仕掛けたんじゃろうか」
『彼女等が来る前から、が適当ですが……』
「前々からあれほどまでの存在が侵入して居たとなると、色々考えねばならんのぉ……」

 実際はその場で作り出した結界。
 勿論悟られる様な素振りは一切見せていないためにその考えに至る二人。
 極短期間で不純な動機を持つ者の一切の出入りを防ぐ結界、それを直径何十キロもあるこの麻帆良を覆うほどの規模を作り出したと知れば二人は驚くことだろう。

「君でも勝てんか」
『戦ってみないと確かな事は言えませんが、十中八九負けるでしょう。 エヴァでも恐らくは』
「……裏は深いのぉ」
『良からぬ事でも企まなければいいのですが』

 遠見の魔法で見る決闘、その結果はネギ君の勝利で終わり。
 その戦いを見ていた霊夢と魔理沙は紫の声を聞く。
 今『本物』の戦いが幕を開けようとしていた。
















 タイトル決定、暗黒妖精様のを採用、ありがとうございます。




 実力者は読み違えない、冷静に分析して勘違いは無い!(キリッ
 アルビレオと紫、胡散臭さが似てると思います。
 どちらがより胡散臭いかと言われれば紫を上げますが。
 とりあえず3話はネギまのどの部分で来たか、紫が霊夢か魔理沙とエヴァンジェリンとの戦いを仕組む。
 と言った話です、次話は戦いになるかと。

 一応これでも詰めた方です、その2で説明が足りないとか言っていたにも拘らず冗長な説明入れて30kb超えた。
 SS書きの人なら絶対『文章を上手く纏める程度の能力』が欲しいと思います。


 ネタ、何故紫は逆さまに出てきたのか? ほら、逆さまって良いと思いませんか? ……思いませんね。
    神奈子様が言った『礼』の話、あれは適当な作り話。
    早苗さんのパンツ、少し前まで外の人間だったからそう言うのを履いていて当然、瀟洒な咲夜さんも履いてそう。
    なぜレミリアと咲夜さんがエヴァの事を知っていたか、作者的に吸血鬼異変を起こしたのはレミリアじゃないとして、紅魔館勢は紅霧異変を起こす少し前に幻想郷に来たと言う事にしました。 そっちの方が接点作れるし。


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