「ラッリッホーラッリッホー♪ラッリィラッリィラッリッホー♪」
やあやあ初っ端からゴキゲンな田中真二改め糸井優姫(16)ですよー。
別にクスリがキマっている訳ではないのでご安心を。
実は今日、織姫ちゃん家にて、たつきちゃんも一緒に3人でお泊り会ザマス。ヒャッホウ。
TSしてて良かった!と思う瞬間の1つだ!
そんな訳でお泊りセット持って織姫ちゃんのアパートに向かっているんだけど、公園を見たら頭が痛くなる光景が広がっていた。
「たわけ!貴様はこれが何の特訓か分かっているのか!?」
「だからこんなのの見分けがつくわけねえだろ!」
「ム…2人とも落ち着け…」
夕方の公園で言い争いをしているバットを持った高校生と本を持った死神と仲裁を試みる巨人。
文字だけだと何か大事件や冒険の旅が始まるとも思える光景が今まさに俺の目の前に!
こんなスペクタクルいらねえ。
そういえばあんな特訓やってた気がするなぁ。っていうかあのピッチングマシーンみたいなおもちゃはやっぱり浦原商店から持ってきたのだろうか。
とりあえず行ってみるとしますかねー。
「おーい何やってるのー?」
dream 4. 『Be Good Brother』
行ってみるとやはり特訓だったようだ。
ボールに体の部位の絵を描いて、打ち出されるボールの内、頭のボールだけを狙ってバットで打つという特訓。
スゲェ、意味が分からねぇ。
ホロウの頭を狙うのと頭を描いたボールをのみを狙うのは別次元の話だろルキアさん。
どっからその発想が出てきたんだろうか、ルキア脳を一度じっくり調べてみたい。やはり天然なのか。
「ちなみにチャドくんは何を?」
「一護に特訓に付き合ってくれと呼ばれて来た…」
「あー、それで来てみたらこの状態だったと」
チャドくんお疲れ様。
あれ?ホロウの事はもうバラしたのか!?早くないか!?
原作だともう知ってたっけ?チクショウ思いだせん。
「(安心しろ、死神関連のことは一切話してはいない)」
俺の心を読んだかのようにルキアさんが小声で俺に報告。えらいねるきあさん!
でもチャドくんに素がばれてるよ!
「やっぱり実際やらねぇとダメだろ、チャド、頼むわ」
「ム…分かった」
そう言ってバットからスポンジ刀?に持ち替えた一護クンがチャドくんと向かい合って試合開始。
攻撃をかいくぐり頭をスポンジ刀で叩くという訓練らしい。
先ほどのボールよりは良いかもしれないな。にしても事情を詳しく教えられなくとも付き合ってくれるチャドくんマジ優しき巨人。
そして訓練の様子を見守ってると息が上がってきて一時休憩のご様子。
「はぁ…はぁ…やっぱ…こういうのじゃねえと…強くなれる気がしねえな…」
「何かあったのか一護…」
肩で息をしてる一護クンに対し悠然と佇むチャドくん。
ああ、こりゃ「チャドが負ける姿が浮かばねぇ」とか絶大な信頼を寄せられるわけだ。
強いねぇ、おたく全く強いねぇ。
「そういえば最近…朽木との事が噂になってるが…それ関連か?」
「あ!?いやそういうことじゃねえけどよ…」
「何でも朽木の親とタイマンを張るとか…既に子供がいるとか」
「あらやだ茶渡君ったら」
ドスゥ!
「ムゥ…」
ドォォォォォォォン!
……チャドの霊圧が……消えた…?
はええええええええええ!!!!!!そのイベントはええええええええええ!!!!!!
噂の内容に軽く切れたんだろうけど、霊圧込めたパンチを鳩尾に入れるのは酷いよルキアさん!
しかもチャドくん悪くないし!今もうつぶせに倒れたままだし!
ほら!一護クン滅茶苦茶ビックリしてるじゃん!信頼を寄せていた相手がワンパンで沈んだよ!
尸魂界前に『チャドが負ける姿』が目に焼き付いちゃったよォォォォォォォォォ!!!!!
「オイ!大丈夫かチャド!」
「問題…無い…」
駆け寄る一護クンに言葉を返す死に掛けのチャドくん。
見てるこっちが切ないわ。こんなの原作じゃ無かったよ絶対。
もうチャドくんはダメだ…でも今の霊圧パンチでもあんな威力あるのか…対人戦で使うの怖ェ…。
それにしてもこの惨状どうしよう…なーんて思っていたら後ろから声が。
「優姫ちゃーん!何してるのー?って朽木さんに黒崎くん…と茶渡くん!?」
織姫ちゃん来ちゃった、夕暮れのカオスな公園へようこそ。
とりあえず挨拶済ませた後に、今の状況はケンカの特訓中に良い一撃が入って倒れただけだと説明しておいた。
まさか140cmちょいで華奢な少女の一撃で沈みましたじゃかわいそ過ぎる。
そしてそれをアッサリ信じる織姫ちゃん。説明が簡単で助かる。
追記として、ルキアさんの織姫ちゃんに対する、お嬢さまキャラでの挨拶は腹筋に悪かったと言っておこう。
「あ、優姫ちゃん、もうたつきちゃんウチに来て待ってるよ」
「流石に早いねぇたつきちゃん」
「ところで井上、それなんだ?」
織姫ちゃんのもつ袋に疑問を投げかける一護クン。
あ、何か思い出すぞこのシーン。
ネギを片手にお泊り会の食材なんだ~、と嬉しそうに説明する織姫ちゃん。
あー、何かこう、電波が!電波が!
ンパ♪ンパ♪ンパ♪ンパ♪ンパ♪ンパパ♪
「ァヤッツァッツァーヤリビダリリッパラリッパンリンデンデンランドー(以下略」
「いきなりどうした!優姫!」
「何だその珍妙な唄は!怖いぞ!」
うん、俺もいきなりこんな歌を歌い始めたら怖いと思う。
でも前世の記憶が蘇えっちゃったからには歌わずにはいられなかったのよ。
あーPCの前で無駄に時間が過ぎていく感覚を思い出すわー。
まぁ原曲じゃなくて初音ミクの方なんだけど。
歌は良いね、リリンの生み出した文化の極みだよ。長いこと聞かなくともふとした拍子に思い出せる。
ネットはたまに魔物を生み出すから怖い。昔フリーゲームで何十時間も時間ドロボウされたのも連鎖的に思い出した。
コワイコワイ。
「えー、私は良い曲だと思うなー」
若干涙目のルキアさんに反論する織姫ちゃん。
そうだね、織姫ちゃんとは相性が良いかもね、色んな意味で。
「ってあれ?織姫ちゃん腕のケガもだけどその足酷くない?」
「あ!?これはその…ね?」
「その痣…ちょっと見ていい?」
「うん、別に良いよ。昨日何かにぶつかってできたんだと思うけど…」
険しい顔で織姫ちゃんの足の痣を見るルキアさん。
それをさらに険しい顔で見る俺。
あの痣は間違いないなぁ…今日かな…そういえば原作でも現場にたつきちゃんいたっぽいしなぁ…。
そう、実は織姫ちゃんの兄は既に死んでる。
そもそもが純粋に事故での死亡だったらしく、織姫ちゃん関連のイベントをすっかり忘れていた俺は当然そこまでカバーできなかった。
さらに俺は織姫ちゃんが同じ中学にいたことすら最初は気づかなかった。
女子として初の思春期まっさかりゾーンに踏み込むことで周りが見えずいっぱいいっぱいの俺は、
結局織姫ちゃんの兄が死んだ後に、イジメにあってる場面を見かけるときまで気づかなかったのだ。
もちろんそれからはイジメブチ殺すと言わんばかりにイジメ主犯の先輩方に対して『説得』を開始、たつきちゃんを巻き込んで織姫ちゃんの心のケアにも力を入れた。
織姫ちゃんのロングヘアーを切ったことも分かって『説得』をやや頑張りすぎた気もするがまぁ良いだろう。気持ち的にはビッゴー!ショータイム!って感じになったけど。
それからはこの世の終わりとばかりに暗く鬱状態だった織姫ちゃんも、羽化するかのごとく今の天然さんにワープ進化することができました。
めでたしめでたし。
じゃー終らないのよねー。
今まではどっかで隠れて見てたみたいだけど、ホロウ化して今日襲いに来るよねー井上兄。
きっついなー。
とにかく今日は死神ズが来るまで2人を守るとするかー。
「それじゃ私たちはそろそろ行こうか織姫ちゃん」
「うん、あ!笑点始まっちゃう!」
「あ、ちょい待ち」
そう言って『治癒』をかける。チャドくん死んだままだし今のうちにサクッと治しておこう。
「ありがと優姫ちゃん!」
「変に気使わなくて良いから怪我したら言いなさいっての」
即デコピン
「あうっ」
「(それが優姫の治癒能力か)」
「(まぁこんな感じ)」
とルキアさんとナイショ話もしておいた。この後もっと頑張らなきゃいけなくなるから早く来てくださいよー。
「よし、行こうか、それじゃ3人ともまた明日」
「また明日ね」
「おう、んじゃ明日な」
「それでは御機嫌よう」
「ム…」
ルキアさん俺の腹筋を虐めるのはやめてください、大笑いしたくなるのをガマンするのは辛いんです。
チャドくんは死力を振り絞ってまで挨拶しなくていいから早くダメージ回復してください。
んでもって織姫宅到着。中ではたつきちゃんが寝転がりながら笑点見てた。何と言うリラックスぶり。
そして織姫ちゃん特製「なんだか良く分からないけど美味しいもの」を頂いた。
いや、ホント良く分からないけど美味しかった、材料が不明すぎてそこが面白い領域に入りつつある。
そして雑談開始。最近のテレビやら服やら小説やら学校のことやらを話してると、ついに感じたくない気配を感じてしまった。
<<マスター、近いです>>
<<みたいだねぇ>>
あーあ、もう来ちゃうかーやだなぁ…。ちなみに今の会話は俺とスピカにしか聞こえていない。念話とかそんな感じ。
部屋に飾られてたクマのぬいぐるみが倒れる、そしてそれを織姫ちゃんが拾い上げる…が、ぬいぐるみに怪我はない!?
あれ?まず死神を狙うんじゃなかったっけ?おかしいな、記憶違いか?
とか考えてたらクマからホロウの手が飛び出して織姫ちゃんの魂が抜かれた!
しまった!今は考えごとなんてしてる場合じゃなかったってのに!
「織姫ちゃん!」
倒れる織姫ちゃんの体、そしてそれを見て、慌てて織姫ちゃんの体に近寄るたつきちゃん。
「ダメ!たつきちゃん!逃げて!」
「え?」
ドガァ!とたつきちゃんを手で押さえ込むホロウ。
体は下半身が蛇のようなタイプか。つくづくバケモノじみた姿だ。
『たつきちゃん!』
チクショウ後手後手だな俺!とにかくその手をどけてもらおうか!
この場にいるのがただの人間だけだと思い込んで油断してるホロウに霊圧パンチを叩き込む!
<<スピカ!リミッターは!?>>
<<かかっています>>
OK、それなら周りにばれる心配も無いかな?
「その手を離せェ!」
たつきちゃんを抑える腕を殴り飛ばして、ホロウの体がグラついた隙にたつきちゃんと織姫ちゃんの体を回収!
織姫ちゃんの魂は…ホロウの後ろか、今はこっちが睨まれてるから大丈夫かな…。
まだ俺の能力を知られるのは避けたい。
これから先には織姫ちゃん覚醒イベントが待ってるからな。
あークソッ、今使えるのはルキアさんに話した程度か。
早く来い死神ズ。
『貴様…どこまでも俺の邪魔をするのか…』
「どこまでもって…何のことかさっぱりなんだけどねぇ、バケモノさん」
『お前さえ…お前さえいなければ織姫は…』
『優姫ちゃん!たつきちゃんを連れて逃げて!』
「優…姫…何が…」
おいおい、何で俺そんな恨まれてるの?あと織姫ちゃん、それ無理。
にしてもたつきちゃんが一撃でやられたか…やっぱそれなりに強いなぁ。
「ごめんたつきちゃん、今はちょっと静かにしてて」
『2人に何するのこのバケモノ!』
『織姫…とうとう俺のことを忘れてしまったのかい…?』
『え…?』
『俺は!ずっとお前のことを!忘れたことはなかったと言うのに!』
ホロウの鋭い爪が織姫ちゃんを襲う!切れるの早いぞ!井上兄!
「『障壁』!」
ギィィィィン!
俺がとっさに張った桃色の障壁が織姫ちゃんをホロウから守る。
見た目はそれっぽく分かりやすい魔法陣スタイルだ。
『邪魔を…!邪魔をするな糸井優姫ィィィィィィィ!!!!!!』
うおっヤッバイ!こっちに来たか!
背後にたつきちゃんと織姫ちゃんの体があるから避けるわけにはいかない、それにシールドは織姫ちゃんに張ってるしなぁ…。
両腕を霊圧で固める。防ぎきれるかな?
『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』
さぁこい!
いや、出来ることならばこないでいただきたい!
<<来ます!黒崎一護です!>>
『させねぇよ!』
ガキィン!
「一護クン!ナイスタイミング!」
今まさに受け止めんとした瞬間、死神化した一護クンが現れて斬魄刀でホロウの攻撃を防ぐ!
正直な話ちょっと怖かったので有難い。
タイミング的にも主人公っぽいぞ!
『黒崎くん!?』
『今度は死神かぁ!』
「え?一護がいるの?優姫?」
三者三様のリアクションだねぇ。
やっぱりたつきちゃんには見えないか。
っと!今のうちに織姫ちゃんの方に移動!移動!
「何をしている一護!早く虚の仮面を斬れ!」
『わかってる!』
『ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
『うおッ!』
仮面を叩き斬ろうとした一護クンを豪快なスイングで吹き飛ばすホロウ。
壁に穴あけて吹っ飛んでいく霊体ってどうなんだろう。よくわからん。
だが一護クンも負けたものではない、一撃を喰らう前に仮面の上半分を斬り飛ばしていった。
「優姫!?壁に穴が!」
「ごめんねたつきちゃん、ちょっと今お取り込み中なんだ…バケモノ倒すまでもう少し待っててね」
たつきちゃんと織姫ちゃんの体を抱えてシールド裏到着。
霊力で体を強化しても力を抑えたノーマル状態だとやっぱ疲れる。
『優姫ちゃん!たつきちゃんは大丈夫!?』
「大丈夫、でもちょっと頭を打ったみたい」
さーて一護クンが戻ってくるまで2人を守りきるとしますか。
と思ったら井上兄が織姫ちゃんに向かって話し始めた。一部仮面が剥がれて理性が多少戻ったか?
時間稼ぎにもなるし好きに喋らせておこう。
『織姫…本当に忘れてしまったのかい…俺だよ織姫…』
『お兄…ちゃん…!?』
『ああ、そうだよ織姫』
『本当に…お兄ちゃんなの…?』
『本当だとも』
『それじゃぁ何で優姫ちゃんやたつきちゃんや黒崎くんに酷いことするの!?』
『何故かって?こいつらは俺とお前の仲を引き裂こうとしたからさ!』
『えっ?』
『俺が死んでからお前はずっと俺のために祈ってくれていたね…。俺はそれが凄く嬉しかったんだ…。』
『それじゃあどうし…て』
『でもお前はそれからしばらくしてこの糸井優姫に出合った。そして次第に祈る回数は減っていき…
この女に様々な人間と引き合わされてからというもの、それは目に見えて減っていった!
そして今はどうだ!多くの人間に囲まれたお前は俺のために祈ること自体をを止めてしまった!
俺はこの女が憎い!この女さえいなければお前は…!俺のことを忘れていくお前を見るたびに俺は淋しさの余りお前を何度も殺…』
良くもまぁここまで恨み言を…ん!?一護クンが戻ってきたか!
そしてヒートアップしている井上兄の後ろから奇襲をかけようとする一護クン!
いいぞ!やってしまえ!
『邪魔だといっただろうが死神ィ!』
だがしかし尻尾で壁に叩きつけられる!あー!惜しい!
つーか俺そこまで恨まれてたのかよ!怖いぞ井上兄!道理で真っ先にこっちに来るわけだ。
思わず織姫ちゃんの手を握る。俺なら霊体にも触れるしな。
『さぁ…一緒に行こう…あの頃のように2人で暮らそう…』
『どうして…淋しかったなら言ってくれれば良かったのに…あたしのお兄ちゃんはこんなことする人じゃなかったのに…!』
『何を言う!俺をこんなにしたのは誰だと思ってるんだ!お前だろうが織姫!殺してやる!殺してやるぞぉ!』
ブチ切れて俺のシールドを力任せに殴りつける井上兄。
ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!
ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!ガギィン!
うおっ!透けて見えるから迫力凄いな。
恐怖のためか握っている織姫ちゃんの手に力がこもる。
「大丈夫、私がシールド張ってるから攻撃は届かない」
『う、うん!』
<<ですが、シールドの損傷率が高いです>>
スピカの言うとおり、今、外部に俺の霊圧を悟られるのはマズイからそこまで力を込めておらず本来の強度は無い。
クソッ!段々辛くなってきたな!もうバレるの覚悟で倒すか!?
『バカか手前ェはぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!』
と思ったら一護クンが先に切れた。
瞬時に尻尾や腕を斬魄刀でバラバラに斬り刻む!
おお!怒りで霊圧が上がってるし!主人公過ぎるぞ!
『兄貴ってのはなぁ!弟や妹を守るために産まれてくるんだよ!その兄貴が妹に向かって“殺してやる”だなんて死んでも言うんじゃねェよ!!!』
カッコイイっス一護さん!マジ一生ついていくっス!
斬魄刀突きつけてかっこいいセリフ言うと決まるね!
そして俺一気に緊張感失せた!アハハ!
『黒崎くん…』
『何故だ!なぜ邪魔をする!織姫は俺が18の時からあの最低な両親から引き離し育て続けてきた!
二人きりでずっと生きてきた!貴様らなどに渡すものか!織姫は俺のものだ!』
そう叫び一護クンを噛み殺そうと大きく口を開け飛び掛る井上兄。
しかしもはや死に体だ、斬魄刀でガッチリ受け止められる。
『ふざけんなよ…井上は誰の物とかそういうことじゃねえだろうが!』
『俺のものだ!俺は織姫のために生きた!だが織姫は俺のために生きてはくれない!ならばせめて…俺のために死ぬべきだ!!!』
「黙れゲス野郎!誰がお前のために織姫ちゃんを殺させるものか!クズが!恥じて死ね!」
<<マスター!?>>
『優姫!?』
『優姫ちゃん!?』
『なんだと!?お前がそれを言うか糸井優姫ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!』
おっと、あまりの言い草に俺が切れてしまった。何やってんだ俺。
勢いよく反転してこちらに飛び掛る井上兄。怖ッ!
つーかこんな良い妹キャラを冒涜するんじゃねえよ!いい加減こっちもふざけた物言いにイラついてたところだ、一撃喰らわせてやるわ!
シールドを抜けて右手を霊圧で固める!
『優姫!』
『優姫ちゃん!』
「少しは織姫ちゃんの話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
顔面に向けて思いっきり、今のリミットかけた状態では全力の一撃を叩き込む。
飛び掛るホロウの巨体の勢いすら殺したそれは、硬質の仮面を粉々に打ち砕いた。
「織姫ちゃんが本当にお前のことを忘れきったと思うのか!それこそ兄失格だな!お前は今まで織姫ちゃんの何を見ていた!
織姫ちゃんがどれだけお前のことで悲しんできたのか分からないのか!お前の妹はそんな薄情な妹なのか!ふざけているのはお前のほうだ!」
最悪だ。
勢いに任せて思いっきり殴りつけた挙句、説教までしてしまった。恥ずかしい。これじゃまるでオリ主みたいじゃないか。
至急誰か俺を殴ってください。むしろこのことを忘れさせてください。かずいー記憶を消してーかずいー。
<<流石ですマスター!今のシーン、高画質モードで保存完了です>>
何してんだスピカァァァァァ!!!!!!
そういうのやめてって言ったでしょお!?
最近分かったけどスピカも若干天然のケがあるな!
チクショウ!これが世界の選択だと言うのか!
『優姫の言うとおりだ、井上がつけてるヘアピン、お兄ちゃんが初めてくれたプレゼントだから毎日つけてるって言ってたぜ』
『そうか…まだ持っていてくれたのか織姫…いや、俺だって本当は分かっていたんだ…お前が俺を心配させないために祈るのをやめたことは…』
『ゴメンねお兄ちゃん…悲しんでるところばかり見せちゃダメだってあたし思ってた。だから、あたしは幸せだよ!だから心配しないで!って見せたかったの』
『ああ…分かっていた…分かっていたんだ…これは俺のワガママだったんだ…』
仮面が砕けて理性を取り戻した井上兄。それに抱きつき思いをぶつける織姫ちゃん。
何だかんだで理想的な結果になったようだ。これで織姫ちゃんの気持ちも晴れてくれるかな?
『でも…それがお兄ちゃんを淋しくさせていただなんて思いもしなかった…』
『かまわないさ…死んだ人間に対してなんて、たまに思いだしてくれるくらいでちょうど良い』
『うん…ありがとう…大好きお兄ちゃん…』
あーやばい。今のセリフ録音しておきたかった。大好きお兄ちゃんだってさ!っていうかこういうシーンを保存してよスピカ。
にしても雰囲気台無しすぎるな俺。
決して泣きそうなのを誤魔化してるわけではないぞ。
<<ハンカチで拭いてはいかがですか?>>
違うよ!泣いてなんかねぇよ!心の汗だよクソッ!こういう場面はずるいぞ!
『すまなかった、糸井優姫、黒崎一護、そして俺の声は聞こえないだろうが有沢たつき』
「終りよければ全て善しってね、織姫ちゃんのことは私に任せなさい」
『まぁ気にすんな…仕事だしな』
『ああ、頼むよ。それでは黒崎一護、俺はまた正気を失う前に、この気持ちを失う前に消えておきたい』
『お兄ちゃん、もうさよならなんだね…』
『ああ、今度こそさよならだ。幸せにな、織姫』
『うん…。それじゃあ黒崎くんお願いします』
『いや待てよ!なにもそんな消えなくっても!』
井上兄が消えることに対して反対の一護クン。
気持ちは分かるがそれはそれでダメだろう。
「いいや、そいつの判断は正しい」
「ルキアちゃん!?」
ビックリした。
今まで何処にいたんだルキアさん。
影が薄すぎて全然気づかなかった。自然に絶状態になるのは俺だけにして欲しい。
「一度虚になったものは元に戻れぬ。そのまま消えさせてやれ」
『でもよ!』
「案ずるな。虚を斬ることは殺すことではない。罪を洗い流すということだ。そして尸魂界に行ける様にするのが我々死神の仕事なのだ」
『そう…だったのか…分かった。じゃあいくぞ、井上の兄貴』
あれ?もしかして説明不足ですかルキアさん。
そんな基本事項を今、初めて説明したねルッキーニ。
『それじゃあ…さよならだ織姫…』
───────── 織姫
あたしは、ずっと言いたかった言葉がある。
あの頃は学校で先輩にイジメにあって間もなくて、あの日お兄ちゃんが買ってきた花のヘアピンがなぜだか無性に気に入らなくて。
どうしようもなくストレスが溜まっていたあたしは、お兄ちゃんと生まれて初めてケンカをした。
初めて一言も話さずご飯を食べて初めて壁を向いて眠り。
そして、あたしより早く仕事に出かけるお兄ちゃんを初めて何も言わず送り出した。
何故あの日だったんだろう。何故あの日でなくちゃいけなかったんだろう。
その夜お兄ちゃんは事故にあった。
嫌な予感がして飛び出したあたしが見たのは血まみれで倒れているお兄ちゃんだった。
そしてお兄ちゃんを背負って近くの病院、黒崎医院に連れて行った。今思えばあの時が黒崎くんと初めて会ったときだったな。
けれども設備が足りないらしくて、大きな病院を手配してる間にお兄ちゃんは息を引き取った。
でも決して黒崎くんのお家は悪くない。あの頃のあたしがバカだっただけだ。
そして、言っていればどうにかなったわけじゃないけど、それ以来、あたしは言わなかったことをずっと後悔し続けてきた。
黒崎くんにあの世に送り出されるお兄ちゃん。
死んでもなおあたしのことを考えていてくれたお兄ちゃん。
次第に体が消えていくお兄ちゃん。
今が本当に最後なんだ。
これがあの時言えなかった言葉を伝える、最後のチャンス。
だからあたしは笑顔で言う。あの時言えなかった、伝えることが出来なかったいつもの言葉を。
『お兄ちゃん……いってらっしゃい……』
『ああ…いってくるよ。織姫』
そう言ってお兄ちゃんは笑顔で消えていった。
バイバイ、大好きなお兄ちゃん。