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No.5286の一覧
[0] 恋姫語  (習作:恋姫無双×刀語 ちょっちオリジナル&戯言シリーズ含む)[落鳳](2010/01/03 23:15)
[1] 恋姫語第1話<否定>[落鳳](2008/12/21 15:42)
[2] 第2話<初陣>[落鳳](2008/12/23 15:53)
[3] 第三話「虚刀乱舞」[落鳳](2008/12/28 19:35)
[4] 第4話<県令任命>[落鳳](2009/10/07 23:32)
[5] 第5話<天命王道>[落鳳](2009/01/18 23:49)
[6] 第6話<日和快晴>[落鳳](2009/01/15 21:35)
[7] 第7話<日和落陽>[落鳳](2009/01/25 23:56)
[8] 第8話<剣槍演武>[落鳳](2009/02/11 21:22)
[9] 第9話<連合結成>[落鳳](2009/02/22 21:45)
[10] 第10話<汜水関決戦・前編>[落鳳](2009/03/29 00:18)
[11] 第11話<汜水関決戦・後編>[落鳳](2009/04/05 22:35)
[12] 恋姫語オリジナルキャラ設定[落鳳](2009/04/05 23:19)
[13] 第12話<天下無双・前編>[落鳳](2009/04/27 23:01)
[14] 第十二話<天下無双・中編>[落鳳](2009/05/06 15:36)
[15] 第12話<天下無双・後編>[落鳳](2009/05/25 23:27)
[16] 第13話<百花繚乱>[落鳳](2009/06/20 22:14)
[17] 第14話<洛陽事情>[落鳳](2009/07/19 23:01)
[18] 第15話<人形演武・前篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/08/03 23:31)
[19] 第15話<人形演武・中篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/09/05 11:07)
[20] 第15話<人形演武・後編その1>[落鳳](2009/10/06 23:05)
[22] 第15話<人形演武 後編その2>[落鳳](2009/11/03 23:31)
[23] 第16話<乱世開幕>[落鳳](2009/12/20 23:02)
[24] 恋姫語17話<日常平穏>[落鳳](2010/01/03 22:00)
[25] 恋姫語18話<怪力乱心>[落鳳](2010/01/11 22:50)
[26] 第19話<怪力合戦>[落鳳](2010/02/14 22:08)
[27] 第20話<殺人定義>[落鳳](2010/02/27 14:35)
[28] 第21話<花蝶乱舞・前篇>[落鳳](2010/03/24 23:10)
[29] 第21話<花蝶乱舞・中編>[落鳳](2010/04/07 20:43)
[30] 落鳳寄道嘘予告①<悪鬼語>[落鳳](2010/04/24 22:42)
[31] 第22話<花蝶乱舞・後編>[落鳳](2010/04/30 23:51)
[32] 恋姫語23話<風林火山>[落鳳](2010/05/16 22:53)
[33] 第24話<信念相違>[落鳳](2010/07/27 23:15)
[34] 第25話<同盟申請>[落鳳](2010/08/29 21:05)
[35] 第26話<恋娘暴走>[落鳳](2010/09/23 23:34)
[36] 第27話<張遼跋扈>[落鳳](2010/10/31 23:26)
[37] 第28話<火艶槍聖>[落鳳](2010/11/23 23:22)
[38] 第29話<回天流浪>[落鳳](2010/12/05 01:27)
[39] 第30話<裏切同盟>[落鳳](2010/12/31 22:00)
[40] 第31話<戦線崩壊>[落鳳](2011/01/10 17:34)
[41] 第32話<百万一心>[落鳳](2011/02/28 23:18)
[42] 第33話<許昌強襲>[落鳳](2011/03/31 21:04)
[43] 第34話<策謀暗躍>[落鳳](2011/04/30 17:30)
[44] 第35話<許昌決戦その1>[落鳳](2011/05/29 20:01)
[45] 恋姫語番外編 オリジナルキャラ設定集[落鳳](2011/07/31 20:59)
[46] 第36話<許昌決戦2>[落鳳](2011/08/28 22:58)
[47] 第37話<許昌決戦その3>[落鳳](2011/10/30 22:24)
[48] 第38話<許昌決戦―禅譲快諾―>[落鳳](2011/12/23 23:51)
[49] 第39話<黒幕来々>[落鳳](2012/02/29 23:28)
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[5286] 第26話<恋娘暴走>
Name: 落鳳◆e7589d1d ID:921073e0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/23 23:34
「いやっ!!絶対に、シャオ、嫌だからね!!」
「我儘を言うな、小蓮…鑢軍との同盟には、どうしても、必要なことなんだ」

 涙目で訴える孫権の妹である孫尚香(真名:小蓮)の激しい怒りを伴った拒否の言葉に、孫権は、物憂げな顔で、只管宥めるしかなかった。
 無理もない―――尚香を宥める孫権は、チクリと胸が痛んだ。
 いくら、鑢軍との同盟締結を強固とするためとはいえ、年端もいかない妹である尚香を、政略結婚の道具として、鑢七花に差し出すなど、尚香本人は、もちろんのこと、建前上はともかく、本心では、孫権や他の重臣達も大反対だった。
 しかし、鑢七花との婚姻を提案した張本人である、呉の名軍師:周愉の一言が、孫権や他の重臣達を黙らせることになった。

「なら、このまま、先代当主の築いた呉を失ってもよろしいというのですね」

 先代当主―――すなわち、孫権の姉である孫策は、呉の礎を築いた人物であり、呉に住む全ての臣下にとって、特別な存在だった。
 そして、孫策の名を出された以上、反対していた孫権や重臣達はもちろんのこと、尚香も押し黙るしかなかった。

「ずるいよ…雪蓮(孫策の真名)お姉ちゃんの名前出すなんて…」
「…恨んでくれても構いません。ただ、私は、呉の為に、最善の策を取ったまでです」

 もはや恨みがましく、周愉を睨みつけるしかない尚香の、普段からは想像できないほどの弱弱しい言葉を受けながら、周愉は、話はすんだと言わんばかりに、堂々とその場を後にした。
 自分の後ろから突き刺さるようにぶつけられる、怒り、哀しみ、困惑の視線を受けながら―――。

「そう、私はいつだって最善の道を選んできた。そういつだって―――」

 唯一無二の友である雪蓮の為に、最善の道を選んできた―――!!
 小さくそう呟きながら、周愉は、対魏軍における、次なる策を講じることにした。
 いよいよ、呉の勢力が動き出したところで、恋姫語はじまり、はじまりv


                          第26話<恋娘暴走>


 数日後、曹操の本拠地である許昌を目指す鑢軍は、魏領内へと秘密裏に侵攻していた孫権率いる呉軍と合流していた。
 目的はもちろん、待ちかまえているであろう曹操率いる魏軍との戦に向けての話し合いと七花の嫁になるであろう孫尚香との見合いだった。
 そして、現在、本陣において、鑢軍の双当主である七花と桃香、正軍師の朱里が、呉の当主である孫権と、その妹である尚香と、呉の副軍師である陸遜と、会談兼見合いの為に、顔を合わせていた。

「反董卓連合以来だな…鑢七花」
「…えっと、孫権だよな?」
「ああ、そうだが…何で、疑問文なんだ?」
「いや、あの時、そんなに話した訳じゃなかったから、あんまり印象に残ってなかったんで、顔忘れた…すまねぇ」
「…普通、本人の目の前で、それを言うか」

 最初から、同盟決裂の危機勃発だった。
 これから結婚するであろう見合い相手の姉である孫権に対して、罰悪そうに七花は、孫権の顔を忘れたとあっさりと答えた。
 これには、さすがの孫権も呆れるしかなかったが、無理矢理決められた結婚ということもあり、七花に対し、いい感情を抱いていなかった尚香にとっては、呆れ以上に怒りさえ抱いていた。

「…何で、こんなのと、見合いしなきゃいけないのよ」
「うわぁ…無茶苦茶気まずいよ…ご主人様ぁ…」
「はわわ…ご主人様、かっこ悪すぎです…」
「うーん、これは、どうしようもないですねぇ…」

 予想以上に気まずい空気に、冷汗を垂れ流す桃香らに対し、このままでは、不味いと思ったのか、やれやれと首を振りながら、孫権は、話を切り出すことにした。

「一応、我が呉は、鑢軍と同盟を組み、共通の敵である魏を討つという事だが…こちらで、動かせるのは、五千の兵だけだ。さすがに、呉を守る兵力まで裂くわけにはいかないからな」
「それだけでも、充分だよ。なぁ、朱里」
「はい、ご主人様。今の拮抗状態を崩すには、充分すぎるほどの戦力です」
「皆で、頑張ればなんとかなるよ、孫権さん」
「そうか…すまない…」

 快く受け入れてくれた七花、朱里、桃香の3人に対し、孫権は俯きながら、小さく謝罪の言葉を口にした。
 実を言えば、現在の呉が保持している戦力ならば、もっと多くの兵を援軍に回すこともできたのだが、出来うる限り、呉の兵力を消耗しないようにと、周愉により、この兵力なら鑢軍が魏に辛うじて勝てるであろうと、ギリギリの兵力しかださなかったのだ。
 これには、孫権も内心不満に思ったが、君主としての判断から、自国の兵士を犠牲にする訳にもいかず、周愉の案をしぶしぶ受け入れるしかなかった。

「ところで、朱里ちゃん。魏軍の方はどうなっているの?」
「…現在、私達が目指している曹操さんの本拠地である許昌には、魏領全土に発した動員令により、各地から多くの兵力が集結しています。あくまで、これは予想ですけど、少なく見積もって、孫権さんの援軍を含めても、こちらの兵力の倍を超えると思われます」
「うーん…数の上では負けているわけなんだね…」

 朱里の報告に、顔を曇らせる桃香であったが、朱里は笑みを浮かべながら、首を振った。

「弱気じゃだめですよ、桃香様。将の質については、こちらのほうが上です。数で負けていても、戦い方次第では、こちらに充分勝機があります。そして、恐らく、戦場となるのは、許昌からほど近いこの平原だと思われます」

 何もない平原―――すなわち、策には頼らず、真っ向勝負でしか決着をつける腹積もりなのだ。
 確かに、鑢軍の必勝手ともいえる奇策を封じこめる場所としては最適の地形であるだろうが、そうは、問屋は降ろさない。

「でも、そう簡単に上手くいくと思ったら、大間違いです。真っ向勝負なら、こっちだって、負けていません」
「―――俺の出番って訳だな」

 相手の目論見を読んだ朱里の言葉に、真っ向勝負においてこそ最大の力を発揮するであろう刀―――七花は、静かにうなずいた。



―――許昌

「―――と僕達が真っ向勝負を挑んでくると、鑢軍は思っているんだろうね」

 来るべき鑢軍との決戦に向けて、軍議に集まった全員の前で、双識はそう発言した。
 いよいよこの時が来た―――君主である曹操を含めた全員が双識の言葉にうなずいた。
 窓の外から見える許昌の城外では、次々に兵士達が列をなして、入城し、既に、許昌には、魏の領土から集まった兵士達が続々と集結していた。

「恐らく、これほどの規模の軍を動かすのは、これが最初で最後になるでしょうね」
「これだけでも、物量戦で充分勝てると思うんだけど…変態のやることは…」
「でも、今回の戦いは兵士の数で決する正々堂々真っ向勝負―――というわけじゃないんですよね~双識さん~」
「そういうこと。向こうが真っ向勝負を挑んでくると思っているなら、僕の策も十分通用するはずだよ」

 不敵な笑みを浮かべる程昱の言葉に、双識はにこやかに頷いた。
 とりあえず、郭嘉と筍彧は難色を示したものの、程昱や司馬懿、そして、曹操の賛成により、鑢七花を倒す事を念頭に置いた、双識の策を方針に、魏軍は兵を動かしてきた。

「期待しているぞ、双識。これまで、煮え湯を飲まされた分をまだ、充分返していないからな」
「ま、おもろない輜重部隊相手にやりおうたんや。その鬱憤はらせるようたのむで」
「了解したよ。じゃ、アスや皆も、それでいいよね」

 曹操配下の将達も、この時を待っていたのだ。
 冷静を装っているが、初戦において、姉である夏侯惇を返り討ちにした鑢軍に逆襲をしたくてたまらない夏侯淵や、ゲリラ戦とはいえ、歯ごたえのない輜重部隊を相手に鬱憤が溜まっていた張遼。

「構わないちゃ。今回は、レンの指示にしたがうちゃよ」
「了解です、隊長」
「いちかばちかの大博打か…おもろいことこと考えるな、隊長」
「任せてなの~v」
「よぉし!!思いっきり倍返しにしてやるんだから!!」
「うん、そうだね!!」

 家族の仇を討てる機会が巡り、気合の入る軋識、双識直属の部下である、気を使った格闘戦を得意とする楽進、螺旋錐を装着した槍などの発明品で敵を翻弄する李典、部隊の雰囲気を作る事に長けた于禁、そして、華琳の親衛隊を務める許緒と典韋。
 そして―――

「ふん、腕が鳴るぞ!!初戦での借りをようやく返せるときが来たのだからな!!」
「「「「「「「「「…」」」」」」」」
「な、何だ!?その白けたような態度は!!何か、私が悪いことでも言ったか!?」

 ―――何故か、<え、何で、あんた、ここにいるの?>という感じで、皆から、すっごい白い目で見られ、思わずうろたえる夏侯惇がいた。

「…何を、勝手に、軍議に参加しているのかしら…<兵卒>の春蘭?」
「う…」
「そういや、夏侯惇さんは、初戦で大ボケやらかして、罰として、この戦終わるまで、ずっと兵卒やってたんですぅ~すっかり、忘れてたですぅ~」
「ぐっ…痛いところを…」

 呆れながら、厳しい口調で曹操に問い詰められ、言葉を詰まらせる夏侯惇に対し、司馬懿は、わざとらしい位、大きな声で、夏侯惇の、心の傷に荒塩を練りこむように、指摘した。
 恨めしげに、司馬懿を睨みつける夏侯惇だったが、覆せない事実だった。
 鑢軍との初戦に於いて、軽はずみな行動で、負け戦をしたため、その責を問われ、夏侯惇に処分を下そうとした際に、司馬懿が提案したのは、鑢軍との戦が終わるまで、兵卒のまま過ごすというものであった。
 最初は、軽い冗談程度に受け止めていた夏侯惇であったが、粗末な兵卒の装備を手渡され、兵卒らのいる野営地に放り出された事で、曹操らが本気である事に気付き、今日にいたるまで、臥薪嘗胆の思いで、兵卒として活動していたのだ。

「そ、それが、どうした!?鑢軍との最終決戦なんだぞ!!そんな細かい事を気にしている場合じゃ…」
「駄目よ。それじゃあ、他の者たちの示しにならないでしょ。鑢軍との戦が終わるまで、兵卒よ」
「そ、そんな、華琳ざまぁ~」
「仕方あるまい。あれは、弁護しようもないからな」
「秋蘭…お前まで…」
「う~ん、可愛そうだけど、仕方ないよね、これ。罰ゲームみたいなもんだから」
「ぞうじぎいいいいいいいいい!!いごぐのごどばで、ごまがずなぁあああああ!!うわぁあああああああん!!皆、だいきっらいだぁあああああああああ!!華琳さまは、大好きですけど!!」

 え、何、これって、虐めではないか―――!!
 あまりにも、皆から要らない子みたいに扱われ、フルフルと体を震わせた夏侯惇は、大声で、捨て台詞を吐き、大泣きしながら、扉をぶち破って、逃げるように出ていった。

「…泣いて出ていちゃったね」
「悪乗りしすぎたか…あれで、姉者、結構繊細だからなぁ…」
「まあ、戦終わった後に、可愛がってあげれば、すぐに立ち直るわよ。とりあえず、軍議の続きをしましょう」

 そんな夏侯惇の姿を見て、双識や夏侯淵らは、さすがにからかい過ぎたかと、少しばつ悪そうな顔で、苦笑するしかなかった。
 まぁ、いじめっ子気質な曹操にしてみれば、あれぐらいすぐに立ち直るだろうと、気にすることなく、軍議の続きをしたわけなのだが・・・

―――鑢軍本陣・七花の天幕

「はぁ…さすがに、今日は大変だったぜ…」

 同盟者である孫権との会談兼、尚香との見合いを終えた七花は、政治的な駆け引きや対魏における軍略の打ち合わせなど、慣れない仕事をこなした故なのか、くたくたになりながら、自分の天幕へと戻っていた。
 もっとも、一番の原因は、尚香との見合いにおいて、二人きりになった際、無理矢理取り決められたとか、華がない奴などと、尚香から終始愚痴を聞かされる羽目になった事であろうが…

「まさか、見合いってのが…こんなに大変なものだとは、思わなかったぜ…ん?」

 誰かいる―――天幕に入った瞬間、人の気配を感じ取った七花は、曲者かと思い、すぐさま戦闘態勢に移れるように、身構えた。
 しかし―――

「ご主人様、帰ってきたの…?」
「―――って、恋じゃねぁか。どうしたんだよ、こんなところで」

 ―――気配の正体が、薄暗い天幕の中で、俯きながら立ち尽くしていた恋だと分かると、七花は、すぐさま、構えを解いた。
 とここで、恋は、俯きながら、七花に近づき、静かに尋ねてきた。

「ご主人様、教えて…呉のお姫様と結婚するって、ほんと?」
「ああ、そうだけど…!!」

 恋の問いに戸惑いながら、答える七花だったが、次の瞬間、今まで俯いて見えなかった恋の顔を見て、七花は思わず、目を見開いて、驚く事になった。
 泣いていた―――普段から感情をあまり表に出さない恋が、まっすぐに七花を見ながら、悲しげな表情で涙をポロポロ流しながら、泣いていたのだ。

「お、おい、恋、どうかしたのかよ?えっと、喰い過ぎか!?それとも、なんか変なもんでも喰ったのか!?腹痛いなら、すぐに医者に…」
「…違う」

 突然の事に、慌てふためきながら、なんか腹でも痛めたのかなと、極めて見当違いな勘違いをしつつ、医者に連れていこうとする七花であったが、恋はフルフルと首を横に振りながら、否定した。
 そして、七花を指さすと、つらそうにつぶやいた。

「ご主人様のせいだよ…」
「え?」
「…ご主人様が、呉のお姫様と結婚するって聞いてから、ずっと胸が痛い…。何でか分からない。でも、ご主人様の事を考えると、締め付けられる。ずっと痛みが止まらない…前は、こんなこと、なかった…」
「…」

 涙を流したまま、恋は、ぽつりぽつりと呟くように、自分の胸の内を、呆気にとられた七花に静かに、しかし、はっきりとぶつけた。
 対する七花は、恋の言葉にただ押し黙ったままだった―――否、押し黙るしかなかった。
 今の七花は、完成型変体刀を蒐集していた最初の―――まるで人間味の無い刀だった頃に比べれば、人間らしい感情や感性を持つようになった。
 しかし、それでも、恋愛に関してだけは、まだ、七花は、普通の人間から見れば、未成熟であった。
 確かに、七花がとがめに惚れていたのは事実だ。
 しかし、とがめに対する七花の気持ちは、恋でも愛でもない故の未成熟さ―――そうでなければ、すぐさま気付いていたはずだ。
 ―――恋は、自分の感情に分からないながらも、無意識に恋であり、愛でもある感情で、七花に惚れているのだと。

「…駄目。一緒じゃなきゃ駄目!!だって、だって…恋が最初にご主人様に惚れたんだから!!」
「恋…俺は…」

 ほとんど泣き叫ぶように、胸の内を吐き出しながら、七花を抱きしめる恋。
 そんな恋を振りほどく事が出来ず、ただなされるがまま、どうしていいか分からず戸惑う七花。
 そして―――

「やっちゃえ、セキトっ!!」
「がふっ!!」
「?」
「へ?何だ、こりゃぁ!?ふ、ふりほどけねぇ!?」

 ―――いきなり、投げつけられた網によって、七花と恋は、まとめて捕らえられて、まったく身動きが取れなくなった。
 何事かと見れば、そこには、網を投げつけたと思われる張本人…もとい熊であろうセキトと、これでもかというくらい、自信満々に得意げな顔をする尚香がいた。

「…誰?」
「あんた、確か、孫権と一緒にいた―――」
「尚香よ。…何だか、騒がしいから覗いてみたんだけど…まさか、恋人がいたなんて…」
「いや、恋人って…というか、何で、セキトまで!?」
「あ、ついさっき、覗いているときに、知り合って、友達になったの」
「ああ、そうなのか…で、これはどういう事なんだよ?」

 いきなりのことに首をひねる恋を庇いつつ、恨みがましく半眼になりながら、尚香に説明を求める七花だったが、当の尚香は、七花を睨みつけながら、こめかみをひくつかせ、キレ気味になりつつ、怒鳴りつけた。

「どういう事って…ちゃんとした恋人いるのに、他の女の子を嫁に貰うって、どういう神経してるのよ、あんた!!」
「えぇ!!でも、嫁にやるって言ったのは、そっちじゃ…」
「言い訳しないの!!この甲斐性なし!!少しは、気合をみせなさいよ!!」

 まぁ、尚香が、七花に対し憤りを感じるのも、女としての考えからすれば、無理からぬことだろう。
 好きでもない男と結婚せねばならないというだけでも、不満なのに、その相手には、実は、恋人(と尚香は思っている)らしき相手がいたのだ。
 これでは、怒るなと言う方が無理というものだ。

「もういいわ。ねぇ、あんた、こいつと私が結婚するのが、嫌なんでしょ?」
「…うん」
「…分かったわ。なら、やる事は一つ―――」

 恋する乙女を応援する者は、時として、常人の思いつかない解決策を思いつくものである。
 それは―――この瞬間でも当てはまる事であった。
 尚香は、自信満々の笑みを浮かべながら、自分と七花が結婚せず、尚且つ、七花と恋が一緒になれる最善の方法を提案した。

「あんた達、二人―――いますぐ駆け落ちしちゃいなさい」
「…?」
「!?」

 ―――鑢軍と呉軍にとっては、最悪の方法と言えなくもなかったが。


 一方…

「ううう…兵卒の何が悪いんだぁ~こっちだって、大変なんだぞぉ~」
「ああ、もう…夏侯将…じゃなくて、元さん、機嫌直しなよぉ…後、声、大きいよ」
「まあ、そりゃ、無理ねぇけどな」
「なんつうか、気の毒すぎて、笑えねぇっす…」
「…泣きたくなるんだなぁ」

 物陰に、じっと身を隠し、鑢軍の陣を偵察する5人の人影があった。
 それは部隊長の命を受けて、鑢軍の偵察に向かった5人組―――グスグスと真っ赤に目をはらして、未だ泣きじゃくる兵卒の夏侯惇、そんな夏侯惇を慰める兵卒仲間の山隆、落ちぶれた夏侯惇の姿に、自分たちの境遇を重ねたのか、心の底から同情する、最近になって魏へと流れ着いたアニキ、チビ、デク―――元盗賊三人組であった。

「うう…せめて、手柄さえ、手柄さえ立てれたなら…」
「まあ、俺等、下っ端にそんな機会は滅多にねぇんだけどなぁ…」
「はっははは…まあ、気長に待ちましょうや―――ん?おい、何か様子が変だぞ」
「む、あれは…!?」

 膝を抱え込んで落ち込む夏侯惇や、それにつられて愚痴をこぼすアニキの姿に苦笑しつつ、ひとまず鑢軍に動きはないか、陣を見張る山隆であったが、ふと、陣を抜け出し、熊の背にまたがる者と、熊の背に乗せられ、何か素巻きにされて身動きの取れないでいる者の姿を見つけた。
 つられて、夏侯惇もすぐさま、その様子を窺った瞬間、月明かりで見えたモノに、思わず声をあげそうになった。
 月明かりにさらされた、その素巻きにされて身動きの取れない人物―――鑢軍の総大将である鑢七花その人であることに気付いて―――。

「私にも手柄を立てる機会が来た…!!」

 私の時代が来た―――偵察任務である事も忘れ、脱・兵卒を目論む夏侯惇が、山隆達を巻き込んで、恋によって連れて行かれる鑢七花を独断で、追跡する事は、無理からぬことだったかもしれない
 とにもかくにも―――魏との決戦むかえた次の日、鑢軍の将達は、総大将である七花の不在という事実に騒然とする事になった。


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