―――軍議室
「なるほどね…さしもの白馬義従も、10万という兵力差を覆せず、うちに落ち延びてきたと」
「恥ずかしながら、そういうことだ…」
落ち延びてきた公孫讃から事情を聞いた否定姫は、やっぱりと心の中で頷いた。
袁紹軍の怪しい動きがあったのは、密偵としてはなった蝙蝠と狂犬からの言伝で、袁紹の領地で、多数の兵の徴収や武器を大量に購入しているという情報から、ある程度把握していた。
その事をあえて、公孫讃や桃香らに伝えなかったのは、公孫讃らにある程度時間稼ぎ並びに袁紹の兵力を削るためだったのだが―――予想以上に充分時間は稼げた。
「とりあえず、白蓮ちゃんが、無事でよかったよ…」
「そうね。これで、こっちにも勝機が少しは見えてきたわ」
純粋に、公孫讃…真名:白蓮が無事であったことを喜ぶ桃香に対し、否定姫は何か含んだものがある口ぶりで笑みを浮かべ呟いた。
このとき、否定姫の表情に気づいた星は、やはりという顔で、否定姫に尋ねた。
「ほう、勝機…否定姫殿、やはり、袁紹軍はこちらに攻めてくると読みますか?」
「当然。あの手の手合いというのは、一度勢いに乗れば、そのまま一気に突っ走るわ。必ず、次はここを狙ってくるわね」
「私も、否定姫さんと同じ意見です。兵力では、圧倒的に、袁紹軍が有利です」
「多分、白蓮さんのついでに、こちらに侵攻してくるかと…」
「要するに、おまけみたいなもんか…」
否定姫、朱里、雛里の意見を聞き、七花はうんざりした顔でつぶやいた。
公孫讃の本拠地に引き続き、幽州を一気に目指す露骨な進攻は、鑢軍がいかに、袁紹に、侮られているが分かる。
これには、七花でなくとも、鑢軍のほとんどの将が内心憤慨しているはずだ。
「でも、どうするのだ?向こうの方が、数が多いから、鈴々たちの方が不利なのだ」
「確かに、鈴々の言うとおりです。袁紹軍の兵力が10万に対し、こちらは5万がやっとです。さすがに、倍近くの兵力では、こちらに勝機は…」
しかし、現実として、このまま袁紹軍と戦うには、やはり厳しいものがある。
鈴々や愛紗の言葉通り、袁紹軍は、今回の遠征で、自領で徴集した10万人の兵士と名門袁家という肩書で招いた有力な人材、惜しげなくつぎ込まれる膨大な財産を武器に、公孫讃の領地を蹂躙し、奪い取った。
人材面ではともかく、兵力と財の差―――この二つだけとっても、鑢軍が圧倒的に不利だ。
しかし…
「否定する。愛紗、兵力が多いから不利ですって?」
否定姫だけは違っていた。
兵力の差がありすぎる?圧倒的な物量戦に持ち込める財?だから、不利?
笑止千万。
ならば、私はそれを肯定せず、否定する!!
現実も、現状も、現象も―――限界も限定も限外も、ありとあらゆる森羅万象を否定する。
粋な世界に無粋な言葉で持って穴をあける。
例外なくすべてを否定する。
故に―――
「向こうの兵力が多いからこそ、こちらに有利じゃないわけないわ!!」
私は、袁紹軍が勝つのを、全力で持って否定する!!
否定姫の言葉とともに、いよいよ、袁紹戦も開幕ということで、恋姫語、はじまり、はじまり。
恋姫語18話<怪力乱心>
「おーほっほっほっほ!!弱い、弱すぎますわ!!噂の鑢軍とやらも大したこと、ござまいませんわね!!」
一方、白蓮の領土を落とした袁紹率いる軍勢は、圧倒的勝利の勢いに乗ったまま、次の侵略対象である鑢軍の本拠地がある幽州へと侵攻していた。
袁紹の中では、反董卓連合での戦のおりに、散々自分を馬鹿にしたあの女―――否定姫に苦渋を味わせることができると、意地の悪い感情をため込んでいた。
「…まだ、支城の一つか二つ落としただけじゃん」
「それに、姫はずっと突撃としか言ってないし…」
「やかましいですわ。それ以上、騒ぐと、おしおき…」
対する、袁家の誇る二枚看板である、顔良と文醜は、ただ苦笑するしかなった。
本当なら、公孫讃の領地を落とした時点で、引き返すはずだったのだが、「ついでに、鑢軍のいる幽州を落とそう」との一声で、急遽、幽州まで攻めることになったのだ。
さすがに、これには、顔良も文醜も反対はしたのだが、袁紹のいうところの<おしおき>が嫌で、しぶしぶ従うことになった。
と、袁紹が、ぶつくさ言う顔良と文醜に対し、脅しをかけようとした時、それを止める者たちが現れた。
「ですが、お嬢様。お二人の言葉ももっともかと」
「まぁ、そうだな。落とした支城は、いずれも、引き払った後。まだ、一戦も交えていない以上、多少は、慎重にすべきだろう」
「むっ…」
背後から掛けられた声に、忌々しげに眉をひそめた袁紹が振り返ると、予想通りの二人が控えていた。
1人は、時代錯誤ともいえる足首まで隠れる長いスカートのメイド服を着た長身白髪の女性―――袁紹専属の従者長で、袁紹と幼いころから付き合いのある田豊(字は元皓)と、そして、もう一人は、細長く黒い風呂敷を抱えた線の細い華奢な青年―――最近、袁家に仕官した客将である張郃だった。
「反董卓連合の戦を聞く限り、鑢軍は、徹底して相手の裏をかくことに長けています。今迄のように、ただ突撃を繰り返すだけでは、悪戯に損害を増やすだけです。恐れながら、ここは一度、領地に戻り、慎重に相手の出方をうかがい、持久戦に持ち込むのが得策かと…」
「…っ!!そんな事、一々、忠告しなくても、分かっていますわ!!従者長の風情で、軍師の真似ごとで口を挟まないでほしいですわね!!」
一度、領地に戻ろうという田豊の進言に、袁紹は曹操との言いあいでも見せなかった怒りの表情で、田豊を睨みつけ、思わず忌々しげに声を荒げた。
かつては、まるで姉妹のように仲の良い幼馴染だったが、何時のころだったか、何故か、袁紹は、だんだんと田豊を疎ましく思うようになっていた。
「いやいや、さすがは、軍師として名高い田家の一人娘。従者長でありながら、中々の慧眼…まぁ、素人にしてはですがね」
「郭図様ですか。」
と険悪な雰囲気を立つように、馬の尾のように束ねた髪と、開けているのか閉じているのか分からないほどの糸目が特徴的な、ぼんやりとした青年―――袁家の正式な軍師である郭図が間に割って入った。
もっとも、本人の才覚によるものではなく、ひたすら袁紹に気に入れるために、媚を売ってきたことによるものなのだが…。
「いかに、相手の虚を突こうとも、この圧倒的物量を覆せるわけがないということですよ。こちらは、十万の兵力に対し、鑢軍は精々3,4万程度…いかに、小細工を弄そうと、こちらの勝利は揺るぎませんよ」
「ですが…」
「それに、これは、袁紹様の威光を知らしめるための重要な遠征。なのに、ここで、すごすごと、国へ戻れば、鑢軍がごとき、小国に恐れをなしたと、諸国の王らに思われかねません。それでは、意味がない。あくまで、堂々と悠々と鑢軍を打ち破ってこそ意味があるのですよ」
「…要するに、見栄で攻めてるだけか」
くだらねぇ、長話のオチだなと、吐き捨てるように呟く張郃に対し、郭図は見下すように、鼻を鳴らし、ねめつけた。
普段は余裕をもった態度で人に接するものの、それが人並み以上の自尊心の表れである郭図にとって、新参者でありながら、先輩である自分に敬意を払わない、張郃や、やたらと指図をする田豊は鼻もちならない奴として、認識されていた。
「私としては、味方の士気を落とすような真似をするあなた方こそ、自重すべきです。もっとも、聡明な麗羽様なら、どちらの意をくむかは迷うまでもないでしょうがね」
「と、当然ですわ!!田豊さん、張郤さん…これ以上味方の士気を下げるようでしたら、容赦しませんわよ!!」
「…分かりました。お嬢様。一介の従者長が出すぎた真似をしました」
「…分かればいいんです」
「では、私と姫様は、鑢軍についての対策を練ってきますので、悪しからず」
もはや、袁紹の意志は変わることがないのを悟ったのか、表情も変えず田豊は、袁紹に深く頭を下げた。
そして、何かを含むような言い方で、袁紹を促しながら、郭図はその場を後にした。
一度、袁紹が、相変わらず表情を変えない田豊を寂しげに見たが、苛立たしげに前を見ると、今度は振り返ることなく、その場を後にした。
「相変わらず、姫様って、田ねえちゃんには、厳しいんだから…」
「あの、元皓さん。元気出してください」
「気にしてはいません。確かに、お嬢様のおっしゃるとおりですから」
いつもの事とはいえ、袁紹の田豊に対する仕打ちに、顔良と文醜は慰めの言葉をかけた。
しかし、当の田豊は、いつものことだと、やはり表情を変えず、受け流すが…
「……なら、今、握ってる物騒なもん、降ろしとけよ。気持はわかるが…」
「…」
張郃の呆れたような言葉を受け、田豊は眼を手の方に向け、思わずはっとした。
いつのまにか、その場に置いてあった城門を破壊するための巨大な鎚を、軽々と<片手>でつかんでいた。
張郃の指摘を受けた田豊は無言であったが、内心を悟られたことに恥じ、そっと目をそむけ、足早にその場を後にした。
それを見送った張郃は、やれやれといった表情で、呟いた。
「…こりゃ、難儀な戦になりそうちゃね」
一方、白蓮が落ち延びてきて二日後、侵攻してくる袁紹軍を迎え撃つため、否定姫を中心に、朱里や雛里、そして、助人として詠や寧々を動員し、作戦の準備に取り掛かっていた。
また、愛紗や鈴々、星、そして、成り行きで鑢軍の配下となった白蓮らも、兵たちを引き連れ、戦の準備に取り掛かっていた。
そんな慌ただしい中…
「西涼の馬超に、馬岱ってのは、あんた、なんだな?」
「…」
「うん、そうだよ…」
七花の問いかけに、茶色がかった髪を馬の尾のように束ねた少女―――馬超と、サイドポニー気味に髪をまとめた少女―――馬超の従妹である馬岱はそれぞれ頷いた。
応対した門番によれば、今朝がた、数十騎の騎馬兵団がこちらに近づいてくるのを発見し、袁紹軍の先遣隊かとも思ったが、どうも様子がおかしい。
結局、門までやってきた騎馬兵団を指揮する将を確認したところ、西涼を治める馬謄の息女にして、錦馬超の異名をとる武将―――馬超と名乗り、七花に目通りしたいとの願いを受け、現在にいたるのだが…
「反董卓連合の時は、世話になったわね。で、何の用でここまで?」
「実は、あんたたちの力を貸してほしいんだ」
「…何かあったのか?」
「…実は―――」
馬超の話によれば、反董卓連合の戦が終わった後、突如、西涼に侵攻してきた司馬懿を総大将とした曹操軍の一派と衝突した。
一進一退の激しい攻防戦のすえ、一気に敵をせん滅せんと、司馬懿の策により、風上から、馬謄らのこもる砦に向かって、火をつけると猛毒の煙を発生させる夾竹桃を焚かれたのだ。
次々と毒の煙で兵らが倒れる中、煙がおさまると同時に、一気に曹操軍に攻め込まれ、毒の影響でまともに動けなくなった隙を突かれた馬謄は討ち死にし、なんとか、毒煙から逃れた馬超は従妹である馬岱と生き残った配下を引き連れ、ここまで落ち延びてきたのだ。
「まさか、曹操軍の勢力がそこまで延びていたとは…」
「驚くことじゃないわ、愛紗。袁紹らも動いている以上、曹操だってただのんびりしてるわけじゃないしね」
「だから、頼みがあるんだ!!あんた達の仲間にしてもらって、皆の仇を討ちたいんだ!!」
恥部外聞もなく、頭をこすりつけるように土下座する馬超に対し、七花は少しばかり戸惑った。
殺された家族の無念を果たすために…そうやって、復讐に生き、結局何も得られないまま逝った女を知っている。
故に、七花はどうしても馬超の頼みを断る気にはならなかった。
「…分かった。良いよな、桃香、姫さん」
「うん、当然だよ!!」
「ま、仇討ちうんぬんは、袁紹軍を追っ払ってからになるけど、構わないわね?」
許可を求める七花に対し、桃香は純粋な善意から、否定姫は有力な武将を引き入れるため、両者のベクトルは違えど、馬超らを仲間にすることに反対しなかった。
「ああ、すまない!!恩に着る!!これからは、私の真名…翠と呼んでくれ!!」
「ありがとう、ご主人様v私の真名は蒲公英。お姉ちゃんと一緒によろしくお願いします!!」
「うん、よろしくな。でも、ご主人様は勘弁してくれ…」
いい加減、ご主人様っていうのは止めてくれねぇかな―――何やら背筋に嫉妬の視線(この世にいない誰かの)を感じうなだれる七花だった。
―――軍議室
馬超<真名:翠>らの一件が終わった後、否定姫は、袁紹軍に潜り込んだ蝙蝠からの情報を携えた狂犬が戻ってくると、今後の作戦内容について話すため、皆を軍議室に集めた。
「んじゃ、早速だけど、狂犬。報告お願いね」
「あいよっと。んじゃ、蝙蝠からの報告なんだけど―――」
蝙蝠からの報告によれば、現在、袁紹軍は幾つかの支城を落としながら侵攻し、休憩をはさみつつ、およそ5日後に、十万の兵らを引き連れ、鑢軍の本拠地を攻め込む予定となっていた。
ただ、袁紹軍の中には、今回の急な幽州遠征に反対する一派と遠征続行を進言する一派とで、派閥争いが起きており、足並みが揃っていないことや、十万の兵といっても、その半数が領内からの徴兵した者たちであるなど、不安要素を抱えているとのことだった。
「っと、いう具合なんだけどさ。」
「なるほどね…さて、以上の事を踏まえた上で、私の意見を言わせてもらうわね」
狂犬からの報告を聞き終えた否定姫は、静かに頷き、立ち上がった。
普通の軍師ならば、圧倒的多数の敵に対して、こちらは城に立てこもり、籠城戦の持ち込み、敵の戦力を削り、好機を待つのだが―――
「まず、この街から北にある、この平野地帯に、我が軍の歩兵5万と騎兵5千を布陣させる。そして…侵攻してくる袁紹軍を迎え撃つわよ!!」
「「「「「…ぇえええええええええ!!!」」」」」
「な、何を考えているのですか!!」
思わず軍議の最中であることを忘れ、皆が驚きの声を上げ、愛紗が訝しがるのは無理もなかった。
狂犬の話を聞けば、倍近くある袁紹軍に真っ向から迎え撃つなど自殺行為としか思えなかった。
「何を?当然、あいつらに勝つ方法をよ。この日のために、ちゃんと、色々と小細工も施してあるわ。それに、折角、白蓮や翠、蒲公英達らの、最大の利点を生かすには、平野という地形がもっとも重要なのよ」
「…?」
「あっ!!」
「…それで、ここに布陣するんですね!!」
「なるほど。これなら、いけるわ!!」
「あれ、なんですね!!」
否定姫の言葉にはぐらかされたと思ったのか、顔をゆがめる愛紗だったが、それを遮るように否定姫の意図を考えていた朱里が、何かに気づいたのか声を上げた。
他にも、雛里や賈駆、寧々らも、以前、仕事の合間に聞かされたある話を思い出し、それぞれ納得の声を上げた。
「どうやら、気づいたようね。ま、種明かしは戦場でということになるんだけど。これより、本作戦を<寛和柄作戦>と命名し、以降は私の指示で動いてもらうわ。後、七花君と恋には、今回の戦には参加しないでいいわ」
「え、いいのか?」
「?」
思わぬ否定姫の言葉に、今回もこき使われるんだろうなと思っていた七花と恋は、顔を見合わせて、驚いた。
が世の中そんなに甘い話はなく、すぐさま、前言撤回することになった。
「多分、直接城を狙う伏兵部隊がいるから、そいつら会戦終わるまで、足止めしてもらうわ、あんたら二人と日和号1体で」
冗談きつすぎるぜ、姫さん―――そんな言葉を漏らす間もなく、七花はがっくりと肩を落とした。
実際、否定姫の読み通り、細い山道から進行する伏兵部隊はいたのだが、この時の七花は知る由もなかった。
伏兵と呼ぶにはあまりに大規模な伏兵部隊三万人を相手にしなければならないということに―――。
数日後、遂に、快進撃で侵攻してきた伏兵として別行動をとった三万の兵力を分け、残りの袁紹軍七万は、色とりどりの幕を掲げた鑢軍五万が布陣する平野地帯において、両者ともに対峙することとなった。
「おっほっほっほ―――!!ついにこの時をまっていましたわよ!!反董卓連合の借りをきーっちり代えさせて頂きますわ」
「ふむ、どうやら敵は、野戦で勝負を決めるつもりでしょうが…どういうつもりですかね?」
袁紹が余裕のタカ笑いを上げる中、鑢軍の陣形に、郭図が首をかしげるのは、無理もなかった。
先に平野に布陣していた鑢軍は中央に愛紗、鈴々、星が率いる重装備歩兵四万、右翼左翼には白蓮や翠が率いる騎兵一万が配置された。
奇しくもそれは、中央に歩兵六万五千と右翼左翼合わせての騎兵五千と、数こそ違えど袁紹軍と同じように配置されていた。
野戦における戦において、陣形を崩された方が負けであるため、数の少ない鑢軍が圧倒的に不利なのにも関わらず―――
「ま、どんな奇策がとび出すかと思いきや…とんだ期待はずれでしたね」
「構いませんわ…袁家の威光、今ここで、示す時…全軍突撃なさい!!」
袁紹の号令とともに、突撃の合図となる銅鑼がいっせいに鳴らされ、袁紹軍総勢七万は、左翼右翼から飛び出した騎兵部隊を戦闘に、一斉に突撃を開始した。
一方、攻撃を開始した袁紹軍の姿を確認した鑢軍も、作戦決行第一段階の行動を開始しようとしていた。
「来たわね…朱里、雛里。そろそろ準備は出来てる?」
「はい!!工作部隊の皆さんも、全員配置につきました!!いつでも、動かせます!!」
「あわわ、はい!!向かってくる敵の方には気付かれていません」
ならば良し!!準備は整った―――否定姫は心底意地の悪い笑みを浮かべながら、向かってくる袁紹軍を見た。
そして、静かに腕をあげ、攻撃の瞬間を計り始めた。
焦ってはだめだ…この一撃でもって、少しでも、袁紹軍に損害を与えねばならない。
迫りくる敵軍の接近を待ちつつ、否定姫は攻撃の瞬間を待ち―――
「さぁて、まずは…先制攻撃といこうかしら!!」
―――敵を十分引きつけたところで、一気に腕を振り下ろした。
次の瞬間、ドッドッドッ―――!!!と、何か固いものが次々と叩きつけられるような轟音と共に、一斉に大地が炸裂したように抉れ、吹き飛んだ地面ごと、先行していた袁紹軍の騎兵部隊と歩兵部隊の前衛を巻き込んで、文字通り粉砕された。