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No.5286の一覧
[0] 恋姫語  (習作:恋姫無双×刀語 ちょっちオリジナル&戯言シリーズ含む)[落鳳](2010/01/03 23:15)
[1] 恋姫語第1話<否定>[落鳳](2008/12/21 15:42)
[2] 第2話<初陣>[落鳳](2008/12/23 15:53)
[3] 第三話「虚刀乱舞」[落鳳](2008/12/28 19:35)
[4] 第4話<県令任命>[落鳳](2009/10/07 23:32)
[5] 第5話<天命王道>[落鳳](2009/01/18 23:49)
[6] 第6話<日和快晴>[落鳳](2009/01/15 21:35)
[7] 第7話<日和落陽>[落鳳](2009/01/25 23:56)
[8] 第8話<剣槍演武>[落鳳](2009/02/11 21:22)
[9] 第9話<連合結成>[落鳳](2009/02/22 21:45)
[10] 第10話<汜水関決戦・前編>[落鳳](2009/03/29 00:18)
[11] 第11話<汜水関決戦・後編>[落鳳](2009/04/05 22:35)
[12] 恋姫語オリジナルキャラ設定[落鳳](2009/04/05 23:19)
[13] 第12話<天下無双・前編>[落鳳](2009/04/27 23:01)
[14] 第十二話<天下無双・中編>[落鳳](2009/05/06 15:36)
[15] 第12話<天下無双・後編>[落鳳](2009/05/25 23:27)
[16] 第13話<百花繚乱>[落鳳](2009/06/20 22:14)
[17] 第14話<洛陽事情>[落鳳](2009/07/19 23:01)
[18] 第15話<人形演武・前篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/08/03 23:31)
[19] 第15話<人形演武・中篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/09/05 11:07)
[20] 第15話<人形演武・後編その1>[落鳳](2009/10/06 23:05)
[22] 第15話<人形演武 後編その2>[落鳳](2009/11/03 23:31)
[23] 第16話<乱世開幕>[落鳳](2009/12/20 23:02)
[24] 恋姫語17話<日常平穏>[落鳳](2010/01/03 22:00)
[25] 恋姫語18話<怪力乱心>[落鳳](2010/01/11 22:50)
[26] 第19話<怪力合戦>[落鳳](2010/02/14 22:08)
[27] 第20話<殺人定義>[落鳳](2010/02/27 14:35)
[28] 第21話<花蝶乱舞・前篇>[落鳳](2010/03/24 23:10)
[29] 第21話<花蝶乱舞・中編>[落鳳](2010/04/07 20:43)
[30] 落鳳寄道嘘予告①<悪鬼語>[落鳳](2010/04/24 22:42)
[31] 第22話<花蝶乱舞・後編>[落鳳](2010/04/30 23:51)
[32] 恋姫語23話<風林火山>[落鳳](2010/05/16 22:53)
[33] 第24話<信念相違>[落鳳](2010/07/27 23:15)
[34] 第25話<同盟申請>[落鳳](2010/08/29 21:05)
[35] 第26話<恋娘暴走>[落鳳](2010/09/23 23:34)
[36] 第27話<張遼跋扈>[落鳳](2010/10/31 23:26)
[37] 第28話<火艶槍聖>[落鳳](2010/11/23 23:22)
[38] 第29話<回天流浪>[落鳳](2010/12/05 01:27)
[39] 第30話<裏切同盟>[落鳳](2010/12/31 22:00)
[40] 第31話<戦線崩壊>[落鳳](2011/01/10 17:34)
[41] 第32話<百万一心>[落鳳](2011/02/28 23:18)
[42] 第33話<許昌強襲>[落鳳](2011/03/31 21:04)
[43] 第34話<策謀暗躍>[落鳳](2011/04/30 17:30)
[44] 第35話<許昌決戦その1>[落鳳](2011/05/29 20:01)
[45] 恋姫語番外編 オリジナルキャラ設定集[落鳳](2011/07/31 20:59)
[46] 第36話<許昌決戦2>[落鳳](2011/08/28 22:58)
[47] 第37話<許昌決戦その3>[落鳳](2011/10/30 22:24)
[48] 第38話<許昌決戦―禅譲快諾―>[落鳳](2011/12/23 23:51)
[49] 第39話<黒幕来々>[落鳳](2012/02/29 23:28)
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[5286] 第16話<乱世開幕>
Name: 落鳳◆5fe14e2a ID:bd8c6956 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/20 23:02
 ―――洛陽城外
 鑢七花によって、李儒が倒されてから数分後、城外の戦闘もほぼ終息に向かっていた。
 人形たちの繰り手である李儒が倒されたことによって、人形たちも動きは止まり、その場で立ち尽くしていた。

「どうやら、終わったようですな」
「ご主人様たちは無事なんでしょうか…」
「大丈夫だよ。ご主人様には、愛沙ちゃんや鈴々ちゃんだっているんだし」

 動きが止まった人形を槍の石突で突きながら、星はやれやれと肩をなでおろした。
 一方、雛里は、洛陽から未だ戻ってこない七花達の安否を心配していた。
 そんな雛里を、桃香は、仲間達を信じ、優しく励ました。
 とそんな時、一人の兵士がある異変に気づいた。
 洛陽の宮殿から、次々と煙が立ち上っていたのだ。

「ん、あれは、煙…いや、まさか…!!」

 彼の予感は的中していた―――次の瞬間、煙の立ち上っていた場所から、爆発音とともに一斉に火の手が立ち上がっていた
 いよいよ、連合軍編もこれにて完結というところで、恋姫語はじまり、はじまり


                           第16話<乱世開幕>


 ―――数分前、洛陽宮殿

「本気なのですか、否定姫様!!」
「本気じゃないわけないじゃない」

 怒りのこもった声で詰問する愛沙に対し、否定姫は、いつもの涼しげな表情で否定口調で答える。
 七花らには、普段と変わりない見慣れた光景だが、今度ばかりは、七花らも唖然とするしかなかった。
 なぜなら・・・

「でも、姫さん…董卓達を逃すために、さすがに洛陽燃やすって、やりすぎじゃねぇか?」
「そうなのだ!!そんな危ないことダメなのだ!!」

 洛陽に火をつけるという否定姫の過激な提案に、七花がドン引きしつつ、続けて、鈴々が両腕を振りながら、反対した。
 なぜ、こうなったかと言えば、董卓らの身についてだった。
 蝙蝠との契約で、董卓の身を保証するという条件を付けられたのだが、さすがに堂々と董卓を保護したのでは、連合軍の諸候らに、鑢軍を攻撃する機会を与えかねない。
 否定姫は、表向きは、洛陽決戦の元凶である李儒によって、死んだことにし、鑢軍で匿うことにした。
 そこで、否定姫が提案したのは、洛陽で大規模な火災を起こし、大量の身元不明の死体を生み出すことで、董卓の死を偽装しようとしたのだが…。

「何が問題あるのよ?死体なら、李儒の肉人形で十分誤魔化せるじゃない」
「そういうことではなく、道理の問題です!!」
「それに、まだ、生き残っている人たちも助けないと…見殺しにしたのでは、まずいですし」

 身うちでは、ある意味非道な否定姫の発言に怒声を放つ愛沙と生存者の救助を優先したい朱里から反対され…

「ちょ、さすがにそれはやり過ぎだから!!何考えてんのよ!!」
「わ、私もそこまですることはないですし…」
「むう、しょうがないわね…じゃあ、生存者探した後、宮殿に火をつける方向で文句ないわね?」
「それも、どうかと思うのですが…」

 匿ってもらうはずの賈駆と董卓からも反対の声があがると、否定姫もしぶしぶ引き下がり、宮殿のみに火をつけるという妥協案で引き下がった。
 まあ、それでも、むちゃなことに変わりないので、朱里は上司の発言に、苦笑いを浮かべるしかなかった。
 そして、七花らが生存者を捜しに、ここから立ち去ろうとした瞬間、耳を貫くような激しい爆音と同時に、宮殿のあちこちから一斉に火の手が上がった。

 ―――呂布邸
 宮殿で起こった爆音は、鑢軍の先行隊が仮陣地としていた呂布邸からも聞こえていた。
 すでに何人かの兵士が、「どうした!?」、「何が起こっているんだ!!」、「宮殿に向かった天の御使い様は無事なのか!!」などと口々に慌てふためき、宮殿の見える外へ出ていた。
 捕虜として捕えてある白装束の一人を見張ることさえ、忘れて―――。
 そして、混乱に乗じて、屋敷に侵入した者にも気がつかず―――。

「…遅かったな。もっとも、あの乱戦では無理もないがな」
「…」

 皮肉めいた笑みを浮かべる白装束の前には、自分たちの行動を支援する協力者の仲間である人物―――見るからに儚げな女が立っていた。
 白装束が喋りかけるも、女から返事はなかった。

「まさか、あのような異端がいるとは思いもしなかったが…まあ、どちらにせよ、鑢七花・・・世界を滅ぼす悪に、いずれ裁きが下されるであろう。その為に我らがいるのだからな」
「…」

 白装束は予想外の襲撃を受け、囚われの身になった不運に悪態をつくも、それでも女から返事はなかった。
 ただ、目を潤ませながら、悲しげに、白装束を見つめていた。

「ふん、愛想のないことだな…さあ、一刻も早く、ここから脱出するぞ。いい加減、縄を解いて…」
「…悲しいですね」

 女の態度に多少苛立ちながら、白装束は、女に縄を解くよう促すと、女はようやく悲しげに言葉を紡いだ。
 白装束は、その言葉の意味が分からず、「は?」と間の抜けた声をあげ、どういうことかと問いただそうとした瞬間―――ぱあん、という音が鳴った。
 しかし、白装束がその音を聞き取ることはなかった。
 同時に女の前には、頭の中に埋め込まれた爆弾が破裂したように、頭が爆ぜた白装束だった肉塊があり、首から真っ赤な血が勢いよく噴き出していた。

「ああ、悲しいですね、悲しいですね、悲しいですね―――仲間をこの手にかけることになるなんて。しかし―――捕虜に取られるような方に生きている価値はありません。この場で、わたくしに殺されることこそが、彼に実行できる唯一の正義だったのです」

 女は、滂沱の涙を流しながら―――さらりと言った。
 その涙をぬぐうことなく。
 そして、女は、物陰に隠れ、偶然にもその凶行の一部始終を見ていた小さな目撃者―――危うく愛沙に斬られかけたところを、七花らがかばい、保護した少女の前に立った。

「先ほど殺した方に代わって…あなたには、七花さんへの言伝をお願いします」
「あ、あ…ひっ!!」

 白装束を惨殺した女は、首をすくめて怯える少女を、あふれる涙を拭うことなく、慈愛あふれる笑みを浮かべ、少女の肩をたたき、優しく落ち着かせながら、言伝を頼んだ。

「<何れ相まみえることもあるでしょうが、世界の平和と秩序のために、あなたの命を奪いに行きます。悲しいですが、あなたの死こそ世界のためなのです>っと…良いですね?」
「は…はい…」

 女の言葉に、少女はうんうんと激しく頭を上下に揺らし、泣き顔を浮かべ、頷きながら答えた。
 少女には分かっていた。
 頷かなければ、目の前の女は、容赦なく自分を白装束みたいに、殺すんだと…

「とても良い子ですね。よろしければ、お名前を聞かせて頂いていいですか?」
「ち、陳宮なのです…」
「そうですか。では、陳宮さん、お願いしますね」

 命が助かったことを知り、へたり込む陳宮を尻目に、女は満足そうな表情で、塀を乗り越えるとどこかへと去って行った。
 耳を澄ませば、呂布邸の入口から、焼け落ちる宮殿から戻ってきた七花たちを出迎える兵らの歓声が聞こえてくるが、女は気にすることもなく呟いた。

「ああ、晴れがましい。わたくしは今日―――合計で一万三千人を救いました。代償として、十三名を殺してしまいましたが―――差し引き、一万二千九百八十七名を救いました」

 実に平和。
 実に秩序。
 ああ、それでも―――と。

「悲しいですね、悲しいですね、悲しいですね、悲しいですね、悲しいですね―――」

 女は。
 あふれる涙を止めようともぬぐおうともせず―――呟いた。

「―――とても悲しいですね、人殺し」

 後に、洛陽に入った連合軍の調査で、明らかになったことだが、洛陽の東門の付近で、首なし死体が12体見つかった。
 いずれも、犯人に持ち去られたのか、殺された12人の首はどこにも見当たらなかった。
 唯一つ、分かったことは、12人のうちの1人が、皇帝にしか許されない爪が五本に、角が二つの龍が描かれた服を着ていたことから、この死体が漢王朝の皇帝―――献帝ということだった。


 焼け崩れおちた宮殿から火が消えたのは、それから数時間後のことだった。
 幸いにして、街まで火の手が上がることはなく、洛陽に入城した連合軍の各部隊が、市街地を中心にくまなく捜索し、李儒により人質にされた洛陽の民を救出していた。
 鑢軍も生存者の救出を手伝う傍ら、ある程度の報告と事務処理を済まし、幽州への帰り支度の準備に取り掛かっていた。
 そんな慌ただしさに包まれた鑢軍の陣から離れた場所で、呂布は洛陽から連れてきた友達―――セキトや他の猫や犬などの小動物たちに餌をあげていた。

「…どうかしたの?」
「ん、何だ、気づいてたのかよ」

 と、呂布は、自分の背後から誰かが近付いてくる気配を感じた。
 そこにいたのは、医者に骨折の治療をしてもらった後、否定姫に仕事の邪魔になるからと追い出され、外をうろついていた七花だった。

「…怪我、大丈夫?」
「ああ、医者の見立てじゃ、1か月もすれば治るみたいだぜ」
「そう、よかった」

 呂布によって、折れた腕はガチガチに包帯が巻かれ、はたから見ても痛々しく見えた。
 心配する呂布に対し、七花は腕を折った張本人に心配されるのを、苦笑しつつ、宥めた。
 そんな七花の言葉を聞き、呂布は安堵の笑みを漏らした。

「…それと、ありがとう」
「え、何だよ、急に」
「月のお父さんとお母さんの仇を討ってくれて」
「…」

 呂布の感謝の言葉に、思わず七花は押し黙った。
 それは、違う。
 李儒と闘ったのは、董卓に同情して、仇討ちをしたのではない。
 かつての主と董卓の境遇を重ね、尊敬し敬愛していた父親―――鑢六枝を汚されたからにすぎない。
 決して褒められるようなことじゃない―――。

「そんなじゃねぇんだよ…」
「?」

 そう呟いて、何かを思い出すように苦笑いをする七花に、呂布はなぜだろうと首をかしげた。
 今の七花は、虎牢関や洛陽の二つの闘いで、無双ともいえる強さを誇った剣士とは、思えないほど、悩みを抱える、普通のどこにでもいる純朴な青年にしか思えなかった。
 七花と同じく感情表現に乏しい呂布には、それが何なのかよく分からなかったが ―――もし、桃香がこの場に居合せたなら、七花が苦笑した意味に気付いただろうが。
 とりあえず、呂布は深く考えるのを止め、ある事が気になり、尋ねることにした。

「…ねぇ」
「ん、今度はどうしたんだ?」
「…お父さん、好きだったの?」
「…」

 もちろん、七花の答えは―――。

「ああ、そうだな。好きだったし、尊敬していた」
「…どんなことしてもらったの?」
「俺、子供のころに親父と一緒に島流しにあってな。そこで、親父と姉ちゃんの3人で暮らしていたんだ。その時に、親父には色々稽古や、親父が若いころの昔話をしてもらったっけな…」
「…今は、どうしてるの?」
「…2年前に死んだ」

 いくつかの問いの後に出た、何気ない呂布の問いに、七花は、表情は悲しげに、そして、悔恨のこもった声で呟いた。
 実際には、七花の父親である六枝は、ただ死んだわけではないのだが、かつての失敗とそれが招いた結果を踏まえ、深く語ろうとはしなかった。
 これには、さすがの呂布も七花の様子に気づき、聞くべきではなかったと、悪戯をし、叱られて、うなだれる子犬のように、ばつ悪そうな顔で謝った。

「…ごめん」
「ああ、謝ることねぇよ…ただ、ちょっとな…」
「…他にはどんなことしてたの?」
「親父が死んでから一年間は、姉ちゃんと一緒に島で過ごしてた。その後、とがめと一緒に、変体刀蒐集の旅してた」
「…とがめ?」
「俺が初めて惚れた女で、俺の主だった…随分と振り回されたけどな」

 二人で、日本全国の色々な場所を旅して、色々な敵と闘って、色々な思い出を作って、最後に離別した。
 でも、おかげで、俺は着る相手を選ばないただの刀だった自分から、人間になれたんだな・・・
 過ぎ去りし日の思い出を懐かしむように語る七花に、呂布は急に七花のことが知りたくなった。
 なぜだかは、分からないけど…知りたくなった。

「…ねぇ、もっと聞かせて」
「ん?」
「…知りたくなった、ご主人様のことも、ご主人様のご主人さまのことも」
「ご主人さまか、馴れないんだけどなその呼ばれ方…いいぜ、呂布。あんまり、詳しく話せないこともあるけど」
「…恋」
「恋?」
「うん。わたしの真名…ご主人様ならよんでいいよ…」

 そう言って、わずかに表情を変え、七花に笑いかける呂布。
 そんな呂布の顔を見た七花は、顔を緩め、少しだけ昔を懐かしんだ。
 ああ、そうか…俺がとがめに惚れた時も、こんな顔をしてたんだなと―――。

「ありがとな、恋。じゃ、まずは、俺が最初に集めた―――」
「…うん」

 話を始める七花の隣に座り、呂布―――恋は頷きながら、七花の話を聞いた。
 これが、恋が初めて七花に真名を呼ぶことを許し、後に二人の絆を深める切欠となった出来事であり―――

「…―――っ!!」

 七花を探している最中に、七花と恋の睦まじい二人の姿を見て、今まで自分が感じたことのない暗い感情を抱いた事を恥じながら、その場を去った少女―――愛沙。
 後に起こる魏軍との戦において、鑢七花の死亡という最悪の結末を迎える切欠でもあった。

―――鑢軍本陣

「さて、色々と雑務が片付いたところで…何で、あんたがいるのよ?」
「あらvつれないわね…頼みごとがあってきたのに」

 面倒な雑務を片付け(重要なことは朱里&雛里に押し付け)、しばし休息を取ろうとした否定姫だったが、入口の前に立っていた人物を見かけ、心底嫌そうな顔で睨みつけた。
 そこにいたのは、完成型変体刀の一本<賊刀・鎧>を頭部だけ残して、身にまとった、容姿と言動が変なおっさん・・・もとい美しき漢女:貂蝉だった。
 否定姫が嫌そうな顔をするのも、気にせず貂蝉が頼み―――住む家を失った自分も、鑢軍の統治する町へ連れて行って欲しいとのことだった。

「なるほどね…うちの方についていきたいと…目当ては、七花君で。」
「そ、そういうことよんvあのご主人様に、あたしもメロメロになったのv」
「へぇ、そう…だが、断る」
「ちょ、即断即決にも、ほどがあるわよ~!!うう…ただのしがない踊り子相手に、どうして、こんな仕打ちをするのよ…」
「否定する。ただのしがない踊り子が、何で、これを危険だと知っているのかしら?」

 有無を言わせぬ速攻ぶりで、頼みを断れた貂蝉は、おいおいと幅涙を流して、打ちひしがれた。
 しかし、そんな貂蝉の言葉に対し、否定姫は惑わされることもなく、その碧眼でもって、射抜くように睨みつけ、机の上に置いた二丁の拳銃<炎刀・銃>を見せつけた。

「確かに、この<炎刀・銃>は使い様によっては、子供でさえ、達人並の剣士を殺せる危険な武器よ…でも、何で、ただのしがない踊り子がこれを危険な武器だと知っていたの?」
「そ、それは…たまたま、お客さんで持っている人が…」
「否定する。それは有り得ない。なぜなら・・・」

 予想外の追及にもじもじと体をくねらせて、答える貂蝉だったが、否定姫は一気に畳みかけた。
 そもそも、否定姫は、貂蝉をただの変なおっさんとは、最初から思っていなかった。
 <炎刀・銃>を見せた時点で怪しいと踏んでいた。

「この武器は、本来、この時代、この場所であるべき武器ではないのだから」
「…っ!!」

 そう、本来なら、この<炎刀・銃>は、三国志の時代はおろか、七花たちがいた時代にも存在しない、数百年後の世界で誕生するはずの兵器なのだ。
 故に、三国志時代の人間であるならば、<炎刀・銃>が危険な兵器であるどころか、何なのかさえ分からないはずなのだ。
 しかし、貂蝉が白装束を打ち倒し、七花の前に現れた時、否定姫が<炎刀・銃>を取り出した際に、貂蝉は<炎刀・銃>を見て言ったのだ。
 「危ない」っと。

「さあて、それじゃあ、質問させてもらおうかしら?あんたが何者で、何の目的でどうこうするのかを、ね」
「いやよvといった場合は?」
「私の目の前に、射殺死体が転がるだけよ」
「そう…なら、あたしの目の前には、頭を粉砕された撲殺死体ができちゃうわよ」

 追求する否定姫に対し、あくまで白を切る貂蝉が拒否した瞬間、両者は動いた。
 否定姫は、手にした銃を、鎧のまとっていない貂蝉の頭に狙いを定めた―――。
 対する貂蝉も、岩をも砕く剛腕の拳を、否定姫の頭に突きつけた。
 そして、両者が軽口をたたいた瞬間―――

「「止めた」」

 否定姫は、銃を下ろし、貂蝉も拳を下ろした。
 両者ともに本気で殺しあうつもりなどなかったのだ。

「やっと、諦めてくれたようね…」
「否定する。確かに、あんたが何者なのかを知りたいけど、これから長い付き合いになるのなら、おのずと答えが分かるわ」
「素敵な答えねvうふ、女の子じゃなかったら、惚れてたわよv」
「あ、でも、普段から、<賊刀・鎧>は付けてなさいよ。目の毒だし」
「ひどっ!!」

 相変わらずの否定姫の毒舌に少なからず傷ついた貂蝉を尻目に、否定姫はようやく軽い眠りについた。


―――呉軍本陣

「…それで、何か弁明でもあるのかしら?」
「蔑(べつ)になにも」

 白鷺の言葉に、周愉は、ため息とともに、こめかみを押さえた。
 結局、戦が終わった後に、洛陽から戻ってきた白鷺に、周愉は日ごろのお返しとばかりに、さも役立たずのように皮肉を漏らした。
 しかし、当の白鷺は、周愉の皮肉に対し、狼狽し、動揺するどころか、表情ひとつ動かさず、飄々とした態度で返答した。
 いつものように独特の発音で、不愉快なしゃべり方で。

「…っ。今回の連合軍参戦で、魏は張遼を、鑢軍は元天下無双の呂布を手に入れたわ。対する我らは、汜水関での活躍と洛陽の復興を手伝ったことによる、精々、民の支持と名声ぐらいなものね」
「歩値(ほね)居(お)り存(ぞん)という和気(わけ)だな。独楽(こま)った、独楽った」
「…おい」

 周喩は、怒りを抑えて、ぐっと堪え、白鷺に愚痴を漏らした。
 確かに、呉も活躍していた―――が、それでも、鑢軍や魏軍に比べれば、霞んでしまう。
 せめて、白鷺が、あの戦が終わるまでに戻ってきてくれたら―――そう思うと、周喩は八つ当たりとはいえ、白鷺に不満を漏らさずにはいられなかった。
 しかし、まるで他人事のように頷く白鷺にそろそろ我慢の限界に達しようとしていた周喩だったが…

「なら、これでも、他資(たし)にしておけ。化得(かえ)りに非露(ひろ)った。奈(な)いよりは磨(ま)しだろう」
「…いったい、何を…っ!!」

 不意に白鷺は、懐から何かを取り出すと、周喩に向かって投げ渡した。
 慌てて、周喩は白鷺から投げ渡された物を掴み、掴んだものが何なのかを見た瞬間、思わず、息をのんだ。
 それは、皇帝のみが使うことを許されるという皇帝の証と称される印鑑:<玉璽>であった。
 使い様によっては、呉の覇業を推し進めるための切り札にさえなりうる代物だ。
 周喩は、どこで玉璽を手に入れたのか問いただそうとするが、当の白鷺は用が済んだとばかりにさっさと外に出て行った。

「…ふん、随分ととんでもない物を拾ってきたものだな」

 さっさとその場から去って行った白鷺の後姿を見つつ、この連合軍での戦において、最大の収穫物を得たことに、周喩は不敵の笑みを浮かべた。


―――深夜:洛陽宮殿跡地
 深夜、大規模な火災により焼けおちた宮殿跡には、かつての荘厳さは見る影もなく、炭と化した木材の一部がかろうじて立ち、あとは、崩れおち、炭の山となっていた。
 もはやだれからも見向きもされない宮殿跡地に、三人の人間―――白い道士服を着た二人の青年とこの時代には大凡相応しくない和服を纏い、煙管を咥え、顔の右半分が焼けただれた女が立っていた。

「…どういうことか説明してもらおうか?」
「どういうこと?阿呆か、お前は。無能な部下が死んで、無能な皇帝が死んだそれだけだ」
「ふざけるなっ!!どちらも、貴様の身内が起こしたのだろ!!」

 忌々しげに呟く短髪の青年に、興味どころか眼中にさえないのか、女は、煙草をふかしながら淡々と事実を言った。
 その態度が怒りの琴線にふれたのか、短髪の青年は今にも飛びかからんまでに、苛立たしげに詰め寄った。
 一瞬即発の両者であったが、ここで、眼鏡をかけた長髪の青年が、二人の間に割って入った。

「そこまでです、二人とも。」
「だが…」
「確かに前者については、想定外の事があったとはいえ、少々乱暴な手段ではありましたが、こちらの不手際を尻拭いして頂いたのは事実です。」
「ほう、分かっているじゃないか」

 これ以上は不味い―――殺し合いになりかねない。
 そう感じ取った長髪の青年は、苛立ちを隠せない短髪の青年を落ち着かせるように宥めると、冷めた目で成り行きを見ていた火傷傷の女に、苦笑しつつ、建前上仕方なく謝罪した。
 火傷傷の女も、とりあえず、長髪の青年の意をくんで、やれやれといった表情でそれを受け入れた。

「ですが。献帝暗殺については、どう見ても、看過できる問題ではありません。あまり、プロットに外れた行動を取られては、計画に支障が生じます。今後は謹んでいただきたい」
「…分かった。一応、あいつには、注意を促しておく。凶暴な人食い鮫が素直に聞くとは思えんがな」

 しかし、長髪の青年も、献帝暗殺ということについては、明らかに喰鮫の暴走行為であり、それを、見逃す理由はなかった。
 さすがに、献帝暗殺に関しては、後ろめたいものがあったのか、火傷傷の女も、素直に長髪の青年の言葉に頷いた。
 もっとも、あまり効果はないだろうがな―――そう心の中でぼやきながら。

「それと、もう一つ。彼女の言葉通り、李儒さんの御家族も呼び寄せておきましたよ。それぞれ、袁家に一人、魏に一人配置しておきました。ちゃんと李儒さんのことも伝えてあります。これで…」
「零崎一賊は、鑢軍を標的にしたというわけだな」

 <零崎一賊>―――はるか未来において誕生する予定である流血によってのみ繋がる、生粋にして後天的な殺人鬼たちの集団。
 未来において零崎一賊が恐れられているのは、彼らが殺人鬼集団である以外にその団結力にある。
 最悪、戦闘中に一賊の1人が命を落とした場合、報復として零崎一賊の全員と闘わなければならなくなる。
 故に、李儒の死は、鑢軍対零崎一賊という図式を生み出すためのものでしかなかった。
 少なくとも、短髪の青年と長髪の青年にとっては、だが。

「ふん…下らん茶々を入れるのは、これで最後にしてほしいものだな」
「案ずるな。多少の荒事は目をつぶれ」
「はいはい…では、私達はこれで。では、また、どこかで…」

 互いに憎まれ口をたたき合う短髪の青年と火傷傷の女を宥めつつ、長髪の青年は、短髪の青年とともにその場を去った。
 残るは、煙が消えかけた煙管を名残惜しそうに吹かす火傷傷の女、唯ひとり―――そう、一人だけだった。

「……で、お前は、いつまで、死んでいるんだ、李儒?」

 不意に宮殿の焼跡に向かって、火傷傷の女がそう呟いた瞬間、焼け跡が勢いよくまき散らされ、その中から何かが這いずり出てきた。
 その何かとは―――バネの足にバネの腕を持つ異形の人形にして、李儒がもっとも愛用した道具…<堕落錯誤>だった。
 しかし、繰り手である李儒を失った<堕落錯誤>が動くことなどありえない。

「酷いですね…こっちは、建物が燃え尽きるまで隠れていたというのに…」
「そんな事を気にするような体か?しかし、まぁ随分と奇抜な姿だな、李儒」

 焼け跡からはいずり出た堕落錯誤は、馴れないバネ足での移動に苦労しながら、火傷傷の女に悪態をつきつつ、立ち上がった。
 そして、火傷傷の女は、ひとりでに動く堕落錯誤を前に、動ずることもなく、堕落錯誤ではなく、李儒と呼び捨てた。

「自分の脳内情報を何も、自分そっくりの人形に移す必要なんてありませんからね。それにこっちの方が何かと便利ですし。ま、スペアは壊されちゃいましたがね」

 考えるなら、当然の話だった。
 自分の脳内情報を、人形に転写するのならば、なにも自分そっくりの人形を器にする必要などどこにもない。
 むしろ、おおよそ人間には不可能な動きや機能付け加えることのできる人形の方が戦闘での利点は大きい。
 故に、李儒は、自分の意識をあえて<堕落錯誤>に転写したのだ。
 敵を欺くために、自分そっくりの人形を拵えつつ…。

「違いないな。しかし、まぁ、これで…お前はだれの目にも触れられることなく、裏方に徹することができるじゃないか。李儒の死をねつ造し、鑢軍の目を欺き、また、皇帝暗殺による漢王朝の崩壊を促す…目的はすでに達成されている」
「ま、そうですがね。んで、次はどうするのですか?」

 不意に堕落錯誤―――否、李儒は、城門よりやってきたある人物に目を向けた。
 李儒は知っている。
 そいつが、零崎一賊の参戦を促すこと、鑢軍の目を欺くことや皇帝を暗殺し漢王朝を滅亡させることが目的で、この反董卓連合での一連の戦を起こしたのではないことを。
 ただ見たかっただけなのだ。
 かつて、そいつが作り上げた最後の刀の切れ味を見たかった。
 たった、それだけのために、洛陽の住民10万人と華雄らなど連合軍・董卓軍の兵士らを死なせ、戦争を起こしたに過ぎなかった。
 そして、李儒は、城門よりやってきた人物―――その反董卓連合の仕掛け人の名を言った。

「四季崎記紀さん」



 その後、董卓の死により、連合軍は解散し、参加した諸侯らは、本拠地へと戻って行った。
 しかし、訪れたのは平和ではなく、献帝の死により、事実上、漢王朝は滅亡、これにより、己が覇権をにぎらんと、諸国間での争いが激化―――中華の地は、群雄割拠の時代を迎えることになった。


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