<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.5286の一覧
[0] 恋姫語  (習作:恋姫無双×刀語 ちょっちオリジナル&戯言シリーズ含む)[落鳳](2010/01/03 23:15)
[1] 恋姫語第1話<否定>[落鳳](2008/12/21 15:42)
[2] 第2話<初陣>[落鳳](2008/12/23 15:53)
[3] 第三話「虚刀乱舞」[落鳳](2008/12/28 19:35)
[4] 第4話<県令任命>[落鳳](2009/10/07 23:32)
[5] 第5話<天命王道>[落鳳](2009/01/18 23:49)
[6] 第6話<日和快晴>[落鳳](2009/01/15 21:35)
[7] 第7話<日和落陽>[落鳳](2009/01/25 23:56)
[8] 第8話<剣槍演武>[落鳳](2009/02/11 21:22)
[9] 第9話<連合結成>[落鳳](2009/02/22 21:45)
[10] 第10話<汜水関決戦・前編>[落鳳](2009/03/29 00:18)
[11] 第11話<汜水関決戦・後編>[落鳳](2009/04/05 22:35)
[12] 恋姫語オリジナルキャラ設定[落鳳](2009/04/05 23:19)
[13] 第12話<天下無双・前編>[落鳳](2009/04/27 23:01)
[14] 第十二話<天下無双・中編>[落鳳](2009/05/06 15:36)
[15] 第12話<天下無双・後編>[落鳳](2009/05/25 23:27)
[16] 第13話<百花繚乱>[落鳳](2009/06/20 22:14)
[17] 第14話<洛陽事情>[落鳳](2009/07/19 23:01)
[18] 第15話<人形演武・前篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/08/03 23:31)
[19] 第15話<人形演武・中篇> 注意:グロ表現アリ[落鳳](2009/09/05 11:07)
[20] 第15話<人形演武・後編その1>[落鳳](2009/10/06 23:05)
[22] 第15話<人形演武 後編その2>[落鳳](2009/11/03 23:31)
[23] 第16話<乱世開幕>[落鳳](2009/12/20 23:02)
[24] 恋姫語17話<日常平穏>[落鳳](2010/01/03 22:00)
[25] 恋姫語18話<怪力乱心>[落鳳](2010/01/11 22:50)
[26] 第19話<怪力合戦>[落鳳](2010/02/14 22:08)
[27] 第20話<殺人定義>[落鳳](2010/02/27 14:35)
[28] 第21話<花蝶乱舞・前篇>[落鳳](2010/03/24 23:10)
[29] 第21話<花蝶乱舞・中編>[落鳳](2010/04/07 20:43)
[30] 落鳳寄道嘘予告①<悪鬼語>[落鳳](2010/04/24 22:42)
[31] 第22話<花蝶乱舞・後編>[落鳳](2010/04/30 23:51)
[32] 恋姫語23話<風林火山>[落鳳](2010/05/16 22:53)
[33] 第24話<信念相違>[落鳳](2010/07/27 23:15)
[34] 第25話<同盟申請>[落鳳](2010/08/29 21:05)
[35] 第26話<恋娘暴走>[落鳳](2010/09/23 23:34)
[36] 第27話<張遼跋扈>[落鳳](2010/10/31 23:26)
[37] 第28話<火艶槍聖>[落鳳](2010/11/23 23:22)
[38] 第29話<回天流浪>[落鳳](2010/12/05 01:27)
[39] 第30話<裏切同盟>[落鳳](2010/12/31 22:00)
[40] 第31話<戦線崩壊>[落鳳](2011/01/10 17:34)
[41] 第32話<百万一心>[落鳳](2011/02/28 23:18)
[42] 第33話<許昌強襲>[落鳳](2011/03/31 21:04)
[43] 第34話<策謀暗躍>[落鳳](2011/04/30 17:30)
[44] 第35話<許昌決戦その1>[落鳳](2011/05/29 20:01)
[45] 恋姫語番外編 オリジナルキャラ設定集[落鳳](2011/07/31 20:59)
[46] 第36話<許昌決戦2>[落鳳](2011/08/28 22:58)
[47] 第37話<許昌決戦その3>[落鳳](2011/10/30 22:24)
[48] 第38話<許昌決戦―禅譲快諾―>[落鳳](2011/12/23 23:51)
[49] 第39話<黒幕来々>[落鳳](2012/02/29 23:28)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[5286] 第15話<人形演武・中篇> 注意:グロ表現アリ
Name: 落鳳◆5fe14e2a ID:bd8c6956 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/05 11:07
洛陽市街地東地区―――
偵察部隊の一人からの連絡を受け、白装束らが現れた現場に駆け付けた七花らだったが―――

「な、なに、あれ…?」
「なんと面妖な…朱里、分るか?」
「い、いえ、さっぱり、分りません!!私もあんなの見るの初めてです…」

 桃香、愛沙、朱里が困惑するのも無理はなかった。
 現場には、伝令のとおり、偵察部隊に守られる3人の少女とそれを襲う白装束をきた集団がいた。
 だが、白装束の、そのほとんどが、壁に埋め込まれたり、頭から地面に刺さったり、屋根の上に下半身だけ出ているなど、無残な姿をさらしていた。
 そして、もう一つ、伝令にはなかったモノがそこにはいた。
 身の丈七尺を超える巨大な鎧―――それも中国にある兜甲冑ではなく、しいていうなれば、西洋の剣士が身にまとうような鎧が白装束を迎え撃っていた。

「鉄の塊のお化けなのだ!!」
「いや、違う。あれは…!!」

 驚いた鈴々が思わず言葉を洩らすが、七花はすかさずあれが何なのかを確信した。
 そう、あれは、完成型変体刀蒐集の際に、薩摩にある濁音港にて、鎧海賊団の船長である校倉必(あぜくら かなら)から蒐集した変体刀の一つだった。
 虚刀流の奥義さえ無効化する<防御力>に特性を置いた絶対無双の防御力を誇る五番目の完成型変体刀―――!!

「賊刀<鎧>…まさか、あの刀を着こなせる奴がこの時代にいるなんてね…」
「ぶらああああああ!!」

 予想外の展開に否定姫が唸る中、この世のものとは思えない雄叫びを上げながら、賊刀<鎧>から繰り出される鉄の拳が唸りを上げ、次々と白装束へと叩き込まれ、肉と骨を砕く打撃と肉をズタズタに切り裂く斬撃の二重攻撃を受けた白装束らは、「ぐは!!」、「ぎゃ!!」と叫び声を上げると同時に、壁に、地面に、叩きつけられ、埋め込まれていく。

「す、すげぇ奴がいるもんだな…」
「まったくね。あの賊刀<鎧>をつけた状態で、普通に格闘こなすなんて…どんな化け物よ、いったい…」

 賊刀<鎧>を知る七花や否定姫ですら、驚きの声を上げるのは無理もなかった。
 本来、賊刀<鎧>は、その大きさと重さを利用した体当たり主体とする攻撃だけだが、今、賊刀<鎧>を着ている者は、その重さを物ともせず、拳や蹴りといった格闘術で闘っているのだ。
 前の所有者である校倉必でさえも、体当たりでしか攻撃方法はなかったというのに…

「くっ、おのれぇ!!」
「あ、あいつ、逃げるのだ!!」

 「逃がしちゃうわけぇ…」

 次の瞬間、賊刀<鎧>を着た何者かは、逃げる白装束に向かって突進し、3歩目で一気に間合いを詰め、そのまま片手で、相手の首根っこを掴んだ!!

「ないでしょうがあああああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」

 もはや悲鳴を上げるしかない白装束を掴んだまま、次々と鎧を脱ぎ棄て、さらに加速させ、目の前の壁に、白装束を壁に叩きつけた!!!
 その破壊力は、想像を絶し、壁を打ち砕き、土煙を巻き上げて、そのまま民家へとさらに突っ込んだ。
 だが、それでも、勢いは止まらず、次々と壁をぶち破り、五軒目にて爆音が鳴り響くと同時に、ようやく終わりをつげた。

「す、すごぉい…」
「なんちゅう、無茶苦茶な力技だよ…姉ちゃんとまともにやりえるんじゃねぇか…」

 すさまじい力技に驚きの声を上げる桃香と余りの無茶ぶりに姉である七実と比較した七花―――他の面々もあまり出来事に呆然とするしかなかった。
 だが、土煙の中から、ボロボロになった白装束を抱えて、現れた賊刀<鎧>の中の人を見た瞬間、その場にいた全員が思わず悲鳴を上げた。

「ふぅ…ちょびっと失敗v玉のお肌に傷がついちゃったわv」

 筋骨隆々のおっさんだった。
 つるっぱげの頭だった。
 三つ編みと髭がついていた。
 後世でいうところの紐パン一丁だった。
 つまるところ…

「「「「変なおっさんが、中の人だぁああああ!!!」」」」
「だれが、おっさんよ!!花も恥じらう漢女を…って、ちょ、そこの金髪のあなた、笑顔なのはいいけど、眼がやばいわよ、なんか焦点定まってないわよ?って、懐から、何を、ちょ、危ないから危ないから!!お願いだから、そんなもの、黒くて大きくて、物騒な物、私に向けないでちょぉ!!!」

ぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱんぱん。
 洛陽に乾いた音が連続して響いた。
 もうこれでもかというくらい。
 そんなこんなで、恋姫語はじまり、はじまり。

                       第15話<人形演武:中編>


「んで、つまるところ、あんたは、あの白装束の連中に家壊されて、その仕返しにあいつらぶっとばしていたってことか」
「そういうことよv後、あの、お願いだから、金髪のあの子に銃に弾込めるの止めてって言って…」

 あの後、七花によって、取り押さえられた否定姫が落ち着くと、七花らは変なおっさんの素情と洛陽の情報を聞くことにした。
 この変なおっさんなのだが、自称:ただのしがない踊り子で、名を貂蝉と名乗った。
 貂蝉によれば、呂布や蝙蝠の言うように、董卓による圧政で、洛陽の民が苦しんでいるという事実はなく、少し前までは平穏に暮らしていたのだが、あの白装束が現れると、白装束の集団は、街から人々を追い出したのだ。
 ちなみに、この時、貂蝉自身も、自分の家が壊されたため、白装束に自分の家を壊された仕返しとして、あの大立ち回りが起こったということらしい。

「董卓による暴政は嘘だったってこと?でも、どうして、そんな嘘を…?」
「さぁ?とりあえず、その辺のことは、この3人に聞いた方が良さそうね」

 考え込む朱里に相槌を打ちつつ、否定姫は、に炎刀<銃>を向けながら、偵察部隊に保護をされた三人の少女――全身に奇妙な刺青をした少女と、眼鏡をかけた気の強そうな少女、大人しそうな外見だが、表情が暗い少女に目を向けた。

「あ…」
「ちょ、何言ってんのよ、あんた!?」
「そうそ、あたしら、ただのか弱い女の子だよ。そんな事知るわけないでしょうが」

 突然、話を振られて、表情の暗い少女が何かを告げようとしたが、それを遮るように眼鏡をかけた少女が、こちらを睨みつけながら、怒声を上げて食ってかかり、刺青の少女も眼鏡の少女に同調するように話をそらそうとするが―――

「…月、詠、狂犬」
「よお、お前ら、なんとか生き延びてたみたいだな」
「「「ああ…!!」」」

 七花らと同行していた呂布と蝙蝠の二人が現れたとき、思わず三人の少女は驚きの声を上げた。

「月に、詠…では、こやつらが!!」
「董卓と賈駆…」

 愛沙と朱里の二人は、どう見ても噂からは想像できないほど、暴君とはほど遠い、華奢でひ弱そうな少女である董卓の姿に驚きをあらわにし…

「じゃあ、あっちはやっぱり…」
「真庭狂犬ってところね。ま、もちろん、初代って前置詞がつくけどね」

 七花と否定姫は因縁の相手である真庭忍軍の十二頭領が一人―――むろん、狂犬は知る由もないが―――初代狂犬との再会を果たしていた。

「呂布、蝙蝠!?何で、あんた達がこいつらと一緒にいるのよ!!まさか…二人して、ボク達を裏切ったの!?」
「違うっての。卑怯卑劣は売りだが、ちょいとばかり事情が…」
「事情?仲間裏切るほど大事な事情でもあるのかい、蝙蝠?」

 賈駆は、肩を震わせながら、七花の後ろにいる呂布と否定姫の傍らに佇む蝙蝠を交互に見比べて、怒声を上げた。
 それに対し、蝙蝠は賈駆に否定姫らと結んだ<とある契約>について事情を話そうとするが、それよりも先に、それまでの真庭の里の観察者としての漂漂とした態度はなく、今にも蝙蝠に飛びかかり、喉笛を噛みちぎらんと、憤怒の表情でにらみつけていた。
 ともすれば、一瞬即発の事態に一同に緊張がはしるが―――

「お願い、二人とも。もう止めて…全部、私が悪いんだから…」
「月!?」
「そういう問題じゃないんだよ!!あんたが悪い悪くない以前に、仲間裏切るなんてマネ…」

 憤る賈駆と狂犬を悲しげな声で止めたのは、それまでずっと黙っていた董卓であった。

「ううん…蝙蝠さんも恋さんも、悪くない…全部…私のせいだから…」
「そんな…月…」
「…あなたが、この軍の指揮官ですか?」

 これまでの流れで、話の中心人物と思われる否定姫に、董卓は問いかけた。

「まあ、そうなるわね…一応、いまのところ張りぼてでもお飾りでも、一人は武力最高だけど政治能力才能なしで、もう一人はおとぼけ天然娘だけど、本来の君主はあの二人よ」
「姫さん…さすがに、辛辣すぎるぞ、それ」
「ひどすぎるよ…」

 本当にこの人、自分たちのこと君主と思っているのかなと、七花と桃香が悩んでいると、董卓が七花と桃香に近寄ると、あることを頼んだ。

「では、お二人にお願いがあります…私が全ての責任をとります。だから、詠ちゃんや狂犬さんを助けてあげてください…」
「え、でも…!?」
「いや、責任って、それ…あんた、死ぬつもりなのか?」
「私のために、多くの兵士さんが死んだのに…今更…私だけ助かるなんてできません」

 突然の董卓の申し出に、七花と桃香りは戸惑いの表情を隠せなかった。
 確かに、この戦で多大な犠牲者を出している以上、董卓の命で落とし所はつけなければならない。
 そう、たとえ、相手が、無実であり。可憐な少女であろうとも、董卓が死なない事にはこの戦の決着はつけられないのだ。

「ゆ、月―――いやよ!!そんな月を見捨てて、生き延びるなんて…!!」
「私もお断りだよ…私の前でそんなまねするなよ…自己犠牲なんてマネ…!!」
「まいったな・・・」
「あ、あのね、董卓さん、実は…」

 董卓の願いに、詠は親友を見殺しにしないために、狂犬は仲間のために死のうとする月の姿に耐えらず、二人は、懇願するように、董卓を説得しようとする。
 これに対し、七花と桃香は、戸惑いつつも、蝙蝠とかわした<契約>を董卓らに話そうとするが…

「舐めてんの、あんた?」
「えっ…」 
「否定姫さん…?」

 自らの命で償おうとする董卓に、それまで事の成り行きを見ていた否定姫は普段の彼女からは想像できないほど静かに告げた。
 そう、静かに激怒していると―――否定姫の人柄を知る七花や桃香らは感じた。

「自分の命くれてやるから、全部自分の責任だから死んで、償うなんて――――私は否定する!!」
「ひっ!!」

 次の瞬間、否定姫は、董卓の胸倉をつかむと、顔がぶつかる直前まで、顔を近づけ、怯える董卓を睨みつけ、言葉をつづけた。

「私は否定する―――あんたのその生き方を否定する。あんたのその生きざまを否定する。恰好悪くてみっともない最悪の生き方だと否定する。恰好悪くてみっともない最低の生き様だと否定する。何それ、それで償いのつもり?ひょっとして、それで何か満足しちゃってるわけ?笑うわね―――」

 遠慮なく、とめどなく。
 溢れる奔流のように、否定姫は容赦なく、董卓を侮蔑し、嘲笑した。

「自分の責任?違うでしょ、白装束の責任でしょうが。今のあんたは、連中に仕返しすらしないで、ただ楽になりたいから逃げているだけの、負け犬じゃない。それで何かを守っているつもりなら、思い上がりもはなただしいわね」
「う…あ…」
「…っ!!いい加減にしなさいよ!!あんたに、あんたに、月の何が分かるのよ!!月が、どんだけ苦しんでいたのか、悲しんでいたのか…」

 分りもしない癖に!!―――悲痛な賈駆の訴えに、否定姫は横目で見つつ、ふんと鼻を鳴らした。

「分りもしない?ええ、分らないわね。ただ、死ぬだけの奴の考えなんて、これっぽちも分るつもりないわね。むしろ、否定するわ。これなら、あの不愉快で大嫌いじゃなく――なくも―――なかったあの女の方がよっぽどマシな生き方してるわよ」

 否定姫の言葉に、七花はなぜ、否定姫が激怒しているのかようやく察した。
 とがめの生き方を否定されたくねえんだ…と。
 そう、否定姫が自らの命で償おうとする董卓を許せなかったのは、そこだった。
 かつて、否定姫が、尾張幕府に仕えていたころの宿敵であり、雌雄を決する闘いを望みながら、不本意な決着をつけるしかなかった七花の元あるじである奇策師とがめ。
 幼いころに、尾張幕府によって父親を、一族を皆殺しにされ、尾張幕府への復讐のためだけに生き抜き、あまつさえ、自分の父親を殺した者の息子である七花の主として仕えさせた。
 そして…最後は、己が目的を成就する目前で、否定姫の放った刺客によって道半ばに逝った。
 董卓とは逆…とがめは、死という安寧より、ありとあらゆる手段を使い、地獄のように苛烈に苦しく生きることを選んだ。
 それは、否定姫にとって、断じて否定することを許さない―――例外中の例外。
 故に、否定姫の目には董卓の償いは、ぞの例外を否定することに他ならなかった

「でもいいわ。私はあんたを否定する。一切合財わずかたりともあんたのことを肯定しない。私はあんたみたいな人間が―――」

 否定姫は、大嫌いよと告げる直前―――

「私もそれには賛成ですね。まあ、個人的に自殺は反対です。殺せないですから」
「っ!!」

 不意に横から口出しをされ、言葉を遮られた。
 聞きなれぬ声に七花らが、聞きなれた声に董卓らが振り向いた先に、彼は堂々と立っていた。
 道に、路地に、屋根に―――何百という人形達を従え、彼は先導者のごとく人形たちの前に立っていた。
 李儒―――否、零崎儒識は!!!

「初めまして、鑢軍の皆さん、こんにちは。ようやく追いつきましたよ、月さん」
「李、儒さ…ん…」

 にっこりと、それこそ晴れやかな笑顔を見せる李儒だったが、董卓らには、最悪の相手に会ったという恐怖の対象としか映らなかった。
 とここで、董卓を突き離して、否定姫が前に出てきた。

「へぇ、あんたが李儒っていうの。汜水関じゃ悪趣味な人形遊びで、猪武者とやりあってたそうね」
「ええ、あれはあれで、楽しかったですよ。もう少し余裕が…」
「じゃあ、死になさい」

 話の途中にも関わらず、否定姫は、炎刀<銃>―――回転式拳銃を抜くと、容赦なく、躊躇もなく、李儒の額に向けて発砲した。
 だが、弾丸が李儒の額に届く前に、李儒の操る人形の一つが、壁となり、弾丸をすべて受け止めた。
 直後、人形の全身にひびが入り、中身―――血液と内臓がこぼれ出した。

「危ないですね。話の途中で普通撃ちますか?つうか、リボルバー拳銃って、三国時代にありましたっけ?」
「っ余裕じゃない…まあ、でも、あんたがこの時代の人間じゃないってことは確かね」
「おや、カマかけてたんですか。ま、正解なんですがね」

 一本取られましたねと、付け加えつつも、あくまで李儒は余裕の態度を崩さない。
 もとより、否定姫は最初から攻撃を当てるつもりはなく、敵がこの三国時代の人間、或いは自分たちと同じ世界の時代から来たかを確かめるため、炎刀<銃>を使用したのだ。
 結果、李儒という男は、三国時代の人間でもなく、否定姫らと同じ世界の時代でもない―――自分たちの世界より未来の世界から来た人間と判断した。

「あんた、まさか…」
「貴様、どういうことだ!!!」

 とここで、否定姫の背後にいた愛沙が、怒りを露わにしながら、得物である青龍堰月刀を李儒に突きつけた。

「おや、どうしました?というか、人と話をしている最中に、割り込むのは礼儀に反する行為だと思い…」
「そんなことはどうでもいい!!その人形の中身は何だ!?」

 やれやれと言った表情で、話を遮られた李儒は、礼儀知らずの子供を叱るように愛沙を窘めた。
 しかし、当の愛沙にとって、それは些細な問題でしかなく、人形から零れおちた大量の血液と内臓を指差し、怒り眼で李儒を睨みつけながら、問いただす。

「ああ、これですか。白装束さんから、ちょっと10万人ほど譲ってもらい、私が殺した人間の臓器と血液を人形に詰めただけですよ。結構、リアルですね。まぁ、表情などはさすがに無理がありましたがね」
「なんですって…あんた、白装束とグルだったんだね!!」
「貴様、洛陽の民を、罪もない民を無残に殺したのか!!なぜだ!!」

 凄惨な殺人事実を気にすることなく、悠々とした態度を崩さない李儒に対して、賈駆は董卓を裏切り、白装束についたことを、愛沙は十万人の民を無残に殺し、死体を辱める李儒の残虐非道な行為に怒りをあらわにした。
 だが、そんな二人の剣幕さえも、李儒はやれやれといった表情で首を振った。

「何をそんなに怒っているのですか?まず、賈駆さん、私は裏切り者じゃありませんよ。」
「何ですって…どう見たって、裏切りじゃないの!!」
「賈駆さん。裏切りとは、相手が対等の仲間である時に成立するもの。殺す予定の獲物では、その関係は望めません。それと…愛沙さん。私、これでも殺人鬼ですよ」
「…だから、どうした?」
「いえ、殺人鬼ですから、殺すのが当たり前ですから。何故だという質問はなしでしょう。だって、私、人を殺さずにはいられない殺人鬼ですしね」

 あくまで自然と、他愛のない話をするように、李儒は愛沙に笑顔でもって返した。
 ともすれば、態度や表情は、どこにでもいるような気さくな青年にしか見えないが、返す言葉はどこまでも壊れた人間のそれだった。
 愛沙は、下にうつむくと、肩を震わせた。

「そうか…よく分った」
「ああ、分ってくれましたか。それは何よりです」
「貴様は、生きてはいけない人間だということがだ!!」

 もはやこの男、李儒と交える言葉などない―――人ではなく、悪鬼羅刹には、言葉ではなく、刃でもって打ち倒すしかない!!
 決着をつけようと、堰月刀を振りかざす愛沙に、李儒はやれやれといった表情で、首を振った。

「随分な言いようですね。まあ、どうしようもないのは、理解してますが…」

 迫る愛沙を前にして、李儒は初めて顔をゆがめた。
 まるで、汚らわしいモノを見るように。

「おたくらにだけは言われたくないですよ。栄光だの名誉だの大義だのと喜々としてもてはやすイカれた<殺人鬼>にはね」
「なんだと…?」
「良く聞こえませんでしたか?では、もう一度。栄光だの名誉だの大義だのと喜々としてもてはやすイカれた<殺人…」

 瞬間―――李儒が言い終わる前に、憤怒の形相を浮かべた愛沙は、青龍堰月刀を振りかざし、一気に李儒へと切り捨てにかかった。
 乱世に苦しむ民を救う―――自分や鈴々、桃香の思いを、誓いの思い出を、こいつは、この殺人鬼は、この外道は、下らないと嘲笑し、自分と同じく殺人狂だと同列に置き、踏みにじった。
 怒りに身を任せるように愛沙は、李儒を守るように向かってくる人形達を次々と一太刀で斬り捨て、李儒へと迫っていく。
 そして、李儒の前にいる子供の姿をした人形を斬り捨て―――

「愛沙、すまん!!」
「…ダメ」
「かああああああつ!!!」
「へ、え、ちょ…何をするのですか!?」

 と人形に刃が届く寸前、愛沙に、まず、七花が、愛沙の胸を掴むように抱きつき、次に恋は愛沙が斬り捨てようとした人形を守るように抱き抱え、最後に貂蝉が賊刀<鎧>の防御力でもって、堰月刀の一撃を受け止めた。
 思わぬ横やりを入れた三人…特に思いっきり胸をもんでる七花に対し、戸惑いの声を上げた。

「危なかった…すまん、おっさん」
「だれがぁ、おっさんよ!!…それはともかく、敵の挑発に乗っちゃうなんて、危うく無実の人間が死ぬところだったじゃない」
「だが、あのような暴言見過ごす訳…え?」

 反論しようとした愛沙だったが、貂蝉の言葉に思わず凍りついた。
 まさかと思いつつも、愛沙は人形を抱きかかえる呂布のほうに目を向けた。
 そのまさかは現実だった。

「…大丈夫?」
「んーんー!!んーーー!!」
「なん…だと…」

呂布に抱きかかえられていたのは、人形ではなかった。
 人形の面をかぶせられた正真正銘、生身の体を持った―――口を糸で縫いつけられ、声を出せずに、恋にしがみつき泣きじゃくる子供だった。

「本物の人間なのだ!!」
「そうね、鈴々。まぁ、李儒だったかしら。芸のない悪党らしいことするじゃない。大量の人形に、生身の人間を紛れ込ませるなんてね」
「はいv」

鈴々と否定姫の言葉を肯定するように、李儒は笑顔で応え、指を動かすと、複数の人形が面を取り外した。
いずれも、先ほどの少女と同じく、口を糸で縫いつけられ、李儒の操る糸でもって体の動きを強制的に制御された生身の人間―――殺されずに済んだ洛陽の民の生き残りだった。

「貴様、どこまで非道な真似をすれば!!」
「いえいえ、激昂しないで下さいよ。良かったじゃないですか。生きている人間もいるんですから。そう…生きている人間がね」
「…っ!!」
「ひどすぎます…こんなの策でもなんでもありません!!」

李儒の狙いに気付いた朱里は、あまりにも悪辣な行為に涙を流しながら、責め立てた。
無数の人形がいる中で、生身の人間が混じっている―――すなわち、もし、無差別に攻撃を仕掛けようものなら、生身の人間までも斬り捨てる可能性もあり、こちらからは迂闊に攻撃できなくなる。
さらに戦闘中で、しかも、洛陽の民は口を糸で縫いつけられ、仮面を被っているため、ほとんど見分けがつかない状態―――状況は最悪になりつつあった。

「然り。これは元より私の趣味です。これより始まるは李儒、もとい零崎儒識による戦場狂騒人形劇。舞台に立った以上、あなた達を含めた連合軍全て余すことなく最後まで踊ってもらいますよ。それと、董卓さん…」
「え、きゃあああ!!」

と次の瞬間、董卓の背後から、一体の人形が地面から飛び出し、董卓を抱えるとそのままどこかへと走り去った。

「あなたには、ちょっとしたヒロインを演じてもらいます。役者にやる気を出してもらわないと張り合いがないので」
「月!!李儒、あんたぁ!!!月を、月を返しなさいよ!!」
「李儒るううう!!!あんたは殺す!!あたしが完全に殺してやる!!」
「ええ、返しますよ。そして、殺していいですよ。ただし、この洛陽のどこかにいる私を捕まえられたらの話ですがね」

激昂する賈駆と狂犬を尻目に、李儒は余裕の笑みを浮かべながら、人形たちの中に紛れ込み、走り去っていった。

「おい、姫さん、あいつ、逃げちまったぞ…早く追いかけないと…!!」
「そうね。まぁ、その前に、こいつらをどうにかしないといけないわけだけど…」

否定姫の言葉を肯定するように、周囲にはいつの間にか、そこかしこに人形たちが集まり、逃走した李儒の追撃を行おうとする者たちを阻むように立ちはだかった。

「んにゃ、あ、集まってきたのだ!!」
「くっ、己ぇ…!!」

鈴々の言葉通り、武器を持った人形たちが集結する中、苦々しく武器を構える愛沙。
人形自体はそれほど苦戦するような相手ではないものの、人形の中に洛陽の民が混じっており、見分けもつかないので、迂闊に攻撃をしようものなら、洛陽の民まで傷つけかねない。
とその時、城外の方から、大群が移動するような地響きにも似た足音、その直後に、響き渡る刃と刃がぶつかり合う音が次々と響き、合間に合間に断末魔の叫びが飛び交い始めた。

「この分だと、城外にいる連合軍にも、攻撃を仕掛けているようね」
「はわわ…雛里ちゃんや星さんは大丈夫でしょうか?」
「さぁな――来るぞ、みんな!!」

七花が皆に注意を促すと同時に、七花らを取り囲んでいた人形たちがいっせいに襲いかかった。

同時刻―――

「ほう、始まったか。こりゃそうかんだねぇ」
「やつらの話では、ほぼ人形どもが占めているようだが…連合軍は勝てると思うか?」
「どうでしょうねぇ?まあ、人質の犠牲を無視するなら、なんとか勝てると思うですぅ~」

彼らの目に映るのは、洛陽から現れた李儒の操る人形に戸惑いつつ応戦する連合軍との戦場だった。
今のところ、連合軍も体勢を立て直し迎撃しているが、敵である人形に混じっている人質らに気付けば、一気に形勢不利に追い込まれるであろう。

「はん、そうかいそうかい。だが、それじゃあ、面白くねぇよな」
「どうする…いや、聞くまでもないか」

もう一人の女は、やれやれといった感じで首を振った。
ここで、連合軍が負け、あの連中のいう異分子が死ねば、奴らの目的を達成させることもできるだろう。
だが、それでは駄目だ。
その程度の改竄で満足することはできない。
そう、まだできない。

「さて、まずは、人形どもと哀れな連中の見分ける策は?」
「ああ、問題ないですぅ。ちょうど良い方法があるですぅ。少なくとも、死にはしないはずですぅ。運が良ければですが」
「上等、上等。なら、ちょっとばかり、俺の代わりに兵を率いてもらうぜ」

彼らが振り返った先には、以前より親交を深めていた北の大将からの応援である完全武装した数千人の兵士が隊列を組んでいた。
ただし、兵士らの装備は異民族特有の戦装束ではなく、胴丸と呼ばれる鎧を身に着け、ほぼ2m近くある重藤弓や分厚い鉄さえも切り裂く日本刀を装備した―――本来ならあり得るはずのない日本の戦国時代の―――軽く十世紀以上も前倒したような技術を身につけた兵士たちが軍団をなしていた。
そして、ありえない軍を率いる者の名は―――

「それでは、これよりの戦は、不祥、司馬仲達が仕切らせてもらうですぅ」


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030533075332642