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No.4749の一覧
[0] test[隙間風](2008/11/09 21:53)
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[4749] test
Name: 隙間風◆c75fb22c ID:55cf9112
Date: 2008/11/09 21:53





#01 迷子





秋。夕暮れ時の公園。
父娘の前で小さな子供がわんわんと泣いていた。
父娘と子供の三人以外に人の気配は無い。
しばらく元気に泣く子供を見ていた父娘だが、ふと父が娘に訊いた。

「娘よ。何故この餓鬼は泣いているのだ?」
「さぁ、知らんな。聞いてみてはどうだ?」

娘の答えはにべもない。興味がないのだろう。
だが答えには肯けるものがあった。父は子供に訊いた。

「おい餓鬼、何を泣く」

子供は応えない。ただ泣く。ひたすらに泣く。
父は肩をすくめて娘に向き直った。

「駄目だ、話にならん」
「ならばまずは泣き止ませたらどうだろう」
「それだ、娘よ」

天啓とばかりに拍手を打つ父。しかしすぐに首を傾げる。

「して、どう泣き止ませるべきか」
「さぁ、とりあえず物で釣るのが定石ではないか?」
「物か。……子供ならば菓子か、玩具か」
「まぁ、そんなところだろう」

娘の答えはそっけない。面倒くさいのだろう。

「娘よ、何か持っているか?」
「いいや、今は特に何も。父こそ何かないのか」
「……あるにはあるのだが」

娘に問い返され、懐から小石大の黒い包みを取り出す。
眠気覚まし用の超強力ミントキャンディであった。
わずかに娘の頬が引きつる。

「父よ、人間の嗜好など千差万別ではあるが、子供にそれは、控えめに言っても分の悪い賭けになるぞ」
「うむ、余計に泣かせる結果となる可能性もあるな。しかしこのままでは埒が明かぬだろう」

そして父はキャンディを娘に差し出した。

「何故私に寄越す」
「リスクの軽減だ。大人の俺が泣かせてしまってはまずかろう。だがお前ならば然程問題にはならん」
「娘を生贄にするか、外道め。このまま走り去ってくれようか」

嫌な時代だ。泣く子供と二人きりにすれば父の鋼の精神も多少は揺らぐやも知れん。いやあり得んが。
そんなことを考えながらも娘は包みを剥がし、ドス黒い砂糖と香料の塊を、未だ泣く子供に手渡した。
子供はほんの少しだけ泣き止むと、娘をちらちら見ながら、手渡されたキャンディをほおばった。
三秒後、超泣いた。

「やはり賭けは失敗か」

公害の域に達しつつある泣き声を聞き流しながら、父が冷静に現実を受け止める。
もともと分の悪い賭けである事はわかっていた。問題はない、想定の範囲内だ。

「それにしても良く泣くものだ。何がここまでこの餓鬼を駆り立てるのだろうか」

感心したように父がつぶやくが、娘は下らなそうにふん、と鼻をならす。

「子供がおもてで泣き喚く理由などそうあるまいよ。ケンカか迷子かのどちらかだろう」
「ならばおそらく後者だな。見たところ外傷は見当たらん。ところで娘よ」

何だ、と娘が返す。

「そろそろ何か面倒臭くなってきたのだが」
「奇遇だな。私は最初からそうだったが」
「そうか、では帰るか」
「そうしよう」

見捨てられそうな気配に子供の泣き声が更に一オクターブ上昇する。歌手の才能があるのかもしれない。
父娘が子供から背を向け、歩き始める。

「無駄な時間を喰った。無駄のついでだ、今日は外食と洒落込もうか」
「父よ、本当か? 和風ハンバーグ定食を頼んでも構わないか?」
「無論だ。デザートをとっても構わんぞ」
「父よ、大好きだ」





秋。日暮れ間近の公園。
仲睦まじく去ってゆく父娘の背を、子供は泣きながら見送った。
日暮れまで泣き、そして子供は泣く事をやめた。
泣いているだけでは事態は何も変わらないどころかむしろ悪化するだけだということを、超強力ミントの味と共に思い知ったのだ。
近くの家で電話を借りて母に迎えに来てもらった。
心配されると同時にひどく怒られたが、あれほど恐ろしかった母の怒鳴り声も、何故か前ほど怖くは感じなかった。
それは、子供が大人への階段を一歩上がった証拠なのかもしれない。
子供は、少女の人形のような顔を思い出しながら、もう一度あの黒いキャンディが食べたい、と思った。
でも父親のほうはくたばりやがれ、とも思った。






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