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No.43159の一覧
[0] 【習作】魔法なんぞクソ喰らえ、面倒事は嫌いだ[あうあい](2020/06/14 18:41)
[1] 魔法なんぞクソ喰らえ、面倒事は嫌いだ[2][あうあい](2019/10/05 17:12)
[2] 魔法なんぞクソ喰らえ、面倒事は嫌いだ[3][あうあい](2020/06/14 18:42)
[3] 魔法なんぞクソ喰らえ、面倒事は嫌いだ[4][あうあい](2020/06/14 19:03)
[4] 番外 魔法戦術大論[1][あうあい](2020/06/14 19:04)
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[43159] 【習作】魔法なんぞクソ喰らえ、面倒事は嫌いだ
Name: あうあい◆f851889d ID:84406ab1 次を表示する
Date: 2020/06/14 18:41
 その土地にしては珍しい、季節外れの雨が降っていた。そんな街の中の裏路地で。

「……お姉ちゃん! 大丈夫!?」
「…………」
「チッ、気絶している。なんてこっちゃい」

 あまりショックを受けていなさそうに、一人の少年は舌打ちした。しかし、実際の所。

「この血痕、傷の付け方……。となると犯人は、○○○なのな? ほーう。へえ。あくまで喧嘩売っていくつもりなんだ」

 双子の姉の傷の具合から、素早く丁寧に犯人を割り出す。その程度には激怒していた。どうやら○○○が犯人のようだ。
 少年は雨に紛れてこれ幸い、とばかりに涙を溢れさせつつ、耳を澄ませた。

(……ここから7時の方向1キロ先に、若干名が足音を殺して走っている……? なんで?)

 そして雨の音で聞き取りにくいはずの音を、的確に聞き取る。

(やっぱりあの人なのかなー? …………うーんと、ごめん! すぐに戻ってくるのぜ!)

 心の中で謝っておき、少年は雨の中走り出す。






 自分の名前は、渡良瀬光莉。ほんの中学2年生。男子。4人兄弟の2番目。双子の姉と、年子の弟と、離れた妹がいる。

 この年頃というのは非常に厄介らしい。以前から中二病を患っていたが、この頃は更に酷い。
 とにかく手当たり次第に漢字を引っ張り出す。ともすれば、広有射怪鳥事とか口ずさみたくなる。じゃなくても九字を切りたくなる。まあ、今のは嘘だけど。でも漢字は素晴らしいと思うんだ。

 中二病で思い出したけど、女装は楽しい。どこが楽しいかというと、女子と思わせて実は男子だぜ、ってのが楽しい。
 初めて会う人は大概誤解する。そこで暫く女子っぽく振る舞う。声も表情も仕草も、全部作る。童顔だし、肌も手入れしているので、まずばれない。そして素性を明かす。次いでに鼻も明かす。驚いた顔を見ると、とても楽しい。言っていて思ったけど、悪質だな。でもやめない。

 それはそうと、毎日株をやって、毎日動画を上げて、これを9年続けてきた。気づくと大富豪。
 純資産は10億ドル。日本円で1000億円。何を言ってるか自分でも分からん。分かるけど、だからこそ分からん。

 でも、うちの家系はこれくらいぶっ飛んでいる。だから全体で見たら正常。むしろ親戚のほうが人外を疑わねばならん。
 当然こんな生活は疲れる。ただのステレオはあまり喉に優しくない。皆も喉は大切にしよう。

 忙しい。その代わりに楽しくもあった。

 7月28日。その日が来るまでは、もう暫くこれ以上に楽しいことなんて見付からんだろうと思っていた。






 時計の針はもうすぐで4時。外は真っ暗。対照的に、地下室は蛍光灯とブルーライトでギラギラ眩しい。
 パソコンを多重起動しているから、発熱対策にクーラーをキツめにかけている。パーカーでも羽織らないと、凍え死ぬくらいだ。
 そんな地球環境に悪い地下室で、自分はひたすら宿題をしていた。ああ、忌まわしい夏休みの宿題。なんて苛々する。
 絶賛4徹中というのもある。でもこれ、光莉、悪くない。
 宿題とは「悪」なのだ。
 悪いものには長い時間触れたくない。だから接する時間を減らすことは、ごくごく自然な事だ。

 根拠を示そう。

 まず、宿題とは教師が自己満足のために課するものだ。この時点で悪であることは、明らかだろう。理由はごく単純。課題者が怠けたいから。
 提出された宿題をチェックするだけで、生徒たちの学力を把握した気になり、その結果に基づいて授業を展開するのだ。宿題には必ずしも、生徒の学力が反映されているとは限らないのに。
 そう、解答を写す生徒が一定数いるのだ。受験学年でないなら尚更だ。
 しかし、綺麗事に覆い尽くされてしまって、宿題の本質が見えにくくなっている。一部の真面目な生徒や保護者はこれを真に受けて、鵜呑みにしてあっさりと騙される。
 そうして、せかせか宿題に取り組むのだ。枕草子風に言うなら、「かたはらいたきこと、宿題をまめに物したる生徒」ってね。
 ともかく、PDCAサイクルに則ったこの指導方法は間違ってはいない。ただ、前提条件、「生徒が真面目に宿題する」ことが必ずしも満たされてはいない。
 これではまるで意味がない。この世は、無意味に存在するものなんてない。とすると、無意味な存在の権化たる宿題は、理に反する忌むべきものだ。


 ほーら、どう見ても宿題は悪。はっきり分かんだね! 分かんだね!

 そういう自分は、ご覧の通り、文句を垂れながらも、真面目にやっている。これでは自己主張できていないことになる。資本主義社会では、自己主張の足りない臆病者こそ、真っ先に淘汰されてしまうというのに。残念だ。
 冗談はさておいて。
 自分という人間は、計画を立てたら、それに従わないではいられないのだ。
 要するに、4日前に、自分は阿呆なことを仕出かした。

「4徹で、宿題を、片すぜ!! まず計画を立てっぞ、おー!」

 その結果がこれだ。
 ご丁寧に、計画表の横に「ネット厳禁」と書かれてある。
 いや、死ぬから。ネットがない、イコール精神安定剤を手放すことだから。せめて『運命のダークサイド』は聴きたい。
 そんなこんなで正解をガリガリ埋めていくと。

「リンゴン」

 LINEの通知が来た。嫌な予感しかしない。かと言って出ない訳にはいかない。
 重要なものだけに、通知が来るように設定したからなぁ。
 宿題と比べたとしても、宿題の方がマシ……でもないな。LINEより、宿題の方が体にも心にも悪い。

 地下室中央ら辺に置いた、小型冷蔵庫。座卓から出て、そこまでまではいはいする。そして、冷蔵庫の上に置いたミクスペリアの画面を点けると、案の定通知が来ていた。

「姐姐:我们今天早餐吃饺子吧。请快来给我帮忙哦。」
(日本語訳
 お姉ちゃん:朝ごはんは水餃子よ、早く来て手伝って)

「喜んで行きますとも、ええ、宿題をサボる口実に是非とも!」

 声に出してしまうくらい、快報だった。嫌な予感は外れてくれたぜ、やってやったぜ!

「明白了」
(日本語訳
 分かったのぜ)

 手早くそう返すと、エレベーターで1階まで登った。






 おはようございます。自分は睡眠欲が限界です。食欲は水餃子で既に満たされております。徹夜の所為で寧ろ吐きそうなくらいです。ご高覧の通りこのような透き通る快晴の日には、全く相応しからぬ体調であります。失礼、申し遅れました、自分は渡良瀬光莉と申す者です。別に我らが帝国(ライヒ)から軍位は授けられてはございません。

 変な喋り方は止めるとして、っと。
 水餃子の料理中にアクシデントがハップンした。
 我が家の屋上には、植物園に紛うほど大きい菜園がある。
 お姉ちゃんがニラ、ネギ、にんにくその他を採集しに菜園に行った訳だけど、なんとなんと、

 キイロスズメバチの巣が大繁栄しているだなんて、そんなの誰が知るかってんだ、そりゃ気付かず巣に突っ込むわ。(CV:ゆっくりボイス(女2、高さ120、速さ55))

 お姉ちゃんは基本的にスペックが高い人間だけど、流石に全部のハチを(はた)き切れず、2箇所も刺された。見ていて痛ましい限り。
 屋上の管理を任されていた弟、一樹の責任ってことで、一樹の自転車ですぐに緊急外来までかかりに行った。
 一樹の奴、自転車の上でお姉ちゃんにかなりしごかれたろうな。自業自得だからお兄ちゃんは助けませんが。

 因みに、困ったことにその後全ての食材を、自分1人が処理する羽目になった。生地を練って皮を作り、具を混ぜては包み込む。仕上げに茹で茹でタイム。いやこれ、1人でやるような作業量じゃないから、もう。でも宿題やりたくないし……。
 そんな訳で全ての餃子を茹で上げたのが、5時半くらい。
 どこからともなく親が起きてきて、ぽんぽん口に放り込んでいく様は最早何も言えなかった。

 そして行きたくもない、訳じゃないが、進んで行きたくはない学校まで向かった。部活と希望制講座(インテリ気取り御用達)しか用事はない。スクールバスは、今日も汗臭い。
 駐車場にバスが止まると、わらわら生徒が降り出てくる。自分もそこに混ざって玄関まで歩く。
 さて、目の前の惨状について教えてくれ。

 登校した。分かる。
 自分が受ける予定だった東風平先生が、何故か銃撃を受けたらしい。なるほど。
 お蔭で事務室に前には血だまりと人だかりが出来ていた。イマココ。

 ……。
 …………。
 はい?

 ちょっと待て、ビデオを巻き戻せ、逆再生しろ! できねえよ、ここは現実だ!
 じゃなくて! 何これ。何だこれ。
 何故に事故、違う、事件が起こってやがるんじゃ、こら。
 はい、深呼吸しませう。すーはー。げほっ、鉄の匂い……げほっ。おっと、吐き気が活性化しやがった、我慢しろ。

 ふう落ち着け、自分。
 うん、落ち着いた。
 さて、東風平先生本人は銃創によるショックか気絶している。そんでもって銃弾は貫通していると思われる、と。いかついお顔が青褪めて却ってホラー。
 何を言っているか自分も錯乱して、理解が追いつかない。うーん、どうすべき?
 …………よし、状況把握よりも状況対応の方が宜しいな。分からないものは放置が原則。対処が先。
 じゃあ、できることから。
 まずは、――止血だな。救急車は誰かが既に呼んだようだからそこは任せておいて。
 鞄を持ったまま人混みをかき分ける。応急処置が第一優先課題。
 見る限り銃弾は貫通しているようだから、ある意味傷は深くないだろう。少なくとも手術は楽になるはず。
 先生に抱きついて離れない女子生徒を宥めて引き剥がす。

「失礼します」

 先生のお気に入りのかりゆしを破る。ボタンが飛んだけど、仕方ない。時間との戦いだし。
 はて? 直径約40mmとな。相当にデカい傷口だ。見ていて痛い。膵臓と動脈をやられてないようだから、よしとしよう。
 鞄を床に置いて、買って間もないリンゲル液を取り出す。躊躇せず銃創にぶっかけて傷周りを洗う。ちくせう、高かったのに……!
 そこに保健室の東江先生が走ってきた。ガーゼ、タオルに、カフェイン。……無駄がない選択で大変素晴らしい。

「ちょっと退いて」
「わまりかした」

 指示されて少し離れる。
 新品の注射器にカフェインを吸い込んで、手際良く鎖骨辺りに針を刺す東江先生。何やらぶつくさ呟いている。手順の確認でもしているのだろうか。
 ここまで来たら見守ることしかできないな、とか思ったら。

「光莉ちゃん、手伝って」
「圧迫止血ですね?」
「背中側の方をお願い」

 ちゃん付けされた気がするけど、どうでもいいや。
 ガーゼで傷口を押さえつつ、銃創に血が回らないように強めに圧迫する。
 ふぅ〜、これで何とかなるだろ。救急車が来るまでこのまま止血していれば、失血死はしないはず。
 それから救急車の到着まで、東江先生と二人がかりで止血に専念した。

 それにしてもやばい。何がやばいかって、こんな手当てをする機会があるとか、普通に生きていたら有り得ないと思うけども。
 ……何かに巻き込まれるんじゃないだろうな。楽しさの欠片もないような面倒事だったら嫌よ?

 そんなことがぼんやり思考に上っていた。
 まあ、当時の自分には、未来でどんな事に巻き込まれるか、知る由なんてもなかった訳だが。


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