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前回からの続き
賢者から知らされた衝撃の真実。
そして勇者はついに魔王との決戦を決意するのか!?
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古い石碑だ。年月による風化で文字が判読できない。そもそも読めない文字か?
「賢者様。これは?」
「古代ボルスレトロス帝国のものだ。魔法使い殿ならば読めるかな?」
うながされて魔法使いは赤いフードをおろしてじっと石碑を見つめる。
「おれっちも古代ボルストロース語は専門外なんですが……。これは?……。よっつ。はっぱ。わたしで、あ、る。わたしはよっつの葉。わたしは四葉!」
「うむ。儂はこの石碑を発見したときに確信した。この世界は、鈴木四葉で構成されていると。そして、儂は世界中のあらゆる村、街、都市の住人から、時には禁断の時間遡行の魔法まで駆使してあらゆる人々と接触し、その秘密を聞き出した。四葉の転生であるということを」
なんということだ。もとは一人の人間がコピーされて世界中の人間として転生していたとは。
「それでは、わたしが冒険の中で出会ってきたすべての人は?」
「そうだ。みな、そなたに協力的であったであろう?」
「『魔王を倒せ、それが出来ぬならば魔王を倒す手足となれ。それも叶わぬのならばその糧となれ。』」
「しかしですよ。賢者様。よくもまぁ、今までこの秘密が公にならなかったものですね。」
「うむ。僧侶どの。では、今まで自身の秘密を人に話したことは?そうであろう。みな、もとは同じ人間だからな。それぞれ歩む道は別なれど。」
賢者は目を閉じると、すぅっと息を吐いた。
「人だけではない。」
「馬鹿な!」
「では勇者よ、どうして、そなたの成長に合わせるように弱い順からモンスターがあらわれるというのか?まるで、そなたを育てるためにだけ存在しているかのようなモンスターをどう説明をするのだ。」
「『魔王を倒せ、それが出来ぬならば魔王を倒す手足となれ。それも叶わぬのならばその糧となれ。』」
「やめろ!盗賊!」
「……。」
「そして、儂は思う。魔王自身すらも、そうであると。」
!!!!!!!
「そっ、そっ、それはいくらなんでも。」
「最初の城を覚えておられるか。どうして、河をはさんだ対岸に魔王の城がそびえ立っていたのか。なぜ、あんなところに城をたてた?勇者よ、なぜ魔王の城に乗り込まなかった。」
「いや、それむりやろ。なんぼなんでも。レベル1やで。ないやろう。」
「そうかな?儂は思う。レベル1でも魔王は倒されてくれたのではないかと。」
「では。では。我々がやってきたことは無駄であったということですか。」
沈黙がのしかかろうとしたとき、戦士が言った。
「魔王の城に行こう、勇者。旅を終わらせるんだ」
「待て。我々は確かに強くなった。しかし、まだ魔王と決戦するまでの力はついていない。もしも、賢者様の推察が間違っていたらどうする?」
魔法使いが戦士を遮るように言った。
どうするべきか?
みなが勇者に答えを求めている。
しかし、勇者には答えが出せなかった。
「賢者様、私にはわかりません。どうすればよいのでしょう?」
伝えるべきことは伝えたからであろうか、すべてのことに興味を失った世捨て人の様子に戻った賢者が薄らぼんやりとした灰色の眼で勇者を見る。
「コイン占いでもすればよいのではないか。金貨の裏表で決めてみろ。」
「賢者様!真面目に聞いているのです!」
賢者は灰色の眼を氷のように冷やしながら勇者に言う。
「不敬である。我、いつなんどきなれども真言しか述べず。豎子、金貨をもちいよ。」
賢者の様子に驚いた勇者は不承不承ながら腰につけた革財布から金貨を取り出そうとした。
いや、ない。金貨も銀貨も銅貨も。財布の中には何もない。
「財布の中身が空っぽ。それが問題なのだ。」
賢者は興味なさげにつぶやいた。