<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.41638の一覧
[0] 転生者が蔓延る世界に生まれた僕は奴隷市場で前世勇者の転生者を見つけて購入したけど特に冒険的なイベントを起こさず、都市経営に専念します。[ニョニュム](2016/10/06 22:51)
[1] 出会いの日(1)[ニョニュム](2016/09/21 21:11)
[2] 出会いの日(2)[ニョニュム](2016/09/06 21:40)
[3] 出会いの日(3)[ニョニュム](2016/09/06 21:41)
[4] 出会いの日(4)[ニョニュム](2016/09/06 21:42)
[8] 出会いの日(5)[ニョニュム](2016/10/06 22:39)
[9] 出会いの日(6)[ニョニュム](2016/10/16 20:24)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[41638] 出会いの日(5)
Name: ニョニュム◆473938c4 ID:754c1ba2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/10/06 22:39
 カトラとの話し合いを終えたミーゼは【妖精の港】に足を踏み入れた。店内を見渡すと店内は薄暗く、淡く光る赤色のランプが光源としての役割を果たしていた。少し鼻に付くような甘い香りが店内に充満している。恐らく、なにかしらの香を焚いているのだろう。
 ミーゼには少し苦手な匂いであり、気付かない内に眉間へ皺を寄せている。
 実際に行った事や利用した事は無いが奴隷の販売店という割には内装が娼館そのものである。

 ミーゼは少しだけカトラの様子が気になり、チラッと自身の後ろに控えているカトラへ視線を送るが嫌悪感のような気配を顔に出したりしていない。勿論、ミーゼの護衛も兼ねている立場なのでこの程度の事で動揺する筈は無い。

 それよりもミーゼが意識を向けるべき相手は他にいる。ミーゼが来店した瞬間、疑り深く観察するような視線を向け、メイド服を纏ったカトラが続いて来店した時に何か察した様子で胡散臭い柔和な笑みを顔面に張り付けた店主の方である。

「ようこそいらっしゃいました【妖精の港】へ。本日はどのような御用件でしょうか?」
「奴隷を少し拝見させてもらいたいんだけど大丈夫かな?」
「ええ、それは勿論です。よろしければお連れ様には休憩室でお茶でもお出ししましょうか?」
「いえ、お気遣いなさらずに。旦那様を御一人にするなど私の職務に支障がありますので」

 奴隷市場の一等地に並ぶこの店を訪れて、奴隷を購入する事以外の要件があるのか、逆に尋ねてみたいくらいだ。
 白々しくミーゼ一行に要件を尋ねた店主は不自然さを見せない自然な流れでミーゼとカトラの分断を謀るがカトラがその提案を一蹴する。

 金持ちの子供というのは道楽で奴隷を購入する事が多い。店主の目から見て、御付であるカトラを引き剥がし、ミーゼ個人と話した方が扱い易いと判断したのだろう。
 実際、カトラは優秀な人材である事に違いない。

 とはいえ、ミーゼはここへ奴隷を購入しに来た訳で店主と心理戦をやらかしにきた訳では無い。個人的に使用出来るお金は十分に持ってきている。値引きなどの交渉は最初から考えていない。

 しかし、このまま店主の言い値で奴隷を購入するマヌケを演じるのは少し癪に障るのも事実。少しだけならこちらがどのような人間なのか、アピールするのも悪くない。

「店主、よろしければこの店の品揃えを尋ねてもいいですか?」
「ええ、勿論。当店は基本的に若い女の奴隷を扱っております。もし好みに合わないのでしたら他店の紹介もしておりますが?」
「いえ、大丈夫です。若いと言っても成人の儀――失礼、十五歳を超えているのであれば構いません」

 白々しく成人の儀を話題に出すミーゼの言葉に店主は眉をピクリと反応させる。身元を隠して入店する事の意義を語ったすぐ後に身分をばらしたミーゼに対して呆れるようなカトラの視線が突き刺さる。しかし、店主の変化は一目瞭然だった。

 帝国において成人の儀は一般的な儀式である。しかし、それは子供を十五歳まで勉学に集中させる事の出来る貴族内の話だ。つまり、自然と成人の儀を口にして訂正したミーゼの正体を店主は把握した。
 成人の儀と言う言葉をわざわざ訂正して、十五歳という言葉に変えた意味。貴族ではあるが貴族であると扱われたり、詮索されたりしたくない貴族という事だ。この街で培ってきた経験からそういう手合いは訳ありが多い。

 この店を売り込むべきか否か、笑顔を張り付けた表情の裏でどれだけの可能性を思案しているのだろうか。まあ、実際は普通に奴隷を買いに来ているただの客なのだが。

「そうですか。それでは一部屋ずつ案内致しますのでこちらへどうぞ」

 店主なりの予想を終えたのだろう。成金の子供を扱うような態度から違和感を覚えない程度に少しずつ丁寧な態度へ変化していく店主の役者ぶりに感心しながら店主の案内で店の奥に向かう。
 そこは上に続いている階段といくつかの部屋へ続く扉がいくつも配置されている廊下だった。扉には覗き窓のような物があり、そこから部屋の中にいる奴隷を確認するシステムのようだ。

「お客様が見学されている事は彼女達も判る事になっております。ですが、ご安心ください。彼女達からお客様の顔が確認出来ない仕様となっていますのでお客様の顔がむやみに知れ渡る事はございませんので安心してください。もし、気に入った奴隷がいた場合は仰ってくだされば、感触程度なら確認する事が出来ますので……」

 言わぬが花、と言った様子でニヤリと笑った店主の言葉に頷いて、覗き窓の隙間から部屋の中を覗き込む。カトラから突き刺さる非難の視線が痛い。とはいえ、元々、女性の奴隷はそういう事をする為の用途として販売されているのだから我慢して欲しい。

 カトラの視線に気付いていないふりをして、瞳に魔力を集めて能力認識Ⅱを発動させる。少なくない魔力を消費し続ける疲労感と魔力の負荷で悲鳴を上げる瞳の痛みに眉を顰めながら、流れ込んでくる大量の情報の中から必要な物を認識する。情報の取捨選択は気付いた時には出来ていた。流れ込んでくる情報全てを認識しようとすれば脳の処理が追いつかない。

 部屋の内部は小さな個室だった。彼女達が寝起きする為のベッドと小さいテーブルが置いてあるだけの質素な作り。調度品としてテーブルの上には店内の入り口にも置いてあった香を焚く為の皿が置いてある。そして能力認識Ⅱを発動させたからこそ分かった事がある。店内、そして奴隷のいる小部屋に焚かれている香には多少の発情を促す効果があるようだ。まあ、この程度の精神異常をきたす香に違法性は無い。ニホンで言うリラクゼーションを促す香と似た様な物だ。そういう店なのだから多少の小細工は仕方ない。

 そして個室の中にいた奴隷の少女は少し怯えた様なぎこちない笑みを浮かべて覗き窓から見ているこちらへアピールをしている。衣装は男の欲情を誘うような薄着であり、怯えているものの香の効能で少女の顔は少し赤い。容姿はまあ、及第点と言った所だろうか。

 店内の入り口で大量に香を吸ってしまったおかげで判断力がだいぶ鈍っている事は認めよう。これくらいの容姿なら手元に置いておいてもいいか、なんて思考回路が脳内を駆け巡るがそれでは店主の思い通り過ぎる。流石にそれは気に食わないので冷静に少女の能力を認識する。【能力】や【技能】についてはあまり高くない。現状、【能力】や【技能】が低い事はそこまで問題じゃない。しかし、少女の成長限界が低い事は問題だ。総合的に判断してこの少女を購入するのは無しだ。

 覗き扉から目を離して、小さく呼吸を整える。まあ、記憶の無い曖昧な前世を含めればそれなりの年齢になる僕も今は若い男な訳で、少し気軽に構えていたが少々、不用意な状態で足を踏み入れてしまったかもしれない。素直にクラウゼル家との伝手が欲しい冒険者の中から優れた人物をスカウトした方が良かった可能性もある。

 とはいえ、信頼関係を築く必要もなく、お金で解決出来る部下がいるのならそれほど楽なモノは無い。発情効果に惑わされぬよう心の中で気合を入れつつ、次の覗き窓を覗き込んだ。









「ふぅ、これで最後かな? 流石に負担が大きいかな……」

 最後の部屋にあった覗き窓から目を離し、魔眼の発動を停止する。【妖精の港】で販売されている商品を全て認識するのは流石に疲れた。おそらく入店から一時間ほど経っている筈だ。【妖精の港】で売り出されている商品全員の能力は把握した。採用基準がクラウゼル家のメイドたちと同様にしたからかもしれないが二十数名ほどの奴隷から採用基準を超える事の出来た奴隷は四名ほどだった。

 まあ、潜在的な能力とはいえクラウゼル家のメイドとして十分に働ける能力まで成長する可能性がある奴隷が四名もいた事の方が驚きかもしれない。
 勿論、メイドとはいえクラウゼル家の名を冠する以上、潜在能力は一流クラス。容姿とスタイルも平均以上だ。正直、発情効果のせいで容姿とスタイルの要求レベルが上昇している事については否定しない。

「この店に並んでいる商品はこれで最後かな? それなら四名ほど連れて帰りたい商品があるんだけど」
「よ、四名もですか? 勿論、構いませんが話してみなくて大丈夫なのですか?」

 奴隷とはいえ性格の不一致による使用頻度でクレームをされても困る。クラウゼル家の名前があるとはいえそうほいほい使っていい名前ではない事を理解している店主としてはトラブルの種になりそうな事は早めに摘み取っておきたいのだろう。

「安心してください。言う事を聞かないような奴隷に言う事を聞くように“指導”するのも楽しみの一つですから」

 自分で発言したものの、その気持ち悪さに鳥肌が立った。勿論、僕に加虐的趣味がある訳じゃない。メイドとして育てる以上、彼女達はカトラの部下になる訳だ。それならメイドとして問題があるようならカトラから“指導”がある筈だ。

 明らかに勘違いを促す発言であるものの店主は納得した様子で頷くと思い出したようにニヤリと笑う。

「そのような趣向を好まれるのでしたら、彼女も紹介した方が良いのかもしれませんね」
「彼女とは?」

 一度に四名もの奴隷を購入したせいか、店主の表情は緩い。そんな店主の言葉に耳を傾ける。

「間違いなく当店で一番の美貌を持つ奴隷です。ですが、性格に少々問題がありまして……」
「そうなんですか? それは少し興味がありますね」

 つまり、客と接する機会のある店内に“展示”出来ないほど問題を抱えた性格の奴隷がいる訳だ。まあ、店としても感触を確認する為に面会した客に奴隷が何かしたとなれば信用問題に直結する。そんな奴隷を話題に出してきた時点で店主がどういう勘違いをしているのか分かる。それに一番の美貌に興味が無い、とは言わない。

「そうですか、それではこちらへどうぞ」

 僕の反応を見て、興味ありと判断した店主は華やかな表通りに面した入口とは反対側にある裏口に僕達を案内する。

「――――ッ」

 息を呑む、という言葉の意味を今日、初めて理解した。目の前には数人の少女が入っている檻がいくつも並んでいる。ある程度、奴隷を種類別に分けているのだろう。髪の色が違ったり、肌の色が違ったり、変わり種では四肢の一部が欠損していたりする。身に着けている物からして【妖精の港】に“展示”されていた奴隷とは明らかに扱いが違う。

【妖精の港】というブランドでは商品にならない品物でも普通の奴隷として商売する分にはなんら問題は無い。

「一応、面倒事は嫌なので尋ねておきますが市政の許可は?」
「ええ、勿論大丈夫ですよ。御心配なさらずに。きちんと市政の許可を得ればどのような奴隷でも取り扱える。それがこの都市の魅力ですから」
「それなら問題ありません」

 哀れだと思うな、これがこの世界では普通の事なのだ。そう、自分の心に言い聞かせる。

 これが奴隷の現実だ。【妖精の港】では奴隷を買ってもらう為にある程度の手入れを行っていただけで、商品価値の低い奴隷ならそれなりの手入れしか受けられない。ここはそういう場所なのだ。ある意味で最もこの都市の表情を表している強烈な洗礼に頭が痛くなってくるが表情には出さない。

「どうも汚い所をお見せして申し訳ございません。紹介したい奴隷はすぐそこの小屋に居ますので……」

 店主の示した方向には土壁と木造の屋根で出来た小汚い小屋があった。酷い扱いを受けている奴隷が入った檻を横目に小屋の前まで移動すると店主が静かに小屋の扉を開く。

「まだ、調教が済んでいないので危険ですからあまり檻に近付かないようにしてくださいね」
「ええ、大丈夫ですよ」

 店主の注意に頷いて、小屋の扉をくぐり中へ入る。

「ッ」

 最初に感じたのは異臭。時間感覚を無くす為か、昼間だというのに日の光一つ入らない小屋の中で空気の換気が行えていないのは至極当然なのだろう。そして小屋の中には鉄格子の檻があり、その中で一人の少女が三角木馬に乗せられていた。

 両手両足は拘束具で身動きが取れないようになっていて、なにより衣服を与えられず少女の恥部は丸見えの状態だった。

 ある意味で外にいる奴隷よりも扱いが悪い。

「どうですか、かなりの上物でしょう。貧困に苦しんだ村を助ける為と言って、売られてきたんですがどうにも本人曰く、私が彼女を買い取った金貸しに騙されたとかなんとか。勿論、誘拐等の犯罪行為ではなく、莫大な借金を抱えた村の身代わりですから正式な奴隷として書類の方も手続きが済んでおります。しかしながら、本人がそれを自覚していないようでして、金貸しと村のトラブルに私は関係ありませんからね。私は持ち込まれた奴隷を買い取っただけなんですよ。それに村では猟で生計を立てていたようでして腕っ節も中々のようでして反抗的だとこちらとしても困るのです。なので、今は自分が奴隷という商品なのだと自覚させている所なんですよ。元々、これほどの上物なら【妖精の港】ですぐにでも販売したい所だったのですが。勿論、初物なのは買い取る際に確認しています」

 劣悪な環境に身を置く事で自身が奴隷という商品になったと自覚を促すと共に買い取った主の下で奴隷以下の扱いから奴隷程度の扱いになる事での印象操作。つまり、拷問にも似た調教を受けている彼女は今、精神破壊に似た行為を受けていた最中なのだろう。

 そんな人としての尊厳を砕く為の環境に身を置きながらそれでも店主の言葉通り、彼女は美しかった。肩まで届く乱れた赤毛は朝とも夜とも分からぬように日の光を入れぬ室内で揺らめく蝋燭の火に照らされて燃えるような煌めきを見せ、相手を射抜くような鋭い眼光を向ける赤い瞳はガラス玉のように澄んでいる。絹のように滑らかな肌が少女の美しさを何倍にも増長させていた。

 この際、ハッキリと断言しておこう。カトラという身近な女性のおかげで気付かぬうちに高騰していた美人のラインをぶち抜いて、ミーゼの好む容姿のど真ん中を貫いていた。

 香を焚かれていた店内から離れたお蔭で冷静に彼女を観察しているが店内だったら能力の確認すらせずに躊躇わず彼女を購入していただろう。

 なによりミーゼが彼女を気に入ったのはその瞳である。少し前まで虚ろだった瞳はミーゼ達の姿を見つけると恥じらうような表情を見せず、敵意むき出しの睨み付けだ。自身が圧倒的に不利な状況で見せた威嚇という態度に彼女の性格がどのようなものか、なんとなく察しがついた。その上でそれなりに腕が立つというのなら確かに拘束具を外して店内に並べる事は出来ないだろう。

 能力認識Ⅱがミーゼに与える負担は大きい。店内の奴隷を値踏みする際、瞳をかなり酷使しているがこれで最後だ。ミーゼは深呼吸をすると瞳に魔力を集める。

 ――――瞳を発動させた瞬間、ミーゼは息を呑む。

 現状の能力値で見ると事前情報通り武力関係以外の能力値はそこまで高くない。成長限界もそこまで高くない。クラウゼル家のメイドを名乗るには必須と言える家事関係の成長限界は合格レベルに達していない。

 ミーゼが息を呑んだのは武力関係の成長限界が軒並み上限に達している事だ。かつて一度だけ帝国最強と名高い英雄に会った事があり、その時に興味本位で瞳を発動させた事があるが、彼女の成長限界は帝国最強の英雄と同等である。勿論、現状の能力値ではその辺の夜盗を撃退出来る程度であるが。

 それよりもミーゼの興味を引いたのは彼女の持つ【勇気持つ者(ブレイブホルダー)】と呼ばれる固有技能だ。固有技能とはその名の通り、修練では会得することの出来ない生まれ付きの技能である。有名な固有技能と言えば魔法を使う才能だ。

 帝国四大門に連なる一族なので優秀な人材とされる人物の能力は見慣れているがその中に【勇気持つ者】という固有技能を見た事が無い。なにより【能力認識】では本来なら技能の持つ効果を調べる事が出来る筈であるが【勇気持つ者】が所持者に与える効果を分析出来ていない。つまり【勇気持つ者】という固有技能は【能力認識】という固有技能より上位に存在する技能という事なのだろう。

 とはいえ、【勇気持つ者】――――つまりは勇者。その名前から技能の効果は予想がつく。
それにある程度、安定しているとはいえ戦乱が続くこの大陸で英雄は数多く存在しているが勇者と呼ばれた人物は歴史上、一人しかいない。

 勇者ミスティナ――――黒の時代と呼ばれる国家間戦争が激化していた時代。自然発生する魔物の発生率が急増した為、当時の人々は国家間戦争をしている余裕がなくなり、大陸の人間全てが一丸となって、急増する魔物を駆逐していった。その時、国家間の調停役として活躍し、魔物駆除の主力となった人物だ。

 姓が無い時点で彼女が貴族の血筋では無い事は確定している。しかし、黒の時代の文献は極端に少ない為、詳しい情報は無い。判明している事はミスティナが実在して人物で黒の時代と呼ばれた時代が確かにあったという事だけだ。

 しかし、帝国においてミスティナの知名度は低い。理由は単純明快であり、帝国の為に戦争で活躍する英雄がいる状況でわざわざ世界を平和に導いた勇者を普及させる必要は無い。

「もしかして、勇者の転生者?」

 奴隷として売られているには平均的に能力値が高い。それは転生者に多い傾向だ。

 その呟きが彼女の耳に届いたのか、反応は劇的だった。四肢を拘束され、猿轡で言葉を発せない代わりに何度も頷いて、自身が勇者の転生者だと主張している。

「まさか、彼女がこんなに反応するとは驚きです。どうですか? 今は多少、お見苦しい状態ですが、キチンと手入れすればかなり良い所までいくと思いますが?」
「そうだね、気に入ったよ。彼女も貰って行こう。五人分の支払を頼む」
「ありがとうございます。それでは一人につき金貨一枚。彼女はまだ正式な売り物ではありませんから銀貨八枚で構いません」
「そうか、それじゃあ支払を頼む」

 正直、奴隷一人に金貨一枚を使うとは思っていなかったが高級店の値段と思えば納得がいく。

「それではご確認ください」
「はい、少々お待ちください」

 店に入店してから何も言わずに控えていたカトラが金貨と銀貨の混ざった袋を店主へ手渡す。袋の中身を確認した店主は彼女の見張り番をしていた部下に指示を出し、彼女の拘束を解くと疲労で殆ど動かない彼女を抱えて僕の目前へ連れてくる。

「やっぱり、転生者ってつらいよね。特に記憶にある前世の立場と今の立場が大きく違うと……」

 暫定勇者の転生者である彼女は小さく頷く。

「でも、これは仕方ない事だよ。転生者だろうがなんだろうが、今の君は何も成し得ていないただの奴隷だ。転生者だからと言ってチャンスを掴めるかどうかは別問題だ。これからよろしく」

 転生者だからと言って生まれてきた時の状況をどうこう出来る人間は少ないだろう。少なくとも僕はそうだった。だけど、僕は恵まれた生まれだったからこそ、よく分かる。

 ――――彼女はただ、チャンスを掴むという選択肢すら与えられない場所に生まれてきただけなのだ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024974822998047