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No.41638の一覧
[0] 転生者が蔓延る世界に生まれた僕は奴隷市場で前世勇者の転生者を見つけて購入したけど特に冒険的なイベントを起こさず、都市経営に専念します。[ニョニュム](2016/10/06 22:51)
[1] 出会いの日(1)[ニョニュム](2016/09/21 21:11)
[2] 出会いの日(2)[ニョニュム](2016/09/06 21:40)
[3] 出会いの日(3)[ニョニュム](2016/09/06 21:41)
[4] 出会いの日(4)[ニョニュム](2016/09/06 21:42)
[8] 出会いの日(5)[ニョニュム](2016/10/06 22:39)
[9] 出会いの日(6)[ニョニュム](2016/10/16 20:24)
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[41638] 出会いの日(4)
Name: ニョニュム◆473938c4 ID:754c1ba2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/09/06 21:42
 ストネ帝国において最大級の交易都市である【ネグリア】。その中で最も栄えている市場が奴隷の人身売買である事はあまり誇れるような事では無いがこれには勿論、理由が存在している。

 本来、奴隷市場というものは無法者が蔓延る治安の悪い地区に形成される傾向がある。その為、奴隷商人と客との間でトラブルが起きる事は珍しくない。血が流れる事もしばしばある。その全てを潰してしまえば問題無いのだが、交易都市である【ネグリア】は他国との玄関口でもある。

 国内外から売られてくる奴隷。国内外から売られていく奴隷。その数は膨大なモノであり、一つの都市が“無かった事”に出来る規模を大きく超えている。治安の低下はどうしても避けられない問題なのだ。

 その対応策として【ネグリア】という都市自体が奴隷商人の組合を設立して、奴隷商人に対して奴隷市場の場所を提供する事で【ネグリア】によって指定された場所以外での商売を禁止した。勿論、奴隷市場の警邏を欠かさない。これにより多少の人件費を圧迫する事になったが奴隷市場で起きるトラブルの量は激減した。結果的に見れば、治安の向上に貢献している。

 それになにより奴隷商人としても【ネグリア】の組合に参加する事は非常に旨味が存在する。【ネグリア】を統治する領主は帝国四大門の一つであるクラウゼル家。つまり、組合に参加するという事はクラウゼル家という後ろ立てを得る事と同義である。他の都市で普通にまかり通っている奴隷を買いに来た貴族による横暴な要求を跳ね除ける事が出来るのだ。

 そんな奴隷市場という名とは裏腹に整然と店舗が立ち並んでいる場所の一等地。つまり、【ネグリア】の――――ひいては金の掛かる奴隷市場の治安維持に“協力的”な奴隷商人から与えられていく恵まれた立地に位置する店舗の一つ【妖精の港】と看板を掲げる店の前でミーゼは足を止めた。

 帝国において、奴隷というのは一つの職業として成り立っている。大概の人間は金に困った貧乏人であり、例外と言えば人攫いにあった人間くらいだろう。そして奴隷の仕事というのは大きく分けて二つに分類される。性別によって分かれていると言っても過言ではない。どちらも肉体的な労働であるが労働する時間帯が昼間か、夜間であるかの違いくらいだ。特定の特殊な趣味の持ち主以外では昼間と夜間で男女の労働時間の比率に差がある事など説明せずとも察する事が出来る。

 ミーゼが興味本位で足を止めた【妖精の港】は所謂、夜間に働く少女達。それも生娘をウリとして販売を行っている店舗であった。勿論、奴隷市場の一等地に店を構える【妖精の港】は都市の中でも有名な店舗であるが初めて都市を訪れたミーゼがソレを知る由もない。

 しかし、帝国において奴隷の使用方法は大体、二分されるので【妖精の港】がどういう店舗であるかは理解している。

「御主人様。成人なされた以上、その行いに対して口出しするつもりは御座いませんが、着任した当日に奴隷買いは少々噂になると思いますが?」

 明らかにそういうお店である【妖精の港】の前で足を止めたミーゼに対して少しだけ眉を顰めたカトラが告げる。クラッドにもそれとなく言っていたがまさか本当に奴隷を購入する気だとは想像していなかった。

「まあ、それは仕方ないかな。だけど、こちらの顔が奴隷商人に知られていない今だからこそ、奴隷市場の本当の顔が拝めるかもしれないじゃないか」

 【ネグリア】は奴隷商人を手厚く保護している代わりに厳しく管理している。しかし、人攫いに誘拐された奴隷のようにクラウゼル家には言えない身分を持つ“記入漏れ”した奴隷がいる可能性は一概に否定出来ない。勿論、ミーゼ程度が思い付くような事なのだ。ある種の伏魔殿に近いこの都市を問題無く管理・運営していたハロルドが思い付かない筈が無い。奴隷商人を締め付けすぎて反感を買うよりある程度、裏道を用意しておく事で旨味を残した方が奴隷商人も大人しく【ネグリア】の方針に従う筈だ。

 ミーゼが確認したいのはその裏道がどの程度の規模なのか、という所だ。

「それにこの人事には僕も“技能を使う”。それも第二段階だ。カトラも気合を入れて吟味した方が良い」

「奴隷を見定めるのに技能を使われるのですか?」

 ミーゼの持つ技能を知るカトラはその発言に首を傾げる。ミーゼの持つ技能――――所謂、魔眼の発動には少なからず本人に負担が発生する。瞳を酷使する肉体的な疲労と魔力を消費する精神的な疲労である。あまり乱用する事の出来ないチカラである事は本人が一番理解している筈である。
 なにより女性の奴隷に必要とされるのは容姿とスタイル、外見で全てが分かる。魔眼のチカラを使う必要は無い。それも負担の大きい第二段階まで上げる必要は無い。

「う~ん、カトラにしては察しが悪いな。僕は最初に人事と言った筈だよ」
「…………正気ですか?」

ミーゼの発言を受けて思考を巡らせたカトラは一つの結論へ辿り着き、それがどのような結果をもたらすか理解した上でミーゼに確認する。

「勿論、良さそうな奴隷がいるなら買い取って僕専用の侍女に育て上げるつもりだよ。奴隷達をそのレベルまで教育するのはカトラだからよろしくね」

 奴隷を御付の侍女にするなど帝国の歴史上、聞いた事が無い。褒められた職業ではないかもしれないが奴隷は職業の一つである。そして職業としての身分は相当低い。そんな人間を侍女として雇い入れるなど他の人間ならば夢にも思わないだろう。何故なら、部下とは主の鏡である。無能な人間が部下に揃っているようなら主も無能。有能な人間が揃っているならば主も有能。そんな価値観が存在する国で奴隷を部下として雇うと考える人間が出てくるなど予想外だ。
 しかも、それを考えたのは三男とはいえ帝国四大門の家系の人間から。

「ミーゼ様、それだけは承服致しかねます。リーガル様からのお言葉を忘れたのですか?」

 本人でも気付かない内にカトラの言葉使いが昔のものに戻っている。それだけ今回の奇行はカトラの想定外であり、絶対に阻止しなければならないものなのだ。
 シャロン王女と婚約する上で最低条件となる限度を大幅に超えている。シャロン王女に奴隷が入れた飲み物や奴隷が触れた衣服を着せるなどあってはならない事である。
 極論を言えば、同じ敷地に存在する事がおこがましい。シャロン王女本人が許したとしても周囲の人間がそんな不敬を許す筈がない。

 思わぬ反論を受けたミーゼはカトラが致命的な勘違いをしている事に気付き、苦笑する。

「いや、流石に身分が奴隷のままでクラウゼル家の使用人を名乗らせる訳無いだろ」
「では、どうするおつもりで?」
「まずは侍女として必要な技能を全て学ぶ学校を作る。そこでカトラが奴隷達に侍女の全てを伝授して、その上でカトラが部下として“使える”レベルまで成長した奴隷から僕が個人的に金を貸して、僕から自分を購入する。これで奴隷と言った職業ではなく、僕に個人的な借金を抱えている一般市民の出来上がりだ。僕の借金を返す代わりに侍女として働く。これなら僕は奴隷を雇った事にはならないだろ?」

 確かに言葉遊びのレベルであるが理論上は可能である。しかし、その行為自体が金の無駄遣いだ。奴隷は購入したその時から給与を与える必要のない“所有物”である。持ち物をどう扱おうが持ち主の裁量一つなのだ。
 そんな持ち物に給与を与えるなど無駄遣いでしかないのだが、仕方ない事かもしれない。

 ミーゼが今、個人として持っているモノはクラウゼル家という名前とそこから与えられる富だけなのだから。

 勿論、借金の形として働くというのはそう珍しい事では無い。だが、もしも――。

「いつまでも“使える”と判断出来るレベルに上達しない奴隷がいた場合、どうするおつもりですか?」

 帝国四大門のクラウゼル家に雇われる侍女となれば、求められるレベルは当然高い。御付の侍女ともなれば護衛も兼ねているのである程度戦えなければならない。狭き門である事は変わらない。

「ん? それならどうしようもないんじゃないかな? 侍女としての仕事を教えた分を上乗せして、他に売るよ。能力の無い人間を手元に置いておく必要は無いからね。それにクラウゼルの侍女として不合格でも他のとこの侍女としてなら十分に役目を果たせるでしょ。勿論、奴隷として売るから侍女の役目を貰えるかどうかはしらないけど。それにそんな事が無いようにする為、目を使うんだから」

 ミーゼの持つ技能の第二段階――つまり、能力識別Ⅱは魔力の消費と瞳への負担を増加させる代わりに能力数値の細分化と成長限界の認識が可能となる。現在の数値を十段階評価でしか見分ける事の出来ない第一段階と比べて詳細な数値の認識が可能となるのだ。
 そしてなにより有効なのはその人物が至れる可能性――成長限界を認識出来るという事は現状ではなく、将来的な得手不得手を判断する事が出来る。

「まあ、正直な所、お金を出して勉強を教えただけで手駒になるような物件があるなら利用しない手はないよね」

 自分の手元で育て上げた侍女なら隠密のような心配も無い。それに奴隷としては破格の扱いである。ミーゼに感謝して、忠誠を誓う事は容易に想像出来る。絶対に裏切る事は無いだろう。そんな人物をお金を出すだけで手駒として使えるなら安いものだ。
 勿論、元奴隷という身分の人間で賄えるのは侍女や下級の兵士といった身分の人間だけであり、相応の地位に就く人間には相応の身分と経歴が必要となってくる訳だが。

 そう言って小さく笑うミーゼの姿にカトラは初めて畏怖を抱いた。


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