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No.41638の一覧
[0] 転生者が蔓延る世界に生まれた僕は奴隷市場で前世勇者の転生者を見つけて購入したけど特に冒険的なイベントを起こさず、都市経営に専念します。[ニョニュム](2016/10/06 22:51)
[1] 出会いの日(1)[ニョニュム](2016/09/21 21:11)
[2] 出会いの日(2)[ニョニュム](2016/09/06 21:40)
[3] 出会いの日(3)[ニョニュム](2016/09/06 21:41)
[4] 出会いの日(4)[ニョニュム](2016/09/06 21:42)
[8] 出会いの日(5)[ニョニュム](2016/10/06 22:39)
[9] 出会いの日(6)[ニョニュム](2016/10/16 20:24)
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[41638] 出会いの日(3)
Name: ニョニュム◆473938c4 ID:754c1ba2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/09/06 21:41
 結婚は人生の墓場へ向かう行為だと聞いた事がある。それが転生による知識の引継ぎなのか、この世界で暮らしてきた記憶によるモノだったのかはあまり覚えていない。

 クーデリカ大陸において最大の軍事国家であるストネ帝国。その第三王女であるシャロン王女様が成人の儀を済ませて、名実共に女性として扱われるようになるまで後、六年。六年後、ミーゼが人生の墓場まで足を踏み入れる事は確定した事実である。勿論、六年の間にミーゼが婚約破棄せざる負えない珍事を起こさない事が絶対条件ではあるが。

「それにしても信用無いというか、確実性を重視しているというか……」

 ガタゴトと揺れる舗装状況の芳しくない街道を走る馬車の中、ソファーに腰を下ろしたミーゼが窓の向こう側の景色を眺めて苦笑する。視線の先には大きな海の水平線が広がっていた。

「御主人様は幼少期の頃から少し変わった考えの持ち主でしたので仕方ないかと」
「やっぱり、カトラに御主人様と呼ばれると違和感があるね。元の呼び方に戻ったりしない?」
「正式に私の主となられた以上、以前のような言動は問題がありますので承服致しかねます」

 そんなミーゼのぼやきに答えたのは隣に座るカトラだった。それとクラウゼル家の屋敷で暮らしている間の言動に問題があった事は認めるのかよ、と内心でツッコミを入れながらミーゼはカトラへ視線を向ける。

 家族会議を終えた後、ミーゼはリーガルに呼び止められていた。話の内容としては成人の儀を終えたミーゼに対して祝いの品を送るというモノだった。その祝いの品というのがクラウゼル家でメイド長を務めるカトラであった。この世界は奴隷が普通に売り買いされる文化を持っている。人のやりとりなど珍しい事では無い。

 しかし、カトラは奴隷ではない。理不尽な人事は問題になる。それにクラウゼル家のメイド長にまで上り詰めるほど優秀な人材だ。手放すには惜しい筈。だからこそ、ミーゼはリーガルの意図を至極簡単に把握した。

 ハロルドを上司として、その部下に指示を出す状況は公人としてのミーゼの行動を抑え込む為に用意された鎖である。
 しかし、それでは私人として動くミーゼの鎖にはならない。私人としてのミーゼの行動を抑える為の鎖が必要なのだ。そこで白羽の矢が立った人物こそカトラだった。

 勿論、カトラは部下にあたるのでミーゼが本気で命令すれば逆らう権利など無い。しかし、ミーゼがカトラに頭が上がらない事と懐いている事は周知の事実。彼女自身、ミーゼを使って悪事を働くような人物で無い事は皆が知っている。私人としてのミーゼの暴走を諌める人物としてこれほど適した人物はいない。

 そしてミーゼとしてもカトラのような優秀な人材を手駒として確保出来る事にメリットはあってもデメリットは無い。本来ならミーゼのような身分を持つ人間ならば年頃になれば放っておいても帝国四大門との伝手が欲しい人材が向こうからやってくる。

 しかし、ミーゼの場合は幼少期の問題行動が貴族の間で噂されている。巨大な船かもしれないが他にも選択肢がある中でミーゼという泥船に乗り込んでくる物好きは今の所、誰一人としていない。

 とはいえ、前向きに考えればそれだけ部下となる貴族同士の力関係や人間関係に悩まなくていい。貴族の部下が増えるというのは一長一短なのだ。

 少なくとも自分に人望が無いだけではない。人望が無い訳では無いのだ。

 ミーゼは自分に言い聞かせながら小さく溜息を吐く。

「どうやらそろそろ到着するようですね。御主人様、降りる準備をしてください」

 思考を巡巡らし、一人で勝手に落ち込んでいるミーゼを余所に窓の外を見たカトラがミーゼへ告げる。その言葉につられて窓の外へ視線を移したミーゼは感嘆の声を漏らす。

 街の郊外からでも見える巨大な港には交易船が並び、堅牢な石壁が街を守る為に建てられている。

「ああ、準備なら直ぐに済む。それにしても街の規模が想像していたよりも大規模みたいだ」
「ハロルド様の統治が上手く行っている証だと思います」

 聞いていた話からイメージしていた街と比べて、想像以上に発達している街の様子を見たミーゼは兄であるハロルドが為政者としてどれほどの高みにいるのか、なんとなく理解した。

 そうこうしている内にミーゼ達の乗った馬車が街の入り口でもあり、街を守る兵士が詰める関所に到着する。街のメインストリートへ続く巨大な関所ではなく、軍事関係の事以外ではほとんど使われていないような寂れた関所である。なるべく一般市民なら近付きたくないような場所で止まった馬車の姿に関所へ詰めていた兵士が怪訝そうな顔を浮かべて馬車へ近付く。

 運転手が慌てた様子でクラウゼル家の印が押されている書類を兵士へ手渡す。最初、怪訝そうな表情で書類を受け取った兵士はクラウゼル家の印を見て、驚いた表情を浮かべると表情を強張らせる。

 いきなりやってきた馬車の中にいる人物が今後、この都市を経営していく事になる為政者が乗っているなど兵士も思っていなかっただろう。規則正しく馬車へ向けて敬礼する兵士に窓から見えるように手を上げて彼らを労う。

 馬車が移動を開始して兵士達の姿が見えなくなった頃、上げていた手を下ろしてミーゼは溜息を一つ。実質的な権限は兄のハロルドが握っているものの自分が彼らの命を預かる立場なのだと思うと急に気が重くなった。責任の重圧とは中々、重いらしい。

「多少は人の上に立つという事がどんなに大変な事か、理解されたようですね」

 いきなり疲れた様子を見せるミーゼを見ていたカトラが微笑する。

「確かに何も考えず、家柄を盾にして好き勝手していた子供の頃が楽だったかもね」

 しかし、ミーゼの仕事は人々の先頭に立ち、先導していく事だ。追々、慣れていかなければいけない。

 関所を通り抜けるから数分、馬車の中からリラックスして街の風景を眺めていると小さい悲鳴と共に馬車が突然、停止する。

「ふぎゃっ!」

その反動で窓の向こう側を眺めていたミーゼは窓ガラスへ思い切り顔面をぶつけてしまう。

「何か、ありましたか?」
「も、もし訳ありません! 丁度、餓鬼が道に飛び出してきて……」

 顔に手をやって涙目になっているミーゼを見て、眉間に皺を寄せたカトラは急停止した運転手へ問い掛けると運転手は緊張した声音で前方を指差す。

 そこには何が起きたのか理解していないのだろう。きょとんとした表情で馬車を見つめる薄汚れた薄着と首に黒い首輪をした小さな女の子がいた。その近くには今の状況に気付いたのか、顔面蒼白になっている母親の姿もある。母親の姿も子供と同様だ。

 同じく異変に気付いたミーゼも窓から外を覗き込み、二人の姿を見て顔を顰める。

「おい、貴様らみたいな奴がこの方の馬車を止めたらどうなるか――――」
「カトラ、いいから行かせろ。ここで時間を潰す方が惜しい」
「とのことです。奴隷に構う暇があるならその子を避けて先に進みなさい」
「りょ、了解しました」

 冷酷に表情の消えたミーゼの命令にカトラは頷き、運転手へそれを伝える。少女を抱えて脇道に移動すると地面に頭をこすり付ける勢いで頭を下げている母親を横目に動き出した馬車の中でミーゼは頭を掻く。

 知識としては理解していた。しかし、現実問題としてミーゼが暮らすような階級で奴隷を連れまわすような馬鹿はいなかったので奴隷を見るのは両手で数えるくらいである。あの家族も既に飼い主がいるのだろう。

「ご主人様、到着したしました。お降りください」

 カトラの言葉に考え込んでいたミーゼは顔を上げる。そこには立派な洋館があった。ここがミーゼの仕事場であり、二年間暮らしていく事になる家だ。

 洋館で働く者達全員で自分を出迎えているのは圧巻である。

「クラッド・ハウゼリアと申します。ハロルド様の命により、ミーゼルカ様のお手伝いを任されました。分からない事などございましたら私におっしゃってください」

 馬車を降りると金髪の美青年が頭を下げていた。

「そうか、ご苦労。名乗る必要もないと思うがミーゼルカ・クラウゼルだ。そしてこっちは侍女のカトラ。僕の生活に関する一切は彼女に任せてある。時間が空いた時に打ち合わせをしておけ。それとこの町の状況について纏めて報告書を作れ。簡易的な物で良いから今日中にだ。町の問題が解らない限り、仕事のしようがない」
「了解しました。どちらにせよ、今日の業務は用意していませんので少し町を見て回ってはいかがでしょうか?」

 上下関係をハッキリさせる為、少し高圧的に命令するミーゼとその命令に頷くクラッド。

「それもそうだな。少し町を見て回る。護衛はカトラだけでいい。この町を少し観光してくる。その意味が分かるな?」
「……了解しました」

 ミーゼの言葉にクラッドは少しだけ驚いた表情を浮かべるがミーゼの意図に気付いて、しっかりと頷く。

「カトラ、ついてこい」
「分かりました。打ち合わせについてはまた夜にでも」

 そう言って洋館から飛び出し、町へ繰り出すミーゼとカトラ。

「ご主人様、一体どちらへ?」
「そんなの決まってるだろ?」

 行先を尋ねるカトラにミーゼが言う。

 確実に帝国最大。もしかしたら大陸の中でも最大かもしれない【ネグリア】の最大市場――――そう。

「奴隷市場だ」


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