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No.41638の一覧
[0] 転生者が蔓延る世界に生まれた僕は奴隷市場で前世勇者の転生者を見つけて購入したけど特に冒険的なイベントを起こさず、都市経営に専念します。[ニョニュム](2016/10/06 22:51)
[1] 出会いの日(1)[ニョニュム](2016/09/21 21:11)
[2] 出会いの日(2)[ニョニュム](2016/09/06 21:40)
[3] 出会いの日(3)[ニョニュム](2016/09/06 21:41)
[4] 出会いの日(4)[ニョニュム](2016/09/06 21:42)
[8] 出会いの日(5)[ニョニュム](2016/10/06 22:39)
[9] 出会いの日(6)[ニョニュム](2016/10/16 20:24)
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[41638] 出会いの日(2)
Name: ニョニュム◆473938c4 ID:754c1ba2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/09/06 21:40
 本来ならば下働きのメイドや執事といった人間が忙しそうに往来するリビングルームへ繋がる廊下には誰一人として姿が見えない。いつもなら嫌でも耳に届く活気溢れる往来の喧騒も今は静まり返っていた。太陽が頭上に上がっている時間帯で無人の廊下を初めてみたがそれも仕方ない事なのだろう。

 現在、貴重な調度品や高級家具が据え付けられたリビングにはクラウゼル家に連なる五人の男女とその世話係として控えているカトラの六人しかいない。今から行われる家族会議は重要な話が議題となる。他の下働きにはカトラから家族会議が終わるまでリビングへ近付かないように伝令されている。

「それで? 今回、俺達を呼び付けた理由はコイツの領地について、でいいんだよな、親父」

 洗練された美しい装飾を施された長机と椅子に身体を預けた一人の男性――――三兄弟の中で最も腕の立つ次男ゲイル・クラウゼルが家族会議の議題を口にする。その表情はさっさと話を進めて欲しいという不満がありありと浮かび上がっている。

「ああ、ミーゼルカへ与える領地についての話で違いない」
「こら、ゲイル。自分の仕事が忙しいからと言ってその態度はなんだ。忙しいのはお前だけじゃないぞ。大体、お前は――――」
「うふふ、今日はミーゼルカが大人の一歩を踏み出す大事な話し合いなのですから仲良くしなければいけませんよ」

 ゲイルの言葉を肯定し、頷いた初老の男性こそがミーゼルカの父親にして、帝国東部の管理を皇帝から任せられているクラウゼル家当主――――リーガル・クラウゼルである。
ゲイルの不満げな表情に気付いていながら特に気にした様子を見せないリーガルと違い、ゲイルの態度に眉間へ皺を寄せた男性がクラウゼル家の長男であり、次期当主でもあるハロルド・クラウゼルだ。
 そして口論になりかけた二人に仲裁として割って入った女性がリーガルの正妻にして、ミーゼルカの義母であるエミュット・クラウゼルだった。

 数年前に成人の儀を終えたハロルドとゲイルは既に帝国東部の各地へ飛んで、都市経営に着手している為に現状、自分達の都市をほったらかしにしてしまっている。ゲイルの不満も最もだろう。

 現状、リーガルの言葉を待つしかないミーゼはゲイルの言動に顔色を変えず、大人しくリーガルの言葉を待っている。

「ミーゼルカ」
「はい、なんでしょうか」

 自身の名前を呼ばれたミーゼは少しだけ緊張した声音で返答する。

 今まで子供として扱われていたミーゼにとって成人の儀を終えた今、初めて大人として――厳しい父親ではなく、クラウゼル家当主とその部下として言葉を交わすのだ、緊張するのも当然だろう。それも議題は自身の今後を大きく左右するモノである。
 そんなミーゼを余所に二人の兄は慣れた様子でリーガルの言葉を待っている。

「貴様に治めてもらう都市は【ネグリア】だ。何か問題は?」
「いえ、問題ありません。しかし、一つだけ質問があります。【ネグリア】はハロルド兄さんが治めている都市の一つでは?」

 リーガルの言葉を聞いて、大人しく頷いたミーゼだったが内心では驚きを隠せないでいた。

 交易都市【ネグリア】。
 クラウゼル家が皇帝から管理を任されている帝国東部においてリーガルが直接治め、東部の中心地である【ネバルカ】についで発展している都市である。その特徴はなによりも海に面している事だろう。大きな漁港を所有し、海外船との貿易を行う大きな港町。帝国が別大陸の海外船と交易を行う為の都市として帝国内でも重要な位置に存在する都市だ。

 間違いなく、都市経営が初めてのミーゼが治める都市としては規模が大きい。完全に手に余る代物だ。

「勘違いされては困るが最初から完全に貴様へ【ネグリア】を預ける訳ではない。【ネグリア】は冒険者ギルド等の人が集まる場所だ。まずは【ネグリア】へ赴き、為政者としての足場を固めろ。その後、貴様の手腕を判断して分け与える領地を決める。どういう意味か、分かるな?」

 そこまで説明を受けて、ようやくリーガルの意図を理解する。本来、帝国四大門の人間であれば成人の儀を行う前にある程度、貴族の間で伝手のようなモノが形成されている。
 しかし、実家に軽視されているミーゼにはその伝手が無い。将来の投資として一応、顔合わせをしているくらいだ。
 だからこそ【ネグリア】へミーゼが派遣される。【ネグリア】は大陸でも有数の交易都市であり、人口の多さは帝国内部でも指折り。人が集まれば組織が出来る。交易商が運営する商会ギルドや冒険者へ仕事を斡旋する冒険者ギルド。都市経営をしていく中で必要となる人脈や優秀な部下を発掘する上でこれ以上適している場所は他に無いだろう。

「ミーゼ、君には二年間だけ僕の下で為政者としての勉強をしてもらう事になる。基本的な政策方針は僕の指示に従ってもらう。その代わり、他の雑務については君に一任する。勿論、僕の部下も残していくから勝手が分からない内は必ず彼らを頼るんだ。【ネグリア】は大きな都市だ。為政者が変わったからと言って、新しい事をする必要は無い。あそこまで巨大な都市を問題無く運営出来るようになるだけでも勉強になる筈だ」

 最初からハロルドには話が行っていたのだろう。ミーゼと一緒に驚きの表情を浮かべていたゲイルと違い、特に驚いた様子を見せずにリーガルの言葉を補足するハロルド。人の良さそうな柔和な笑みを浮かべるハロルドを見て小さな溜息を吐く。

 言い換えてしまえば、【ネグリア】の実権はハロルドがそのまま握り、ミーゼは人材集めに精を出す。ミーゼの部下となる残されたハロルドの部下はミーゼがとんでもない方針を指示した時に抑え込む為の鎖だ。
 そして、ハロルドから与えられる指示に答えて結果を残す事でミーゼの為政者としての適性を判断してもらうという訳だ。

 兄として――身内として話すハロルドは優しい兄の印象が強いが、公人として話すハロルドはどうにも食えない人物のようである。とはいえ、リーガルの判断は正しい。ハロルドと敵対している訳でもないし、ハロルドが口にしたように大きな都市を問題無く運営するだけでも為政者として勉強になるだろう。
 それに人材集めや人脈作りをしていく上で恵まれた都市である事は確かだ。多少、頭を押さえつけられて不自由な気もするが為政者としての基盤を作る期間を与えられたのは感謝するべき事だろう。

 一つ、気に掛かるとしたら対外的にとはいえミーゼを【ネグリア】の領主として据えるか、である。普通にハロルドの部下として【ネグリア】へ赴き、為政者としての地盤を固めても問題は無い筈である。まあ、その辺りは面子を気にしての事だろう。元【ネグリア】の領主はそれだけで効果を持つ肩書きだ。

「【ネグリア】の統治、了解しました」

 頭を下げるミーゼの姿に、少しだけ張り詰めていた空気が和む。ミーゼの言動や価値観が帝国の文化と合わない事は家族全員の認識である。今までは子供の戯言として無視する事が出来た。しかし。大人になった今、簡単に無視する訳にもいかないのだ。もし、ミーゼが妙な言動や政策を打ち出せばそれはそのままクラウゼル家の恥に繋がる。今、この場所で妙な事を言い出したらミーゼと“丁重”にお話しする必要があった。

 勿論、ミーゼ自身も自分の言動や価値観が他人と大きく違う事は生きていく中で重々承知している。そして、この世界を生きていく上で自分の方が間違っている事も。そう簡単に妙な言動をする筈が無い。

 本来ならもう少し揉めるかもしれなかった領地の分配がスムーズに進んだ事もあり、少し家族の中が穏やかな空気を醸し出す瞬間、リーガルが度胆を抜く発言をする。

「ミーゼルカ、お前の婚約者が決まったぞ」
「――――え?」

 婚約者というのはアレだろうか。妻として隣に立ち、一緒に生きていく人生の伴侶の事だろうか。

 ミーゼの表情に驚きが生まれる。勿論、色々な意味で自由恋愛出来るような立場で無い事は理解していた。自分の婚約者が自分の知らない所で決まる事も覚悟していたし、そう言い聞かされながら育ってきたので理解していた。しかし、まさか大人として扱われるようになったその日に知らされる事になるとは流石に予想外である。

 とはいえ、もう決まった事ならば仕方ない。問題は相手がどんな人物であるかの一点だ。色々な意味で問題を抱える身であるが帝国四大門に連なるクラウゼル家の三男坊である。下級貴族からは狙われやすい物件である事は明白であり、帝国四大門の結束を高める為の駒として扱われる可能性も高い。

「へぇ、誰なんだよ、親父殿。“こんな奴”の婚約相手に選ばれた奴は? さぞかし足元を見られたんだろ? 妙な血を入れるのは勘弁してくれよ」
「……ゲイル。そういう言い方はあまり関心しないな。控えるようにしろ。相手に失礼だぞ」
「あら、ミーゼちゃん。結婚、おめでとう」
「いえ、義母さん。まだ、結婚した訳では無いですよ」

 勿論、婚約相手が気になるのは他の皆も同様であり、含みのある言い方をするゲイルとそれを注意するハロルド。ギクシャクしている兄弟の横で朗らかに微笑み、婚約を祝福しているエミュット。

ゲイルの態度はいつもの事なので特に気にしない。むしろ、ゲイル以外の家族がゲイルのような言動を取らない事にミーゼは内心驚いていた。その辺りはミーゼに対して一番思う所がある筈のエミュットが一番婚約を祝福してくれている時点でこの家族の風潮なのだろう。

「安心しろ、お相手はシャロン王女様だ」
「は?」

 その名前を聞いた瞬間、ミーゼの思考が停止する。いやいや、まさか。そんな筈が無い。自分の聞き間違えだと言い聞かせる。

「聞こえなかったか? お前の婚約相手はストネ帝国第四王女――シャロン・フリューゼン様だ」
「へぇ、シャロン様とミーゼがね。まあ、ある意味でお似合いじゃないのか」
「――――ゲイル、いいかげんにしろ。僕はたとえ家族でも帝国に対する不敬を何度も見逃す程、お人好しじゃない」

 少し本気の怒気を乗せた声音でゲイルを睨み付けるハロルドの視線を受けて、ゲイルは反省した様子もなく、肩を竦めるとまだ言い足りなそうに開いていた口を閉じる。その頃になるとミーゼの思考も回復してきており、頭の中からシャロンについてのデータを探しつつ、大きな問題になるだろう事について口にする。

「まさか僕の婚約者が第四王女のシャロン様とは光栄の至りですが、シャロン様は確か目が……」
「何か問題があるか?」
「いえ、何もありません」

 ストネ帝国第四王女シャロン・フリューゼン。彼女はある意味で最も帝国の民に知られている人物である。彼女は生まれつき視力が弱く、一人で生活する事が困難な身体で生まれてきた。

 帝国ではそういう子供の事を悪魔の子として差別してきた文化がある。勿論、王族の子供として生まれてきたシャロンを差別する訳にもいかず、シャロンは普通の子供として育てられている。しかし、そういった情報統制が完璧に上手くいく筈が無い。シャロン様の容態は帝国の民なら知っている公然の事実だ。特殊な育ちという意味では確かにミーゼとお似合いかも知れない。

 とはいえ、ミーゼもシャロンの事を拝見した事もあるが基本的には美しく、高貴な信念を持つ素晴らしい人物である事を知っている。多少のハンデなら十分に周囲の目を引っくり返すだけの能力も持っている。本当に婚約出来るのならとても光栄な事だ。

 しかし、いやだからこそ、ミーゼが躊躇ってしまう大きな問題が存在する。

「あの、ミーゼがシャロン様と婚約するのはとても光栄な事だと思いますが、まだシャロン様は成人の儀を終えていないですよね? 皇帝陛下もそのような時期から婚約者を決めるなど少し急ぎ過ぎでは?」

 リーガルの眼光に言葉を封殺されたミーゼの心を代弁するようにハロルドがリーガルへ尋ねる。

 そう、シャロン・フリューゼンはまだ成人の儀を終えていない九歳の女の子だった。


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