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No.41638の一覧
[0] 転生者が蔓延る世界に生まれた僕は奴隷市場で前世勇者の転生者を見つけて購入したけど特に冒険的なイベントを起こさず、都市経営に専念します。[ニョニュム](2016/10/06 22:51)
[1] 出会いの日(1)[ニョニュム](2016/09/21 21:11)
[2] 出会いの日(2)[ニョニュム](2016/09/06 21:40)
[3] 出会いの日(3)[ニョニュム](2016/09/06 21:41)
[4] 出会いの日(4)[ニョニュム](2016/09/06 21:42)
[8] 出会いの日(5)[ニョニュム](2016/10/06 22:39)
[9] 出会いの日(6)[ニョニュム](2016/10/16 20:24)
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[41638] 出会いの日(1)
Name: ニョニュム◆473938c4 ID:754c1ba2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/09/21 21:11
 それは広大な荒野を彷徨う旅人が安寧の地を見つけるような偶然であり、太陽が顔を出せば人々の営みが始まるほど必然的な出会いだった。

 薄汚れた鉄格子の檻の中、その少女は意思の強さを感じさせる瞳でこちらを威嚇していた。
 口には猿轡、両手両足には拘束具。両手の拘束具に繋がる縄が天井の柱を経由して少女の両手を引っ張り上げている。身体が浮いているのか、足が地面へついているのか、分からない絶妙な位置で固定された少女の内股には拷問用の三角木馬が設置されていて、少女に爪先立ちを強要している。そしてなにより少女は身に纏う衣を一切所持していなかった。

 そんな女性としての尊厳を全て破壊するような環境でも少女の美しさは健在だった。腰まで届く乱れた赤毛は朝とも夜とも分からぬように日の光を入れぬ室内で揺らめく蝋燭の火に照らされて燃えるような煌めきを見せ、相手を射抜くような鋭い眼光を向ける赤い瞳はガラス玉のように澄んでいる。絹のように滑らかな肌が少女の美しさを何倍にも増長させていた。

 そんな少女の姿を見て、湧き上がってくる気持ちの正体を知っている。多分、この気持ちは――――。


 ――――――初恋に似た気持ちなのだろう。









 【ストネ帝国】。それは様々な国が群雄割拠するクーデリカ大陸において、最も強大な軍事力を背景に大陸最強の名を持つ国であり、広大な領土を治めている国でもあった。

 そんな帝国において、海に隣接する帝国東部を管理して中心的な役割を果たす為の拠点として栄えた大都市【ネバルカ】の天気は雲一つない晴れ晴れとした陽気だった。

「――――て下さい、ミーゼ様」

 穏やかな陽気と心地良いそよ風が頬を撫でる。日の光を浴びてぽかぽかと身体が暖まり、一度は覚醒しかけたミーゼを再び深い微睡みへ誘う。怒らせてしまったら恐ろしい事になるメイド長の自らを呼ぶ声が聞こえる。しかし、この微睡みに抗うには少々、骨が折れる。

「起きて下さい、ミーゼルカ様。今から帝王学の先生が到着致します」

 少しだけ呼び方の変わったメイド長の声音に反応して、まだ眠りから覚醒しない身体を必死に起こす。怒らせたら厄介な事になるのは身体に染みついている。

「おはよう、カトラ。今日も良い天気だね」
「はい、私達メイドとしても洗濯の仕事が捗るのでとても助かります」

 身体を起こし、自身の眠りを妨げた女性――メイド長であるカトラへ声を掛ける。白を基調としてエプロンドレスにこの大陸では珍しい腰まで届く鳥羽色の艶やかな長髪、町へ繰り出せば十人中十五人くらいは振り返る美貌と体付きをした彼女は寝惚け眼のミーゼへ呆れた視線を送っている。

「今日みたいに天気の良い日はお昼寝するのが丁度良いと思わない?」

 要約するともう少し寝かせて、と希望する。

「――――そうですか。ですがミーゼルカ様、今日は今から天気が悪くなるようですよ」
「え、そうなの? こんなに良い天気なのに今から崩れるのか……」

 淡々と告げられたカトラの言葉に釣られてイスの背もたれに預けていた身体を起こして、心地良い風が吹き込んでくる窓の外を覗き込む。眼前には雲一つない空が広がっている。とても今から天気が崩れて雨が降ってくるような気配は見えない。

 その時だった。

「痛ッ!」

 ミーゼの頭上にゴツンという良い音を立て、強い衝撃と痛みが奔る。誰に拳を振り下ろされたのかは明白だった。

「大丈夫ですか? どうやら、カミナリが落ちたようですね」

 先程までは大人しく、ぼんやりと思考の回っていないミーゼルカの近くで粛々と控えていた筈だが、白々しく平然と言葉を口にするカトラ。
 実際、誰がカミナリを落としたかなど明白。そんな態度のカトラを見たミーゼは小さく溜息を吐き、カミナリを落とされて痛む頭を手で労わりながらカトラへジト目を向ける。

「…………全く、普通にカトラが僕の事を殴ったよね? 僕はこれでも帝国四大門に連なる公爵家の三男なんだからさ。もっと、こう、敬っても良いと思うんだけど。いくらクラウゼル家のメイド長とはいえ、平民が手を出して良い身分では無い筈なんだけど……」
「いえいえ、滅相もございません。私がお仕えしているのはクラウゼル家。政略結婚として他家へ出て行かれるミーゼ様のご機嫌取よりも帝国四大門のクラウゼル家として名に恥じぬお方へ教育する事が優先ですので」
「ねえ、カトラ。世の中には本音と建前が必要だと思わない?」
「お仕えする家の方に虚偽の報告をするなどとんでもない事でございます」

 平然と失礼な発言をするカトラの態度にミーゼは深い溜息を吐く。色々と言いたい事があるものの、どうにも小さい頃から世話になっているカトラと口論した所で煙に巻かれるのはオチだ。長年の付き合いなのでそれくらい理解している。どのみち、カトラの指摘は事実であり、顔を赤くして怒るような事でもない。

「まあ、別に良いんだけどね。後、半月も経てば、僕はこの家から出ていく事になるし。カトラに怒られるのも今の内と思えば感慨深いモノがあるよね」
「そんな事でしみじみしないで下さい」

 ストネ帝国に生きる帝国男児として生まれてからもうすぐ十五年の月日が流れる。クーデリカ大陸において十五歳という年齢は子供と大人の境界線であり、貴族の間では子供から大人へ変わる【成人の儀】と呼ばれる風習が存在する。

 帝国においても【成人の儀】は重要な意味を持つ。【成人の儀】を無事に終えた貴族の男児は統治する領内に存在する都市の一つを与えられて運営していく義務がある。

 十五歳という若さで周囲の大人達から成人として扱われる風習に、ミーゼは少し早すぎるのではないか、と思っているのだが、このクーデリカ大陸では一般的に行われている風風習なので仕方ない。

 とはいえ、同じクーデリカ大陸に生きるミーゼがそんな疑問を抱くのには少し理由がある。ミーゼが少しだけ特殊な生まれだからこそ、疑問を抱くが他の人間からしてみればこの風習を不思議と思う人はいないだろう。

「それに世間体や扱いに困る問題児が実家を出ていくんだから、皆も助かるよね」
「………………」
「……少しは気を遣って、否定して欲しかったんだけど……」

 ミーゼの発言を否定しないカトラの正直な態度に苦笑を浮かべて溜息を吐く。
 嫌われるような発言も行動もしないように心掛けていたけれど、生まれは重くのしかかる。

 ミーゼの母親は彼がまだ小さな赤ん坊だった頃、その時代に猛威を振るった流行り病に感染して既にこの世を去っている。そしてクラウゼル家にとってミーゼを産んだ母親はとても扱い辛い人物でもあった。彼女の元々の出生は平民である。
 帝国四大門に連なるクラウゼル家の血を引き継ぐ人間に平民の血が混ざる。これだけでも重大な汚点ではあるがその母親が勤めていた職に大きな問題があったのだ。

 ミーゼの母親は元々、皇帝が治める帝国首都に存在する歓楽街で貴族を相手にしていた高級娼館に勤めていた娼婦だ。彼女は美しく手腕も良いと評判であり、娼館で一二を争う人気の娼婦であった。もっと言ってしまえば、皇帝のお気に入りである。硬派で知られるミーゼの父親も皇帝に進められた彼女を抱かない訳にはいかなかった。

 そして、彼女のお腹に宿った命がミーゼルカである。クラウゼル家にとって、事故で“生まれてしまった”問題児。それがミーゼルカだ。皇帝のお気に入りを孕ませておきながら知らんぷりする事は出来ず、妾として世話をする事になった。

 元々、大人しく目の前で控えているカトラは母親と死別して世話をしなければならなくなったミーゼの世話係。クラウゼル家のメイド長として活躍するようになったのはその後である。ミーゼにとって、カトラはただのメイドではなく、一生頭の上がらない母親であり、姉のような存在なのだ。

 そして、育ての親であるカトラだからこそ、ミーゼの抱えるもう一つの特殊な生まれを知っている。

 このクーデリカ大陸において“転生者”と呼ばれる特殊な生まれ方をする人間が稀に生まれてくる。
 “転生者”とは過去の自分――前世の自分が身に付けていた多くの知識や本来なら習得に長い年月が掛かる技能《スキル》を生まれた時から身に付けている者の総称である。
 勿論、前世の自分が習得していた技能や知識を全て継承している訳では無い。多少、劣化しているもののそれでも天才と呼ばれる一区切りの人間を除いた同年代の人間と比べれば卓越した知識と技能を持っている。

 ミーゼもまたその“転生者”と呼ばれる人物の一人だ。しかし、彼が継承している知識や技能には大きな問題がある。

 “転生者”はクーデリカ大陸の知識や技能を持って生まれてくるのが普通である。変わり種だったとしても東方の島国【ヤマト】と呼ばれる国の知識を持つ“転生者”が生まれてくるぐらいだ。

 そんな中、ミーゼの持つ“転生者”の知識は異彩を放つ。彼の持つ“転生者”としての知識は地球と呼ばれる星のニホンという国のモノである。ニホンという国は魔法という文明こそないもののストネ帝国の文明を遥かに超えた高度な文明や文化、倫理観を持つ国であった。

 “転生者”にとって、生まれついて持つ知識は考え方の根底に深く根付く重要な要素である事に違いない。そして、進み過ぎた文明や文化、倫理観を知識に持つミーゼはニホンとクーデリカ大陸との差異に悩まされていた。言ってしまえば“転生者”として継承した知識はクーデリカ大陸で生きる人間にとって邪魔でしかない。

 それに異世界という概念そのものが荒唐無稽の話であり、ミーゼの実家であるクラウゼル家でさえ、ミーゼが持つというニホンの知識を否定している。むしろ、平民で娼婦の母親を持つミーゼがクラウゼル家で自身の価値を上げる為に“転生者”だと言い張っている虚言だと判断している。

 なにより、ミーゼは自身が本当に“転生者”であると証明出来る技能を持っていない。正確に言えば、ミーゼの持つ“転生者”としての技能は他人に証明出来る類の技能ではなかった。

 【能力認識《アナライズ》】――――――それがミーゼの所有する技能の名前である。ミーゼが“観察した”と認識した対象の能力値を数値化して、その数値をミーゼ個人に認識させる技能である。生物も物も対象として数値化出来るある意味便利な技能である。しかし、言ってしまえば人を見る目がある人間とさほど変わらない。これではこの技能を他人に証明するのは難しいだろう。

 地球という世界の知識について説明する事が出来れば、また違ったかもしれないが“転生者”が継承するものは知識と技能だ。それは知識であって、ニホンで生きた記憶ではない。前世の自分がどのような人物だったか知るすべもなく、劣化して歯抜け状態の知識だけが残される。継承した知識の中に進んだ文明や文化を再現するだけのモノはない。
 クーデリカ大陸の知識を持つ“転生者”なら暮らしていく内に知識の補完も可能であるが異世界という概念そのものが荒唐無稽な話なので、ミーゼはニホンの知識を補完する事など夢のまた夢である。

「まあ、帝国四大門の三男として認められているだけでも儲けものだし、実家に対してこれ以上文句は言えないよな」

 それにミーゼの母親が素晴らしい人格者であったとか、母親の死を惜しんだ噂をミーゼは耳にした事が無い。むしろ、帝国四大門に連なる当主を愛妾となった事でクラウゼル家の使用人達に対して、あまり良い態度では無かった、と陰口を叩かれている所を聞いた事があった。

 第一、娼婦に出来た子供である。実際、誰が父親なのか定かですらいない。知らぬ存ぜぬで無視されても可笑しくなかったのだ。クラウゼル家には感謝するべきで恨むのは筋違いだろう。

「――――――全く、魔法が存在したり、技能が存在したり、身体能力《ステータス》なんてモノがあったり、僕は一体何処のゲームに迷い込んだんだろうな」

 野鳥が翼を羽ばたかせ、気持ちよさそうに空を飛翔する様子を眺めながら、ミーゼが誰にも聞こえないような声音でぼやく。

 ミーゼの持つ知識からは荒唐無稽な魔法が存在して、技能が存在して、魔物が存在する世界。

 それがニホンの知識を持つ“転生者”。ミーゼルカ・クラウゼルの暮らすクーデリカ大陸だ。


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