UC 0083.02 フォン・ブラウン市郊外 月面
「ふむ、これはこれで、なかなか良いモビルスーツに仕上がりましたね」
現在、私はMS-17Rガルバルディβの試作機のテストをしています。多少のすったもんだはありましたけど、最終的にはガルバルディの設計図をアナハイムに提供する
ことで決着しました。株式の相互での持合いと合わせて技術提携、業務提携がなされました。もしかしたら将来的にはジオニックとアナハイム・エレクトロニクスは
合併するかも知れませんね。そこにツィマッドとかも巻き込んで業界再編でしょうか?
史実みたいに、アナハイムの一強時代とかになるのかな? まあ、そうなってもアナハイムの筆頭株主は既にジオン公国なんですけどね。
ジオニックの筆頭株主がジオン公国ですしね。それで、株式交換でジオニックがアナハイムの第二位の株主に成り上がったのです。それ以外にダミー会社を通じて、
せっせと株の買い増しを繰り返したり、既存の株主の会社に出資したりしていますので、アナハイムの影の筆頭株主はジオンというわけです。
これで、アナハイム社製のMS同士やジオニックとアナハイムのMSが戦闘でもすれば、自分で自分の尻尾を食べる恐竜の出来上がりというわけです。
資本主義って怖いですよね・・・
まあ、私もお金は大好きなんですけどね! それでも、自分で使い切れないほどのお金はいりませんけど。
っと話が逸れた。
史実での型式番号は、RMS-117だったと思いますけど、この世界ではMS-17Rです。まあ、連邦軍がお買い上げしてくれた場合は、RMS-117とかになるのかも知れませんけども。
しかし、このガルバルディβには、致命的な欠点が存在するのです! その欠点とは、格好良くない! 仮に以前のガルバルディをガルバルディαとするとして、
そのガルバルディαは、ゲルググに似た容姿をしていて格好良かったのです!
しかし、このガルバルディβは贅肉をそぎ落としすぎてモヤシっ子になってしまってるんです! ガリガリなんですよ。私が生理的に受け付けない容姿のMSなんです!
あまりにも、ロボットロボットしすぎているんですよ。MSに心が入ってないとでもいうのでしょうか? そんな感じをこのMSからは受けるのです。
おなじMS-17なのに、どうしてこうなった? 解せん・・・
いくら外見と容姿が好くても弱かったら意味はないのですけど、性能が良くて機能的に優れていても容姿が悪いのも考えものですよね。
ここら辺は、まだアナハイムがMS開発の浅い会社だから仕方がないのかなぁ。これは次のMSに期待するしかありませんね。
「宇宙の魔女に、失礼、マリア様にそう言って頂けると素直に嬉しいですな」
コクピットにメラニー会長の声が入ってきた。あのブルドッグみたいな親父も、この試作機のテストが気になるみたいですね。まあ、MS部門に新規参入するのに
社運の半分は掛けていますから、気になるのも当然でしょうか?
「全天周囲モニターとリニアシートは、慣れないと違和感を拭えないパイロットもいそうですけど、私は気に入りました」
アナハイム・エレクトロニクスというだけあって、さすがに全天周囲モニター等のエレクトロニクス系は強いですね。
容姿は気に入らないけど、その他の面においては現時点での性能は、恐らく宇宙世紀83年においてトップレベルのMSに仕上がっているのは確かでしょう。
さすがは、ガルバルディαの後継機ですね。このMSはアナハイムとジオニックの共同開発したMSなのです。政治的にも色々なしがらみとかがあって、結局は
ジオン公国向けはジオニックが、連邦や月向けはアナハイムの製造販売と決まりました。これだと、あまり前と状況が変わってない気がしないでもないですけど。
設計図を提供したジオンが一方的に損したように表面上は見えるかも知れないですね。でも、それも狙いみたいです。まあ、分かる人には直ぐにバレる嘘ですが。
それで、私が乗ってテストしているのはアナハイム製の方です。ジオニックが作るジオン向けのガルバルディβは、αの外見を引き継ぐ予定だそうです。その分、
重量が少し増えるけど、それは致し方ありません。万が一にでも外見がおなじMS同士が戦闘になったなら紛らわしいですしね。
「それでは、まず最初にMS-14Aゲルググと模擬戦を行ってもらいます。続いてRGM-79Lジム・ライトアーマーと、その次はRGM-79Cジム改と模擬戦をお願いします」
「こちらマリア機、了解した」
さて、模擬戦といえども久し振りの対MS戦です。相手も腕の良いパイロットでしょうから、ちょっぴりワクワクしますね。でも、性能試験の模擬戦をやるのに
パイロットが私で良かったんでしょうかね? 私ではMSの正当な評価以上の性能を見せてしまって、恐らくMSの評価が過大になってしまうはずですけど・・・
それで過去にレム主任に、グチグチと小言を言われてしまった事がありましたから。
けど、連邦軍の将校や技術士官も見学に来ているから、このMSの売り込みも兼ねてオーバーアクションを、メラニー会長は期待しているのかも知れませんね。
アナハイムの筆頭株主として、ここは私も一丁売り込みを手伝いますかね!
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「おおーっ! ゲルググが相手にならないとは」
「ああ、まるで大人と子供ほど違う」
「さすがは新型といったところですな」
「しかし、いくら新型といっても、これは姫様の腕じゃないのか?」
「それは迷うところだな。しかし、このガルバルディβが高性能なのは確かだ」
「ええ、一年戦争で戦場に出た、どのモビルスーツよりも高性能みたいですね」
「ワッケイン少将どうですか、ガルバルディβの性能は? ジオン系技術云々抜きにしても、連邦軍で採用して頂くに相応しい機体だと自負しております」
「うーむ、これは確かに欲しい。だが、我々の一存で正式採用が決定できないのはメラニー会長も理解しているであろう?」
「はい、それは十二分に。そこで、ルナツーの宇宙軍に評価試験機名目で数機お譲りしますので、ご検討頂ければと存じます」
「それはありがたい」
「しかし、ジオンも思い切った事をしたものだな」
「アナハイムへの技術提供ですか?」
「ああ、これだけの高性能機という事は、ほぼ最新鋭のモビルスーツだぞ? それを我が連邦にも売るなど、我々の立場では考えられん話だ」
「それだけ、戦争によってジオン経済が疲弊していたとは考えられませんか?」
「それもあるが、これはジオンのメッセージでもあるのだろう」
「独立を勝ち取ったから、今後は連邦とは仲良くしますよ。という事ですか・・・」
「ああ、虫の良い話だがな。しかし、それで平和が買えるなら安い買い物だ。我々もジオンも、な」
「しかし閣下、平和と言う名の旧世紀にあった冷戦になりませんかね?」
「ジオンがその気ならば、モビルスーツを売り込まんだろうよ。ジオンも寒い時代を終わりにしたいのだ」
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などの会話が繰り広げられてるとは、私は露ほども知らずに、ゲルググをサクっと撃墜判定させて、次のジムが出てくるのを待ち構えているのでした。
「おろ? 今度の相手はライトアーマーとか言ってなかったっけ? あれはジム改かな? 似ているけど違うような?」
ジムはバリエーションが豊富だけど、似ているから全部が全部おなじに見えて判別がしづらいのが難点ですね。さすがにライトアーマーとかスナイパーとかキャノンは
区別ができますが。まあ、それを言ったら、ザクやゲルググも見分けが付きにくいんですけども、ジオン軍人の私には分かりますので、連邦兵もジムの区別はできてる
のかも知れませんね。
「といいますか、ぞろぞろと6機も出てきたぞ? これは、ひょっとしてサプライズってヤツですかね?」
模擬戦を盛り上げる演出ですね。ふふ、私には分かりますよ! メラニー会長も教えてくれないだなんて人が悪いですね。まあ、この方が実戦っぽくって、バイヤーの
連邦軍のみなさんに満足して貰えそうですね! そうと分かれば、私も株主として期待に応えてあげないといけませんよね。
アナハイム・エレクトロニクスは顧客満足度一位を目指す、顧客本位の会社なのです!
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「メラニー会長、これはどういう事だ!」
「シ、シーマ大佐、お、落ち着いて下さい」
「見たこともない新型のジムが、それも6機だぞ! これは罠じゃないのか?」
「あの機体は!?」
「閣下! あれはジムカスタムです!」
「ジムカスタムだと!? 何故こんな所に!」
「まだルナツーには配備されてませんので、小官にも、てんで訳が・・・」
「ワッケイン少将、これはどういう事だね? マリア様に万が一の事でもあったら戦争が再開してしまいますぞ!」
「それを狙っている輩が、ジャブローには居るのかも知れませんな」
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「運動性は、なかなか優秀みたいですが、そこっ!」
ふむ、新型っぽいジムはア・バオア・クーとかで戦ったジムよりは性能が向上している感じがしますね。私のガルバルディβを取り囲むようにしていたジムだったの
ですけど、私は囲まれる前に各個撃破を心掛けました。反時計回りに一機づつ確実にジムに模擬ビームライフルを撃ち込んで行きます。まあ、当然の流れですよね。
外見の容姿はイマイチどころか、イマサンなガルバルディβですけど、性能は私のMS-14JGsゲルググ・イェーガー専用機に近いモノがありますね。あの子はチューン
してありますから、まだ性能的に若干は私の専用機の方が上ですが、このガルバルディβは、まだ弄れる余地が残ってますので、チューンしたらイェーガーよりも
高性能な機体まで仕上げられそうですね。伊達に1.5世代のMSじゃないってことでしょうか?
しかし、いまだに理解できないのが推力と運動性や機動性の関係だ。機体重量が減ったら推力が低くても運動性は低下しないのは理解できるけど、数値的に見たら首を
傾げざるを得ないカタログスペックなのに、高性能とかこれ如何に? まあ、考えても私の頭では理解できないから、考えるのは止めましょうか・・・
『高性能は高性能、なんか文句ある?』 多分そういうモノだと思っとけば良いのでしょう。
っと、いまは模擬戦の途中でしたね。雑念はいけませんよね。
「ということで、私と戦うには、そのジムではまだ未熟です! これで最後の6機目です! アディオス!」
というか、撃墜されてるはずのジムが、まだ撃ってくるのはなんでですかね? チャンバラごっこする前に全機撃墜しちゃったから、接近戦のテストをしろって事ですか?
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「ほぅ? これはこれは、この借りは高く付きそうだねぇ。ワッケイン、ルナツー司令閣下殿?」
「シーマ大佐、一つ言わせてもらうと、この襲撃は我々ルナツーの宇宙軍の差し金ではない」
「連邦も一枚岩ではない、それぐらいは理解しているわよ。おおかた、コリニーあたりが動いたんだろうねぇ」
「ああ、あのジムカスタムは、オーガスタで開発されたモノだ。ルナツーの我々の所には、まだ回って来てない機体だ」
「地球至上主義者たちの嫌がらせですかねぇ?」
「まあそんなところだ。我々とは派閥が違うのでな」
「それで、ルナツーは姫様がテストしているガルバルディβに目を付けた、と」
「そういう事だ。ジオンもアレを我々に売りたいのであろう?」
「さあ? 政治は本官の任務の範疇外ですから。しかし、既に連邦は敵ではない。とだけは、申しておきましょうか」
「なるほど、理解した」
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などなどの生臭い会話が繰り広げられてるとは、私は露ほども知らずに、
「こちらマリア機です。全機、撃墜判定が出てるはずのジムがしつこく撃ってくるけど、どうしたらいいですか~?」
「は?」
「シーマさんってば、『は?』じゃなくて、なんだかみんな怒ってるみたいですけど、プライド傷付けちゃったのかなぁ」
「シ、シーマ大佐、姫様は一人だけ、まだ模擬戦のつもりだったようですぞ・・・」
「そ、そうみたいですね・・・」