「ギレン総帥!」
「ん? マリアか。帰っていたのか? 任務ご苦労だったな」
「ギレン総帥が、お義兄さんが私の本当の父親、パパなんですね? そうですね!」
私はギレンの執務室に入るや開口一番に大声で吠えて問い質していた。どうやらギレンはデラーズのハゲ親父と、なにかの打ち合わせをしていたみたいです。
ちなみに、この執務室への出入りは顔パスです。一介の特務大尉が顔パスな時点でおかしいと気づくべきだったのでしょうか?
まあ、いままでも義理の妹とは周囲の人間も理解していたから、アポなしでも出入りを許されていたので、私が感づかないのも無理はないってことですかね。
うん、私はニブチンではないですよ。多分だけど・・・
「マリア、その話を誰から聞いた?」
「パ、パパ・・・」
ギレンは私の顔を見て穏やかな表情をしたのも束の間、一転して表情を険しくした。もしかして地雷を踏んじゃった? でも、確認はしておくべきだ。
デラーズはポカンと口を開けて呆けてます。
「お姉ちゃんがポロリと口を滑らしました!」
「まさか、セシリア様が!?」
私が、お姉ちゃんと言ったらデラーズが狼狽えて、ギレンは片眉をピクッと動かした。片眉を動かすだなんて器用ですね。これは、もしかしなくても、
「ええ、この歳でおばあちゃんになりたくない云々って言いましたよ。その顔はデラーズ閣下も知ってたんですね? んもう、大人たちみんなでグルになって、まったく」
「マ、マリア殿、グルとかではありませんぞ」
これは大人たちの陰謀です。みんなで私の存在を隠していたと私は推察します。理由は世間体とかでしょうかね?
「おばあ・・・ちゃん?」
あ、やべっ! ギレンは目聡すぎますね。さすがはIQ240の天才です。説明したらしたで教育用語でいうところの、不純異性交遊をしていたのもバレてしまうのでしたね。
これでは藪蛇じゃありませんか・・・ でも、言ってしまったものは仕方ありません。どう誤魔化しましょうか?
「あ、あははは・・・」
「コホン。あー・・・ マリア、その、なんだ、そういうのは、まだ少し早いのではないかな?」
とりあえず私は笑って誤魔化すことしかできませんでした。確実に頬が引き攣った笑いでしょう。『笑えばいいと思うよ』そう囁いた脳内の私を殴ってやりたい気分です。
ギレンも一つわざとらしい咳をしてから、どう言ったらいいのか迷ってしまったみたいですね。言葉を探しても無難なことしか言えてません。天才にも弱点があったとは!
天才とはいっても、所詮はギレンも人の子? 人の親ということか。これが娘を持つ父親の気持ちなんでしょうかね?
お互いに目を合わせないで気まずい雰囲気が部屋中に漂う。く、空気がドヨンと澱んで重いです。誰か、この状況をなんとかして下さい!
もう生娘じゃなくなってしまったのがバレた娘と父親の会話なんて、なにを話したらいいのよ。笑って誤魔化すしかないじゃない。それも、さっき父親と判明したばかりの
ギレンが相手だなんてハードルが高すぎます。
でも、開き直って私も言わせてもらいますよ。ここは正面から一点突破あるのみです。ギレンもお姉ちゃん相手に、やってることは似たようなモノなんだしね。
「でもさ、もう既に済ましてしまったのだから仕方ないでしょ? それに、お義兄さんが私をお姉ちゃんに仕込んだのも二年くらいしか違わないじゃないのよ」
「だが、しかしな・・・」
しかしもかかしもありません。ギレンがロリコンだったなんて外聞が悪すぎるから、恐らく私をおばあちゃんの子として育てたのでしょう。
15歳で腹ボテなセシリア・アイリーン。お腹の中には私。うん、これはこれで・・・
「し、仕込んだなんてマリア殿、はしたないですぞ」
「あら、これでもオブラートに包んで言ったつもりですよ? 種付けとか言うよりはマシでしょ?」
「た、種付け・・・」
デラーズよ、恥ずかしがって狼狽えるな。男は狼狽えてはダメなのだ。軍人たる者は常に冷静であれ。
「戦闘が終わったあとの興奮を静めるのには必要な行為なんですから。お二人ともア・バオア・クーでの戦いの後でどうなされましたか? やりましたよね?」
戦闘行為が終了したあとの兵士は非常に興奮した状態のままなのです。これは女性兵士も同様であります。だから昔から占領した場所でのレイプが絶えないのだ。
これは、軍事行動に付随する負の側面ですね。いつの時代でも軍隊を悩まし付き纏う問題でもあります。
私はアムロが強姦魔になるのを防いだ英雄なのです! ジオン十字勲章ものの行為ではありませんか。よって自己の正当性には、なんら後ろめたい事柄は無いと
断言するのであります! うむ、これで理論武装は完璧ですね。私って、なんて頭が冴えているんでしょうか!
「うむむ・・・」
「性的興奮に男も女も若いも関係ありません」
むしろ若い兵士の方が性質が悪いといっても過言ではないでしょうね。若いだけにエネルギーが有り余ってますから。
「ギレン総帥、我々の負けですな。マリア殿の言う通りです」
「だが、しかしな・・・」
デラーズのハゲ親父は首を左右に振って諦めたようです。ギレンパパはまだモゴモゴと、なにやら言いたそうではありますけども。
勝った。勝ったよアムロ! 正論はどんな時でも、おためごかしのまやかしに勝るのであります。
私が一人悦に入ろうとした時に、執務室の扉がバンっと開いた。
「待ちなさいマリアっ!」
お姉ちゃん遅かったですね。どこで油を売ってたんですか? もう喋っちゃいましたよ。
「ふむ。セシリアも来たことだし丁度良い機会だ。マリアにも、いつかは話さねばならぬと思っていたのでな」
それからギレンが話してくれた内容は、概ね私の想像した通りでした。ザビ家の長男が15歳の少女を妊娠させたなど世間体も悪いし、政敵にも付け込まれる余地を
生むことになりかねない。そこで半年ばかり世間の目からお姉ちゃんを隠して私を出産させたのです。おばあちゃんの子として生まれたことにして。
私生児を養子にしたうんたらかんたらとか、まあ、ここいらへんの誤魔化しテクや複雑な事情は、私には詳しくは分かりませんでしたけど。
でも、堕ろされなくて良かったぁ。万が一にも堕胎されてたら、現在の私は存在しないのですから。もし、仮にそうなっていたら水子になってギレンに憑りついて、
祟ってやるところでしたよ。
それで、私がまだ赤ちゃんの時に、ジオンが演説中に倒れて間もなく死亡。その直後に今度はサスロ・ザビが爆殺されてしまい、弱い存在の私が狙われるのを恐れて、
私の存在はそのまま姉のセシリアの妹のままで、今日まで至るというわけです。
なるほど、だからグレミーとマリーダも養子に出したのね。まあ、実質的に半分はお姉ちゃんが育てているから、既に養子も建前だけで形骸化しているけどさ。
「連邦との戦争も終結した事だし、そろそろマリアを公表しても良い頃合いではあったのだ。私が言う手間が省けたのは助かったがな」
手間が省けたて助かったとか、ギレンは父親の仕事を放棄するつもりかよ! それよりも、公表? 私が娘でしたって発表するの?
「公表? 嫌よ。私はお姉ちゃんの娘じゃなくて、お父さんとお母さんの娘のままで構わないです。政争の道具になんかには成りたくはありません」
誰が好き好んで権力争いに飛び込む馬鹿がいるのよ。魑魅魍魎との化かし合いなど、ごめんです。願い下げでございます。
「そういう訳にもいかんのだ。マリアは私に次いで公位継承順は第二位だ。それに国民からの人気はマリア、お前がザビ家の中で一番高い」
「そうです。マリア殿、いえ、マリア様の独立戦争での活躍は、コスモスの蝶、宇宙の魔女として全ての国民が知っておりますぞ! まさに国民のアイドルですな!」
「マリア、人生は時には諦めも肝心よ?」
ズイっと身を乗り出すな、デラーズ顔が近いよ! ハゲ頭が脂ぎってるよ! 私がジオンのアイドルって言ってたのは自称だったのに、まさか本当になっていたとは・・・
というか、今度また油取り紙プレゼントしてあげるから、その暑苦しい顔を引っ込めろ!
ん? その前にギレンは、なんと言った? 公位継承順が二位? それに、お姉ちゃんの言う、あきらメロンとは? それ、食べれるんですかね? あまり美味しそうな
名前ではありませんね。あきらメロンとは、どんなメロンですかね? うん、思わず現実逃避しちゃいましたよ。
継承順が二位。それって、つまり、えーと・・・?
「ちょ、ちょっと、みんなで一篇に言わないでよ! それに継承順位が二番ってなによ? 男子優先じゃないの?」
「我がジオン公国の公室典範では、長子優先だ」
「ぶっ! そ、そんなぁ。それじゃあ、私がギレン義兄さんの次の公王、女公王ってことなの?」
大事なことなのにギレンもサラッと言うなよ。ジオン公国は保守的な独裁国家だと思っていたのに、なんでそんなところだけ、戦後ヨーロッパみたいに先進的なのよ!
男子優先でギレンの次はグレミーでいいじゃん! 所詮、私は紛い物なんだから。前世は日本のそこそこ善良な小市民ですよ? 私には重すぎますってば!
それに、そんな重荷を背負う覚悟もないですし。本気でフォン・ブラウンかどっかに逃げたくなってきた。
「そういう事よ。だから、我がままを言わないで大人しく諦めなさい。マリア」
「そんな大事な娘なら、なんで戦場になんか出すのよ! おかしいじゃない!」
王位だか公位だか知らないけど、継承順位が第二位の娘を戦場に普通出しますかね? あー、でも第一次大戦までのヨーロッパでは、普通だったのかも知れませんね。
貴族の役割りだとか、ノブレス・オブリッジだとかリージュだとかで。ボーア戦争やWWⅠとかで継承者がバタバタ死んでますもんね。それで亡命ナポレオン家なんて
断絶しちゃったはずだし。公爵や侯爵、伯爵になると、もっと死んでるしね。
「それはそれよ。万が一に戦死したとしてもグレミーもマリーダも残っているわ」
「お姉ちゃんヒドい! それでも私の産みの母親なの!」
鬼がいた、ここに鬼がいましたよ。桃太郎さん!
「ええ、あなたの母親よ。何故か知らないけど、私にはマリアが戦死するなんて微塵も思えなかったのよ。不思議ね」
「だから、戦場に出した、と。 お姉ちゃんはエスパーでしたか? 確かに戦場では、かすり傷一つ負わなかったけどさぁ。なんか納得がいかない」
私はタコのように唇を尖らせ頬を膨らませて抗議する。そういえば、お姉ちゃん、史実のセシリア・アイリーンには、ニュータイプの素質があったとかって、
なにかで見た気もするけど、ニュータイプの勘ってヤツですかね? それでも納得がいかないものは、納得がいかないのです。
「これは、母親の勘ね」
母親の勘でしたか・・・ 私はズッコケそうになるのを気力で持ちこたえましたよ。偉いぞ私! その代わりに気力をゴッソリと持って行かれましたが。
「はぁ~・・・ とりあえず、この話は戦争も終わったことだから、もういいです。それで、私が継承するしないに、かかわらず、」
「かかわらず、なんだ?」
ギレンさん、その片眉ピクってどうやるんですか? 今度教えて下さいな。肩書きが父親や義兄さんや総帥とか紛らわしいから、もう眉なしでいいよね。ロリコンだし。
眉なしで眉ピクって器用ですよね。まあ、薄いけれども一応は眉ありますけどね。
「これは、私が継承するにしてもグレミーが継承するとしても、約束して欲しいことがあります」
そう、これは重要なことです。主に私たちが吊るされるか断頭台の露と消えない為にも。独裁者の末路ほど惨めで哀れなのもないでしょうから・・・
「ふむ、約束が出来るか出来ないかは内容にもよるが、言ってみろ」
「旧世紀のイギリスを手本とした、立憲君主制」