「マリア・イレーネ・ザビ公女殿下、おーなーりー!」
どうしてこうなった?
「おーなーりー!」じゃねえよ! おーなーにー! の間違えじゃないの? そうじゃなくて、なんで、私がジオン公国の公女などに祭り上げられなきゃならんのだ!
お元気ですか? ジオン公国のスーパーウルトラアイドルこと、マリア・アイリーン改めマリア・イレーネ・ザビです。
なぜ、こんな事態になっているのかといいますと、話は独立戦争が終結した直後にまで遡ります。
UC 0080.01.07
「マリアっ! あなた、アムロくんと何やってるのよ!」
お姉ちゃんの剣幕が部屋中に響き渡る。私は思わず耳を塞ぎました。眉間に皺を寄せると皺が跡に残りますよ。というか、美人が怒ると迫力ありますよね?
頭から角が生えてるのが見えます。私も遂にニュータイプに目覚めたみたいですね! そう、現実逃避したくなります。
「なにって言われても、ナニをしてたとしか言いようがないような?」
「マリアは、この歳で私をおばあちゃんにさせる気ですか! はぁ、まだ私は三十路にも成っていないと言うのに・・・」
「はい? お姉ちゃんはナニを言ってるんですか? それに毎日ピル飲まされてるから、ほぼ大丈夫だし」
現状で私が妊娠することは、ほぼ確実にありえません。というか、おばあ・・・ちゃん? グランマ? 誰が? お姉ちゃんが?
「っ! ・・・感情的になって、思わず口が滑ってしまったわね・・・」
「なにを言ってるのか分かんないけど、もし、私が赤ちゃんを産んだとしても、おばあちゃんじゃなくて、お姉ちゃんは伯母さんでしょ?」
私の頭の中は疑問符で埋め尽くされたのでした。おばあちゃんじゃなくて伯母さんの言い間違え、聞き間違えだよね?
「マリアに赤ちゃんが産まれたのなら、私は、おばあちゃんで間違いではありません! あなたは、マリアは私がお腹を痛めて産んだ、れっきとした私の娘です!」
「ぶっ!」
思わず飲んでいた紅茶を噴き出してしまったではないか。ナニヲイッテイルンデスカ、オネエサマハ?
ララァさんフキン、フキンってララァはいなかった・・・
「じゃ、じゃあ、私のお父さんとお母さんは、本当はお爺ちゃんとお婆ちゃんだったという訳なの?」
「そうよ。いままでずっと黙っていたのは、私だって悪かったと思ってるのよ」
ジ-ザスクライst・・・ なんてこったい! どうりで、お姉ちゃんがお姉ちゃん以上に口喧しかったわけだ! なるほど、オカンと思えば辻褄は合いますね。
謎はすべて解けた! いや、まだか。種が残ってたか・・・
「それでグレミーとマリーダは、甥っ子と姪っ子じゃなくて弟と妹だった、と」
「ええ、二人は正真正銘、あなたの弟と妹よ」
叔母と甥と姪だから少しは似ているとは思ったけど、そりゃ、姉弟妹なら似ていて当然ですよねぇ。
お姉ちゃんを入れて四人とも金髪碧眼だし。マリーダは少し栗毛っぽいけどね。
「種は誰よ? 私の本当のお父さんは誰なのよ?」
「種だなんて、父親を、ギレン総帥をそんな風に言うものじゃありません!」
「あ、やっぱり、ギレン義兄さんでビンゴなわけね。それはそれで少し安心したかな?」
なるほど、合点がいった。どうりでギレンが私に甘いわけだ。義理の妹だから甘いと思ってはいたけど、よくよく考えたら所詮、義理は義理でしかないのに
甘すぎたのはこういう裏があったのね。でも、その割には私には頭の良さが遺伝しなかったのは解せませんが。私の脳味噌は分数すら間違えるからね・・・
ギレンがIQ240で、お姉ちゃんも160はありそうだもんね。でも、私は精々105くらいしかなさそうですよ。トホホ。
MSの操縦技術がなかったら、そこら辺にいる平々凡々の人とおなじだし。
「安心した?」
「だってそうでしょ? 何処の馬の骨とも知れない男が父親よりは百倍マシだわ」
まあ、14か15だった当時のお姉ちゃんに手を出した時点で、ロリ疑惑は浮上しますけどね! ギレンよお前もか、と。
「あの人を馬の骨と一緒にしたら怒るわよ!」
「だからしてないってば! それに、お姉ちゃんの貞操観念がしっかりしてそうなのも分かったしね」
私だけ種が違ってたりしたら疎外感を感じちゃうもんね。ただでさえ私は異質な存在なんですから。
「私は誰にでも股を開くような、そんなふしだらな女ではないわよ!」
「私だって、まだアムロしか知らないわよ!」
「まだとはなんですか、まだとは! まるで次の男が控えているような、その言い方は!」
これには普段は温厚で事なかれ主義の私も、ちょっとカチンときましたね。べつに私は一竿主義というわけではないけど、せめて付き合っている間はアムロに対して
誠実ではありたいと思うのは人として自然なことだと思うけどなぁ。男の浮気は仕方ないとは思うんだけどね。遺伝子レベルで子孫を多数残そうって本能があるしね。
それを宗教的価値観や倫理観や道徳やらでガチガチに固めてしまったのが近代以降ってわけだ。それが良いのか悪いのかと問われれば、私は多分それは悪いと思う。
人は、煩悩の犬は追えども去らずってお釈迦さまも言ってるしね。ちょっと違う気がしないでもないけど。
「言葉の綾でしょ! それじゃあ、お姉ちゃんはギレン義兄さんしか知らないわけよね?」
「う゛っ!」
「ははーん、言葉に詰まるってことは違うんだぁ。ふーん、ギレン総帥に教えてこよっと」
まあ、お姉ちゃんなら若い時からさぞやモテたことでしょうし、それもさもありなん。まあ、私が教えなくても当然ギレンは知ってるはずだけどね。
というか、身内の下半身事情って生々しいですね・・・
私は総統府にある、お姉ちゃんの私室から飛び出してギレン総帥の部屋へと向かった。ここで一つ疑問が、総帥なのに総統府とはこれ如何に? 前から不思議に
思っていたんだよね。まあ、そういうものだと言われたら、それまでだけども。
「マリアっ! 待ちなさい!」
あーあー聞こえないー。 私は止めるお姉ちゃんの声を無視して廊下を突き進む。べつに本当にギレンに喋るわけじゃないのに、お姉ちゃん焦りすぎです。
いままでずっと黙っていた事への、ちょっとした意趣返しですよ。これぐらいしても罰は当たらないよね?
「衛兵! マリアを特務大尉を止めなさい!」
後ろから追いかけてくるお姉ちゃんが前方にいる衛兵に対して、叫び声を上げて命令するのが聞こえる。
そんなにギレンに聞かれたくないのか? なんか疾しいことでもあるんでしょうかね?
「止めるな! これは親子喧嘩なんだから!」
衛兵は私を邪険に取り押さえるわけにもいかないので、廊下を塞ぐ程度の邪魔をしようと試みるが、それを私は威嚇した。
「親子・・・? マリア殿とセシリア殿がですか?」
「そうよ! たったいま私も知ったところよ。だからこうして喧嘩をしているわけよ!」
「姉妹ではなくて母娘・・・」
首を傾げて考え込んでしまった二人の衛兵。おまえら自分の役目を果たしてないぞ? まあ、相手が私ってのもあるんでしょうけども。
「マリアっ! ペラペラと喋らないで頂戴!」
「お姉ちゃん、それ、自分で認めているようなもんだよ?」
私は振り返って、からかい半分でお姉ちゃんに言い返す。いままで姉妹で通してきたのに突然今日から、実は母娘でした。テヘッ こう勝手にする訳にはいかない
理由も分からないでもないのですが。でも、それは大人の事情であって、子供の私には通用しません。こんな時には子供の肩書きって便利ですよね。
「姉妹だから顔が似ているのは当たり前だが、確かに歳が離れ過ぎているとは、俺も前から思っていたんだべさ。これで合点がいった」
「分かったのなら、そこを退きなさい!」
訛りのある方の衛兵は一人でウンウンと頷いて納得したらしい。
「母娘喧嘩は犬をも食わぬともいいますしな」
「お前それを言うなら夫婦喧嘩だべ」
「私はギレンパパのところに行きますので、じゃあねー」
「待ちなさい!」
衛兵の役割を果たしていない二人の間をすり抜けて私はギレンの部屋へと向かう。後ろから元姉で現母親のお姉ちゃんが追いかけてくるけど無視です。
あー面倒くさいから、いままで通りにお姉ちゃんと呼べばいいか。私のお母さんも突然おばあちゃんなんて呼ばれたくないだろうしね。
「ギレン・・・ パパ・・・?」
「おい、あまり詮索しすぎるとアクシズかどっかに飛ばされるぞ。君子危うきに近寄らずだべさ」
「あ、ああ、そうだな・・・」