ドンッ!
ああ、こりゃ死んだな。
俺は暴走トラックから幼い女の子を庇って撥ねられた。
次に目を覚ますと赤ん坊になっていた。転生ですか? ええ、ファンタジー小説とかでよくある転生ですね。
前世の記憶持ちでチート万歳で俺TUEEEEの転生ですね。神さま本当にありがとうございました。
そう思っていた時期もありました。
ここはサイド3、んで現在は宇宙世紀0072。俺も5歳になりました。俺というか私で・・・
ガンダムの世界にTS転生ですよ奥さま! しかも、あと7年でジオンは連邦に戦争ふっかけて負ける未来が待っているなんて、
これではダメだ。なんとか連邦との戦争を最悪でも引き分けに持ち込まないと私の未来はお先真っ暗じゃん!
幸いにも私にはザビ家にコネがあるから、上手くやれば生き残ることができるはずだ。
まあ、下手したら連座して処刑される運命が待っているんですけどね。トホホ・・・
んで、コネというのは昨年生まれた甥っ子、名前はグレミー。 生まれて直ぐにトト家と養子縁組したんだけど、
母が私の姉のセシリア・アイリーンで父がギレン・ザビ。私は一応ザビ家の外縁にあたるわけです。
あ、申し遅れました。私の名前はマリア・アイリーン。姉セシリアと年が16も離れていますけどれっきとした姉妹です。
お父さんお母さん頑張りましたね。
というか、いろいろと言いたいことがある・・・ グレミーって試験管ベビーかギレンのクローンじゃなかったの?
あと、姉のセシリアってもっと若かった気がするんだけども、なんでギレンの秘書兼愛人?内縁の妻なんかやってグレミーまで生んでるの?
まあ、そのへんは私のガンダムの記憶もいい加減だから考えても無駄なのかもしれないけど。
なんにせよ、ファーストの時代で良かった。これがSEEDとかAGEとか∀とかだったら全く内容を知らないから詰んでたし。
ジオンやスペースノイドの独立なんて崇高な志は私にはないんだ。連邦から蹂躙されることがなければ、それでいいのだ。
その為には、なにをすればいいのか? MSの高性能化? それとも「戦いは数だよ!兄貴!」この言葉通り数を揃える? うーむ・・・
なにが正解なのか分からん。それに私はまだ花も羨む5歳の幼女なのだ。なにもできないよ。
UC 0077
キンクリして、あれから5年が過ぎました。私も今年で10歳です。ティーンですよティーン! あれもこないだきました。
あれとはなにか? とは聞くな。 日系ではないので、お赤飯でのお祝いはありませんでした。
今日はギレン総帥とお姉ちゃんと一緒にジオニック社の工場に来ています。MS-06CザクⅡロールアウトの記念式典です。
式典とはいっても、関係者以外立ち入り禁止ですが。ドズルさんとキシリアさんの姿も見えます。ちなみにガルマはお留守番みたいです。ざまぁ。
なぜ子供の私が記念式典に呼ばれているのかって? ふふ、姉がギレン総帥の秘書なのをいいことにMSに脱出ポッドを取り入れさせたのが私なのだ!
えへん。
MS-05旧ザクでは装備されてなかったこの機構があれば、パイロットの生存性が飛躍的に高まるのだ。水と携帯食料と酸素が10日分あるから、
その間に救助されれば助かるって寸法。まあ、その期間をすぎれば南無なわけですけど・・・
救難信号と簡易スラスターも付いてるから、コロニーや月の方角に流されるように調整できるから助かると信じたい。
この提案をしたご褒美に呼ばれて出席しているのです。それで私の最大のお目当ては、MSシミュレーター。やっぱ、ガンダムの世界に生まれたのなら
モビルスーツは操縦したいよね! やっぱりMSには漢のロマンが詰まってるよ! まあ、今世の私は女なんですけどね・・・
ジオニックの技術者から説明を聞いて、シートに浅く座って更に15cmかさ上げしたロンドンブーツを履いて、いざチャレンジです。
まず最初はデブリを回避しつつ馴らし運転。それからバーニアを吹かして高速でのデブリ回避。最後に大きめのデブリを右脚で蹴って再加速させようとして、
「ビィビィー!」
右脚が小破判定。なんかデブリに衝突したと勘違いされたみたい。
デブリを抜けたら連邦のトリアーエズもどきが見えたので、これを105mmマシンガンをセミオートで一発撃って撃墜。
あれ? なんで私はこんなにも簡単にMSを操縦できて、こんなにも簡単に戦闘機を撃墜できるんだろ?
まあいっか。迎撃に向かってくるトリアーエズとセイバーフィッシュの群れを難なく排除して、マゼランもどきとサラミスもどきの対空機銃が火を噴く。
対空機銃の死角から取り付いてマゼランの艦橋に向かってザクマシンガンを連射。それから艦後方上部からエンジン部分にも一撃。これでマゼランは中破判定。
うーん・・・ やはり105mmでは火力不足は否めないみたい。
返す刀でサラミスの艦橋にも一撃をお見舞いして艦橋を左脚で蹴って、もう一隻のサラミスに向かおうとしたら、
「ビィビィー!」
おーのー、またもや衝突判定で左脚が中破しました。このシミュレーターには蹴るって行動がインプットされてないのね。
仕方ないので、サラミスの主砲に向かってマシンガンを連射連射。誘爆するまで連射。こんなに撃ってジャムらないのか心配です。
誘爆した爆風を利用して加速しようとしたけれども反応は無し。赤い彗星ごっこが出来ないのでフラストレーションが溜まってきますね。
残りのサラミスから撃沈させて、中破したマゼランと大破したサラミスに止めを刺して帰還の途につきました。帰るまでが遠足はお約束ですよね。
迎撃機を上げてきたコロンブス輸送艦は見逃してあげちゃいました。無抵抗な敵を撃つのは趣味じゃないのです。私は淑女ですから!
トリガーハッピーして弾切れしちゃったともいいますけど・・・
帰還したらシミュレーターが終了して筐体の扉を開けると、周囲の大人達の表情が私を奇妙な生き物でも見るような目に変わってました。
もしかしてやり過ぎちゃった? でもMSパイロットならこれくらいは普通だよね? これくらい出来ないと連邦には勝てないでしょ?
まあ、私はパイロットじゃないけど。
「な、7分で3隻撃沈とは・・・」
「それもセイバーフィッシュとかを含めての7分だ・・・」
「しかも旧型のMS-05での数字だ」
なんだか周囲の大人達がワイワイガヤガヤと騒がしいです。
「いままでの最短は何分だ?」
「ガイア少尉の8分35秒です。それも新型のMS-06でのタイムです」
おー、ガイアといえば黒い三連星のガイアかな?
「MS-05での最短は?」
「旧型ですと、アズナブル准尉の9分47秒がいままでのベストタイムですね」
アズナブル? シャアか! というか私より遅いタイムって・・・ それでいいのか? 赤い彗星よ。
「いままでのタイムより3分近くの時間短縮でクリアとは信じられん・・・」
「それもあんなブーツを履いてだぞ?」
10歳の少女より弱いジオン軍なんて・・・ こんなんでは、ジオンの将来が心配です。
「マリアお疲れさま」
そう言って姉のセシリアがパックのオレンジジュースをくれたので受け取った。
「お姉ちゃんありがとう」
「ところで、マリアがモビルスーツを動かすのは今日が初めてよね?」
「うんそうだよ。いつも護衛のシーマ大尉と一緒なんだから、勝手に出歩くことなんてできないのはお姉ちゃんも知ってるでしょ?」
「そうよね・・・」
私はオレンジジュースを飲みながら答えたけど、お姉ちゃんは顎に手を当てて考え込んでしまった。 やっぱり調子に乗ってやり過ぎちゃった?
「くくくっ ジオンのエースと言われる連中も形無しだな。セシリア、お前の妹はとんでもない掘り出し物だぞ」
「変わった子だとは思っていましたけど、まさかマリアにこんな才能があるとは思いませんでした」
私にもこんな才能があるとは私自身が知らなかったけど、ちょっとギレン総帥もお姉ちゃんもヒドくない? 人を物とか変人とかさ。
声に出しては言わないけど。
ギレン総帥は愉快そうに笑ってるけど、ギレンってこんなにも饒舌な人だったっけ? お姉ちゃんは困ったように眉が下がってるし。
前世の記憶持ちだから、ある意味では変人は正解なんだけどね。
ちなみにシーマ大尉とは、あのシーマ様です。私がセシリアの妹、一応ギレンの義妹ってことなので私が小さい頃から護衛が付いているのだ。
それで、偶然にも護衛として派遣されたのがシーマ様だったということ。なんでも護衛対象が小さな女の子だから、護衛も女性の方が良いだろうって
ことだったみたい。それで、腕っぷしの良いシーマ様と出会えたわけ。本当にただの偶然。もしかしなくても私の存在自体で歴史が変わってる?
ちなみにシーマ様の歳はお姉ちゃんより少し上かな? 三十路間近です。この前、「シーマさんってアラサーだよね?」って言ったら、
拳骨でこめかみグリグリされて痛かったです。でも、シーマ様を助けられて良かった。偶然だけど。
私が「シーマさんの仕事がやりやすいようにしてあげて」ってお姉ちゃんにお願いしてシーマ様繋がりで、他のマハルの連中も多少は親衛隊に入れたしね。
偽善とは分かっているけど、やらない善よりやる偽善ってことで。知っている人が不幸になるのは、やっぱり目覚めが悪いじゃん。変わりに知らない
誰かがサイド2に毒ガスを撒くのかも知れないけれども、私にはそれを止める力なんて無いし・・・ いくらお姉ちゃんがギレンの内縁の妻でもね。
私にできることなんてたかが知れてるけど、できるだけ明るい未来を目指そう。せめてお父さんとお母さんとお姉ちゃんとグレミーだけでも助けられた
らいいな。グレミーといえば、プルとかの試験管ベビーってどうなってるんだろ? ZZから逆算するなら、今年ぐらいには生まれているのかな?
私がそんなことを考えているとドズルさんが話しかけてきた。ごつくて怖いです。でも本当は優しいってことを私は知ってますよ~。
毎年クリスマスと誕生日にはプレゼントくれる優しいおじさんです。ザビ家のみんなくれるんですけどね。ちなみに私の誕生日はエイプリルフール。
「初めてモビルスーツを操縦したのが本当なら、なぜそんなにも動かせられるのだ?」
「うーん、『なぜ?』って聞かれると私も困るんですけど、イメージというかイマジネーションが大切なんじゃないですかね?」
こればっかりは私にも説明が付かないしね。転生チートってヤツなのかな? それとも私ってニュータイプ?
「なるほど、子供の柔軟な発想がモビルスーツを自由に動かせるということか」
「しかし、キシリア。子供をパイロットにして戦場に送るなんてことは外道中の外道だぞ!」
「ドズル兄さんは先走りすぎです。早漏は嫌われますよ? 誰もそんなことは言ってません。しかし、研究だけはしてみる価値はあると思います」
「ニュータイプとかいうヤツか?」
「ええ、あくまでも、可能性ですが」
サラッと毒を吐いてるキシリア姉さんマジパネェっす・・・ ドズルさんとキシリアさんが言い合ってるけど、ここはスルーですよね。
スルースキルは世の中を上手く渡る処世術です。紫ババア怖いですしおすし。
「お嬢さん、ちょっとよろしいですかな?」
「あ、はい」
「私は、このモビルスーツザクの技術主任をしているエリオット・レムと申します」
「マリア・アイリーンです」
微笑みながら髭を蓄えたダンディーなおじさまが私に声を掛けてきた。この人の名前は覚えてるよ! 高機動型ザクを開発した人だったはず。
「先ほどお嬢さんは」
「マリアでかまいませんよ」
「では、マリアさんで。先ほどマリアさんはザクの脚でデブリや戦艦の艦橋を蹴ってましたよね? なぜですか?」
「反動を利用して加速させようとしたんですけど、シミュレーターには入ってなかったみたいでザクを壊しちゃいました」
私は無意味だった蹴りが恥ずかしかったので、俯き気味にモジモジしながら答えた。
「なるほど、確かに理にかなっている」
「モビルスーツの脚は飾りじゃないんです。使えるものは利用しないと」
言えない。シャアの真似をして赤い彗星ごっこがしたかったなんて、口が裂けても言えない。
「ふむふむ、強度的には問題はないですからシミュレーターのバージョンアップ時にでも取り入れましょう」
「それでしたら、爆風の反動も入れて下さい」
「爆風?」
「はい。サラミスの主砲を誘爆させた時の爆風で後方に加速しようとしたんですけど、反応がありませんでした」
「なんと! そこまで計算して操縦していたとは・・・ システム主任、爆風の演算は可能ですか?」
レム主任が同僚の眼鏡を掛けたオタクっぽい人に声を掛けた。うん、人を見かけで判断しちゃダメだね。
でも、太っていて暑くもないのに汗掻いてるし、おまけにフゥフゥ言ってるし。うん、この人はオタクだ。
「簡易でよければ可能ですけど、完全に再現するのであれば今のCPUだと処理が追いつかなくて、間違いなくラグりますね」
「設定できるのであれば簡易でもかまいません。モビルスーツは、こんなこともできるんだよって理解させることが重要ですから」
「であるのならば、爆発のエネルギーの拡散が・・・ モビルスーツの抵抗が、えーと・・・」
うん、ブツブツ言ってて解らん。オタクさん自分の世界に入っちゃったよ。けど、頭は良いんだろうな。
「マリア、一言言っておくけど、マシンガンを撃つ時に『ヒャッハー! 汚物は消毒だー!』これは下品だからやめなさい」
「き、気を付けます・・・」
お姉ちゃんに小言を言われて落ち込みました。まさか外に声が漏れていたとは。周囲の目が奇妙だったのはこれが原因だったのか。トホホ・・・
後日、バージョンアップされたシミュレーターでタイムアタックしたら6分05秒でした。6分切れなかったのは残念!