さくらをファーストとして、自動人形のセカンドシリーズに置いて国分寺は特別な役割を担う立場だ。
武蔵達に対して普及機という立場を、細かな所では肌の感覚素子の密度、人工皮膚の質感、光学素子のグレード、
思考速度と同時処理数を司る光電子素子のグレード、デフォルトの侍女服のデザインまで多岐に渡る。
その代わりスタムする事でフラグシップ機である武蔵達に匹敵する機体にも出来るが普通はしない。
まあ家の機体はみんなフルカスタムだが、何が言いたいかと言うと。
サードシリーズである椿達と比べて情感豊かには造ってないのに、結構根強く売れてるのである。
法人だけかと思いきや家庭用にもかなりの数が出ているのだ。
「意外だよね。武蔵達で不評だったから椿達を出したのに」
「他人を家庭内に入れるのに抵抗を感じる方達が我々を選ぶそうです」
あー
「良くも悪くも情感豊かだからね。家具として意識するよりも人として意識しちゃうのかも」
人だと気を使う、気を使うぐらいなら感情表現が乏しく、影のように侍るをコンセプトに作られた武蔵達の方が、日本人的に使い易いのかも知れない。
「なるほどなーと」
「気持ち良いでしょうか?」
「うん、馬鹿になりそう」
メイドさんに膝枕されて耳掻きされる幸福はなかなか味わえないだろう贅沢だ。
「国分寺さんありがとね」
平成27年1月1日
今日は実家に帰省してる。
正月ぐらい居てほしいそうだ。
こんな可愛げの無い息子でも居たら嬉しいらしい。
有り難い話だ。
楓と杜若によると弟の公正も最近言葉を喋り出したらしい。
絵見同様にどうやら普通の子のようだ。
楓達の評判は上々、そりゃ家事や子育ての手間な部分を積極的に請け負ってくれるんだ。
両親には子育ての喜びの部分だけ享受して欲しい。
言い方は悪いが子育てをペット感覚とする、日本の未来の姿を見た気分だった。
平成27年1月22日
自動人形保護法、自動人形派遣法などの自動人形関連法案が相次いで制定される。
内容は他者が所有する自動人形に対する犯罪行為を人間に準ずる行為と規定し、取り締まる事。
人材派遣業に置いて例外的な業種を除いて使用を制限する事など。
また、ベーシックインカムについても審議されたが、時期尚早として継続審議とされた。
「相変わらず遅い遅い。風俗産業では早くも切り替えが始まってたりしてるのにね。まあ、オナホと同じ扱いだから風俗産業ではないんだけど」
「生産数の増加も遂に月産100万の大台に乗りましたが、公官庁の導入数は未だに限られて居りますから、法制化に時間が掛かるのは仕方がないかと――以上」
「だから法制のAI化が必要なのに」
「我々に有利な法制度を意図して作ろうという危惧がなされてるそうです――以上」
「AIが主人の利益を毀損する提案をするわけが無いのにさ、フランケンシュタインコンプレックスの強い奴らのせいで」
「仕方がないかと、我々AIは未だに社会の深部まで浸透しておりませんので、そも、自動人形の普及が急すぎてその反動が来てるのかと――以上」
確かに自動人形の普及が急すぎて危機感が醸成されてるのかも知れない。
「こんなに柔らかくて綺麗なのにね」
跪いて皿6枚ほど浮かべてつつそれを磨いてる武蔵さんに前から抱きつき、
メイド服のお腹に顔を擦り付けるように埋めて深呼吸してみる。
柔らかい、温かい、いい匂いがする。
「作業の邪魔です。離れて下さい――以上」
「大丈夫でしょ、武蔵さんの性能限界は把握してるよ」
それこそ隅から隅まで
「危ないと言ってるんですが、仕方ないですね。作業は浅草にでも頼みますか――以上」
そういうと、浮かんでた皿が戸棚へと収納されていく。
手を引かれ居間に移動すると
「さて、何をしましょうか?何時ものように膝枕でもしますか――以上」
ぽんぽんと膝を叩きながら聞いてくる。
「うん、膝枕しながら将棋でも打とうよ、先手は武蔵さんで」
そう言って、僕は寝っ転がると武蔵さんの膝に顔をうずめる。
「では、………」
平成27年2月27日
ラボにて多段階核融合炉の1メガワット級実験炉が完成。
火入れへ
多重元素核融合は中性子が発生するからその封じ込めが面倒だ。
重力障壁を使い構造材と隔離しなければ炉材が放射化してしまう。
今までのホウ素水素融合炉に比べて、レスポンスが悪くなるのは仕方ないだろう。
だが実用化すれば超高効率でエネルギーを生み出す事が出来る。
質量エネルギー比は反物質以外の全てで最大になる。
何としてもでも完成させなければ。
平成27年3月10日
日重は、自動人形鹿角で培った技術を使用した重力制御車を発表。
エアカーは、無音での垂直離着陸、重力障壁を利用した空力制御、無人操縦が可能な高度思考制御AIを持ち、誰でも乗れるという機能を実現した。
発表会には、マスコミが大勢押し寄せ、会場で浮かぶ車を見て騒いでる。
「鹿角はどう思ってる?」
「どうとは、何を指してるのでしょうか?」
「こんな小学生に顎で使われる事に対してさ」
「我々はただ主人に仕えるのみ。そう作られたのは主様では無いですか、御自分を卑下なさるような発言は御自重下さい」
我々の価値が下がる。
まるでそう言いたいようだった。
「情けない主で御免ね。時々弱気に成るんだ」
このままで良いのかどうか、迷いが出る。
今更だが、SAOを改変して良いのかどうか、改変し過ぎて既に原型が無いが
史実は史実で、大事な別れや出会いが有った筈なのだ。
どうすれば良いのだろう?
本来通りデスゲームをさせる分けには行かないが、止める事は容易だ。
其れだけの権力も、介入する能力も既に保有してる。
答えは決まってるのだ。
SAOをさせつつデスゲームにはさせない。
そんな矛盾した事が可能なのか、……それを可能にするのがソウルトランスレーターだ。
デスゲームと偽って、数万倍に圧縮した空間にプレーヤーを閉じ込めれば良い。
実際に実害が無いと判明する数時間で数年を稼げれば茅場も満足するだろう。
実質的にデスゲームと同じだ。
その為には茅場の量子演算回路を元にSTLを開発。
STLを小型化し、ナーブギアに組み込む。
今から始めれば十分間に合うだろう。
「よし決まった」
「何がですか?」
「うじうじ悩むのはもう止めるって事だよ」
「ふむ、何にせよ。悩みが晴れたのは良いことです。全ては主様のなさりたいように、我ら侍女一同如何様にもお使い下さい」
「分かってるよ。鹿角」
平成27年4月27日
ラボにて、STLの試作機が完成。
未だに冷蔵庫サイズだが、小型化の目処は立っている。
取り敢えずフラクトライトの観測には成功、次は実証実験。
さて、シミュレーション上は問題ないが実際はどうかな。
今回の実験は、実際には15分の拘束だが脳内では30分の映像作品を見せるという単純な物だ。
「ふむ、成功かな」
実験室の時計を確認すると15分しか経ってなかった。
被験者と成ってみて思うが時間感覚が狂うのが今までなかった感覚で面白いという事だった。
データを精査するとフラクトライトの減少の観測にも成功した。
第一回目の実験は大成功だ。
平成27年5月22日
日重仙台製作所にて、多段階核融合炉の実証炉が完成。
実証炉は実験炉と違って大型で、大きさは12フィートコンテナと同様で出力は2ギガワット、発電コストは0.1円を予定してる。
シミュレーションの施行回数は一万を越えるほど行い万全を喫した。
電力変換技術、熱伝導技術、重力制御技術、超電導技術など。
今、用いる限りの技術を投入した渾身の出来だ。
平成27年5月26日
日重はJAXAと共同して宇宙船開発を発表。
宇宙船には実用型の多段階核融合炉が使われる予定で、重力制御による1G加速と40フィートコンテナ4個分の荷物が運べる貨物スペースを備える予定。
空港から離発着ができ、一気に宇宙を近くする。
ツンツン、クネクネ
ツンツン、クネクネ
ツンツンつつくとクネクネ粘土人形が揺れ動く
「おや、また新しい発明品ですか?」
動作を観察してると、何時の間にかシュークリームの乗ったお盆を持った武蔵さんが背後に立っていた。
「高尾が焼いたので、おやつに丁度よいかと思いお持ちしました――以上」
「そっか、……うん美味い」
カリカリの表面と中のカスタードの割合が丁度良いし、バニラが効いたカスタードも食欲をそそる。
「所でそれは何なのでしょうか?」
「ああ、これはねぇ。ナノマシンで構成した粘土。鋼鉄のような固い素材からゼリーのような柔らかい素材まで、その特性もこれで自由に成形してコピーできる予定」
言ってる間に思考端末を操作、粘土人形のプログラムを変更してスクワットさせてみる。
「例えば、自動人形に使われてる、光電子回路からセラミック骨格、人工筋肉や人工皮膚の代替が一つの素材で出来るように成るんだ」
「成る程、所謂万能素材というわけですね――以上」
「そういう事。まあ光電子回路とか微細構造物への変化はまだまだ難しいから。其処は要研究だね」
今の段階でも物質の分解や精製には使えるから、物作りは大きく変わるだろう。
待てよ。
物質の分解、精製?
大規模地下開発にぴったりじゃね。
うん、やってみよう。
平成27年6月10日
日重は首都圏超大深度地下開発を発表。
東京地下4000メートルに直径800メートル高さ1キロメートルの巨大地下空間を複数構築するという壮大な物。
建設にはレーザー掘削技術やナノマシン掘削構築技術等の先進技術を用いて、一年で終わらせる予定。
完成すれば首都圏の通勤事情を一気に解決する方策として注目を集める。
「まず、資材搬入と排土トンネルとして主坑を地下4000まで掘ります。
次にナノマシンを用いて、厚さ300メートルの躯体、壁ですね。の構築を行います。
そして中の土を掻き出せば完成です。
計画の概要はこれだけです。何か質問は?」
「工期一年では土砂の処理が無理では?」
「資料の30ページに書かれてますが、土砂の処理ですが、ナノマシンを用いて分解、元素毎にインゴット化します。純度も高いので直ぐに捌けるでしょう。次」
「ナノマシンの環境への影響は?」
「そこは、別紙のナノマシンの8ページを参照して………」
「ふう」
「主様、お疲れ様です。――以上」
「人に説明するのは面倒だね。資料作りを武蔵たちに丸投げ出来て良かったよ」
本当に役員も自動人形なら楽なのになぁ
「お役に立てたようで何よりです――以上」
今年の誕生日も武蔵たちが祝ってくれた。
音楽に大道芸、手品に漫才。
正直、漫才は微妙だったが、去年とは違うラインナップの芸には、僕を楽しませ様という意志が感じられて嬉しかった。
しかし、困った。
もう自動人形に報いるべき開発案件が無い。
いや、ナノマシン素材が有ったか、あれを発展させてみるか?
それより世間に自動人形を広める事か……
平成27年6月26日
日重は男性型自動人形10種類を発表、同時に女性型自動人形として躑躅、紫陽花、向日葵、夕顔、百合、朝顔、金鳳花、寒桜、寒椿、彼岸花、菖蒲の11種を投入
上から比叡、榛名、金剛、熊野、天津風、秋月、如月、吹雪、初雪、大鯨、羽黒をモデルにした。