とある11月の土曜日
「炬燵いいよね。家は炬燵無くって。お爺ちゃんの家には有るんだけど」
「家は炬燵有るけど小さいのよ。身体まで入ったらヒーターにぶつかっちゃって」
「みかん、最後の一個食べて良いですか?」
霞が聞いてきた。
「あ、私食べる」
「私も」
「誰か、居間の炬燵にみかん追加してくれ」
『只今――以上』
なんか、だらけてんな。
明日奈と詩乃は亀のように炬燵で寝ながら宿題してるし、霞は座ってるけどみかん食べつつ昨日のアニメ見ながら宿題してる。
僕も宿題を片付けながらみかん食ってるけど。
こりゃいかんな。
何かイベント考えにゃ。
うーん
「宿題終わったらフルーツ狩りにでも行こうか」
「今の時期に何のフルーツ狩るのよ?」
詩乃が聞いてきた。
「全天候型施設だから、何でも育ててるよ。色んなフルーツ狩り放題」
「相変わらず手広くやってるんだ」
明日奈が呆れたように言う。
「手広くというより、これはアーコロジーの実証だね。東京ジオフロントって知ってる?」
「……確か、東京の地下に巨大な地下居住区を作る計画だよね」
明日奈が思い出すように答えた。
「そう、首都圏の通勤事情を一気に解決する巨大プロジェクトだったんだけど。転送技術の開発、普及により無意味になっちゃったんだよね。だから、閉鎖系でのアーコロジーの研究施設にしたってわけ。今は行政型機族の実証も行ってるよ」
「巨大プロジェクト、自分で駄目にしたんだ……」
また明日奈が呆れたように呟く
「まあ、科学の発展に犠牲は付き物なんだよ。で、フルーツ狩り行かない?」
「行きたいです」
「行く行く」
「私も行くわよ」
先ずは霞が、そして明日奈、詩乃と承諾してくれた。
「よし、決定」
「皆さん初めまして、当施設の管理を任されてます。縫重(ぬえ)と申します」
縫重さんは膝丈まで有る濃い緑髪をストレートに流した正に和風美人といった趣の機族だ。
「さて、今回はフルーツ狩りとの事ですが、何から収穫致しますか?」
縫重さんが聞いてくる。
「先ずは評判が良い苺かな?」
収穫物は販売もしてる。
無農薬で安全な作物として、なかなかお高めな値段で売られてるのだが、どれもこれも評判が良い。
特に苺はテレビで紹介されたほどだ。
「うちの苺は甘いですよ。糖度の高い品種に更にストレスを与えて更に甘くしてあるのです」
縫重さんが心なしか胸を張って自慢げに言う。
「じゃあ、先ずは苺狩りね」
「賛成」
明日奈が賛同し、詩乃が同意すると霞もコクリと首肯した。
「では、D6農業区画ですね。転送で直接行きますか?」
「どうする?観光も兼ねてちょっと歩く?」
「せっかく来たんだから見学もしたいかな」
「私も見学したいわ」
「見学したいです」
僕が提案すると明日奈と詩乃と霞も賛同してくれた。
「では、案内します。此方です」
「にしても広いわねぇ」
詩乃がドームの天井を見上げながら言う。
「直径800メートルある。この階層は最上部の半球空間だね。天井の空は高照度有機ELパネルで映し出されてるんだ」
「こんなおっきな物が人間の技術で作れるなんて、凄い時代になったものね」
「我々機族も含めて、殆どの技術は結城様が作ったのですよ」
明日奈の感想に縫重さんが補足してくれた。
凄いと思ってくれて嬉しいな。この瞬間の為に技術開発してるんだよ。
鬱蒼とした森を抜けると広場にでた。
広場には滑り台やアスレチックスなど、様々な遊具が設置され、同い年かそれより小さな女の子達が遊んでるのが見える。
「あっ!縫重お姉ちゃん!」
その中の1人が此方に気付いて、たたたと向かってきた。
それを切っ掛けに遊具で遊んでた子達が、わっと押し寄せてくる。
ただ、普通と違うのは、殆どの子の目が赤い事だった。
「この子達、新しい子達~?」
その中の1人が縫重に聞いてきた。
「違います。フルーツ狩りに訪れたお客様です」
「ねえ、この子達ってガストレアウイルスチルドレンよね?」
詩乃がヒソヒソ声で聞いてきた。
「そう、受け入れ施設でも有るんだ。要は住人だね。此処で1万人は暮らしてるよ」
詩乃も明日奈も移らないと分かってる病気を怖がる質じゃない。
2人ともそういう風に成るように情報を与えて接して来た。
霞は言わずもがなだ。
「ちょっと、遊んでく?」
「お昼ご飯の腹ごなしに丁度良いわね」
「ちょっと怖いから私は見てる」
詩乃は乗り気だが明日奈と霞は乗り気じゃないみたいだ。
たぶん、これかな
「身体能力の事を考えてるなら大丈夫だよ。この施設の子達は自制を先ず教えられるから」
「……飛鳥くんがそう言うなら」
その後は、一時間ほど鬼ごっこ隠れんぼ野球などをして遊んだ。
普通に遊べた事に明日奈は驚いてた。
やはり京子さんやテレビの影響を受けてるのかな。
苺畑は、多段化され、ピンク色をした有機EL照明に、高分子ゲルの土壌、そこに栄養素を配合した水滴が染み込む人工的な畑だった。
「この棚が収穫時ですね。さあ、幾らでも食べて行って下さい」
縫重さんに示された棚に成ってる苺を鋏で収穫し、そのまま食べる。
「凄い、甘い……」
「これ、ヤバい位甘いわね」
明日奈が驚いたように声を上げると詩乃も驚きを口にする。
霞は、無言で2個目に取り掛かってる。
そうして、みんなで苺をパクつきつつ感想を言い合う。
口当たりの良いシロップを飲んでるみたいに甘く、幾らでも食べれてしまう。
やべえ、止まんね。
「この糖度は凄いね。テレビで紹介される訳だ」
取り敢えず、美食は極めた積もりだったけど。
自分の足元にこれだけの物が転がって居ようとは思わなかった。
おっと、そろそろ止めないと。
「まだまだフルーツは育ててるから、そろそろ次に行こう」
「あの、これ贈り物に出来ますか?」
そう、霞が聞いてきた。
どうやら香月博士に送りたいんだとか。
「分かった。縫重さん、そういう風にお願いします」
「分かりました。手配して置きます」
「ではそれで、宜しくお願いします」
その後、枇杷に蜜柑、パイナップルに葡萄、無花果、ベリー、珍しい物では珈琲豆や羅漢果など、様々なフルーツを狩って食べた。
霞はその度に香月博士に送ってた。
「どうしよう、絶対晩御飯食べれない」
「みんな美味しかったからね。仕方ないわよ」
明日奈が困ったように呟くと、詩乃が宥めるようにそう言った。
「じゃあ、家に泊まってけば?晩御飯も家で食べれば調整効くし」
「お泊まりかぁ。良いね。グッドアイデアだよ。飛鳥くん」
「じゃあ、京子さんにはこっちから言っとくから、詩乃はどうする?」
「私も泊まろうかな?」
「じゃあ、詩乃も決定ね」
その後、豚や牛、羊、山羊などの放牧場なども見学していった。
明日奈も詩乃も霞も、牧羊犬を構い倒したり、乗馬を体験したりで充実した1日を過ごせたようだ。
因みに牧羊犬の名前はベルカとストレルカです。