結局、介入開始から地球と月からBETAが駆除されるまで半月も掛からなかった。
太陽系からBETAを駆除した後も、次元転送技術を使った介入は続く。
各国難民の帰還に貧困の撲滅、食料事情の改善、植生の回復、国家態勢の再構築など。
それらが一段落するまで銀連による支援が行われる予定だ。
そして、数年もすれば目論見通り、機族に頼らなければたち行かない国家が複数出現するだろう。
世界を救った見返りは星間同盟の締結とそれだけだ。
はっきり言って赤字だが、コストでどうこう言うには生産力過剰過ぎで問題にはならない。
今も未開拓恒星系の開発と植民が進んで、銀連市民がどれだけ贅沢な暮らしをしても使い切れない資源が山積み状態だ。
転送技術の予備手段として整備されてる超光速船。
全長3キロの大型恒星間輸送船が、10人で一隻使える位に船も余ってる。
木星と土星の駐船場はいまもいっぱいいっぱいだ。
BETA地球の救済など片手間なのだ。
では余ったリソースは何に使ってるかと言うと。
未開恒星系の探査及び開発と次元転移技術を持たない世界の探査とそして交流だ。
平成31年7月5日
「「「「お帰りなさいませ」」」」
「お帰り」
「お帰り、異世界ってどんなだった?」
侍女の皆と明日奈と詩乃が揃って出迎えをしてくれた。
実に1ヵ月ぶりの家だ。
「ただいま」
「其方の方がお客様でしょうか?」
同い年位の少女が僕の後ろに居る。
「そう。社霞さん今日から此処に住むから」
何故わざわざ此処にという疑問が明日奈たちの顔に浮かぶ。
「向こうじゃ、政治的なゴタゴタに巻き込まれそうだったから連れてきたんだ」
そう説明すると一応納得された。
「お世話になります」
そう言って霞はぺこりとお辞儀して答える。
「じゃあ、うちの学校に通うの?」
「中等部にね」
「へー」
興味津々と言う感じの2人。
「ふむ、4人で何処か行こうか?あ、そうだ、ホットジュピター見に行こう」
「ホットジュピターって何?」
詩乃が疑問顔で聞いてくる。
「太陽に近いガス惑星です」
返そうとしたら霞が答えてくれた。
「そうそう。地球から82光年の連星系HD38471のハビタブルゾーンに存在するガス惑星の衛星α134基地、呼吸可能な大気が存在する海の星」
そう言って、3Dイメージを空間に投影する。
白い砂浜、瑪瑙色の海に巨大な深い蒼い星が空に浮かぶリゾート地という趣だ。
「水上コテージも整備済み。今からでも行けるよ」
「じゃあ、夜までなら。」
「私も夕御飯までなら大丈夫」
「私も行ってみたいです」
詩乃、明日奈、霞の全員が承諾してくれた。
今は朝の10時、満喫するには十分だろう。
「じゃあ国分寺さん付いて来てくれる?」
「畏まりました」
国分寺がペコリとお辞儀して答える。
「じゃあ、5名転送」
ヴン
視直径1メートルの巨大な蒼い惑星が見える
「凄いね、おっきい」
「凄いです」
「こっちが衛星なんだよね」
明日奈がそう質問して来る。
「そう、公転周期は2週間、自転周期は23時間であのガス惑星を回ってる。でも主星の照り返しで夜でも地球の夕方並みに明るいから、2週間の内ちゃんとした夜は3日だけなんだ」
「水着選んだよね。じゃあ遊ぼっか」
「あ、日焼け止め塗らなきゃ」
「此処のシールドは放射線から紫外線までカットしてるから大丈夫だよ」
「へー、至れり尽くせりね」
詩乃が感心したように言う。
それから4人で水上バイクで引っ張られるバナナボートに乗り、
侍女型機族がインストラクターを勤めるサーフィン講習を体験し、お昼にはバーベキューをして
午後にはパラセールをして遊んだ。
写真も国分寺さんに沢山撮って貰った。
その後島の深部に行って、この惑星本来の生態系を見学した。
巨大なアノマロカリスに似た生物や巨大な兜蟹は衝撃的だったらく。
直径4キロ程の浮島を囲むシールドの外側の海がこうなってると知ってショックだったらしい。
そんなこんなで、リゾート体験は終わった。
「どうだった?」
霞に感想を聞いて見た。
「楽しかったです」
アノマロカリスの縫いぐるみを抱きしめながら、満足そうな様子に安心する。
1ヵ月ぶりの家だが仕事は無くならない。
継続的に行われてる次元探査で、様々な介入の余地が有る世界が出て来たのだ。
ソ連が崩壊してなくて、核戦争の脅威が寸前まで差し迫って有る世界。
ガストレアというウイルスが世界中の生物に蔓延し、人類が追い詰められてる世界。
ガミラスやゴアウルドと言った恒星間文明と戦ってる世界。
銀連はそれらの世界に対して悉く介入を決定した。
相互同盟を掲げ、それを結んだ世界の地域へと進出して行く。
この動きに対して批判は多い。
基軸世界の銀河すら掌握してないのに異世界へと遠征する意味は有るのかとか。わざわざ敵を作ってまで救済する必要性とかだ。
だが、娯楽に飢えた地球人の暇つぶしに新しい変化は必要だ。
同じ地球人を救いたいとか、感謝されたいとかいう大勢に押し流されてそう言う慎重論は少数意見だ。
下手するとゲート閉じてケツ捲りゃ良いやという安心感もあるのだろう。
ゴアウルドとは話にならなかったようだがガミラスとは対話が可能だ。
向こうの国連宇宙海軍では力が足りなかっただけで、
三百隻の戦艦を浮かべ敵の拠点と成っていた冥王星を転送と電子攻撃で陥落させ、
将兵を捕虜にすれば対話の席に乗せる事が可能だった。
転送を妨害する手段が無い文明には阻止不可能な攻撃だ。
今は遊星爆弾で傷ついた地球の復興と太陽系防衛圏の再構築に技術交流を深めてる最中だ。
本邦より裾野が広い亜空間技術が魅力的な世界だ。
冥王星で手に入れたガミラスの技術を含め、手に入れた技術を検証しにかかる。
「ふむふむ、そーだなぁ」
新しい技術を前にして、これなら直ぐに出来るか?とアイデアが次々に浮かんで来る。
コンピューターコアを亜空間に沈めて超光速で演算させるか。
簡単なアイデアだが実現すればコンピューターの飛躍的な進化が起きる。
さて、そんなアイデアには先人が居るはず。
何故実現してないのか一つ一つ原因を潰して行く。
「亜空間の波動と安定性の問題か、さてこれを解消するにはライトコーンの外側からアプローチして……」
そんな事を考えてると、コンコンコンとドアがノックされた。
このノックの仕方は明日奈かな。
「どうしたの?」
開けると案の定明日奈だった。
両サイドを三つ編みにしてて何時ものストレートと違ってちょっと可愛い目。
肩に掴まってる子猫型の走狗が幼さを引き立ててる。
「誕生日渡せなかったから渡そうと思って、これ改めて誕生日おめでとう」
「開けて良い?」
「うん」
そう言って開けると50色セットの色鉛筆とクッキーだった。
仕事柄スケッチは多用するし実用的な贈り物だ。
「有り難う、大事に使うし、大事に食べさせて貰うよ」
「うん、用事はそれだけだからじゃあね」
「あ、ちょっと待って、これ持って行って」
そう言って印籠を渡す
「シールド印籠なら持ってるよ」
これこれとポケットからそれが出て来る。
「前に渡したそれのバージョンアップ版なんだ。
脅威度判定プログラムの改善に真空中に放り出されても50時間は保つ気密維持に空調機能つき。
シールドを張ってれば雨の日もカラッと爽やかだよ」
「エアコン付きかぁ、相変わらずすごいね。有り難うそれじゃまたね」
ヴン
そう言って明日奈は転送で帰って行った。
「ASかぁ、大型の人型ロボットだけが歪に発達した世界で、米ソ対立の末に核戦争の寸前まで言った世界」
今は軌道上を銀連に占拠され双方の陣営は戦力移動を制限されてる。
その世界の技術的産物を持ってきたが、技術的に見るべき物は特に無い。
ただ機能美として造形はタイプだ。
特にサベージとか萌える。
「そうだ!見せ物として良いかも」
全高8メートルのロボットに競技場で格闘させるリアルロボットバトル。
こりゃ行けるかも。
戦闘機や侍女型同士の模擬戦では迫力はないからな。
そうと決まれば早速。
「あ、広報の吉岡さん?僕です」