地球近傍のL1宙域にそれはあった、直径800メートルに及ぶ円形のリング。
そのリングの中に無数の光の粒子が表れ。
粒子は次第に広がり、リングに膜を張り始める。
『時空間座標、αθ324818AQに接続、変換領域展開中、スターター粒子放射、……3、2、1、ゲート開く。変換領域面安定……接続確認、成功です』
そのアナウンスが流れた時、会場は拍手に包まれた。
これで時空間に穴を開け、向こう側と行き来できる超空間ゲートができた。
大規模な輸送が可能になる。
「ふざけんじゃないわよ!」
香月夕呼は苛立っていた。
発端は、銀河系連合を名乗る勢力と国連の接触だった。
銀連は、平行世界の国連が100光年以内の恒星系を支配下に置いた事を記念して発展的改編が行われた組織だそうだ。
そして今もなおその支配領域を拡大しつつある勢力だ。
その勢力は数百年進んだ技術を保有し、その発布に来たというのだ。
其れだけなら良い、良いのだが、オルタナティブ計画を知った銀連は、
オルタナティブ4を共同で研究したいと言い出した。
そして、あれよあれよと言うまに日重とか言う向こうの巨大企業体が計画を吸収する事になってしまった。
このままでは計画の主導権を握られるのは目に見えてる。
面白くない話だ。
せっかく此処まで来たのだから、研究は自分で進めたい。
だが、彼等の力と技術に目が眩んだ国連と帝国に後ろ盾は期待出来そうにない。
せめて中心人物として、ある程度のポジションに食い込まなくては気が済まない。
「社、これから来る人物をリーディングしなさい」
「分かりました」
「その必要は有りませんよ。初めまして、香月博士。日本重化学工業主席研究員の結城飛鳥です」
執務室に突然現れた子供はそう名乗った。
「どっから入って……、転送って奴ね」
「不正解です。ただのアクティブステルスと思考操作ですよ。はいこれプレゼントです。あなたの理論の完成品」
そう言って紙の束を渡してきた。
「何よこれ」
紙束と此方を訝しげに睨んだ後、パラパラと紙束を捲り始める。
暫くすると顔色が変わりだした。
まあ、自分の人生を掛けた研究が他人に答えを示されたのだ、気分は良くないだろう。
「オルタナティブ計画は今日を持って終了。発展的解消となります」
「マグネターの着弾を確認」
マグネターと名前が付けられたそれは、数キロの反物質を燃料に超高速のダイナモ効果を発生させ、
強烈な磁場を広範囲に生み出す爆弾である。
超磁力弾頭の炸裂により地上のBETAは、その含む水分の反磁性により強力な磁力で引き裂かれ、
その制動放射により発生した凄まじいX線により焼かれた。
500キロの広範囲で起こったその惨劇は、軌道上のシールドされた衛星さえ破壊する程の威力だった。
ただ、その威力の割に後の影響は微小の放射能汚染だけで、しかも数日で収束するというクリーンさだ。
「いやあ、作ってみたは良いけれどって、一回大気中で使って見たかったんだよね」
今までは、火星の極の氷を溶かす為に作ったテラフォーミング用の機材だったが、濃大気中で使用してみたかったのだ。
しかしまあ。
「反応炉の破壊を確認しました」
「やっぱり、威力がデカすぎたか、あははは」
いやあ、失敗失敗。
磁場が地表で弱められると推定してたけど、想定を大きく見積もり過ぎたか。
ま、まだまだハイヴは有るから大丈夫だろ。
「副砲発射せよ」
「100センチ電磁砲発射……目標モニュメントに着弾。弾頭共々赤外線に変換された模様……電磁波収束します。目標の消滅を確認」
光速の3パーセントとという、凄まじい速度で撃ち出された弾体は、着弾と同時に蒸発。
その着弾の衝撃と熱により発生したプラズマにより生み出された電磁波の嵐が収束して、モニュメントの有った場所が見えてきた。
「メインシャフト消滅を確認、反応炉反応の消失を確認」
うーん加減が難しい。
光線級、重光線級からレーザーが星船せいせんに突き刺さる。
幾重もの障壁で張られたシールドは小揺るぎもしない。
「複数のレーザー照射を検知、力場装甲正常動作、出力98%を維持」
「アレイレーザー収束照射、照射開始。目標物崩壊を開始」
「照射を継続して奴らにドロドロの構造材を浴びせろ」
「了解」
「突入隊、発艦開始。制圧せよ」
人型戦闘機が次々と発艦していく。
地上から迎撃の光杖が幾つも上がるが、戦闘機たちは全く意に返さない。
それは、自分たちの張るシールドを突破出来ないと知ってるからだ。
そうこうしてる内に、母艦のアレイレーザーや戦闘機が持つプラズマ砲により逆に光線種が一掃されていく。
「AV-1突入しますわ」
「同じくAV-2突入する」
彼女たちは音無麗に天童蘭今回の突入作戦の栄えはる一番槍に任命されたコンビである。
目的は、ハイブ内BETAの一掃と反応炉の確保。
「あれだけ攻撃したのにレーザーが凄い数だ」
メインシャフトに突入すると数十の光杖が麗たちに突き刺さる。
「一気に潰しますわ」
そう言うと麗は袖口から万年筆に似た形状のマイクロミサイルを数十ばら撒くと一気に点火、光線種に撃ち込み始めた。
装薬と弾頭にアイソマー爆薬を使用した一撃は、その固い表皮を打ち破り炸裂。
光線種を木っ端微塵にする。
「こちらAV-1、光線種の沈黙を確認、転送強化弾を打ち込みます」
麗は、そう連絡を入れるとポケットから身長を優に超えるペネトレーターを取り出した。
蘭や他の戦闘機たちも同様にペネトレーターをポケットから取り出し構える。
「撃て!」
戦闘機の重力制御により撃ち出されたペネトレーターは地表部を突き破りモニュメントの最下層、大広間へと道を作る。
「転送」
ブンという音と共に戦闘機たちが大広間に転送された。
「制圧開始」
「各機近接戦用意」
ゲート級を通り、BETAが雲霞のごとく押し寄せてくる。
しかし要塞級がプラズマで焼かれ、突撃級がその固い装甲をレーザーで斬られ、要撃級がマイクロミサイルで次々に破裂していく。
戦車級などの小型種は飛び込んでは重力障壁でグチャグチャのスプラッタにされる始末。
大広間は今やBETAの処刑場と化していた。
その模様に変化が訪れる。
『こちらふそう、天蓋部の切断を確認――以上』
ふそうのその報告が聞こえると共に大広間の天井がバラバラと切り取られ始めた。
アレイレーザーにより切断された天井が、トラクタービームにより持ち上げられたのだ。
ふそうは、そのまま天井の残骸を上昇させると外に放り出す。
そうして開けた開口部へと、ふそうが艦首を突っ込んできた。
戦闘機だけでも一方的だった戦況がふそうが加わった事で、消化試合へと様相が変わる。
アレイレーザーは屍の山を築き上げ、副船体の凪払いは数十のBETAを一気に血煙へと変える。
「そろそろですわね」
「そうだな、出が悪くなった」
そうこうしてる内に大広間に殺到してたBETAの出現数が目に見えて減ってきた。
そして遂にはBETAが出現しなくなってしまった。
『地下部分の掃討を確認、地表部のBETAも掃討を確認。作戦完了です。お疲れ様でした――以上』
「いやあ、スムーズな作戦でした。目標である無傷の反応炉の確保も達成。万々歳です」
やはり、地道に削るべきだったらしい。
ふう良かった。
「転送爆雷実体化」
フィルムケースのような金属缶がBETAの傍へと実体化する。
辺り一面を埋め尽くす勢いのBETAの群れの端から爆炎が上がると。
それを切欠に次から次へと波紋のようにBETA群の中から爆炎が伝搬していく
転送爆雷による攻撃だ。
同時転送数の上限からこのような攻撃になったのだ。
その数数万個、それらが炸裂し地表に爆炎の暴威が現出した。
「地表部のBETA群凡そ、99%を撃破」
「突入開始」
そうアナウンスが有った直後、侍女服を纏った一団が4っつの広間へと繋がる坑道へと侵入していく。
侍女たちは、ある者は、10mm電磁銃をある者は重力刀を持ちBETAを殲滅していく。
優先順位から肉薄する戦車級や兵士級などの小型種は居るが、その全ては超圧縮された厚さ数センチの鋼板で切り刻まれ、或いは叩き潰されていく。
屋内戦闘は侍女達の十八番、戦闘機よりも効率的にBETAを刈っていく。
戦闘機に比べて殲滅速度自体は遅いが、ハイヴ構造へのダメージは最小限だ。
前回、インドの13号ハイヴ攻略で戦闘機と星船による突入戦術が使われたが、
戦闘による構造体へのダメージが思いのほか激しく。
地下水の侵入で浸水してしまったのだ。
そこで、一号ハイヴ、通称オリジナルハイヴ攻略では、市街地戦装備のみで攻略する運びとなったのだ。
「こいつがオリジナルハイヴの反応炉ね」
報告書によると武器となる触腕は全て切断済み、三重のシールドにより拘束中と。
「意志の疎通が可能なようです」
工作型機族の芽依がそう報告してくる。
こいつがただの反応"炉"でない事は横浜や13号ハイヴのデータから解ってる。
さてと「かかるぞ」
BETAの脅威は片付いた。
重力波を通信手段に使ってた此奴等のネットワークをハック、
管理者権限を書き換えBETAが停止するように命令をしたのだ。
これで太陽系のBETA群は活動を全て停止する事になる。
不可解な事と言えばセキュリティーがガバガバだった事だろう。
どうぞ書き換えて下さいと言わんばかりのプログラム構造だった。
恐らくはこの資源採掘マシンの創造主は、一定以上の文明と争いたくなかったと思える。
BETAをねじ伏せてネットワークを解析できる文明なら大した事には成らなかったろう。
だが、ねじ伏せられない程度の文明は無視して良い。
そういう配慮の無さが透けて見えると言えば穿ち過ぎだろうか。
しかしだ、取り敢えず此処には復讐に燃える地球人とお節介な異世界人が居る。
傍迷惑な採掘機械を送ってきた文明には、相応の礼をしなければ収まらないだろう。
我々は地球人を助け、ただ技術を広めるのみ、これからはただ見守るだけだ。
供与した技術が復讐に使われようと知った事では無いのである。