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No.41005の一覧
[0] 【習作】えみやさんはようせいさん、なのです(艦これ X Fate)[かえで](2015/02/21 02:54)
[1] 02[かえで](2015/02/23 01:03)
[2] 03[かえで](2015/02/27 10:09)
[3] 04[かえで](2015/03/02 00:45)
[4] 05[かえで](2015/03/07 02:10)
[5] 06[かえで](2015/03/15 01:02)
[6] 07[かえで](2015/03/29 00:40)
[7] 08[かえで](2015/04/12 18:02)
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[41005] 08
Name: かえで◆eb5dd369 ID:9a1078fe 前を表示する
Date: 2015/04/12 18:02
リハビリを兼ねたトレーニングの後。
食事を終えた雷は、両腕を伸ばし机の上でうつ伏せになり、顔をだらしなく緩めて笑みを浮かべていた。

「いやあ、今日のご飯も美味しかったぁ。
人間って良いわねえ。色々と不便なとこもあるけど、この満足感はたまらないわあ」
「もう、雷ちゃん、だらしないですよ」
「まあまあ、良いじゃない。ね?」

穏かな笑みで食器を下げようとする間宮を見て、雷もまた立ち上がった。

「あ、待って、もういい加減に食器ぐらいは自分で下げるわ」
「でも、大丈夫?」
「平気平気。むしろ、美味しい物が食べれて調子が良いぐらいだもん」

満面の笑みで言う雷に、間宮は特に何を言うでもなく頷いた。
全員で食器を持って厨房に入れば、そこには滅私奉公と刺繍されたエプロンを着たエミヤが丁度出て来る所だった。

「む、下げてきてくれたのか。すまないな」
「このぐらいなんともないわ。そんなに心配しなくても大丈夫なんだから。
それより、ご飯にデザート、どれもとっても美味しかったわ。ありがとう、エミヤさん!」
「なに、前にも言ったが、喜んでくれればこちらも嬉しい――さ、渡してくれ」
「ん、お願いします」

全員から食器を受け取ったエミヤは、流し台へと向かう。
その後姿を雷はじっと見つめる。

丁寧かつ素早い手つきで淀みなく洗われていく食器。
水気を切り、布巾でキュッと磨く姿が妙に様になっている。
その光景を見た雷は好奇心を刺激されていた。

「ねっねっ、エミヤさん」
「なんだね?」
「私もキュッキュッてやってみたい!」
「いや、しかしだね」

エミヤとしては病み上がりの雷に無理をさせたくないという気持ちと、家事は自分がやるべきであると言う義務感がある。
決して彼自身がやりたいわけではない。多分。

だが、こうも目を輝かせる少女を見ると、手伝ってもらうのも良いか、と考えを切り替えた。

「一緒にやるか。では、この布巾を使って――」

そう言いつつ布巾を渡そうとするエミヤ。
その彼に、熱い視線が突き刺さる。
そのあまりの熱視線に、エミヤの体が硬直する。

「じー……」

その視線の送り主は電だった。
彼女もまた、過保護すぎる誰かさんによって手厚く労われており、食器を運ぶ以外はした事がなかった。
控えめな彼女はその誰かさんの厚意を無碍にする事も出来ず、自分から言い出すことも無く今まで大人しくしていた。
だが、その均衡も今や雷の手によって崩れた。

「いや……なんだ、その」

視線を彷徨わせ言いよどむエミヤ。
熱すぎる視線は彼を焦がすかのようだ。

電の期待に満ちた視線が逸れる気配は無い。
エミヤは早々に白旗を振った。

「電君もやってみるか? 三人並ぶと少し狭い。私は後ろで見ているから、二人でやってみるといい」
「はいっ!!」

嬉しそうに布巾を手に取る電と、なんだかちょっぴり寂しいエミヤであった。

「きゅっきゅっきゅー」
「んしょ……んしょ……」

楽しそうに食器を拭く二人。
離れた場所で椅子に座り、二人を見ているエミヤ。
何かあれば口を出すつもりだったがその心配は杞憂で済んだようだ。
雷は手際が良く、初めてとは思えないほどに洗練された手つきだ。
電の方はと言うと、少し要領が悪いのか、時折雷に指摘されながら悪戦苦闘している。
二人とも根が真面目なのだろう。丁寧に磨かれていく皿はどれも綺麗にされており、文句のつけようが無い。

「……特に問題は無さそうだな」
「あらあら、残念でしたね、お父さん」

テーブルの向かい側に座った間宮がからかい混じりに笑う。
それを、エミヤは憮然とした表情で言い返した。

「誰がお父さんか。大体、彼女達の本分は深海棲艦と戦う事だ。私はこのような雑事で彼女達の手を煩わせてはいけないと思ってだな――」
「はいはい、そうですねー。決して自分が家事をしたかったわけでもないですもんねー?」
「……無論だ」
「その間が気になる所ですけど。でもまあ、男の人としてはあんな子達が娘だったら良いと思いません?」

楽しそうに笑いあう二人を見て、エミヤは僅かに相好を崩した。

「まあ、悪くは無い。素直で良い子達だしな」

そう言えば、とエミヤは自分の記憶を振り返る。
ノイズのかかったものではあるが、自身の知り合いの女性はどれもこれもアクが強く、彼女達のようなタイプは身近には居なかったように思える。

「ふむ、娘か。確かに、悪くないな」

何度も頷くエミヤに、思わず間宮が苦笑する。

「そう何度も頷いちゃうのはどうかと思いますよ」
「しかしな、知り合った女性は皆逞しかったと言うか何と言うか」
「あー、そんなこと言っちゃうんですか。酷い人ですねえ」

手で口元を隠し、クスクス笑う間宮を見て、思わずエミヤは溜息を吐いた。
そうして一頻り笑った後、間宮は真剣な表情でエミヤに向き直った。

「それで、やはりあの子達には夢幻召喚を使わせないつもりですか?
私としては、事前にいくらか触れておいた方が良いと思いますが」
「私の経験が適応されるのは君が使用した時に分かっている。事前に使う必要も無いだろう」

実の所、エミヤにとって星側の艦娘とは疑わしいものであった。
その上、夢幻召喚を使えばエミヤに出来る事は何も無い。
それ故に、その力を人を害するために使用される恐れすらあると考えていた。

魔力炉心を備え、人を凌駕する能力を持つ存在。
その彼女達が、投影による宝具を持って人に牙を向いたら?
だからこそ、彼なりに彼女達を見極めようとした。

「それに、できればあまり使いたくない手ではある。
地力を伸ばし、夢幻召喚に頼らずともいい状況にしたい所ではある」

その結果、エミヤが分かった事は彼女達が善良であると言う事だった。
だが、彼女達を知れば知るほど、触れ合えば触れ合うほど、彼女達の善良さが彼を苦悩させる。

「それは、侵食を恐れて?」

間宮の問いに、エミヤは重々しく頷いた。

「――そうだ。何かの拍子で私の記憶を彼女達が見てしまうかもしれない。
こんな愚か者の記憶など、幼く無垢なあの子達にとって百害あって一利なしだ」

吐き捨てるようにそう言って、人類の負の側面を永遠に見続け、そのツケを払い続ける男は静かに目を伏せた。
無表情を装うとしているが、付き合いを深めた間宮にはそれがただの擬態なのだと分かってしまう。

出来る事なら、エミヤは自身が矢面に立ちたかった。
だが、海上で行動する術を持たない彼には不可能な事。

湖の精霊の加護を持つ彼の騎士王ならば彼女達と並び立って戦う事も可能だったろうに、何故、私のような役立たずを呼んだのか。
エミヤは内心そう思っていた。

エミヤは近代の英霊であり、現代の戦法や文明等に理解が深い事。
それに加え、生前にレジスタンス、あるいはボランティアとして様々なスキルを持っていたことも、人の体に不慣れな艦娘の支援として呼び出された理由の一つなのだろう。

確かに、後方支援も大事だと言う事はエミヤもよく理解している。
だが、何時だって彼は自らを犠牲にする事を前提に戦ってきた。
その自己犠牲の強さは、自分を助ける為に誰かが危機に陥るぐらいなら、その命を絶とうする事も厭わないほどだ。
そんな彼にとって今の現状は歯痒くてならない。

「この間は軽く話したが、正直な所君に使わせた事を後悔している。
君は見なくていいものを見てしまい、人に対して疑問を持っている。
そして、今もまだ、拒絶反応により君の体は満足に動かない。違うか?」

あの時、電に心配をかけたくないがために間宮はあえて楽観的に振舞い、エミヤもまたそれに乗った。

だが、休む事無く同調を続け、連戦に次ぐ連戦で疲弊した間宮は、そのおぞましい記憶に耐えられなかった。
エミヤとの乖離。その為におきた投影魔術の失敗。
その反動は、彼女を内側から破壊した。

「それは、そうですが」

言いよどむ間宮
だが、彼女はエミヤに伝えなければいけない事がある。

「確かに、体は本調子と言い難く、思うように動きません。
それに、深海棲艦が出るまでも無く、人は遅かれ早かれ地球を食い潰し、勝手に絶滅していたでしょう。
現状を生み出し、あまつさえこのような現状になるまで争いを収められぬ人に対して疑念を抱いた事も確かです」

大きく息を吸い込み、言葉に力を込めるよう、椅子から腰を浮かし、卓から身を乗り出して間宮は喋りだした。

「ですが、あの時に、あの窮地を切り抜ける際に必要だと判断し、使用を決断したのは他ならぬ私です。
私達は人の手によって創られた、人と戦う為の兵器が元になっているんです。
それぐらいの折り合いをつけることぐらい、もう出来ています」

伏せていた目を開き丸くしているエミヤに、間宮は更に言い募る。

「何より、私は、貴方の助力を得られた事を最高の幸運だと思っています。だから――」

貴方が気にする事など何一つ無いのだと。
そう言って間宮は微笑んだ。

「それより、貴方は一人で抱え込みすぎなんです。
電ちゃんにはみんなで協力する大切さをー、なんて言っておきながら、貴方がそんなんじゃ全然説得力ないです」
「ぬっ――」

思わず苦悶の声を出すエミヤに間宮は更に勢いづく。
人差し指を突きつけながら、更に続ける。

「それに、私だっていざとなったら出撃するんです。そんな時に、貴方が力を貸してくれないと、か弱い私は困っちゃいます。ね?」

おどけるようにウインクを一つ。
それを見たエミヤは、

「クッ――」
「あいたっ!」

中指で間宮の額を弾いた。

「そう言うのだったら早く体を治す事だな。全く、デコピン一つで倒れるようなザマで戦場で一体なにをするつもりだ?」
「うぐぐ、おでこが凄く痛いんですけど」
「ふん、怪我人が生意気を言うからだ――だが、そうだな」

呼吸を一つ挟み、穏かな顔でエミヤは口を開いた。

「使うべき状況だと判断したら迷わず使う。それは約束する。必ずだ」
「――はい、二人をお願いします」

力強く頷くエミヤに、間宮もまた頭を下げた。

「ねえねえエミヤさん、終わったよ!」
「ピカピカなのです!」

そこに、満面の笑みを浮かべた幼い姉妹が飛び込んできた。
二人とも誇らしげに胸を張っている。

「ああ、ちゃんと綺麗になっているな。ありがとう」
「えへへ。あ、それより二人とも、なにを話してたの?」

首を傾げる雷。
それに、エミヤは苦笑しながら誤魔化すように答えた。

「まあ、今後の方針についてだな」
「今後のですか?」
「ええ、そうよ。そろそろ雷ちゃんも体に慣れてきた頃でしょう?
だから、どうしようかってお話よ」

間宮の言葉に雷が頷く。

「そうね、体の不調はもう無いし、何時でもいけるわ。けど――」

そう言って少し考え込む雷に、間宮が問う。

「けど?」
「んっとね、人類の勢力圏がどこまで後退してるかとか、深海棲艦の本拠地がどこかとか、分からないのが現状よね?」

その問いに、エミヤが答える。

「そうだな。事前に与えられた情報があまりにも大雑把過ぎてあまり役に立っていない。
星の機能が上手く稼動していないのが原因なのではないかと思うが」
「んー……?」
「と言いますと?」

疑問を浮かべる雷と電。

「深海棲艦の妨害工作だな。
君達を捕獲、あるいは撃沈する際に記憶を奪うのはこちら側に情報を与えないため。
そして、星の力を奪う事により影響力を削いでいるのだろう」

雷は更に首を傾げ、エミヤに問う。

「星の力を奪うってどんな事をしているのかしら?」
「私達がこの鎮守府に辿り着いた時、この島は深海棲艦の手によって霊脈から魔力を吸い上げられ異界と化していた。
魔力と言うのは生命力と言い換えてもいい。それが不足するという事は、土地が死ぬと言う事だ。
幸い、この島が不毛の大地と成り果てる前に解放する事が出来たから良かったが。
それが世界各地で起きているのならば、星の影響力がここまで落ちていると言うのも頷ける話だ」
「……人体で例えるなら、魔力って言う血をいっぱい抜かれちゃって、勝手に輸血パックに蓄えられてる。
それで貧血を通り越して意識が朦朧としてる上に、肉体が壊死し始めたとかそんな感じ?」
「まあ、そんな感じだ。
それで、その持ち逃げした輸血パックを使って深海棲艦が悪巧みをしていると言う所だ」
「むむ、それって結構一大事?」
「かなり一大事だ。奪われた魔力を取り戻さねばこの星が死に、植物が育たず人が死ぬ」
「んー、ピンチ?」
「とてもピンチだ」

どこか冗談めいたやり取りをしながら真顔で頷きあう雷とエミヤ。

「情報量が少なく曖昧な理由は分かったわ。敵の本拠地が分かれば奇襲とかできたのにって思ったんだけど」
「味方との合流も楽だったんですけどねー。多分、情報が更新されないままだから敵地にいきなり落とされたんじゃないかと」
「ああ、勢力図が昔のままなのですね。ちょっと、と言うかかなり酷い気もするのです」

そんな事を言いながら、艦娘三人は揃って溜息を吐いた。

「うーん、なんとか他の味方と接触したいのですが、まだまだ現状では難しそうなのです」
「人類が仲違いしてなければ、まだまだマシな戦況だったのかもしれませんけど――あ、そうだ」

そう言って、間宮はエミヤを一瞥した後、二人に問いかけた。

「二人は人間の事をどう思ってるのかしら」

その問いに二人は困惑して、思わず顔を見合わせた。

「どうって」
「どう言う事なのです?」
「うーん、ほら、ここまで戦況が悪くなったのもある意味人間のせいって言う部分も有るし、二人がどう思ってるかなって」
「間宮君」

止めようとしたエミヤだが、間宮の真剣な眼差しに思わず口を噤んだ。
いくらかして、その問いに先に答えたのは雷だった。

「うーん、よくわかんない」
「ふむ?」
「だって、この姿になってから実際に人間にあったこと無いし。でもね――」

そこで雷は息を吸い、そして快活に笑う。

「私と共に戦ったクルーはみんな勇敢で心優しい人達だった。だから私は、彼等に恥じないようにしたいって思うの」

彼女の人格を形成する根幹となった彼等を、雷は誇らしげに語る。

「そりゃあね、ここまでやっちゃった人類に思う所が無いわけじゃないわ。
でも、人間ってそういう生き物でしょう? 争い合うのは仕方のない事だわ」

そう言って雷は自分の妹を見た。
彼女の性質は良く知っている。スラバヤ沖海戦では共に救助作業に当たった。
だから、この現状については自分と同様に思う所がある筈だ。
姉の視線を受け止め、電は少し悲しそうに微笑んだ。

「確かに仕方が無いのかもしれないのです。それでも電は、みんなが仲良く平和に生きられればって思うのです」

その言葉に、思わずエミヤは息を呑んだ。



――誰もが幸福であってほしい。
それは、彼が在りし日に夢見た理想。



「うん、それは私もそう思うけど……って、エミヤさん、どうしたの」

心配そうな顔で覗き込む雷に、エミヤは首を振って気にするなと告げた。

「ああ、いや、オレも電君と同じ気持ちと言うだけだ。オレはそれを目指して一度は折れてしまったが、それでも――」



――今も、彼はその星を追い続けている。


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