テンプレ通りトラックに跳ねられて
オンギャーと生まれた先もテンプレ通りどこかの中世的な貴族の家だった。
しかも魔法つき。
「やったぜ」というしたり顔で俺はすくすく育ち、言葉も覚え、2歳になった頃、天才だ!ともてはやされていた俺の目の前に待っていたのはなんと数学だった。
ちょ、ちょっと待って。
算術はわかる。1歳半のときやってたし。楽勝だった。
テンプレでは、うっはー魔法世界の人たちってバカなんじゃないのかけ算したぐらいでびっくりすんなようっはーとか思ってたけど
なんぞこれ。
父(魔導師としてはかなりの上位に属す)曰く
「魔導師たるもの、数学はできねばならぬ。数学師ほどできる必要はないが、それでも一流の魔導師となるには数学は必要不可欠だ」とのこと。
俺はすぐさま
「でも数学が苦手でもかなりできる魔導師もいますよね」と反論したが
父はため息をついてこう言った。
「確かにそうだろう。だが一流の魔導師に数学のできぬものはおらぬ。それに私は数学のできぬものに魔法は教えぬ。更に貴様のその数学などしたくないという性根が気に食わん。あと3年、しっかりと数学せよ」
父はそう言って、国内最高の数学師、ランドルフ=オイラーを招き寄せ俺の家庭教師とした。
え、ちょ、魔法は?
その後のランドルフさんとの数学のやり取りは続いた。
いやもちろん俺も高校まで数学は得意だったからちょっとはわかるよ。
現に因数分解どや顔で解いてたらランドルフさん驚いてたしね。前世のときと違って括弧だのの記号の形が違ったから嫌だったけど。
でもそれからランドルフさんやる気出しちゃって
「あなたには嫉妬しますよ」とか言っちゃってんの。
俺もね。三角関数とかまではへへーんって感じでやってたよ。
円周率が3.14より大きいことを証明せよとかも苦労して解いてたよ。
で、ここまでで1年。ランドルフさんは次の年はもっと張り切っちゃった。
では次はこれを教えますねと。
俺は思った。あ、これロピタルの定理だ。大学受験のとき先生が困ったら使えって言ってた定理。
その後も色々1年教わっていたが、向こうの世界でまがい也にも現代数学をかじっていた俺にランドルフさんびっくり。
アーベルって誰ですかとかなんとか風情のないことをぐちぐち言っていたが、
微分と積分が逆であることを証明してやったらめっちゃ興奮されちゃって、俺、王都に呼び出し食らうわけね。
そして俺、4歳にて数学師免許を授与される。なんでや。
なんでもこの世界、数学師は魔導師より偉いのだとか。
なんでかっていうと、魔導師が数年かけてどうしても解けなかったり編み出せない魔法を、数学師に見せたら、1分で解いちゃった、なんてことがざらにあるかららしかった。
それに大抵の数学師は魔法も使える。でも数学師は魔法より数学に興味があるらしかった。なにそれ。あたまおかしい。
序列的には
高位数学師 > 王 > 中位数学師 > 高位魔導師 > 高位××師 > 低位数学師 > 中位魔導師 > 中位××師 > 低位魔導師 > 低位××師
という感じだ。
王より偉いのか。
父は喜んだ。とてもよろこんだ。伯爵なのにそんなの関係ねぇとばかりにはしゃいでいた。
俺はそれを冷めた目で見ていた。そんなことより魔法を使いたいと。
しかし父はそれを禁止した。
「確かにお前の業績は素晴らしい。父として誇らしい。お前はすぐに私を抜き去ってしまうだろう。だが貴族に二言は無い。あと1年、しっかり数学するように」
俺はプチ絶望しつつその後も数学をした。
魔法に関係あると知り、魔法言語処理という分野にも足を踏み入れ、魔法のアルゴリズム改良にも取り組んだ。
国内でも有数の中位魔導師であるアルフくんは俺のことをキラキラとした目で見ていたが、俺は魔法をまだ使えないので正直そっちの方がうらやましい。
くそ、俺は別に数学好きじゃないしそんなにできるわけでもないんだぞ。
単に前世の頭のいい人たちの解法をパクってるだけだ。羨望のまなざしはやめろ。しかも男のそのまなざしはやめろ。
そして1年が経ち父に魔法の教えを受けることになった。
俺はキラキラした目をしながら初歩の火魔法、プリミティブファイアを発動させる。
しかしなにもおこらなかった!!!
あろうことか俺には魔法の才能が無かったのだ。
それも毛ほども。俺は慟哭した。
父も大いに悲しんだ。そしてこう言った。
「正直落胆はしている。もしお前に数学の才能が無かったのならすぐにでも放逐していたところだろう。だが安心しろ。確かに魔法は役に立つ。役に立つが、それを活かせねば意味がない。お前は我が家のみならずこの国の未来すら導ける力がある。既に中位数学師として私と並ぶ……いや私の上に立つ人間がお前だ。がんばれ!!!!!!!」
俺は剣と魔法の世界なのに魔法が使えないことに非常に落胆していた。
正直数学なんてやりたくないやい。
魔法が使えないのに数学って、物理学みたいなもんじゃないか!!!
あぁああああ!!
と、しばらく項垂れていた。
その後3年が経過し、俺は高位数学師として王の客・王の友となった。
8歳である。
同僚の数学師と茶を飲みながら数学し、部下として俺についている高位魔導師のアルフくんを引き連れ、俺は魔法の研鑽をしていた。
あの日俺は魔法を使えないことに悲しんだが、正直このへんまで来ると俺は科学と魔法の違いがよくわからなくなっていた。
というかなんでみんな魔法使えんのって感じ。
はちゃめちゃな俺はネットワークを構築することにした。
「いいかねアルフくん。この世にはどういうわけか魔力とかいうものがある!!!!」
「はぁ」
「魔力は波の性質を持っているんだよ!」
「それは知っています。それが何か……」
「アルフくん、波の高い部分を1、低い部分を0とすると、この魔力は何かな!」
「1011ですね…」
「ではこれは?」
「10001ですね」
「じゃあ1011をアルフのバーカという意味、10001を俺は天才という意味にしてその魔力を魔導器に送ったらどうなるかな」
「…!!! 先生! もしや通信機を作ろうとしているのですか!」
「その通りだよ!」
「しかし先生、そんなものがなくとも転移魔法があるではないですか」
「ばかもん! 己の魔力を使わなくても通信ができるのだぞ! しかも転移魔法は高等技術。お前らぐらいしか使えんわ!」
「それもそうですね」
その後なんやかんやで科学技術が発達し、なんやかんやあって王制はぶっ壊れた。
魔法は依然としてなぜ使えるのか謎なままだが、魔法も別に廃れたわけではなくて普通に使われていた。
そんな中俺は常微分方程式などを泣きながら解いている。
「なんだこれは!わけわからんぞ!どうやって解けばいいのか全く見当もつかん!殺す気か!」
「やめろー! フェルマーの最終定理とか見つけてくるなよー! それたぶん正しいとは思うけど解法なんて全然わかんないからねー! モジュラー!!! 助けて谷村ー! シムラー!」
「いやそんなの暗算できるわけないからね。お前俺のことコンピュータかノイマンもしくは火星人だと思ってるだろ。死んで詫びろ」
そうやって、ひたすら魔法が使えないまま数学をし続けた俺は、この剣と魔法と世界に秩序と安寧と科学技術をもたらして、魔法が使えないまま死んでしまったのであった。
おわり。
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ウルフリッヒ=クラン=ペリリウス=セ=ラインストーン
皇歴3102年春の月3番目の日 〜 統一歴40年4月4日
ラインストーン王国世界統一前の、ラインストーン王国ペリリウス領にて
父カイングリッヒ=クラン=ペリリウスと、母フェンラーゼ=ミ=セナン=ル=ペリリウスの間の子として生まれる。
生まれたときより聡明であったとされる。
先天的に本人には魔力が無かったが、極めて数学に明るく、当時の文明を何百年も進めたことで知られる。
また、今日の生活基盤・政治基盤などは全て彼の立案に基づいている。
ラインストーン国立大学初代学長。
彼の遺言である「一度でいい。魔法を使いたかった」という言葉はあまりにも有名。
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書いてみたかった
結局魔法の世界に行っても、ある程度理論化すると数学が必要になってしまうと思うんだよね。うん(´・ω・`)