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No.40420の一覧
[0] 【チラ裏より】ある人の墓標(GS美神×ネギま!)[素魔砲](2015/11/05 22:32)
[1] 01[素魔砲](2015/06/28 20:22)
[2] 02[素魔砲](2015/06/28 20:23)
[3] 03[素魔砲](2015/06/29 21:11)
[4] 04[素魔砲](2015/06/30 21:06)
[5] 05[素魔砲](2015/07/01 21:12)
[6] 06[素魔砲](2015/07/02 21:04)
[7] 07[素魔砲](2015/07/03 21:17)
[8] 08[素魔砲](2015/07/04 20:51)
[9] 09[素魔砲](2015/07/05 21:08)
[10] 10[素魔砲](2015/07/06 21:24)
[11] 11[素魔砲](2015/07/07 21:08)
[12] 12[素魔砲](2015/07/08 21:08)
[13] 13 横島の休日 前編[素魔砲](2015/07/11 20:25)
[14] 14 横島の休日 後編[素魔砲](2015/07/12 21:06)
[15] 15[素魔砲](2015/04/27 00:35)
[16] 16[素魔砲](2015/06/21 20:47)
[17] 17[素魔砲](2015/06/27 21:09)
[18] 18[素魔砲](2015/07/16 22:00)
[19] 19[素魔砲](2015/07/20 22:16)
[20] 20[素魔砲](2015/08/26 22:20)
[21] 21[素魔砲](2015/11/05 22:31)
[22] 22 夕映と横島 前編[素魔砲](2016/03/20 22:33)
[23] 23 夕映と横島 後編[素魔砲](2016/06/18 21:54)
[24] 24[素魔砲](2016/07/30 21:00)
[25] 25[素魔砲](2018/05/14 22:55)
[26] 幕間[素魔砲](2018/05/27 12:53)
[27] 26[26](2023/01/28 22:33)
[28] 27[27](2023/01/30 22:16)
[29] 28[28](2023/02/01 21:35)
[30] 29[29](2023/02/03 22:01)
[31] 30[30](2023/02/05 20:35)
[32] 31[31](2023/02/07 22:35)
[33] 32[32](2023/02/09 22:07)
[34] 33 真実(前編)[33](2023/02/11 22:35)
[35] 34 真実(後編)[34](2023/02/14 00:00)
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[40420] 32
Name: 32◆64d3f0f4 ID:73709a19 前を表示する / 次を表示する
Date: 2023/02/09 22:07





虫よけスプレーでも持ってくればよかったかと後悔しながら横島は目の前を飛んでいる羽虫を手で追い払った。
歩道のわきに群生している低木の茂みの中から横島は超と真名、そして四人目がいるであろうビルを眺めていた。
もはや使う者もいなくなって久しい旧自然公園に建設された管理ビルが今の超の研究室兼隠れ家になっているらしい。
公園の入り口で葉加瀬と合流した横島は彼女を伴ってビルが見える位置の藪の中に潜んでいた。
外観は特筆するだけの特徴もない平凡な二階建てのビルで出入り口は二か所。
来客用の正面玄関と職員や業者が利用するための裏口がビルを挟んで設置されている。
見通しはそれほど悪くはなく、見える範囲での内部の様子はどこかの役所や銀行の待合スペースを彷彿とさせた。
おそらく受付の奥には職員用のオフィスがあるのだろう。あいにくとここからでは見えなかったが。
ビル内の構造を葉加瀬から聴いた範囲ではこちらの想像もあながち間違いではないようだ。
変わったところがあるとすればあのてのビルには珍しく地下が二階まであるところか。
超が利用しているのは地下一階部分が主で地下二階は大型の発電機があり、地上階部分はほとんど荷物置き場になっているそうだ。


(超ちゃんと真名ちゃんが捕まっているとすれば研究室と生活スペースがある地下一階か。いやまだ真名ちゃんは捕まったって決まったわけじゃないが)


連絡を取ろうにも彼女の携帯は全くつながらなかった。
今もまだこちらが到着するまで時間稼ぎをしているのだとすれば、早く合流するべきなのだろうが内部の状況が分からない以上うかつには飛び込めない。
先行して偵察するという考えもなくはないが、バックアップもなしに突入するのはなるべくなら避けたかった。
やはりここは美神たちの応援を大人しく待っているべきだろう。そう考えつつ隣で表情を曇らせている葉加瀬を見つめる。
四人目の少年に超や真名が囚われている可能性がある事を話したため不安に思っているようだ。


(あんまり詳しく説明するわけにもいかなかったからいろいろ端折っちまったが、その分かえって嫌な想像が膨らんじまってるのかもな)


何とかしてやりたいが現状ではどうしようもない。
せめて何か話題を振って気を紛らわせてやろうと横島は葉加瀬に話しかけた。


「しかしこの公園使われなくなったって割には歩道の整備とかは結構しっかりしてんだな」


「・・・管理者が変わった後も年に二回ほど業者の手で草刈りなんかはしているみたいですから。
ただ遊具の類は撤去されていますし、散歩コースも半分ほど立ち入りができないようになっているのでそれもいつまで続くかわかりませんが」


「まぁわざわざこんなとこまで散歩に来るもの好きもそうそうおらんだろうしな。
学園都市にゃ陸上トラックやらテニスコートなんかもあるでっかい公園がいっぱいあるし」


「前は深夜にゴミを捨てに来る人達がたまに来ていたらしいんですが、
一度超さんの警備ロボットに追い払われた事があって、その後はとんと人気がなくなりましたね」


「なんちゅうか自業自得なんだろうが、ちょっと気の毒かもなそりゃ」


真夜中に警備ロボットと追いかけっこをする羽目になったポイ捨て犯を想像して横島は乾いた笑いを浮かべた。
そんな風に暫く雑談をしながらビルを見張っていた横島たちだったが、ふと正面玄関に人影が見えたことでピタリと口を閉ざした。
何者かが自動ドアを通って外に出ようとしている。その手には何か細長い筒状の物を抱えていた。
目を凝らしよく見てみるとそれは真名が愛用している狙撃銃だった。銃身が太陽の光を鈍く反射している。
四人目の少年が真名の狙撃銃を肩に担ぎ入口から歩いてきた。
思わず息をのむ。それは葉加瀬も同様であったらしい。身動き一つせずただその光景を見続けている。

少年は玄関アプローチを通り歩道まで出てくると担いでいた狙撃銃を丁寧に地面に置いた。
そしてまっすぐに横島たちが隠れている茂みに顔を向けニコリと笑った。
目と目が合う。この距離だ。それは気のせいなのかもしれなかったが・・・。


(いや違う。あいつこっちに気付いてやがる!)


明確にこちらを認識している。どうやって探知したのか見当もつかないが。
少年は声には出さず何かを告げると地面に置かれた狙撃銃を指さした。
そして何事もなかったかのようにクルリと振り返り玄関まで戻っていく。再び自動ドアを通り少年はビルの中へ帰って行った。
その後ろ姿を最後まで見送った後、横島と葉加瀬は同時に顔を見合わせた。


「横島さん。あれって!」


「ああ、ありゃ真名ちゃんの銃だ」


先程よりも小声で喋りながらこくりと頷く。
先日一緒にいた時にチラリと見たに過ぎないが、状況を考えれば真名の物としか思えない。


(あのガキどういうつもりだ?)


それが気にかかる。普通に考えればあれは警告だろう。
こちらの接近を察知したため、真名の狙撃銃を見せつけ人質の存在をアピールした。
突入を牽制するための手段としてはなかなかうまい手ではある。


(でも・・・本当にそうなのか?)


何かが引っ掛かる。うまく言語化できないほどの小さな違和感が横島の胸中を満たしていた。
玄関から一人で出てきて外に狙撃銃を置き再びビルの中に戻っていく。
少年の行動を挙げるとすればこんな所か。


(・・・いやちょっとまてよ。たしかあいつ銃を置いた後こっち見ながらなんか言ってたよな。それで銃を指さして・・・)


そこまで考えた直後、横島は勢い良くその場で立ち上がっていた。
ガサリと大きな音を立て目の前の草木をかき分ける。隠れていた藪を飛び出し、横島は道路に置かれた狙撃銃目掛けて突進した。
何も警戒せず無防備な姿を晒すことに一瞬躊躇を覚えたが、あえてその気持ちを無視する。
全力で走り横島は玄関まで到着した。周囲に危険がない事を確認した後、狙撃銃を拾い上げる。
ざっと銃全体を見渡すとすぐにそれに気付いた。銃身にセロテープで何かが張り付けられている。
それはノートのページを切り取ったような折りたたまれた紙片だった。紙が破れないように慎重にテープを剥がし押し広げる。
そこには数行の文章が書かれていた。


『ゲームスタート。制限時間は十分』


たったそれだけが書かれている。
横島はその紙片を力任せに握りしめた。


(あの野郎っ!!)


警告などではなかったのだ。
あれは十分以内に真名を助けなければ彼女を殺すという脅迫だった。


(くっそ!どうする!?)


これで応援を待つという選択肢はなくなった。
今すぐにビル内に侵入し真名を助けなければならない。
だがわざわざこんな事をしでかすくらいだ。内部には確実に罠が待っているはずだった。


(それでも行かにゃならんわな。ちっきしょう。今朝まではあんな平和だったってのに何でこんな事に)


世の無常を噛みしめつつも無理やり気を取り直す。
横島は先程まで隠れていた場所に急いで戻っていった。一人で突入するのは仕方ないにしても保険はかけておきたい。
横島が近づくと葉加瀬が我慢出来なくなったのか藪から飛び出してきた。


「よ、横島さん。どうしたんですか!?いったい何が!?」


「すまんハカセちゃん。時間がないんだ。俺は今からあそこに行って超ちゃんと真名ちゃんを助け出す」


「助けるって・・・。で、でもさっきは応援を待つって」


「そのつもりだったんだけどな。そうも言ってられなくなった。だからハカセちゃんに頼みがある」


「頼み?」


「もうすぐ俺の仲間がここに来ると思う。そしたら俺があそこに入ったって伝えてほしい」


背後のビルを指さし横島はそう言った。


「ただ、突入するのは俺があのビルに入って十分経ってからにしてほしい。それまでは絶対にビルに入るなって」


「ど、どうしてそんな事を?」


「わるい。悠長に説明してる時間がないんだ。じゃあよろしく頼む!」


半ば一方的に会話を中断し、横島は再びビルへと接近した。
全力で駆けながら考えをめぐらす。


(正面からの突入は避けるべきだよな。ってことは裏口から入るか?)


それも危うい気がする。普通に考えればどちらにも罠が仕掛けられている可能性が高い。
相手の裏をかく必要がある。横島はビルの正面を迂回し壁面に沿って走り出した。そしてすぐに目当ての物を見つける。
屋上付近まで雨樋がまっすぐに伸びていた。ビルに設置してあるような雨樋は排水機能を高めるため大型で頑丈な造りのものが多い。
足場として十分に使う事ができる。横島は排水管に飛びつき二階の窓目掛けてスルスルと登って行った。
窓枠から多少離れた位置で止まると文珠を取り出し使用する。

『静』

瞬時に文珠が発動し周囲一帯から音が消えうせた。
耳鳴りがしそうなほどの静寂が辺りを包み、その事を確認した横島は二階の窓目掛けて思い切り蹴りを入れた。
ガシャンとガラスが割れる音は鳴らない。文珠の効果範囲にいる限りその心配はなかった。
細かな破片を踏まないように気を付けながら窓を通って二階に侵入する。
話に聞いた通り二階部分は倉庫になっているようだった。雑多な荷物がそこかしこに置かれている
前の管理会社は備品の類までそのまま超に売却したようで、パイプ椅子やら折りたたみ式の業務机などが奇麗に並べられていた。
中身までは調べる気にならないが日用品か事務用品が入っている段ボールも大量に積まれている。
それらのわきを通るようにして横島は廊下に出た。エレベータホールまで近づくとホッと一息つく。
わざわざ二階から侵入したのは罠を避けるためだったが、何とかここまでは無事にたどり着けたようだ。


(ハカセちゃんの情報だと真名ちゃん達は地下にいる可能性が高いって話だったよな。
つっても階段もエレベーターも馬鹿正直に使う訳にはいかんし・・・どうすっか)


暫く考えた後、横島はエレベーターの呼び出しボタンを押した。そしてエレベーターが到着する前にホールを移動し階段へ向かう。
本丸が地下なのだとしたら二階から一階に下りる階段はそこまで警戒されていないはずだ。
そう仮定して階段に足を掛けたその時、ふと自分がまだ『隠』の文珠を使用していないことを思い出した。
あれは一定の実力者には通用しないが、侵入に際して効果的であることも事実なのだ。念のため使っておいた方がいい。
どうやら焦り過ぎて周りが見えていなかったらしい。落ち着けと心の中で呟きつつ『隠』の文珠を使用する。
スウッと自分の姿が消えていくことを確認し、横島は今度こそ慎重に階段を下って行った。
階段を下りた先で一階の様子をうかがう。見た限りでは罠を仕掛けられている様子も人の気配もない。
来客用の受付スペースや職員のオフィスがある一階は視界を遮るような衝立や障害物がそこそこ多かった。
これはいっその事『解析』の文珠を使うべきだろうか・・・。


(・・・いや、あれは確かに便利だけど一回使っちまうと情報の処理に手一杯になって派手な動きができなくなる。
それにもしこの状況で制御に失敗したらシャレにならん)


一階を素通りし素直に地下への階段を下りるという考えが一瞬浮かんだが慌てて頭を振る。
ここはやはり当初の予定通りに行動すべきだろう。なるべく障害物の影に入るようにしながら横島はコソコソ移動を開始した。
受付スペースを通りエレベーターへと向かう。ドキドキと心臓の鼓動がうるさい。
喉の渇きを覚えてペロリと唇をなめてみればひどく塩辛い味がした。
どうやら自分で思っているより緊張しているらしい。数メートルの距離も遥か彼方に感じられる。
時間制限による焦りで駆けだしてしまいたくなるのを何とか自制しながら、横島は一階のエレベーター前まで到着した。
深く呼吸しながら額に浮かんだ汗をぬぐいエレベーターの表示に目をやる。
当たり前のことだが先程二階でボタンを押したのでエレベーターは二階に止まったままだった。
横島は文珠を取り出し『開』と文字を刻んだ。そのままエレベーターの扉に押し当てる。
すると本来は到着してから開くはずの扉がスウッと音も立てずに開いた。エレベーターシャフトが丸見えになる。
目に入ってくるのはむき出しのコンクリートと赤茶色の鉄骨、そして先を見通すのも難しい闇だった。
横島は鉄とオイル、そして若干のカビ臭さが感じられる穴の中に入り、ガイドレールと鉄骨にしがみつきながらゆっくりと地下へ下って行った。
何度か滑落しそうになり、その度にひーこらと心の中で悲鳴を上げながらも、横島はなんとか最下段の地下二階にたどり着いた。
汗で湿り気を帯びている両手をゴシゴシと上着に擦り付け呼吸を整える。
再び『開』の文珠で扉を開き地下二階に侵入する。地下だからという訳ではないだろうが照明が点灯していないので廊下は薄暗い。
若干の息苦しさを感じるのは窓がないからか、単に緊張しているからなのか、どちらにしろ錯覚だろうが。


(よ、よし。何事もやってみりゃ何とかなるもんだな。あとはこっから地下一階に上って真名ちゃん達を探すだけだ)


そして四人目の少年を捕まえる。戦いになるならその時はその時だ。こればかりは出たとこ勝負を挑むしかない。
さすがに地下から侵入されるのは想定していないはずだと無理にでも楽観する。うまくいけば奇襲を仕掛けられるかもしれない。
そんな事を考えつつ廊下を進む。情報によれば地下二階は大型の発電機があり、それ以外は空室が一つあるだけらしい。
途中でその部屋の様子を見てみるも無人どころか荷物一つなかった。完全な空き部屋だ。
少しだけ真名たちがいる事を期待していたのだがどうやら無駄だったようだ。溜息を付いておとなしく階段へ向かう。
ここからが本番だった。地下一階が今通ってきた地下二階と同じ構造なら、部屋数自体はそれほど多くない。
事前に構造を把握できたことは有利に働くだろうが、人質がどこにいるかまでは分からなかった。
研究室か・・・休憩室か・・・。どのみち通り道から順番に調べていくしかないだろう。覚悟を決めて階段を上る。
『隠』の文珠で足音が立たないことが有り難かった。いちいち余計な気を遣わずに済む。
階段を登り切り地下一階にたどり着く。素早く周囲を見渡したがやはり誰もいない。
地下二階とは違い、明かりがついている廊下は見通しがいいがその分発見されるリスクも高まる。
透明化している今の自分には関係ないかもしれないが・・・。


(とはいえ、あのガキが美神さんクラスの勘の持ち主なら意味ねぇだろうしな。慎重に行こう)


『隠』の文珠で透明化しているため正確な時間を確認しようがないが、体感的に制限時間の残りは三分ほどだろうか
警戒しながら調べるならほとんど余裕はない。ごくりと喉を鳴らしながら横島は廊下を進んだ。
元々それほど距離があるわけでもないので早速一つ目の部屋にたどり着く。
ご丁寧に女の子らしい文字で休憩室と書かれたプレートが扉の前にかかっていた。
一応聞き耳を立ててみたがかすかに聞こえてくる空調の音以外は何も聞こえてこなかった。
結局中の様子を確認するなら扉を開けなくてはならない。次の瞬間攻撃を受ける可能性も大いにあるが。


(んなリスク抱える必要ねぇよな。おとなしく文珠使っとこう)


限りがあるので乱発は避けたいが奇襲を受けるよりはましだ。横島は『覗』と文字を刻み文珠を使用した。
ぼんやりと部屋の中の様子が視界に映し出される。テーブルにソファー、二段ベッドとテレビにパソコン。
後は何やら工具の類や救急箱、裁縫道具にアイロンとミシンまである。
テーブルの上に置かれた雑誌類は横島の目から見てもよく分からない科学系の論文か料理の教本か何かだった。
いずれにしてもこの部屋には誰もいない事は明らかだった。つまり真名たちは研究室にいる。

休憩室と同様に研究室と書かれたプレートが掛かっている部屋はすぐに見つかった。扉の前まで行き目を凝らす。
『覗』の文珠の効果で異なる景色がダブって見えるような視界は些か気持ちが悪かったが、我慢して中の様子をうかがう。
一目見た部屋の惨状はなかなかにひどいものだった。
大きな力で粉砕されたPC機材やデスクの破片があたりに散乱し、足元を伝う電源ケーブルは無理やり引きちぎられたように中の配線をさらしている。
フロアシートは半ばめくれ上がったまま皴を作っており、倒れたリクライニングチェアがその上にゴロリと転がっている。
まるで台風にでも見舞われたのかと勘違いするような有様だった。
横島が思わず眉をしかめていると、倒れた机に隠れるようにして何か人影のようなものが目に入ってきた。
注意深く見てみればそこには目当ての人物の姿があった。
室内の中央付近に設置された大型の円筒形の装置に龍宮真名が寄りかかっている。
腰まで届く長い黒髪と黒のボディースーツに包まれたしなやかな肢体は見間違えるはずがない。
その姿は力を失った人形のように脱力していた。
ここからでは正確な診断ができないが、僅かに上下する胸の様子から気絶しているだけのようだ。


(見つけた・・・けど、やっぱり超ちゃんはいないな)


ざっと見た限りでは真名以外に人の姿はなかった。
文珠による透視で隠れられそうな場所は全て調べたが超の姿も少年の姿も見当たらない。


(ここにはいない・・・ってことなのか?でもだったらどこにいるんだ?)


今まですべての階を通ってきたがどこにも二人の姿はなかった。
となれば最初からこの建物内にはいなかったのか、あるいは文珠の透視すら効かないような手段で隠れているのか。


(どっちにしろ悩んでる暇はないな。突っ込むしかねぇ)


こちらが人質を確保して安心した直後に襲い掛かってくるというのはあり得そうなことだ。
奇襲を受ける事を前提として防御の手段を用意するしかない。
横島は文珠に『防』と文字を刻み、一呼吸置いてから扉を蹴破った。
素早く内部に侵入し真名の所まで走り寄る。同時に透明化と透視を解除し襲撃に備えた。
真名を庇う様にしながら時を数える。一秒二秒三秒・・・。
たっぷり三十秒数えてから何も起こらないことを確認し、横島は倒れている真名に向き直った。
何かおかしなことをされている様子はない。膝をつき首筋に手を当て脈を確認する。弱々しいが確かな感触があった。


(よかった。とりあえず真名ちゃんは無事だ。でも・・・これからどうする?)


てっきり何らかの襲撃があると思ったのに、この期に及んで敵側には何のリアクションもなかった。
これでは警戒していたこちらがバカみたいではないか・・・。


(まさかとは思うがあんな風に脅すだけ脅して、本人はとっくの昔に逃げちまってた・・・なんてことはなかろうな)


だとしたらあのガキは許してはおけない。草の根分けても探し出し、たっぷりとお仕置きをしなければならない。


(超ちゃんの手掛かりもあいつが持ってるんだとしたら、やっぱりあのガキは捕まえなけりゃな)


逃げられているとしても先程までここにいたことは事実だ。
もうすぐ捜索のエキスパートである人狼と妖狐が到着する。そうなれば少年を見つけるのは時間の問題だろう。
僅かに肩の荷が下りた気がして横島はホッと安堵の息をついた。どっこいせと心中でおっさん臭く呟きながら立ち上がる。
気絶している真名は当面の間は休憩室のベッドで寝かせておけばいいだろう。
そう考えて横島が彼女の肩に手を回そうとしたその瞬間、突然背後に気配を感じた。

反射的に振り返る。そこで横島の意識は一瞬途絶えた。

死んだのか。

そう思えた。

永遠の空白の中に閉じ込められたように意識が真っ白になる。
何も感じない。何も考えられない。何をすればいいのかわからない。
自我の境界が曖昧になるほどその光景は横島にとって衝撃的だった。





彼女がいた。





首元で切りそろえたショートボブの黒髪。前髪から昆虫の触角のようなものがピョコリと飛び出している。
西洋兜と鉢金の中間のようなバイザーが額に装着されていて、その下から黒曜石を思わせる大きな瞳がこちらを覗いていた。
うっすらと微笑む口元。ほんのりと赤みを帯びた頬。細い首筋。
甲殻類を思わせる赤色と白黒のボディースーツは彼女のトレードマークのようなものだ。


目の前に。

触れられるような距離に。

彼女が存在している。


質の悪い冗談だった。白昼夢を見ているようだった。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。

硬直し動けない横島の頬を彼女が撫でた。冷たい手で鼻筋をなぞるようにして額に触れてくる。
次の瞬間、横島の視界は急速に狭まって行った。暗幕が下りるようにすべてが黒く染まっていく。

同時に心の奥底で悔恨の情が湧き上がった。

失敗した。失敗してしまった。

これが・・・これこそが罠だった。

どうして気付かなかったのか。自分だけは絶対に気付かなければならなかったのに・・・。

抵抗するために意志の力を総動員する。だが横島にできたことは僅かな呻き声を上げる事くらいだった。
垂直の壁が迫ってきてドンと体にぶつかった。それが床だと気付く頃にはすべてが手遅れだった。

ぼやけてよく見えない視界の中で女が笑っていた。彼女とは似ても似つかない酷薄な笑みを浮かべて・・・。

おやすみなさい。

子供を寝かしつけるような優しげな声が聞こえてくる。


息が詰まるような感覚と共に横島は意識を手放した。





◇◆◇





「なんであんた達がここにいんのよ」


「貴様に言う必要があるか?」


不機嫌な表情で互いに憎まれ口をたたく。
タマモとシロが現場に到着し、葉加瀬と共にビル内に侵入してからしばらく後、ぞろぞろと招かれざる客が現れた。
この吸血鬼とは京都でも顔を合わせたが、無意味に偉そうなところは相変わらずだ。


「美神さんとの賭けに負けたくせに、なんで私達の後を追って来てんのかって聞いてんの!」


「それは勘違いだな。我々はハカセから連絡を受けてここに来た。たまたまそこにお前達もいたというだけの話だ」


「・・・そんな下手な言い訳が通じると思ってるの?」


「見解の相違というやつだな。私は言い訳しているつもりはない」


しれっとそう言い張るエヴァの顔から視線を外し、タマモは鋭く舌打ちをした。
これ以上何を言っても無駄だろう。関わるだけこちらが損をする。
美神の命令で横島の応援に来たのはいいが現地に到着してみれば当の本人はどこにもいなかった。
人質を救出するためにビル内に一人で突入し、結果として横島は犯人と共に姿を消していた。
残されたのは人質になっていた龍宮真名という少女だけだ。それもいまだに意識を取り戻すことなくビル内の休憩室で眠りについている。


(あのバカ。ミイラ取りがミイラになってんじゃないわよ)


ともにここに来ているシロは横島がいなくなったと知って、何か手掛かりを探そうと躍起になっている。
だがいまだに何の手掛かりも見つけられていなかった。人狼と妖狐の嗅覚ですらなにも感知できない。
横島の侵入経路を辿ってみたがこの部屋を最後に突然匂いが途切れた。
室内に入った形跡が残っていてそれでも部屋にはいない以上、外に出ているのは間違いないがその気配がない。
明らかに不自然だった。まるで煙のように消えてしまったようだ。


(煙のように・・・か。案外当たりかもね。テレポートでも使って逃げた?)


咄嗟の思い付きだがありえない話ではない。文珠を逆に利用された可能性もある。
だが逃走手段はそれで説明できるとしてもそれとは別に気になることもあった。
この部屋で感知できた人物の匂いは葉加瀬を除いて三人。
一人は今も休憩室のベッドで眠りについている龍宮真名。二人目は横島。そして三人目が横島と同様姿が見えない超とかいう少女らしき匂いだけ。
つまりこの部屋には犯人と思わしき匂いが全くしない。


(仮にテレポートで横島を連れ去ったとしてもこの部屋にいたことは確実のはず。なのに匂いがどこにも残ってない。
妖狐と人狼の嗅覚をすり抜けるなんて普通はできないわ。・・・四人目ってやついったい何者なの)


こんな事は初めてだった。正体を探るための糸口すらない。この調子では霊体探査を行っても無駄だろう。
重苦しい圧迫感を感じてタマモは思わず胸に手を当てた。何かとてつもなくいやな予感がする。
動物の本能が危険を感じているのか、もしくは霊感が働いているのか。気のせいであってくれるのが一番いいが。
深呼吸し心を落ち着かせる。とにかくこれ以上ここにいても得るものは何もないだろう。
タマモは床に這いつくばりながら横島の匂いを探しているシロに声を掛けた。


「シロもう行くわよ。これ以上は意味がないわ」


「行きたければ一人で行け。拙者はここに残って先生を探すでござる」


かたくなにそう言い張るシロにタマモは溜息を付いた。
もう何度も説得を続けているが全く聞き耳を持っていない。
横島に対する忠犬っぷりはよく知っていたはずだがここまでくると半ば病気のようなものだ。


「あのねぇ。私だって別に横島を見捨てようなんて思ってないわよ。私は自分の力と・・・不本意ながらあんたの力も信じてる。
私たち二人が散々手掛かりを探したのにそれでも見つからないってことは、ここにはもう手掛かりなんて何一つないってことよ。
だったら一旦美神さんの所に戻って対策を考えたほうがよっぽど横島を見つけられる可能性が高くなるでしょ。それともあんたは自分の力を信じられないわけ?」


「それは・・・」


シロは悔し気に俯きながら歯を食いしばっていた。言い返す言葉が見つからないのかジッと押し黙る。
しばらくそうやって何かに耐えている様子のシロだったが、やがて握りしめていた拳の力を抜いた。しゅんと項垂れたまま小さく頷く。


「・・・分かったでござる」


「そ。んじゃ帰るわよ」


シロの沈黙に辛抱強く付き合っていたタマモが何でもない事のようにそう言った。
シロはその言葉にもう一度頷いてからポツリと呟いた。


「拙者もお前の力を信じてるでござる」


「・・・・・・」


タマモは何も言わずに踵を返した。そのまま出口へ向かって歩いていく。
すると背後からエヴァンジェリンがこちらを制止してきた。


「待て」


「何よ?まだなんかあるっての?」


今はこいつの相手をする気分じゃない。そう考えつつタマモはうんざりしながら振り返った。


「これから私たちは龍宮真名を連れて私の家に移動する。あいつが目を覚ましたら連絡を入れてやるから話を聞きに来い。
ちなみに家の場所は綾瀬夕映が知っている」


意外なことを言われてタマモはきょとんとエヴァを見返した。そしてすぐに疑いの眼を向ける。
確かに意識を失っていたとはいえ、彼女は四人目の情報を持っているかもしれないがそれを素直にこちらに渡そうとするとは思っていなかったからだ。


「どんな裏があるわけ?」


「こちらの情報を渡す代わりにお前らの情報をよこせ・・・か?疑いたくなる気持ちはわかるがそういう事じゃない。
これはぼーや達が言い出した事さ。横島には散々世話になっていたからなあいつらは。その横島がいなくなったと知って少しでも協力したいという事らしい。
まぁその言葉を信用するかどうかはお前ら次第だが」


「・・・あの子たちが?」


今ネギたちは休憩室で真名のそばについている。真名に目立った外傷はなかったが何故か極度に衰弱していた。
タマモの見立てではその疲労は肉体的なものではなく多分に精神的な・・・もっと言えば魂に対して何らかの危害が加えられたように見えた。
霊的に未成熟なこちらの世界の住人は霊力による攻撃に対してほとんど耐性がない。
ましてや攻撃を仕掛けてきたのがタマモたちの世界の上級魔族クラスなら、肉体ごと魂を消滅させられていたとしてもおかしくなかった。
そういった意味で彼女は運がよかったと言える。おそらく四人目は最初から彼女を殺すつもりがなかったのだろう。
しばらくすれば問題なく目を覚ますはずだ。タマモがそう言ってやるとネギたちは心の底から安堵していたようだった。


「確かにあの子たちの言葉なら信用できるかもね。あんたと違って性根はまっすぐ見たいだし」


「ふん。奴らは単に甘いだけだ」


そう言ってエヴァはタマモたちを追い越し部屋を出て行った。
残された二人は顔を合わせた後、互いに頷き合った。とにもかくにも今は美神との合流を急ぐべきだ。
横島の事もそうだが異世界へと繋がる扉の事も気になる。タマモとシロは競うようにしてアパートへの家路を急いだ。





◇◆◇





例の扉は紛失したわけでもなく故障したわけでもなかった。だが、どうも空間同士の接続がうまくいかないらしく現在は使用ができない状態だった。
文珠の能力でその問題も強引に解決できるかもしれなかったが、肝心の横島はここにいない。

アパートに帰ってきたタマモから横島が行方不明だという話を聞いた時、美神は思わず爪を噛みそうになった。
あまりにタイミングが悪すぎる。様々な問題が悪意を持ってこちらに襲い掛かってきていると錯覚しそうなほどだ。

それから数時間。杳として行方が分からない横島の捜索に限界を感じ始めた頃、エヴァから真名の意識が戻ったと報告があった。
停滞していた状況を打ち破るための僅かな希望にかけて美神たちはエヴァの家に移動していた。


「あんた意外に辺鄙なとこに住んでんのね」


「確かにここは中心地から離れた森の中にあるが、そこまで言うほどの事か?」


玄関で出迎えてくれたエヴァの言葉を聞きながら、美神はそうねと軽く相槌を打った。
道中の道が荒れ果てることなく整備されている時点で辺鄙は言い過ぎたかもしれない。
そっけない態度に毒気を抜かれた様子でエヴァは無言のまま家の中に入って行った。
代わりに扉から出てきたアンドロイド(たしか報告書には茶々丸と書いてあった)が部屋へと招き入れてくれる。


「ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ」


無表情に頭を下げてくるその姿に知人のアンドロイドを重ね合わせながら美神はエヴァの家に入った。
外観は映画にでも出てきそうなログハウスだったが、内装はそこそこ凝っているようだ。
フローリングに敷かれたカーペットやら窓にかかっているフリル付きのカーテン。
ぬいぐるみなんかが飾られているのを見るに若干少女趣味が強く感じられるがセンスは悪くない。
美神は勧められるままヒノキの丸太ベンチに腰を下ろした。あらかじめ用意していたのか丸太テーブルの上に茶々丸が紅茶を運んできてくれる。
香りを楽しんだ後口をつけてみると味もなかなか美味しい。おキヌが普段入れてくれる紅茶に比べても何ら遜色ないほどだ。


「で、真名って子の意識が戻ったって話だったけど、どこにいるわけ?」


「二階の寝室だ。もっとも話を聞くのは無理だがな。目覚めたとは言っても短い間だけだ。またすぐに眠ってしまった。
まったく・・・傷つけもせずにどうやって奴をあそこまで疲弊させたのやら」


紅茶を飲みながら上階を指さしエヴァは嘆息した。
美神は隣にいるおキヌに様子を見てくるように指示した。彼女は簡単な心霊治療ができる。
どこまでできるかわからないが普通の医者に見せるよりも効果的だろう。

おキヌが席を立つとエヴァの指示で茶々丸が案内をしていった。二人がいなくなった後、改めて簡単な自己紹介が行われる。
悠長なと思わなくもないが焦ったところでどうにもならない。
テーブルを挟むようにしてこちら側に座っているのは、美神、シロ、タマモ、立場上は向こうに座っていてもおかしくない夕映ともう一人。


「あ、相坂さよです。その、ゆ、幽霊やってます」


緊張した面持ちでさよがペコリと挨拶した。
さよはアパートから美神たちに憑いてきていた。どうも横島の事が心配でいてもたってもいられなかったようだ。
本来地縛霊であるさよはあまり広範囲を自由に活動できないのだが、なぜか最近になって行動可能な範囲が増えてきたらしい。
今では麻帆良ならばどこに行っても問題はないとのことだった。


「さよちゃん・・て朝倉が言ってたクラスメイトの?」


明日菜がふよふよと空中に漂っているさよを指さした。


「アスナさん。知らなかったんですか?」


ネギがそう言って小首をかしげる。


「う、うん。話だけは聞いてたけど会ったのは初めて。っていうかネギあんた知り合いなの?」


「はい。とはいっても僕にも姿が見えたり見えなかったりだったんですが。さよさん美神さん達と一緒にいたんですか?」


「は、はい。朝倉さんが司会の仕事で忙しくなっちゃって、横島さんを探してたら美神さんたちと会って・・・」


申し訳なさそうにこちらを見てくるさよに美神は苦笑を零した。
危険だから付いて来るなとは言ったのだが意外なところで強情さを見せてきた。気弱な態度ではあったが引くわけにはいかないという強い意志が感じられた。
本人には言ってないが心情的に幽霊の女の子の頼みを断り辛い事情がこちらにはあった。おキヌの場合は特にそうだ。


「まぁ、あのアパートにさよちゃん一人残していく方が危ないかもしれないしね。それより次はあんたたちの番よ」


美神がそう促すとネギが姿勢を正しながら名前と年齢、職業と趣味等を話していった。そこまでは聞いていないのだが緊張しているのかもしれない。
向こう側の顔ぶれは喫茶店の前で会った時とあまり変わっていなかった。
おキヌに付き添っている茶々丸を除けば、横島に電話してきた葉加瀬という少女と二階で治療を受けている龍宮という少女が新顔だろうか。
実は報告書で事前に名前と顔を知っていたため特に紹介の必要はなかったのだが、そんな事はおくびにも出さず美神は話を聞いていた。
そうして全員の自己紹介が終わり、真名の治療を終えたおキヌと茶々丸が上階から戻ってきた頃、
突然部屋の隅に置かれた特大の登山用バッグ(普段の除霊仕事で横島が担いでいるものだ)から緑色の光が溢れ出した。
サイドポケットの内側に何かが入っているらしい。ハッとして美神はバッグに飛びついた。チャックを開けて中に入っているものを取り出す。
掌にあったのは文珠だった。文字は刻まれておらずおそらく横島がストックしてあったものだろう。
淡い光が点滅を繰り返し、まるで何かを伝えたがっているように見える。美神は文珠に向かって念を込めた。具体的な効果ではなく製作者である横島の事を思って。
すると次第に文珠の光が強まり中央に文字が刻まれていった。『達』の文字だ。
美神が一瞬どういう意味なのかと疑問を浮かべると、文珠は空中に何かの映像を投影した。暗い部屋に人影が二つ映っている。
照明がないためぼんやりと輪郭が浮かび上がっているだけだが、一人は子供ほどの大きさでもう一人は床に座り込んでいるようだった。
人影の一人が口を開く。


「君にとっても興味深い話題を色々用意したんだ。ゆっくり話そう」


「興味だ?・・・ひょっとして麻帆良大女子水泳部のセキュリティを突破する方法が分かったんか!?
あの更衣室のセキュリティは俺の力をもってしてもどうすることもできなかったというのに!!」


バカの声がした。

とりあえずは無事のようだ。


美神は首の辺りにドッとした疲れを覚えて深い深い溜息を付いた。
どうやら横島は敵に拘束されながら文珠でこちらに情報を送ろうとしているらしい。先程の文珠の文字は『伝』『達』だったのだろう。
室内に何とも言い難い空気が流れた。当の本人があまりにいつも通りなので喜び半分呆れ半分といったところか。
それでも無事を確認できたことには変わりないので、各々が安堵した様子で会話し始めたのを美神は鋭く制止した。唇の先に人差し指を当てて静寂を促す。
横島が無事といってもそれがいつまで続くかわからないのだ。
会話の内容から横島の居場所を特定することができたなら救出に行くことも可能だろう。そう思い美神が耳を傾けていると横島ではない少年の声が映像から聞こえてきた。


「そっち方面の期待には応えられないけど、たぶん面白い話だと思う」


「何だよ面白い話って」


「そうだねぇ例えば・・・」


少年は横島だけでなくこの部屋にいる全員に語り掛けるように言葉を続けた。





「なんでこの世界が生まれたのか・・・とかかな」








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