<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[40286] 中世編 ろくでもない三人
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:95ce0ae2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/10/09 20:47
帝都の中央広場は、昼時となると買い物客に労働者、談笑する主婦といった多種多様な人々であふれかえる。
中央にある作りかけの空中庭園があってもなおそれだけの人が集まれる、途方もない空間だ。
更に、春先の陽気な空気に人はどうしても浮かれるものなので、大道芸人まで現れる事によりこの時期の広場は刺激に溢れ、市場の熱気と合わさって、まさに帝国の全てがここに集まって来ると言っても過言ではない。
そんな中、私は広場の隅の屋台で出しているカニ汁を小銅貨一枚で購入し、啜っていた。
帝都から南、鉄鉱石が多く産出する通称鉄島。その近辺に生息するこの甲殻類を用いた汁ものは絶品である。単純な塩味もカニの出汁と合わさることで、奥深い味になるのだ。
これほどの料理が小銅貨一枚で購入できるとは、実にすばらしい。

現在帝国内に流通している貨幣は小銅貨、中銅貨、大銅貨、そして神聖銅貨の四種類である。
小銅貨は10枚で中銅貨、中銅貨は10枚で大銅貨、大銅貨は10枚で神聖銅貨と交換できる。
私はいままで料理を作ってこなかったので、もっぱら屋台で腹を満たしているが、一日の食費が大体中銅貨一枚以内で済んでいる。
破壊してしまった馬車の処分費用を手持ちの資金から崩さなければならなかった私には、この低物価は非常にありがたかった。
これで貴族用の物件に住んでいたら、私はそうそうに破産していただろう。

あの日、織野氏と出会ってから既に一年が経過していた。
この期間に私は――――大きく道を踏み外してしまっていた。
その最も大きな原因となるのが、最初の補講義であった。
内容は初代皇帝に関するもので、神学を学ぶ上では避けては通れない重要人物だ。
初代皇帝はこの神聖オリーシュ帝国の基礎を築いたとされる人物で、その数多の業績によって聖天大帝と呼ばれるほどの偉人である。
長い帝国の歴史をひも解いてみても、大帝と呼ばれるのは唯一人、聖天大帝のみであるといえば、その偉大さは良く分かることだろう。
現在は伝聞で伝わっている話と文献を頼りにその陵墓を探しているが、帝都周辺の森の中にあると言う事しか分かっておらず、探査は遅々として進んでいない。

だからであろうか、最近は神学研究者の間で「聖天大帝は存在しない」という学説が俄かに活気付いているのだ。
なんせその在位期間を記録から計算すると、なんと百年以上なのだ。そう、在位で百年であると言う事は、もはや長寿という話では済まされない。
だからこそ、聖天大帝が成した数々の偉業は、数代の王の集大成として、一人の架空の皇帝に集約されたと言うのが、論の大枠である。
そもそも初代皇帝が残したとされる「神々の孫で王の子」という発言が問題なのだ。これは天空神の血を引いているとする初代皇帝の権威を保証しているのだが、この「王の子」の王に当たる人物の名前が全く伝わっていないと言うのが、「数代の王の集大成説」の最大の根拠となっている。
こうして現在大学内では、聖天大帝実在派と非実在派の戦いが火花を散らしている。
最初は教授達によるささやかな学術論争だったが、内容が帝国の根幹に関わる事だけに勝った方が今後の主流派、負けた方は冷や飯を食わされると容易に予想できることから、ついには学者生命をかけた壮絶な戦いに発展。現在は大学に通う学生を巻き込み、拡大する一方だ。
だが本来の主役であるはずの教授達を差し置いて、むしろ一番熱心に運動しているのは、学生の方だった。
なんせ「主流派に属した学生は学位を約束される」という噂が立ってしまい、いよいよ卒業が絶望的で人生崖っぷちの学生たちが、起死回生の手として非合法スレスレの活動をするようになったのだ。

大学に入学して最初の補講義では両派入り乱れての乱闘となり、逃げ遅れた私は両陣営から目の敵にされ、難を逃れるために川に飛び込み海まで流される羽目になってしまった。
後に分かった事だが、隣室の織野氏は中立というかどちらとも距離を置いていて我関せずと闘争を傍観していたので、そんな彼と行動を共にしている私も同類と見なされ、呑気に静観していた私に襲いかかってきたのだ。
その裏にはあの学生会長の影がちらほら見える。そうでなくても彼自身が現在、派閥抗争に躍起になっているので、要注意である。

とにもかくにも、織野氏の論文作成の為の実験に付き合う事にかまけていた私は、結局どちらの派閥にも所属出来ず、完全に孤立していた。










「道行く諸君! そう君だ。しばし我が言葉に耳を傾けていただきたい!!」

何処からか、広場の隅から隅まで響く様な明朗な声が辺りに響く。始まったか、と私は腰を上げ、いつものように彼の実験に協力する為に広場中央へと足を向けた。
懐で小銅貨を弄びつつ歩いて行くと、すぐに人混みが見えて来た。
さらに人々が頭上を見上げているので私もそれにならって見上げれば、空中庭園の工事の為に設置されていた足場の上で織野氏を発見する。
氏は両手に小さな袋を持ち、「なんだなんだ」と興味を引かれた聴取を前にして語り始めた。

「今この場に、二つの袋がある。一つは一杯の中銅貨が詰まっており、もう一つは木片が入っている。今から私はこの両方を落とす! そこで、どちらが先に地面に落ちるか諸君に予想してもらいたい!」

ざわめく聴衆を前にして、私はむしろ落ち着き払った態度で叫ぶ。
もはや何度目かになるか分からないほど叫んでいるので、手慣れたものだ。

「何を馬鹿な。重いほうが早く落ちるにきまっている!!」

ここで、少し見下すような感じで言うのが重要だったりする。
すると、私の演技に触発された者たちが「そうだ」「何を当たり前のことを」と私の話に乗ってきた。
食い付きがよい。

「よろしい。ならば銅貨入りの袋の方が早く地面に落ちると言う者は、そこの木箱の中に小銅貨を一枚入れたまえ。もしも諸君らの予想が正しかったのならば、この袋の中身を全てやろう」

氏がそう言うと、どこからか一人の腹が肥えた男が一抱えの木箱を持って現れた。すると私は素早く懐から小銅貨を取り出し、その木箱の中に音を立てながら放り込んだ。
それにつられるように、その場にいる人間の多くが面白半分で木箱に銅貨を放り込み、木箱はたちまち半分が銅貨で埋まった。だがそれでも、織野氏の持っている袋の中身の方がよほど価値がある。
民衆はしめしめという顔で織野氏の挙動を見守り、落下を始めた二つの袋の挙動に注目し、その結果、顔を驚愕の色に染めた。

織野氏は公平を演出する為に、ワザと銅貨入りの袋を木片入りのものより先に落とした。
当然銅貨入りのモノの方が先行するが、徐々に木片入りが追い抜き、最終的に誰の目にも明らかな程の差を付けて、木片入りが地面に先着し、辺りに木の欠片をばら撒いた。
それというのも、銅貨入りの袋には布で造られた傘のようなものがあらかじめ付けられており、それが空中で展開し、そこから急激に落下速度が低下したからこその結果であった。
明らかに細工を施したインチキである。
だが、この結果にざわめく民衆に対して織野氏は
「この傘も含めて、銅貨入りの袋の方が木片入りの袋寄りも格段に重い。諸君らは重い方が先に地面に就くと予想し、結果は外れた以上、賭けはコチラの勝ちである」という内容の言葉を弁舌さわやかに語り、ついには納得させてしまった。
そして周囲がそれもそうかというような雰囲気になった所で、織野氏と太った男は落ちていた銅貨入りの袋を回収した後に颯爽と立ち去り、私も未だに「こんなこともあるんだなぁ」と感心している聴衆の波を描き分けてさりげなく消えた。







「さて、これで暫く食うに困る事はないだろう。さあ、飲むといい。奢りだ」

織野氏は太った男と、2人に合流した私に葡萄酒の杯を進めつつ、そう感謝の意を示してきた。
帝都より南に位置する船着き場には、帝国各地からの豊富な品々が運び込まれる。
葡萄酒もその内の一つで、北東に位置する工業都市チートがその産地として有名である。
今一度帝国にある主な都市を紹介すると、農業都市テンプレ、工業都市チート、そして唯一の内陸都市であるセッキョーである。
テンプレは私の故郷でもあり、その大部分が平野で、その間をまるで網の目のように川が流れている。綿花と麦によって成り立つ都市で、住民の大半が農家か兼業農家である。
チートはその逆、川はあるもののその土地の多くが丘陵地帯と森林で、多くの工房と製材所が軒を連ねている。
しかしその郊外は土の質的な問題なのか基本的に肥沃とはとても言いにくい土壌だ。しかし、近年では葡萄酒用の葡萄の栽培に適していることが判明し、酒蔵がいくらか立つようになった。だが、あくまで工業として発展してきたので、その割合は低いと言わざるをえない。

それに対して唯一の内陸にある都市セッキョーは、主産業が牧畜で、主に馬に羊、牛、そして獣の毛皮で有名な都市だ。セッキョーは帝国の中でも北に離れた場所、かつ内陸にある為に流通面では弱く、一度テンプレかチートを経由して陸路で行かなければならない。かなり交通は制限されるのだ。かつては北の大山脈を突破して道路を作るという計画もあったのだが、それもとん挫してしまい、セッキョーはやや陸の孤島と化している感が否めない。
だが、それゆえにその産出物である馬、羊、牛、毛皮は高値で取引され、とくに毛皮は高級品として貴婦人に愛されている。
これら三つの都市は聖天大帝時代にはその雛型が出来ていたと言うかなりの歴史と伝統を誇る都市だ。都市の名も、今では意味が失伝してしまったものの、古代語に由来するとか。

セッキョーより北はぐっと降水量が減るために農業にも適さず、更に地下資源にも恵まれていないために無人の辺境として扱われている。時たま犯罪者やならず共が徒党を組んで不法占拠することがあるが、そこに近衛の剣士、弓兵、槍兵、騎士で構成された四部隊が合同で討伐することが数十年に一度の規模で発生している。
現在も海賊や山賊行為が北を中心に多発しているので、近々討伐隊が編成されるだろう。

周囲を海に囲まれ、島というよりは大きく、大陸というには小さい土地。それが神聖オリーシュ帝国の領土だ。
ここより西にはここほどではないがそれなりの大きさを誇る島国があり、現在は交易を行っている。そこから届けられる金や銀、絹はチートにて装飾品に加工された後に市場へと流れ、コメと呼ばれる農作物は現在実用化を目指してテンプレにて試験運用されている。
更に西にある国からも、島国を経由して漢字とよばれる文字が伝わってきて、その利便性から急速に広まっている。
船は、我が国に異国の宝と文化を運んで来てくれるのだ。
ただ、どうにもその島国では現在大規模な内乱が起こっているらしく、輸入量が減っていると、港に努める労働者達がぼやいていた。
まあ私にはあまり関係のない話だが、若干のピリピリとした雰囲気が港に広がりつつあるのが、何となく気になった。

さて、ここらで私が先ほどまで行っていた茶番に関する説明をしておこう。
繰り返しになるが、あれはインチキである。
ただ言い訳をするならば、あの寸劇は重い物の方が軽いものよりも先に地面に着くと言う常識――――実は全くのデタラメ――を分かりやすい形で粉砕する事を目的とした実験なのだ。織野氏は子供の時にこの事実に気付き、研究をコツコツ続けて来たという。ひたすらに実験とそれを観察する目を養い続けるうちに、彼は大学へと入学し、その研究をまとめることを志したと言う。
だがその青雲の志も、今では金に困るとあのような形で金を巻き上げるようになっていったという。
かく言う私も氏と組んで、手を変え品を変え、時には同じ大学に通う貴族連中に対して際どい勝負事を挑んでは生活費を稼いでいた。

「確かに聞こえは悪いが、論文を作るにも公開口頭試問を突破するにも、ある程度は「仕込み」が必要なのだ。それに、あの場にいた民衆はみな納得していただろう? キチンとその辺りも考えて、見物料として許される程度の額を設定したのだ」

ペテンに掛けられても笑って許される金額を調整したと私に語る氏の顔は、大分贔屓目に見ても詐欺師のそれだった。
だが、人とは変わるものである。
大学入学当初の私は氏の実験において周囲を誘導する道化の役をふり当てられた事、そしてこのような詐欺まがいの行為にひどく憤慨した。
しかし金に困っていたのは私も同様だったので、しぶしぶ付き合ううち、今では周囲を扇動する快感に目覚め、こうして巻きあげた金で飲む葡萄酒の味を覚えてしまった。
まるっきり小悪党である。
学問を修める為には金も必要なのだ、と言い訳をしながらやけ酒をしていたころが今ではひどく懐かしい。



「小銅貨が98枚に、おお! 中銅貨が3枚も混じっていたでござる!」

隣で木箱に入っていた銅貨を数えてほくそ笑む肥満男。こいつは先ほどまで木箱を抱えて氏のペテンの片棒を私と一緒に担いでいた、いわば相棒とも言うべき存在だ。ロリババア荘の一階に住み、私と同じく大学に通う学生である。

貴族に私生児、そして平民とまるで社会の縮図のように多種多様な人間が在籍するのが、わが帝立大学である。学費も安く、空いた時間に労働し、贅沢を慎めば通えると言う非常に開かれた学び舎であるといえよう。
もちろん、金があるのに越したことはないが、金はなくとも集団生活にさえ適応できるならば、篤志家が立てた格安の寄宿舎を使用するという手も存在する。
もっとも、そう言った所はその場の規則を守れないものを容赦なく叩き出したりする。
事実、この男は三日で入学当初に入っていた寄宿舎を叩き出されている。
不道徳的な絵巻物をひたすら量産していたというのが理由だ。

「織野氏、先輩氏。やったでござるな!」

三つの袋に銅貨を等分しながら、肥満男は言った。
こいつは追い出されたのち、私の入居一週間後に入ってきた事と二つ年下の為に私を先輩氏と敬意らしきものを込めながら呼ぶ。
最初は私も悪くないなと思って受け入れたが、それは私の完全な失敗だった。
この男はなんでも織野氏の古くからの知人であり、自然と私達と行動を共にすることが多くなった。そして今では立派にろくでもない人生に首までつかっている。彼は自分の事を多く語らないが、言葉の端々から発せられる独特の訛り具合から、帝都の下町出身であることは簡単に想像できた。
唯一の特技は絵がやたらうまい事。だが、周囲に自分の事を画伯と呼ばせ、美しい少女がやたらと登場する絵ばかり描くのでその唯一の美点も相殺されている。もっとも、私はこいつを先生と呼ぶのが腹立たしいので、皮肉と親愛(?)をこめて「フトッチョ先生」と呼んでいる。

「これで新作の執筆の為の紙が買えるでござる。いや―今回は大作になる予感がびしびしと」
「また、例の漫画とかいうものの話か」
「その通りでござる。今回は歴史に残るかもしれないですぞ。完成の際にはぜひ感想を」

漫画とはこの男が考えた全く新しい絵巻物の事である。一枚の紙を線で分割し、それぞれに人物と風景、そして吹きだしと呼ばれる台詞を書き込む場所を設ける。こうすることで、物語を絵と文で楽しむ事が出来るという一種の娯楽作品だ。
手法自体には私も舌を巻くが、その内容が大変に碌でもない。始めて私が見たこの男の作品は「自称普通の平民男が妹や友人、高貴な身分の令嬢その他有象無象の女性達から無条件に行為を寄せられ、なし崩し的に全員と良い仲になる」という、童貞をこじらせたかのような内容だった。「ふっ」とか「やれやれ」とか、いちいち自分はそんな気がないけど、勝手に女共が寄ってきて鬱陶しいわー、みたいな雰囲気を主人公の男が出すたびに、私の歯はギリギリと音を鳴らした。
その自己愛を鍋で煮詰めて凝縮したおぞましい何かは、確実に私の中の尊い何かを穢したことは言うまでもない。

「お前の作品は読まんといつも言っているだろう」
「まあまあ、拙者も反省したのでござるよ先輩氏。今回は原作つきのものに手を加えると言う手法をとったでござる」
「原作付き?」
「そう。今はかの聖天大帝が行ったとされる北伐記を題材にした物語を執筆しておりまする」
「嫌な予感しかしないな」
「面白そうではないか。聞かせてくれ」

私は唖然とし、織野氏は面白そうな顔で続きを促す。
北伐記とは、初代皇帝が建国前、北方の大草原を我が物顔で闊歩していた蛮族を討伐する為に行った一連の戦いをまとめた軍記物語である。当然そこにはこの男が好きそうな場面などみじんもなく、登場人物は全員もれなく男である。完全にやつの作風の真逆であるはずの物語を題材にするなど、気でも狂ったのだろうか?

「拙者は常々思っていたのでござる。ほぼすべての帝国民が知っていて、なおかつ現存する太古の物語。これを拙者の手で好き勝手にいじくってしまう事が出来たならば、どのような物語にしようかと。そして漫画の手法に習熟し、機が熟した今こそ決行の時であると!」
「どうする気だ?」

私は恐れながらも尋ねざるを得なかった。
どうせ碌でもないものであるとは分かっていても、怖いもの見たさというものだ。

「まず聖天大帝の正体が可愛い年頃の女の子で、訳あって男装していた事にするでござる」
「……」

そして直ぐに後悔することになるところまで、もはや様式美であろう。

「その後、未来から神々の思惑によってやってきた主人公が、立場ゆえに気丈に振る舞いつつも内心では臆病な聖天大帝さまを守りつつ、大活躍。人目がある所では臣下と君主という立場で在るものの、二人きりの時は想い人に心を寄せる一人の女の子に戻る聖天大帝さま。そして2人の関係は燃え上がり――――とまあこんな感じでござるよ」

そうか、私は気絶しかかったがな。
ただ、今のような時期にそのような作品を発表すれば、命がないとだけは分かった。
しかしこの能天気な「フトッチョ先生」はそのような事は一切考えず、「それでは拙者はお先に失礼」と言い残しロリババア荘へと駆けて行った。
腹の肉を暴れさせつつも無駄に軽快な走り姿を見送る私は、どっと溢れて来た疲れに耐えきれず、思わず突っ伏した。
するとそれが何らかのきっかけだったのか。それまで黙って我らが先生の話を聞いていた織野氏はおもむろに立ちあがる。

「それでは、私は用事があるので失礼」
「……どちらへ?」
「まあ、このあと色々と用事で」

そう言うと私の分の小銅貨を残して、ロリババア荘とは真逆の方角へ歩き去って行った。
大方、待ってもらっていた諸々のツケを払いに行ったのだろうと私は予想した。

唐突に一人になった私は、追加の葡萄酒を頼んで一気に喉に流し込んだ。
なぜ花の帝都でこのような目に合っているのか……
手酌でなみなみと注がれていく葡萄酒を眺めながら、私は過去を振り返る。

大学に入学して一年、思い返せば碌な事をしていない。かつて帝都に乗り込んで来た時の私は、もう少しマシだった筈だ。身を立てるという漠然とした目標であったが、少なくとも野望はあった。だが今はどうだ。自分が行くべき道を見いだせず、他人の手伝いと他人の事情に左右されるばかりの日々。
さりとて、抜け出してどこかに何かに向けて力を向けようと思っても、向けるべき対象が分からないし、見つからない。
私は今まで一緒に飲んでいた2人を思い出す。彼らは碌でもない人間だ。だが、彼らにはやりたい事が明確にあり、それに対して行動を起こしている。それが自分にはなく、羨ましくてたまらないのだ。
自分は一体何を成せばいいのか……
真っ赤な葡萄酒の中を見つめても、その答えは見つからなかった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.032474994659424