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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:6e339e4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/12/16 00:02




「山本。外国が発行している新しい新聞だ、読むか?」
「いや、もう別にいいよ、だいたいわかったし」

この時、ユウとオリ主はガリア北西部はカレーの港にある宿にいた。
ルイ16世が処刑された翌朝、オリ主たちは朝日を待つことなく大使館を退去した。例の馬車を使用出来たことと、既に一度逃亡劇を成し遂げていたオリ主の手腕により(国王夫妻の亡命に手を貸していたことはユウには告げられなかった)大きなトラブルもなかった。
この時点では本国とガリア共和国が戦争状態に突入したわけではなかったが、欧州諸国と共同で革命を封じ込むことが決まっていたので、開戦前に脱出しておく必要があったのだ。
そして脱出より一か月。ユウたちはガリア国内の新聞も、外国発行のものも取り寄せて読んでいた。それによれば、対革命戦争は予想に反して膠着状態にあるらしい。普通に考えればガリア一国で周辺諸国すべてを相手にできるハズなどないのだが、どうにも反革命の欧州王家連合の足並みがそろっていなかったのが原因のようだった。事実として、現在実際に砲火を交えているのは、ブリタニア王国とオストマルク王国のみで、他の国は極限定的派兵か、もしくは準備不足を理由に宣戦布告はしたものの派兵まで行っていなかった。オリーシュ帝国が参戦すれば、一気に情勢は傾くことが予想されたが……

「革命……か」

オリ主は、椅子に座って町行く人々を窓から見下ろしながらつぶやく。今に至っても、革命に対する態度を決めかねていた。国王処刑により革命をぶっ潰してやろうという気持ちは高まったと言えば高まったが、シャルロットをはじめとする仲良くなった大使館近所の住民達を敵に回すことへの忌避感などがブレーキをかける。もしも国王がしっかり逃げられていれば、あるいはこんなに迷うこともなく革命万歳とでも言えたのだろうか。それとも、やっぱり悩むのか。

「……俺もお前も、王様や大使館の近所の人たちとはいい関係だったよな? なのにその裏で、攻め込むために外国と手を組む話をしてたって……どんな気分だよ」
「……いやな気分だ」
「…………悪かったよ。嫌味みたいなこと言って」
「いや、事実だ。構わない」

ユウは大使館を退去した後、自分がガリアに来てから見聞きした事や裏の活動を可能な限り話した。各国の思惑、革命が起きた際には革命を抑え込むために共同して宣戦布告をする密談のこと等。それは国の意向を代表する大使という立場では当然の行いであったが、ユウ個人としてはガリアの住民を裏切るような後味の悪さを感じずにはいられなかった。

「だが、決して悪いことばかりではない。今頃、本国では革命を抑え込むための軍が派遣されている頃だ。圧倒的な戦力を揃えれば、ガリア共和国政府も交渉で決着をつけようとするハズ。そうすれば、穏当に革命を放棄させられて、シャルロットたちもいつも通りの生活ができるさ」

密約では、各国はそれぞれが占領したガリアの都市を管理する権利が与えられるとされているが、首都であるパリだけは例外的に戦闘および占領を禁止していた。
すでにルイ16世は処刑されてしまったが、王太子が生きている限りガリア王家の滅亡は回避可能だ。であるならば、欧州王家連合がこの革命に介入する大義名分であるところの、「ガリア王家の救援」は最低限守らなくてはならない。そのため、未来の王の居城であるパリへの侵攻禁止は未だ生きていることになる。まあ、単なる牽制合戦の結果という面もあるが。

「……そうだ、パリだけは何とか守られるハズだ」

だがそれでも、ユウの心の奥にある不安はぬぐえない。
国王の処刑まで行ってしまったガリア共和国政府。敗北不可避な状況に追い込まれても交渉などと言う穏当な手法で止まれるのか、義勇軍という形で政府と民衆がつながってしまったため民衆が戦争に巻き込まれるリスクが跳ね上がったのではないか、各国がまじめにこの密約を守るつもりがあるのか……そして自分の父はどのように動くのかが不透明である等、不安材料が山ほどあるためだ。だが、希望的観測を信じなくては心の痛みを抑えられなかった。

「……そうだな」
「……」

ユウの心を見透かしたのか否か、オリ主の返事は素っ気ない。
ユウは、オリ主が国王一家の亡命事件に直接手を貸していたこと(隠し事が思いっきり態度に出ていた)を察し、そのあまりにも軽率な行動に烈火のような怒りを抱き、だが直ぐに頭が冷えてしまうという奇妙な体験をした。国王一家に対する同情心もあったが、それ以上に亡命事件後のオリ主の様子があからさまに異常であったからだ。単なる秘め事がバレないように振舞っている以上の異質な様子であった。放っておけば、それこそ日がな一日うんうん唸って悩んでいて、精神の状態を不安視するほどに。


「早く船に乗って帰ろう……帰ったら、休暇を貰って、それで――――」

窓から町を見ているオリ主。その肩に手を置いて話しかけようとするユウだが、その言葉を言い切ることは出来なかった。現在宿泊している宿の一室に、ノック音が響いたからだ。

「……誰だ?」
「失礼します。元帥閣下からのご命令をお届けに」

ユウは扉を開けず、そのまま扉の下に目をやる。すると、封筒がスッと床と扉の隙間から差し込まれた。それを拾って中を改め、書かれていた内容に声を上げて驚いた。

「そんな!!」
「……なんだよ?」

あまりにも大きな声だったので、オリ主は思考に没頭できずにユウの方へ顔を向ける。

「父は……元帥は欧州の国々との間で結んだ密約を反故にするつもりだ。隙を見て、パリを制圧すると……」
「――――!!」 

パリには侵攻しないという密約破り……それを自国がやろうという。
オリ主は、パリに攻め込んで自分に懐いていたシャルロットたちを殺す様をとっさにイメージしてしまい、頭を鈍器で殴られたような衝撃を味わった。目の前が、真っ暗になった。





近衛元帥は、本国から正式な召喚状が届けられるまでに大きな戦果を挙げたいと考えた。

「海軍はジブラルタル海峡を通って他国海軍と協力してガリア海軍を地中海から駆逐! パナマにいる本国兵の五個歩兵連隊を動かし、海軍の援護下で南ガリアに橋頭保を築かせろ。そしてパリへ攻め上げると見せかけ防御を南に偏らせたところを私が指揮する精鋭部隊がブリタニア海峡側からカレー港に上陸し一息に進軍してパリを制圧する!」

元帥は自身の権限で動員可能な最大限の兵力をヨーロッパへと向けさせることにした。アステカ帝国と和平したばかりで最低和平期間に余裕があったこと、および国土の半分を失ったアステカは数十年にわたって国の立て直しに奔走しなければならなくなるだろうという予想があったためだ。
こうして、本当に最低限の防衛力のみを残して多くの戦力がこの戦役に投入されることになった。後世に言う、ガリア革命戦役である。

「閣下。現在カレーの港では、こちら側の大使と駐在員の二名が帰国のための船を求めておいでですが……」
「ああ?! ッチ! しかたない輸送船を……いや、例の志願兵連隊の充足率は確か回復していたな」
「ええ、補充が完了した一個歩兵連隊が現在パナマに駐留しております。ちょうど現地の駐在員がかつて指揮していた部隊ですね」
「よし! 先んじて両方とも地中海側の適当な港へ行かせろ。そしてそのまま地中海方面の軍を合流させて、敵の目を引き付ける囮として使う! 命令書を書いておけ。」
「え、あ、はい……」
「ハハハ! やはり運がいいな! あ、おい。本国へはちゃんと報告を送っておいたか?」
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「現場判断だ! このような予期せぬ事態になった場合は仕方がない! こうして事後報告だけしっかり送っておけばそれでいい!」

近衛元帥は青年秘書の義古にそう言うと、手を叩いて大笑した。
元帥は万事根回しを行った。オストマルク、ブリタニア、ロマーニャなど、欧州各国に「主力は地中海側から、陽動をブリタニア海峡側から」というシンプルな作戦を(そのままパリまで攻め落とすことは当然伝えなかったが)各国に認めさせた。すべては順調に進んでいたのだ。だが、そうそう上手く事が運ぶなら現在このような窮地には立たされていないだろう。


ジブラルタル海峡にて。
「おいおい! なんだよアンタらは!」
「何って……俺たちの国もこの戦争に加わるんだよ。聞いてないのか?」
「いやこんな大軍とは聞いて……って何勝手に通行しようとしている!」
「そんな事言ったって、期日に間に合わなかったら俺たちは軍法会議だ! 通してもらうぜ!」

ジブラルタル海峡にオリーシュ海軍が先行して進んでいく。その戦力は欧州諸国の想像を超えていたのだ。実はこの時、オリーシュ側は送る戦力の数を少なく見積もって通達していたのだ。これは、いざ派遣しようとした時に事故などで実数より少なかった場合見くびられるかもしれないという心配から、保険をかけたもののそれが空振りしたためであった。
続々と地中海に入っていくよく知らない国の艦隊。その戦力は、隙を見せれば致命傷を負いかねないほどであった。そして――――

「連中はこれを機に欧州を征服するつもりだ!」

最初に領海を通られるイスパニア王国が音を上げた。自国にこの軍隊が差し向けられる可能性に耐えられなかった結果、同国はジブラルタル海峡を通過中だったオリーシュ艦隊に突如として砲撃を仕掛ける。これにより、イスパニア王国と神聖オリーシュ帝国は交戦状態に入る。また、イスパニア王国と軍事同盟を組んでいた他欧州諸国とも自動的に交戦状態に。不意を突かれた形のオリーシュ欧州派遣軍はこれに大打撃を被った。

「ななな、なぜ……なぜそうなる!!」

まさかのガリア共和国以外から届く宣戦布告。意気揚々であった元帥は持っていたペンを机に叩きつけ、粉砕した。
当然のことながらブリタニア海峡に回す予定だった軍は派遣中止。封鎖されたジブラルタル海峡を奪うための戦力に回された。欧州派遣軍は分断され、先行してしまっていたフリゲート艦2に志願兵連隊3の彼らは地中海の中に取り残されることとなった。




南ガリアの地中海側にある港町。小勢力と化してしまったオリーシュ欧州派遣軍の地中海方面隊の一時的な占領地である。名前をマルセイユという。
マルセイユは王党派――すなわちガリア内でも反革命的都市として革命以降は半ば独立状態であった。そのため、革命鎮圧のために来たということでオリーシュ軍という外国軍が駐留しているにしては穏やかであった。もっとも、後の行動でマルセイユ市民の反応はひっくり返ることになるが。

「では会議を始めよう。まず、ジブラルタル海峡を挟んだ先の沖合にある本部から送られた『あらゆる手段を用いてでも地中海での生存権を獲得せよ』という命令についてなのだが……」
「はい。よろしいでしょうか?」

ユウの説明の後、挙手にて発言を求める者がいた。オリ主はその見知った顔を見て、相変わらずだなという暢気な感想を抱いた。

「現状、我々は地中海の中に取り残されている状況です。現在ジブラルタルは激しい戦場となっていますが、ジブラルタルの陥落がなされなければ、我々は袋のネズミとなります」

意見を述べたのは、もはやオリ主との腐れ縁が確固たるものとなってしまった感がある北是大尉(昇進した)であった。派遣された志願兵連隊の一つを率いる指揮官として参加していた彼は、そのまま会議に招かれていたのだった。

「もともとは勘違いゆえに開いた戦端。あらゆる手段を用いて、なのですから交渉を用いてもよいでしょう。ここは積極的な攻勢を避けましょう。さすれば、外交交渉で穏当に終戦を迎える目もあるのではないかと具申します。最悪なのは、他の欧州諸国とも全面的な砲火を交えてしまう事です。幸いなことに、現時点において我々と実際に戦闘に至ったのはイスパニア王国のみです。他の国々とは一発の銃弾も打ち合ってはいません」

不幸な行き違いから発した、悪夢がごとき欧州王家連合との戦争であったが、実際に戦っているのはイスパニア王国一国のみであった。元々がイスパニア王国の勇み足であったため他国はほとんど義理で宣戦布告をしただけで、実際に戦う事態には至っていなかったのだ。

「……道理であると思う。だが、残念ながら本部はそのイスパニアと交渉すらするつもりがないらしい」

欧州派遣軍の総司令官である近衛元帥が怒り心頭で、外交交渉での決着は絶望的であった。一応、和平が成ったとしてもジブラルタルが万が一封鎖されたら現在と同様の危機がいつでも再現されるため、確実に確保しておかなければならないという事情もあるが。

「うっ――――ではせめて、他の欧州地中海沿岸諸国に事情を説明して安全を保障してもらう、あるいは我々の方からもジブラルタルを挟撃して自力で退路を確保するというのは――」
「会議中失礼します! 報告します!」
「よい。なんだ」
「ロマーニャ王国の艦隊が、我が方を目標に派兵準備を進めているとのことであります!」

ロマーニャはかつてこの欧州に大帝国を築き上げていた国家である。だがそれは過去の栄光。今では落ちぶれ、オストマルク王国のほぼ属国に成り下がっている現状だった。

「ロマーニャ……ええっと、イタリアのことか。で、強いのか?」

今まで言葉を発していなかった男が口を開いた。オリ主だ。

「弱い。だが、いまだ地中海を自分たちの庭と言っているように海軍に関してはかなり力を入れている。加えて、かつては欧州を征服していた国家だ。ふむ……単に宗主国から命令されたか、あるいは我々を追い出すことで復権を果たそうと思っているのかもしれんな」

ユウが解説を入れる。

「それともうひとつ報告が。南ガリアにあるトゥーロン要塞をガリア共和国軍が奪還したようです」

トゥーロンは革命初期にブリタニアが海軍にて占領していた場所である。だが、これは単純に土地の主が変わったという問題ではない。

「ガリアがいよいよ息を吹き返したということか……」
「――そっか……」

オリ主が、どこかほっとしたような声で息を吐いた。


「……閣下、こうなればガリア側と同盟、とまではいかずとも不戦の密約を結んだ方がよろしいのでは」
「おいおい。それだと、俺たちは何のためにここにいるんだかわからなくなるんじゃないのか?」

オリ主が北是の発言に待ったをかける。

「一応、俺たちは王様殺してまわり全部にケンカ吹っ掛けた連中を叩きつぶして目を覚まさせるってのが目的だろう。それがなんで協力なんて話になる?」
「状況が変わったからだ」

北是は訥々と説明し始める。

「ガリアの革命はすべての王をいただく国家に対する挑戦だ。実際、ガリア革命を自国で、なんて考える民衆も周辺諸国では出始めている。これを鎮圧するというのは、確かに当初の目的だった。だが――」
「当初考えていた他欧州国家と協力してガリアを叩くという構想が破綻した。イスパニア軍は我々を分断するため今もジブラルタルを堅守しようとしている。時間があれば、誤解を解いて改めて欧州諸国と協力関係を築けたかもしれないが――」
「地の利も投入できる戦力量も、こちらが劣っている。ロマーニャの動きに触発されて他の国々も我々に対して攻勢をかけてきた場合、あっという間に全滅させられるだろう。ジブラルタルで戦っている友軍よりも、地中海にいるこちらが先にな」
「……ガリア側が了承するのか?」
「幸か不幸か、カリブ海の一件におけるガリア軍との最低和平期間が残っている。前の国のことと反故にする可能性もあるが――――少なくとも交渉の余地はあるだろう」

ガリア軍との提携を説く北是であったが、当の本人もあまり有効な手だと信じ切れていないらしく、段々と声はすぼんでいった。オリ主はそんな様子を見ながら、淡々と疑問を口にするだけであった。

「……飲むと思うか、同盟」
「だから密約だ。たまたま同じ国家に対して戦争しているだけ、戦場で鉢合わせしても見なかったことにする、という風に」
「なんだそりゃ」

オリ主は呆れたという顔で、両手を頭の後ろに組む。

「だが、我々の判断でここまで来てくれた兵士たちの運命が決まる。苦しい言い訳だろうがなんだろうが、この窮地を脱することができるのならば……と判断する」
「……そうか。ま、俺には大した考えがあるわけじゃないから方針に従うさ。それに……ちょっとホッとしたところもあるし」
「……? なんかお前さっきから変じゃないか? いつもだったら喜び勇んで戦争だ突撃だとか叫んでそうなのに」
「あ~~北是大尉? ええっと、こいつも在留武官として色々成長したということだ」
「はあ……それは良いことかと思います閣下。いえ申し訳ありません。久々に見る知人の様子がおかしかったもので妙なことを言いました。」

北是は、そんなものかという風に引き下がる。カリブ海以降、久方ぶりに見たオリ主の静かな? 元気のない? 様子に違和感を抱いていたものの、だからと言ってそれで食い下がるつもりは彼にはなかった。成長したとユウに言われてしまえば、納得するしかなかった。
それを確認したユウは、咳を一つして話を続ける。

「さて、それでは密使を立てて交渉に行かせる。それと、ロマーニャの方は先手をとる」
「……向こうの海軍が出発する前にこっちから殴り込みをかけて港を攻め落とすのか?」
「そうだ。先制して一艦たりとも海に出させない。その前に沈める」

凛とした声色でそう言い切る。
客観的事実に基づけば、神聖オリーシュ帝国が欧州諸国の一つであるロマーニャ王国に対して主体的に攻撃を加えることになる。イスパニア王国の時のような、向こうから攻撃を仕掛けて来たので仕方なく、という言い訳は使えない。欧州の地中海沿岸諸国は、オリーシュ帝国に対して砲火を交える関係へと進む。そして戦力に劣るこちら側は、先手を常に取り続けなければ圧殺される厳しい戦いを行わざるを得なくなる。だが、もはやこれ以外の手は誰も思いつけなかった。

「ぁ…………」

少なくない時間を共有したからこそわかった。どう見ても無理に毅然とした顔を作っているようにしか見えないユウに、オリ主は気遣いの言葉をかけようとして思いとどまる。

俺自身が踏ん切りついてないのに、なんて言えばいいってんだよ。くそ、前まではこんなんじゃなかったのに……!

この世界に来た初期の頃にあった蛮族との戦い、オリーシュ本国でのアステカ軍との戦い、カリブ海でのガリア軍との戦い……あの何の気負いもなくただ目の前の敵と戦えばよかった当時を思い出して、なんでこんな風になったんだとオリ主は目を閉じ黙るしかなかった。





会議後、オリ主は食事ができるまでの時間を利用してマルセイユの街中を散策することにした。大通りは比較的平穏を保っていたものの、少し裏通りを行けば、現在が非常時であることを明確かつ端的に理解させられる光景が広がっていた。

「またか。これで何件目だ?」

そこには、煙が細くたなびく半焼した複数の民家があった。壁が一面焼け落ちて、すすだらけの家の中が外から丸見えになっていた。外壁には、「王党派は出ていけ」「革命万歳」「自由と平等をガリアにもたらす革命を支持せよ」等の文字が書きなぐられていた。家の住人がどのような人物達であるのかは簡単に予想がついた。
現在のマルセイユでは、このような放火事件が立て続けに発生している。だがこの問題の根深いことは、これが反革命=王党派の町であるマルセイユで発生していることだ。町全体としては反革命であるものの、住人すべてがそうではない。革命を支持する者と反対する者が混在しており、住人同士が思想の違いで激しく対立しているところにこそ問題の厄介さがあった。おそらく、オリーシュ軍という外部戦力による抑止が結果的に現在の町の平穏さを担保していることになっている。そのため、オリ主達が去った場合には町全体で火の手が上がることが予見された。

「自由と平等で幸せになれるのか?」

オリ主は、煤けた外壁に書き連ねられた単語を見つめながらぼやいた。そのぼやきは、大通りの騒がしさから隔離されたこの裏通りではひどく大きく響いた。そして、首筋の毛が一斉に逆立つ。

「――――っ!!」
「おいそこのニーチャン。今、なんて? 革命が……ああん?」

後ろから剣呑な声がする。どうやら、革命支持者がいたようだ。

「自由と平等なんて立派な言葉使ってやったのは単なる放火じゃねえかって言ったんだ……よっ!」

オリ主は勢いよく振り返りつつ、腰元のサーベルを抜き放つ。誤って殺傷してしまわないように峰が相手に当たるよう手首を捻る。だが、帰ってきたのは肉や骨を打つものではなく金属を叩いた感触であった。相手も剣を抜いて攻撃を防いだのだ。

「ッチ!」
「共和国軍の将軍の前でよー言うたぁ! 根性あるで王党派……!」
「そりゃお前だ! ここは反革命の町だってんだ……よ? 」
「……ってあら?」
「なんか見覚えあるなお前……?」

攻撃を防がれ、あわやこのまま斬り合いになることも覚悟したオリ主であった。だが、振り向いた際にそこにいたのは、軍服の方が似合いそうな見覚えのある私服姿の男。

「前にウチの将軍人質にしてへんかった?」
「おう、前にちょっと。でお前は、何でここに居んの?」
「……家族がマルセイユに引っ越したんや」
「共和国の将軍って言ってたけど、その家族……え、マジ?」
「これでも、もっとヤバイところから引っ越してココなんだなぁ……」

より具体的には、かつてカリブ海の島で戦ったガリアの軍人であった。




「ほーん、あの無能将軍まだ捕虜やっとんのか。ざまあ!」

その後オリ主達は今更斬り合う空気でもなかったため、マルセイユ市内にある男の家に招かれていた。男は自らをガリア共和国軍将軍のブオナパルテであると名乗った。私服なのは、共和国の将軍であることを隠して家族を守るためらしい。ならさっさと引っ越せという話だが。

「いやしっかし驚いたで! 路地裏とはいえ街中で反革命発言なんて、熱心な連中に聞かれたらそりゃもうエライことになっとったわ。隠れ革命支持者なんてパッと見で分らんだけでいくらでもいるんや」
「なんだよ、お前はその熱心な連中じゃないのか?」
「あったり前やあんな乱痴気騒ぎ! でもまあ今の立場上、無視するわけにもいかんのや。しゃーない!」

ブオナパルテはゲラゲラ笑いながらオリ主の肩をバンバン叩いてくる。妙な気安さだった。

「と言っても、おおむね革命には賛成や。無能な馬鹿に生まれがなんだのでメチャクチャなこと命令されるなんざアホクサイ話や。まあでも、そのやり方がもうダメダメやなっちゅーのが本音やな。ちょい前にパリにいたんやけどな? 金持ちの家がしょっちゅう暴徒に襲われるわ政府は派閥抗争の真っ最中でギロチンが渇く暇もないわでなぁ……同志がなんだと言っておいて裏切り連発とか笑えるわ」
「そう……」

――サンソンさん

オリ主は、死刑執行人でありながら死刑廃止を望んでいるサンソンの顔を思い浮かべる。きっと内心での嫌悪感を隠して、義務感から淡々と刑を執行していることだろう。
サンソンのことは気になるが、それでも聞かなければならないことがあった。

「それで、お前これからどうすんの?」

色々気になる事はある。例えばカリブ海では下っ端のような感じであったのにどうしてこの短時間で将軍などを名乗っているのかだとか。だが、最初に会った時からずっと気になっていたことがあった。

こいつ、明らかに雰囲気が以前よりも鋭くなってる。私服なのが違和感ありすぎで気持ち悪いくらいだ……!

目の前の男の目は、カリブ海で初めて見たあの時以上に剣呑としているのだ。そのためか、ずっと首筋の毛が逆立っている。すなわち、警戒心がけたたましくアラームを鳴らしているのだ。


「ん~~? そりゃあ勿論――」

ブオナパルテがニッ! と歯を見せて獰猛に笑った。だがその時、バンと扉が開かれる。

扉の奥から現れた買い物帰りらしき女性と目が合う。その目はどこか眼前の男に似ていて。しかしそれを考えている暇もなく女性の顔が赤くなる。そして…

「――これでも手柄立てて一躍将軍やで? とことん上り詰めて――って痛ぁ!」

不敵な笑みを見せるブオナパルテの後ろに立ち、女性は大きく振りかぶって拳を振り下ろした。

「ナブリオ! あんたお客さん呼ぶんだったらそう言いな!!」
「あ、兄さんお帰り。それで兄さん、お土産は?」

ブオナパルテをナブリオと呼んで殴った女性の傍を通って、小さな女の子が寄ってくる。やはりブオナパルテと何処か似た顔をしていた。兄と言うのだから妹なのだろうが、良く似ていた。

「ごめんなさいねこの子気が利かなくって? いま何か持ってくるから!」
「母ちゃん! ちょ、やめーや恥ずかしい!」
「なにが恥ずかしいだ親に向かって!」
「ねーねー! 兄さん! 可愛い妹がお土産って!」
「何が可愛い妹やポリーヌこら! 裾が伸びるやめえ!」

母親に頭を小突かれ、ポリーヌと呼ばれた妹に足の裾を引っ張られ。ブオナパルテは顔を恥ずかしそうに赤くしながらコチラをチラチラ見てくる。

「悪い! 今日はもう帰って――」
「あらごめんなさい忘れてた! いまなんか作っちゃうわね」
「あ、その、お構いなく……」
「若い子が遠慮しなくていいんだよ、夕飯食べていきな!」
「あ、はあ……」

なんだろう、この……友達の家に遊びに来た感じは……

オリ主は、久しく感じてこなかった微妙な居心地の悪さが先ほどまでの危機感を押し流していったのを体感する。そして、ブオナパルテ母の圧に負けて「じゃあ、頂きます」と、頷くのだった。




「じゃ、そろそろお暇します。お邪魔しました」
「またいつでも来なよ!」

夕暮れの中を去っていくかつての敵を見送って、ナブリオは母の方を見つめ声をかける。ポリーヌは何処かへ行き、今は自分達しかいない。

「なあ母ちゃん。あのさ、今の奴は……」

ナブリオは母であるレテツィアに、いま家に来ていた人間が敵側の軍人だということをどう伝えようか思案した。下手に伝えれば「あんたそれでも兵隊か! なに敵とおしゃべりしてんだい!」

と激怒することが容易に想像できたからだ。だが、そんなナブリオの心を読んだかのように、レテツィアは微笑む。

「知ってるよ。いまこの街を占領している外国の軍隊の人間だろ」
「……なんや、知ってたんか」

だがそうなるとなぜあのような友好的な態度をとったのか。ナブリオにとって母は、男以上に男らしい女傑である。その昔、故郷のコルシカ島がガリア王国時代に独立戦争を仕掛けた際、兵士として男以上に勇敢な戦いっぷりをしていたという。侵略者どもめと言って包丁片手に突っ込んでいかないばかりか、わざわざ歓待するなどイメージに合わない、とナブリオは頭をひねる。

「でも、なんでや?」
「そりゃお前のためだよ」
「?」

素直に聞けば、そんな回答が返ってくる。ますます頭に疑問符が浮かぶナブリオ。そんな息子の様子に、微笑んで母は語る。

「デキる男ってのはね、敵の中にも味方をつくれるもんなんだよ。あの子はきっと偉くなるよ。勘ってやつだけどね」
「ふーん……」

そういうものかと、母の優しい顔を見ながら妙な納得をするナブリオ。とここで、今なら大丈夫な空気だろうという直感から、ナブリオはいつ言おうかと悩んでいた事柄をこのタイミングで母に告げてしまおうと思いついた。

「あ、そういえば母ちゃん。実は言っときたいことがあるんや」
「何? どうしたんだい?」
「いやさ、ワイも将軍になったわけだから名前もガリア風に変えたって話」

ああそういえば、あいつにも今の名前で名乗ってなかったなぁ、と暢気に言う。そんな息子にレテツィアは剣呑な顔で詰め寄った。

「ちょっと待ちな、え? 聞いてないんだけど」
「そりゃいま言ったからな。今日からワイはナポレオン・ボナパルトや。母ちゃんもこれからはボナパルトって家名を名乗って―――って痛い痛い母ちゃんちょっと?!」
「なに勝手に故郷の名前捨ててんのよこのバカ息子が!」
「そんなこと言ったってワイにも立場ってもんが……」
「母さんただいま」
「ちょっと待ってな、今はこの親不孝者を……!」
「ポ、ポリーヌ! 兄ちゃんを助け……!」
「ところでさっきのお兄さんってエライ人? お金持ち? だったら紹介してよ!」

ブオナパルテ家改め、ボナパルト家の騒ぎはしばらく続いたという。








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