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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:6e339e4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/11/09 00:20

「食料品まで本国から運んでもらうなんてなぁ。通販かよ」
「ツウハ……ン? っと、仕方ないっスよ。パリじゃ何でも値上がりしてますし。こんな時に外国人が普通に買い物してたら揉め事になりますって。」

パリの郊外にて、オリ主はユウに代わって大使館に搬入されていく荷物を見届けていた。月がない、星のみが空に輝く静かな夜であった。本来の大使館の主であるユウが最近大使館にいる事の方が少なく、今日も不在であったため、オリ主が対応することになったのだ。
一国の大使であるユウたちの懐事情は暖かいが、もしパリ市内で満足な量の食料を購入してしまった場合、困窮するパリ市民がどのような感情を抱くのか。その点に配慮した上での行動であった。しかし、現代日本のような物流システムが完備されていないため、手続きのトラブルや輸送船の到着の遅延などで、とんだ時間外配達になってしまっていたのだった。

「それじゃあ、我々はこれで帰ります。お勤め、頑張ってくださいっス」
「ああご苦労さん。カレーの港まで気を付けてけよ。すまんな泊めてやれなくて」
「いやあ物騒ですし、遠慮しますっス」

手の掌をヒラヒラさせながら帰りの馬車に乗り込んだ配達人は、そのまま馬を走りださせる。だが、食料品を満載して来た方の馬車はそのままであった。黒鹿毛の馬が別れの挨拶のような声を上げた。

「って、おーい! 馬車! 馬車忘れてるぞ!」
「ああ! それは大使館に置いておくものらしいんで!!」

「おう、なんだお前?」とばかりにこちらをまじまじと見てくる馬を眺め返しつつ、その先の馬車本体に目を向ける。多少の装飾はあるが、それでも地味だった。夜という環境のせいで見えにくいというのもあるだろうが、暗色を多用した闇夜に沈むような配色である。

「――――オイ馬、なんで頭の匂いを嗅ぐんだよ。やめろ……ってあれ……ん?」

警戒か好奇心か匂いを嗅いでくる馬面をワシャワシャ撫でまわしながら苦情を言っていると、どこからともなく人の声が聞こえてきた。

「……!!――!……!」
「――っ!!」

暗闇の奥に耳を傾けて集中すると、それはどうやら言い争いの声であった。星明りを頼りに音の方向を探せば、そこには停車した馬車の傍で言い争う男女三人の姿があった。

「もういい。フェルセン君、先導はここまでで結構だ帰りたまえ!!」
「ご冗談を! では一体だれが馬車の手綱を握ると?」
「そうよあなた、彼以外に任せられる者はここにはいないのよ!? どうしていきなりそんなことを言うの!」 
「なぜ? なぜと言うのかマリー! 夫の目の前で妻に色目を使う男がいたら目立ってしょうがないからだ! 手綱くらいいざとなれば自分で握る!」

男は金切り声で叫んだ。発言内容から考えればまるで彼女の間男と同席してしまった男のようなやり取りであった。普段のことなら「勝手にやってろ!」と吐き捨てて帰るところだが、どうにもその中の一人の顔に見覚えがあった。

「……え、王様?」
「!?」
「あ、君は確かオリーシュ帝国の」

ただならぬ雰囲気と知りつつもつい近寄り声をかけてしまったオリ主。そしてそれは予想通り、揉めていたのはこの国の国王のルイ16世その人であった。

「見られた……! 恨みはないが覚悟――!」

オリ主が声をかけた途端、国王と言い争っていた方の若い男が突然腰のサーベルに手をまわした。にわかに剣呑な空気が漂う。

「待て彼は友人だ! 斬ることは許さん!」
「しかし!」
「そうだ彼に手伝ってもらえばいい! 君、頼めないかね? そうだな、そこの君の馬車と一緒についてきてくれないか? 荷物が多すぎて難儀していたんだ」

国王がそうとりなすと、サーベルに手をかけていた男がギョッとした様子で国王を見た。その顔には「正気か!?」という文字がありありと浮かんでいた。

「は、はあまあ、暇なんでいいですけど……でも、夜に……それにどうしたんですかこんな大荷物で」
「ハハ、何、気晴らしに星を見ながらピクニックさ」
「ぐぬぬ……もう私は知らん!」
「あ、フェルセン!」

え、なに……どういうこと??

何やら国王のピクニック(自称)に付き合う事になったオリ主。顔を真っ赤にしている若い男、その様子を心配そうに見つめる美人、そして至極スッキリした顔をした国王を交互に見ながら、首を傾げるしかなかった。心情的には痴話喧嘩に巻き込まれた被害者であった。



巻き込まれ被害者を一名追加した国王一家の逃亡劇が進行している頃。日が昇って国王が不在であることが判明したパリは騒然となっていた。怒りや困惑で頭をいっぱいにする多くのパリ市民とは裏腹に、ロベスピエールは手を叩いて喜んでいた。

「アデューだ愚かな貴族の首領よ! そうだ、もはや市民と国王の対決は決定的になったのだ! 共存などナンセンス! 王は市民の生活を破綻させる圧政者と新聞で告発してやれ! サンジェスト、国王が市民を見捨ててパリから逃亡したことを喧伝しろ!」
「では並行して裁判の準備もしておきましょう。今から被告人席に座るルイの姿が楽しみです」
「ああ! どうせ死刑だ、処刑人に準備をさせておくというのはどうだ手間が省ける! ハハハハっ!」

ロベスピエールは大声で笑った。それだけ、ロベスピエールにとってこの事件は好機であった。
なにせ王が亡命するということは、国と市民への裏切り行為に他ならないからだ。市民が今まで抱いていた王への敬愛の念は一気に反転し、民衆と王は敵対関係になるだろう。

「ルイ、全ては君が国王だったのがいけないのだよ。ハハハッ!」

明確な形での王制廃止。ロベスピエールの目的にとってこれ以上のアシストは無かったのだった。





国王一家を乗せた馬車はその後も大きなトラブルに見舞われることなく、ガリア東部の国境近くまで進むことに成功した。直接の上司であるユウにも知らせず、あのまま直で亡命の旅に出てしまったため、この亡命の成否はかなりの部分を素人であるオリ主に依存している。

――――亡命の片棒担がされてるっておかしい、おかしくね?

国王たちの不審な様子に流石に事情を察する。そしてこうなったからには、無事に亡命を成功させなければ自分も捕縛されて連座させられると理解する。こっそり行ってこっそり戻るしか生きる道はない。
途中、村などの人目が多い場所を通りかかる際には、外国人であるオリ主(貿易商であるが不慣れな外国で道に迷った設定で振舞った)が表立つことで国王夫妻やその子供たちが人目に付くことを最小限にするなど、計画に助力した。自分の命がかかっているので真剣であった。
そんな行き当たりばったりの有様であったが、あるいはそれでも成功しつつあったのはオリ主の分の幸運のおかげか。
さて、今はいないフェルセンの計画では、そろそろ協力者の貴族と合流できる手はずになっていた。だが、その合流地点ギリギリで国王が近くの草原で休憩しようと提案する 。
時間を浪費することに対して焦る気持ちもあったが馬にも休憩が必要で、かつ決定権は国王にある以上、否やは言えなかった。



「――――ふう、今更だが巻き込んでしまってすまないね」


オリ主が馬車の馬(名前はクロにした)に川の水を飲ませてやっていると、王妃たちを草原で休憩させていたルイ16世が声をかけてきた。手には、豪奢な宝石が握られていた。

「あの、それは?」
「迷惑料だよ。とっておきたまえ。なにせ君の上司である大使殿にも内緒で危険な逃亡劇に連れ出してしまったから。なに、どうせ持っていたとしてもパリの連中に奪われるだけだろうから遠慮する必要はない」
「……」

黙るオリ主に対して国王は笑った。キラキラとする宝石に目を向けるが、素人目でも相当な値打ちものであることは明確に理解できる品物であった。
だが、それ以上に気になる発言があった。


「あの、このまま亡命するんでしょ? なら、どうして『パリの連中に』奪われるんですか?」
「……」

ルイ16世は「しくじったなぁ」とつぶやくと、力ない顔で微笑みながら頭を掻いた。

「もしかして、戻るつもり……とか……」
「はは、バレたか」
「ここまで来る前にちょくちょく寄り道してたのって……亡命するか迷ってたからですか?」

道中、なぜか国王は時折寄り道をしていた。思い出の場所が近いから、あるいは昔の知人が住んでいる場所があるからと言って。その度にオリ主は妙に暢気な国王の態度に若干のイラ立ちを抱いていた。逃げる立場ならばそれに徹するべきなのに何を旅行感覚でいるんだ、と。

「やっぱり、国王が国から逃げちゃいけない……散々迷ったけど。でも、そう、子供達だけはこんな義務に付き合う必要は……ない……と思いたい」
「王妃様はどうするんスか?」
「妻の母国に亡命するんだ、妻がいなければ話にならんだろう? ちゃんと、話は通してある……」

ルイ16世は感情の高ぶりを抑え込むような顔でいずこかを見る。その方向には、遊んでいる王子と王女とそれを涙目で眺める王妃がいた。国王としてはどうかは知らないが、少なくとも立派な父を連想させる横顔だった。

この人はいい人なんだ。ただ、王様の才能がないだけだ。

この時まで、いや今の時点でおいてもオリ主は革命や国王に対する態度を決めかねていた。オリ主がこの世界に飛ばされてくる前に読み漁ったその手の物語において、貴族や国王は大抵、「無能なくせに威張り散らしている、主人公にイイ感じにやられるための踏み台」であった。そして、そのような貴族を打倒する革命は「良いこと」として扱われていた。実際、このガリアという国の王や貴族は、自国の経済的危機を納めることができず暴動も止められないどころか、国王はついに逃げ出そうとしていた。なら、事態を収束できる者に国のかじ取りを譲り渡すこととなる革命を擁護するのが、オリ主を自称する自身のあるべき立場ではないかとの思いがあったのだった。

まあ、主人公側が国王側だと革命を潰す側になるんだろうけど……

だがオリ主は顔見知りになってしまった。そして知ってしまった。国王としては落第で、初めて会った時のお茶会のように人をからかう様な真似をして、亡命とかいうヤバイことに人を簡単に巻き込んで、しかも今になってやっぱり自分は戻るとか言い出す……人としても大分アレで、でも、少なくとも親としてはセーフであることを。

もし、戻ったらこの人はどうなるんだろう……いや、分かってるはずだろ俺

革命が何を意味するのか、一応は現代日本で歴史に触れてきたオリ主は知識として知っていた。小説なら断罪の瞬間を素直にザマアアア! と出来るだろうが、どう考えてもいま目の前にいる人物がそこまでの罰を受けなければいけないほどの悪人とは思えなかった。
だから、今まで革命万歳とも、革命反対とも言えなかったのだった。そして、結論はこの段階でも出なかった。


しょせん俺は、外国人だし……その……


そんな言い訳を頭に浮かべながら、オリ主は国王が差し出した宝物をポケットにねじ込む。言葉を発せず、そうするしかできなかった。その後、子供達と王妃だけでも早く安全を確保したほうがいいという意見だけを何とか絞りだし、子供達と王妃、そして最小限の荷物だけを載せたオリ主の馬車で目的地まで飛ばすことにした。軽くなった馬車は、国王を残して快速で去っていった。
途中、王子が王妃に、どうして父が一緒でないのかと不安そうな声で尋ね続けるのが、嫌に耳に残った。

その後、国王を乗せた馬車が来た道を戻り、検問が敷かれたヴァレンヌという町に入った時のこと。手綱を握る国王の姿に村人が気づき、進路はすぐさま封鎖された。なぜパリからの方向ではなくパリに行く方向から国王が現れたのかと、その場の誰もが疑問に思っていたことだろう。


「ガリア国王ルイ16世の通行を妨げるとは何事か。王は今よりパリに戻るのだ!」

自らパリに戻ると宣言する国王に返した民衆の回答は、困惑の声と包囲の維持であった。
そして、パリの議会から派遣されていた役人が兵隊を引き連れて慌ててやってくるのを見ながら、ルイ16世は天を仰いで祈る。

「主よ……御心のままに――――」



結局、国王は犯罪者としてさらし者にされながら、パリに連れ戻されることになった。ここには、どういうわけだか自らパリに出頭しようとした国王を「貶めるべき立場」でい続けさせたいという意図があった。

「情状酌量の余地ありなどとされては困るからな」

王を罪人として連れていくことを決定した役人の言葉がすべてを物語っていた。
こうして国王逃亡計画は失敗に終わった。
通称「ヴァレンヌ逃亡事件」と言われたこの事件が、王国に止めを刺すことになる。
それでも唯一の救いがあったとすれば。


「おお……ブルボン王朝が……ガリア王国が……」
「…………すんません、俺は、もうそろそろ……すんません……」

王妃一行が無事オストマルクに亡命できたことだろう。





国王がパリに連行されたその翌日のことであった。まず議会はこの逃亡事件に関する公式見解を決めることを迫られていた。というのも――

「常識的に考えて、逃亡した者が自ら戻ってこようとしたのはおかしいでしょう。つまり、これは王妃による国王の誘拐ではないでしょうか?」

亡命ではなく誘拐である、ゆえに国王は被害者なのだから処罰するのはおかしいとして事件を決着させたい動きがあったからだ。

「そ、そうだ。どうせあのオストマルク女が道中の人質にしようとしたんだ。そう考えれば、国境付近で解放されて国王が来た道を戻ってきたのも筋が通る!」
「ふざけるな罪には罰を! 国王に断罪を!!」
「万が一国王に責任を取らせるというのならば、それは処刑しようと言っているに等しいんだぞ!」
「それがどうした革命万歳!!」
「そうなれば周辺諸国すべての王制国家が攻め込んでくるぞ! そうなったら誰が責任をとるというんだ!?」

もし国王が自主的に亡命しようとしたとすれば、それはいよいよ、現実的に王制の破壊に踏み込まざるを得なくなる。そうなれば、欧州中の国が敵に回る。そのリスクが頭をよぎれば、いかに改革だ革命だと気炎を上げていた議員たちも尻込みしてしまうのだった。そのため、全体としてみれば、国王無罪説に着地させようという流れができていた。これもある意味、建前や妥協という名の必要悪である。
断罪や処刑といった機運は陰りを見せ、革命は一応の終着を見せつつあった。国王が誘拐されたとされれば、全ての罪を元々評判が良くなかった王妃に押し付けられる。市民の怒りを無難に鎮火させられる。頭が冷えた市民に、これからは民衆の意見もしっかり取り入れる体制にすると言って説得し新体制――ガリア立憲王国へと穏便に移行することができるだろう。
結局のところ、理想論や原理原則論のみで政治が回ると思うほど大多数の議員たちは純粋ではなかったのだ。

「ふん、化けの皮が剝がれたな偽革命家ども。……貴様らは全員悪党だ――――容赦はしないぞ……」

そう……大多数の議員は。
何となく国王を助命しようという雰囲気が漂う議会のなか、ロベスピエールは吐き捨てるよう言った。純粋なる革命の遂行に妥協は不要であり、純粋な革命により生まれる新国家に国王は不要という考えを強固にしていたのだった。









「ふざけんなバカヤロウ!!」
「断固処刑! ギロチンを用意しろ!!」

市民生活は継続する物価上昇の影響をもろに受けていた。物価と共に上昇する不満のヴォルテージは、解放する相手と時を待っていた。そんな時にもたらされた、国王の亡命未遂事件の処置を巡る議会のやり取りが何者かによってリークされた。自身を苦しめる何かへの怒りは社会全体への攻撃性となって牙をむく。

「国王も貴族も全部くたばれ!」


そう叫ぶ市民が過半数を占めた。王制と貴族制の否定は、ガリアの亡命貴族や外国の思惑と真っ向から戦う道を突き進ませるものであった。自らの苦しみの原因を現行制度に求めた民衆は、戦いを望んだ。世論に押され、議会の空気は完全に入れ替わり、強硬論が主流派となった。だが、この状況に最も喜ぶべきロベスピエールとその一派はあえて沈黙を保つ。
彼は革命の過激な信奉者であるが、一方で今のままでは諸外国との戦争に突入しても勝利できないことを理解していたからだ。だからこそ、自分からは開戦を主張しなかった。革命を成功させるという目的のため、いつ戦端を開くかという議論を黙って見ているだけであった。拳を振り上げ戦争への熱意を語る議員を、養豚場の豚を見るような瞳で見つめながら。
そして草花が青々と茂るようになった夏の頃。ついに議会は周辺諸国に対して宣戦を布告した。




「世界をひっくり返し、この世に自由と平等をもたらせ! 愛国者たちは革命の烈士たれ!!」

このようなビラが堂々とバラまかれ、革命を志す多くの市民は歓喜した。が、その勢いは長く持たなかった。
元々の国軍は相次ぐ混乱でその多くに士気低下が顕著だった。また、軍の士官層を構成していた貴族たちも多くは亡命して不在だ。つまり現在のガリアの国軍はその実力をほとんど発揮できずに敗走を強いられ続けていた。
そして、凶事は重なる。

オストマルク王国・ロマーニャ王国・ブリタニア王国などなど、欧州の王制国家連名での宣言がガリアに衝撃をもたらした。

「我々欧州王家連合は、革命の存在そのものを認めない。ガリア国王ルイ16世を即時解放せよ。その間、パリを除くガリアの全都市はルイ16世に代わってしかるべき国々が代行して管理することとする」

この宣言により議会は震えあがったが、民衆はむしろ外国への敵意を募らせた。民衆は負け続きのガリアの軍隊を見限り、ついでに議会も見限った。連中が頼りにならないのなら、自分たちが立つべきだ、と考えるようになった。



度重なる敗走と先の宣言によって、議会はロベスピエール一派の独壇場となった。

「戦いを知らぬくせに宣戦布告だなんだと熱を上げ、今ガリアは諸外国から責め立てられて風前の灯だ。この責任は、開戦に賛成したすべての議員に等しくあると思うべきであろう」
「くぅ…………!!」
「まったく、結果的にはもはや利敵行為! 反革命的とすら言える」
「どうせお前がリーク元だろロベスピエール!」
「最初からこれが狙いか汚いぞ!」
「地獄に落ちろクソ野郎がぁ……」

壇上で発言するロベスピエールに苦々しい表情と呪詛ぶつけるしかなかった議員たちと、得意満面の顔になっているロベスピエール派の議員との対比が顕著であった。

「だが、ここで諸君らの責任問題を議論したところで、問題は解決しない。だからここではいっそ、今まで棚上げされてきた大事な事柄を解決したいと思う」
「「「……!」」」

てっきり厳しい追及がなされると思っていたところに、まさかの棚上げ発言。これには議会に困惑が広がった。だが、ロベスピエールは続ける。

「諸外国はまだ革命を認めていない。いや、革命そのものを無かったことにしたくてたまらないのだ。あの不遜な宣言で問われているのは我々の覚悟だ。そう、革命を次の段階に進めることをもってそれを示さなければならない」
「いや、待て……それはあまりにも――」
「黙れド腐れチキンが!」

不穏な気配を察した一部の議員が、ロベスピエールの発言に待ったをかけた。だが、止まらない。

「その甘い覚悟が今日の苦境を作りだしているのだ! 分かるか諸君? いま我々が倒されれば、過去に逆戻りだ。再びガリアに王が立ち、あの苦しみの日々が始まる。その時、我々はどこにいるかは容易に想像できる。みじめで薄暗い、敗北者にふさわしい墓穴だ。革命を守れ、革命を進めろ、革命を台無しにしかねないものを排除せよ……それを示せば、市民たちもまた立ち上がり戦列に加わってくれることだろう。敗北なんてひっくり返せる! 我々は我々の革命に対する断固たる覚悟を示すだけでいい、そして方法も知っている。それは、ギロチンにあると!」」
「「「!?」」」

議会はその発言に戦慄した。

「もし戦争に負けて、その上国王殺しの罪が加わったら……」
「死刑以外にないぞ!」

欧州王家連合との戦争で敗北が現実味を帯びてきて、負ければその罪を負わせられる――――そこに国王殺しが加われば、如何なる手段を用いても極刑は免れない。いざとなれば賄賂でもなんでも使って最低でも国外追放処分で助命をと考えていた議員たちにとっては、いよいよ退路を断つ決断だったからだ。だが同時、ロベスピエールの発言が途絶えたことでできた静寂に、外部の絶叫が入り込んできた。

「「「革命万歳! 革命万歳! 国王を殺せ! 国王を殺せ!」」」

「マ、マジで言ってるのか……!」
「あの野郎、民衆に今言った事を事前に流していたのか?!?」

誰かの悲鳴は、民衆の熱狂によって塗りつぶされる。もはや議会は完全にロベスピエールの手に落ちた。民衆の支持という強大な力によって、ついに革命は最終段階を迎えようとしていた。すなわち、『国王の処刑』である。








あとがき
もうすぐ一年が終わります。今年中に完結まで持っていくという発言をウソにしないよう、何とか頑張りたいと思います。もう少しだけお付き合いください。



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