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No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
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[40286] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:c09ef79a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2021/06/28 00:45
まえがき
前回こちらの手違いで同じ話を2のラベルで投稿してしまいましたが、こちらが正しい続きになっております。ご迷惑をおかけしました。




国王とのお茶会からしばし時が流れ。当初の予定通りに選挙が行われ、全国三部会が開催された。そう、予定通りに開催そのものは達成された。

「ユウ様」
「ああ、報告書かご苦労」

大使館の一室にて、訪れた黒ずくめの男から手渡される報告書をざっと見たユウは、やっぱりという結果にめまいを覚えた。
理由は、現在開催中の全国三部会が事実上の分裂状態にあり、機能不全を起こしていることが報告されていたためである。結局のところ、開催ができただけで問題解決には一切寄与していないというのが現状であった。
貴族や僧侶の免税特権を廃止するか否かを審議すべく開催された全国三部会。だが順当というべきか当然というべきか、貴族と僧侶を代表する議員の大多数によって採決は「特権廃止は否」となった。こうして特権階級は特権を有したまま、平民は相も変わらず重い税に苦しむという事になった。だがこれで終わるような状況ならそもそもここまで事態はひっ迫していない。平民代表の議員たちはテニスコートにて真の国民を代表する議会として、「国民議会」の設立を宣言。全国三部会に絶縁状を叩きつけ、特権を享受し続けたい貴族と僧侶に対して徹底抗戦の構えを見せる。が、ここからの展開がさらに問題をややこしくさせる。

「貴族と僧侶代表の議員の一部が、国民議会に合流。一方で、平民代表の議員が特権維持派の議員に接近とは……」

この戦いは一見、貴族&僧侶VS平民という構図である。だが実態は明確に異なる。というのも、貴族は貴族階級内で裕福か貧乏かで歴然とした差があり、僧侶も実入りのいい地位にいるか素寒貧な地位にいるかで異なり、平民も特権階級と癒着して甘い汁をすすっている者もいれば貧乏暇なしな者もいるからだ。要するに、貴族も僧侶も平民もそれぞれで勝ち組負け組がいたという話であった。

「いやはや困った事態ですな。しかしもっと困った方々もいるのでござるよ」

そしてユウは報告書の最後に書かれている部分に目を通す。とある場所、とある日時にパリに滞在する大使の集まりを秘密裏に行いたいというものだ。話し合いの内容は言うまでもなく、現在のガリア王国の情勢についてである。が、紙面に書かれている文面的にはより踏み込んだ内容を含む事を匂わせている。

「これは……陰謀というものではないのか?」
「いいえ殿下。外交というものでござります」

苦言を呈するユウに、スパイとして暗躍中の茂武影は悪びれた様子もなく答える。

「現在のパリの現状については、欧州中の国が緊張感をもって注目しておりまする。誰もかれも、もしもの事が頭を掠めて仕方がないのです。なればこそ、利害を一致させた者たちが力を合わせるべく話し合おうというのは至極当然のことであるかと」

もしもの事――現在の騒ぎが欧州中に波及する――に困る国は多い。だからいざとなれば団結してその原因を手段を問わず叩き潰そうという事だ。だからこそ、各国のスパイ同士が奇妙な連携を見せているのだ。そうでなければ、密偵の上げる報告書を経由して大使の集会が開かれるわけがない。おそらくは今、パリにある各国大使館ではそれぞれ忍ばせている「大っぴらには居ないはずの人員」が秘密のパーティーの招待状を配送していることだろう。大使館付近の住人とも友好的な関係を築き、先日は国王とも友好的な面会を果たした。だというのに、一転外国と組んでいざという時にはこの国に武力干渉するための根回しに与するなど、罪悪感を抱かざるを得ないというものだった。

「……父上には?」
「もちろん。ガリアの状況について詳細に」

父上はこの事態を静観するのか? それとも……

どうにも考えが読めない父。思惑が分からないことに不安を感じるユウであった。しかし不安だろうが何だろうが、事態は止まってくれない。

「だがなんにせよ、こうして悩んでいたところで何も変わらない。ならば、招待されてみるしかないだろう」

そうしてまた一つ、薪が積み上がった。






国王はただ、年中燃え上がっている火の車のような財政をどうにかしたかった。ガリア王国の毎年の収入は軍隊とインフラ設備の維持で精いっぱい、しかし軍隊の装備更新を行わなければ国土の防衛も傭兵仕事もままならない以上何とか費用を捻りだす必要がある。先のアステカ帝国との傭兵契約や敵への略奪で目論んでいた金額が得られなかった以上、もはや抜本的な国内への手入れ――すなわち特権階級が保有する免税特権を取り上げなければならなかった。繰り返しのことだが、待ったなしなのだ。だからこその全国三部会であり、話し合いであったのだが、それがどういうわけだか事態が複雑化し、国民議会なるものが誕生してしまう。
免税特権について話し合う場を作る事すら困難な状態に、国王は両者に苦言を呈す。が、帰ってくる言葉は異口同音「王は奴らの肩を持つのか」である。
こうしている間にも、食料品の価格は上昇していく。小さな暴動が頻発し、治安維持能力を強化する必要が生じた。

「軍隊を呼び寄せ、治安を維持させよ」

国王はそのように命令を下した。すると、パリ市内および郊外に国軍の兵士が目を光らせるようになる。兵士たちは自分たちの職務を遂行し、暴動を見事抑え込んだ。しかし民衆の目にはそうは映らなかった。

「陛下は国民議会を認めていない……?」

民衆の生活を守り不道徳な金持ち連中から特権をはぎ取ってくれるのが国民議会だ、暴動だって売り惜しみをして値段を吊り上げようとする悪徳商人を襲っているだけで間違っていない、と信じている民衆にとって治安維持の軍は威圧としか思えなかった。続いて、不幸な行き違いが追加される。

「ネッケル。お前を解任する」

財政改革のために招いたネッケルを、国王は解任するに至った。これはただただ単純に、ネッケル自身がすでにこの分裂状態で遅々として進まない財政改革に対し匙を投げたという事情もあった。そして事実、現状はすでにネッケルの力量でどうこうできる領域ではない。が、そんなことを知らない民衆にとっては、自分たちの代弁者であるネッケルが国王によってクビになったという側面しか見えない。
この現状に対して民衆はこう思った。王は民衆の味方ではない、と。このままでは軍隊が鎮圧に動くと恐怖した一部の民衆が、パリの武器庫に押し寄せ自衛用の武器を要求した。武器庫の責任者が民衆の血走った目に押されて多数の銃火器を民衆に開放。が、数が足りなかった。すると誰かが言った。

「あそこの牢獄にならあるんじゃ?」

そして、最後の行き違いが重なる。



「起きてください、陛下」
「こんな夜にどうした?」

とある牢獄の責任者が武器の提供を拒否し、激高した民衆がそのとある牢獄に殺到した。切迫した事態にパニックを引き起こした門番が命令を待たずに発砲したことで、最後の防波堤が決壊する。

「ん……? なにやら騒がしいな。また暴動か?」
「いいえ陛下……革命でございます」

これが後世において呼ばれるバスティーユ牢獄襲撃事件であり、ガリア革命の始まりであった。そして、ガリア王国の実権が議会に移る契機であった。




現在パリには複数の政治グループが存在したが、今もっとも勢いがあるのが「ジャコバン・クラブ」と呼ばれる集まりであった。議員だけでなく一般のパリ市民も参加しているため規模は拡大し、かつ、非常に主張が尖っていた。数を力にするべく多くの民衆の声を集めた結果である。こうして当初の財政改革という目的が、いつのまにやら国そのものへの改革――憲法問題へと発展していった。


「事の始まりを忘れるなよオイ。憲法の前に財政だろうがそうだろ!」

やれ国家改革だ、憲法だと盛り上がる議会に対して、ミラボーという醜いながらも偉丈夫がそう水をさした。当初の目的に立ち返り、憲法云々の前に財政の方が危急であり優先すべきという意見である。この冷や水のおかげか、議題は財政問題に立ち返る。そして国王に解任されたネッケルは議会に呼び出され、改めて財政問題に対して言及した。

「スッカリ忘れられたと思ってマーシタ」

この時、憲法にお熱になっていた議員たちに皮肉を言うのも忘れなかった。
さて、ネッケルは改めて国の財政について報告し、もはや貴族や聖職者から徴税しても手遅れなまでに火の車であると説いた。いわゆる「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!」である。
場に重苦しい空気が満ち始めるが、その時である。

「我々は知っているはずだ、国有数の大金持ちを――」 

どうすれば良いのかと顔をしかめている議員たちの前で、ロベスピエールは口を開いた。
大金持ち? 誰だよそれはと野次が飛んだ。

「それは教会だ。議員の方々、そも教会の土地や財産とは誰のものか。所有者は信者全体――すなわちその集合体である国家だ。決して僧侶の私的財産ではない」

教会に対する徴税、あるいは財産の接収案。
このロベスピエールの提案は当然の如く、財産ある上級聖職者たちの反発を生む。その一方で、下級の聖職者――元々大した財産があるわけではない層は賛成を表明する。年収面において、両者の間には10倍以上の差があるのだ。ここでもまた、富める者と貧しい者との対立構図だ。
だが、何はともあれ議会は財政問題に終止符を打つ特効薬を見出す。上級聖職者の強烈な反感を代償にして。





議会の後。パリにあるジャコバン修道院にて、ロベスピエールたちはカップを片手に交流を行っていた。

「何はともあれ財政改革!! いやいや流石ですミラボーさん!」
「へっ! 弾をぶち当てるのと一緒だ。遠くの的ばっか見てるんじゃいけねえ、調整するのは手元なんだからよ」

オノーレ・ミラボー。伯爵家に生まれたのに素行不良から勘当された男。選挙では平民として立候補するも雄弁な語り口で当選を果たした。なお、天然痘の治療で黒い斑点が顔に残っているため醜い容貌だが、市民からの人望がある。昔、軍人をしていた。

「どうでしょうミラボーさん。私のグループで今度ミラボーさんを招いて勉強会を行おうと思っているのですが……」
「勉強会? 別に――――ごほっごほっ」
「おやミラボーさん、体調が悪いのですか?」
「なあにただの風邪だ大したこたねえ。我らがガリア『王国』を立て直すためってんなら、こんくらい。で、勉強会はいつだ? いつでも行くぜ」


「…………フン」

ロベスピエールは、近くで談笑しているミラボーに対して聞こえないように悪態をついた。
今最も勢いがある「ジャコバン・クラブ」であったが、内部でも当然の如く意見の対立は存在する。
改革を機に王制を廃止してしまいたいロベスピエール派と、王権の存続を望むミラボー派は、水面下で緊張状態であった。そしてその緊張は、何も政治グループ内部だけではない。議会の中はもちろん、パリの外にもこの手の対立は存在した。それら無数の緊張が導火線として張り巡らされ、ついには爆発したものもあった。
「ヴァンデの反乱」である。信仰が厚いガリア西部の農民が生活苦と教会への罰当たり行為(国による教会財産の没収などを指して)に対して一揆を起こし、それが巨大化して反革命を主張し始めたのだ。
一報を受けた議会はすぐさま対策を講じようとした。反乱を収束させる最もわかりやすい方法はインフレの抑制であったため、とにかく買い占め行為をやめさせようとした。だが、それに失敗する。
買い占めによって利を得ていた者達が議会内にも一定以上いたためで、その影響を排除できなかったからである。

「飢えた人間の苦しみを平気で金に変換する悪党……未だ王にこの国のかじ取りをやらせようとしている愚かな能天気ども。すべからず害悪だ……!」

ロベスピエールが仄暗い炎を瞳に宿らせる。そしてその視線の先には、同胞であるはずのミラボーの姿が。ロベスピエールが身内の議員にも敵愾心を持ち始めたのはこの頃であった。


数か月後。その日の「ジャコバン・クラブ」はどこかよそよそしい雰囲気に包まれていた。先月から続く体調不良がようやく安定してきて、久々にクラブ内に顔を出しに来たミラボーは入り口でその雰囲気に気が付いて足を止める。そしてミラボーは、直ぐ近くに見知った顔の人間がいることに気づき、声をかけた。

「おう。すまねえな結局勉強会に参加できなくてよ。で、なんか雰囲気が――――」
「え、あ。ミラボーさん……すいません、ちょっと……」
「?」

以前ミラボーを勉強会に誘っていた人間が、何やら気まずそうな顔でそそくさと立ち去っていく。見回せば、クラブ内の人間の数が減っていた。具体的に言えば、以前から懇意にしていたメンバーがそろって不在だったのだ。

「久しぶりだなミラボー。体調はいいのか?」
「おう、ロベスピエールか」

そんな時、遠巻きにされていたミラボーに声をかける男がいた。ロベスピエールだった。

「聞いたぞ。随分と災難だったな」
「まあ、質の悪い風邪だ、心配するな」
「いや、そっちのことじゃあない」
「は?」

ミラボーはロベスピエールの言葉に首を傾げた。てっきり、先日までこじらせていた風邪のことについて言っているのだと思っていたのだから。

「君が近ごろクラブに顔を出さなくなったのは体調不良ではなく王宮に出入りして何やら陰謀を企てているから、などという噂が流れていることだよ」
「は、はあ?!」
「こんな時流だ。例え根も葉もない噂であっても慎重にならなければならない、しばらく謹慎してほしい。ちょうどまだ体調も万全ではないようだし、もうしばらく自宅で療養していたまえ」

ロベスピエールは労うようにミラボーの肩を叩いて去っていった。だが、一瞬見せた勝ち誇ったような酷薄な目をミラボーは見逃さなかった。そして、自分が嵌められたことを瞬時に理解した。

「てめえ嵌めやがったな! 待てやロべスーーーーゴホッゴホッガハッ!! クソッ――ゴホッゲホっ……アアアア!!」

咳込み、自力で立っていられなくなって膝をついたミラボーは、担がれるようにして部屋から連れだされた。

「さらばだ、ミラボー」

ロベスピエールは囁くように、別れの言葉をかつての同志に捧げたのだった。



革命の年ももうすぐ終わりという冬の日のこと。相も変わらず物価は下がらず、すきっ腹に寒風が染みて心が荒む。ガリアを覆う暗雲は未だ晴れる気配はなく、また事態を収束できない国王への不信感は危険領域に突入しつつあった。そんなある日、宮殿へ訪れていた男がいた。

「陛下……誠に不敬とは存じますが、パリを脱出してくだせえ……」

体調不良を押してやってきたミラボーは、国王に対して逃げろとの言葉を口にした。亡命計画の提案である。土気色の顔と小さく丸まったその姿は、かつてのエネルギッシュなミラボーとは大違いだった。

「時期尚早だと思うよ、ミラボー。そう、まだまだ情勢は分からない。悪いけど、ダメだ」
「……」

ロベスピエールによって失脚させられ、結局体調も立場も回復できなかったミラボー。当初宮廷も、王に好意的な議員であるミラボーと「上手く付き合って」いこうとしていたが、宮廷はすでにミラボーのことを終わった人間とみなすことにした。そんな終わった人間の持ち込んだリスキーな計画など、到底頷けなかった。
王に見捨てられたミラボーは、そのまま表舞台から消えていった。そして――――





「なあ、サンソン。今日は、どんな天気だ?」
「青空に太陽、いい天気だよ。いま、カーテンを開けよう」

病室として用意されていた処刑人サンソンの邸宅の一室。やせ衰えたミラボーにサンソンは答えた。落ちくぼんだ目と、起き上がる事すら困難になったミラボーは、まるで宮廷から見放されたショックも合わさったのかと思われた。

「――――なあ、お前も国王陛下に会ったことがあるんだったっけか?」
「ええ。処刑道具について、より苦しまないような刃の工夫について話し合いました」

サンソンは部屋のカーテンをひとまとめにしながら静かに答えた。対するミラボーは、乾いた唇を舌でゆっくり湿らせながら、目を閉じる。
カーテンによって遮られていた日光が、ミラボーが身を横たえるベッドを暖かく照らした。

「へ……ここは、暖かいぜ――――政治はもう、うんざりだ……」

光に包まれながら、ミラボーはベッドの上でそのまま息を引き取った。



「ミラボーが死んだ……? そうか、うん……葬儀は、ぜひ盛大に――」

ミラボー死去の一報は即座に駆け巡る。
国王の指示により、葬儀は万の民衆が参加し大砲による弔砲も行われた。教会のガラスを割ってしまうほど盛大なもので、多くの者が彼の死を嘆いた。だが……

「同志であったミラボー、いやすでにそう呼称することはできない。奴は『本当に』王家に擦り寄り市民に背を向けていた。反革命思想を持った裏切り者だ」
「国王に亡命を進めていたという情報が宮廷内の同志から証拠と共に……外国と組んでガリアの革命を潰そうとしたと考えることが合理的でしょう。彼の行動は到底ゆるされることではありません」

葬儀の真っただ中。ロベスピエールに対してサン=ジェストは小さな声で会話した。
ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュスト。底辺貴族の家に生まれた色男である。恋人の裏切りをきっかけに、性癖をこじらせたような内容のエロ同人を出版。その罪で逮捕状が出される羽目になるが、それはもう昔のこと。今は革命闘士でありロベスピエールの腹心的立場である。

「だが事を起こすにはもう一息だ。民衆が王そのものへの敬意を完全に捨てるまで……好機を待つしかない」

王制廃止の最大のハードルは、国民の王への敬意であった。長きにわたって続いた伝統からくる王政への支持はなんだかんだ言っても強固であり、国民に「王殺し」を承認させるには決定的な何かが必要であった。
だが、幸運なことにロベスピエールの望みは、すぐに叶うことになった。ロベスピエールにとっての大好機にして、ガリア王国にとっての致命的な凶事。国王夫妻が亡命するという事件が発生したからだ。




国王逃亡の噂は巷には以前より広く流布されていた。それでもそれが現実にならなかったのは、王妃であるマリー・アントワネットと実家であるオストマルクとの打ち合わせに時間を消費してしまっていたからであった。ただ逃げるのではなく、革命を潰すことを目論んでいたため、実行に至るまで難航したのだった。

「こちらに逃げて来てくれれば保護できる、とはなんと無体な! いつも民衆に監視されていて私たちは囚人のような有様であるというのに、そんなことをよくもまあ!!」

オストマルクも決してマリー・アントワネットを見捨てたいわけではなかった。ただ、国境を接するカールスラントや、中東の異教徒国家への備えにも手を抜けない以上、ガリアとの戦争になりかねないリスクは可能な限り回避しなければならなかった。つまり、ガリア王国に武力干渉出来るだけのリソースが不足していたのだ。それどころか、傭兵国家として悪名高きガリアが革命により内輪もめして、ほどほどに疲弊したところで……という皮算用すら立てていた。だが、これは決してオストマルクのみの思惑ではなかった。誰だって、周囲の仮想敵国の混乱はむしろ望むところだった。そこには、王制国家に囲まれていてまさか王制を国王もろとも殺すなどという愚かな選択肢は取らんだろうという、奇妙な信頼感があった。

――しかし、当事者たる国王一家は身に迫る危険に対して、不確かな信頼感などというものをもつ余裕はなかった。

「母上、どうしたのですか? どこへ行くのですか?」
「むぅ~~眠い……」

突然ベッドから連れ出された王女マリー・テレーズと王太子ルイ=シャルルは、それぞれ不安そうな顔と眠そうな顔を両親に向ける。まだ幼い子供であったが、年上の王女は何となく尋常ならざる空気を察していた。

「お母様の実家に帰るのよ。きっと気に入るわ」
「そうだぞ。はは、家族旅行だ……楽しもうじゃないか」
「……」
「む~~ねむ……」

月もない夜のこと。
国王一家はそれぞれ変装し、夜陰に紛れて宮殿から密かに脱出した。

「おお、お待ちしておりました。フェルセンでございます」

しばらく行った先。物陰からフェルセンと名乗る男が現れた。死んだミラボーに代わり、国王一家の亡命計画を企画した男であった。

「むっ……こいつか」

フェルセンの顔を見た国王が顔をしかめる。というのも、マリー・アントワネットの愛人と噂されていた男であったからである。美しい妻に気やすい美男子など、夫としては不愉快極まりない存在だ。
が、渋い顔をしたのはフェルセンも同様であった。

(おいおい……なんで兵士じゃなくて侍女を連れて行くんだ? それに、あの荷物は……)

フェルセンの計画では、荷物は最小限度かつ護衛を付けた状態で、という手はずであった。だが実際に現れた馬車の荷台には、金銀財宝やドレス類がたくさん積まれていた。明らかな積載量オーバーであった。万が一馬車の中身を見られでもしたら、亡命は失敗に終わる公算が高かった。

「……では、その……私が先導いたします……」

既に先行きが不安になってきた。だが、荷物を置いて行けと言っても決して自分の意見は通らないだろうなと国王の様子から察したフェルセンは、何も言わなかった。亡命計画はすでに狂い始めていたものの、王権神授説にうたわれる神が味方したのか国王一家は市街地からの脱出にも成功したのだった。




あとがき
何とか今年中にエンディングまで行きたい、その気持ちは継続していますがすいません、あくまで予定とさせていただきたく……


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