<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.40286の一覧
[0] 習作 civ的建国記 転生 チートあり  civilizationシリーズ [瞬間ダッシュ](2018/05/12 08:47)
[1] 古代編 チート開始[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[2] 古代編 発展する集落[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[3] 古代編 彼方から聞こえる、パパパパパウワードドン[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[4] 古代編 建国。そして伝説へ 古代編完[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[5] 中世編 プロローグ その偉大なる国の名は[瞬間ダッシュ](2014/09/09 17:59)
[7] 中世編 偉大(?)な科学者[瞬間ダッシュ](2014/09/14 19:26)
[8] 中世編 大学良い所一度はおいで[瞬間ダッシュ](2014/09/15 17:19)
[9] 中世編 ろくでもない三人[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:47)
[10] 中世編 不幸ペナルティ[瞬間ダッシュ](2014/09/26 23:47)
[12] 中世編 終結[瞬間ダッシュ](2014/10/09 20:55)
[13] 中世編 完  エピローグ 世界へ羽ばたけ!神聖オリーシュ帝国[瞬間ダッシュ](2014/10/19 21:30)
[14] 近代編 序章①[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:38)
[15] 近代編 序章②[瞬間ダッシュ](2016/01/16 20:53)
[16] 近代編 序章③[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:15)
[17] 近代編 序章④[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:42)
[18] 近代編  追放[瞬間ダッシュ](2016/01/16 21:57)
[19] 近代編 国境線、這い寄る。[瞬間ダッシュ](2015/10/27 20:31)
[20] 近代編  奇襲開戦はcivの華[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:26)
[21] 近代編 復活の朱雀[瞬間ダッシュ](2016/01/16 22:47)
[22] 近代編 復活の朱雀2[瞬間ダッシュ](2016/01/22 21:22)
[23] 近代編 復活の朱雀3[瞬間ダッシュ](2016/01/29 00:27)
[24] 近代編 復活の朱雀4[瞬間ダッシュ](2016/02/08 22:05)
[25] 近代編 復活の朱雀 5[瞬間ダッシュ](2016/02/29 23:24)
[26] 近代編 復活の朱雀6 そして伝説の始まり[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:33)
[27] 近代編 幕間 [瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[28] 近代編 それぞれの野心[瞬間ダッシュ](2017/02/07 22:51)
[29] 近代編 パナマへ行こう![瞬間ダッシュ](2017/04/14 22:10)
[30] 近代編 パナマ戦線異状アリ[瞬間ダッシュ](2017/06/21 22:22)
[31] 近代編 パナマ戦線異状アリ2[瞬間ダッシュ](2017/09/01 23:14)
[32] 近代編 パナマ戦線異状アリ3[瞬間ダッシュ](2018/03/31 23:24)
[33] 近代編 パナマ戦線異状アリ4[瞬間ダッシュ](2018/04/16 01:31)
[34] 近代編 パナマ戦線異状アリ5[瞬間ダッシュ](2018/09/05 22:39)
[35] 近代編 パナマ戦線異状アリ6[瞬間ダッシュ](2019/01/27 21:22)
[36] 近代編 パナマ戦線異状アリ7[瞬間ダッシュ](2019/05/15 21:35)
[37] 近代編 パナマ戦線異状アリ8[瞬間ダッシュ](2019/12/31 23:58)
[38] 近代編 パナマ戦線異状アリ 終[瞬間ダッシュ](2020/04/05 18:16)
[39] 近代編 幕間2[瞬間ダッシュ](2020/04/12 19:49)
[40] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ[瞬間ダッシュ](2020/04/30 21:17)
[41] 近代編 パリ を目前にして。[瞬間ダッシュ](2020/05/31 23:56)
[42] 近代編 処刑人と医者~死と生が両方そなわり最強に見える~[瞬間ダッシュ](2020/09/12 09:37)
[44] 近代編 パリは燃えているか(確信) 1 【加筆修正版】[瞬間ダッシュ](2021/06/27 09:57)
[45] 近代編 パリは燃えているか(確信) 2[瞬間ダッシュ](2021/06/28 00:45)
[46] 近代編 パリは燃えているか(確信) 3[瞬間ダッシュ](2021/11/09 00:20)
[47] 近代編 パリは燃えているか(確信) 4[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:04)
[48] 近代編 パリは燃えているか(確信) 5[瞬間ダッシュ](2021/12/16 00:02)
[49] 近代編 パリは燃えているか(確信) 6[瞬間ダッシュ](2021/12/19 22:46)
[50] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 1[瞬間ダッシュ](2021/12/31 23:58)
[51] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 2[瞬間ダッシュ](2022/06/07 23:45)
[52] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 3[瞬間ダッシュ](2022/12/13 23:53)
[53] 近代編 トップ賞は地中海諸国をめぐる旅、ただし不思議は自分で発見しろ 4[瞬間ダッシュ](2024/01/04 19:20)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[40286] 近代編 パリは英語読みでパリスってジョジョで学んだ
Name: 瞬間ダッシュ◆7c356c1e ID:a4f80642 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/04/30 21:17

近衛ユウは、太平洋を支配する神聖オリーシュ帝国にて最も尊いとされる血筋に生まれた。
ユウは帝都の郊外にある海沿いの別邸で生まれ育ち、幼いころから英才教育を施されてきた。将来の帝国を背負って立つ人材の一人と期待される『彼女』は、周囲の期待に応えられるようにと努力し、成果を示してきた。

――……?

だが、聡いユウは自身の境遇にそこはかとない違和感を覚えていた。それは、自身にかしずく使用人たちから時折向けられる、大切にされているとは違う遠慮――有体に言えば腫れものを扱うかのようなそれを幼いなりに感じていたからであった。

そんなある日のことである。家庭教師から与えられる日々の課題をいつもより早い時間に完了したユウはふと、いつもは通らない廊下を歩き、そこの壁に嵌められた窓ガラスの向こうに注意を向けた。なぜかは分からなかった。ただ一つ断言できることは、それが今後の人生を大きく変える出来事となったことである。

――あれは、なんなのでしょう?

普段はめったに人通りがない別邸前の道に、一台の馬車が通ったのだ。その馬車には自分と同じくらいの身長をした人間が御者台に乗っており、隣に座っている大きな人間にじゃれついていた。瞬間ユウの心に、胸をざわつかせるような違和感を伴う疑問が生じる。湧き上がった疑問は答えを得ることで解決できる。そのことを日々の学習を通じていたユウは、近くを通ったメイドに尋ねた。

――――アレはなんなのでしょうか? なぜあのようにだきついているのでしょうか?
だきついて、なんのいみがあるのでしょうか?

メイドは答えに詰まる。口を開いては閉じを数度繰り返し、そしてようやくためらいながらもただ、「親子でありますれば、そのようなこともいたしましょう」と答えた。

――???

親子とはなんだ、それはどういう意味を持っているのか。近衛ユウは『親子』という言葉も概念も知らなかったのだ。なぜならユウにとって人間関係とは、屋敷にいる自分の世話を焼く使用人との主従関係か、知識を授けてくれる教師との師弟関係しか存在しなかったから。親子関係どころか友人関係すらしらない。じゃれつくという一方にとってはただ迷惑なだけの行為を当然な事として許容される関係が存在する――そのことに、ユウは自身の小さな胸にささやかな痛みが走るのを認識する。この日より、外の道を眺めることがユウの日課のひとつとなった。

月日が流れ、近衛ユウが七歳の頃である。守役が一人の男性を連れ立って屋敷に尋ねて来た。初めて見る存在であったが、教えられた通りの作法でユウは男性を出迎えた。

――――お初にお目にかかります。近衛ユウと申します。

高貴なる淑女として、年齢に見合わぬ見事な一礼を披露してみせた。しかし男性はそんなユウの姿を一瞥するだけで、直ぐに視線を切って守役に向き言った。ひどく硬質で、意図的に感情を抑え込んでいることがむしろ内に秘めた激情を感じさせる、そんな声色であった。

――――兄の子がまた流れた。最悪の場合を想定して教育しろ。

当時のユウには理解できない言葉であった。『子』とは何か? 『流れた』とは? しかし翌日以降の教育内容に変化があったことから、ユウは悟った。自分に求められていることが変化したのだ、と。教育内容に、軍事や武芸にまつわるものが追加された。そして体育を行うという理由で、庭園内の広場に出ることができるようになった。それは今までガラスの向こうにしかなかった世界が、自身の感覚で触れられる領域にまで拡大したことを意味する衝撃的事件といえた。だがユウにとっての最大の衝撃は、男性が去り際に放った一言であろう。

――子として親の期待に応えよ。

この言葉こそが転機であった。聡明さの片りんを見せ始めていたユウは、文脈から言葉の意味を正確に読み取った。今、目の前にいる男性が『親』であり、自分が『子』であるのだと。同時に、かつて見た馬車の上で戯れる者たちの姿が脳裏にありありと想起された。すなわち、子が親に対して甘え、親が子を慈しむ姿が。
親子という言葉を知ってから漠然と抱いていた感情が、「憧れ」であることを直感が教えてくれた。自身が焦がれていた『親子という名の関係性』が目の前にあることを悟ったユウは、天啓を得たかのように喜び、身を震わせる。

――――そうだ、期待に応えればいいのか。

今までやってきたことと同じだ。それでうまくいってきた。だからそれが正解だと、信者が神に祈るように固く信じたのだ。

後々、親とは母と父の両方が存在すること。現皇帝は子に恵まれず、次代は父が、その更に次が自分という風に皇帝の位が回ってきそうであること。父には子が自分以外にいないこと。そして、帝位継承で政治的に混乱しないよう、自分は男であると偽る必要があることを理解する。
――――古来より男子のみが継承できる仕来たりでございます。ですが何事にも秘するべき裏というものが存在するのです。
――――君主に継ぐべき男児がいないとなれば、野心を掻き立てられるものが出てきましょう。
――――性別を偽り皇帝となり、男子をお産みになるのです。さすれば、偽る必要はございません。それまでの辛抱にございます。

秘密を知る者は少なければ少ないほど良いことは自明である。本当にいよいよとなれば、暗殺者から守るために秘匿していた皇子としてユウを披露すれ手筈であった。ユウは、自分が生まれてより一歩も屋敷の敷地内から出たことがない理由を悟る。

――――期待に応えねば。

月日を重ね身体が成長し知恵を身に着けようとも、その精神の根本は変わらず。たとえ海を越えて行くほど世界が広がっても、心は生まれ育った別邸の中にとどまり続けている。決して感じられない親子という関係を眺めるだけの少女のままに。





ガリア王国軍と衝突した「折杖諸島の戦い」がオリーシュ帝国側の勝利に終わってより三か月間。大西洋を中心とした各国の情勢は大きく動いた。まず第一に、オリーシュ軍のアステカ帝国攻略軍が撤退に追い込まれた一方で、アステカ帝国は突如襲い掛かって来たブリタニア軍に圧倒された。和平が結ばれたもののアステカ帝国はその領土の半分を、すなわち新大陸の東半分を削りとられるという敗北を喫す。これにより大きく国力を落としたアステカ帝国はオリーシュ帝国に対して和平を申し込むまでに追い詰められた。片方は戦争継続が事実上不可能なほど国力を低下させ、もう片方は遠征の中心的人物がダウンしてしまうという状況。双方ともに戦争を継続するだけの余力がなかったため和平交渉は至極スムーズに進み、賠償なしの対等的な条件で和平が成立するに至った。かくして神聖オリーシュ帝国は最終的に見れば、都市パナマという新領土を獲得するという戦果をあげたことになる。

一方。帝国の一部となった都市パナマの支配権および地盤固めは、終戦を機に加速することになった。

「東西の海を繋ぐ運河?! こんなん絶対金になりまっせ!」

というのも、近衛ユウが折杖諸島への救援のために急ピッチで作った運河が、海運関係者たちの注目を即座に集めたためである。より端的に言えば、純軍事的な都合で掘られた運河であったが、これを交易に利用すれば莫大な利益を生むと多くの者が算盤を弾いたのだ。まず帝国本国の商船会社や個人船主が、ヨーロッパとの交易に際してパナマの運河を使用したいと通行許可を求めてきた。次いで、アフリカやヨーロッパなどの国々が、太平洋への交易路を築くためにパナマの運河を使用したいと申し出てきた。太平洋・大西洋それぞれの商船乗りたちの声が一致した結果、都市パナマの地にひとつの国営企業が誕生した。その名は「東オリーシュ株式会社」という。

「いや、そのまんまじゃね? もっとこう未来的にひねった名前を……グランドライン、いやいっそ一つ繋ぎの海という意味を込めてワンピ――」
某転生者が名前に茶々を入れたとか入れなかったとか。

それはさておき。東オリーシュ株式会社は件の運河、すなわち「パナマ運河」を管理・維持する役割を担う。そして同社がある都市パナマは急ピッチで港湾が整備され、両大洋の交易路の結節点としてあっという間に交易都市として生まれ変わる。パナマという猫の額ほどの小さな都市は、ヨーロッパ由来の品々と神聖オリーシュ帝国を含むアジアの品々が一堂に並ぶ巨大マーケットへと成長したのだった。同時に運河の存在は、東西が商業的な意味でつながったということを意味する。かつてヨーロッパを支配した帝国を出発し、海を越えて扶桑皇国に至ったシルクロードの如き超長距離交易路の誕生であり、その歴史的意義は計り知れない。
もっとも、その事実に注目する者はごく少数。多くの者の関心は、都市パナマが将来的にどれほどの利益を帝国に生み出してくれるのかというのと、神聖オリーシュ帝国のヨーロッパ進出についてであった。

だが今は何より、パナマに存在する多くの役人にとっての大仕事を終わらせなければならない。都市パナマは神聖オリーシュ帝国を構成する公王領である。そして対アステカ帝国戦、対ガリア王国戦における拠点でもあった。パナマの公王府には日々近隣の――カリブ海やユカタン半島での戦闘の報告、あるいは諜報員を通じてのさらに広範囲内から集められた様々な外交・軍事情報が蓄積されていく。戦争がひと段落した今、パナマ公王府につめる全てのオリーシュ人役人にとって、集められた情報を分析してまとめ、本国に報告することは最重要任務である。

「……」
「あ、外交筋からのブリタニア王国系列の情報はこっちに。13の都市については――――」
「…………」
「ガリア王国からです。捕虜返還に関する交渉に応じるとの連絡が――」
「…………あの」
「ジャガー戦士部隊の脅威度についてなんですが、こんな文章で――――」
「あのぉ! これ、俺いなくてもよくね!? 毎日毎日座ってるだけって暇なんだよ!!」

その場に居たオリ主が吼えた。この男、実は何の仕事も作業もなくただ一日中部屋の中でぼーっとしている日々がもう数日間も続いていた。もっと言うと、単独外出すら禁止されている。

「せめてその辺歩くぐらいいいじゃん! どんだけ過保護なんだよ流石にもういいだろ!」
「…………目を離すとすぐ何処かへ行ってしまうからダメ」
「子供じゃないんだからさあ……!」
「子供の方がまだ聞き分けがいいさ!」

ユウが自身の左腕を上げる。すると、手首に巻き付いている腕輪が付属の鎖を引っ張ってジャラリ――――その鎖は椅子に座ったオリ主の首についた首輪に。つまりは飼い犬と飼い主。なぜかよく戦いに巻き込まれ、しかもその状況に嬉々として適応してしまうオリ主に危うさを感じたユウが首輪を付けてリードを握っているという状況だ。これがもう三か月間続いている。

「ハッハッハ、若者は元気でいいですなぁ」

そこへ、場違いなまでに朗らかな声が開いたドアから届き、ガタイのいい老人が部屋の中へと入ってきた。腰をトントンと叩いているが、武装していないのに素手でも一人くらいなら抹殺できそうだ。

「ジイ! こいつは元気がいいというより活きがいいんだまるで止まると死んでしまう魚だ!」
「まあまあ落ち着きなされ。ふむ……少年、君は本来受けるべき教育も受けないまま昇進を重ねてしまっているのですぞ? だが、本来士官の仕事とはただ戦うだけではない。いろいろと面倒な書類仕事だって同じくらい重要。そう思えば、実際の事務仕事の様子を見学するのは貴重な学習機会だと思わんかね?」
「ジイさんの理屈はわかるけど――――いや鎖はさすがに可笑しいでしょ」

至極もっともなことだが、ここにはその意見に同調する者はいなかった。ユウは当然として、同席している他の役人も顔を下に向けて知らんぷり。ジイと呼ばれた老人は流すように「ハッハッハ」と笑うだけである。西日が差し込むこの部屋はいま、オリ主にとって完全アウェーであった。
ちなみに老人とは、実はこの世界にやってきた初期に会っていたりする。オーストラリアっぽい大陸でイキっていたオリ主が現地政府に捕まって裁かれた現場に居合わせていたのだ。だが、当のオリ主はその後いろいろあったのでそんな昔の記憶は彼方へと吹っ飛んでおり、二人は初体面として出会い今に至っている。まあ、老人の方はしっかり覚えているが。

「あ……もうすぐ日暮れか。諸君、今日はこのくらいにしよう。また明日もよろしく頼む」
「若、湯あみの準備は整っておりますのでそちらへ」
「うん。では、後を頼む」
「はい、いってらっしゃいませ」

ユウがオリ主の首についた首輪を外し、また自身の手の腕輪も外した。いくらなんでも四六時中鎖でつながっているわけにはいかない。風呂やトイレ、寝室など諸般の事情でどうしても、な状況はある。
ようやく首の締め付けが取れた解放感にグルグルと首を回し深呼吸する。

「ふぅ……ああ空気がうまい」
「じゃあ大人しくしておくように。何度も言うが、今度勝手な事したらオリに入れるからな」
「そりゃもうやられただろう……」

ファーストコンタクトのことを思い出して言うオリ主だった。なにせあの当時の関係性は護送する側とされる側である。まさかこんなことになるとはなぁ……と一人感慨にふけりつつ、さっさと部屋から出て行ってしまったユウを見送ったオリ主。そこへ、老人が話しかけてきた。

「どうかねこのあと食事でも……もちろん年長者である私がおごろう」

終業を迎え、本来ならさあこれから自由時間だという時であったがそうはいかない。単独行動禁止中のオリ主に対し、老人がくいっと盃を傾けるしぐさをして誘った。結局のところ、一人になれるのはトイレの個室に入るか寝るときだけである。

「ええ、まあ。どうせ一人じゃダメなんでいいっすよ。それで、どこに行くんです?」
「行きつけの店、かの」

老人は片眼を閉じて言う。一見茶目っ気あふれるしぐさであったが、目そのものは偉く真剣な様子であった。オリ主は薄ら寒い何かを背に感じつつも、まあ奢りなら別に……というタカリ精神で同意したのだった。





件の店は、急ピッチで整備された港のすぐ近くにあった。店先につるされた灯りが夕暮れに真新しい店構えを浮かび上がらせる。どうにも盛況らしく、店の外にまで即席テーブルを設置しているものだから、酔漢の笑い声が大きく響いていた。下町あたりにありそうな、非常に大衆的な酒場である。老人はオリ主を連れて、慣れた様子で店内へと入りカウンターへ。
木製カウンターの奥で酒樽をいじっていた店主がこちらの存在を察すると、胡乱気な目線で注文を促してくる。

「腹に溜まるような肉の焼き料理を人数分」
「焼き加減は?」
「弱火でじっくり。あ、あとミルクも欲しいのお」
「――――ぷは! おいおい聞いたか!? ミルクだとさ!」

と、そこで船乗りらしき――ヨーロッパ辺りの外国から来たらしい酔っぱらいの男がグラスを片手に近寄ってくる。ニタニタと小馬鹿にしたような笑みを浮かべていて、絡んでくる気満々といった調子であった。
うわあ……西部劇っぽいな。ここカリブ海だけど。なら、海賊ってか?
お約束な状況が目の前で流れ、若干の野次馬根性を出してのんきなことを考えるオリ主。

「じいさん、ここは酒飲むところだぜ? ボケてんじゃあねえの――――ひぎゅ?!」

老人の裏拳が、定番のセリフを吐いて絡んできた男を吹っ飛ばした。酔っぱらいはピクリとも動かず、周囲にいた店員に引きずられるようにして店の外へと出されていった。その作業は流れ作業のようにスムーズであった。一瞬だけ静かになった店内は、倒れた酔っぱらいが店外に排出された段階で今まで通りの雰囲気を取り戻し、再び陽気な気配が周囲を満たしていった。

え――――なに、この、いつも通りみたいな雰囲気……こわ!?

人知れず戦慄する。だがあっけにとられたオリ主をおいて、話は進んでいく。店主は近場にいた店員を呼びつけて一言二言耳元で囁いた後、親指で店の奥を指し示す。

「行きな。いつもの部屋だよ」
「ここはいつ来てもにぎやかな店ですな主人」
「そりゃどうも」

店主は鼻を鳴らしながら言い、大きなため息を吐いた。

えっと、大丈夫か俺……?

店の奥は暗く人気はない。その様子はまるで薄暗い森の中か、さもなくば中を見通せない洞窟を連想させた。オリ主は罠にはまりこんだ獲物のような感覚を覚えたのだった。





「ガリア王国駐在大使??」

不安とは裏腹に、案内されたのは落ち着いた内装に分厚い扉が取り付けられただけの普通の個室であった。四人掛けのテーブルとイスがあり、中央には燭台がゆらゆらと明かりを投げかけている。そこへ注文した料理が運ばれた頃、老人は唐突にオリ主へと今回食事に誘った大本のキッカケを話し出した。なんでも、近衛ユウがヨーロッパはガリア王国に大使として派遣されるのだと。

「そりゃまた急だなぁ。本人は知ってるんすか?」
「明日辞令が下る予定だのぉ。まあ急なのは、元帥閣下のご命令ゆえ」
「ああなるほど、今日誘ったのは送別会の打ち合わせか。なんか隠し芸でもしようかなぁ」

うーん、小学校の時にやった指が取れちゃった芸でもしようか……あの時はハズしたがこの時代ならいけるか……?

オリ主は必死になって自身の芸のレパートリーを探る。どれもこれもしょうもないものしかなかったが、その中から何とかギリギリ行けそうなものを見繕う。そんな様子に、老人が手を振って制止する。

「いやいや、君もそれに同行してもらう予定でな」
「……へ?」
「これは大変名誉なこと。階級もさらに一つ上がることが決まっておるよ」
「……マジですか?」
「ハハハ、つまり君は期待されているということだ頑張り給え。ただ――――」
「?」

老人は自然な動作で懐へと手を入れ、紙の小包を取り出した。ちょうど薬局で処方される薬のような。

「あの、なんすかそれ?」
「毒だ。無味無臭とはいかないが、少なくとも料理に混ぜればわからないような。そしてこの店は私の情報拠点のひとつであり店長はこちら側の人間。今日に限って言えば客もほぼ。そして…………当然だが料理を作る者も運ぶ者も」

ちょんちょんと老人がフォークで目の前の料理をつつく。より具体的に言えば、オリ主が口を付けた辺りを。
気が付けば、老人が浮かべていた微笑みは何処かへ消え、声色も口調も固く冷たい。今そこにいるのは、能面のように固まった表情を張り付けた冷徹な軍人だった。とても、同一人物とは思えない。
――――
あまりにも唐突な事態に、頭の中でグルグル考えが回る。
毒。思えば先ほどの注文も思えば思わせぶりだった。酒場にきてミルクなど、普通に考えればあまりにも不自然。暗号か。酒場そのものの雰囲気だって異常だった。

「…………うっ」

オリ主は、目の前の朗らかに笑っていた老人が人食いの怪物かそれに近い存在に思えてならなかった。要するに、自分は相手にその気があればいつでも殺され明日には目の前の海に浮かんでいるだろう、という事だ。だが――

「…………もし本気で毒殺しようっていうなら、わざわざ種明かしするのはミスじゃないですかね」
「なぜ? もう助からない相手に対して種明かしをするというのは嗜虐心を大いに満たせる行いとは思わんか? それにこの個室は防音されているから助けも呼べない」
「少なくとも、いま俺は普通に動けるんで。目の前にフォークもナイフもなんなら素手って手段もあるんで。これ、答えにならないですか?」
「小僧が。勝てるつもりか?」
「挑むチャンス与えてる時点でミスだって言ってんだよジイさん」
「――――」
「――――」

狭い個室の中、しばしにらみ合う。中央の灯りだけがゆらゆら動き、両名の真っ黒い影を壁に投影する。だが、直ぐに老人は両手を上げて「降参降参、毒など入っておらんよ」と言って再び先ほどの笑みを浮かべた。

「そういう冗談、キツイですよ」
「いやいや申し訳ない。だがこういう手もあると知っておいて欲しかったんでのぉ」

老人はじっと、オリ主の目を見つめる。

「貴官の任務は、あらゆる悪意や害意からユウ様の御身を守る事。これまでのような軍隊同士の戦いとは全く違うような、汚く後ろ暗いことに巻き込まれるやもしれません。相手が味方と言えども決して油断することがないよう――裏切りや陰謀はまさかという人物が行うからこそ意味があるのです…………特に急速な勢いで頭角を現しているあなたを疎ましく思っている者は、決して少なくないでしょう」
「…………」

老人のその真剣な目と口調に「まあ俺ってぇ、やっぱ嫉妬されちゃうかなぁ」などとはとても言えなかった。もしも本当にこの老人が毒殺を意図していたなら、果たして回避できただろうか? だからただ、「気を付けます」と答えるのが精いっぱいだったのだ。それに対して老人は満足そうに、しかしほんの少し悲しそうな表情で頷いた。

さて。
このようなやり取りがあったものの、その後は滞りなく食事は終わる。
一夜が明けて正式な辞令が発表、ここにオリ主の次の任地が決まった。
――――場所はつい先ごろ戦った国、その首都パリ。








あとがき
何とか予告通り四月中の投稿ができました。次回は5月中の投稿を目標に頑張ります。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.071398019790649